Microsoft Word - 最終講義レジュメ 社研セミナー大沢真理.docx

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図 3 世界の GDP 成長率の実績と見通し ( 出所 ) Capital in the 21st century by Thomas Piketty ホームページ 図 4 世界の資本所得比率の実績と見通し ( 出所 ) Capital in the 21st century by Thomas P

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

% % 2

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

市場と経済A

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< 目次 > Ⅰ. 基準シナリオ : 経済成長持続ケース 1. 中間所得層 + 高所得層の推移 2. 中間所得層の推移 3. 高所得層の推移 Ⅱ. シナリオ2: 中国とインド経済が急激にダウンしたら? 1. 中間所得層 + 高所得層の推移 2. 中間所得層の推移 3. 高所得層の推移 Ⅲ. シナリオ

第3回税制調査会 総3-2

税・社会保障等を通じた受益と負担について

平成22年度 東京都税制調査会


構成 Ⅰ 所得税改革 下向きジェットコースターの不安 格差への対応 - 所得税の四位一体改革 日本の所得税 - 負担の実態 税額控除制度の効果 Ⅱ 納税者番号制度 適正課税と利便性のための基盤整備 ドイツ ( 税務識別番号 ) イギリス ( 国民保険番号 NINO) オランダ ( 市民サービス番号

第23回税制調査会 総23-1

Microsoft PowerPoint EU経済格差

目次はじめに 1. 賃金上昇動向とその要因 賃金上昇の影響 最後に はじめに CLMV RIM 213 Vol.13 No.48 51

相対的貧困率の動向: 2006, 2009, 2012年

292 Vol. 44 No refundable tax credit Mirrlees 1971 Friedman

【政治経済】 第9回 「W」の未来予想図

女性が働きやすい制度等への見直しについて

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1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(217 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43


3 世帯属性ごとのサンプルの分布 ( 両調査の比較 参考 3) 全国消費実態調査は 相対的に 40 歳未満の世帯や単身世帯が多いなどの特徴がある 国民生活基礎調査は 高齢者世帯や郡部 町村居住者が多いなどの特徴がある 4 相対的貧困世帯の特徴 ( 全世帯との比較 参考 4) 相対的貧困世帯の特徴とし

スライド 1

平成の30年間、家計の税・社会保険料はどう変わってきたか

図 1は 先進諸国における子どもの貧困率を 再分配前 ( 就労や 金融資産によって得られる所得 ) と それから税金と社会保険料を引き 児童手当や年金などの社会保障給付を足した 再分配後 でみたものである 再分配前 後 というのは 税制度や社会保障制度によって所得の分配を変化させることを 政府による

KEYWORD: ( 1) Insert (2005)

図表 02 の 01 の 1 世界人口 地域別 年 図表 2-1-1A 世界人口 地域別 年 ( 実数 1000 人 ) 地域 国 世界全体 2,532,229 3,038,413 3,69

1. 論点と財政学における公正原則 1-1. 課題 (1) ( 専業主婦を肯定しつつも ) 所得税制は個人単位が望ましい理由 (2) 市場の分配の不公正を是正する再分配 ( 税制 社会保障 ) のあり方 1-2. 正義の基準における歴史的相対性軽工業基軸の工業社会重化学工業基軸の工業社会女性 子供の

14 日本 ( 社人研推計 ) 日本 ( 国連推計 ) 韓国中国イタリアドイツ英国フランススウェーデン 米国 図 1. 1 主要国の高齢化率の推移と将来推計 ( 国立社会保障 人口問題研究所 資料による ) 高齢者を支える

Microsoft Word - 28概況(所得・貯蓄)(170929)(全体版・正)

第14回税制調査会 総14-4

平成14年度社会保障給付費(概要)

目次 第 1 章調査概要 調査の目的 調査の方法... 1 第 2 章分析内容 世帯主年齢階級別の世帯数割合 世帯主年齢階級別の等価可処分所得 世帯主年齢階級別の等価所得 拠出金の内訳 世帯主年齢階級別

1.ASEAN 概要 (1) 現在の ASEAN(216 年 ) 加盟国 (1カ国: ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム ) 面積 449 万 km2 日本 (37.8 万 km2 ) の11.9 倍 世界 (1 億 3,43

平成25年 国民生活基礎調査【所得票】 結果表一覧(案)

