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放 射 光 を 用 いた 皮 膚 角 層 の 構 造 研 究 : 基 礎 から 応 用 へ 八 田 一 郎 財 高 輝 度 光 科 学 研 究 センター 679 5198 兵 庫 県 佐 用 郡 佐 用 町 1 1 1 太 田 昇 財 高 輝 度 光 科 学 研 究 センター 679 5198 兵 庫 県 佐 用 郡 佐 用 町 1 1 1 八 木 直 人 財 高 輝 度 光 科 学 研 究 センター 679 5198 兵 庫 県 佐 用 郡 佐 用 町 1 1 1 要 旨 皮 膚 角 層 の 応 用 研 究 を 展 開 するに 当 たって,その 基 礎 となる 分 子 レベルでの 構 造 情 報 は 欠 かせない ところが 角 層 内 の 構 造 について 現 在 なお 数 々の 論 争 があるところである ここでは 2 つの 問 題, 角 層 中 にある 細 胞 間 脂 質 分 子 が 配 列 してとる 2 つのラメラ 構 造 とラメラ 周 期 と 直 交 する 面 内 の 2 つの 炭 化 水 素 鎖 の 充 てん 構 造 の 関 係 およびラメラ 構 造 の 層 間 に 水 層 が 存 在 するか,を 取 り 上 げ, 放 射 光 X 線 回 折 実 験 をいかに 駆 使 して 解 決 したかを 紹 介 する さらに, 角 層 の 構 造 に 基 づいて 応 用 研 究 を 進 めるに 当 たっての 指 針 を 示 す 1. はじめに 皮 膚 は 人 の 体 において, 体 外 からの 異 物 の 侵 入 を 防 ぎ, 一 方, 体 内 の 水 分 の 蒸 散 を 防 ぐという 2 つの 重 要 な 役 割 をもっており,それらはバリアー 機 能 と 呼 ばれ 表 皮 最 上 部 にある 角 層 が 担 っている 表 皮 中 の 細 胞 であるケラチノサ イトが 分 化 して 最 終 的 に 角 層 が 形 成 される 角 層 の 厚 さは 場 所 によるがおおよそ20 mm 程 度 である 面 の 皮 は 結 構 薄 い 足 のかかとでは 相 当 厚 い 海 水 浴 に 行 ったとき 日 焼 け して 皮 膚 の 皮 がむけることがあるが,あれが 角 層 である 表 皮 最 下 部 にある 基 底 細 胞 皮 膚 は 細 胞 分 裂 し, 絶 えず 代 謝 を 繰 り 返 し, 最 後 に 表 皮 最 上 部 の 角 層 は 垢 となってはく 離 する 角 層 は 主 として 角 層 細 胞 (この 中 には 最 早 核 はない) と 細 胞 間 脂 質 から 成 っている それは Fig. 1( 図 の 説 明 中,stratum corneum 角 層,corneocyte 角 層 細 胞,intercellular lipid 細 胞 間 脂 質,stratum granulosum 顆 粒 層 )に 示 すように 平 坦 化 した 角 層 細 胞 の 周 りを 細 胞 間 脂 質 が 囲 んだ 構 造 を 形 成 している したがって,Fig. 1 で 示 す 角 層 の 構 造 はレンガモルタル モデルといわれ, 角 層 細 胞 は 細 胞 間 脂 質 の 中 に 埋 め 込 まれている 細 胞 間 脂 質 はセラ ミド, 脂 肪 酸,コレステロールなどの 多 成 分 から 成 ってい る 角 層 細 胞 の 中 にはソフトケラチンと 呼 ばれるタンパク 質 が 詰 まっている 角 層 細 胞 周 辺 にはコーニファイドエン ヴェロープ(Fig. 1 中,corneocyte( 角 層 細 胞 )の 周 りを 取 り 囲 む 太 い 黒 線 の 部 分 )と 呼 ばれる 構 造 がある(コーニ ファイドエンヴェロープはインボルクリンやロリクリンな どのタンパク 質 とそれに 結 合 した 脂 質 により 構 成 され,タ ンパク 質 は 角 層 細 胞 膜 の 補 強 の 役 割 を 果 たしており,これ らの 結 合 した 脂 質 は 細 胞 間 脂 質 と 向 き 合 っている) 角 層 Fig. 1 Bricks-and-mortar model of stratum corneum of skin. Corneocytes as bricks are surrounded by intercellular lipid matrix as mortar. 中 のこれらの 構 造 は 機 能 発 現 においてお 互 いに 関 わりをも って 働 いている 1) われわれが 放 射 光 X 線 を 用 いてかくも 複 雑 な 角 層 の 構 造 解 析 研 究 を 行 っている 原 動 力 は 次 のような 点 にある 角 層 の 機 能 を 改 善 し 高 める 化 粧 品 や, 皮 膚 を 大 きく 傷 めるこ となく 皮 膚 を 通 して 薬 の 投 与 を 可 能 とする 経 皮 吸 収 促 進 剤 の 創 製 において, 分 子 レベルのエヴィデンスに 基 づいたそ れらの 開 発 に 寄 与 したい 大 それた 夢 かもしれないが,そ の 目 標 の 一 つとして 患 者 数 が 増 加 の 一 途 をたどっているア トピー 性 皮 膚 炎 の 皮 膚 の 乾 燥 した 特 異 な 性 状 に 対 処 し 治 療 に 役 立 つような 保 湿 剤 の 開 発 につなげることができればと 願 っている そのためには 分 子 レベルで 皮 膚 角 層 内 の 構 造 に 関 する 知 見 が 必 要 である このように 応 用 を 目 指 した 研 究 をするために,それに 必 要 な 基 礎 研 究 を 展 開 においても 応 用 研 究 を 絶 えず 念 頭 におき, 最 終 目 標 を 見 失 うことなく 行 うことが 肝 要 であると 考 えている 放 射 光 Nov. 2008 Vol.21 No.6 297 (C) 2008 The Japanese Society for Synchrotron Radiation Research

