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* 空 間 のイメージの 変 遷 佐 野 正 博 1 現 代 人 の 空 間 イメージ 1 --- 関 係 としての 空 間 と 広 がりとしての 空 間... 1 2 古 代 における 空 間 論 争 --- 空 虚 の 問 題 をめぐる 争 い... 1 3 近 代 における 空 間 論 争 (1) --- 運 動 記 述 の 相 対 性... 2 4 近 代 における 空 間 論 争 (2) --- 絶 対 空 間 と 運 動 の 絶 対 性... 3 5 近 代 における 空 間 論 争 (3) --- 関 係 としての 空 間... 4 * 本 原 稿 の 初 出 は 佐 野 正 博 (1990) 空 間 のイメージの 変 遷 数 理 科 学 1990 年 9 月 号,pp.15-19 である デジタル 化 に 際 し て 表 記 の 一 部 を 変 更 した

1 現 代 人 の 空 間 イメージ 1 --- 関 係 としての 空 間 と 広 がりとしての 空 間 空 間 とはどんなものですか と 聞 かれた 時 に 現 代 人 の 多 くがイメージするのは たぶんx y z 軸 からなる 三 次 元 座 標 空 間 であろう この 座 標 空 間 としての 空 間 というイメージは 近 代 科 学 の 一 つの 成 果 として 形 成 された のであるが よく 考 えてみるとそのイメージの 中 には 二 つの 空 間 概 念 が 入 り 混 じっている その 一 つは 物 体 の 空 間 的 位 置 座 標 に 表 現 されている 空 間 概 念 すなわち 関 係 としての 空 間 というもので ある 座 標 原 点 を 空 間 中 のどこに 置 くにしろ 座 標 原 点 がどこかに 置 かれていなければ 物 体 の 空 間 的 位 置 を 論 じることはまったくできない そして 物 体 の 空 間 的 位 置 座 標 はその 物 体 が 座 標 原 点 から 見 てどの 方 向 にどれ だけの 距 離 だけ 離 れているのかということによって 表 現 される すなわち 物 体 の 空 間 的 位 置 は 座 標 原 点 との 関 係 で 与 えられるのである もう 一 つの 空 間 概 念 は 第 一 の 空 間 概 念 の 考 察 において 座 標 原 点 を 空 間 の 中 のどこかに 置 く という 操 作 の 中 に 前 提 されているもの すなわち 広 がりとしての 空 間 である 論 理 的 には 座 標 原 点 も 座 標 軸 も 存 在 しな い 空 間 的 広 がりそのものが 存 在 すると 考 えられる 実 際 われわれが 空 間 的 位 置 座 標 を 図 示 しながら 幾 何 学 の 問 題 を 解 こうとする 時 には 座 標 原 点 や 座 標 軸 を 書 き 込 むための 白 紙 が 必 要 である 座 標 原 点 や 座 標 軸 が 書 き 込 まれる 白 紙 に 対 応 するものが 空 間 的 広 がりなのである 関 係 としての 空 間 と 広 がりとしての 空 間 というこうした 二 つの 空 間 概 念 が 混 じりあって 座 標 空 間 というわれ われの 空 間 イメージを 構 成 している このことは 空 間 に 関 する 古 代 からの 数 多 くの 歴 史 的 議 論 の 反 映 でもある そのことをこれから 見 ていくことにしよう 2 古 代 における 空 間 論 争 --- 空 虚 の 問 題 をめぐる 争 い 古 代 において 空 間 の 問 題 は 空 虚 が 存 在 するのかしないのかということをめぐって 論 じられた パルメニデスや メリッソスらのエレア 派 の 古 代 ギリシア 哲 学 者 たちは 空 虚 は 無 であり 無 であるものは 存 在 しない として 空 虚 の 存 在 を 否 定 した そして 彼 らは 世 界 がいたるところで 等 質 な 連 続 体 によって 満 たされていると 考 えていた これに 対 してデモクリトスやエピクロスやルクレティウスらの 古 代 の 原 子 論 者 たちは 空 虚 が 実 在 すると 主 張 した というのも 彼 らによれば 空 虚 がなければ 運 動 は 不 