3. 早 期 発 見 と 早 期 対 応 のポイント 抗 がん 剤 の 治 療 が 始 まったら 自 分 の 手 や 足 をよく 観 察 してくだ さい 手 足 症 候 群 の 初 期 症 状 に 気 づいたら できるだけその 部 位 に 刺 激 を 与 えず 安 静 を 保 つようにして すぐに 担 当 医 に 相 談 してく ださい 手 足 症 候 群 は 症 状 が 軽 い 初 期 段 階 のうちに 対 処 すれば 良 く なる 副 作 用 です 長 時 間 または 繰 り 返 し 同 じ 部 位 に 圧 力 がかからな いようにすることも 予 防 に 役 立 ちます 手 足 症 候 群 の 予 防 悪 化 防 止 のために 以 下 のことに 心 がけてください 長 時 間 の 歩 行 や 立 ち 続 けることを 避 けて 足 に 力 がなるべくかからないようにします 靴 は 柔 らかい 材 質 で 足 にあったものを 履 くようにします 厚 めの 靴 下 やジェル 状 の 靴 の 中 敷 を 使 用 して 足 を 保 護 します きつい 靴 下 をはかないようにします 手 足 に 保 湿 クリームを 塗 り 爪 の 手 入 れをします 熱 い 風 呂 やシャワーを 控 えてください 直 射 日 光 にあたらないようにします 8
担 当 医 は 重 症 度 (グレード)により 治 療 の 継 続 薬 の 減 量 休 薬 中 止 治 療 再 開 の 時 期 などを 決 定 します 手 足 症 候 群 は 適 切 な 処 置 により 良 くなることがわかっています また 手 足 症 候 群 によって 一 時 的 に 薬 を 休 んでもがんの 治 療 効 果 には 差 がないという 報 告 があります 薬 は 勝 手 に 中 止 せず 必 ず 主 治 医 に 相 談 してください この 時 には 痛 みの 有 無 や 程 度 日 常 生 活 に 支 障 を 来 しているか どうか いつ 頃 から 症 状 があったか などの 情 報 を 担 当 医 に 伝 えてください 症 状 によっては 担 当 医 は 皮 膚 科 の 医 師 に 紹 介 する 場 合 もあります 医 薬 品 の 販 売 名 添 付 文 書 の 内 容 等 を 知 りたい 時 は 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 の 医 薬 品 医 療 機 器 情 報 提 供 ホームページの 添 付 文 書 情 報 から 検 索 するこ とが 出 来 ます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬 の 副 作 用 により 被 害 を 受 けた 方 への 救 済 制 度 については 独 立 行 政 法 人 医 薬 品 医 療 機 器 総 合 機 構 のホームページの 健 康 被 害 救 済 制 度 に 掲 載 されていま す (http://www.pmda.go.jp/index.html) 9
参 考 手 足 症 候 群 の 重 症 度 をグレードとして 区 分 し 処 置 法 の 基 準 に 利 用 します グレード 1 は 最 も 程 度 が 軽 いもので グレード 3 は 重 いものです グレード 症 状 1 日 常 生 活 に 支 障 を 来 していない しびれ 物 に 触 れた 時 の 不 快 な 感 覚 軽 い 焼 けるような またはチクチク 刺 すような 感 覚 ピリピリするような 感 覚 痛 みを 伴 わない 腫 は れ 痛 みを 伴 わない 赤 み 爪 の 変 形 2 痛 みを 伴 い 日 常 生 活 に 制 限 を 来 す 痛 みを 伴 う 赤 み 痛 みを 伴 う 腫 れ かくか 皮 膚 の 角 化 ( 皮 膚 表 面 が 硬 く 厚 くなってガサガサす る 状 態 )とひびわれ 爪 の 強 い 変 形 脱 落 3 強 い 痛 みがあり 日 常 生 活 ができない 水 ぶくれ かくか 高 度 な 皮 膚 の 角 化 ( 皮 膚 表 面 が 硬 く 厚 くなってガサ ガサする 状 態 )とひびわれ 手 または 足 の 激 しい 痛 み かいよう 皮 膚 の 潰 瘍 10