以 上 のような 目 標 に 向 けて 放 射 光 X 線 の 構 造 解 析 研 究 を 進 めるに 当 たって,ヒト 角 層 の 構 造 を 明 らかにすること が 最 大 の 目 標 である それも 生 きている 人 体 の 皮 膚 上 にあ るヒト 角 層 の 構 造 を 明 らかにしたいところであるが,それ に 代 わるものを 用 いることになる 実 験 に 用 いる 角 層 は 大 きく 分 けて 5 つある ヒトの 皮 膚 からテープストリッ ピングにより 低 侵 襲 で 採 取 した 角 層 ( 接 着 剤 付 のテープを ヒトの 皮 膚 に 押 し 付 け 剥 し,テープ 上 に 角 層 を 写 し 取 った もの), 外 科 手 術 により 表 皮 を 切 り 出 しトリプリン 処 理 して 得 たヒトの 角 層, ヒト 以 外 で 生 きている 哺 乳 動 物 の 皮 膚 上 にある 角 層, ヒト 以 外 の 哺 乳 動 物 において 外 科 手 術 により 切 り 出 した 表 皮 上 にある 角 層, ヒト 以 外 の 哺 乳 動 物 において 外 科 手 術 により 表 皮 を 切 り 出 しトリプリン 処 理 して 得 た 角 層 である これらにより 生 きているヒト 皮 膚 上 にある 角 層 の 構 造 についての 特 徴 を 明 らかすることが 応 用 を 目 指 すときの 重 要 な 課 題 である ヒトの 角 層 に 代 わる ものとして 培 養 表 皮, 三 次 元 培 養 皮 膚, 再 構 成 膜 や 脂 質 多 成 分 系 などで 構 造 研 究 を 行 なうことできるようになればさ らに 深 く 分 子 さらには 原 子 レベルの 構 造 研 究 を 展 開 でき る その 場 合,ヒトの 角 層 で 確 立 されたどの 構 造 に 着 目 し て 研 究 をしようとしているかに 応 じて,それぞれの 代 替 物 質 を 選 んで 研 究 を 行 なうことになる ここではヒト 角 層 に 非 常 に 近 い 角 層 内 の 構 造 をもつへアレスマウス 角 層 につい て 放 射 光 X 線 を 用 いた 構 造 研 究 について 述 べる 2. 細 胞 間 脂 質 がつくる 構 造 この 節 では 放 射 光 小 角 広 角 X 線 回 折 像 の 時 間 変 化 測 定 を 行 うことにより, 多 成 分 から 成 る 細 胞 間 脂 質 の 集 合 体 がつくる 複 雑 に 絡 み 合 った 構 造 をいかに 解 き 明 かしたかを 紹 介 する 一 般 に 炭 化 水 素 鎖 をもつ 脂 質 分 子 より 成 る 集 合 体 では 2 つの 特 徴 的 な 周 期 構 造 が 現 れる 分 子 の 長 軸 方 向 への 配 向 により 現 れる 周 期 構 造 はラメラ 構 造 と 呼 ばれて いる したがって, 周 期 は 分 子 長 の 2 倍 あるいはそれに 関 連 するものとなる それは 数 nm から 数 十 nm であり, 小 角 X 線 回 折 像 として 観 測 される 一 方,ラメラ 周 期 の 方 向 に 直 交 する 横 断 面 では 炭 化 水 素 鎖 が 充 填 してつくる 構 造 が 現 れる 電 子 密 度 の 高 い 分 子 軸 の 中 心 部 分 の 炭 化 水 素 鎖 の 配 列 は 六 方 晶, 斜 方 晶 などをとる その 格 子 定 数 はほ ぼ0.4 nm であり, 広 角 X 線 回 折 像 として 観 測 される 細 胞 間 脂 質 集 合 体 がつくる 構 造 を 解 くには 小 角 広 角 同 時 測 定 が 不 可 欠 であり, 温 度 走 査 して 小 角 広 角 同 時 測 定 を 行 い 相 転 移 挙 動 を 明 らかにすることにより 構 造 解 析 をさらに 推 し 進 めることができる 哺 乳 動 物 の 細 胞 間 脂 質 集 合 体 のつくる 構 造 については 多 くの 研 究 が 行 なわれているが,まだ 基 本 構 造 に 関 して 定 説 が 確 立 されるまでに 至 っていない 生 きているヒトの 皮 膚 から 低 侵 襲 で 採 取 した 角 層 の 構 造 の 実 験 としては 電 子 線 回 折 実 験 のためのメッシュを 糊 付 けしそれに 依 ってテープス Fig. 2 Hydrocarbon-chain packing structure in intercellular lipid matrix. There are two kinds of packing: One is hexagonal and the other is orthorhombic. トリッピングして 採 取 した 角 層 についての 電 子 線 回 折 実 験 が 行 われている(メッシュの 穴 の 部 分 に 残 った 角 層 に 対 し て 実 験 を 行 う) 2) その 結 果,Fig. 2 に 示 すように 室 温 で 細 胞 間 脂 質 中 の 炭 化 水 素 鎖 の 充 てん 格 子 には 六 方 晶 ( 格 子 定 数 は0.41 nm)と 斜 方 晶 ( 格 子 定 数 は0.37 nm と0.41 nm) があることが 報 告 されている 前 者 と 比 べて 後 者 が 観 測 さ れる 頻 度 が 高 いことが 指 摘 されている そこではさらに 重 要 な 二 つの 実 験 が 行 われている 一 つは 電 子 線 ビームの 位 置 を 動 かして 実 験 を 行 っていることである もう 一 つは 温 度 を 変 えて 実 験 を 行 っていることである これらについて は 後 で 触 れる 一 方, 炭 化 水 素 鎖 の 充 てん 格 子 と 直 交 する 方 向 の 周 期 構 造 であるラメラ 構 造 については, 電 子 顕 微 鏡 観 察 および X 線 小 角 散 乱 により 実 験 が 行 われている Bouwstra ら 3) は 外 科 手 術 により 切 り 取 ったヒトの 表 皮 を トリプシン 処 理 して 得 た 角 層 に 対 する X 線 小 角 散 乱 から 次 のような 報 告 をしている ヒト 角 層 において 室 温 でブ ロードではあるが 強 い6.4 nm の 周 期 をもつラメラ 構 造 ( 短 周 期 ラメラ 構 造 )と 弱 い13.4 nm の 周 期 をもつラメラ 構 造 ( 長 周 期 ラメラ 構 造 )のピークが 観 測 された(Fig. 3 を 参 照 Fig. 3 の 説 明 中,ceramide セラミド,long lamellar structure 長 周 期 ラメラ 構 造,short lamellar structure 短 周 期 ラメラ 構 造 後 で 示 すように 長 周 期 ラ メラ 構 造 中 には 水 層 は 無 いが, 短 周 期 ラメラ 構 造 中 には 水 層 がある) 温 度 を120 Cまで 上 げ 室 温 に 下 ろすと 細 胞 間 脂 質 の 結 晶 化 が 起 こり 鋭 い13.4 nm の 周 期 をもつラメラ 構 造 の 4 次 ピークまで 観 測 された その 角 層 中 の 水 分 量 を 調 節 すると20 wt の 辺 りで 長 周 期 ラメラ 構 造 による 小 角 領 域 のピークがさらに 鋭 くなる 一 方,ピーク 位 置 は 水 分 量 に 依 らない Bouwstra らはこれ 以 降 の 研 究 において, 長 周 期 ラメラ 構 造 は 研 究 した 全 ての 哺 乳 動 物 において 現 れ,これが 角 層 の 細 胞 間 脂 質 がつくる 特 徴 的 な 構 造 であっ て,このラメラ 構 造 が 皮 膚 のバリアー 機 能 においておそら く 最 も 重 要 な 働 きをしていると 主 張 している 4) また, RuO 4 で 染 色 した 皮 膚 角 層 のラメラ 構 造 の 電 子 顕 微 鏡 観 察 では 長 周 期 ラメラ 構 造 は 観 測 されているが 5), 短 周 期 ラメ ラ 構 造 の 電 子 顕 微 鏡 についての 報 告 は 現 在 までのところな い 疑 問 として 残 っていることは,このように 長 周 期 ラメ ラ 構 造 は 常 に 観 測 される 主 たる 構 造 であって,ヒト 角 層 で 298 放 射 光 Nov. 2008 Vol.21 No.6