消費税増税等の家計への影響試算(2018年10月版)

先進国化する中国 東南アジアの大都市 ~ メガシティ ( 大都市 ) からメガリージョン ( 大都市圏 ) へ ~ 要 旨 調査部環太平洋戦略研究センター 主任研究員 大泉啓一郎 GDP 8,000 10,00

相対的貧困率等に関する調査分析結果について

OECD よりよい暮らしイニシアチブ (OECD Better Life Initiative) は 人々の生活の質を形成する重要な生活の諸側面に焦点を当てたもので 2011 年に始まりました このイニシアチブは定期的に更新される幸福指標とその分析からなっており How's Life? と題する報告

USA1_米国Report

親と同居の壮年未婚者 2014 年

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資料9

短時間労働者への厚生年金 国民年金の適用について 1 日又は 1 週間の所定労働時間 1 カ月の所定労働日数がそれぞれ当該事業所 において同種の業務に従事する通常の就労者のおおむね 4 分の 3 以上であるか 4 分の 3 以上である 4 分の 3 未満である 被用者年金制度の被保険者の 配偶者であ

2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10


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参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

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社会事業研究57号.indd

Winter 図 1 図 OECD OECD OECD OECD 2003

米国の給付建て制度の終了と受給権保護の現状


第5回基礎問題小委員会 礎5-1

第2回税制調査会 総2-1

2 累計 収入階級別 各都市とも 概ね収入額が高いほども高い 特別区は 世帯収入階級別に見ると 他都市に比べてが特に高いとは言えない 階級では 大阪市が最もが高くなっている については 各都市とも世帯収入階級別の傾向は類似しているが 特別区と大阪市が 若干 多摩地域や横浜市よりも高い 東京都特別区

目 次 (1) 財政事情 1 (2) 一般会計税収 歳出総額及び公債発行額の推移 2 (3) 公債発行額 公債依存度の推移 3 (4) 公債残高の累増 4 (5) 国及び地方の長期債務残高 5 (6) 利払費と金利の推移 6 (7) 一般会計歳出の主要経費の推移 7 (8) 一般会計歳入の推移 8

季刊家計経済研究 2003 SPRING No 万円 1世帯当たり平均可処分所得金額は 187.4万円 世帯人員1人当たり平均所得金額は 図表-9 高齢者世帯の平均収入の伸びに対する稼働所得 及び公的年金 恩給等の寄与率 212.3万円である 平均世帯人員は3.23人 平 均有業人員

平成14年度社会保障給付費(概要)

資料2(コラム)

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平成19年度税制改正.xls

EITC: Earned Income Tax Credit Ⅱ 韓国における雇用動向 , , ,451.41, ,01

本資料は 様々な世帯類型ごとに公的サービスによる受益と一定の負担の関係について その傾向を概括的に見るために 試行的に簡易に計算した結果である 例えば 下記の通り 負担 に含まれていない税等もある こうしたことから ここでの計算結果から得られる ネット受益 ( 受益 - 負担 ) の数値については

平成28年版高齢社会白書(概要版)

参考資料1

社会保障給付の規模 伸びと経済との関係 (2) 年金 平成 16 年年金制度改革において 少子化 高齢化の進展や平均寿命の伸び等に応じて給付水準を調整する マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びはの伸びとほぼ同程度に収まる ( ) マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びは 1.6

42

スライド 1

図表 II-39 都市別 世帯主年齢階級別 固定資産税等額 所得税 社会保険料等額 消 費支出額 居住コスト 年間貯蓄額 ( 住宅ローン無し世帯 ) 単位 :% 東京都特別区 (n=68) 30 代以下 (n=100) 40 代

78 成蹊大学経済学部論集第 44 巻第 1 号 (2013 年 7 月 ) % % 40%

タイトル

1. 2. (Rowthorn, 2014) / 39 1

エコノミスト便り

1. 成長率 可処分所得 社会の満足度 一人当たり成長は先進国でトップクラス 一人当たり可処分所得は着実に増加 社会の満足度は過去最高 生産年齢人口一人当たり実質 GDP 成長率 ( 年平均 ) (%)

