法政大学大学院デザイン工学研究科紀要 Vol.6(7 年 3 月 ) 法政大学 個別要素法による離散粒状体の動的追跡法 土圧係数算定への応用 DYNAMIC ANALYSIS FOR THE DISCRETE ARTICLE MODEL BY DISTINCT ELEMENT METHOD ALICATION TO CALCULATION OF COEFFICIENT OF EARTH RESSURE 大西泰史 Yasushi OONISHI 主査吉田長行副査浜田英明 法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程 The purpose of this study is to perform to earth pressure coefficient calculation simulation using the Distinct Element Method (DEM). Earth pressure theory has been established since long ago and is still in use. Therefore, simulation based on Coulomb and Rankine's theory of earth pressure is carried out to confirm usability of DEM. As a result of the static earth pressure coefficient calculation simulation, good results were obtained. However, in the passive earth pressure coefficient calculation simulation, theoretical results were not obtained. In order to investigate the cause, it is necessary to increase the simulation pattern and determine the appropriate condition. ey Words : DEM, Earth pressure, Coulomb, Rankine. はじめに不連続体を扱う手法の一つとして,Cundall..A [],[] が提唱した個別要素法 (Distinct Element Method: 以降 DEM と略称する ) が挙げられる. この手法の特徴は粒状体の個々の粒子に働くミクロな力の相互作用を考慮することで材料のマクロな力学挙動を再現できるところにあり, 連続体力学とは物の枠組みとなる手法である. この手法用いれば, 本来大がかりな機材や時間を有する土質試験をコンピュータ上でシミュレーションすることが可能である. また, その際に粒状体に生じる進行性破壊, ダイレイタンシー現象, せん断帯形成過程の視覚的な追跡が容易に行える. 本研究では,DEM を用いて土圧係数算出シミュレーションを行い, 板谷ら [3] が提案した DEM の接触アルゴリズムが他の土質試験においても有用であるかを観察した. 土圧理論は 776 年に Coulomb が,856 年に Rankine が発表している. これらは古典土圧理論と呼ばれ, その後, 壁体の変形の考慮や, すべり形状の改良など幾多の拡張が加えられている. しかし, 地下壁や擁壁の土圧では現在でも古典土圧理論が基本となっている. この理論に基づいた擁壁シミュレーションを行い, 良好な結果を得ることができれば, 土圧に関するシミュレーションを DEM で再現することが可能だといえる.. 解析手法 ()DEM DEM の計算手法は伯野の文献 [4] および文献 [5] に詳しい. () 土圧係数計算手法 a) 静止土圧係数 自然の地盤に全く変形を与えない状態で壁が静止して いるとき, 壁に作用する土圧を静止土圧と呼ぶ. 地盤内に鉛直方向の圧縮応力 が生じれば, 土は片側への変形 V が拘束されているので水平応力の応力 が生じる. この 鉛直応力と水平応力は比例すると考えられ この を静止土圧係数と呼ぶ. h v () 土の内部摩擦角 と静止土圧係数の関係を表した次の Jáky の式がある. sin () 通常, 土圧を受けても壁は変形することはない. 土圧が 作用しても壁は静止しているので, 壁には静止土圧が働 h
くことになる.Fig. に示す地下壁の受ける土圧は次のようになる. ( Z q) (3) sin C cos 3 sin sin が得られる. さらに三角関数の半角公式を用いて 3tan C tan 4 4 3 tan C tan 4 4 (6) となる. Fig. Earth pressure received by the underground wall b) 受働土圧係数 半無限地盤で粘着力 C, 内部摩擦角 および地盤の単位 体積重量 は均質であり一定と仮定する. この地盤の深 さ Z の点での鉛直方向応力 は v Z となる. この応力 に伴って地盤は水平方向応力 が発生する. この二つの 応力は主応力であり, 鉛直応力が となり水平応力が である. 3 主応力 と 3 がクーロン線に接する条件をモールの応 力円を用いて求める. 主応力, 3 が Fig. のようにクーロン線 C tan に点 S で接しているとする. ( ) であり, 線 OS は 傾くので, 円の半径は 3 点 S の座標は次のようになる. ( 3) cos ( 3) ( 3) sin h (4) Fig. Mall stress circle and Coulomb line したがって, 深さ Z における水平方向の主応力, すなわ ち受働土圧の は式 (6) の 3 を Z にすることにより Z tan Ctan 4 4 となる. 受働土圧係数 は次式となる. S C tan tan 4 Z 4 (7) (8) (3) モデル作成初期配置を作成するために一時的に設置した箱に自然落下により充填する. その様子を Fig.3 に示す. この値はクーロン線に接するのでクーロンのせん断強度 式を満足しなければならない. そこで ( 3) ( 3) ( 3) cos C sintan (5) となり, これを整理して sin C cos 3 sin sin Fig.3 acking 充填完了後に安定状態に移行するまで時間を置く. そ の様子を Fig4. に示す. または
