計画研究 年度 小腸 膵β細胞 を枢軸とした候補遺伝子プールの構築による糖 尿病遺伝子の同定 堀川 幸男 群馬大学 生体調節研究所 岐阜大学医学部附属病院 糖尿病 代謝内科 研究の目的と進め方 MODY (maturity-onset diabetes of the young)

Similar documents
論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

Untitled

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

平成14年度研究報告

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

エネルギー代謝に関する調査研究

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

<4D F736F F D EA95948F4390B3817A938C91E F838A838A815B835895B68F F08BD682A082E8816A5F8C6F8CFB939C F

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

論文の内容の要旨 日本人サンプルを用いた 15 番染色体長腕領域における 自閉症感性候補遺伝子の検討 指導教員 笠井清登教授 東京大学大学院医学系研究科 平成 13 年 4 月入学 医学博士課程 脳神経医学専攻 加藤千枝子 はじめに 自閉症は (1 ) 社会的な相互交渉の質的な障害 (2 ) コミュ

平成17年度研究報告

犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

論文の内容の要旨

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

プロジェクト概要 ー ヒト全遺伝子 データベース(H-InvDB)の概要と進展

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

生物時計の安定性の秘密を解明

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

スライド 1

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

Untitled

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

<4D F736F F D F4390B38CE3816A90528DB88C8B89CA2E646F63>

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

第6号-2/8)最前線(大矢)

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

核内受容体遺伝子の分子生物学

Slide 1

PowerPoint プレゼンテーション

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

学位論文の要約

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

Microsoft Word - 3.No._別紙.docx

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

研究成果報告書

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

Untitled

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

Untitled

nagasaki_GMT2015_key09

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

<4D F736F F D DC58F4994C5817A C A838A815B83588CB48D F4390B3979A97F082C882B5816A2E646F6378>

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

ヒトゲノム情報を用いた創薬標的としての新規ペプチドリガンドライブラリー PharmaGPEP TM Ver2S のご紹介 株式会社ファルマデザイン

News Release 報道関係各位 2015 年 6 月 22 日 アストラゼネカ株式会社 40 代 ~70 代の経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんと 2 型糖尿病治療に従事する医師の意識調査結果 経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんは目標血糖値が達成できていなくても 6 割が治療

NEXT外部評価書

PowerPoint プレゼンテーション

博第265号

Microsoft Word - 1 color Normalization Document _Agilent version_ .doc

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

Microsoft PowerPoint - DNA1.ppt [互換モード]

シトリン欠損症説明簡単患者用

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

Microsoft Word doc

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

<4D F736F F D FAC90EC816994AD955C8CE38F4390B394C F08BD682A082E8816A8F4390B38CE32E646F63>

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

Untitled

Microsoft Word - FHA_13FD0159_Y.doc

Microsoft Word - HP用.doc

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

<4D F736F F F696E74202D CA48B8689EF8D E9197BF332E31302E B8CDD8AB B83685D>

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

Microsoft Word - Gateway technology_J1.doc

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

-119-

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

Microsoft Word - PRESS_

研究成果報告書

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

Transcription:

計画研究 2000 2004年度 小腸 膵β細胞 を枢軸とした候補遺伝子プールの構築による糖 尿病遺伝子の同定 堀川 幸男 群馬大学 生体調節研究所 岐阜大学医学部附属病院 糖尿病 代謝内科 研究の目的と進め方 MODY (maturity-onset diabetes of the young) は常染色 体優性遺伝の2型糖尿病であり やせ型でインスリン分 泌不全 を特徴とするので 日本人の2型糖尿病の魅力的 なモデル疾患である 現在までに6種類の原因遺伝子が同 定されているが これらの遺伝子は同一カスケード内で 相互に機能連関したHNF転写因子をコードする 欧米人 では大部分のMODYの原因遺伝子が明らかとなったが 日本人のそれはまだ大部分 MODYX が原因不明のま まである しかも発生原基がβ細胞と共通である小腸ですべて発 現しているので 代表者らは 小腸 が糖尿病関連組織 としての膵β細胞 末梢組織 骨格筋 脂肪 に次ぐ第3 極として重要であることを新たに提起した 本研究のゴ ールは 後述する 小腸 β細胞の連動システム に焦 点を当てることによって候補遺伝子プールを構築し 大 量マーカー集積と関連解析を展開することによって MODYならびにありふれた2型糖尿病遺伝子を同定する ことである 研究開始時の研究計画 1) 我々は 先ずヒト膵島から発現遺伝子 EST を多数 集積しマイクロアレイ化する さらにヒト小腸のESTを 大量集積する ヒト膵島の予備的ESTマイクロアレイは 世界で唯一我々が作成に成功している さらに我々は実 験動物を見据えラット マウスの膵島発現遺伝子なども 網羅していく 2) 小腸にはβ細胞と同じグルコース認識 輸送機構が存 在し 食後に発生した小腸栄養シグナルによってインス リン分泌が増強される インクレチン効果 が知られて いる 2型糖尿病では この現象は欠如または著明に低下 していることが知られている 最近報告されたインクレ チン受容体欠損マウスの成績では シグナル経路を遮断 するとインスリン低分泌の糖尿病が惹起されたので 小 腸 β細胞ラインの障害は単独で糖尿病の成因となり得 ることが明らかとなった 我々は MODYにおいても糖 尿病に先行してインクレチン障害が出現することを既に 明らかにしているので 主たる糖尿病遺伝子はHNF転写 カスケードに属し小腸 β細胞で連動している可能性を 強く示唆するものであり これら候補遺伝子を獲得する 3 MODYの延長に捉えている ありふれた 2型糖尿 病発症には遺伝素因と環境要因の両方が係っていること は明らかであるが 生理的あるいは心理的なストレス性 刺激というものの糖尿病発症への影響は意外に高いとい うことが判明してきている 脳の海馬は記憶や学習に重 要な役割を果たすのみならず ストレスの影響を受け易 いことが明らかになっている 海馬は 視床下部 下垂 体 副腎皮質系 Hypothalamic-pituitary-adrenal axis: HPA系 を抑制的に支配する上位中枢であるとともに グルココルチコイドを介した慢性ストレスの影響を受け 易い部位であるため ストレス関連疾患の病態生理ある いはストレスへの脆弱性の形成に関与していると考えら れる グルココルチコイドが2型糖尿病発症に大きく影 響していることは糖新生のみならず これを活性化させ る11bHSD-1を脂肪細胞に過剰発現させたマウスやin vitro の膵島を用いた実験系で次々に明らかにされている そ のため 海馬で発現している遺伝子(Expressed Sequence Tags : ESTs)を包括的に解析することは 糖尿病を含む ストレス関連疾患の発症機構の解明において重要である と考えられる そこで本研究では ストレス関連疾患状 態における海馬機能の分子機構を研究するためのツール を開発するため ラット海馬のcDNAライブラリーから ランダムに選択した大量クローンの部分塩基配列の決定 を行い 海馬における発現遺伝子のカタログ化を試みる 4 糖尿病における3大合併症においても遺伝素因の関与 は指摘されており 様々な疾患感受性遺伝子が報告され ている 糖尿病網膜症は増殖糖尿病網膜症まで進展する と視力予後が悪く全国で年間約3000人の中途失明者を生 じさせ 日本の成人失明原因の第一位である 網膜症の 原因として劣悪な血糖コントロールや高血圧症や高脂血 症の合併による細小血管症の進展がその理由と考えられ ているが 大規模な2型糖尿病患者の検討で家族集積性が 示され 遺伝背景の関与も指摘されている 糖尿病網膜 症は環境因子の関与も大きく また遺伝素因も複数の遺 伝子が複雑に関与していると考えられることから 機能 既知の候補遺伝子を選択して解析するのみでなく 発現 遺伝子を網羅的にプロファイリングする研究戦略も不可 110