Microsoft PowerPoint - 7.【資料3】国民健康保険料(税)の賦課(課税)限度額について

(1987) (1990) (1991) (1996) (1998) (1999) (2000) (2001) (2002) 3 ( ) ( ) hkyo

Microsoft Word - 坂本様本文確定

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"05/05/15“ƒ"P01-16

131 はじめに エコノミア 第 64 巻第 1 号 (2013 年 5 月 ), 頁 [Economia Vol. 64 No.1(May 2013),pp ]

生産性 イノベーション関係指標の国際比較 平成 29 年 11 月 9 日 財務総合政策研究所酒巻哲朗 1

平成19年度分から

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日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

第12回税制調査会 総12-1(案とれ)

210X297

目 次 (1) 財政事情 1 (2) 一般会計税収 歳出総額及び公債発行額の推移 2 (3) 公債発行額 公債依存度の推移 3 (4) 公債残高の累増 4 (5) 国及び地方の長期債務残高 5 (6) 利払費と金利の推移 6 (7) 一般会計歳出の主要経費の推移 7 (8) 一般会計歳入の推移 8

⑴ 政策目的本件は, 我が国において開発資金のための国際連帯税 ( 国際貢献税 ) を導入し, 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ 等, 国際的な開発目標の達成に対応 貢献するために, 世界の開発需要に対応し得る幅広い開発資金を調達するもの これは, 外務省政策評価, 基本目標 Ⅵ 経済協

第2回基礎問題小委員会 礎1-2

平成30年版高齢社会白書(概要版)(PDF版)

-- 97 年段階でもワーキングプアが 12.8% 以前から大量に存在していた 一般勤労層への貧困の拡大 年比 / 賃金 給与が主 を基準 3 で処理 1 人 人 人 ワーキングプア世帯は 3 人以上世帯が中心 しかも多

別紙2

! 3

目次 1. グローバル化の進展と顕在化したリスク 国内で問われる 韓国型成長モデル 大企業寄り 政策を見直した李政権 求められる新たな成長モデル 1 2 結びに代えて FTA FTA FTA RIM 212 Vol.12 No.46

財政政策の考え方 不況 = モノが売れない仕事がない ( 失業増加 ) が代わりにモノを買う! 仕事をつくる ( 発注する )! = 財政支出拡大 ( がお金を使う ) さらに乗数効果で効果増幅!! 3 近年の経済対策の財政規模 名 称 内閣 事業規模 公共投資 減税 財政規模 日本経

消費税増税等の家計への影響試算(2017年10月版)<訂正版>

Transcription:

2019 年 3 月 1 日社研セミナー大沢真理 グローバル インクルージョンへの日本の課題 0. 持続可能な開発目標 (SDGs) 2018 年 10 月後半に実施された東大生の認知度調査 (TSCP Student Committee による 回答者 2009 人 ) から 世界スケールよりも日本 身近が高いのは ジェンダー平等と労働 ( 完全雇用とディーセントワーク ) 貧困や飢餓は日本 身近の課題ではない? 1.SGDs のなかの貧困 ドーナツ経済学の提案 地球システムと人類が 黄緑色の領域に包摂される必要性 そのためにとく経済学の刷 新が必要 1

2 本報告では 黄緑色の領域への包摂を グローバル インクルージョン と呼び 貧困に焦点を合わせる Raworth (2017) が Sumner(2012) に依拠しつつ指摘 ( 以下は Sumner(2016) で補充 ): 2012 年に世界の絶対貧困層 (1 日 2.5 ドル以下の生活ないし多次元的貧困 )14.5 億人の 75% が 中所得国 に住んでいる とくに中国に 1.5 億人 インドに 4.8 億人 1 それら諸国では格差が広がり 絶対貧困層が取り残された ( 中国では改善 ) 自国内の資源で絶対貧困を解決できる (ODA などの国際的再分配でなく ) 高所得国の相対的貧困にも言及 ( アメリカとイギリス ) やはり国内分配の問題 ただし 貧困や飢餓がジェンダー平等の課題でもあることは あまり強調されていない 本報告の目的 :( とくに日本で ) 貧困がジェンダー平等の課題であると指摘し 課税エフォートを高めつつ国内の貧困を削減することは インド 中国と同等以上に 日本 ( およびアメリカ ) の課題であると論じる 2. 国際比較のなかの日本の相対的貧困および子どもの状況相対的貧困率 ( 等価可処分所得の中央値の 50% 未満の低所得 ) : 民間の雇用条件等と税 社会保障の総合成果当初所得 ( 市場所得 ) でも計測される : 所得再分配の ビフォー アフター 2.1 日本の貧困率は主要国でアメリカについで高いが 独特の性質図 1 子どもがいる世帯の人口の貧困率 成人の数と就業状態別 2012 年頃出所 :OECD Family Database: CO2.2(http://www.oecd.org/els/family/database.htm) より作成 1 Sumner は 世界の絶対的貧困層の所在を Geography of Global Poverty と表現する 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 アイルランドデンマ クドイツチ コベルギ オ ストラリアノルウ フ ンランドオランダスウ デンアイスランドハンガリ イギリススロベニアフランスニ ジ ランドポルトガルオ ストリアスロバクポ ランドアメリカカナダギリシ イタリアメキシコスペイン日本トルコインド中国 ( % ) 成人 1 人で無業成人 2 人以上で就業者なし成人 2 人以上で 1 人就業成人 2 人以上で 2 人以上就業成人 1 人で就業