可 能 だからである 世 界 がすき 間 なしに 物 体 でぎっしりと 詰 まっているのであればどの 物 体 も 動 くことはできない ところが 物 体 の 運 動 は 存 在 する したがって 空 虚 が 存 在 する というのである このことは 人 がほとんど 乗 っていない 早 朝 の 始 発 電 車 の 中 では 自 由 に 動 き 回 ることができるのに 乗 車 率 が 200%を 超 えるようなすし 詰 め 状 態 の 満 員 電 車 の 中 では 身 動 きもままならず 目 的 の 駅 で 降 りられないことさえも あるということを 考 えてみれば 理 解 できよう しかし 当 然 のことながら こうした 原 子 論 者 たちの 主 張 に 対 しては 空 気 の 存 在 を 理 由 とした 批 判 があった 日 常 感 覚 的 には 空 虚 と 思 える 空 間 すなわち 見 たり 触 ったりすることができるような 物 体 が 何 一 つない 空 間 とい えども 空 気 という 物 体 で 満 たされている 原 子 論 者 たちは 空 気 で 満 ちている 空 間 を 空 虚 と 思 っているのだとい うように 原 子 論 を 批 判 する 人 々が 古 代 にもいた こうした 批 判 に 対 して 原 子 論 者 は 空 気 の 中 にも 空 虚 が 存 在 すると 反 論 した 空 気 の 中 に 空 虚 が 含 まれること は 空 気 が 収 縮 したり 膨 張 したりするという 経 験 によって 証 明 されている 例 えば 空 気 を 吹 き 込 んで 膨 らませて からヒモできつく 縛 った 皮 袋 を 水 の 中 深 くに 沈 めれば その 皮 袋 から 空 気 が 少 しも 漏 れ 出 なくとも 皮 袋 がしぼむ そしてまた 再 び 水 面 近 くにその 皮 袋 をもってくれば, 皮 袋 の 中 に 何 も 入 らなかったにも 関 わらず 元 通 りの 大 きさ 1

にまで 膨 らむ こうしたことは 空 気 がモノのぎっしりと 詰 まった 連 続 体 ではなく それを 構 成 する 物 体 の 間 に 空 虚 が 存 在 すると 考 えなければ 説 明 できない すなわち, 空 気 が 圧 縮 される 時 には 原 子 が 互 いに 接 近 するために 空 気 の 中 の 空 虚 の 割 合 が 減 少 し 空 気 が 膨 張 する 時 には 原 子 が 互 いに 離 れるので 空 気 の 中 の 空 虚 の 割 合 が 増 大 するとしか 考 えられないと 原 子 論 者 は 反 論 した. さて こうした 空 虚 をめぐる 論 争 それ 自 体 は 空 間 の 問 題 とは 直 接 には 関 係 ないと 思 われるかも 知 れない しか しこの 論 争 の 中 で 空 間 の 実 在 性 が 暗 黙 のうちにであるにせよ 問 題 となっていたのである 空 虚 の 存 在 を 否 定 し た 人 々は 空 間 と 物 質 とは 互 いに 切 り 離 しえないものと 考 えていた 物 質 がなければ 空 間 もない それゆえ 空 虚 な 空 間 すなわち 物 質 のない 空 間 は 存 在 しえない 宇 宙 の 全 空 間 は 物 質 で 満 たされているのである したが ってこうした 立 場 に 立 ち なおかつ 物 質 の 量 が 有 限 であると 考 えたアリストテレスのような 哲 学 者 たちは 宇 宙 が 有 限 であるとも 主 張 した これに 対 して 空 虚 の 存 在 を 肯 定 した 人 々は 空 間 が 物 体 とは 独 立 にそれ 自 体 として 存 在 すると 考 えていた 空 虚 が 実 在 するとすれば 空 虚 とは 物 体 がまったく 存 在 しない 空 間 にほかならないのであるから 空 間 は 物 体 依 存 的 なものではなくそれ 自 体 として 実 在 することになる こうして 原 子 論 者 は 物 質 と 空 間 を 区 別 し それらが 異 なる 基 本 的 存 在 物 であると 主 張 した 例 えばエピクロスは 空 虚 を 自 体 的 なものと 考 えて 空 虚 とか 空 間 とか 不 可 触 的 な 実 在 とか 呼 ばれるもの という 表 現 を 用 いたし 自 然 全 体 は 物 体 と 空 虚 とから 