B. 医 療 関 係 者 の 皆 様 へ はじめに:このマニュアルの 使 い 方 手 足 症 候 群 は フッ 化 ピリミジン 系 薬 剤 の 副 作 用 として 従 来 よ り 知 られていたが 色 素 沈 着 など 比 較 的 軽 度 のものがほとんどであっ たこともあり 重 篤 な 有 害 事 象 となるという 認 識 が 少 なかった 1) しか し 近 年 新 たに 承 認 された カペシタビンやキナーゼ 阻 害 薬 では 手 足 症 候 群 の 発 現 頻 度 が 高 いばかりでなく 時 として 日 常 生 活 に 障 害 を 来 すほどの 重 篤 な 臨 床 像 を 呈 することが 明 らかになっている 2),3),4) 手 足 症 候 群 は 休 薬 などの 処 置 によりすみやかに 軽 快 することがわか っており 重 篤 化 を 防 ぐには 早 期 診 断 と 適 切 な 初 期 対 処 が 重 要 である しかし キナーゼ 阻 害 薬 による 手 足 症 候 群 では 従 来 広 く 知 られていた フッ 化 ピリミジン 系 薬 剤 による 手 足 症 候 群 とは 皮 膚 症 状 が 異 なるた め 見 逃 さないよう 注 意 が 必 要 である 本 マニュアルにおいては 薬 剤 による 皮 膚 所 見 の 違 いが 理 解 しやす いように 写 真 を 配 置 するとともに 休 薬 減 量 基 準 も 薬 剤 別 に 記 載 し た 11
1. 早 期 発 見 と 早 期 対 応 のポイント (1) 早 期 に 認 められる 症 状 手 足 症 候 群 の 好 発 部 位 は 手 や 足 で 反 復 した 物 理 的 刺 激 が 起 こる 場 所 であ る 早 期 発 見 のポイントは 手 足 の 感 覚 の 異 常 発 赤 の 有 無 を 頻 繁 に 確 認 し 初 期 症 状 を 見 過 ごさないことである 進 行 すると 疼 痛 を 伴 う 浮 腫 や 過 角 化 による 皮 膚 の 肥 厚 水 疱 亀 裂 潰 瘍 落 屑 などが 出 現 し 休 薬 を 余 儀 なくさ れる 5),6) 疼 痛 は 熱 傷 のような 痛 み と 表 現 されることが 多 く 日 常 生 活 に 支 障 を 来 すようになる 1)フッ 化 ピリミジン 系 薬 剤 による 手 足 症 候 群 の 早 期 症 状 発 症 早 期 には しびれ チクチクまたはピリピリするような 感 覚 の 異 常 が 認 められる この 時 期 には 視 診 では 手 足 の 皮 膚 に 視 覚 的 な 変 化 を 伴 わな い 可 能 性 がある 最 初 にみられる 皮 膚 の 変 化 は 比 較 的 びまん 性 の 発 赤 ( 紅 斑 )である 少 し 進 行 すると 皮 膚 表 面 に 光 沢 が 生 じ 指 紋 が 消 失 する 傾 向 がみられるようになると 次 第 に 疼 痛 を 訴 えるようになる 2)キナーゼ 阻 害 薬 による 手 足 症 候 群 の 初 期 症 状 限 局 性 の 紅 斑 で 始 まることが 多 く 通 常 疼 痛 を 伴 う フッ 化 ピリミジ ン 系 薬 剤 による 手 足 症 候 群 と 初 期 皮 膚 所 見 が 異 なる 場 合 があるので 注 意 を 要 する(2. 副 作 用 の 概 要 と 診 断 法 の 項 参 照 ) 12
