水 谷 他 : 自 信 過 剰 が 男 性 を 競 争 させる 61 ナメント 制 )の 2 種 類 が 用 意 されている. 彼 女 らの 分 析 に よると,73% の 男 性 が 競 争 的 報 酬 体 系 を 好 むのに 対 し, 女 性 は 35% しか 競 争 的 報 酬 体 系 を 選

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検 討 検 討 の 進 め 方 検 討 状 況 簡 易 収 支 の 世 帯 からサンプリング 世 帯 名 作 成 事 務 の 廃 止 4 5 必 要 な 世 帯 数 の 確 保 が 可 能 か 簡 易 収 支 を 実 施 している 民 間 事 業 者 との 連 絡 等 に 伴 う 事 務 の 複 雑

( 別 途 調 査 様 式 1) 減 損 損 失 を 認 識 するに 至 った 経 緯 等 1 列 2 列 3 列 4 列 5 列 6 列 7 列 8 列 9 列 10 列 11 列 12 列 13 列 14 列 15 列 16 列 17 列 18 列 19 列 20 列 21 列 22 列 固 定

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2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

Ⅰ 調 査 の 概 要 1 目 的 義 務 教 育 の 機 会 均 等 その 水 準 の 維 持 向 上 の 観 点 から 的 な 児 童 生 徒 の 学 力 や 学 習 状 況 を 把 握 分 析 し 教 育 施 策 の 成 果 課 題 を 検 証 し その 改 善 を 図 るもに 学 校 におけ

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18 国立高等専門学校機構

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預 金 を 確 保 しつつ 資 金 調 達 手 段 も 確 保 する 収 益 性 を 示 す 指 標 として 営 業 利 益 率 を 採 用 し 営 業 利 益 率 の 目 安 となる 数 値 を 公 表 する 株 主 の 皆 様 への 還 元 については 持 続 的 な 成 長 による 配 当 可

年 金 払 い 退 職 給 付 制 度 における 年 金 財 政 のイメージ 積 立 時 給 付 時 給 付 定 基 (1/2) で 年 金 を 基 準 利 率 で 付 利 給 付 定 基 ( 付 与 利 の ) 有 期 年 金 終 身 年 金 退 職 1 年 2 年 1 月 2 月 ( 終 了 )

その 他 事 業 推 進 体 制 平 成 20 年 3 月 26 日 に 石 垣 島 国 営 土 地 改 良 事 業 推 進 協 議 会 を 設 立 し 事 業 を 推 進 ( 構 成 : 石 垣 市 石 垣 市 議 会 石 垣 島 土 地 改 良 区 石 垣 市 農 業 委 員 会 沖 縄 県 農

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1.3. 距 離 による 比 較 距 離 による 比 較 を 行 う ( 基 本 的 に 要 求 される 能 力 が 違 うと 思 われるトラック 別 に 集 計 を 行 った ) 表 -3 に 距 離 別 の 比 較 を 示 す 表 -3 距 離 別 比 較

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損 益 計 算 書 自. 平 成 26 年 4 月 1 日 至. 平 成 27 年 3 月 31 日 科 目 内 訳 金 額 千 円 千 円 営 業 収 益 6,167,402 委 託 者 報 酬 4,328,295 運 用 受 託 報 酬 1,839,106 営 業 費 用 3,911,389 一

2 平 均 病 床 数 の 平 均 病 床 数 では 療 法 人 に 対 しそれ 以 外 の 開 設 主 体 自 治 体 社 会 保 険 関 係 団 体 その 他 公 的 の 規 模 が 2.5 倍 程 度 大 きく 療 法 人 に 比 べ 公 的 病 院 の 方 が 規 模 の 大 き いことが

リング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 に 係 る 繰 延 税 金 資 産 について 回 収 可 能 性 がないも のとする 原 則 的 な 取 扱 いに 対 して スケジューリング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 を 回 収 できることを 反 証 できる 場 合 に 原 則

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公表表紙

第1回

PowerPoint プレゼンテーション

ていることから それに 先 行 する 形 で 下 請 業 者 についても 対 策 を 講 じることとしまし た 本 県 としましては それまでの 間 に 未 加 入 の 建 設 業 者 に 加 入 していただきますよう 28 年 4 月 から 実 施 することとしました 問 6 公 共 工 事 の

は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし

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平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

3. 選 任 固 定 資 産 評 価 員 は 固 定 資 産 の 評 価 に 関 する 知 識 及 び 経 験 を 有 する 者 のうちから 市 町 村 長 が 当 該 市 町 村 の 議 会 の 同 意 を 得 て 選 任 する 二 以 上 の 市 町 村 の 長 は 当 該 市 町 村 の 議

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共 通 認 識 1 官 民 較 差 調 整 後 は 退 職 給 付 全 体 でみて 民 間 企 業 の 事 業 主 負 担 と 均 衡 する 水 準 で あれば 最 終 的 な 税 負 担 は 変 わらず 公 務 員 を 優 遇 するものとはならないものであ ること 2 民 間 の 実 態 を 考

定 性 的 情 報 財 務 諸 表 等 1. 連 結 経 営 成 績 に 関 する 定 性 的 情 報 当 第 3 四 半 期 連 結 累 計 期 間 の 業 績 は 売 上 高 につきましては 前 年 同 四 半 期 累 計 期 間 比 15.1% 減 少 の 454 億 27 百 万 円 となり

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4 教 科 に 関 する 調 査 結 果 の 概 況 校 種 学 年 小 学 校 2 年 生 3 年 生 4 年 生 5 年 生 6 年 生 教 科 平 均 到 達 度 目 標 値 差 達 成 率 国 語 77.8% 68.9% 8.9% 79.3% 算 数 92.0% 76.7% 15.3% 94

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第5回法人課税ディスカッショングループ 法D5-4

4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 有

プラス 0.9%の 年 金 額 改 定 が 行 われることで 何 円 になりますか また どのような 計 算 が 行 われているのですか A これまでの 年 金 額 は 過 去 に 物 価 が 下 落 したにもかかわらず 年 金 額 は 据 え 置 く 措 置 をと った 時 の 計 算 式 に 基

- 1 - 総 控 負 傷 疾 病 療 養 産 産 女 性 責 帰 べ 由 試 ~ 8 契 約 契 約 完 了 ほ 契 約 超 締 結 専 門 的 知 識 技 術 験 専 門 的 知 識 高 大 臣 専 門 的 知 識 高 専 門 的 知 識 締 結 契 約 満 歳 締 結 契 約 契 約 係 始

しかし 主 に 欧 州 の 一 部 の 回 答 者 は 受 託 責 任 について 資 源 配 分 の 意 思 決 定 の 有 用 性 とは 独 立 の 財 務 報 告 の 目 的 とすべきであると 回 答 した 本 ED に 対 する ASBJ のコメント レターにおける 意 見 経 営 者 の 受

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目 次 1 報 酬 給 与 額 事 例 1 報 酬 給 与 額 に 含 める 賞 与 の 金 額 が 誤 っていた 事 例 1 事 例 2 役 員 退 職 金 ( 役 員 退 職 慰 労 金 )を 報 酬 給 与 額 として 申 告 して いなかった 事 例 1 事 例 3 持 株 奨 励 金 を

している 5. これに 対 して 親 会 社 の 持 分 変 動 による 差 額 を 資 本 剰 余 金 として 処 理 した 結 果 資 本 剰 余 金 残 高 が 負 の 値 となるような 場 合 の 取 扱 いの 明 確 化 を 求 めるコメントが 複 数 寄 せられた 6. コメントでは 親

別紙3

Ⅰ. は じ め に 27 年 か ら の 不 況 の 影 響 で 不 動 産 競 売 物 件 が 増 加 し て い る 29 年 9 月 は 全 国 で 8 件 を 超 え た ( 前 年 同 月 は 約 6 件 ) ま た 不 動 産 競 売 の 情 報 が イ ン タ ー ネ ッ ト で 公

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22 第 1 章 資 本 金 等 利 益 積 立 金 貴 見 のとおり 資 本 等 取 引 は 本 来 は 増 資 とか 減 資 と か さらには 旧 資 本 積 立 金 額 の 増 加 または 減 少 をいうこと になる ただ 利 益 の 配 当 はいわゆる 資 本 金 等 取 引 である か 損


注 雇 促 進 税 制 と 本 制 度 のどちらかを 利 する 可 能 性 があるが あらかじめどちらの 制 度 を 利 するか 判 断 できない という 場 合 雇 促 進 税 制 の 事 前 届 出 ( 雇 促 進 計 画 の 提 出 )をした 上 で 申 告 の 際 にどちらを 利 するかご

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調査結果の概要

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 23 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 級 2 級 3 級 4 級 5 級 6 級 7 級 1 号 給 の 給 料 月 額 最 高 号 給 の 給 料 月 額 135,600 円 185,800 円 222,900 円 261,900 円

文化政策情報システムの運用等

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3 体 制 整 備 等 (1) 全 ての 特 定 事 業 主 が 共 同 して 取 組 むものとする () 総 務 部 人 事 管 理 室 人 事 課 を 計 画 推 進 の 主 管 課 とし 全 ての 市 職 員 により 推 進 する (3) 実 施 状 況 を 把 握 し 計 画 期 間 中 で

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経 常 収 支 差 引 額 等 の 状 況 平 成 26 年 度 予 算 早 期 集 計 平 成 25 年 度 予 算 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 3,689 億 円 4,597 億 円 908 億 円 減 少 赤 字 組 合 数 1,114 組 合 1,180 組 合 66

養 老 保 険 の 減 額 払 済 保 険 への 変 更 1. 設 例 会 社 が 役 員 を 被 保 険 者 とし 死 亡 保 険 金 及 び 満 期 保 険 金 のいずれも 会 社 を 受 取 人 とする 養 老 保 険 に 加 入 してい る 場 合 を 解 説 します 資 金 繰 りの 都

った 場 合 など 監 事 の 任 務 懈 怠 の 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 減 算 する (8) 役 員 の 法 人 に 対 する 特 段 の 貢 献 が 認 められる 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 加 算 することができる