解説 放射光を用いた皮膚角層の構造研究 基礎から応用へ 熱処理する前にブロードであるが強いピークとして観測さ くる全ての構造が X 線回折で観測される訳ではない わ れている短周期ラメラ構造は機能に直接関わりない構造で れわれはラメラ周期構造と炭化水素鎖の充てん格子の関係 あって無視して良いかということである また 炭化水素 を X 線構造解析と熱力学に基づいて明らかにすることに 鎖の充てん格子の六方晶と斜方晶の共通の格子定数 0.41 よって これらの構造における混乱している状況の一端を nm はいわゆる 多結晶 の X 線回折ではデバイ シェラー 解きほぐした リングが重なり識別することが難しい さらに 電子線 一般にあるものの状態が安定かどうかを検討するとき 回折実験の結果が示すように斜方晶に比べて六方晶が出現 に 構造と熱力学の両面からの研究が重要な役割を果た する頻度が少なく 六方晶の存在の影が薄い このような す そこでヒト角層に非常に近い構造をもつへアレスマウ 場合に六方晶の存在を無視してよいのかということもあ ス皮膚角層の高感度示差走査熱量測定を行なった6) その る ここで強調しておきたいことは 角層中の細胞間脂質 結果 32, 39, 51, 71, 103 Cに熱異常を検出し 57 Cにも は脂質分子多成分から成っており それがつくる構造は必 サーモグラムの折れ曲がりを検出した 32 C の熱異常は ずしも鋭い回折ピークを示す規則正しい構造ばかりではな われわれが始めて見つけたものである 103 Cの熱異常は いということである また 規則正しい構造であるから機 これまでの実験で蛋白質に由来する熱異常と言われてい 能にとって重要であるとは一概には言えない さらに 脂 る 次に放射光 X 線を用いて 小角 広角 X 線回折像測 質分子多成分から成る細胞間脂質の構造においてそれがつ 定の温度走査速度 0.5 C /min で行なった7) それぞれの等 高線図の温度変化の結果を Fig. 4a と 4b に示す 横軸が散 乱ベクトル S ( 2 / l ) sin u ( nm 1 l は X 線の波長 2u は散乱角 であり 縦軸が温度 C である Fig. 4a と 4b 中に示す横線は熱異常が観測された温度 転移温度 を示す 細い横線は57 C の線を示す 詳細な議論につい ては論文7)を見ていただくことにして ここでは要点と論 文では詳しく触れなかった点について述べる これまで報告が無かった 32 C の相転移に着目して放射 光小角 広角 X 線回折像の温度変化の高感度測定結果を 見ると 微妙であるが確かな変化が起きている これはこ れまでの X 線回折実験では分からなかったことである Fig. 3 Lamellar structure in intercellular lipid matrix composed of ceramides, fatty acids and cholesterol are drawn schematically. There are two kinds of lamellar structures: One is long lamellar structure in which the repeat distance is 13.6 nm and the other is short lamellar structure in which the repeat distance is around 6 nm and depends on the water content in stratum corneum. In the latter, water molecules are illustrated by blue dots. Fig. 4 Fig. 4a を 見る と 室温 で 13.6 nm ヒ ト角 層 の場 合 は 13.4 nm このように細胞間脂質のラメラ周期は哺乳動物によ って多少異なるが それは脂質成分の違いによっていると 言われてる の長周期ラメラ構造の 1 次反射から 5 次反 射のピークが現れている この構造は約 56 C まで残って いるが ピーク位置は 32 C を境にして広角側に折れ曲が Intensity contour plots of SAXD/WASD as a function of temperature. Horizontal lines indicate the transition temperatures obtained from DSC. The color representations for the intensity are given in the bars of the righthand side. a: SAXD, b: WASD. 放射光 Nov. 2008 Vol.21 No.6 299

っている すなわち,この 温 度 を 境 にしてラメラ 周 期 が 急 に 短 くなる また,Fig. 4b を 見 ると32 C 辺 りで2.24 nm -1 付 近 のブロードなピークの 等 高 線 が 折 れ 曲 がっており, 新 しいブロードなピークが 出 現 し 始 める 次 に Fig. 4a と 4b を 比 べることにより, 容 易 に 一 つの 結 論 を 下 せる Fig. 4a を 見 ると 短 周 期 ラメラ 構 造 によるピー クは 長 周 期 ラメラ 構 造 の 2 次 反 射 と 3 次 反 射 のピークの 間 に 埋 もれているが, 温 度 を 上 げるに 従 い 長 周 期 ラメラ 構 造 によるピークは 約 51 Cで 消 失 し51~71 Cで 一 つのピー クが 残 る( 曲 線 B) これが 短 周 期 ラメラ 構 造 の 1 次 反 射 のピークである 温 度 が 上 がるに 従 いピーク 位 置 が 広 角 側 に 移 動 しており,これは 短 周 期 ラメラ 構 造 の 周 期 が 短 くな っていることを 示 す 一 方,Fig. 4b を 見 ると39 Cで 斜 方 晶 から 六 方 晶 へ 明 確 な 相 転 移 を 起 こしている 前 に 挙 げた 電 子 線 回 折 実 験 によっても 斜 方 晶 から 六 方 晶 への 相 転 移 が 指 摘 されている 2) ここで 注 意 すべきことは 電 子 線 回 折 実 