ドイツの 先 行 事 例 に 学 ぶ 創 発 戦 略 センター マネジャー 松 井 英 章 目 次 1. 電 力 自 由 化 の 先 行 事 例 としてのドイツの 市 場 状 況 2.シュタットベルケの 存 在 価 値 (1)シュタットベルケとは (2)シュタットベルケの 強 み (3) 市 民 からの 支 持 3. 日 本 の 電 力 自 由 化 にあたって 求 められる 地 域 に 貢 献 できるエネルギー 事 業 (1) 日 本 の 電 力 自 由 化 で 求 められる 地 域 密 着 型 のエネルギーサービス 貢 献 (2) 日 本 における 地 域 エネルギー 事 業 の 普 及 のために 4.おわりに 20 J R Iレビュー 2013 Vol.9, No.10
要 約 1. 日 本 では 2016 年 に 電 力 の 小 売 り 全 面 自 由 化 が 予 定 されているが どのような 発 電 事 業 者 が 市 場 で 生 き 残 り どのような 市 場 が 構 成 されるかは 十 分 に 認 識 されていない 先 行 事 例 として1998 年 に 全 面 自 由 化 に 踏 み 切 ったドイツを 見 ると 自 由 化 後 100 社 を 超 える 新 規 事 業 者 が 生 まれたが 既 存 大 手 電 力 会 社 の 対 抗 策 により 新 規 事 業 者 の 倒 産 が 相 次 ぎ 大 手 電 力 会 社 による 寡 占 化 が 進 んだ しかしな がら 当 初 自 由 化 によって 激 減 すると 予 測 された 地 元 の 電 力 会 社 シュタットベルケは 多 くが 生 き 残 り 現 在 でも 電 力 小 売 の2 割 強 以 上 のシェアを 保 っている その 背 景 として 規 模 の 経 済 が 働 くと 考 えられがちな 電 力 事 業 で コストだけでは 充 足 できない 需 要 家 のニーズの 存 在 が 推 察 される 2.シュタットベルケとは 19 世 紀 後 半 以 降 水 道 交 通 やガス 供 給 電 力 事 業 ( 発 電 配 電 小 売 ) など 個 人 民 間 では 手 当 てできない 市 内 のインフラ 整 備 運 営 を 行 うために 発 達 してきた 公 的 な 事 業 体 である ドイツ 全 体 で900 程 度 のシュタットベルケが 存 在 する 電 力 が 自 由 化 されるとシュタッ トベルケは 劣 勢 になると 予 測 されたなかで 踏 みとどまれたのは 配 電 線 や 熱 配 管 インフラ 活 用 が 可 能 という 事 業 環 境 の 下 地 域 密 着 のサービスと 一 定 以 上 のコスト 競 争 力 を 持 っていたからである さら に シュタットベルケは 地 域 資 源 の 活 用 地 域 雇 用 の 創 出 という 点 で 地 域 に 貢 献 し 市 民 から のロイヤリティを 獲 得 してきた 3. 日 本 の 電 力 自 由 化 においても 他 国 の 事 例 でニーズが 確 認 された 需 要 家 に 密 着 したエネルギーサー ビスを 普 及 すべく その 環 境 整 備 を 図 っていくべきである 需 要 家 に 密 着 したエネルギーサービスを 提 供 する 地 域 エネルギー 事 業 の 育 成 は 疲 弊 した 日 本 の 地 域 経 済 の 底 上 げにも 貢 献 することが 期 待 で きる ただし 現 状 日 本 には 地 域 インフラ 企 業 は 存 在 しないため 1 自 治 体 関 与 による 地 域 事 業 者 の 育 成 支 援 2 地 域 事 業 を 推 進 できるための 規 制 緩 和 3インフラ 整 備 の 支 援 といった 条 件 整 備 が 求 められる J R Iレビュー 2013 Vol.9, No.10 21