構 成 されているとも 述 べている (1) しかし 古 代 原 子 論 者 たちは 現 代 人 の 座 標 空 間 イメージがそうであるように 空 間 の 広 がりは 無 限 であると 考 えていた 彼 らは 物 質 と 空 間 を 区 別 することによって 物 質 の 量 がたとえ 有 限 であるとしても 空 間 は 無 限 である とした すなわち 宇 宙 には 端 がないのであり 有 限 な 物 質 空 間 の 外 に 無 限 の 空 虚 空 間 が 広 がっていると 想 定 した というのも ルクレティウスが 宇 宙 の 端 での 槍 投 げということで 論 じたように (2) かりに 物 体 が 宇 宙 の 端 からその 外 へ 運 動 できないとすれば 物 体 の 運 動 を 妨 げるモノが 宇 宙 の 端 の 外 に 存 在 するということになる またその 反 対 に 宇 宙 の 端 からさらにその 外 へと 物 体 が 運 動 できるとすれば 宇 宙 の 端 の 外 側 に 空 間 があることになる どちらにしても, 宇 宙 の 端 と 考 えられたものが 実 際 には 端 でなかったことになる このように 古 代 原 子 論 者 たち は 物 体 の 運 動 可 能 性 ということによって 空 虚 の 実 在 性 とともに 空 間 の 無 限 性 が 保 証 されると 考 えたのであ る こうして 古 代 原 子 論 において 万 事 がなされる 場 である 場 所 としての 空 間 すなわち 世 界 に 存 在 するす べてのモノをその 中 に 包 括 する 容 器 としての 無 限 の 広 がりとしての 空 間 というイメージが 形 成 されたのであ る 3 近 代 における 空 間 論 争 (1) --- 運 動 記 述 の 相 対 性 古 代 における 空 間 論 争 が 空 虚 の 問 題 として 展 開 されたとすれば 近 代 における 空 間 論 争 は 運 動 の 相 対 性 の 問 題 として 展 開 された すなわち ある 物 体 の 運 動 が 空 間 的 位 置 座 標 を 用 いて 論 じられている 時 に 実 際 にわれわれが 行 なっているのは, 座 標 原 点 という 基 準 物 体 に 対 するその 物 体 の 相 対 的 運 動 の 記 述 である と すれば ある 物 体 が 本 当 に 動 いているのかどうかはどのようにしてわかるのかということが 問 題 になる 言 い 替 えれば 座 標 原 点 自 体 が 運 動 しているのか 静 止 しているのかどうかということが 問 題 になる このことが 近 代 の (1) エピクロス ( 出 隆 岩 崎 允 胤 訳 ) エピクロス 岩 波 文 庫 1959 年 p.12 p.107 (2) ルクレティウス( 岩 田 義 一 藤 沢 令 夫 訳 ) 事 物 の 本 性 について 世 界 古 典 文 学 全 集 第 21 巻 筑 摩 書 房 1965 年 p.310 2

問 題 であった 運 動 の 記 述 が 相 対 的 であること 自 体 は 古 くから 認 められていた 例 えば 同 心 円 的 天 動 説 の 完 成 者 である 紀 元 後 2 世 紀 のプトレマイオスも 星 の 日 周 運 動 の 記 述 に 関 する 限 り 地 球 が 静 止 していると 考 えよう と 地 球 が 自 転 していると 考 えようとまったく 同 じようにうまく 記 述 できることを 意 識 していた また 地 球 の 自 転 と いう 考 えがキリスト 教 的 立 場 からも 論 理 的 には 容 認 できることを 示 した 14 世 紀 の 神 学 者 ニコール オレムも 運 動 の 相 対 性 を 地 動 説 擁 護 の 根 拠 としていた (3) しかし 地 動 説 の 積 極 的 主 張 のためには 地 動 説 でも 天 動 説 でも 天 文 現 象 が 同 じようにうまく 記 述 できるという ような 運 動 記 述 の 相 対 性 だけでは 論 理 的 に 不 十 分 であり 地 球 が 本 当 に 動 いていることを 示 す 必 要 があった 例 えばガリレオは 天 文 対 話 において 潮 汐 現 象 が 地 球 の 自 転 運 動 と 公 転 運 動 の 合 成 によってしか 説 