就業貧困という以上に共稼ぎ貧困 働くひとり親( とその子ども ) の貧困率は OECD 諸国 + 中国 インドで最悪 日本でのみ無業のひとり親より高い (OECD 諸国 + 中国 インドで ) 片稼ぎ夫婦と共稼ぎ夫婦の貧困率の差が小さい( インドと中国も差が小さい 他の国では second earner は貧困リスクを大きく低減させるが ) 図 1 つまり女性の稼得力が低い 働かない( 無業 失業 短時間就業 ) ためであるより 働くなかでの低賃金 しかも山口一男によれば 学歴 経験が低いからではない ( 山口 2017) =ジェンダーの問題 アフター( 所得再分配後 ) のほうが貧困率が高い (= 貧困削減率がマイナス ) の人口区分がある 国民生活基礎調査で子どもについて 1985 2009 年 ( 阿部 2006; 阿部 2014) 国民生活基礎調査で 2005 年頃の成人が全員就業する労働年齢世帯 ( 共稼ぎ 就業するひとり親 就業する単身者 )(OECD2009:Figure 3.9) 日本家計パネル調査で 2009 年の就業者全般 ( 駒村ほか 2010) 社会保険料負担の問題 税 社会保障を通ずる所得再分配が 子どもを生み育て 世帯として 目いっぱい ( つまり女性が ) 働くことを 支援していないどころか 罰を科している 2.2 日本の働くひとり親はなぜ貧しいか日本のシングルマザーの就業率 80% 超は OECD 諸国で最高 低賃金でもあるが 税 社会保障負担が重く 社会保障現金給付が貧弱 以下 図 2-4は OECD の Taxing wages より作成 ( 社会保険を適用される雇用者 ) 縦軸 : 純負担 ( 所得課税 + 社会保障拠出 - 児童手当 ) が粗賃金収入に占める比率 (%) 横軸 : 粗賃金収入 ( 平均賃金対比 ) 図 2 子どもが 2 人の場合の純負担率 (%) の推移 3

しかし 平均賃金 ( 男女合計 ) の 67% を得ているシングルマザーは日本では稀 平均賃金の 50-250% の範囲での純負担率はどうか? 図 3 子どもが2 人の場合の 2017 年の純負担率 ひとり親と片稼ぎ夫婦ひとり親片稼ぎ夫婦 負担と給付を分解すると ( ひとり親子ども 2 人の場合 ) 図 4 ひとり親 ( 子ども 2 人 ) の 2015 年の純負担の内訳 2.3 子どもの状況のなかでも憂慮される低体重出生 胎内で生じているマイルドな飢餓? 教育達成 職業達成に影響 4

図 5 低体重出生 (2500g 未満 ) の子どもの割合 10 9 ( % ) 8 7 6 5 4 3 2 1 0 1960 1962 1964 1966 1968 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 日本アメリカフランスイタリアイギリス韓国スウェーデンドイツ中国 出所 :OECD.Stat より作成 出産 6 か月前の母親のフルタイム就業 喫煙などが影響 ( 川口 野口 2017) 母親の学歴 も影響 ( 川口 2017) 3. 財源調達として見ると所得課税が伸びず 逆進的な社会保障拠出 ( そして消費課税 ) への依存が上昇 累進度の低下図 6 種類別の歳入の推移 対 GDP 比 14.0 12.0 ( % ) 10.0 8.0 6.0 個人所得課税 法人所得課税 社会保障負担 4.0 2.0 資産課税 消費課税 0.0 出所 :OECD.Stat より作成 1965 1969 1973 1977 1981 1985 1989 1993 1997 2001 2005 2009 2013 課税エフォートの研究 : 課税ポテンシャル ( ある国がある時点で合理的に調達できる税収 の上限 ) にたいする実際の税収の比率 (0-1 のあいだの値 ) 政策選択 ( 税率 課税ベー ス 非課税措置など ) と徴税非効率 ( 納税回避を含む ) を反映する 伝統的には最小二乗法 ( クロスセクション またはパネルデータ ): 税収 ( 対 GDP 比 ) 5