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2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 2 年 月 1 日 現 在 ) 1 号 給 の 給 料 月 額 最 高 号 給 の 給 料 月 額 ( 注 ) 給 料 月 額 は 給 与 抑 制 措 置 を 行 う 前 のものです ( 単 位 : ) 3 職 員 の 平 均 給 与 月

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60 行 動 経 済 学 第 2 巻 (2009) 60 73 自 信 過 剰 が 男 性 を 競 争 させる * 水 谷 徳 子 a, 奥 平 寛 子 b, 木 成 勇 介 c d, 大 竹 文 雄 要 旨 本 稿 では,なぜ 男 性 は 女 性 と 比 べて, 自 身 の 成 果 のみに 依 存 した 報 酬 体 系 よりも 他 人 の 成 果 にも 依 存 する 報 酬 体 系 を 好 むのかについて, 日 本 人 学 生 を 対 象 に 実 験 を 行 うことで 原 因 の 解 明 を 試 みる. 分 析 の 結 果 は 次 の 通 りであ る.(1) 男 女 でパフォーマンスの 差 はないが, 女 性 より 男 性 のほうが 競 争 的 報 酬 体 系 (トーナメント 制 報 酬 体 系 ) を 選 択 する 確 率 が 高 い.(2)そのトーナメント 参 入 の 男 女 差 の 大 部 分 は, 男 性 が 女 性 よりも 相 対 的 順 位 について 自 信 過 剰 であることに 起 因 する.(3) 男 女 構 成 比 は 相 対 的 順 位 に 関 する 自 信 過 剰 に 影 響 を 与 える. 男 性 は 女 性 がグ ループにいると 自 信 過 剰 になり, 女 性 は 男 性 がグループにいないと 自 信 過 剰 になる.(4) 相 対 的 自 信 過 剰 の 程 度 を コントロールすると,トーナメント 参 入 の 男 女 差 に 対 する 競 争 への 嗜 好 の 男 女 差 による 説 明 力 は 弱 い. ( 受 付 2009 年 5 月 28 日, 採 択 2009 年 7 月 23 日 ) キーワード: 競 争 への 嗜 好, 自 信 過 剰, 経 済 実 験 JEL Classification Numbers: C9, J33, J16 1.はじめに 近 年, 男 女 間 賃 金 格 差 は 縮 小 傾 向 にある.この 背 景 には, 技 術 革 新 による 肉 体 的 な 能 力 差 が 職 場 での 生 産 性 の 差 に 与 える 影 響 の 縮 小, 技 術 革 新 による 家 事 労 働 の 軽 減, 男 女 差 別 を 禁 止 する 法 的 整 備 などがある.しかし,このような 縮 小 傾 向 に 関 わらず, 男 女 間 賃 金 格 差 が 残 っているのも 事 実 である. 実 際, 採 用 時 点 では 男 女 間 に 能 力 差 がないと 考 え られる 場 合 でも, 企 業 の 管 理 職 の 昇 進 には 差 がついている. Bertrand and Hallock(2001)はアメリカの 企 業 の 大 規 模 なデータから, 男 性 に 比 べて 上 層 部 や 競 争 的 地 位 に 女 性 が 少 ないことを 示 している.すでに 管 理 職 の 約 4 割 を 女 性 が 占 めるアメリカでも, 女 性 の 管 理 職 が 経 営 者 に 昇 進 する 例 は 少 ない. 日 本 においては, 女 性 の 管 理 職 比 率 はまだ 1 割 程 度 である( 平 成 19 年 度 内 閣 府 男 女 共 同 参 画 白 書 ). たとえ 男 女 で 能 力 が 同 等 であったとしても, 競 争 的 環 境 * 本 稿 は, 自 信 過 剰 が 男 性 を 競 争 させるか? (2008 年 度 日 本 経 済 学 会 春 季 大 会 ( 於 : 東 北 大 学 )ポスター 報 告 論 文,2008 年 5,6 月 ) を 加 筆 修 正 したものである. 関 西 労 働 研 究 会,2008 年 度 日 本 経 済 学 会 春 季 大 会,Summer Workshop on Economic Theory, 富 山 大 学 経 済 学 セミナーの 参 加 者 の 方 々, 本 誌 の 2 名 の 匿 名 レフェ リーおよび 編 集 委 員 からは 大 変 有 益 なコメントをいただいた. 記 して 感 謝 したい.なお, 本 研 究 は 科 学 研 究 費 補 助 金 ( 挑 戦 的 萌 芽 研 究 課 題 番 号 20653014), 大 阪 大 学 グローバル COE 人 間 行 動 と 社 会 経 済 のダイナミクス および 日 本 経 済 研 究 奨 励 財 団 から 研 究 助 成 を 受 けた.ここに 厚 く 感 謝 の 意 を 表 したい. a 大 阪 大 学 社 会 経 済 研 究 所 e-mail: mizutani@iser.osaka-u.ac.jp b 岡 山 大 学 大 学 院 社 会 文 化 科 学 研 究 科 e-mail: okudaira@e.okayama-u.ac.jp c 名 古 屋 商 科 大 学 経 済 学 部 e-mail: kinari-yusuke@nucba.ac.jp d 大 阪 大 学 社 会 経 済 研 究 所 e-mail: ohtake@iser.osaka-u.ac.jp に 参 入 する 確 率 が 男 女 で 異 なるとしたら,それはなぜだろ うか.この 疑 問 に Niederle and Vesterlund(2007)は,4 つの 要 因 を 提 示 する. 第 1 は, 競 争 への 嗜 好 の 差 である. 将 来 の 予 想 に 対 して, 女 性 は 心 理 的 費 用 を 予 想 して 競 争 を 拒 むが, 男 性 は 心 理 的 便 益 を 予 想 して 競 争 にひきつけられ る.つまり, 女 性 より 男 性 のほうが 競 争 を 好 むために, 競 争 的 環 境 を 選 択 する 傾 向 に 違 いがあると 説 明 する. 第 2 の 要 因 は, 相 対 的 順 位 に 関 する 自 信 過 剰 の 男 女 差 である. 心 理 学 の 文 脈 では, 相 対 的 なパフォーマンスについては 男 女 ともに 自 信 過 剰 であり, 女 性 より 男 性 のほうが 自 信 過 剰 であることが 知 られている(Lichtenstein et al.(1982), Beyer(1990),Beyer and Bowden(1997)). 第 3 の 要 因 は, 危 険 回 避 度 の 男 女 差 である. 競 争 的 環 境 への 参 入 にお いて,リスク 態 度 における 潜 在 的 な 男 女 差 は 報 酬 体 系 に 影 響 を 与 える.そのため, 男 性 より 女 性 のほうが 危 険 回 避 的 ならば, 女 性 は 競 争 的 環 境 を 選 択 しない. 第 4 の 要 因 は フィードバック 回 避 度 の 男 女 差 である. 心 理 学 では 男 女 で 競 争 結 果 や 相 対 的 順 位 を 知 らされるというフィードバック に 対 して 反 応 が 異 なることが 示 唆 されている(Roberts and Nolen-Hoeksema(1989)).よって, 女 性 のほうが フィードバック 回 避 的,つまり 相 対 的 順 位 を 知 らされるこ とを 嫌 うのならば, 女 性 は 競 争 的 環 境 を 選 択 しないと 考 え られる. Niederle and Vesterlund(2007)は,アメリカの 学 生 を 対 象 に, 男 性 2 人 女 性 2 人 を 1 グループとして, 足 し 算 タ スクに 対 して, 報 酬 体 系 を 実 験 前 に 選 択 させる 場 合 と 実 験 後 に 選 択 させる 場 合 の 両 方 を 用 いて, 上 述 の 4 つの 要 因 が 競 争 的 報 酬 体 系 の 選 択 の 男 女 差 に 与 える 影 響 を 識 別 した. 報 酬 体 系 は, 自 分 の 成 果 のみに 依 存 した 非 競 争 的 報 酬 体 系 ( 歩 合 制 )と 他 人 の 成 果 にも 依 存 する 競 争 的 報 酬 体 系 (トー