明 でき ないと 考 え その 現 象 が 地 球 運 動 の 絶 対 的 証 拠 となると 主 張 した デカルトは 最 初 その 世 界 論 の 原 稿 に 見 られるように 地 動 説 が 正 しいと 考 えていたが 地 動 説 の 主 張 に 対 する 弾 圧 を 意 図 したローマ カトリック 教 会 によるガリレオ 裁 判 の 有 罪 判 決 を 聞 くや 世 界 論 の 出 版 をとりやめ るとともに 地 動 説 と 天 動 説 の 対 立 を 取 り 扱 わないですむように 自 らの 運 動 概 念 を 変 えた すなわちデカルトは 運 動 には 静 止 以 上 に 能 動 性 が 必 要 であるのではない (4) として 運 動 状 態 と 静 止 状 態 の 絶 対 的 区 別 を 否 定 するとともに 物 体 の 運 動 は 他 の 物 体 との 相 対 的 な 関 係 によってしか 語 れないとして 運 動 の 相 対 性 を 主 張 した デカルトによれば 物 体 の 位 置 を 決 定 するためには 不 動 と 思 われる 他 の 何 らかの 物 体 に 着 目 しなければならない のであるが どの 物 体 に 着 目 するかに 応 じて, 同 じ 一 つの 物 が 同 じ 時 に 場 所 を 変 えるとも 変 えないとも 言 うことができる (5) 例 えば 海 を 進 んでいる 船 のデッキに 座 っている 人 は 船 を 基 準 にして 考 えれば 静 止 しているのであるが 海 岸 を 基 準 にして 考 えれば 動 いていることになる これと 同 じことは 地 球 が 本 当 は 静 止 しているのか 運 動 しているのかという 議 論 の 場 合 にもあてはまる ところ が 真 に 不 動 な 点 は 宇 宙 のどこにも 見 いだされない (6) がゆえに, 地 動 説 が 正 しいのか 天 動 説 が 正 しいのかと いう 問 いは 論 理 的 に 無 意 味 である デカルトによれば 絶 対 的 な 意 味 では 静 止 も 運 動 も 語 ることができない あ くまでも 相 対 的 な 静 止 や 相 対 的 な 運 動 しか 論 じられないのである 4 近 代 における 空 間 論 争 (2) --- 絶 対 空 間 と 運 動 の 絶 対 性 こうしたデカルト 的 考 えに 反 対 したのがニュートンであった ニュートンは どのような 外 的 事 物 とも 関 係 なく 常 に 同 じ 形 状 を 保 ち 不 動 不 変 の 絶 対 空 間 の 存 在 を 主 張 し 地 球 が 本 当 は 運 動 しているという 主 張 に 意 味 を 与 えようとした (7) ニュートンによれば 空 間 は 神 の 構 成 物 である 神 は 空 間 そのものではないが 空 間 的 に 遍 在 している 神 は そのことによって 無 限 の 空 間 において あたかも 彼 の 感 覚 中 枢 におけるように 事 物 そのものを 奥 底 まで 見 それをすっかり 知 覚 し 宇 宙 のすべての 出 来 事 を 知 る のである この 意 味 で 無 限 の 宇 宙 空 間 はいわば 神 のセ ンソリウム( 感 覚 器 官 )である (8) ニュートンは 空 間 を 神 の 遍 在 と 結 びつけることによって 絶 対 空 間 が 確 固 たる 存 在 であり, 運 動 と 静 止 に 関 する 絶 対 的 な 基 準 となるとした 絶 対 空 間 は 絶 対 的 に 静 止 している 絶 対 空 間 は デカルトがその 存 在 を 否 定 した (3) 二 コール オレム( 横 山 雅 彦 訳 ) 天 体 地 体 論 中 世 科 学 論 集 ( 科 学 の 名 著 第 5 巻 ) 朝 日 出 版 社 1981 年 pp.333-335 (4) デカルト( 三 輪 正 本 多 英 大 郎 訳 ) 哲 学 原 理 デカルト 著 作 集 第 3 巻 白 水 社 1973 年 p.95 (5) 同 上 書 p.88 (6) 同 上 (7) ニュートン( 河 辺 六 男 訳 ) プリンキピア ニュートン ( 世 界 の 名 著 第 26 巻 ) 中 央 公 論 社 1971 年 p.65 (8) ニュートン 光 学 ニュートン ( 科 学 の 名 著 第 6 巻 ) 朝 日 出 版 社 所 収 p.230 3