1. 電 力 自 由 化 の 先 行 事 例 としてのドイツの 市 場 状 況 日 本 では 2016 年 に 電 力 の 小 売 り 全 面 自 由 化 が 予 定 されている 電 力 会 社 の 発 電 部 門 に 新 規 参 入 者 が 加 わり 全 国 大 の 競 争 が 展 開 されることで 発 電 コストが 低 減 され 電 気 料 金 が 抑 制 されることが 期 待 され る しかし そうした 市 場 でどのような 発 電 事 業 者 が 生 き 残 り どのような 市 場 が 構 成 されるかは 十 分 に 認 識 されていない EUは2007 年 に 電 力 自 由 化 に 踏 み 切 ったが それに 先 立 つ1998 年 に 全 面 自 由 化 に 踏 み 切 ったのがドイツである ドイツでは 自 由 化 前 発 送 配 電 小 売 を 一 貫 で 担 う8 大 電 力 会 社 と 地 域 の 発 電 配 電 小 売 を 担 う 市 が 出 資 する 地 域 インフラサービス 会 社 (シュタットベルケ)が 電 力 を 供 給 していた 自 由 化 により 電 力 小 売 を 中 心 に 100 社 を 超 える 新 規 事 業 者 が 生 まれた それに 対 して 既 存 電 力 会 社 は 高 めの 託 送 料 金 を 設 定 する 一 方 で 設 備 投 資 を 抑 えてコスト 圧 縮 を 図 り 体 力 にまかせて 小 売 価 格 を 低 く 設 定 すること で 迎 え 撃 った その 結 果 新 規 事 業 者 の 倒 産 が 相 次 ぎ 大 手 電 力 会 社 による 寡 占 化 が 進 んだ 大 手 電 力 会 社 の 側 でも 統 合 が 進 み 発 送 配 電 小 売 を 一 貫 で 担 う 大 手 電 力 会 社 は4 社 に 集 約 され 4 大 電 力 によ る 小 売 のシェアは 自 由 化 前 の50% 強 から70% 強 へと 高 まった こうした 状 況 を 踏 まえ 政 府 は2005 年 に 高 価 格 の 託 送 料 金 を 是 正 するために 送 配 電 料 金 の 認 可 制 を 導 入 した さらに 2009 年 には 一 層 の 公 平 性 を 担 保 するために 送 電 会 社 の 法 的 分 離 を 行 ったが 大 電 力 会 社 が 圧 倒 的 なシェアを 確 保 する 市 場 情 勢 は 変 わっていない このように ドイツの 自 由 化 は 新 規 参 入 の 活 性 化 という 意 味 では 大 きな 成 果 は 上 げられなか った 価 格 抑 制 低 減 という 面 でも 成 果 は 芳 しく ない 自 由 化 してから2 年 間 は 価 格 競 争 により 産 業 用 で40% 程 度 家 庭 用 で20% 程 度 の 電 気 料 金 が 低 下 したが その 後 は 新 規 事 業 者 の 撤 退 に 伴 っ て 価 格 競 争 が 落 ち 着 くと 共 に 設 備 投 資 抑 制 に 伴 う 予 備 力 の 低 下 で 電 力 市 場 は 買 い 手 側 に 不 利 な 市 場 となった これに 1 次 エネルギーの 高 騰 CO2 排 出 権 取 引 価 格 の 上 昇 再 エネ 政 策 に 伴 う 価 格 転 嫁 などの 外 部 要 因 が 加 わり 近 年 小 売 価 格 は 大 きく 上 昇 している( 図 表 1) ただし 大 手 事 業 者 が 支 配 する 市 場 構 造 は ドイツ 政 府 が 望 んだとの 指 摘 もある( 注 1) 電 力 会 社 の 規 模 が 拡 大 することで 各 社 の 燃 料 調 達 量 が 増 え ロシア ノルウェー オランダ 等 の 大 規 模 ガス 供 給 事 業 者 との 交 渉 が 優 位 に 進 められると 考 えたからである しかしながら ドイツの 自 由 化 で 大 手 事 業 者 だけが 市 場 を 掌 握 したわけではない 当 初 自 由 化 によ って 激 減 すると 予 測 された 地 元 の 電 力 会 社 シュタットベルケは 多 くが 生 き 残 り 出 資 比 率 の 低 い 関 係 会 社 分 も 含 めると 現 在 でも 電 力 小 売 の2 割 強 以 上 のシェアを 保 っている ドイツの 小 売 電 力 市 場 では 低 価 格 を 売 りに 新 規 参 入 者 が 多 数 登 場 した2000 年 でも 電 力 購 入 先 を 変 えた 需 要 家 の 割 合 が 産 業 用 41% 家 庭 用 5%と 同 じく1990 年 代 後 半 に 全 面 自 由 化 を 開 始 したイギリスの 産 業 用 50% 超 家 庭 用 50 22 J R Iレビュー 2013 Vol.9, No.10