(2) 副 作 用 の 好 発 時 期 1)カペシタビンにおける 発 現 時 期 A 法 (3 週 間 投 与 1 週 間 休 薬 1,650mg/m2/ 日 )における 初 発 時 期 を 図 3に 示 す ほとんどの 症 例 が 投 与 12 週 までに 発 現 していた 3)キナーゼ 阻 害 薬 における 発 現 時 期 1ソラフェニブでは 投 与 開 始 から3 週 までに 発 現 すること が 多 くほとんどが9 週 までに 発 現 していた ( 図 6) 図 3 カペシタビン 投 与 後 の 初 発 時 期 (N=1051) 乳 がん 使 用 成 績 調 査 ( 中 外 製 薬 社 内 資 料 ) B 法 (2 週 間 投 与 1 週 間 休 薬 2,500mg/m2/ 日 )における 初 発 時 期 を 図 4に 示 す ほとんどの 症 例 が 投 与 9 週 までに 発 現 していた 図 6 ソラフェニブ 投 与 後 の 初 発 時 期 (N=131) 腎 細 胞 がん 国 内 第 Ⅱ 相 試 験 ( 適 正 使 用 ガイドより 一 部 改 編 ) 2スニチニブにおいても 投 与 12 週 までに 発 現 する 傾 向 を 示 したが それ 以 降 の 発 症 例 もみられた( 図 7, 図 8) 図 4 カペシタビン 投 与 後 の 初 発 時 期 (N=95) 乳 がん 大 腸 がん 国 内 第 Ⅱ 相 試 験 ( 中 外 製 薬 社 内 資 料 ) 2)ドキソルビシンリポソーム 注 射 剤 に おける 発 現 時 期 リポソーム 注 射 剤 では 投 与 開 始 後 8 週 までに ほとんどが 発 現 していた( 図 5) 図 7 スニチニブ 投 与 後 の 初 発 時 期 (N=30) GIST 国 内 第 Ⅰ/Ⅱ 相 試 験 (ファイザー 社 内 資 料 ) 図 5 ドキソルビシンリポソーム 注 射 剤 投 与 後 の 初 発 時 期 (N=74) 卵 巣 がん 国 内 第 Ⅱ 相 試 験 (ヤンセンファーマ 社 内 資 料 ) 図 8 スニチニブ 投 与 後 の 初 発 時 期 (N=51) 腎 細 胞 がん 国 内 第 Ⅱ 相 試 験 (ファイザー 社 内 資 料 ) 13
(3) 患 者 側 のリスク 因 子 フルオロウラシル 系 抗 がん 剤 による 手 足 症 候 群 は 女 性 高 齢 者 に 多 いこ とが 報 告 されている カペシタビンについては 高 齢 者 貧 血 腎 機 能 障 害 のある 患 者 にグレード 2 以 上 の 手 足 症 候 群 が 起 こることが 多 いと 報 告 さ れている 7) また 一 般 的 に 手 足 の 中 でも 物 理 的 刺 激 のかかるところに 発 現 しやすいことが 知 られている (4) 原 因 となる 医 薬 品 と 頻 度 手 足 症 候 群 の 原 因 薬 として 報 告 されている 主 な 医 薬 品 とその 出 現 頻 度 を 示 す( 表 1) この 他 テガフール ウラシル ドキシフルリジン カルモフ ールではカペシタビンによる 手 足 症 候 群 と 同 様 の 皮 膚 症 状 が 生 じるが や や 軽 症 の 傾 向 がある 表 1 薬 剤 n 全 グレード グレード 3 以 上 治 療 対 象 疾 患 フッ 化 ピリミジン 系 a) カペシタビン A 法 187 51.9% 11.8% b) カペシタビン B 法 95 76.8% 13.7% 乳 がん 胃 がん 結 腸 直 腸 がん 乳 がん 胃 がん 結 腸 直 腸 がん テガフール ギメラシル オテラシルカリウム 8) 55 21.8% 0% 乳 がん フルオロウラシル c) 頻 度 など 詳 細 不 明 テガフール ウラシル キナーゼ 阻 害 薬 その 他 頻 度 など 詳 細 不 明 ソラフェニブ 131 55.0% 9.2% 腎 細 胞 がん スニチニブ 81 65.4% 21.0% 腎 細 胞 がん GIST ドキソルビシン リポソーム 注 射 剤 74 78.4% 16.2% 卵 巣 がん ドセタキセル 3093 0.09% 不 明 a)3 週 間 投 与 1 週 間 休 薬 (1,650mg/m2/ 日 ) b)2 週 間 投 与 1 週 間 休 薬 (2,500mg/m2/ 日 ) c)フルオロウラシルと 併 用 するベバシズマブ レボホリナートカルシウム オキサリプラチン などの 添 付 文 書 にも 手 足 症 候 群 の 記 載 がある 14