宇 宙 の 中 において 真 に 不 動 なモノ なのである 絶 対 空 間 から 見 ることによって 物 体 が 本 当 は 運 動 している のか 静 止 しているのかということを 語 ることができる ニュートンによれば プトレマイオスやオレムやデカルトらが 主 張 した 運 動 記 述 の 相 対 性 にも 関 わらず また 不 動 の 絶 対 空 間 はわれわれの 感 覚 によって 捉 えられるようなものではないにも 関 わらず 物 体 の 絶 対 運 動 を 経 験 的 にも 知 ることができる ニュートンは 真 の 運 動 と 単 なる 相 対 運 動 が 運 動 をひき 起 こすため 物 体 に 及 ば される 力 によって 区 別 されるとした (9) 例 えば 地 球 の 自 転 運 動 や 公 転 運 動 といった 回 転 運 動 が 本 当 に 存 在 し ているのかどうかは 遠 心 力 の 効 果 によって 判 断 できる というのも 単 なる 見 かけ 上 の 相 対 的 な 回 転 運 動 では 遠 心 力 は 働 かないからである ニュートンはこのことを 有 名 な 回 転 バケツの 例 によって 説 明 している バケツの 中 に 水 を 入 れた 時 にバケツも 水 も 絶 対 的 に 静 止 していれば 水 面 は 平 らである そしてバケツを 回 転 させると 最 初 はバケツだけが 回 転 運 動 して 水 はまだ 絶 対 静 止 の 状 態 にある この 時 にバケツから 見 て 中 の 水 は 相 対 的 に 回 転 運 動 をしていることに なるが 水 面 は 平 らなままである バケツを 回 転 させ 続 けるとやがてその 中 の 水 が 摩 擦 のためにバケツと 同 じ 角 達 度 で 回 転 するようになる この 状 態 の 時 にはバケツから 見 れば その 中 の 水 は 回 転 前 と 同 じく 相 対 的 には 静 止 している ところがこの 場 合 にはそうした 相 対 的 静 止 にも 関 わらず 水 面 はバケツの 回 転 中 心 を 頂 点 とする 凹 面 になっている ニュートンによれば このようにして 相 対 的 静 止 と 絶 対 的 静 止 とが 相 対 的 運 動 と 絶 対 的 運 動 とが 区 別 される. そしてそうした 区 別 が 可 能 であることは 絶 対 静 止 空 間 の 存 在 を 論 理 的 に 根 拠 づけるものである 5 近 代 における 空 間 論 争 (3) --- 関 係 としての 空 間 運 動 が 保 存 されるかどうかをめぐってニュートン 派 と 争 ったライプニッツは 空 間 論 においてもニュートン 派 と 対 立 していた ライプニッツは, 空 間 を 神 のセンソリウム( 感 覚 器 官 )と 考 えるニュートン 派 を 神 学 的 に 批 判 する 中 で 広 がりとしての 空 間 とは 異 なる 空 間 概 念 を 提 示 した ライプニッツもデカルトと 同 じく 絶 対 運 動 の 存 在 を 否 定 したが 物 体 の 運 動 を 他 の 物 体 との 相 対 的 関 係 でしか 規 定 できないとすることは 空 間 をも 関 係 として 規 定 することを 暗 に 含 意 している デカルトは 物 質 の 本 質 を 延 長 であるとすることによって 物 質 なき 延 長 としての 空 虚 空 間 の 存 在 を 否 定 した この 意 味 においてデカルトにとっての 空 間 は 延 長 としての 空 間 すなわち 広 がりとしての 空 間 であった その 限 りでデカルトは 古 代 ギリシアにおいて 定 式 化 された 空 間 概 念 の 枠 組 の 中 で 考 えていたと 言 える しかし デカルトの 運 動 論 はそうした 伝 統 的 空 間 概 とは 異 なるものをその 中 に 含 んでいた バークリが 宇 宙 に1 個 の 物 体 しか 存 在 しないとすればそこではどんな 運 動 も 考 えられない 相 対 的 な 運 動 や 静 止 を 論 じるためにもそれとの 位 置 関 係 によって 運 動 を 決 定 するためのもう 一 つの 物 体 が 必 要 になる と 主 張 したように (10) 運 動 はすべて 