欠となる そこで我々は正常ラット網膜の発現遺伝子プ ロファイルを作成する これらの発現遺伝子クローンは 独自のマイクロアレイ作成や in situ hybridization法など に応用でき また膵島を始めとする他臓器のプロファイ ルと比較することにより 臓器特異性遺伝子や共通発現 遺伝子獲得に利用することができる 5 大規模 in-situ ハイブリダイゼーション 発現遺伝子の情報はいまや誰でもデータベースから自 由に獲得できるが 実際にクローンを所持している有利 性をいかしてラージスケールin situハイブリダイゼーシ ョンにより獲得遺伝子の膵臓での詳細な発現プロファイ ルを検討し 適宜候補遺伝子を獲得する 6 2型糖尿病サンプルでの関連解析 疾患対照関連解析に供するための患者サンプル収集後 データベースと独自に獲得した単純塩基多型 SNPs を 用いて適宜ラージスケールの関連解析を進める 7 倫理問題への対応 我々の究極の目標であるオーダーメイド医療の前ステ ップであるヒト疾患対照関連解析に供するために患者サ ンプルを収集する 遺伝子解析の指針を遵守する上で 今後サンプル数を増やしていく過程において倫理的問題 にもとづくサンプル収集の遅れが生じる可能性が危惧さ れるので 群馬大学医学部ヒトゲノム 遺伝子解析に関 する倫理審査委員会 を立ち上げ社会的コンセンサスを 得ながら進める さらに機能別分布も施行し 遺伝子発現 蛋白生成に 関与するESTが既知のものでは最も多くなかでも転写因 子が256種類を占めることを確認した 我々はこれら の糖尿病候補転写因子を独自にマイクロアレイ化し小腸 肝臓での発現を検討することにより3つの臓器に特異的 に発現している11個の新規糖尿病候補転写因子を確保し た 研究期間の成果 1) 膵β細胞と小腸遺伝子の大規模収集 先行して獲得したヒト正常膵β細胞 ヒトインスリン 産生細胞株 ヒト小腸のEST合計約3万個のESTの分類化 集団化(クラスタリング)を施行し 約5000種類の既知遺 伝子を確認し そのうち約300種類の共通遺伝子を同定し ている 我々は現在までヒト ローデント合わせて約10 万個の糖尿病遺伝子候補プールを獲得していることにな る 獲得した合計25753個のヒト膵島腫瘍細胞ESTの分類 化 集団化(クラスタリング)を施行し 適宜膵島発現遺 伝子データベース EPConDB と照合した結果3082 種類の既知遺伝子と3075種類の未知遺伝子を獲得し た そして新たに3384個の遺伝子が膵島に発現している ことも明らかにした 2) ラット膵島並びにRINm5F発現遺伝子の大規模収集 我々はラット膵島並びにRINm5F インスリン分泌能 欠失 のESTを約4万個採取した 獲得した合計40710個 のラット膵島並びにRINm5FのESTの分類化 集団化(ク ラスタリング)を施行し 4078種類の既知遺伝子と6328種 類の未知遺伝子を獲得した 111

は 7,173種類の独立した遺伝子で構成されており そのう ち1,794種類はクラスターを形成し 残りの5,379種類はシ ングルトンであった ヌクレオチドのデータベース検索 の結果 獲得されたESTsは2,594種類の既知の遺伝子と 4,579種類の未知遺伝子から構成されていることが明らか になった ヌクレオチドデータベースにマッチしなかっ た未知遺伝子については更にペプチドデータベース検索 を行ったところ それらのうち599種類の遺伝子は他の種 の既知遺伝子のラットホモログあるいは遺伝子ファミリ ーの新規メンバーであることがわかった 次にこの重複のないESTを用いて正常膵島 RINの発 現遺伝子の差異を明らかにした 即ちインスリン分泌 合成に関与している遺伝子と膵島細胞の増殖 分化に関 与する遺伝子をそれぞれ正常膵島とRINから獲得するこ とを目標とした 最も多く認められた 細胞内シグナル伝達 に関与す る遺伝子群の中で 特にタンパク質の修飾に関与する遺 伝子群が最も多く認められた そして上記の比較でラット正常膵島のみで強く発現し ている遺伝子を糖尿病モデルGKラットの発症前後で検討 し CD74とSPARCの発現レベルが有意に変化している ことを明らかにした これらはインスリン合成 分泌に 関与している可能性が強く 糖尿病候補遺伝子としても 興味深い 3 ラットの海馬発現遺伝子の大規模収集 成獣ラットの正常海馬組織の両方向性cDNA ライブラ リーをin vivo excision法により プラスミドに変換した 後 約15,000個のクローンを無作為に選択しプラスミド DNAを抽出した プラスミドに挿入されたcDNAクロー ンの3'もしくは5'端から200-500 bp の部分塩基配列はABI PRISM 377 DNA sequencerを用い決定した ミトコンド リアDNAと繰り返し配列を除いた13,660個のクローンに 対しクラスタリング解析を行ったところ それらのESTs 獲得されたESTsの既知遺伝子のうちストレスに特に関 与していると考えられている cell/organ defense のカ テゴリーに分類された106個のESTsを用いて独自のマイ 112