の回帰に適用より近年では確率フロンティア分析 (SFA) IMF 系の研究 (Pessino and Fenochietto 2010; Fenochietto and Pessino 2013) 国際成長センター (IGC) での研究 (Langford and Ohlenburg 2015): 政府収入データセットから資源が豊富でない 85 か国の 27 年分のパネル日本の 2010 年の課税エフォートについて 1 Pessino and Fenochietto 2010; Fenochietto and Pessino 2013 は 0.6 程度と推計 平均は高所得国で 0.76 中所得国で 0.64 低所得国で 0.65 アメリカは 0.7 中国は 0.48 2 Langford and Ohlenburg 2015 は 社会保障拠出を含めず総税収で推計し 0.52 程度 2 平均は 低所得 - 下位中所得国で 0.59 上位中所得国- 高所得国で 0.68 アメリカは 0.6 中国は 0.57 図 7 2009 年前後の課税エフォート 出所 :Langford and Ohlenburg 2015: Table 3 より作成 < 引用文献 > Fenochietto, Ricardo and Carola Pessino (2013), Understanding Countires Tax Effort, IMF Working Paper WP/13/244. Langford, Ben and Tim Ohlenburg (2015) Tax revenue potential and effort, an empirical investigation, International Growth Centre Working Paper OECD (2009) Employment Outlook, Tackling the Jobs Crisis, OECD. 2 85 か国のなかで 日本より課税エフォートが低い諸国は バングラデシュ (0.43) マレーシア (0.43) エチオピア (0.44) ホンジュラス (0.44) ウガンダ (0.45) スロバキア (0.46) シンガポール (0.47) パナマ (0.47) エルサルバドル (0.48) フィリピン (0.48) リトアニア (0.49) パラグアイ (0.49) タイ (0.49) スリランカ (0.51) という 14 か国である 6

Pessino, Carola and Ricardo Fenochietto (2010), Determining countries tax effort, Hacienda Pública Española / Revista de Economía Pública, 195-(4/2010): 65-87. Raworth, Kate (2017) Doughnut Economics, Seven Ways to Think Like a 21 st -Century Economist, London: Random House. (2018 年に日本語訳 ) Sumner, Andy (2012) From Deprivation to Distribution: Is Global Poverty Becoming a Matter of National Inequality? IDS Working Paper, no. 994. Sumner, Andy (2016) Global Poverty, Deprivation, Distribution, and Development since the Cold War, Oxford: Oxford University Press. 阿部彩 (2006) 貧困の現状とその要因 1980 年代 ~2000 年代の貧困率上昇の要因分析 小塩隆士 田近栄治 府川哲夫編 日本の所得分配 格差拡大と政策の役割 東京大学出版会 111-137 頁阿部彩 (2014) 子どもの貧困 Ⅱ 解決策を考える ( 岩波新書 ) 岩波書店川口大司 野口晴子 (2017) 低体重出生 原因と帰結 2017 年 10 月 22 日日本学術会議主催学術フォーラム 乳幼児を社会科学的に分析する : 発達保育実践政策学の進化 において野口が報告川口大司編 (2017) 日本の労働市場 経済学者の視点 有斐閣駒村康平 山田篤裕 四方理人 田中聡一郎 (2010) 社会移転が相対的貧困率に与える影響 樋口美雄 宮内環 C. R. McKenzie 慶應義塾大学パネルデータ設計 解析センター編 貧困のダイナミズム 日本の税社会保障 雇用政策と家計行動 慶応義塾大学出版会 81-101 頁山口一男 (2017) 働き方の男女不平等理論と実証分析 日本経済新聞出版社 7