水 谷 他 : 自 信 過 剰 が 男 性 を 競 争 させる 61 ナメント 制 )の 2 種 類 が 用 意 されている. 彼 女 らの 分 析 に よると,73% の 男 性 が 競 争 的 報 酬 体 系 を 好 むのに 対 し, 女 性 は 35% しか 競 争 的 報 酬 体 系 を 選 択 しない.この 競 争 的 報 酬 体 系 選 択 の 男 女 差 の 約 27% は, 女 性 より 男 性 のほう が 自 信 過 剰 であることで 説 明 できる.また, 女 性 よりも 男 性 のほうが 競 争 的 報 酬 体 系 を 好 むために 男 性 は 競 争 的 報 酬 体 系 を 選 択 する.つまり, 彼 女 らの 研 究 では, 競 争 的 環 境 選 択 の 男 女 差 は 上 述 の 4 つの 要 因 のうち, 自 信 過 剰 と 競 争 への 嗜 好 で 説 明 され,リスク 回 避 度 やフィードバック 回 避 度 は 説 明 力 を 持 たないという 結 果 が 得 られている. 本 研 究 では,Niederle and Vesterlund(2007)と 同 様 の 経 済 実 験 を, 日 本 人 学 生 を 対 象 にしておこなう. 彼 女 らの 研 究 とは 以 下 の 3 点 で 異 なる. 第 1 に,グループの 男 女 構 成 比 である.もし 男 性 のほうが 女 性 よりも 能 力 があると 予 測 しているのならば, 競 争 相 手 の 性 別 が 自 信 過 剰 に 影 響 を 与 えるかもしれない.そこで 我 々は, 男 性 2 人 女 性 2 人 だ けではなく,さまざまな 男 女 比 率 のグループで 実 験 をおこ なう.こうすることで, 男 女 構 成 比 が 自 信 過 剰 に 与 える 影 響 を 明 らかにする. 第 2 に, 自 信 過 剰 の 代 理 変 数 である. Niederle and Vesterlund(2007)では, 自 信 過 剰 の 代 理 変 数 として 予 想 順 位 を 用 いて 分 析 している.しかし,この 予 想 順 位 には, 被 験 者 の 真 の 能 力 とそれに 対 する 主 観 的 な 判 断 との 二 つの 要 素 が 含 まれている. 本 研 究 では, 被 験 者 の 真 の 能 力 と 予 想 順 位 を 利 用 して 作 成 した 自 信 過 剰 変 数 を 用 いる. 第 3 に, 危 険 回 避 度 やフィードバック 回 避 度 の 計 測 である. 競 争 的 環 境 参 入 の 意 思 決 定 の 際 に,リスク 回 避 度 やフィードバック 回 避 度 は 重 要 な 役 割 を 果 たす 可 能 性 が 高 い. 本 研 究 では,Niederle and Vesterlund(2007)で 直 接 計 測 されていなかったリスク 回 避 度 やフィードバック 回 避 度 をアンケート 調 査 で 質 問 することにより, 計 測 する.そ して, 計 測 したリスク 回 避 度 やフィードバック 回 避 度 をコ ントロールした 上 で, 競 争 に 対 する 嗜 好 や 自 信 過 剰 が 競 争 的 環 境 参 入 に 対 する 決 定 にどのように 影 響 を 与 えているか 明 らかにする. 本 研 究 は Niederle and Vesterlund(2007) の 問 題 点 を 改 善 し, 日 本 において 経 済 実 験 を 再 現 して 比 較 分 析 するという 意 味 で,Niederle and Vesterlund(2007) の 補 完 的 研 究 である. 分 析 により 以 下 の 結 果 が 得 られた.(1) 男 女 でパフォー マンスの 差 はないが, 女 性 より 男 性 のほうが 競 争 的 報 酬 体 系 (トーナメント 制 報 酬 体 系 )を 選 択 する 確 率 が 高 い.(2) そのトーナメント 参 入 の 男 女 差 の 大 部 分 は, 男 性 が 女 性 よ りも 自 信 過 剰 であることに 起 因 する.(3) 男 女 構 成 比 は 自 信 過 剰 に 影 響 を 与 える. 男 性 は 女 性 がグループにいると 自 信 過 剰 になり, 女 性 は 男 性 がグループにいないと 自 信 過 剰 になる.(4) 主 観 的 な 判 断 を 捉 える 自 信 過 剰 変 数 を 用 いて 分 析 すると,トーナメント 参 入 の 男 女 差 に 対 する 競 争 への 嗜 好 の 男 女 差 による 説 明 力 は 弱 い. 論 文 の 構 成 は 以 下 の 通 りである. 次 節 では, 実 験 の 概 要 を 説 明 する. 第 3 節 では, 実 験 の 結 果 を 利 用 し,パフォー マンスに 男 女 差 があるのか,トーナメント 参 入 に 男 女 差 が あるのか,トーナメント 参 入 の 男 女 差 はパフォーマンスに 男 女 差 によるのかを 確 認 する. 第 4 節 では,トーナメント 参 入 の 男 女 差 の 要 因 を 分 析 する. 最 後 に 第 5 節 で 全 体 を まとめる. 2. 実 験 の 概 要 本 研 究 では, 被 験 者 に 4 つのタスクを 解 かせる 実 験 をお こなう.それぞれのタスクは, 計 算 問 題 への 回 答 や 報 酬 体 系 の 選 択 である. 実 験 は, 大 阪 大 学 社 会 経 済 研 究 所 におい て 11 月 12 日,14 日,15 日 の 3 日 間 で 6 セッションおこ なった. 各 セッションには,20 人 (= 1 グループ 当 たり 4 人 5 グループ)の 被 験 者 が 参 加 した.6 セッションすべ てで,30 グループ( 男 性 60 人 女 性 60 人 )が 実 験 に 参 加 し た. セッション 1 からセッション 5 に 参 加 した 5 グループ の 男 女 構 成 は,1 男 性 4 人 女 性 0 人,2 男 性 3 人 女 性 1 人, 3 男 性 2 人 女 性 2 人,4 男 性 1 人 女 性 3 人,5 男 性 0 人 女 性 4 人 である.セッション 6 におけるグループの 男 女 構 成 は 男 性 2 人 女 性 2 人 のみである. Niederle and Vesterlund(2007)では, 被 験 者 を 横 一 列 に 着 席 させているため, 被 験 者 はグループ 内 の 他 のメン バーや 性 別 を 確 認 することができる.そのため, 競 争 相 手 のパフォーマンスがよさそうかどうか 分 かると 競 争 への 嗜 好 に 影 響 する 可 能 性 がある. 他 の 競 争 相 手 の 見 かけの 効 果 によって 競 争 への 嗜 好 が 変 化 する 可 能 性 をコントロールす るため, 本 研 究 の 実 験 では, 被 験 者 をランダムに 着 席 させ, 被 験 者 には 自 分 のグループの 男 女 構 成 だけを 知 らせている. 計 算 問 題 計 算 問 題 をおこなうタスクでは, 被 験 者 はコンピュータ 上 で 2 桁 の 数 字 を 足 し 合 わせる 計 算 問 題 を 解 く. 被 験 者 は, 計 算 機 を 使 用 してはいけないが, 配 布 したメモ 用 紙 と 鉛 筆 は 自 由 に 使 用 してもよい.2 桁 の 数 字 はランダムに 出 題 さ れる.それぞれの 問 題 は 以 下 のように 出 題 され, 被 験 者 は, 空 欄 に 合 計 を 入 力 する. 被 験 者 はコンピュータ 上 で 回 答 を 入 力 し, 次 の 問 題 へ 進 むと 前 の 回 答 の 正 否 が 同 時 に 表 示 さ れる. 累 計 問 題 数 と 累 計 正 答 数 は,コンピュータのスクリーンに 常 に 表 示 されている.1 つのタスクの 制 限 時 間 は 5 分 で, 被 験 者 は 制 限 時 間 内 にできるだけ 多 くの 問 題 を 解 く. 報 酬 体 系 と 各 タスクについては 以 下 の 通 りである. 報 酬 体 系 それぞれのタスクの 賞 金 は,グループ 内 の 順 位 は 関 係 ない

62 行 動 経 済 学 第 2 巻 歩 合 制 と,グループ 内 の 順 位 によって 賞 金 額 が 異 なるトー ナメント 制 のどちらかの 報 酬 体 系 に 基 づいて 計 算 される. 1 つのグループの 人 数 は 4 人 である. 被 験 者 は, 誰 が 自 分 のグループのメンバーなのか, 誰 がどのグループなのかは 知 ることができない. 歩 合 制 グループ 内 の 順 位 に 関 わらず,すべての 人 が 正 解 1 問 につ き,50 円 受 け 取 ることができる. トーナメント 制 グループの 中 で 一 番 正 解 数 の 多 かった 人 1 だけが, 正 解 1 問 につき 200 円 受 け 取 ることができる.グループの 中 で 一 番 正 解 数 が 多 かった 人 以 外 は, 賞 金 を 受 け 取 ることがで きない. Niederle and Vesterlund(2007)は, 歩 合 制 よりもトー ナメント 制 の 下 で, 被 験 者 が 平 均 的 により 多 く 正 答 したこ とを 示 している. 彼 女 らも 指 摘 するとおりこの 効 果 は, 報 酬 体 系 が 努 力 インセンティブを 上 昇 させる 効 果 と,タスク の 順 番 (タスク 1 歩 合 制,タスク 2 トーナメント 制 )によ る 学 習 効 果 によって 成 績 が 上 昇 する 効 果 の 2 つによって 構 成 されると 考 えられる.そこで 本 研 究 は,セッション 1 からセッション 5 では,タスク 1 の 報 酬 体 系 を 歩 合 制,タ スク 2 の 報 酬 体 系 をトーナメント 制 とし,セッション 6 で は,タスク 1 の 報 酬 体 系 をトーナメント 制,タスク 2 の 報 酬 体 系 を 歩 合 制 とする.セッション 1-5 とセッション 6 の 差 を 利 用 することにより, 学 習 効 果 の 有 無 を 確 認 するこ とが 可 能 となる. タスク 3 被 験 者 は 計 算 問 題 をおこなう 前 に, 歩 合 制 とトーナメン ト 制 のどちらで 賞 金 を 支 払 ってほしいかを 選 択 する.もし 被 験 者 がトーナメント 制 を 選 択 したならば,タスク 3 以 前 におこなったトーナメント 制 (セッション 1-5 ではタスク 2,セッション 6 ではタスク 1)のタスクにおいてグループ の 他 のメンバーの 正 答 数 よりその 被 験 者 のタスク 3 の 正 答 数 が, 多 かった 場 合 のときにだけ, 正 解 1 問 につき 200 円 受 け 取 ることができる.つまり,タスク 3 においては, 同 じグループでも 歩 合 制 を 選 択 する 被 験 者 もいればトーナ メント 制 を 選 択 する 被 験 者 もいるため,タスク 3 でトーナ メント 制 を 選 択 した 被 験 者 の 正 答 数 は,タスク 3 の 成 績 で はなく,それ 以 前 のトーナメント 制 のタスクにおけるグ ループの 他 のメンバーの 成 績 と 比 較 される.このタスク 3 の 報 酬 設 計 は,Niederle and Vestrlund(2007)と 同 じで ある. タスク 4 タスク 4 についての 説 明 は,タスク 4 の 直 前 におこなう. 被 験 者 は,このタスクでは 計 算 問 題 をしなくてもよい.こ のタスクでは, 歩 合 制 でおこなったタスク(セッション 1 グループ 内 で 一 番 正 解 数 が 多 かった 人 が 2 人 いた 場 合 は,2 人 と も 1 位 としている. 1-5 ではタスク 1,セッション 6 ではタスク 2)について, 歩 合 制 とトーナメント 制 のどちらで 賞 金 を 支 払 ってほしい かを 選 択 する. タスク 3 の 報 酬 体 系 選 択 は, 他 の 人 の 賞 金 に 影 響 を 与 え ない.そして, 他 の 人 の 報 酬 体 系 選 択 にも 影 響 を 与 えない. この 点 では,タスク 4 の 報 酬 体 系 選 択 も 同 様 に 個 人 の 選 択 タスクである.タスク 3 とタスク 4 の 違 いは, 報 酬 体 系 選 択 後 に 計 算 問 題 をする 必 要 があるかどうかである. 計 算 問 題 をする 必 要 がないタスク 4 の 報 酬 体 系 選 択 は, 自 信 過 剰 や 危 険 回 避 度,フィードバック 回 避 度 といった 競 争 への 嗜 好 以 外 の 要 因 で 決 定 される.これらの 要 因 は,タスク 3 の 報 酬 体 系 選 択 においても 影 響 を 与 える.しかし, 報 酬 体 系 選 択 後 に 計 算 問 題 をする 必 要 があるタスク 3 では,これら の 要 因 に 加 え, 競 争 的 環 境 を 好 むかといった 競 争 への 嗜 好 も 影 響 を 与 える. 予 想 問 題 タスク 4 終 了 後 に, 被 験 者 はタスク 1 とタスク 2 のグルー プ 内 における 被 験 者 自 身 の 順 位 (1 位 4 位 )を 予 想 する. 1 問 正 解 につき,100 円 受 け 取 ることができる. アンケート 予 想 問 題 終 了 後 に, 被 験 者 はアンケートに 回 答 する.アン ケートの 質 問 項 目 は, 危 険 回 避 度 やフィードバック 回 避 度, 自 信 過 剰, 時 間 選 好 率 に 関 する 質 問 のほか, 被 験 者 やその 家 族 の 属 性 に 関 する 質 問 である. 実 験 の 賞 金 について すべての 被 験 者 は 参 加 報 酬 として 2000 円 受 け 取 る.この 参 加 報 酬 とは 別 に,それぞれのタスクにおける 成 績 に 基 づ いて 賞 金 が 支 払 われる. 各 タスクの 賞 金 額 は,タスクごと の 報 酬 体 系 に 基 づいて 計 算 される. 実 際 に 支 払 われる 賞 金 は,4 つのタスクの 賞 金 額 の 中 からランダムに 1 つを 選 択 し, 賞 金 として 支 払 われる 2.さらに, 順 位 予 想 の 正 解 数 に 応 じて 賞 金 を 受 け 取 ることができる. 賞 金 額 = 2000 円 ( 参 加 報 酬 )+ 順 位 予 想 の 賞 金 額 + 4 つのタスクからランダムに 選 んだ 1 つのタスク の 賞 金 額 平 均 賞 金 額 は,3246 円 であった. 3. 実 験 結 果 3.1. 男 女 でパフォーマンスに 差 があるか? 図 1 には,セッション 1 からセッション 5 の 歩 合 制 (panel(a))とトーナメント 制 (panel(b))の 正 答 数 の 2 例 えば,すべてのタスクに 報 酬 を 与 えることにしてしまうと,あ る 特 定 のタスクだけ 努 力 し,その 他 のタスクは 努 力 しない 可 能 性 もある.ランダムに 選 択 された 1 つのタスクについて 報 酬 を 与 えることによって,ある 特 定 のタスクにおける 決 定 が, 他 のタス クにおける 結 果 のヘッジとして 使 われる 可 能 性 を 少 なくするた めである. 被 験 者 が 混 乱 する 恐 れもあるが, 実 験 の 説 明 の 後 にク イズをおこない, 被 験 者 の 理 解 を 確 認 している.