クロアレイを作製した 4) ラージスケールin situハイブリダイゼーション 獲得したラットのESTを用いて現在まで3326種類のin situハイブリを行い 129個の膵島特異的発現遺伝子を獲 得した 個の3'-ESTのうち 繰り返し配列(100個)とミトコンドリ ア配列(103個)を除いた有効配列は797個であった クラ スタリング解析の結果 これらのESTは694種類の遺伝子 で構成されており そのうち639種類はシングルトンであ った さらに核酸データベース(BLASTN)検素の結果 獲得されたESTsは296種類の既知遺伝子と398種類の未知 遺伝子から構成されていることを明らかにした ラットの正常網膜で発現回数の多かった遺伝子は phosphodiesterase 6G, guanine nucleotide binding protein alpha tranducing1, opsinで これらは光情報伝達に重要 な役割を果たしていることが知られている 既知遺伝 子についてコード蛋白の機能別に分類すると cell division (3.4%), cell signaling (22.3%), cell structure 8.4%), cell defense (6.1%), gene/protein expression (28.0%), metabolism (19.6%), unclassified (12.2%) であった 最も 種類が多いgene/protein expression群の細分類では 転 写因子が最も多く31クローンで28遺伝子であった 獲得したラット正常網膜とラット膵島との比較で123種 類の共通発現遺伝子を同定したが これらは糖尿病や糖 尿病網膜症の候補遺伝子と考えられ その内 低酸素下 でVEGFや解糖系酵素を促進する転写因子HIF-1β遺伝子 を選択し2型糖尿病や糖尿病網膜症の候補遺伝子として解 析を進めた 上記の遺伝子群はその一部分であるが 膵島特異的に 発現しておりヒトのホモローグは糖尿病候補遺伝子とし て興味深いため 現在若年発症型 ありふれた2型糖尿病 含め詳細な遺伝子解析に供している 5 ラット網膜発現遺伝子の網羅 ラット正常網膜の一方向性cDNA ライブラリーから予 備実験で1000個のクローンを無作為選択し プラスミド DNAを抽出した 部分塩基配列 (expressed sequence tag; EST) を決定してNCBIデータベース解析を行った 重複 する配列はクラスタリング解析によって識別した 1000 6)膵島発現2型糖尿病候補遺伝子を用いた関連解析 一般的なタンパクは低酸素条件下で合成が低下するの に対してVEGF mrnaレベルは上昇することが知られて いるが これはVEGF遺伝子の5'側上流約1kbの部分に存 在するHypoxia Response Element (HRE) にHIF-1が結合 し転写活性が上昇することによることが明らかになって いる HIF-1ββ遺伝子はフィンランド人で糖尿病感受性 遺伝子座が同定されているββ番染色体の長腕に位置し その発現タンパクは826個のアミノ酸からなる β末端に はbasic helix-loop-helix (bhlh)ドメインと呼ばれる2量体 形成にも機能しているDNA結合モチーフとPASドメイン 113