% 超 に 比 べて 低 かった( 注 2) とく に 家 庭 部 門 での 低 さが 注 目 される 加 えて ドイツ 電 気 協 会 が2004 年 6 月 に 発 表 した 電 話 調 査 では 家 庭 需 要 家 の96%が 地 元 電 気 事 業 者 を 信 頼 してい ることが 明 らかとなり ドイツの 家 庭 の 変 更 率 の 低 さを 裏 付 けられた( 図 表 2 ) このように 欧 州 で 大 手 電 力 会 社 の 勢 力 が 最 も 拡 大 した 市 場 のなかにあっ ても シュタットベルケは 地 元 の 需 要 家 に 選 ばれ 続 け 勢 力 を 維 持 してきた これは 規 模 の 経 済 が 働 くと 考 えられがちな 電 力 事 業 で コストだけでは 充 足 できない 需 要 家 のニーズがあり 得 ることを 示 唆 し ている 本 稿 では こうしたシュタットベルケの 強 みの 源 泉 やコスト 要 因 以 外 の 需 要 家 ニーズについて 分 析 してみたい ( 注 1)Brunekreeft and Twelemann Regulation, competition and investment in the German electricity market ( 注 2) 阿 部 純 競 争 環 境 への 適 合 と 戦 略 の 変 遷 自 由 化 後 のドイツ 電 力 市 場 を 事 例 として 学 習 院 大 学 経 済 論 集 第 43 巻 第 2 号 (2006 年 7 月 ) 2.シュタットベルケの 存 在 価 値 (1)シュタットベルケとは シュタットベルケとは 19 世 紀 後 半 以 降 水 道 交 通 やガス 供 給 電 力 事 業 ( 発 電 配 電 小 売 )な ど 個 人 民 間 では 手 当 てできない 市 内 のインフラ 整 備 運 営 を 行 うために 発 達 してきた 公 的 な 事 業 体 である 初 めから 市 がインフラサービス 会 社 を 設 立 し 事 業 を 拡 大 していったケースもあれば 当 初 は 民 間 事 業 者 が 営 んでいたインフラ 事 業 を 市 が 事 業 継 続 拡 大 のために 買 い 取 ったケースもある また 複 数 の 事 業 会 社 を 吸 収 合 併 するなどして 総 合 的 な 生 活 インフラサービス 会 社 として 発 展 した 場 合 もある 発 展 の 経 緯 は 各 地 で 異 なるが 現 在 でもドイツ 全 体 で900 程 度 のシュタットベルケが 存 在 する 電 力 熱 ガス 交 通 通 信 水 道 公 共 施 設 管 理 といった 複 数 の 事 業 を 手 がける 大 手 のものから 水 道 事 業 だけを 手 がける 小 規 模 のものまで 様 々な 事 業 形 態 がある 出 資 構 成 で 見 ても 市 が100% 出 資 するケー スから 民 間 企 業 が 一 部 出 資 しているケースまでバリエーションがある 事 業 運 営 の 仕 方 をみると 民 間 企 業 の 出 資 を 受 けたシュタットベルケ1 社 がすべての 事 業 を 運 営 するケースと シュタットベルケがホ ールディングカンパニーとなり 子 会 社 が 民 間 企 業 や 近 隣 のシュタットベルケなどからの 出 資 を 受 けて 各 事 業 の 運 営 をするケースがある( 図 表 3) 電 力 事 業 については 1 社 もしくはグループとして 発 電 配 電 小 売 事 業 すべてを 営 む 方 式 と 1 社 で 発 電 配 電 小 売 のいずれかを 営 む 方 式 がある ミュンヘン ケルンなど 大 都 市 のシュタットベルケ では 前 者 のケースが 見 受 けられるが 小 規 模 市 のシュタットベルケでは 後 者 のケースが 多 い 制 度 面 で は 小 売 顧 客 が10 万 以 下 の 場 合 は 同 一 会 社 が 発 電 配 電 小 売 を 実 施 してもよいが 顧 客 数 がそれ 以 J R Iレビュー 2013 Vol.9, No.10 23