水 谷 他 : 自 信 過 剰 が 男 性 を 競 争 させる 63 図 1 正 答 数 の 累 積 分 布 関 数 (セッション 1-5) 累 積 密 度 分 布 を 示 す. 歩 合 制,トーナメント 制 どちらの 場 合 も 男 女 の 分 布 は 似 通 っている. 歩 合 制 での 男 性 の 平 均 正 答 数 は 17.16 問 で, 女 性 の 平 均 正 答 数 は 16.8 問 である.t 検 定 の 結 果, 歩 合 制 においてパフォーマンスに 男 女 差 がないという 帰 無 仮 説 は 棄 却 されない(p 値 = 0.3972).トーナメント 制 で は 男 性 の 平 均 正 答 数 は 18.36 問 で, 女 性 の 平 均 正 答 数 は 16.84 問 である.t 検 定 の 結 果,トーナメント 制 において パフォーマンスに 男 女 差 がないという 帰 無 仮 説 は 棄 却 され ない(p 値 = 0.1411).Mann-Whitney test による 男 女 の 分 布 の 差 の 検 定 においても, 歩 合 制 でもトーナメント 制 で も 男 女 の 正 答 数 の 分 布 に 有 意 な 差 はない. 歩 合 制 よりも トーナメント 制 において 正 答 数 の 男 女 差 が 見 かけ 上 は 大 き く 見 えるが, 統 計 上 は 有 意 な 違 いは 観 察 されない.セッ ション 1 からセッション 5 でのパフォーマンスについて は,Niederle and Vesterlund(2007)と 同 様 に, 男 女 差 は 確 認 されない. Niederle and Vesterlund(2007)では, 男 女 ともに 歩 合 制 よりトーナメント 制 の 成 績 のほうが 有 意 によい. 本 研 究 では, 男 性 においては 歩 合 制 よりトーナメント 制 の 成 績 が 有 意 によいが, 女 性 では 歩 合 制 とトーナメント 制 の 正 答 数 に 有 意 な 差 は 確 認 されない. 歩 合 制 とトーナメント 制 のパ フォーマンスの 分 布 の 差 の 検 定 (Wilcoxon matched-pairs signed-rank test)においても, 男 性 では 歩 合 制 とトーナメ ント 制 の 正 答 数 の 分 布 は 異 なるが, 女 性 では 両 者 の 分 布 が 同 じである. 歩 合 制 からトーナメント 制 の 成 績 の 上 昇 度 は, 男 性 の 方 が 有 意 に 高 い(p 値 = 0.0379).Niederle and Vesterlund(2007)では, 成 績 の 上 昇 度 の 男 女 差 は 確 認 さ れていない. 以 上 より, 歩 合 制 からトーナメント 制 への 成 績 の 上 昇 度 は 男 女 で 異 なるものの, 歩 合 制 においてもトーナメント 制 においてもパフォーマンスについては 男 女 差 がないことが 示 された. 3.2.トーナメントへの 参 入 に 男 女 差 は 存 在 するか? 報 酬 体 系 の 選 択 に 男 女 差 が 存 在 するのか 確 認 するために, タスク 3 における 報 酬 体 系 選 択 割 合 を 見 てみよう.セッ ション 全 体 (セッション 1-6)で 男 性 の 43% がトーナメン ト 制 を 選 択 したのに 対 し, 女 性 18% だけがトーナメント 制 を 選 択 する. 本 研 究 で Niederle and Vesterlund(2007) と 同 様 に 男 性 2 人 女 性 2 人 のみのグループでおこなった セッション 6 では, 男 性 の 60%, 女 性 の 20% だけがトーナ メントを 選 択 する. 日 本 においても 女 性 より 男 性 でトーナ メント 制 を 選 択 する 確 率 が 高 い.しかし,この 日 本 における トーナメント 選 択 確 率 は,Niederle and Vesterlund(2007) と 比 較 して 低 い. 彼 女 らの 分 析 では, 男 性 の 73%, 女 性 の 35% がトーナメントを 選 択 する. 日 本 人 はアメリカ 人 ほ ど 競 争 的 報 酬 体 系 を 選 択 しないことが 示 唆 される. 3.3.トーナメント 参 入 の 男 女 差 は,パフォーマンスの 男 女 差 によるのか? 3.2 節 で 観 察 されたトーナメント 制 の 選 択 確 率 の 男 女 差 は,パフォーマンスの 男 女 差 によるものなのであろうか, それとも 被 験 者 が 男 女 差 を 正 確 に 予 測 しているからだろう か. まず,タスク 3 における 報 酬 体 系 の 選 択 を 所 与 としたと きに,タスク 1 とタスク 2 の 男 女 のパフォーマンスに 特 徴 があるのか 確 認 してみよう. 表 1 には,セッション 1 から セッション 5 におけるタスク 3 で 選 択 した 報 酬 体 系 ごと の 平 均 正 答 数 を 男 女 別 に 示 している.タスク 3 でトーナ メント 制 を 選 択 する 人 は,タスク 1 の 歩 合 制 での 正 答 数 よ りタスク 2 のトーナメント 制 の 正 答 数 が 高 い 傾 向 にある. Niederle and Vesterlund(2007)と 同 様 に,タスク 3 で 選 択 した 報 酬 体 系 を 所 与 とすると, 男 女 のパフォーマンスに 有 意 な 差 は, 確 認 されない. 女 性 より 男 性 がトーナメント 制 を 選 択 する 確 率 が 高 いのは, 過 去 のパフォーマンスによるものではないと 考 えられる. 表 2 には,タスク 3 におけるトーナメント 制 選 択 確 率 の プロビット 推 定 の 結 果 を 示 す. 女 性 ダミーは 有 意 に 負 の 値