験 では20 Cで 現 れている 六 方 晶 と39 C 以 上 で 現 れる 六 方 晶 の 関 係 ついては 言 及 していないということである 室 温 で は2.4 nm -1 付 近 のピークは 六 方 晶 の 約 4.1 nm の 格 子 定 数 と 斜 方 晶 の 約 4.1 nm の 格 子 定 数 の 重 畳 したものから 成 っ ている 温 度 を 上 げると39 C 直 下 で2.40 nm -1 (0.417 nm) であったピークが 直 上 で2.44 nm -1 (0.410 nm)と 格 子 定 数 が 小 さい 方 向 に 飛 んでいる 一 般 に 温 度 が 上 昇 すること により 炭 化 水 素 鎖 の 充 てんの 格 子 定 数 は 大 きくなる 上 の 場 合 を 見 ると 六 方 晶 の 格 子 定 数 は39 Cの 直 上 で 小 さくな っているので,39 C 以 下 と 以 上 の 六 方 晶 はそれぞれ 異 な る 細 胞 間 脂 質 の 部 分 に 由 来 していると 言 える 一 つの 部 分 において39 Cで 斜 方 晶 から 高 温 六 方 晶 への 明 確 な 相 転 移 が 起 こるが, 別 の 部 分 にある 低 温 六 方 晶 はどうなったかを 明 らかにしなければならない この 低 温 六 方 晶 が32 Cで 相 転 移 を 起 こし, 液 晶 様 構 造 になるとすると 矛 盾 なく 説 明 できる 高 温 六 方 晶 に 話 を 戻 すと,39 C 以 上 で 現 れる 高 温 六 方 晶 は 温 度 が 上 がるに 従 い 小 角 側 に 移 動 し( 膨 張 し), 71 Cでピークが 消 失 する( 曲 線 D) 高 温 六 方 晶 が 出 現 す る 温 度 領 域 ( 曲 線 D)と 短 周 期 ラメラ 構 造 が 出 現 する 温 度 領 域 ( 曲 線 B)が 対 応 している したがって, 室 温 では 短 周 期 ラメラ 構 造 の 炭 化 水 素 鎖 の 充 てんは 斜 方 晶 から 成 っ ていると 定 性 的 に 結 論 できる さらに,32 Cの 相 転 移 で の 振 舞 から 残 りの 長 周 期 ラメラ 構 造 の 炭 化 水 素 鎖 の 充 てん は 低 温 六 方 晶 から 成 っていると 間 接 的 に 結 論 される 以 上 のことを 定 量 的 に 解 析 するために, 臨 界 充 てんパラ メーター8) の 概 念 を 改 変 した 脂 質 のいわゆる 頭 部 の 断 面 積 だけでなくその 厚 さをも 考 慮 し,さらに 水 層 の 厚 さも 考 慮 した 新 しい 臨 界 充 てんパラメーター(ここでは 改 良 形 状 因 子 と 呼 ぶ)を 定 義 する Fig. 5 に 示 すように, 炭 化 水 素 鎖 一 本 からなる 脂 質 分 子 を 考 え, 水 中 で 脂 質 2 分 子 の 外 側 には 水 層 があり, 次 に 頭 部 があり, 内 側 に 炭 化 水 素 鎖 が 向 き 合 っているのが, 脂 質 2 分 子 膜 の 基 本 構 造 である 断 面 積 を a 0 とし,Fig. 5 の 2 分 子 の 上 端 から 下 端 までの 長 Fig. 5 A pair of lipid molecules (illustrated by orange for hydrocarbon chain and by dark orange for headgroup) with water (illustrated by blue) shown by two cylinders. Modiˆed shape factor n/a 0 l c is given by the cross-section a 0 of cylinder, the length l c from the top to the bottom and the total volume n. さを l c とし, 全 体 の 体 積 が n であるとすると, 改 良 形 状 因 子 は n a 0 l c と 定 義 できる 脂 質 2 分 子 膜 は 平 板 を 形 成 するので, 改 良 形 状 因 子 の 値 は 1 となる すなわち,n=a 0 l c の 関 係 が 成 り 立 つ 角 層 中 の 細 胞 間 脂 質 の 場 合 に 当 てはめて, 炭 化 水 素 鎖 の 状 態 が 脂 質 分 子 集 合 体 の 構 造 形 成 において 重 要 な 役 割 を 果 たしているとすると,Fig. 5 の 筒 状 体 の 断 面 積 は ほぼ 炭 化 水 素 鎖 の 乱 れによって 規 定 され,それに 伴 い 平 板 を 保 つように 水 層 や 頭 部 は 変 形 する したがって,ラメラ 構 造 (l c はラメラ 周 期 に 相 当 する)と 炭 化 水 素 鎖 の 充 てん の 格 子 定 数 ( 断 面 積 a 0 を 見 積 もることができる)から a 0 l c が 計 算 できる 一 つの 相 の 中 の 狭 い 温 度 領 域 では,ラ メラ 構 造 の 周 期 が 短 くなれば 反 対 に 炭 化 水 素 鎖 の 充 てんの 格 子 定 数 は 大 きくなり, 体 積 n はほぼ 一 定 に 保 たれると 考 える Fig. 4a の 曲 線 B と Fig. 4b の 曲 線 D について,a 0 l c を 計 算 すると,Table I( 表 の 説 明 中,modiˆed shape factor 改 良 形 状 因 子 )に 示 す 値 が 求 まる a 0 l c は1.10 1.17 nm 3 の 間 にありほぼ 一 定 の 値 なっており,これから 曲 線 B が 曲 線 D に 対 応 していることが 定 量 的 にも 示 された 詳 しく 見 ると a 0 l c の 値 は 温 度 の 上 昇 とともに 僅 かではあるが 減 少 している 現 在 のところこの 要 因 については 分 かって いないが,ここで 扱 った 細 胞 間 脂 質 は 多 成 分 から 成 ってお り 必 ずしもここで 提 案 した 改 良 形 状 因 子 の 枠 組 みで 扱 い 切 れないかもしれない さらに 詳 しい 解 析 をするためには 単 成 分 系 で 改 良 形 状 因 子 の 考 え 方 について 厳 密 に 検 討 する 必 要 がある 曲 線 C については 少 し 説 明 を 要 する 32 C 以 下 では 液 晶 様 構 造 の 核 が 形 成 され,そのピーク 強 度 が 温 度 の 上 昇 とともに 増 大 する 32 Cでほぼ 全 体 に 液 晶 様 構 造 300 放 射 光 Nov. 2008 Vol.21 No.6