上 の 場 合 は 配 電 部 門 を 分 社 化 することが 義 務 付 けられている そのため 大 手 のシュタットベルケでは 配 電 部 門 を 分 離 し 配 電 子 会 社 として 所 有 する 場 合 が 多 い (2)シュタットベルケの 強 み 電 力 が 自 由 化 されるとシュタットベルケは 劣 勢 になると 予 測 されたなかで 踏 みとどまれたのは 地 域 に 密 着 したサービスと 一 定 以 上 のコスト 競 争 力 を 持 っていたからである ドイツには こうした 強 み を 発 揮 できる 事 業 環 境 があった 点 も 見 逃 せない 地 域 密 着 のサービスとしては 需 要 家 との 近 接 さを 活 かし 単 なる 電 力 供 給 に 留 まらない 需 要 家 サー ビスを 提 供 している 事 例 がある 例 えば Duisburg 市 のStadtwerke Duisburg AGは 家 庭 にコンサル タントを 派 遣 してエネルギー 消 費 診 断 を 行 う サーモグラフィーを 活 用 した 断 熱 性 評 価 を 行 う などの サービスを 提 供 している また Manheim 市 のMVV Energieは 家 内 の 電 気 配 線 であっても 障 害 が 発 生 したら 技 術 者 を 派 遣 する 停 電 によって 冷 凍 庫 内 の 食 品 が 損 傷 を 受 けた 場 合 には 損 失 額 の 補 填 を 訴 求 できる など 信 頼 感 や 安 心 感 を 高 めるためのサービスを 打 ち 出 している 次 に シュタットベルケのコスト 競 争 力 については 以 下 の 四 つの 要 因 が 考 えられる 1 点 目 は 市 場 調 達 である ドイツでは 卸 売 市 場 が 充 実 しているため シュタットベルケは 市 場 からコスト 競 争 力 のある 電 力 を 調 達 することできる ドイツの 市 場 取 引 を 通 した 販 売 電 力 量 の 全 電 力 消 費 量 に 占 めるシェアは14%であり 6%のフランス 2%のイギリス 0.2%の 日 本 よりも 遥 かに 高 い( 注 3) そうした 市 場 環 境 のなかで シュタットベルケは 自 身 の 持 つ 電 源 による 電 力 の 単 価 と 卸 売 市 場 の 取 引 額 を 比 較 したうえで 需 要 との バランスを 見 ながら 最 適 調 達 を 行 うことができる さらに 他 のシュタットベルケと 連 携 し 電 力 の 共 同 調 達 を 行 うことで 一 層 の 調 達 コスト 削 減 を 図 ることも 可 能 だ 2 点 目 は 熱 事 業 である 24 J R Iレビュー 2013 Vol.9, No.10
熱 事 業 ができることは 需 要 家 に 近 接 した 電 源 を 持 つシュタットベルケの 強 みである 自 身 の 発 電 所 から 発 生 した 熱 を 供 給 することで 設 備 ベースの 収 益 拡 大 を 図 ることができる また 市 場 調 達 と 合 わせ ることで 電 熱 供 給 効 率 の 高 い 発 電 設 備 を 優 先 的 に 稼 働 させることで 企 業 としての 収 益 拡 大 を 図 ることも 可 能 である 3 点 目 は インフラの 利 用 環 境 である シュタットベルケは 配 電 網 を 所 有 するケースとしないケースがある 後 者 の 場 合 でも 発 電 出 力 を 市 場 へ 販 売 する 際 や 近 隣 需 要 家 へ 販 売 する 際 に 安 価 に 配 電 網 を 活 用 できる( 当 初 割 高 だった 託 送 料 は 2005 年 に 託 送 料 に 対 する 規 制 がエネルギー 法 で 設 定 された) この 点 は 他 地 域 の 電 源 でも 同 じだが シュタットベルケには 熱 供 給 配 管 も 低 コストで 活 用 できるというメリットがある ドイツの 熱 供 給 配 管 は 1970 年 代 のオイルショック 時 に 国 の 支 援 により 整 備 され 現 在 では 多 くが 償 却 を 終 えているため 日 本 の 熱 供 給 事 業 で 問 題 になる 熱 配 管 の 投 資 回 収 負 担 が 大 きく 軽 減 されている 4 点 目 は 一 定 の 事 業 規 模 である シュタットベルケは 地 域 の 電 力 会 社 であるといっても 日 本 の 特 定 電 気 事 業 などと 比 べ 遥 かに 大 きな 事 業 規 模 を 持 っている 日 本 では 特 定 施 設 特 定 需 要 家 向 けの 発 電 小 売 事 業 の 考 え 方 が 自 家 発 電 から 発 達 したのに 対 して シュタットベルケは 地 域 の 電 力 会 社 に 端 を 発 しているため 地 域 の 配 電 網 を 利 用 したより 面 的 な 事 業 を 展 開 しているからだ その 結 果 各 戸 を 訪 問 して 省 エネサービスを 行 ったり 自 身 の 熱 源 から 熱 供 給 を 行 