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A p A p. 224, p B pp p. 3.

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Transcription:

研究紹介 西表島西部の水田に定着した特定外来生物ボタンウキクサ 北野 忠 1) 水谷 晃 2) 河野裕美 2),3) 東海大学 1) 教養学部人間環境学科 2) 沖縄地域研究センター 3) 海洋研究所 態系を作り上げてきたと考えられる 一方 1 はじめに で 農法や水稲栽培者数などの変化により 湖沼 河川 干潟 マングローブやサン ゴ礁 または水田などの水域は 一般的に 特に水管理様式や水田面積は常に変化し 湿地環境 と称され 多様な生物にとっ 特に近年では圃場整備や機械化に伴う一時 て生息場を提供する なかでも水田は 人 的な乾田化や 栽培者の減少に伴う放棄水 が形成した二次的湿地環境という点で特異 田の乾燥草地化が生じるなど 生物の生息 的であり 西表島西部では扇状地を中心に 場としての機能低下も指摘されるようにな 形成されてきた その歴史は 少なくとも ってきた この様な背景のなか 筆者らは 15 世紀後半には水稲農耕が活発に行われて 水田およびその周辺を含めた環境と ゲン おり さらに 17 世紀には納税のために水田 ゴロウ類を中心とした水生昆虫類や水鳥類 耕作の割合が増加したと考えられている の長期的なモニタリング調査を継続してお 安斉 2007 それ以前は おそらく亜熱 り その成果については学会報告している 帯低地林やマングローブ後背林で覆われて 北野ほか 2010 水谷ほか 2010 いたはずであるが この水田面積の拡大に その調査の過程で 西表島西部の水田 2 より 淡水湿地性の魚類 両性 爬虫類 ヶ所において 外来植物であるボタンウキ 昆虫類あるいはそれらを食す鳥類など クサ Pistia stratiotes 写真 1 を確認し 様々な生物群が生息場を獲得し 複雑な生 た 本種の定着は ゲンゴロウ類のみなら 写真 1 ボタンウキクサ 29

ず西表島の陸水域に生息する多くの水生生物に対して, また農業に対しても影響を及ぼすと考えられることから, ここに生息状況を紹介する. 来生物法 ) に基づく 特定外来生物 に指定されたことから, 現在は学術研究などの特別な目的以外での栽培, 保管, 運搬が禁止されている ( 自然環境研究センター 2008). 2. ボタンウキクサとはボタンウキクサは別名ウォーターレタスとも呼ばれる南アフリカ原産の多年草であり, ロゼット状に葉を広げて水面に浮遊する. 日本には 1920 年代から観賞用に導入された. また, 近年はホームセンターや園芸店での定番商品として極めて安価で販売され, 観賞用やビオトープ用などに利用されたほか, 水質浄化への利用も試みられたことがある. 本種は, 温度 光 栄養の 3 条件が揃うと急激に増殖する. そのため, 遺棄された個体や, 流出した個体が各地で野生化し, 沖縄や小笠原では 1980 年代, 関東地方以西では 1990 年ころから定着が確認されている. 本種が繁茂すると, 水中の酸素や光が不足して他の植物が生育できなくなったり, 魚介類に影響を及ぼしたりする. このほか, 水路の通水障害を引き起こしたり, イネとの間で主に養分を巡って競合したりするなど, 農業に係わる被害も知られている ( 竹松 一前 1997, 角野 2002, 自然環境研究センター 2008). このため, 外来種の中でも生態系や人間活動への影響が特に大きい 侵略的外来種 への社会的関心を喚起するために作成された日本の侵略的外来種ワースト 100 に選定された ( 村上 鷲谷 2002). さらに,2006 年 2 月には 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律 ( 以下, 外 3. 西表島での生息状況沖縄県には 1980 年代に野生化したことが明らかとなっているものの, 西表島への侵入時期についての文献等での記録は見当たらなかった. 島内で 1981 年から 1987 年にかけて行われた調査では, ボタンウキクサは確認されていないことから ( 大滝 1989), 西表島への侵入時期は比較的新しいものと推定される. 以下に, 筆者らが確認した西表島西部の水田におけるボタンウキクサの生息状況について紹介する. ミナプシ水田 : 具体的な侵入時期は不明であるが, 当地では 2007 年 11 月には少数の株を確認している.2008 年 11 月に当地で稲作をされていた森山良治氏とお会いした際, 近頃この水草が増えて困る という旨の話をされていたので, この地域への侵入は比較的最近のことであると思われる. 2008 年 11 月 ( 写真 2-A) には, 応急的な駆除活動を行ったが ( 写真 2-B), 根絶には至らず,2010 年 9 月にも生息が確認された ( 写真 2-C). 特に, 水田脇の水路には水面を覆い尽くすほどに繁茂していた ( 写真 2-D). さらに本種は浮葉性の水草であるが, 湿った場所があれば土に根を下ろし, 生育する様子も観察された ( 写真 2-E). なお, この水路には, 在来種であるミズオオバコ Ottelia alismoides( 写真 2-F) が少なくとも 2008 年 11 月までは自生していたが,2010 年 9 月には確認することができなかった. 30

A 繁茂 2008 年 11 月 8 日 B 応急的な駆除後 2008 年 11 月 8 日 C 再発生 2010 年 9 月 13 日 D 水路でも繁茂 2010 年 9 月 13 日 E 畦などの土の上でも密生 2008 年 11 月 8 日 F 在来種のミズオオバコ 2008 年 11 月 8 日 写真 2 ボタンウキクサが野生化して定着したミナプシ水田 31

A 繁茂 2009 年 9 月 10 日 B 応急的な駆除後 2009 年 9 月 10 日 C 駆除したボタンウキクサ 2009 年 9 月 10 日 D 再発生 2010 年 9 月 13 日 写真 3 ボタンウキクサが野生化して定着した祖納水田 祖納の水田 筆者らは 2009 年 9 月に確認 我々が研究対象としているゲンゴロウ類の した 写真 3 A 当地においても応急的 生息に対し ボタンウキクサが与える影響 な駆除活動を行ったが 写真 3 B,C 根 についての詳細な報告はないが 琉球列島 絶には至らず 2010 年 9 月にも生息が確認 の他の島において 本種が繁茂する池では された 写真 3 D ゲンゴロウ類をはじめとする水生昆虫は個 体数 種数ともに極めて少ない傾向があっ た 北野 未発表 またゲンゴロウ類では 4.今後の課題 前述したとおり 本種は水中への日光を ないが 実際にミナプシ水田のボタンウキ 遮るとともに 水中の酸素を減らすことか クサが繁茂する水路では 在来植物のミズ ら 生態系を一変させる植物として知られ オオバコが確認できなくなったことから 外来生物法により特定外来生物に指定され 水辺生態系に対する影響は大きいものと推 ている 自然環境研究センター2008 現在 察される このため 西表島における水辺 32