解 説 放 射 光 を 用 いた 皮 膚 角 層 の 構 造 研 究 基 礎 から 応 用 へ Table I Analysis based upon the modiˆed shape factor for the short lamellar structure in intercellular lipid matrix of stratum corneum. The cross-sectional area, a 0, obtained from the lattice constant of the high-temperature hexagonal structure, the lamellar repeat distance, l c, and the calculated volume, a 0 l c Temperature ( C) a 0 (nm 2 ) l c (nm) a 0 l c (nm 3 ) 50 0.197 5.95 1.17 55 0.198 5.81 1.15 60 0.199 5.75 1.14 65 0.201 5.46 1.10 Table II Analysis based upon the modiˆed shape factor for the long lamellar structure in intercellular lipid matrix of stratum corneum. The cross-sectional area, a 0, obtained from the lattice constant of the liquid-crystalline-like structure, the lamellar repeat distance, l c, and the calculated volume, a 0 l c Temperature ( C) a 0 (nm 2 ) l c (nm) a 0 l c (nm 3 ) 35.0 0.229 13.37 3.062 52.5 0.238 12.88 3.065 55.0 0.239 12.64 3.026 Fig. 6 X-ray dišraction intensity for the stratum corneum of hairless mouse at the water content of 0 wt (A), 12wt (B), 21 wt (C), 35wt (D), 50wt (E), 70wt (F) and 80 wt (G). Open arrows indicate the 1st to 5th order dišraction peaks for the long lamellar structure and closed arrows indicate the 1st and 2nd order dišraction peaks for the short lamellar structure. になり,さらに 温 度 が 上 昇 するとともに 液 晶 に 近 づく そ れを 滑 らかに 結 んだものが Fig. 4b の 曲 線 C(32~56 C) である 同 じ 温 度 領 域 でラメラ 構 造 のピークは Fig. 4a の 曲 線 A である Fig. 4a の 曲 線 A と Fig. 4b の 曲 線 C つい て,を 計 算 すると,Table II( 表 の 説 明 中,liquid-crystalline-like structure 液 晶 様 構 造 )に 示 す 値 が 求 まる a 0 l c は3.026 3.065 nm 3 の 間 にありほぼ 一 定 の 値 なっており, ここに 曲 線 A と 曲 線 C が 対 応 していると 言 える このよ うに 定 量 的 な 解 析 を 行 なった 結 果, 長 周 期 ラメラ 構 造 の 炭 化 水 素 鎖 の 充 てんは 低 温 六 方 晶 であり, 短 周 期 ラメラ 構 造 の 炭 化 水 素 鎖 の 充 てん 格 子 は 斜 方 晶 であると 結 論 できる 前 に 示 した 電 子 線 回 折 実 験 において 電 子 線 ビーム 位 置 を 動 かし, 炭 化 水 素 鎖 の 充 てん 格 子 の 六 方 晶 と 斜 方 晶 の 領 域 の 測 定 をしているが,これはドメインの 存 在 を 示 唆 してい る X 線 回 折 実 験 で 回 折 ピークとして 観 測 されるために は 同 一 の 構 造 の 繰 り 返 しがあることを 意 味 する したがっ て, 角 層 中 の 細 胞 間 脂 質 はここで 得 られた 結 果 も 低 温 六 方 晶 の 炭 化 水 素 鎖 の 充 てん 格 子 をもつ 長 周 期 ラメラ 構 造 と 斜 方 晶 の 炭 化 水 素 鎖 の 充 てん 格 子 をもつ 短 周 期 ラメラ 構 造 の 2 つのドメインを 形 成 している 角 層 の 機 能 発 現 における 細 胞 間 脂 質 の 役 割 を 検 討 するに 当 たり,それぞれのドメイ ンの 役 割,また,ドメイン 間 の 相 互 作 用 に 着 目 して 分 子 レ ベルの 機 構 解 明 に 取 り 組 むことが 次 の 課 題 となる 3. 皮 膚 角 層 の 水 分 調 節 機 構 と 構 造 この 節 では 細 胞 間 脂 質 集 合 体 がつくるラメラ 構 造 による 小 角 X 線 回 折 像 の 精 密 な 解 析 により, 皮 膚 角 層 の 機 能 に おいて 重 要 な 保 湿 機 能 さらには 水 分 調 節 機 構 について 新 し く 提 案 した 結 果 について 紹 介 する これにおいてはラメラ 構 造 の 回 折 像 の 精 密 な 解 析 が 不 可 欠 であり, 輝 度 の 高 い 放 射 光 X 線 を 用 いた 実 験 によりはじめて 可 能 となった 角 層 の 役 割 として 保 湿 機 能 がある 健 康 な 皮 膚 において 角 層 中 には 約 20 wt の 水 分 が 蓄 えられており,そのほと んどは 角 層 細 胞 中 にあることは 知 られている(Fig. 1 を 参 照 ) 一 方, 角 層 へは 体 内 から 絶 えず 水 分 が 供 給 されてお り 角 層 表 面 から 外 界 へほぼ 5mgcm -2 h -1 の 割 合 で 水 分 が 蒸 散 している したがって, 角 層 中 の 約 20 wt の 水 分 は 供 給 排 出 を 繰 り 返 しの 定 常 状 態 にあり, 角 層 中 の 水 分 子 の 振 舞 は 非 平 衡 状 態 にあると 言 える 前 に 述 べた Bouwstra らの 長 周 期 ラメラ 構 造 が 皮 膚 のバリアー 機 能 において 重 要 な 働 きをしているという 主 張 とかれらの 長 周 期 ラメラ 構 造 の 周 期 は 水 分 量 に 依 らないということから, 細 胞 間 脂 質 中 には 水 分 が 無 いと 信 じている 研 究 者 が 多 い このような 状 況 下 にあって,われわれはヘアレスマウス 角 層 において 角 層 中 の 水 分 量 を 変 えて 小 角 X 線 回 折 実 験 を 行 った 9) 小 角 X 線 回 折 像 の 水 分 量 依 存 性 を Fig. 6 に 示 す 下 の 赤 線 で 示 放 射 光 Nov. 2008 Vol.21 No.6 301