うというシュタットベルケならではの 事 業 を 行 いながらも ミュンヘン ケ ルン ドルトムントなどの 大 都 市 では 大 手 電 力 会 社 にも 遜 色 のない 経 済 性 も 追 求 できる こうした 事 業 上 の 競 争 力 に 加 えて 近 年 配 電 事 業 の Rekommunalisierung( 再 公 営 化 ) と 呼 ば れる 動 きが 見 られることもシュタットベルケを 後 押 ししている ドイツでは 小 売 事 業 は 完 全 自 由 化 され ているため 需 要 家 は 販 売 先 を 自 由 に 選 択 することができる 一 方 配 電 事 業 については 元 々は 地 域 のシュタットベルケが 営 んでいたが 1990 年 代 になって 東 西 統 一 に 伴 う 旧 東 ドイツへの 財 政 支 援 あ るいはEU 発 足 による 他 国 との 協 調 などの 理 由 から 民 間 移 転 が 行 われた 民 間 移 転 の 形 式 は 州 や 市 に よって 異 なるが なかには 所 有 権 を 移 転 せず 一 定 期 間 民 間 企 業 に 運 営 権 をゆだねるコンセッション 方 式 を 採 用 したケースがある こうした 地 域 では 契 約 期 間 の 満 了 に 伴 い シュタットベルケがコンセッ ションを 奪 還 したり 自 治 体 がコンセッション 方 式 自 体 を 取 りやめ 独 自 の 運 営 に 戻 す という 事 例 が 見 受 けられる(バーデン ヴュルテンベルク 州 ライプチヒなど) ドイツでは 有 権 者 の 一 定 割 合 の 署 名 を 集 めることで 住 民 投 票 が 実 施 できるが( 住 民 投 票 の 運 営 ルールの 詳 細 は 州 によって 異 なる) こうし た 再 公 営 化 を 求 める 住 民 投 票 の 動 きが 各 地 に 拡 がっている 首 都 ベルリンでも 住 民 投 票 に 向 けた 運 動 が 展 開 され 大 手 電 力 会 社 であるVattenfallの 配 電 子 会 社 とのコンセッション 契 約 が 切 れる2014 年 末 にど のような 事 業 形 態 に 移 行 するかが 注 目 されている (3) 市 民 からの 支 持 シュタットベルケへの 支 持 については 地 域 のロイヤリティも 重 要 な 要 素 である それは シュタッ トベルケが 地 域 に 対 して 地 域 資 源 の 活 用 地 域 雇 用 の 創 出 という 点 で 貢 献 していることに 基 づいて いる J R Iレビュー 2013 Vol.9, No.10 25
シュタットベルケは 地 域 の 水 力 発 電 所 やバイオマス 発 電 所 などの 運 営 廃 棄 物 処 理 炉 やコジェネレ ーションから 発 生 する 熱 の 利 用 などにより 地 域 資 源 を 有 効 活 用 しているため 地 域 内 での 資 金 循 環 ( 地 域 で 発 生 した 資 源 が 事 業 を 通 じて 資 金 として 地 域 に 還 流 すること)が 生 まれる Stadtwerke Duisburg AGの 調 べでは 1 (100セント)の 電 力 料 金 の 支 払 いについて 大 手 電 力 会 社 から 電 力 を 購 入 した 場 合 のDuisburg 市 への 資 金 還 流 が12セントしかないのに 対 し 本 シュタットベルケからの 購 入 の 場 合 は 29セントになるとされている( 注 4) 地 域 雇 用 の 創 出 にも 貢 献 している 同 じくStadtwerke Duisburg AGに 拠 ると Duisburg 市 ではシュ タットベルケにより 直 接 雇 用 間 接 雇 用 誘 発 雇 用 合 わせて5,600 人 分 の 雇 用 が 創 出 されているという 大 手 電 力 会 社 の 場 合 管 理 職 を 中 心 に 大 都 市 や 他 地 域 から 人 材 が 送 り 込 まれてくるので これだけの 雇 用 貢 献 を 果 たすことは 難 しい ( 注 3) 資 源 エネルギー 庁 発 電 卸 電 力 市 場 の 競 争 環 境 整 備 について (2007 年 9 月 ) ( 注 4)Stadtwerke Duisburg AG Die regionalwirtschaftliche Bedeutung der Stadtwerke Duisburg 3. 