64 行 動 経 済 学 第 2 巻 表 1 タスク 1 とタスク 2 の 成 績 別 タスク 3 におけるトーナメント 選 択 確 率 表 2 タスク 3 におけるトーナメント 選 択 確 率 の プロビット 推 定 が 推 定 されている.タスク 1,タスク 2 の 成 績 を 所 与 とし たとき, 女 性 は 有 意 にトーナメント 制 を 選 択 する 確 率 が 低 い.しかし,Niederle and Vesterlund(2007)とは 異 な り,トーナメント 制 の 成 績 は 有 意 にタスク 3 でトーナメン ト 制 を 選 択 する 確 率 に 正 の 影 響 を 与 える. 以 上, 表 1, 表 2 より,パフォーマンスをコントロールしても, 女 性 より も 男 性 のほうがトーナメントを 選 択 することが 観 察 され た. それでは,トーナメント 選 択 の 男 女 差 は 成 績 予 測 の 正 確 性 の 男 女 差 に 起 因 するのだろうか. 図 2 には,タスク 2 (panel A)とタスク 3(panel B)の 成 績 四 分 位 別 のタスク 3 でのトーナメント 選 択 割 合 を 示 す. 成 績 予 測 に 関 して は, 男 女 ともに 不 正 確 であるが,どの 成 績 四 分 位 別 を 見 て も, 女 性 より 男 性 のほうでトーナメント 選 択 割 合 が 高 い. 女 性 ではトーナメントへ 過 小 参 入, 男 性 では 過 大 参 入 であ る 可 能 性 が 高 い. このトーナメント 参 入 の 差 の 大 きさはどの 程 度 の 賞 金 額 に 値 するのだろうか.トーナメントで 1 位 となる 正 答 数 ( 過 剰 過 少 参 入 の 分 岐 点 )を 予 測 するため,1 男 女 区 別 な しでランダムに 被 験 者 をグルーピングする.2ランダムな グルーピングの 中 でトーナメント 制 の 下 で 1 位 となる 場 合 に 1,それ 以 下 となる 場 合 に 0 をとる 変 数 (random_ win)を 作 成 する.3 random_win が 1 となる 確 率 をプロ 図 2(A) 図 2(B) 表 3 タスク 3 のトーナメント 制 選 択 割 合 タスク 2 の 成 績 四 分 位 別 タスク 3 トーナメント 制 選 択 割 合 タスク 3 の 成 績 四 分 位 別 ランダムに 発 生 させたグループで 1 位 と なる 確 率 のプロビット 推 定 からの 予 測 値

水 谷 他 : 自 信 過 剰 が 男 性 を 競 争 させる 65 表 4 タスク 3 における Over-entry と Under-entry の 期 待 費 用 ビットモデルで 推 定 する.1 3の 結 果 を 表 3 に 示 して いる. 本 研 究 のトーナメント 選 択 と 歩 合 制 が 無 差 別 になる 損 益 分 岐 点 は 18 問 であり,Niederle and Vesterlund (2007)の 13 問 より 多 い. トーナメント 制 (タスク 2)の 正 答 数 が 19 問 以 上 である ならば,その 被 験 者 は 約 32% かそれ 以 上 の 確 率 でトーナ メント 制 の 勝 者 となる.パフォーマンスコストを 無 視 し, パフォーマンスの 分 布 を 知 っていて,タスク 3 でも 同 じパ フォーマンスを 維 持 すると 仮 定 すると,トーナメント 参 入 の 決 定 は,32%(あるいはそれ 以 上 )の 確 率 で 200 円 受 け 取 るか, 確 実 に 50 円 受 け 取 るかのギャンブルである. 正 答 数 が 19 問 の 被 験 者 にとって,32% の 確 率 で 3800 円 ( 期 待 トーナメント 賞 金 1214.77 円 ) 受 け 取 るか, 確 実 に 950 円 受 け 取 るかの 選 択 である. 表 4 には 過 大 過 小 参 入 の 男 女 差 と 期 待 コストを 計 算 し た 結 果 を 示 す. 正 答 数 が 19 問 以 上 の 被 験 者 のうち,9/12 人 の 女 性 と 9/21 人 の 男 性 がトーナメントを 選 択 すべきで あるがトーナメントを 選 択 していない. 同 様 に 正 答 数 が 17 問 以 下 の 被 験 者 がトーナメント 制 の 勝 者 となる 確 率 は, 17% かそれ 以 下 である. 正 答 数 が 17 問 の 被 験 者 にとって は,17% の 確 率 で 3400 円 ( 期 待 トーナメント 賞 金 581.09 円 ) 受 け 取 るか, 確 実 に 850 円 受 け 取 るかの 選 択 である. 正 答 数 が 17 問 以 下 の 被 験 者 のうち,6 /37 人 の 女 性 と 8/ 25 人 の 男 性 がトーナメントを 選 択 すべきではないがトー ナメントを 選 択 している. 以 上 より, 女 性 は 男 性 より 過 小 参 入 の 割 合 が 大 きく, 男 性 は 女 性 よりも 過 剰 参 入 の 割 合 が 大 きいことがわかった. 過 小 参 入 の 期 待 費 用 の 平 均 は 男 性 より 女 性 で 高 く, 過 剰 参 入 の 期 待 費 用 総 額 は 女 性 より 男 性 のほうが 高 いといえる. 4.トーナメント 参 入 の 男 女 差 の 説 明 前 節 より,トーナメント 選 択 確 率 に 関 して, 女 性 より 男 性 でトーナメント 選 択 確 率 が 高 いことがわかった.そして その 男 女 差 はタスク 1 とタスク 2 のパフォーマンスの 男 表 5 トーナメント 制 の 順 位 予 想 分 布 (セッション 1-5) 女 差 によるものではなく, 成 績 予 測 能 力 の 差 によるもので ある. 具 体 的 には, 男 性 ではトーナメントへの 過 剰 参 入, 女 性 では 過 小 参 入 の 割 合 が 高 いことが 明 らかとなった. 本 節 では,トーナメント 参 入 の 男 女 差 の 原 因 を 説 明 する ことを 目 的 とする.4.1 小 節 では,トーナメント 参 入 の 男 女 差 を 男 性 の 相 対 的 順 位 に 関 する 自 信 過 剰 が 原 因 であるか どうかを 検 証 する.4.2 小 節 では, 報 酬 体 系 選 択 の 男 女 差 が 自 信 過 剰 や 危 険 回 避 度,フィードバック 回 避 度 などの 要 因 の 男 女 差 によるものなのかをタスク 4 を 利 用 して 分 析 する.4.3 小 節 では, 自 信 過 剰 や 危 険 回 避 度,フィードバッ ク 回 避 度 などの 要 因 で 説 明 されなかったトーナメント 参 入 の 男 女 差 は, 競 争 に 対 する 嗜 好 によるものなのかを 検 証 す る. 4.1. 男 性 は 女 性 よりも 自 信 過 剰 だから,トーナメント 参 入 に 男 女 差 があるのか? タスク 4 の 後, 被 験 者 にタスク 1 とタスク 2 の 順 位 を 予 想 してもらった. 被 験 者 は 予 想 順 位 が 正 解 だと 1 問 につ き 100 円 受 け 取 ることができる.トーナメント 制 の 順 位 予 想 分 布 ( 表 5)を 見 ると, 男 性 の 40% がグループ 内 で 1 位 であると 予 想 しているのに 対 し, 女 性 の 20% だけが 1 位 であると 予 想 している. 平 均 値 の 差 の 検 定 の 結 果, 男 性 のトーナメント 制 では, 実 際 の 順 位 より 予 想 順 位 のほうが 有 意 によい. 男 女 とも 相 対 的 順 位 について 自 信 過 剰 である が, 男 性 の 方 が 女 性 より 自 信 過 剰 であることが 観 察 される. また, 女 性 の 予 測 のほうがより 正 確 である. しかし,タスク 4 の 後 の 予 想 順 位 からだけでは, 自 分 の 能 力 が 真 の 能 力 よりも 高 いと 予 想 していたり, 誤 った 自 信 をもったりしているかは 区 別 できない.この 予 想 順 位 に