と呼ばれるタンパク質間相互作用に重要と考えられてい るモチーフがありC末端には転写調節ドメインがある この2つの遺伝子は上記の膵島発現遺伝子網羅的解析から も中から高頻度で獲得されており 糖尿病候補遺伝子の 可能性が高いため 先ず我々はVEGFを活性化させる転 写活性因子HIF-1β hypoxia-inducible factor-1alpha の 全遺伝子領域に単一塩基多型 SNP を獲得し 2型糖尿 病患者群と正常群を用いて関連解析を施行した さらに この遺伝子における連鎖不平衡 LD ブロックのパター ンを評価し ハプロタイプ解析を施行した 日本人16人のゲノムDNAを用いてHIF-1ββ遺伝子領 域の全15エクソンを含む(GeneAccession nt-10268 68133)までの 78 kb中38 kbを検索し 合計35個のSNPを 同定した これら35個のSNPは対照者96人(192アレル)と 2型糖尿病患者88人(176アレル)で検索しアレル頻度 を算出した 我々が同定した35個のSNPのうち27個 は I M S - J S T S N P d a t a b a s e h t t p : / / s n p. i m s. utokyo.ac.jp/index.html またはNCBI db SNP database http://www.ncbi.nlm.nih.gov/snp/ で既に報告されて いたが 残りの8個 (SNP-6, SNP-12, SNP-18, SNP-19, SNP31, SNP-32, SNP-33, SNP-34)は新規に同定したSNPであっ た 35個のSNPのうちの3つは翻訳領域にあり それぞれ エクソン2に1個 ( S28Y ) エクソン12に2個 ( P582S, A588T )同定した 次に440人の2型糖尿病患者を用いて同定した全SNPで2 型糖尿病との関連を検討した ミスセンス変異をもつ3個 のcSNPを同定し そのうちP582Sでは2型糖尿病患者で 変異が有意に少なかった ( p=0.0028 ) またロジスティッ ク回帰分析で性差 年齢 BMIで補正しても有意差を得 た( p=0.0048 ) 次にこの領域で頻度の高いSNPsを2個づつ用いたすべ ての組み合わせのハプロタイプ関連解析を施行したとこ ろ SNP-25とSNP-13で非常に強い有意差を得ることがで きた さらに詳細なハプロタイプを複数個のSNPsで構築 し検討したところ P582SのマイナーアリルはSNP-25 とSNP-13のマイナーアリル同士で構築されたハプロタイ プにすべて認められた SNP-25とSNP-13のマイナーアリ ル同士で構築されたハプロタイプは対照群に有意に多く 認められていることから このS582アリルは糖尿病発症 に対して保護的因子であることが示唆された 連鎖不平衡パターンの評価のために頻度の低いSNPは 除外した10個のSNPを用いてLDパターンを作成した そ の結果この遺伝子領域は一つの大きな連鎖不平衡ブロッ ク内に存在することがわかった 5つのSNP ( g.25200, g.25299, g.27009, g.34942, g.35074 )と3つのSNP ( g.45483, g.46572, g.46820 )はそれぞれ 完全連鎖不平衡を呈して いた 114