日 本 の 電 力 自 由 化 にあたって 求 められる 地 域 に 貢 献 できるエネルギー 事 業 (1) 日 本 の 電 力 自 由 化 で 求 められる 地 域 密 着 型 のエネルギーサービス 貢 献 日 本 では 電 力 システム 改 革 専 門 委 員 会 の 議 論 で 原 子 力 発 電 比 率 の 低 下 や 供 給 力 不 足 等 に 伴 う 中 長 期 的 な 電 力 価 格 上 昇 圧 力 を 低 減 するため 以 下 の 観 点 に 配 慮 しつつ 発 電 小 売 の 両 面 で 競 争 を 促 すこ とを 目 指 す としている 節 電 やデマンドレスポンスなどの 需 要 側 の 工 夫 に 対 して 需 要 家 へのインセンティブを 与 えること 電 力 選 択 のニーズに 応 えうる 仕 組 みを 提 供 すること 分 散 電 源 も 含 めた 多 様 な 供 給 力 を 活 用 しやすい 電 力 システムにすること ここで 期 待 されているのは 既 存 の 電 力 会 社 の 管 轄 地 域 を 越 えた 競 争 の 活 性 化 に 加 え 他 業 種 からの 参 入 による 電 力 の 枠 を 越 えた 競 争 により 新 たなイノベーションが 生 み 出 されることである こう した 競 争 を 通 じて 需 要 家 に 低 廉 で 質 の 高 いエネルギーサービスが 提 供 されることが 期 待 される その ためには 様 々な 強 みを 持 った 事 業 者 が 切 磋 琢 磨 する 市 場 が 必 要 である 電 力 システム 改 革 専 門 委 員 会 報 告 書 では これらの 競 争 で 鍛 えられた 強 靱 なエネルギー 企 業 が 低 廉 で 質 の 高 いサービスの 提 供 者 とな ることを 想 定 しているが ドイツでシュタットベルケのような 地 域 企 業 が 生 き 残 った 理 由 を 思 い 起 こさ なければならない 需 要 家 は 系 統 上 で 繰 り 広 げられる 競 争 により 生 み 出 されるサービスだけを 求 めている 訳 ではない と いうことだ 具 体 的 には 需 要 家 に 向 けたエネルギーサービス 地 域 資 源 の 活 用 地 域 への 自 律 的 な 経 済 還 元 地 域 における 雇 用 創 出 などである 我 々は 他 国 の 事 例 でも 需 要 家 に 密 着 したエネルギーサービ スへの 支 持 を 確 認 しており 日 本 の 電 力 自 由 化 でも 需 要 家 に 密 着 したエネルギーサービスが 普 及 できる 環 境 整 備 を 図 っていくべきである 地 域 エネルギー 事 業 の 育 成 は 単 にエネルギーサービスに 対 する 需 要 家 のニーズを 満 たすだけでなく 疲 弊 した 日 本 の 地 域 経 済 の 底 上 げにも 貢 献 することが 期 待 できる 26 J R Iレビュー 2013 Vol.9, No.10
(2) 日 本 における 地 域 エネルギー 事 業 の 普 及 のために 上 述 したように 日 本 でも 地 域 のエネルギー 事 業 者 が 誕 生 することが 期 待 されるが ドイツのシュタッ トベルケのような 地 域 のインフラ 企 業 は 存 在 しない 日 本 で 地 域 のエネルギーサービスを 提 供 する 事 業 を 育 成 するためには 少 なくとも 以 下 のような 条 件 の 整 備 が 求 められる A. 自 治 体 関 与 による 地 域 事 業 者 の 育 成 支 援 地 域 のエネルギー 事 業 により 地 域 が 資 金 還 流 雇 用 創 出 といったメリットを 享 受 するためには 地 域 内 に 拠 点 を 構 えた 企 業 が 主 体 となることが 必 要 である そのためには 地 域 に 立 地 しエネルギー 事 業 への 知 見 と 意 欲 を 持 つ 企 業 が 核 となることが 考 えられる( 図 表 4) しかしながら 日 本 ではエネルギーサービスに 関 する 技 術 ノウハウを 有 する 企 業 は 大 都 市 部 に 集 中 していることから 地 域 のエネルギー 事 業 を 立 ち 上 げるに 際 しては こうした 企 業 から 技 術 ノウハウ の 支 援 を 得 ることが 必 要 となるケースが 多 くなると 考 えられる 技 術 ノウハウの 支 援 を 受 