66 行 動 経 済 学 第 2 巻 は, 被 験 者 の 真 の 能 力 とそれに 対 する 主 観 的 な 判 断 との 二 つの 要 素 が 含 まれているからである.そこで, 主 観 的 な 判 断,つまり 自 信 過 剰 かどうかを, 真 の 能 力 と 予 想 順 位 の 差 で 定 義 する 自 信 過 剰 変 数 を 作 成 する. 真 の 能 力 は,ランダ ムに 作 成 した 4 人 グループ 内 におけるタスク 2(あるいは タスク 1)の 正 答 数 の 平 均 順 位 3 である. 真 の 能 力 を, 平 均 的 な 成 績 のグループに 属 した 時 の 順 位 で 定 義 するのは, 同 じ 成 績 でも, 成 績 のよいグループに 属 しているか, 成 績 の 悪 いグループに 属 しているかによって, 実 際 に 観 察 される 順 位 は 異 なるためである. 自 信 過 剰 変 数 は,この 平 均 順 位 から 予 想 順 位 を 引 いた 値 で 定 義 する 4. 順 位 は 1 位 から 4 位 であるので, 自 信 過 剰 変 数 は 3 から 3 の 値 をとる 変 数 である. 例 えば,タスク 2(トーナメント)の 自 信 過 剰 変 数 は, タスク 2 の 平 均 順 位 -タスク 2 の 予 想 順 位 である. 順 位 は 数 が 小 さいほど 順 位 が 高 いことを 示 すので, 自 信 過 剰 変 数 が 正 の 値 をとれば 自 信 過 剰 であることを 意 味 する. 自 信 過 剰 の 男 女 差 についてトーナメント(タスク 2)の 自 信 過 剰 変 数 を 被 説 明 変 数 とした Tobit( 両 側 Censored) 分 析 5 を 表 6 に 示 す.1,2 列 目 を 見 ると, 女 性 ダミーは 負 で 推 定 されているが, 統 計 的 に 有 意 ではない. 本 研 究 では, 1 男 性 4 人 女 性 0 人,2 男 性 3 人 女 性 1 人,3 男 性 2 人 女 性 2 人,4 男 性 1 人 女 性 3 人,5 男 性 0 人 女 性 5 人 の 5 つ のパターンの 男 女 構 成 で 実 験 をおこなった. 被 験 者 には, 自 分 のグループの 男 女 構 成 だけを 知 らせている.この 男 女 構 成 の 情 報 が, 自 信 過 剰 に 影 響 を 与 えているかもしれない. 表 6 の 3 5 列 目 では,グループの 男 女 構 成 をコントロー ルした 結 果 を 示 している.グループの 男 女 構 成 をコント ロールすると, 女 性 ダミーは 有 意 に 負 で 推 定 される(3 列 目 の 女 性 ダミーの 係 数 の p 値 = 0.110). 女 性 は 男 性 より も 自 分 の 成 績 に 自 信 がない.グループの 男 女 構 成 ダミーは 有 意 に 推 定 されている.グループの 男 女 構 成 比 は 自 信 過 剰 に 影 響 を 与 える.グループの 男 女 構 成 比 によって 自 信 過 剰 に 与 える 影 響 がどれほど 異 なるのだろうか. 図 3 には, トーナメント 正 答 数,トーナメント 正 答 数 歩 合 正 答 数 を それぞれ 平 均 値 で 評 価 したときのグループの 男 女 構 成 比 別 男 女 別 の 自 信 過 剰 変 数 の 期 待 値 を 示 す. 自 信 過 剰 変 数 3 一 様 分 布 に 従 って 乱 数 を 発 生 させ, 乱 数 の 小 さい 値 から 四 人 一 組 のグループを 作 成 し, 各 被 験 者 のタスク 2(あるいはタスク 1)の グループ 内 での 順 位 を 求 める.これを 2000 回 繰 り 返 し,タスク 2(あるいはタスク 1)での 平 均 順 位 を 求 めた. 4 自 信 過 剰 変 数 ( 歩 合 : タスク 1)の 平 均 値 は 0.27( 標 準 偏 差 0. 942), 自 信 過 剰 変 数 (トーナメント: タスク 2)の 平 均 値 は 0.26( 標 準 偏 差 0.997)であった. 5 Niederle and Vesterlund(2007)と 同 様 に 予 想 トーナメント 順 位 を 被 説 明 変 数 とした Ordered Probit でも 分 析 をおこなってい る.その 結 果, 女 性 ダミーの 係 数 は 有 意 に 正 の 値 で 推 定 されてい る.グループの 男 女 構 成 をコントロールしても, 女 性 ダミーの 係 数 は 有 意 に 負 であり,グループの 男 女 構 成 ダミーも 有 意 に 推 定 さ れている.つまり, 女 性 は 男 性 よりも 予 想 順 位 が 悪 く,グループ の 男 女 構 成 比 も 予 想 順 位 に 影 響 を 与 えている. は, 正 であれば 自 信 過 剰 であることを 示 し, 値 が 大 きいほ ど 自 信 過 剰 の 程 度 が 大 きいことを 示 す. 図 3 によれば, 男 性 は, 男 性 だけのグループで 最 も 自 信 過 剰 の 程 度 が 小 さく なる. 一 方, 女 性 は, 女 性 だけのグループで 最 も 自 信 過 剰 の 程 度 が 大 きくなる.つまり, 男 性 は 女 性 がいないと 自 信 過 剰 の 程 度 が 小 さくなり, 女 性 は 男 性 がいないと 自 信 過 剰 の 程 度 が 大 きくなる. もし 自 信 過 剰 な 人 ほど 競 争 に 参 加 するのならば, 本 研 究 で 観 察 された 女 性 だけのグループで 女 性 の 自 信 過 剰 の 程 度 が 大 きくなるという 結 果 は,Niederle et al.(2008)の 2 人 の 勝 者 がいるトーナメント 制 において 少 なくとも 1 人 の 女 性 が 勝 者 となる 制 度 を 導 入 すると, 女 性 は 競 争 に 参 加 す ることと 整 合 的 であると 考 えられる. それでは,パフォーマンスを 所 与 としたときに 男 性 がよ りトーナメントに 参 入 することは, 男 性 がより 自 信 過 剰 で あることで 説 明 されるのだろうか.まず,タスク 2(トー ナメント)の 予 想 順 位 別 トーナメント(タスク 3)の 選 択 確 率 を 図 4 に 示 す. 順 位 予 想 はある 程 度 トーナメント 選 択 と 相 関 があることが 観 察 される.また, 全 体 的 に 男 性 は 女 性 よりも 順 位 を 高 く 予 想 する.タスク 2(トーナメント) を 1 位 と 予 想 した 人 に 限 ると, 男 性 よりも 女 性 でトーナメ ント 選 択 確 率 が 低 い.したがって,トーナメント 選 択 の 男 女 差 は 自 信 過 剰 ( 予 想 順 位 )によって 説 明 できると 考 えら れる. 表 7 はタスク 3 におけるトーナメント 選 択 確 率 のプロ ビット 推 定 の 結 果 を 示 している. 第 3 列 を 見 ると, 自 信 過 剰 をコントロールした 後 でも, 男 女 のトーナメント 選 択 確 率 に 有 意 な 差 が 確 認 される.また, 自 信 過 剰 変 数 の 係 数 は 統 計 的 に 有 意 であり,タスク 3 のトーナメント 選 択 確 率 に 影 響 を 与 えている. 以 上 の 結 果 より, 男 性 は 女 性 よりも 相 対 的 順 位 について 自 信 過 剰 であり, 女 性 は 男 性 よりも 自 信 がないことがわ かった.またトーナメント 選 択 の 男 女 差 は 自 信 過 剰 の 男 女 差 によって 説 明 できることが 明 らかとなった. 4.2.なぜ 男 性 のほうが 女 性 よりトーナメントを 選 択 する のか? そのほかの 要 因 それでは,トーナメント 選 択 確 率 の 男 女 差 は, 相 対 的 順 位 に 関 する 自 信 過 剰 以 外 のほかの 要 因 によって 説 明 される のだろうか. 本 小 節 では,タスク 4 を 利 用 して, 報 酬 体 系 選 択 後 にタスクをする 可 能 性 がないときにトーナメント 参 入 に 男 女 差 が 観 察 されるか 確 認 する. タスク 4 では,タスク 1( 歩 合 制 )の 成 績 に 関 して, 女 性 は 23% だけがトーナメントを 選 択 するのに 対 し, 男 性 の 40% がトーナメントを 選 択 する(セッション 1-5). 報 酬 体 系 の 選 択 がその 後 に 行 うタスクと 関 係 しないときでさ え,トーナメント 参 入 に 男 女 差 がある.パフォーマンスや タスク 1( 歩 合 制 )の 成 績 の 予 想 から 計 算 した 自 信 過 剰 変 数 を 所 与 としたときでも,この 男 女 差 は 観 察 されるだろう

水 谷 他 : 自 信 過 剰 が 男 性 を 競 争 させる 67 表 6 自 信 過 剰 変 数 (トーナメント:タスク 2)に 関 する Tobit( 両 側 Censored) 推 定 (セッション 1-5) 図 4 タスク 3 のトーナメント 選 択 割 合 タスク 2 の 予 想 順 位 別 図 3 自 信 過 剰 変 数 の 期 待 値 男 女 構 成 比 別, 男 女 別 か. 予 想 をコントロールすることによって,トーナメント 参 入 の 男 女 差 が 自 信 過 剰 によって 説 明 されるのか,それと も 危 険 回 避 度 やフィードバック 回 避 度 によって 説 明 される のか 確 認 することができる. 表 8 は,タスク 1 とタスク 2 の 成 績 別 にタスク 4 のトー ナメント 選 択 確 率 の 平 均 値 を 示 したものである.Niederle and Vesterlund(2007)では 女 性 では 平 均 値 に 差 はなかっ たが, 本 稿 では, 男 女 ともにタスク 4 で 歩 合 制 を 選 択 した 人 よりトーナメント 制 を 選 択 した 人 のほうが 歩 合 制 (タス ク 1)の 正 答 数 の 平 均 値 は 高 い. 表 7 タスク 3 におけるトーナメント 選 択 確 率 の プロビット 分 析

68 行 動 経 済 学 第 2 巻 表 8 タスク 1 とタスク 2 の 成 績 別 タスク 4 におけるトーナメント 選 択 確 率 図 5 タスク 4 のトーナメント 制 選 択 割 合 図 5(A)は,タスク 1( 歩 合 制 )のパフォーマンスを 所 与 としたときのタスク 4 のトーナメント 選 択 割 合 を 示 し ている.パフォーマンスを 所 与 としたとき, 第 2 四 分 位 で 男 女 差 が 強 く 確 認 される. 以 上 より,Niederle and Vesterlund(2007)ほど 明 確 な 男 女 差 ではないが,タスク 4 でのトーナメント 選 択 の 男 女 差 はパフォーマンスの 男 女 差 による 可 能 性 がある. 自 信 過 剰 の 影 響 と 危 険 回 避 度, フィードバック 回 避 度 の 影 響 を 識 別 するために 歩 合 制 (タ スク 1)の 順 位 予 想 を 利 用 する. 図 5(B)には, 予 想 順 位 ( 歩 合 制 )ごとのトーナメント 選 択 確 率 を 示 す.タスク 3 の 場 合 とは 異 なり,タスク 4 でのトーナメント 選 択 の 男 女 差 はかなり 小 さい. 男 女 ともにより 自 信 のある 人 がより トーナメントを 選 択 している. 表 9 には,タスク 4 におけるトーナメント 選 択 確 率 のプ ロビット 推 定 の 結 果 を 示 す 6. 女 性 ダミーは 統 計 的 に 有 意 な 値 に 推 定 されておらず,タスク 4 での 報 酬 体 系 選 択 に 男 女 差 はない. 本 研 究 においても,Niederle and Vestrlund(2007)に おいても, 正 答 数 が 真 の 実 力 をあらわしており,それをコ 6 Niederle and Vesterlund(2007)あるいは 表 9と 同 様 に, 歩 合 制 (タスク 1)の 予 想 順 位 を 用 いた 分 析 でも 表 10と 整 合 的 な 結 果 が 得 られている. ントロールしたうえで, 自 信 過 剰 変 数 がトーナメント 選 択 に 影 響 を 与 えるか 否 かを 検 定 している.3 列 目 によれば, タスク 4 のトーナメント 選 択 は,パフォーマンスと 自 信 過 剰 によって 説 明 される. 以 上 に 加 えて,トーナメント 選 択 に 影 響 を 与 える 個 人 属 性 としては,フィードバック 回 避 度 や 危 険 回 避 度 がある. 本 研 究 では,Niederle and Vesterlund(2007)で 直 接 計 測 されていなかったフィードバック 回 避 度 や 危 険 回 避 度 につ いて,アンケートによって 質 問 している.フィードバック 回 避 度 とは, 相 対 的 な 評 価 を 知 らされることを 嫌 う 度 合 い である. 本 稿 では,つぎの 質 問 によって,フィードバック 回 避 度 を 計 測 した. 問 1. 学 校 の 定 期 試 験 の 結 果 が, 合 否 に 加 えて 実 際 の 点 数 ( 絶 対 評 価 )か, 受 験 者 の 中 での 順 位 ( 相 対 評 価 )の どちらか 一 方 で 知 らされるとします.あなたは,ど ちらで 知 らせてもらいたいですか. 当 てはまるもの を 1 つ 選 び, 番 号 に をつけてください. 1. 点 数 ( 絶 対 評 価 )2. 順 位 ( 相 対 評 価 ) フィードバック 回 避 度 は,この 質 問 において, 点 数 ( 絶 対 評 価 )を 選 んだものを 1, 順 位 ( 相 対 評 価 )を 0 とするダ