生態系保全のためにも, 早急に駆除するべきである. なお, 本種は湿った土の上でも生育が可能なことから, 浮遊している株だけではなく, 周囲の畦にある株も注意深く探す必要がある. また, 小さな小株からも爆発的に繁殖するため, 定期的な活動により完全に駆除することが重要である. また, 島内の各水域で詳細に生息状況を調査するとともに, 本種がこれ以上他の水域に侵入しないよう, モニタリング調査を行っていくことも必要である. このほか, 西表島内では, 民宿や飲食店の庭にある鉢で今もなお本種を育てている例が見受けられる. 本種は外来生物法の特定外来生物に指定されていることから, 厳密にいえば本種の飼育は禁止されている. しかし, オオヒキガエル Bufo marinus やシロアゴガエル Polypedates leucomystax leucomystax など, 他の特定外来生物に比べると指定種としての認識は低いように思われる. いずれにせよ, 野外に逸出すれば生態系に大きな影響を及ぼすこと, 一度大量に繁殖してしまうと駆除する際に膨大なコストと人手がかかってしまうことから, 今後は地元の方に本種を育てないようご理解いただくための啓発活動も必要になってくるものと思われる. なお, この際には, 特定外来生物ではないが本種と同じ浮葉性植物で, 西表島にもすでに侵入し, 水辺生態系に同様の悪影響を及ぼすとされるホテイアオイ Eichhornia crassipes も合わせて行うことが効果的であろう. 筆者らは, 今後も西表島内でゲンゴロウ類の生息状況に関しての調査を継続する予定であるが, 同時にボタンウキクサの生息状況や, 可能な限りの駆除活動を継続して いきたいと考えている. 5. 謝辞ボタンウキクサの生息状況についてお話を伺った森山良治氏にお礼申し上げる. 6. 業績論文発表 1) 北野忠 唐真盛人 水谷晃 崎原健 河野裕美 (2010) 西表島における大型ゲンゴロウ類の生息状況. 沖縄生物学会誌,48, 113-120. 2) 水谷晃 村越未來 唐真盛人 木村賢史 北野忠 河野裕美 (2010) 西表島西部の湿地環境における水鳥類相とその季節的消長. 沖縄生物学会誌,48,121-139. 学会発表 1) 唐真盛人 水谷晃 崎原健 北野忠 河野裕美 (2010) 西表島に生息する小型ゲンゴロウ類 各種の湿地環境別における生息状況. 第 57 回日本生態学会大会, 東京大学,2010 年 3 月 17 日,387. 2) 北野忠 唐真盛人 浜田康正 水谷晃 崎原健 河野裕美 (2010) 八重山諸島における止水性ミズスマシ類の生息状況. 沖縄生物学会第 47 回大会, 名桜大学,2010 年 5 月 29 日,19. 3) 唐真盛人 水谷晃 崎原健 河野裕美 北野忠 内田晴久 (2009) 西表島における水田環境の変遷とゲンゴロウ類の生息状況の関わり. 第 56 回日本生態学会, ポスター発表 (PC1-369), 岩手県立大学,2009 年 3 月 17-21 日. 4) 唐真盛人 水谷晃 北野忠 崎原健 河野裕美 (2009) 西表島の人工的湿地 33

に生息するゲンゴロウ類 -Ⅲ. 小型種の生息状況 -. 沖縄生物学会第 46 回大会, 講演要旨集 p.18, 名桜大学,2009 年 5 月 30 日. 5) 水谷晃 村越未來 小菅丈治 木村賢史 河野裕美 (2009) 西表島西部の河口干潟におけるシギ チドリ類相と餌生物および底生生物と底質との関係. 沖縄生物学会第 46 回大会, 講演要旨集 p.11, 名桜大学, 2009 年 5 月 30 日. 7. 引用文献安斉英介 (2007) 第 1 節西表島西部の村落と環境からみた網取遺跡. 網取遺跡 カトゥラ貝塚の研究, 東海大学文学部歴史学科考古学第 1 研究室 東海大学海洋学部海洋文明学科 東海大学沖縄地域研究センター ( 編 ),205-219. 大滝末男 (1989) 沖縄島 石垣島 西表島の水草について. 水草研究会報,37,17-24. 角野康郎 (2002) ボタンウキクサ. 外来種ハンドブック ( 日本生態学会編 ), 地人書館, p202. 自然環境研究センター (2008) 日本の外来 生物. 自然環境研究センター編, 平凡社, pp419-420. 竹松哲夫 一前宣正 (1996) ボタンウキクサ. 世界の雑草 Ⅲ 単子葉類, 全国農村教育協会,pp112-117. 村上興正 鷲谷いずみ (2002) 日本の侵略的外来種ワースト 100. 外来種ハンドブック ( 日本生態学会編 ), 地人書館,pp362-363. 8. 研究助成 1)2007 年度東海大学沖縄地域研究センター研究教育助成 ( 沖セ 07-004, 代表北野忠 ) 八重山諸島の湿地における生物環境に関する研究. 2)2008 年度東海大学沖縄地域研究センター研究教育助成 ( 沖セ 08-004, 代表北野忠 ) 八重山諸島の湿地における生物環境に関する研究 ( 特に水生甲虫類の生活史と水鳥類の採餌場選択 ). 3)2009 年度東海大学沖縄地域研究センター研究教育助成 ( 沖セ 09-005, 代表北野忠 ) 八重山諸島の湿地における生物環境に関する研究 - 特に水生甲虫類および水鳥類の生態と保全 -. 34