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糖の構造 単糖類の鎖状構造と環状構造.D と L について D-グルコースとか L-アラニンの D,L の意味について説明する 9 年右旋性 ( 偏光面を右に曲げる ) をもつグリセルアルデヒドの立体配置が X 線回折実験により決定され, 次の約束に従い, 構造式が示された 最も酸化された基を上端にする 上下の原子または原子団は中心原子より紙面奥に位置する 左右の原子または原子団は中心原子より紙面手前に位置する こうして, 示されたグリセルアルデヒドの立体配置およびそれと鏡像の関係にある立体配 置をそれぞれ D 配置,L 配置と呼ぶことになった ただし,D 配置の化合物ならば右旋性,L 配置の化合物ならば左旋性というわけではない D-(+)- グリセルアルデヒド D 配置で右旋性 (+) L-(-)- グリセルアルデヒド L 配置で左旋性 (-)

実際, アルデヒド基をカルボキシ基に, ヒドロキシ基をアミノ基に置き換えると, D-アラニンの構造式になるが,D-アラニンは左旋性を示す N D-(+)- グリセルアルデヒド D 配置で右旋性 (+) D-(-)- アラニン D 配置で左旋性 (-)

. 鎖状構造と環状構造 D-グルコースの鎖状構造 これだと見にくいので, 構造式を前述のルールに従って表すと, D-グルコース破線で囲まれた部分が D 配置になっているから,D-グルコースである また, 炭素原子の位置については, 酸化末端, つまり上から順に - 位,- 位,- 位,- 位,- 位,- 位という 構造式中に記すときは, 通常,,,,, と番号だけをつける 炭素原子を縦方向に並べるのが正式であるが, これだと環状構造との関係がわかりにくので, 以後, 酸化末端を右端にし炭素原子を横方向に並べた構造式で示すことにする すると,D-グルコースの構造式は, 次のようになる

同様に, D-ガラクトース D- マンノース D- フルクトース ただし,D- フルクトースは, 塩基性条件下では, D- グルコースまたは D- マンノースに変化できる - - 銀鏡反応やフェーリング反応は塩基性条件下で行うので, ケトン基をもつ D- フルクトースも銀鏡反応やフェーリング反応に対し陽性を示す そのため,D- フルクトースも還元糖に分類される

参考ケトン基の酸素原子の強い電子求引性のため, - 位のヒドロキシ基の はアルコールのヒドロキシ基に比べ電離しやすくなっている 液性を塩基性にすると, 中間構造 ( エンジオール ) を介した D-グルコース D-フルクトース D-マンノースの平衡状態が成立する

ヘミアセタールとアセタール鎖状の D-グルコースが分子内でヘミアセタール化すると環状構造になる では, ヘミアセタールとアセタールについて説明する ヘミアセタールとは, アルデヒドとアルコールが反応した生成物のことである アルデヒドとアルコールを酸触媒下で反応させるとヘミアセタールが生成する R + R R R アルデヒドアルコールヘミアセタール 糖が環状構造になるとき, 分子内のヒドロキシ基とアルデヒド基でヘミアセタール化が起こる ヘミアセタールとアルコールを酸触媒下で反応させるとアセタールが生成する R R R + R R R ヘミアセタールアルコールアセタール

D- グルコースの環状構造と分子内ヘミアセタール化 環状構造は分子模型を組み立てるとわかるが, 五員環構造と六員環構造は歪が小さいため安定である とくに, 六員環構造は安定である したがって,D-グルコースの分子内ヘミアセタール化反応は, - 位のアルデヒド基と - 位のヒドロキシ基との間で起こる D- グルコース α-d- グルコース β-d- グルコース 7

同様に, D-ガラクトース が環状構造をとると, α-d- ガラクトース β-d- ガラクトース D- マンノース が環状構造をとると, α-d- マンノース β-d- マンノース 8

D- フルクトース は, 五員環構造と六員環構造のつをとる - 位のケトン基と - 位のヒドロキシ基がヘミアセタール化反応すると五員環, - 位のケトン基と - 位のヒドロキシ基がヘミアセタール化反応すると六員環になる α-d-フルクトフラノース β-d-フルクトフラノース α-d-フルクトピラノース β-d-フルクトピラノースこれらの環状構造と鎖状構造を合わせた 種の構造が平衡状態にある 補足フラノースピラノースについてフラノース, ピラノースはそれぞれ五員環の単糖類, 六員環の単糖類の総称である 構造がそれぞれフランとピランに類似していることによる フラン ピラン 9