接触状態にある要素 i に作用する水平方向の接触力は次 式で表される. Fix Nij c t t ij Tij s t ij () 擁壁を構成する粒子の個数を j 個とすると, 擁壁に作用す Fig. Compaction る土圧 h は次式のように求められる. (4) 解析内容 本解析に用いたパラメータを Table., 解析条件を Table. に示す. Normal Stiffness of particles Shear Stiffness of particles Table. kn ks 6. [ N / cm] 5.5 [ N / cm] Inter-article friction angle 7[deg] Coefficient of friction.5[ ] Density of particle Damping factor(packing) hn, hs.[ ] Damping factor h, h.5[ ] Time step 3 3.65 [ kg / cm ] n t s 6. [sec] Loading Velocity V.[ mm / sec] 粒径 [cm] Table. 粒子数 [ 個 ] x 解析条件 深さ [cm] 底面幅 [cm] attern. 7 attern.~.4 7 j [ F ] () h ix t i これに式 () を代入し, について整理すると, j [ Fix ] t i Z (4.5) となる. 3. 解析結果 () 静止土圧係数 Table の条件で解析を行い, 静止土圧係数を算出する. 各 attern に鉛直荷重,[ka],[ka],3[ka],4 [ka] の 5 段階をかけて検証した. 以下に解析結果を掲載する. atten [kn] 5 - ここで, ここで土圧係数の評価方法について述べる. 静止土圧係数式 は (3) より となる ( Z q) ここで, は水平応力, Z は深度である. また, 受働土圧係数 は式 (7),(8) に, 砂地盤のため C を代入し 整理すると (9) Z () ここで, 擁壁を構成する要素に作用する接触力のうち水平方向成分の総和を土圧 h として評価した. - Horizontal stress[kn/ m ] Fig.3 [kn] 5 Horizontal stress[kn/ m ] Fig.4
[kn] [kn] - 5-4 6 Horizontal stress[kn/ m ] Horizontal stress[kn/ m ] Fig.5 Fig.9-3[kN] 5 - [kn] 4 6 Horizontal stress[kn/ m ] Horizontal stress[kn/ m ] Fig.6 Fig. 4[kN] 3[kN] - 5-5 Horizontal stress[kn/ m ] Horizontal stress[kn/ m ] Fig.7 Fig. attern - [kn] 4 6-4[kN] 5 5 Horizontal stress[kn/ m ] Horizontal stress[kn/ m ] Fig. Fig.8
Coefficient of assive Earth ressure [-] Coefficient of assive Earth ressure [-] Coefficient of assive Earth ressure [-] Coefficient of assive Earth ressure [-] Coefficient of assive Earth ressure [-] シミュレーションから算出した を Table.3 にまとめる. 荷重 [kn] () 受働土圧係数 Table.3 静止土圧係数 [-] attern attern.3856.53494.553.54.6763.49378 3.54446.55539 4.5953.5593 静止土圧係数と同様に,Table の条件で解析を行い 受働土圧係数を算出する. 今回は attern のみ実施した. こちらも鉛直荷重,[ka],[ka],3[ka],4[ka] の 5 段階をかけて検証した. attern.5.5.5 [kn].5.5.5.5.5.5 [kn].5.5.5 Fig.5 3[kN].5.5.5 Fig.6.5.5.5 3.5 4[kN] Fig.3.5 [kn].5.5.5.5.5.5.5 Fig.7.5.5.5 各グラフの受働土圧係数 のピーク値を Table4.3 に 示す. Fig.4
Table4.3 鉛直力 [kn] 静止土圧係数 [-].888685.953.94 3.3433 4.7745 4. 考察 結論式 () より.54695を静止土圧係数の推定値と すると, 全体的に近い数値が得られた. 式 (8) より.6693999 受働土圧係数の推定値とすると, ばら つきがみられる. 本解析で,DEM の接触アルゴリズムを用いての静止土 圧係数及び受働土圧係数の算出は一部成功したといえる. しかしながら, 本解析において両シミュレーションとも に解析条件の pattern が不足しており, 各結果において, 何がシミュレーションにどのような影響を与えたか関係 性に疑問が残る. このため, 早急に条件設定方法の確立 とシミュレーション結果の充実が必須である. 5. 今後の展望今後の展望として以下に挙げられる. 解析条件の多様化によるデータの蓄積 結果の精度向上のための新たな手法の導入 3 粘着係数のある粘土地盤モデルでのシミュレーションの実施 4 擁壁シミュレーションを通じて土質試験への汎用性を検討したが, この試験だけにとどまらず様々な土質試験のシミュレーションを実施し検討する 謝辞 : 本論文の作成にあたり, 指導教員である吉田長行 教授には研究に対する熱心な指導と助言を含め大変多く の事を学ばせて頂きました. また佐々木睦朗名誉教授教 授, 浜田英明専任講師からは在学中, 授業等を通じて多 くの基礎知識を賜りました. ここに謹んで感謝の意を表 します 参考文献 [] Cundall,,A.:A computer model for simulating progressive, large-scale movements in blocky rock system. ISRM,Nancy,France. roc.,, 9-36,97 [] Cundall,.A., STRAC, O.D.L. : A discrete numerical model for granular assemblies, Géotechnique,9,,475,979 [3] 板谷知洋, 大西泰史, 吉田長行 : 個別要素法によ る粒状体群のせん断シミュレーションにおける摩 擦処理, 法政大学情報メディア教育センター研究 報告,Vol.9,5 [4] 伯野元彦 : 破壊のシミュレーション 拡張個 別要素法で破壊を負う, 森北出版,997 [5] 粉体工学会編 : 粉体シミュレーション入門 コン ピュータで粉体技術を創造する, 産業図書,998 [6] 松苗尚人, 脊黒隆大, 吉田長行 : 個別要素法によ る離散流状体モデルの動的追跡法 一面せん断試 験シミュレーションによる検討, 法政大学情報 メディア教育センター研究報告,Vol.6, [7] 脊黒隆大, 板谷知洋 : 土質試験シミュレーション における個別要素法の特性検討, 法政大学情報メ ディアセンター研究報告,Vol.8,4 [8] 松岡元 : 土質力学, 森北出版,4,8-37, 999 [9] 林貞夫 : 建築基礎構造, 共立出版,