(5) 医 療 関 係 者 の 対 応 のポイント 1) 日 常 生 活 の 指 導 手 足 症 候 群 は 休 薬 により 軽 快 することをあらかじめ 説 明 しておく また 手 や 足 で 圧 力 がかかる 部 分 に 起 こりやすいことが 知 られているの で 物 理 的 刺 激 が 生 じやすい 部 位 を 問 診 などにより 確 かめ 長 時 間 また は 反 復 して 同 じ 部 位 に 刺 激 がかからないように 指 導 する 表 2 に 発 症 や 増 悪 の 予 防 法 としての 具 体 例 を 挙 げる 9) 10) 表 2 締 め 付 けの 強 い 靴 下 を 着 用 しない 足 にあった 柔 らかい 靴 を 履 く 1 物 理 的 刺 激 を 避 ける エアロビクス 長 時 間 歩 行 ジョギングなどの 禁 止 包 丁 の 使 用 ぞうきん 絞 りを 控 える 炊 事 水 仕 事 の 際 にはゴム 手 袋 等 を 用 いて 洗 剤 類 にじかに 触 れないようにする 2 熱 刺 激 を 避 ける 熱 い 風 呂 やシャワーを 控 える 保 湿 剤 を 塗 布 する 3 皮 膚 の 保 護 木 綿 の 厚 めの 靴 下 を 履 く 柔 らかい 靴 の 中 敷 を 使 用 する 42 次 感 染 予 防 5 直 射 日 光 にあたら ないようにする 清 潔 を 心 がける 外 出 時 には 日 傘 帽 子 手 袋 を 使 用 する 露 出 部 分 にはサンスクリーン 剤 を 使 用 する 2)フットケア スキンケア 抗 がん 剤 による 治 療 前 の 爪 の 手 入 れや 角 質 肥 厚 部 の 処 置 を 推 奨 する 意 見 もある 15
2. 副 作 用 の 概 要 と 診 断 法 (1) 自 覚 症 状 手 足 に 起 こる しびれ 皮 膚 知 覚 過 敏 ヒリヒリ チクチクといった 感 覚 異 常 無 痛 性 腫 脹 無 痛 性 紅 斑 色 素 沈 着 が 初 発 症 状 となる 進 行 する と 疼 痛 を 伴 う 発 赤 腫 脹 潰 瘍 やびらんが 生 じ 歩 行 困 難 や 把 握 困 難 など の 機 能 障 害 を 生 じる (2) 皮 膚 所 見 1) 概 念 抗 がん 剤 によって 手 と 足 に 好 発 する 病 変 で とくに 手 掌 足 底 に 紅 斑 腫 脹 過 角 化 色 素 沈 着 などを 生 じることを 特 徴 とする しばしば 同 部 に 知 覚 異 常 や 疼 痛 を 訴 える また 爪 甲 の 変 化 を 伴 うこともある 抗 がん 剤 による 表 皮 細 胞 への 直 接 的 間 接 的 障 害 に 外 的 な 機 械 的 刺 激 が 加 わって 発 症 増 悪 する 病 態 と 考 えられる 2) 所 見 以 下 の1~4の 皮 膚 所 見 が 単 独 あるいは 混 在 して 認 められる フッ 化 ピ リミジン 系 の 薬 剤 による 手 足 症 候 群 では まず1 2が 出 現 し 次 いで3 4を 生 じてくることが 多 い しばしば 爪 の 症 状 や 知 覚 の 異 常 を 伴 う キナ ーゼ 阻 害 薬 による 手 足 症 候 群 は 限 局 性 のことが 多 く 発 赤 過 角 化 知 覚 の 異 常 疼 痛 に 始 まり 水 疱 の 形 成 へと 進 展 する 重 症 度 は 症 状 と 皮 膚 所 見 および 日 常 生 活 制 限 の 程 度 により 判 定 する(2.(3)グレード 判 定 基 準 参 照 ) 16