水 谷 他 : 自 信 過 剰 が 男 性 を 競 争 させる 69 ミー 変 数 である. 危 険 回 避 度 は, 絶 対 的 危 険 回 避 度 とよばれる 指 標 と 雨 傘 を 携 行 する 最 低 降 水 確 率 で 測 ったリスクに 対 する 態 度 の 指 標 を 用 いる. 絶 対 的 危 険 回 避 度 の 指 標 は,アンケート 調 査 における 次 のくじの 価 格 付 けに 関 する 質 問 から 算 出 した. 問 14.4 分 の 1 の 確 率 で 当 たり, 当 たった 場 合 には 200 円 もらえますが, 外 れた 場 合 には 何 ももらえない 宝 くじがあります.あなたはこのくじが 50 円 で 売 られていれば 買 いますか. 当 てはまるものを 1 つ 選 び, 番 号 に をつけてください. 絶 対 的 危 険 回 避 度 の 指 標 は Cramer et al.(2002)によっ て 作 成 されたものであり, az p 絶 対 的 危 険 回 避 度 = 0.5 (az 2aZp+p ) で 定 義 される.ここで,Z はくじの 賞 金 を,a は 当 選 確 率 を,p は 回 答 者 がそのくじに 付 けた 価 格 である. 危 険 回 避 的 であれば, 絶 対 的 危 険 回 避 度 は, 正 の 値 をとる.アンケー ト 調 査 では,くじの 賞 金 として,200 円 のものと 2000 円 のものがあり,それぞれについて, 絶 対 的 危 険 回 避 度 を 算 出 し, 説 明 変 数 として 加 えた. また, 雨 傘 を 携 行 する 最 低 降 水 確 率 で 測 ったリスクに 対 する 態 度 の 指 標 は, あなたが 普 段 お 出 かけになる 時 に, 傘 をもって 出 かけるのは 降 水 確 率 が 何 % 以 上 だと 思 う 時 で すか. という 質 問 に 対 する 回 答 を 用 いている. 危 険 回 避 度 が 高 いほどこの 変 数 の 値 は 大 きい. 4 7 列 目 では,それらの 変 数 をコントロールし,タスク 4 におけるトーナメント 選 択 確 率 のプロビット 推 定 の 結 果 を 示 している.フィードバック 回 避 度 や 危 険 回 避 度 をコン トロールしても 自 信 過 剰 変 数 の 係 数 は 統 計 的 に 有 意 であ る.また, 女 性 ダミーも 統 計 的 に 有 意 ではない. 自 信 過 剰 やそのほかの 要 因 をコントロールしても,タスク 4 のトー ナメント 選 択 に 男 女 差 がない.これは,タスク 3 の 男 女 差 が 競 争 への 嗜 好 で 説 明 できる 可 能 性 を 示 唆 している. 以 上 より,タスク 4 のトーナメント 選 択 には 男 女 差 が 観 察 されなかった.タスク 4 のトーナメント 選 択 にはパ フォーマンスや 自 信 過 剰 が 影 響 を 与 える. 自 信 過 剰 やその ほかの 要 因 をコントロールしても,タスク 4 のトーナメン ト 選 択 に 男 女 差 がないことは,タスク 3 の 男 女 差 は 競 争 へ の 嗜 好 によって 説 明 できることを 示 唆 している. 4.3.なぜ 男 性 のほうが 女 性 よりトーナメントを 選 択 する のか? 競 争 への 嗜 好 タスク 3,タスク 4 では, 歩 合 制 かトーナメント 制 の 報 酬 体 系 の 選 択 をする.タスク 3 では, 報 酬 体 系 を 選 択 した 後 に 実 際 のタスク( 計 算 問 題 )を 行 う. 一 方,タスク 4 で は, 既 に 行 ったタスク 1( 歩 合 制 )について 報 酬 体 系 の 選 択 を 行 う.タスク 3 における 報 酬 体 系 選 択 の 要 因 は, 自 信 過 剰, 危 険 回 避 度,フィードバック 回 避 度, 競 争 への 嗜 好 (preference)である.タスク 4 における 報 酬 体 系 選 択 の 要 因 は, 自 信 過 剰, 危 険 回 避 度,フィードバック 回 避 度 で ある.したがってタスク 3 とタスク 4 の 結 果 を 比 較 する ことで,トーナメント 選 択 の 男 女 差 が 競 争 への 嗜 好 に 表 9 タスク 4 におけるトーナメント 選 択 確 率 のプロビット 推 定 (セッション 1-5)

70 行 動 経 済 学 第 2 巻 図 6 トーナメント 制 選 択 割 合 予 想 順 位 別 よって 説 明 されるか 確 認 することができる. 図 6 は 予 想 順 位 別 のトーナメント 選 択 割 合 ((A): タス ク 3,(B): タスク 4)である.(A)は, 予 想 順 位 に 関 わら ず 女 性 より 男 性 のほうがトーナメント 制 報 酬 体 系 を 選 ぶ 比 率 が 高 いことを 示 しており, 男 性 の 方 が 競 争 そのものを 好 む 可 能 性 が 高 いことを 示 唆 している. 一 方,(B)は,タス ク 4 では, 予 想 順 位 が 同 じであれば,トーナメント 選 択 比 率 に 差 がないことを 示 しており, 確 定 した 競 争 結 果 につい ての 報 酬 選 択 については 男 女 差 がないことを 示 唆 してい る 7.この 点 を, 計 量 経 済 学 的 に 検 定 したものが 表 10 であ る. 表 10 は,タスク 3 におけるトーナメント 選 択 確 率 のプ ロビット 推 定 の 結 果 である 8.1 列 目 で 女 性 ダミーの 係 数 が 統 計 的 に 有 意 に 負 の 値 をとっていることは,タスク 3 に おいて 女 性 のほうがトーナメントを 選 択 しないことを 意 味 する.パフォーマンスや 自 信 過 剰 変 数 をコントロールして も(2,3 列 目 ),トーナメント 選 択 確 率 の 男 女 差 は 観 察 さ れる. 先 に 述 べたように,タスク 3 の 報 酬 体 系 選 択 要 因 は, 自 信 過 剰, 危 険 回 避 度,フィードバック 回 避 度, 競 争 への 嗜 好 である. 一 方,タスク 4 の 報 酬 体 系 選 択 要 因 は, 自 信 過 7 確 定 した 競 争 結 果 についての 予 想 順 位 が 2 4 位 であれば,タス ク 4 でトーナメント 制 を 選 択 しないはずである.しかし 図 6(B) では, 予 想 順 位 が 2 位 以 下 でもトーナメント 制 を 選 択 している. これは,タスク 1 やタスク 2 の 直 後 ではなく,すべてのタスク(タ スク 4) 終 了 後 に, 予 想 順 位 を 質 問 しているためであると 考 えら れる. 8 Niederle and Vesterlund(2007)と 同 様 に 予 想 順 位 を 用 いて,タ スク 3 のトーナメント 選 択 確 率 のプロビット 推 定 をおこなった 結 果 を 付 録 に 示 している. 自 信 過 剰 の 代 理 変 数 として 予 想 順 位 を 用 いると, 予 想 順 位 の 係 数 は 統 計 的 に 有 意 に 推 定 されるが, 女 性 ダミーの 有 意 性 は 不 安 定 である. 予 想 順 位 を 用 いた 場 合 には, 競 争 への 嗜 好 の 説 明 力 は 限 定 的 であると 考 えられる. 剰, 危 険 回 避 度,フィードバック 回 避 度 である.パフォー マンスや 自 信 過 剰 変 数 に 加 えて,タスク 4 での 選 択 をコン トロールした 上 で, 女 性 ダミーの 係 数 を 観 察 することで, 競 争 への 嗜 好 の 男 女 差 がタスク 3 のトーナメント 選 択 確 率 の 差 に 影 響 を 与 えているかどうかを 確 認 しよう.4 列 目 を 見 てみると, 女 性 ダミーの 係 数 は 統 計 的 に 有 意 ではない. 自 信 過 剰 かどうかという 真 の 能 力 に 対 する 主 観 的 な 判 断 を より 捉 えていると 考 えられる 自 信 過 剰 変 数 を 用 いると, Niederle and Vesterlund(2007)の 結 果 よりも, 競 争 への 嗜 好 の 男 女 差 の 説 明 力 は 弱 い.タスク 3 のトーナメント 選 択 の 男 女 差 の 大 部 分 は, 自 信 過 剰 によって 説 明 されると 考 えられる 9. 4 列 目 では,タスク 4 の 報 酬 体 系 選 択 要 因 の 差 から, 競 争 への 選 好 を 識 別 し,その 影 響 を 検 証 した.4 列 目 の 検 定 方 法 は,タスク 3 とタスク 4 の 違 いが, 実 際 に 競 争 を 行 う か 否 かという 点 にあり, 純 粋 に 競 争 選 好 の 男 女 差 を 検 定 で きるという 点 で 優 れているが, 自 信 過 剰, 危 険 回 避 度, フィードバック 回 避 度 などのそれぞれの 選 好 の 差 がトーナ メント 選 択 に 与 える 影 響 を 分 析 できない.タスク 4 の 報 酬 体 系 の 選 択 要 因 に 含 まれる 自 信 過 剰,フィードバック 回 避 度 や 危 険 回 避 度 をそれぞれアンケート 調 査 から 計 測 し, それらがタスク 3 の 報 酬 体 系 選 択 に 影 響 を 与 えているの かを 5 列 目 で 観 察 する.5 列 目 によると, 自 信 過 剰 のほか, フィードバック 回 避 度 ( 絶 対 評 価 = 1, 相 対 評 価 = 0)がタス ク 3 の 報 酬 体 系 選 択 に 影 響 を 与 えていることが 確 認 でき る. 以 上 より,より 厳 密 に 自 信 過 剰 を 捉 える 自 信 過 剰 変 数 を 用 いた 本 稿 では,トーナメント 参 入 の 男 女 差 に 対 する 競 争 への 嗜 好 の 男 女 差 の 説 明 力 は 弱 い.トーナメント 参 入 の 男 9 タスク 4 のトーナメント 選 択 の 大 部 分 は, 自 信 過 剰 によって 説 明 される( 表 9)