さらに我々はこの同定したHIF-1β変異蛋白をVEGFの プロモーター配列を用いたレポーターコンストラクトと 共に過剰発現させ 正常酸素分圧あるいは低酸素分圧に おける変異蛋白の活性変化を検定した その結果この変異蛋白は低酸素下でより強くVEGFの 発現を上げることが明らかとなった 予備軍を含め1300万人と推定されている全糖尿病患者 群の実に90%を占める2型糖尿病は環境因子と遺伝因子の 関与から発症する生活習慣病である その発症遺伝子と してCalpain-10遺伝子やPPARβ遺伝子 Kir6.2遺伝子な どが報告されているがまだまだ未知の遺伝因子が複雑に 作用して疾患発症に至っていると考えられている これ までに我々の研究室ではラット膵島やラット網膜の mrna発現プロファイルを作成し網羅的な組織特異的発 現遺伝子の同定を試みており この中には膵島の分化 増殖 増殖糖尿病網膜症における新生血管形成や網膜血 管の透過性亢進に中心的な役割を果たすVEGFや低酸素 下で多くのタンパク質合成に重要な役割を果たす HIF-1 β などが含まれていた 今回我々は低酸素下でVEGFの 発現を促進するのみならず 解糖系に関与する複数の酵 素発現をも促進する転写活性因子の一つであるHIF-1ββ 遺伝子に注目し 2型糖尿病について関連解析を行った その結果ββ個のSNPを同定し その内ミスセンス変異 を持つcSNPで糖尿病との有意な関連を認めた そしてこ のcSNP P582S変異は対象群で多く認められ 糖尿病発症 に抑制的な変異と考えた この変異ではHIF-1βタンパク質 の分解が抑制され結 果的に蛋白レベルが亢進することが別のグループからも 報告されており 二次的にVEGFなどの標的遺伝子の発 現レベルが高くなると考えられるし 我々の機能実験で も再現された 膵島の発生 分化においてVEGFが重要 な役割を果たしていることを鑑みると HIF-1βは成人後 の膵島のインスリン分泌能を発生過程時あるいは成熟後 の新陳代謝回転において規定しているかもしれない 国内外での成果の位置づけ 我々は 膵β細胞の特異的マイクロアレイを有する世 界で唯一のグループである 候補遺伝子をまず網羅する ために 我々はヒト正常膵ラ氏島 ヒト膵島腫瘍細胞と 小腸のESTを大量集積した さらに研究期間中に糖尿病 病態に大きな影響を与え得るグルココルチコイド関連遺 伝子の網羅を試みるべく ストレス制御系で最上位に位 置する海馬の発現遺伝子収集を追加した また今後の糖 尿病合併症の増加が想像されるが なかでも直接患者さ んのQOLに係る網膜症の遺伝素因を同定する第一ステッ プとして先ず網膜に発現している遺伝子群の獲得も開始 した これら糖尿病関連臓器の発現遺伝子群のニーズの高さ は外国を含む数多くのデータベースに対する問い合わせ からも明らかであるし 今後の糖尿病原因遺伝子同定戦 略上の重要な分子基盤であることに疑いはない また最後に示した関連解析の成功例で実証された様に トランスクリプトームの観点より有力候補遺伝子を絞り 込み その遺伝子のSNPを大量獲得して大規模関連解析 の分子基盤を構築して 新規糖尿病遺伝子の同定を実現 するモデル研究と成り得る 達成できなかったこと 予想外の困難 その理由 マイクロアレイ解析での再現性の確保が予想外に困難 であり HNF-1Aの野生型 変異型の過剰発現での標的 遺伝子の差異検索に遅れが生じた 得られた糖尿病候補 遺伝子に関してもマイクロアレイのみならず 適宜リア ルタイムPCR を追加して検定する必要があり 現在時間 をかけながら逐一検定作業を進めている 今後の課題 多因子疾患である糖尿病は 環境因子に加え多数の感 受性遺伝子が関与しあって発症する 現在までに罹患同 胞対解析によって得られた各民族の糖尿病感受性領域に ついても様々な報告がなされており 同一の民族でも必 ずしも一致した結果は得られていない サンプルの不均 質性も否定できないが この不均質性こそが糖尿病が 遺伝学者の悪夢 と言われる所以である しかし糖尿病 を代表とするこれら多因子型疾患に対しても 完全長 cdnaプロジェクトなどトランスクリプトーム情報や蛋 白相互作用などインタラクトーム情報 あるいは代謝 系 産物などのメタボローム情報などからなる 機能ゲ ノム情報 と現在までに構築されてきたSNPs 連鎖不平 衡マップなどの 基盤ゲノム情報 を融合させることに より原因 感受性遺伝子の特定が可能となり 次世代の ゲノム創薬 オーダーメイド医療など 応用実践ゲノム に発展していくと考えているが 本研究での糖尿病関連 臓器の発現遺伝子群の網羅的獲得はその第一歩であるこ とに疑いの余地はない 115