Fig. 7 (a) Spacing obtained from the 2nd order dišraction peak for the long lamellar structure and spacing obtained from the 1st order dišraction peak for the short lamellar structure as a function of the water content. (b) Full widths at the half maximum for the 2nd order dišraction peak for the long lamellar structure and for the 1st order dišraction peak for the short lamellar structure as a function of the water content. す 像 A から 上 の 紫 線 で 示 す 像 G に 向 かって 角 層 中 の 水 分 量 が 増 加 している 白 抜 きの 矢 印 で 示 すピークが 周 期 13.6 nm -1 の 長 周 期 ラメラ 構 造 による X 線 回 折 ピークであって, 5 次 反 射 まで 観 測 されている 黒 色 の 矢 印 で 示 すピークが 周 期 約 6nmの 短 周 期 ラメラ 構 造 による X 線 回 折 ピークで あって,2 次 反 射 まで 観 測 されている 短 周 期 ラメラ 構 造 は 角 層 中 の 水 分 量 とともに 膨 潤 していることが 分 かる 散 乱 ベクトル0.15 0.17 nm -1 付 近 のピークを 2 つのローレ ンツ 関 数 で 表 し 解 析 した Fig. 7a は 長 周 期 ラメラ 構 造 (2 次 反 射 13.6/2=6.8 nm)と 短 周 期 ラメラ 構 造 (1 次 反 射 5.8 6.8 nm)の spacing の 皮 膚 角 層 中 の 水 分 量 依 存 性 を 示 す 長 周 期 ラメラ 構 造 の 周 期 は 不 変 であるのに 対 し, 短 周 期 ラメラ 構 造 の 周 期 は 水 分 量 とともにほぼ 直 線 的 に 膨 潤 し ていることが 分 かる すなわち, 短 周 期 ラメラ 構 造 の 脂 質 層 間 に 水 層 が 入 っており, 角 層 全 体 の 水 分 量 の 増 加 ととも に 水 層 の 厚 さが 増 加 していると 考 えられる(Fig. 3 参 照 ) Fig. 7b に 短 周 期 ラメラ 構 造 ( )と 長 周 期 ラメラ 構 造 ( ) の 小 角 X 線 回 折 像 の 半 値 幅 の 水 分 量 依 存 性 を 示 す この 結 果 は 短 周 期 ラメラ 構 造 の 小 角 X 線 回 折 像 の 半 値 幅 は 水 分 量 20~30 wt で 狭 くなり, 水 分 量 がそれより 少 なくて も 多 くても 半 値 幅 が 広 がることを 示 している( ) それ に 伴 い, 長 周 期 ラメラ 構 造 の 小 角 X 線 回 折 像 の 半 値 幅 も 水 分 量 20~30 wt で 狭 くなり, 水 分 量 がそれより 少 なく ても 多 くても 広 がる( ) われわれはこの 現 象 を 次 のよ うに 説 明 している 10) 角 層 中 にある 水 分 量 の20~30 wt の 水 のほとんどは 角 層 細 胞 の 中 にあるが, 少 量 の 水 が 細 胞 間 脂 質 をつくる 短 周 期 ラメラ 構 造 の 水 層 に 滲 みだしてい る 短 周 期 ラメラ 構 造 の 小 角 X 線 回 折 像 の 半 値 幅 は 角 層 中 の 水 分 量 が20~30 wt のときに 狭 くなることは,この 水 分 量 のときに 短 周 期 ラメラ 構 造 が 安 定 化 することを 意 味 している このとき 長 周 期 ラメラ 構 造 の 小 角 X 線 回 折 像 の 周 期 は 変 わらないが20~30 wt で 半 値 幅 は 最 も 狭 くな っており, 長 周 期 ラメラ 構 造 と 短 周 期 ラメラ 構 造 の 間 に 相 互 作 用 が 働 いており, 両 構 造 が 同 時 に 安 定 化 していること を 意 味 している その 相 互 作 用 は 角 層 中 の 水 分 量 が20~ 30 wt より 少 なくなっても 多 くなっても 水 分 量 を20~30 wt に 戻 すような 調 節 機 構 として 働 いているといえる したがって, 細 胞 間 脂 質 は 角 層 中 の 水 分 調 節 の 役 割 を 果 た している 短 周 期 ラメラ 構 造 の 膨 潤 現 象 も 細 胞 間 脂 質 の 基 本 的 な 性 質 であるが, 世 界 で 受 け 入 れられている 訳 ではない これ を 支 持 する 結 果 としては, 軽 水 に 代 わって 重 水 を 用 いたヒ ト 角 層 の 短 周 期 ラメラ 構 造 の 時 間 変 化 の 中 性 子 散 乱 実 験 の 報 告 がある 11) 中 性 子 散 乱 の 実 験 の 良 い 点 は 水 層 がある 短 周 期 ラメラ 構 造 を 際 出 せて 観 測 できる 点 にある Charalambopoulou ら 11) は 短 周 期 ラメラ 構 造 が 膨 潤 してい ることをあまり 強 調 していないが, 本 文 中 で 角 層 を 重 水 中 に 入 れたところ 時 間 とともに5.7から6.2 nm にわたって 周 期 が 長 くなると 述 べている 22 時 間 経 つと 短 周 期 ラメラ 構 造 による 回 折 ピークは 消 えるというデータを 示 している 2007 年 になって,Bouwstra はヒト 角 層 を 水 中 に 入 れて 短 周 期 ラメラ 構 造 の 時 間 変 化 を 測 定 したところ, 乾 燥 状 態 で は 周 期 は6.06 nm,3 時 間 後 には6.13 nm,20 時 間 後 には 6.26 nm になると 口 頭 で 発 表 している このように 短 周 期 ラメラ 構 造 は 観 測 し 難 いところがあるが, 角 層 と 水 の 関 係 においては 重 要 な 役 割 をしているという 認 識 は 高 まりつつ あることは 確 実 である X 線 構 造 解 析 の 結 果 から, 角 層 中 の 水 分 量 がほぼ20 wt 302 放 射 光 Nov. 2008 Vol.21 No.6