水 谷 他 : 自 信 過 剰 が 男 性 を 競 争 させる 71 表 10 タスク 3 トーナメント 選 択 確 率 のプロビット 推 定 (セッション 1-5) 自 信 過 剰 変 数 女 差 の 大 部 分 は, 自 信 過 剰 の 男 女 差 によって 説 明 される. 本 研 究 においては, 競 争 に 対 する 嗜 好 の 男 女 差 の 説 明 力 は 弱 いが,こうした 競 争 に 対 する 態 度 の 男 女 差 は, 遺 伝 的 なものなのだろうか,それとも 文 化 的 なものなのだろうか. Gneezy et al.(2008)では,アフリカのマサイ 族 という 父 系 的 社 会 とインドのカシ 族 という 母 系 的 社 会 での 競 争 への 嗜 好 の 男 女 差 を 明 らかにする 実 験 をおこなっている.その 結 果, 母 系 的 社 会 のカシ 族 では,Niederle and Vesterlund (2007)やマサイ 族 の 実 験 とは 逆 に, 女 性 の 方 が 男 性 より も 競 争 が 好 きであることが 示 されている. 競 争 への 嗜 好 の 男 女 差 は, 遺 伝 的 というよりも 文 化 や 教 育 によって 形 成 さ れることを Gneezy et al.(2008)は 推 測 している. また,Booth and Nolen(2009)では, 競 争 に 対 する 態 度 の 男 女 差 は, 育 ちや 教 育 的 環 境 によって 影 響 を 受 けている のかを, 男 子 校 や 女 子 校, 共 学 に 通 う 10-11 歳 の 学 生 を 被 験 者 とし, 実 験 をおこなって, 検 証 している.その 結 果 に よれば, 共 学 出 身 の 女 性 は, 男 子 校 や 共 学 の 男 性 よりも 競 争 的 環 境 を 選 択 しない.しかし, 女 子 校 出 身 の 女 性 は 共 学 出 身 の 女 性 よりも 競 争 的 環 境 を 選 択 しやすい. 女 子 校 出 身 の 女 性 は, 男 子 校 出 身 の 男 性 と 同 様 に 競 争 的 環 境 を 選 択 す る.このことは, 競 争 への 嗜 好 の 男 女 差 は, 遺 伝 的 な 男 女 差 というよりも, 育 ちや 環 境 によるものであることを 示 唆 している. 本 研 究 においては, 競 争 への 参 入 の 男 女 差 のほとんどは 自 信 過 剰 の 男 女 差 で 説 明 される.そして,その 自 信 過 剰 は 競 争 相 手 の 男 女 構 成 比 によって 影 響 を 受 ける. 男 性 は 男 性 だけのグループで 最 も 自 信 過 剰 の 程 度 が 小 さくなり, 女 性 は 女 性 だけのグループで 最 も 自 信 過 剰 の 程 度 が 大 きくな る.Gneezy et al.(2008)や Booth and Nolen(2009)の 結 果 を 踏 まえれば, 日 本 においても 自 信 過 剰 の 男 女 差 を 通 して, 文 化 や 教 育, 環 境 の 差 が 競 争 環 境 参 入 の 男 女 差 を 発 生 させている 可 能 性 があるだろう. 5.おわりに 本 稿 では,Niederle and Vesterlund(2007)と 同 様 の 経 済 実 験 を 行 い, 上 層 部 や 競 争 的 地 位 に 女 性 が 少 ないという 労 働 市 場 の 差 が,パフォーマンスの 男 女 差 によるものなの か, 競 争 に 対 する 嗜 好 の 男 女 差 によるものなのかを 確 認 し た. Niederle and Vesterlund(2007)で 直 接 計 測 されてい なかった 危 険 回 避 度 やフィードバック 回 避 度 に 関 してアン ケート 調 査 を 用 いることでそれらの 要 因 を 捉 えたこと, 男 女 構 成 比 が 自 信 過 剰 に 与 える 影 響 を 明 らかにしたことに 特 徴 がある. 分 析 の 結 果,(1) 男 女 でパフォーマンスの 差 はないが, 女 性 より 男 性 のほうが 競 争 的 報 酬 体 系 (トーナメント 制 報 酬 体 系 )を 選 択 する 確 率 が 高 い.(2)そのトーナメント 参 入 の 男 女 差 の 大 部 分 は, 男 性 が 女 性 よりも 自 信 過 剰 である ことに 起 因 する.(3) 男 女 構 成 比 は 自 信 過 剰 に 影 響 を 与 え る. 男 性 は 女 性 がグループにいると 自 信 過 剰 になり, 女 性 は 男 性 がグループにいないと 自 信 過 剰 になる.(4) 相 対 的 自 信 過 剰 の 程 度 をコントロールして 分 析 すると,トーナメ ント 参 入 の 男 女 差 に 対 する 競 争 への 嗜 好 の 男 女 差 の 影 響 は 弱 い.

72 行 動 経 済 学 第 2 巻 付 録 タスク 3 トーナメント 選 択 確 率 のプロビット 推 定 (セッション 1-5) 予 想 順 位 を 用 いて 1 4 列 目 は Niederle and Vesterlund(2007)の 分 析 を 再 現 した 結 果 であり,5 6 列 目 は Niederle and Vesterlund (2007)で 直 接 計 測 されていなかったフィードバック 回 避 度 や 危 険 回 避 度 などをアンケートからのデータにより 捉 えた 分 析 結 果 である.Niederle and Vesterlund(2007)では, 女 性 ダ ミーの 係 数, 予 想 順 位 の 係 数 が 統 計 的 に 有 意 な 値 をとってお り,トーナメント 制 選 択 の 男 女 差 は, 競 争 への 嗜 好 の 男 女 差 と 自 信 過 剰 の 男 女 差 で 説 明 された.しかし, 本 研 究 では, 予 想 順 位 の 係 数 は 統 計 的 に 有 意 であるが, 女 性 ダミーの 有 意 性 は 不 安 定 であり, 競 争 への 嗜 好 の 説 明 力 は 限 定 的 であると 考 えら れる. 引 用 文 献 Bertrand, M. and K. F. Hallock, 2001. The gender gap in top corporate jobs. Industrial and Labor Relations Review, LV (1), 3-21. Beyer, S., 1990. Gender differences in the accuracy of selfevaluations of performance. Journal of Personality and Social Psychology LIX, 960-970. Beyer, S. and E. M. Bowden, 1997. Gender differences in selfperceptions: Convergent evidence from three measures of accuracy and bias. Personality and Social Psychology Bulletein XX Ⅲ, 157-172. Booth, A. L. and P. J. Nolen, 2009. Choosing to compete: How different are girls and boys? IZA discussion Papers 4027, Institute for the Study of Labor (IZA). Cramer, J. S., J. Hartog, N. Jonker, and C. M. van Praag, 2002. Low risk aversion encourages the choice for entrepreneurship: An empirical test of atruism. Journal of Economic Behavior and Organization 48, 29-36. Gneezy, U., K. L. Leonard and J. A.List, 2008. Gender difference in competition: Evidence from a matrilineal and patriarchal society. forthcoming in Econometrica. Lichtenstein, S., B. Fischhoff, and L. Phillips, 1982. Calibration of probabilities: The state of the art to 1980. D. Kahneman, P. Slovic, and A. Tverksy, eds., Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases. Cambridge University Press, Cambridge, UK. Niederle, M., C. Segal, and L. Vesterlund, 2008. How costly is diversity? Affirmative action in light of gender difference in competitiveness. NBER Working Paper #13923. Niederle, M. and L. Vesterlund, 2007. Do women shy away from competition? Do men compete too much? Quarterly Journal of Economics 122, 1067-1101. Roberts, T. A. and S. Nolen-Hoeksema, 1989. Sex differences in reactions to evaluative feedback. Sex Roles 21, 725-747.

水 谷 他 : 自 信 過 剰 が 男 性 を 競 争 させる 73 Overconfidence Makes Men Compete More Noriko Mizutani a, Hiroko Okudaira b, Yusuke Kinari c, and Fumio Ohtake d Abstract We conduct an experiment using Japanese university students, to investigate differences between men and women in choosing a competitive tournament compensation scheme over a non-competitive compensation scheme. Our findings are the following: (1) Men enter the competitive tournament compensation scheme more than women although there are no gender differences in performance. (2) This gender gap in tournament entry is mostly caused by men being more overconfident about their relative rankings. (3) The male-female ratio of the group affects overconfidence about the relative ranking. Men get overconfident if there are any women in their groups. On the other hand, women get overconfident if no men are in their groups. (4) Gender differences in preferences for competition weakly affect the gender gap in tournament entry given the degree of the relative ranking. (Received: May 28, 2009, Accepted: July 23, 2009) Keywords: Preferences for competition, overconfidence, economic experiment JEL Classification Numbers: C9, J33, J16 a Institute of Social and Economic Research, Osaka University e-mail: mizutani@iser.osaka-u.ac.jp b Graduate School of Humanities and Social Science, Okayama University e-mail: okudaira@e.okayama-u.ac.jp c Nagoya University of Commerce and Business Administration e-mail: kinari-yusuke@nucba.ac.jp d Institute of Social and Economic Research, Osaka University e-mail: ohtake@iser.osaka-u.ac.jp