研究期間の全成果公表リスト J, Mikuni M. Expression profile of mrnas from rat hippocampus and its application to microarray. Mol Brain Res 129: 20-32, 2004 論文 1 0303252231 Tonooka N, Tomura H, Takahashi Y, Onigata K, Kikuchi N, Horikawa Y, Mori M, Takeda J. High frequency of mutations in the HNF-1β gene in non-obese patients with diabetes of youth in Japanese and identification of a case of digenic inheritance. Diabetologia 45:1709-12, 2002 2 0303252241 Horikawa Y,Oda N, Yu L, Imamura S, Fujiwara K, Makino M, Seino Y, Itoh M, Takeda J. Genetic variations in calpain-10 gene are not a major factor in the occurrence of type 2 diabetes in Japanese. J Clin Endocrinol Metab 88: 244-247, 2003 3 0304301557 Zhu Q, Yamagata K, Miura A, Shihara N, Horikawa Y, Fukui K, Imagawa A, Iwahashi H, Takeda J, Miyagawa J-I, Matsuzawa Y T130I mutation in HNF-4ββgene is a loss-of-function mutation and is associated with late-onset type 2 diabetes in Japanese subjects Diabetologia 46: 567-573, 2003 4.0404051711 Jin L, Wang H, Narita T, Kikuno R, Ohara O, Shihara N, Nishigori T, Horikawa Y, Takeda J. Expression profile of mrnas from human pancreatic islet tumors. J Mol Endocrinol 31:519-528, 2003 5 0404061717 Weedon MN, Schwarz PEH, Horikawa Y, Iwasaki N, Illig T, Holle R, Rathmann W, Selisko T, Schulze J, Owen KR, Evans J, del Bosque-Plata L, Hitman G, Walker M, Levy JC, Sampson M, Bell GI, McCarthy MI, Hattersley AT, Frayling TM. Meta-analysis confirms a role for Calpain-10 variation in type 2 diabetes susceptibility Am. J.Hum.Genet 73: 1208-1212, 2003 9 0503291442 Iwasaki N, Horikawa Y, Tsuchiya T, Kitamura Y, Nakamura T, Tanizawa Y, Oka Y, Hara K, Kadowaki T, Awata T, Honda M, Yamashita K, Oda N, Yu L, Yamada N, Ogata M, Kamatani N, Iwamoto Y, Hanis CL, del Bosque-Plata L, Hayes MG, Cox NJ, Bell GI. Genetic variants in the calpain-10 gene and the development of type2 diabetes in the Japanese population. J Hum Genet 50: 92-98, 2005 10 0601272024 Wang H, Horikawa Y, Jin L, Narita T, Yamada S, Shihara N, Tatemoto K, Muramatsu M, Mune T, Takeda J. Gene expression profile in rat pancreatic islet and RINm5F cells J Mol Endocrinol 35: 1-12, 2005 11 0601272028 Yamada N, Horikawa Y, Oda N, Iizuka K, Shihara N, Kishi S, Takeda J Genetic variation in the HIF-1a gene is associated with type 2 diabetes in Japanese J Clin Endocrinol Metab 90: 5841-47, 2005 特許申請 HNF-4a遺伝子T130I変異による2型糖尿病発症リスクの 遺伝子診断 分担 データベース 1) 0105 http://imcr.showa.gunmau.ac.jp/lab/genetics/isletdb.xls.zip 2) 0106 http://imcr.showa.gunmau.ac.jp/lab/genetics/rhippocampus.zip 6 0601272010 Shihara N, Horikawa Y, Onishi T, Ono M, Kashimada K, Takeda J. Identification of a de novo case of hepatocyte nuclear factor-1β mutation with highly varied phenotypes. Diabetologia 47: 1128-29, 2004 7 0601272013 Kawamoto T, Horikawa Y, Tanaka T, Kabe N, Takeda J, Mikuni M. Genetic variations in the WFS1 gene in Japanese with type 2 diabetes and bipolar disorder. Mol.Genet.Metab 82: 238-245, 2004 8 0601272020 Tanaka T, Horikawa Y, Kawamoto T, Kabe N, Takeda 116