解 説 放 射 光 を 用 いた 皮 膚 角 層 の 構 造 研 究 基 礎 から 応 用 へ になるように 調 節 する 機 構 があることを 示 した これが 正 常 な 皮 膚 の 角 層 中 の 水 分 量 とほぼ 一 致 していることは 注 目 すべきことである 角 層 中 の 水 分 調 節 機 構 を 正 常 な 皮 膚 の 状 態 に 保 つことにおいて 重 要 な 役 割 を 果 たしていること の 分 子 レベルでの 機 構 を 示 唆 している 以 上 では 角 層 内 は 一 様 な 構 造 より 成 っているとして 扱 ってきたが,これは 議 論 のあるところである ここでは Warner らの 皮 膚 の 水 分 量 の 厚 さ 方 向 への 変 化 の 測 定 例 を 挙 げる 12) 角 層 中 では 真 皮 の 方 向 に 向 かって 水 分 量 は15 wt から40 wt へ 徐 々 に 増 加 している( 角 層 に 真 皮 側 から 水 分 が 供 給 され, 外 界 に 向 かって 蒸 散 して 定 常 に 保 たれていることから, 角 層 の 構 造 が 一 様 であっても 水 分 量 は 勾 配 をもち 角 層 中 の 深 さに 依 るはずである) 角 層 全 体 をならした 実 験 ではこの 平 均 値 を 測 定 していると 言 える 注 目 すべきことは 角 層 と 顆 粒 層 の 間 の 急 激 な 水 分 量 の 増 加 である 顆 粒 層 では 最 終 的 に は70 wt 程 度 にまで 達 する 顆 粒 層 中 で 細 胞 接 着 に 寄 与 している tight junction が 皮 膚 中 の 水 分 保 持 機 能 において 重 要 な 役 割 を 果 たしているとの 指 摘 があるが,これはまさ に 顆 粒 層 によって 体 内 と 角 層 の 水 分 量 の 大 きな 差 を 支 えて いることを 意 味 する したがって,tight junction に 異 常 があれば, 角 層 中 の 水 分 調 節 機 構 が 最 早 追 従 できなくな り, 水 の 角 層 表 面 からの 異 常 な 蒸 散 が 加 速 され, 体 内 の 水 が 急 激 に 失 われ, 終 には 死 に 至 ることになる 4. おわりに 以 上 のように 角 層 の 放 射 光 X 線 構 造 解 析 の 研 究 は 着 実 に 進 みつつあり,その 重 要 性 も 認 識 されつつある 応 用 へ の 展 開 もこれから 飛 躍 的 に 進 むと 期 待 される とくに, 化 粧 料 や 経 皮 吸 収 促 進 剤 の 効 果 を 角 層 の X 線 構 造 解 析 によ り 分 子 レベルで 解 明 することは 重 要 な 課 題 である 現 在, われわれはこれに 向 けての 研 究 に 取 り 組 んでいるところで ある ここで 述 べたように 細 胞 間 脂 質 のラメラ 構 造 には 長 周 期 ラメラ 構 造 と 短 周 期 ラメラ 構 造 があり, 炭 化 水 素 鎖 の 充 てん 格 子 には 六 方 晶 と 斜 方 晶 があって,これまで 着 目 さ れていなかったこれらの 構 造 それぞれへの 化 学 物 質 の 効 果 やそれぞれの 構 造 変 化 間 の 相 関 を 明 らかにすることへと 研 究 を 展 開 している また, 角 層 に 化 学 物 質 を 作 用 させたと きの 構 造 変 化 を 観 測 する 方 法 を 提 案 した 13) そのための 試 料 容 器 に 角 層 試 料 を 収 め, 試 料 が 動 かないように 保 ちな がら 目 的 の 溶 液 を 外 から 注 入 し, 試 料 の 周 りを 溶 液 で 満 た し, 溶 液 中 の 化 学 物 質 が 試 料 の 中 に 浸 透 させ,その 結 果 生 ずる 角 層 中 の 細 胞 間 脂 質 の 構 造 変 化 を X 線 回 折 像 の 時 間 変 化 の 高 分 解 能 観 測 で 行 なおうというものである 生 体 由 来 の 角 層 を 用 いる 実 験 における 大 きな 問 題 の 一 つは, 同 一 種 類 の 動 物 での 実 験 であっても 個 体 差 の 問 題 を 避 けて 通 る ことは 出 来 ないことである この 方 法 を 用 いることによっ て,その 問 題 を 回 避 できる また, 化 学 物 質 を 作 用 したと きの 微 少 変 化 の 観 測 も 大 きな 課 題 の 一 つであるが,これも 克 服 できる 前 者 は, 逐 次 に 変 化 する X 線 回 折 像 を 解 析 することにより, 化 学 物 質 の 作 用 による 構 造 の 微 小 変 化 に 個 体 差 による 大 小 の 差 があったとしても 個 体 に 依 らず 構 造 の 変 化 が 起 きるということは 検 出 できることよる 後 者 に ついては, 化 学 物 質 の 作 用 により 変 化 した 像 から 作 用 する 前 の 像 を 引 くことによる 強 度 差 に 着 目 することによって 回 折 像 の 微 妙 な 変 化 を 検 出 することができる さらに, 微 妙 な 構 造 変 化 が 検 出 可 能 になったことにより, 角 層 細 胞 中 の ソフトケラチンの 構 造 変 化 の 測 定 も 可 能 になった これら の 成 果 の 報 告 については 別 の 機 会 に 譲 る 謝 辞 本 研 究 を 進 めるに 当 たって, 坂 貞 徳 (メナード 化 粧 品 ), 井 上 勝 晶 (JASRI, 現 在,DIAMOND), 中 沢 寛 光 ( 関 学 ), 國 澤 直 美 ( 資 生 堂 ), 小 幡 誉 子 ( 星 薬 大 )の 皆 さんに は 大 変 お 世 話 になった ここに 謝 意 を 表 します ここで 紹 介 した 研 究 成 果 の 一 部 は 科 研 費 基 盤 研 究 (C)(15540397) で 行 なわれた この 分 野 の 放 射 光 利 用 研 究 の 推 進 に 当 たっ て,SPring-8 利 用 推 進 協 議 会 のご 支 援 に 感 謝 します 参 考 文 献 1) B. Forslind and M. Lindberg: Skin, Hair, and Nails (Marcel Dekker, New York, 2004). 2) G.S.K.Pilgram,A.M.Engelsma-vanPelt,J.A.Bouwstra andh.k.koerten:j.invest.dermatol.113, 403(1999). 3) J.A.Bouwstra,G.S.Gooris,J.A.vanderSpekandW. Bras: J. Invest. Dermatol. 97, 1005(1991). 