糖類の構造 個の単糖類のヒドロキシ基が反応し, 脱水縮合すると 糖類になる このときできる結合をグリコシド結合という マルトース ( 麦芽糖 ): 還元性あり D-グルコース同士が, - 位のα-ヒドロキシ基と - 位のヒドロキシ基の間でグリコシド結合した 糖類このグリコシド結合をα-,-グリコシド結合という セロビオース : 還元性あり D-グルコース同士が, - 位のβ-ヒドロキシ基と - 位のヒドロキシ基の間でグリコシド結合した 糖類このグリコシド結合をβ-,-グリコシド結合という 0

セロビオースの構造式の作り方 β-d-グルコース 水平軸のまわりに反転 各炭素原子に結合している基または原子の 上下関係が逆になる +

ラクトース ( 乳糖 ): 還元性あり β-d- ガラクトースの - 位と D- グルコースの - 位のヒドロキシ基とが β-,- グリコシド結合した 糖類 ラクトースの構造式の作り方 α-d-グルコース 水平軸のまわりに反転 各炭素原子に結合している基または原子の上下関係が逆になる +

スクロース ( ショ糖 ): 還元性なし α-d-グルコースの - 位 β-d-フルクトフラノースの - 位のヒドロキシ基がグリコシド結合した 糖類 スクロースは偏光の振動面を右に回転させる ( 右旋性 ) スクロースを加水分解するとフルクトース ( 左旋性 ) とグルコース ( 右旋性 ) が生じるが, フルクトースの左旋性の強さがグルコースの右旋性の強さを上回るので, スクロースの加水分解溶液は左旋性を示す したがって, スクロースを加水分解すると, 旋光性が右旋性から左旋性に変化する これを転化といい, スクロースは転化糖に分類される

スクロースの構造式の作り方 β-d- フルクトース 位の 位の 位の 上下軸のまわりに反転 位の + 各炭素原子に結合している基または原子の上下関係が逆になる

トレハロース : 還元性なし α-d-グルコースの - 位のヒドロキシ基同士がグリコシド結合した 糖類 トレハロースの構造式の作り方 右側のグルコースを水平に 80 回転させる - 位のヒドロキシ基同士を脱水縮合させるとトレハロースになる + トレハロース

糖類の還元性について単糖類の場合 D-グルコースは, 水溶液中で, 下の つの構造が平衡状態にある 鎖状構造の D-グルコースは, そのアルデヒド基が銀鏡反応またはフェーリング反応によりカルボキシ基に酸化され, カルボン酸の一種, グルクロン酸に変化するため, ルシャトリエの原理により, これら つの構造の平衡が鎖状構造の D-グルコースに片寄ったままになり,D-グルコースのグルクロン酸への酸化が進行し続け, やがて, すべての D- グルコースがグルクロン酸に変化する この現象は, ガラクトース, マンノース, フルクトースなどアルデヒド基を生成し得る単糖類すべてについてあてはまる

また, フルクトースはアルデヒド基でなくケトン基をもつので, 一見すると, 還元性がないように思えるが, 塩基性条件下にすると, 水溶液中の + が減少するから, 電離平衡定数を保つべく, 基といえども + が電離しやすい状態になる 特にケトン基の隣の - 位の 基は, ケトン基の の電子吸引性のため, 通常の 基に比べ + が電離しやすい状態にある そのため, 塩基性条件下では, ケトンとアルデヒドの平衡が成立している したがって, 塩基性条件下にすると, フルクトースとグルコースとマンノースが平衡状態にある R A R R B A: フルクトース B: グルコース : マンノース 7

糖類の場合マルトース, セロビオース, ラクトースは, - 位のヒドロキシ基と - 位のヒドロキシ基がグリコシド結合しているので, アルデヒド基を生成しうる - 位のヒドロキシ基が残されている したがって, これらの 糖類は還元性を示す マルトースの場合 スクロースは, アルデヒド基を生成しうる炭素原子のヒドロキシ基同士がグリコシド結合しているため還元性がない 開裂してアルデヒド基を生成しうるグルコース - 位のヒドロキシ基と フルクトース - 位のヒドロキシ基がグリコシド結合しているため, 還元性がない 多糖類の場合たとえば, セルロースやデンプンも前述の還元性を示す単糖類や 糖類と同じく, 分子あたり 個のアルデヒド基を生成し得るので理論上では還元性をもつ しかし, 高分子のため, 飽和溶液にしたところでデンプンのモル濃度はたかが知れており, 銀鏡反応またはフェーリング反応では, 感度の限界を超えているので陽性を示さない したがって, 実験の上では, 還元性がないということになる 8