ける 以 上 大 都 市 の 企 業 が 経 済 的 権 益 的 な 見 返 りを 得 るのは 当 然 であるが 地 域 として 主 体 性 は 失 わないことを 期 待 したい 主 体 性 を 失 えば 本 稿 で 述 べたシュタットベルケに 対 する 地 域 需 要 家 の 支 持 の 根 拠 自 体 が 揺 らいでしまうからである こうした 懸 念 に 対 処 するための 方 策 として 考 えられるのが 自 治 体 の 関 与 である まずは 多 くのシ ュタットベルケがそうであるように 地 域 のエネルギー 事 業 に 自 治 体 が 出 資 することが 考 えられる そ うすることで 大 都 市 部 の 企 業 に 対 して 地 域 の 交 渉 力 を 高 めることができるし 設 備 調 達 に 公 共 調 達 の 経 験 を 活 かすことも 可 能 となる 自 治 体 の 関 与 でもう 一 つ 重 要 なのは 自 らが 地 域 のエネルギー 事 業 への 需 要 家 となることだ 設 備 投 資 を 伴 うエネルギー 事 業 では ベース 需 要 をいかに 確 保 するかが 事 業 の 円 滑 な 立 ち 上 げに 大 きく 影 響 す る 市 庁 舎 をはじめ 図 書 館 学 校 公 営 病 院 公 営 プール 等 安 定 需 要 を 持 つ 自 治 体 が 当 初 から 需 要 の 受 け 皿 となれば 事 業 の 立 ち 上 げに 大 きく 貢 献 することができる もちろん エネルギーは 公 共 調 達 の 対 象 であるので 自 治 体 が 需 要 家 となるために は 公 正 な 調 達 手 続 き ないしは 透 明 性 のある 政 策 判 断 が 重 要 である 地 域 のエネルギー 事 業 が 負 債 の 山 を 築 いたかつての 第 三 セクター の 二 の 舞 にならないためには 地 域 としてエ ネルギー 事 業 に 求 める 条 件 を 明 確 にしたうえ で 公 正 な 評 価 を 得 ることが 必 要 となる こ のことは 出 資 者 の 意 向 を 受 けるなどして とかく 高 コストになりがちな 地 域 事 業 の 経 営 に 適 正 な 目 安 を 提 示 することにもつながる B. 地 域 事 業 を 推 進 できるための 規 制 緩 和 地 域 でのエネルギー 事 業 を 立 ち 上 げるには 事 業 推 進 上 の 制 約 を 除 くための 規 制 緩 和 が 重 要 である J R Iレビュー 2013 Vol.9, No.10 27
例 えば 熱 供 給 事 業 は 一 定 規 模 以 上 の 熱 源 でないと 熱 供 給 事 業 法 の 対 象 とならず 道 路 をまたがる 熱 配 管 を 敷 設 するための 許 可 が 得 にくい 地 域 のエネルギー 事 業 では 個 々の 設 備 は 従 来 の 熱 供 給 事 業 に 求 められるほどの 規 模 にならない 可 能 性 があるので 規 模 の 制 約 があると 普 及 の 障 害 となる また 地 域 電 源 を 活 用 する 際 に 近 隣 の 建 物 間 で 電 力 供 給 を 行 う 際 には 特 定 電 気 事 業 や 特 定 供 給 の 方 式 を 採 る 必 要 があるが これらも 電 力 会 社 の 地 域 独 占 を 前 提 に 需 要 家 への 直 接 的 な 電 力 供 給 を 認 めた 極 めて 制 約 の 強 い 制 度 である 自 営 線 を 整 備 し 需 要 の 半 分 以 上 の 電 源 確 保 が 求 められるなど 市 場 取 引 と 相 容 れない 条 項 もある 需 給 状 況 に 応 じて 電 力 を 系 統 を 通 して 市 場 に 販 売 したり 地 域 需 要 向 けに 活 用 したりと いった 柔 軟 な 使 い 方 への 制 約 が 生 じてしまう 地 域 エネルギー 事 業 の 事 業 性 を 確 保 するためには 従 来 の 地 域 独 占 を 背 景 とした 規 制 の 徹 底 した 緩 和 が 不 可 欠 である 加 えて 地 域 エネルギー 事 業 の 成 長 を 促 すには 配 電 網 内 での 託 送 に 関 する 料 金 を 低 減 することも 重 要 だ 現 在 託 送 料 金 は 郵 便 切 手 料 金 と 同 様 距 離 や 接 続 地 点 に 関 係 なく 送 電 量 のみに 応 じて 算 定 さ れるようになっている そのため 電 源 に 近 い 需 要 家 に 電 力 を 送 る 場 合 でも 複 数 の 電 力 会 社 の 送 電 網 を 経 由 するのと 同 じ 託 送 料 を 支 払 う 必 要 がある 地 域 エネルギー 事 業 では 長 距 離 の 送 電 線 を 介 さず 配 電 網 内 で 電 力 がやり 取 りされるため 現 状 の 料 金 制 度 の 下 では 実 際 の 送 配 電 線 のコストより 割 高 な 料 金 を 支 払 うことになる 本 当 の 意 味 で 自 由 な 競 争 市 場 では 事 業 者 が 本 来 のコストを 低 減 させようとするイ ンセンティブが 働 くべきであることから 近 隣 の 託 送 に 対 してはコストに 見 合 った 料 金 低 減 があって 然 るべきだ C.インフラ 整 備 の 支 援 これまでエネルギー 供 給 に 関 する 資 産 の 整 備 はエネルギー 供 給 事 業 から 得 られる 収 入 の 範 囲 で 整 備 す るものと 考 えられてきた 地 域 エネルギー 事 業 は 地 域 資 源 の 有 効 利 用 や 地 域 での 経 済 的 な 貢 献 のみならず 庁 舎 病 院 など 公 共 施 設 を 中 心 に 地 域 のエネルギーセキュリティを 高 めることにも 資 する しかしながら 従 来 のエネル ギーの 資 金 回 収 の 考 え 方 にかかわると エネルギー 密 度 の 低 さや 回 収 コストの 高 さから 熱 未 利 用 エ ネルギー 再 生 可 能 エネルギーなどを 使 ったエネルギー 事 業 の 収 益 確 保 が 困 難 となることが 多 い エネ ルギー 事 業 の 枠 組 み 内 で 完 結 させる 資 金 回 収 の 考 え 方 は 上 述 した 地 域 のメリットを 評 価 することがで きない 化 石 燃 料 を 主 体 としたエネルギー 供 給 を 前 提 としていると 考 えることができる エネルギー 事 業 の 枠 組 みに 完 結 した 従 来 の 資 金 回 収 への 固 執 は 多 様 なエネルギー 供 給 のあり 方 を 制 約 する 地 域 にメ リットがあるのであれば エネルギー 事 業 に 用 いられる 資 産 でも 道 路 上 下 水 道 などエネルギー 以 外 の 地 域 の 資 金 が 投 入 されることがあっていいはずだ ドイツでは 1970 年 代 のオイルショック 時 国 としてエネルギーセキュリティを 高 めるために 地 域 熱 配 管 敷 設 のために 政 府 から50%の 資 金 が 供 与 さ れた それが 長 い 時 間 を 経 て ドイツの 各 地 域 の 熱 事 業 の 基 礎 となっている 日 本 においても 地 域 の 自 律 的 なエネルギー 事 業 を 普 及 するに 当 たっては 柔 軟 な 公 費 投 入 のあり 方 が 検 討 されるべきだ 4.おわりに 2016 年 に 予 定 されている 電 力 小 売 全 面 自 由 化 にあたり どのように 競 争 環 境 を 作 り 上 げるかに 関 心 が 28 J R Iレビュー 2013 Vol.9, No.10
高 まっている その 際 議 論 の 中 心 となるのは 系 統 上 での 競 争 を 強 化 し 価 格 をいかに 低 減 するかという 点 にある しかし ドイツのシュタットベルケの 事 例 を 見 れば 電 力 事 業 においてコストだけでは 捉 え 切 れないニーズがあることが 分 かる その 基 盤 となるのは 自 家 発 電 やスマートハウスに 対 するニーズ と 軌 を 一 にする エネルギーに 対 する 需 要 家 や 地 域 の 主 体 的 な 意 識 である 系 統 上 での 競 争 を 促 す 電 力 自 由 化 の 仕 組 みは 前 世 紀 に 欧 米 で 考 案 されたものだ 当 時 と 比 べれば 発 電 制 御 通 信 等 の 技 術 は 比 較 にならないほど 進 歩 した 日 本 が 半 世 紀 ぶりの 改 革 で 将 来 の 電 力 システムを 構 築 しようとするの であれば 需 要 家 視 点 のニーズを 看 過 することなく それを 充 足 するための 障 害 を 排 除 する 努 力 を 講 じ るべきなのである (2013. 9. 25) J R Iレビュー 2013 Vol.9, No.10 29