4) J. A. Bouwstra, F. E. R. Dubbelaar, G. S. Gooris and M. Ponec: Acta Derm. Venereol. Supp. 208, 23(2000). 5) S. Y. E. Hou, A. K. Mitra, S. H. White, G. K. Menon, R. Ghadially and P. M. Elais: J. Invest. Dermatol. 96, 215 (1991). 6) I. Hatta, K. Nakanishi and K. Ishikiriyama: Thermochim. Acta 431, 94(2005). 7) I. Hatta, N. Ohta, K. Inoue and N. Yagi: Biochim. Biophys. Acta 1758, 1830 (2006). 8) J. Israelachvili: Intermolecular & Surface Forces, 2nd edition (Academic Press, London, 1991). 9) N. Ohta, S. Ban, H. Tanaka, S. Nakata and I. Hatta: Chem. Phys. Lipids 123, 1(2003). 10) I. Hatta and N. Ohta: Photon Factory Activity Report 2003 Part A, Highlights 49 (2004). 11) G. Ch. Charalambopoulou, Th. A. Steriotis, Th. Hauss, A. K. Stubos and N. K. Kanellopoulos: Physica B 350, e603 (2004). 12) R.R.Warner,M.C.MyersandD.A.Taylor:J.Invest.Dermatol. 90, 218(1988). 13) 八 田 一 郎, 涌 井 義 一 特 願 2006-269164. 放 射 光 Nov. 2008 Vol.21 No.6 303

著 者 紹 介 八 田 一 郎 財 団 法 人 高 輝 度 光 科 学 研 究 センター 産 業 利 用 推 進 室 コーディネーター E-mail: hatta@spring8.or.jp 専 門 生 物 物 理 学 [ 略 歴 ] 1967 年 東 京 工 業 大 学 大 学 院 理 工 学 研 究 科 博 士 課 程 修 了 ( 物 理 学 専 攻 ) 理 学 博 士 東 京 工 業 大 学 理 学 部 物 理 学 科 助 手, 名 古 屋 大 学 工 学 部 応 用 物 理 学 科 助 教 授, 名 古 屋 大 学 工 学 部 応 用 物 理 学 科 教 授,2002 年 4 月 名 古 屋 大 学 名 誉 教 授, 福 井 工 業 大 学 工 学 部 教 授 を 経 て,2006 年 8 月 よ り 現 職 八 木 直 人 財 団 法 人 高 輝 度 光 科 学 研 究 センター 利 用 研 究 促 進 部 門 副 部 門 長 E-mail: yagi@spring8.or.jp 専 門 非 結 晶 X 線 回 折 [ 略 歴 ] 1975 年 東 京 大 学 物 理 工 学 科 卒 業,1980 年 東 北 大 学 医 学 部 助 手,1982 年 医 学 博 士,1990 年 東 北 大 学 医 学 部 講 師,1997 年 財 団 法 人 高 輝 度 光 科 学 研 究 センター 主 席 研 究 員,2007 年 より 現 職 太 田 昇 財 団 法 人 高 輝 度 光 科 学 研 究 センター 利 用 研 究 促 進 部 門 研 究 員 E-mail: noboru_o@spring8.or.jp 専 門 X 線 回 折 [ 略 歴 ] 2003 年 3 月 名 古 屋 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程 修 了,2003 年 4 月 財 団 法 人 高 輝 度 光 科 学 研 究 センター 協 力 研 究 員,2008 年 9 月 より 現 職 Synchrotron X-ray scattering study on stratum corneum of skin: Toward applied research based upon basic research Ichiro HATTA Noboru OHTA Naoto YAGI Japan Synchrotron Radiation Research Institute/SPring-8 1 1 1 Kouto, Sayo, Hyogo 679 5198, Japan Japan Synchrotron Radiation Research Institute/SPring-8 1 1 1 Kouto, Sayo, Hyogo 679 5198, Japan Japan Synchrotron Radiation Research Institute/SPring-8 1 1 1 Kouto, Sayo, Hyogo 679 5198, Japan Abstract On considering the applied research on stratum corneum of skin, it is indispensable to know the structure at the molecular level. However, there is even now in a controversy among the researchers who are performing its X-ray scattering study. Here we introduce our solution for the two problems: One is the correlation between the lamellar structures and hydrocarbon-chain packings in intercellular lipid matrix and the other is the existence of water layers in the short lamellar structure. These studies have become possible for the ˆrst time by making good use of synchrotron small-angle/wide-angle X-ray dišraction. Based upon the structural evidence, we can further carry out the applied research in stratum corneum. 304 放 射 光 Nov. 2008 Vol.21 No.6