相 対 的 にしか 語 れないという 絶 対 運 動 否 定 論 の 立 場 からニュートンの 絶 対 空 間 論 を 批 判 しようとすれば 単 に 絶 対 空 間 の 存 在 の 否 定 にとどまらず 空 間 そのものを 相 対 化 する 必 要 がある すなわち 運 動 だけではなく 空 間 も 何 らかの 基 準 物 体 との 相 対 的 関 係 によってしか 語 れないということを 論 理 的 に 徹 底 化 する 必 要 がある デカルトはこの 点 で 不 徹 底 であった 確 かにライプニッツも デカルトと 同 じく 物 質 のない 空 間 は 無 であるから 空 虚 な 空 間 は 存 在 せず 世 界 は 物 体 で 充 満 していると 考 えていた 彼 はトリチェリの 実 験 における 水 銀 で 満 たされたガラス 管 の 上 部 の 真 空 や (9) ニュートン プリンキピア 同 上 書 pp.69-70 (10) バークリ( 大 槻 春 彦 訳 ) 人 知 原 理 論 第 111 節 岩 波 文 庫 1958 年 pp.132-133 4

ゲーリケのポンプに 作 られた 真 空 を 知 っていたが それらの 真 空 は 粗 大 な 物 質 を 排 除 したものに 過 ぎ ず その 中 を 光 線 が 通 過 することからわかるように 精 妙 な 物 質 がその 真 空 中 に 存 在 するのであり 本 当 の 空 虚 ではないとした しかしそれにも 関 わらずライプニッツは それまでとは 異 なり 空 虚 空 間 の 否 定 を 広 がりとしての 空 間 イメー ジと 関 連 させなかった 彼 は 論 理 的 には 自 然 内 に 空 虚 を 仮 定 することは 神 が 極 めて 不 完 全 な 生 産 をしたこ とになる として 自 らの 充 足 理 由 律 や 神 の 完 全 性 と 結 びつけて 空 虚 空 間 を 否 定 しただけで 物 質 の 広 がりとし ての 空 間 ということによって 空 虚 空 間 を 否 定 したわけではなかった 彼 は 空 間 を 絶 対 的 実 在 としないだけで はなく 物 体 の 性 質 ともしなかったことによって デカルトよりもさらに 徹 底 して 相 対 化 を 押 し 進 めえた すなわちライプニッツは 空 間 を 事 物 の 共 在 の 秩 序 であると 考 えることで 空 間 を 純 粋 に 相 対 的 なもの と した 空 間 は 秩 序 あるいは 関 係 に 過 ぎず 物 体 がなければまったくの 無 であり 単 に 物 体 を 入 れる 可 能 性 に 過 ぎない と 主 張 したのである (11) そして 空 間 を 事 物 の 共 在 の 秩 序 であるとしたライプニッツにとって 事 物 相 互 の 関 係 が 変 化 しない 宇 宙 全 体 の 運 動 という 考 えは 無 意 味 なものであった というのもこの 場 合 彼 の 空 間 規 定 の 立 場 からは 運 動 と 静 止 という 2つの 状 態 は 区 別 できない それゆえ 彼 は 不 可 識 別 者 同 一 の 原 理 に 基 づき 宇 宙 全 体 に 関 してはそれが 運 動 しているとも 静 止 しているとも 言 うことはできないとしたのである さてこのように 古 代 における 空 虚 の 問 題 をめぐる 空 間 論 争 と 近 代 における 運 動 の 相 対 性 をめぐる 空 間 論 争 を 通 じて 現 代 人 の 空 間 イメージが 形 成 されてきた ニュートンの 回 転 バケツ 批 判 に 示 されたマッハのような 空 間 概 念 も 物 体 どうしの 関 係 としての 空 間 という 規 定 に 歴 史 的 起 源 を 持 っている またアインシュタインは 一 般 相 対 性 理 論 においてそれまでの 空 間 概 念 を 変 革 し 場 としての 空 間 という 考 え 方 を 打 ち 出 したが その 空 間 イメージは 原 子 論 に 反 対 したアリストテレスやデカルトらの 物 体 の 性 質 としての 空 間 という 空 間 概 念 に 近 いものと 考 えることができる (11) ライプニッツ( 園 田 義 道 訳 ) ライプニッツ 論 文 集 日 清 堂 書 店 1976 年 pp.60-61 5