外 来 通 院 患 者 における 頸 椎 牽 引 療 法 の 実 施 状 況 と その 社 会 生 活 への 影 響 に 関 して 1) 2) 1) 武 政 誠 一, 嶋 田 智 明, 上 杉 雅 之 1) 1) 1) 小 枝 英 輝, 高 橋 健 太 郎, 中 川 法 一 1) 1) 成 瀬 進, 西 川 明 子 Ⅰ 緒 言 物 理 療 法 は 運 動 療 法 と 並 ぶ 理 学 療 法 の 中 核 をなす 治 療 技 術 の1つである しかし これまで 理 学 療 法 分 野 では 運 動 療 法 特 に 徒 手 的 療 法 に 押 され 徐 々に 物 理 療 法 への 関 心 は 薄 れるとともに 使 用 方 法 についても 経 験 的 な 点 が 多 いのが 現 状 である また その 実 施 者 も 助 手 や 看 護 師 マッサ -ジ 師 が 主 体 となっていることが 多 く 理 学 療 法 士 自 身 による 実 施 が 少 ないのが 現 状 である 中 でも 頸 椎 牽 引 は 古 くから 行 われている 治 療 法 であり 理 学 療 法 領 域 では 物 理 療 法 の1つの 治 療 技 術 として 位 置 付 けられている 頸 椎 牽 引 の 主 な 生 理 作 用 は 筋 靱 帯 に 対 する 伸 張 効 果 脊 柱 の 伸 張 効 果 椎 間 腔 の 開 大 効 果 とルシュカ 関 節 の 伸 張 と 開 大 効 果 が 挙 げられる 1) 頸 椎 牽 引 は 手 術 治 療 のような 侵 襲 もなく 薬 物 治 療 のような 副 作 用 もなく 装 置 の 操 作 性 も 簡 便 で 安 全 な 治 療 であり 多 くの 頸 椎 疾 患 に 対 する 保 存 的 治 療 手 段 として 多 用 され 長 期 的 に 実 施 さ れているのが 現 状 である 2) しかし その 治 療 期 間 や 効 果 患 者 の 治 療 への 期 待 といった 実 施 状 況 や 生 活 への 影 響 に 関 する 報 告 は 少 ない 3) 今 回 外 来 で 頸 椎 牽 引 を 実 施 している 患 者 に 対 し 頸 椎 牽 引 の 実 施 状 況 と 患 者 の 社 会 生 活 への 影 響 に 関 して 調 査 し 若 干 の 知 見 を 得 たので 報 告 する Ⅱ 対 象 と 方 法 本 調 査 に 賛 同 し 協 力 が 得 られた 平 均 年 齢 65.5±15.8 歳 (17 ~ 92 歳 )の 外 来 通 院 患 者 87 名 ( 男 性 30 名 女 性 57 名 )を 対 象 とした これらの 対 象 者 に 対 し 頸 椎 牽 引 の 実 施 状 況 および 牽 引 療 法 のた めに 外 来 通 院 することによる 家 庭 社 会 生 活 への 影 響 社 会 活 動 への 影 響 について 調 査 した 実 施 状 況 の 調 査 項 目 は 診 断 名 初 診 時 の 自 覚 症 状 治 療 期 間 1 週 間 の 治 療 頻 度 改 善 度 今 後 の 継 続 について 継 続 理 由 治 療 の 終 了 要 件 である 1) 神 戸 国 際 大 学 2) 神 戸 大 学 大 学 院 保 健 学 研 究 科 -77-
神 戸 国 際 大 学 紀 要 第 77 号 牽 引 の 対 象 となった 診 断 名 については カルテより 確 認 し 記 載 した また 初 診 時 の 自 覚 症 状 に ついては 腕 肩 の 痛 み( 上 肢 痛 ) 腕 肩 のしびれ 頸 部 の 痛 み 肩 こり 腕 に 力 が 入 らない( 筋 力 低 下 ) その 他 より 該 当 するものを 選 択 させた 治 療 期 間 については 3 ヶ 月 以 内 1 年 以 内 1 年 以 上 の3つの 回 答 肢 から 一 つ 選 択 させた また 1 週 間 の 治 療 頻 度 については 毎 日 (5 回 ) 3~4 回 1~2 回 の3つの 回 答 肢 から 一 つ 選 択 させた 改 善 度 については 良 くなった あまり 変 わらない まったく 変 わらない 悪 くなったの4つの 回 答 肢 から 一 つ 選 択 させた 今 後 の 継 続 に ついては ずっと 続 けたい いずれ 中 止 したい 早 く 中 止 したいの3つの 回 答 肢 から 一 つ 選 択 させ た また 継 続 の 理 由 については 非 常 に 効 果 があるから 少 し 効 果 があるから 気 持 ちがいいか ら 中 止 すると 悪 くなるから 中 止 すると 症 状 が 悪 くなるような 不 安 があるから その 他 より 該 当 するものを 選 択 させた 頸 椎 牽 引 の 終 了 要 件 については 症 状 がまったくなくなった 時 症 状 は 少 し 残 るが 日 常 の 生 活 や 仕 事 に 支 障 がなくなった 時 症 状 が 改 善 しないのであきらめた 時 通 院 する 時 間 がなくなった 時 より 該 当 するものを 選 択 させた 家 庭 社 会 生 活 への 影 響 の 調 査 項 目 は 経 済 的 負 担 感 仕 事 や 余 暇 家 庭 生 活 への 影 響 家 族 へ の 負 担 感 生 活 リズムへの 影 響 について 調 査 した 経 済 的 負 担 感 については まったく 感 じない あまり 感 じない 少 し 感 じる 重 荷 であるの4つ の 回 答 肢 より1つ 選 択 させた 仕 事 や 余 暇 家 庭 生 活 への 影 響 については まったく 感 じない あ まり 感 じない 少 し 感 じる 大 変 支 障 をきたしているの4つの 回 答 肢 より1つ 選 択 させた 家 族 へ の 負 担 感 については まったく 感 じない あまり 感 じない 少 し 感 じる 大 変 感 じるの4つの 回 答 肢 より1つ 選 択 させた 生 活 リズムへの 影 響 については 良 くなった 変 わらない 少 し 悪 くなっ た かなり 悪 くなったの4つの 回 答 肢 より1つ 選 択 させた 社 会 活 動 性 の 調 査 項 目 は 外 出 機 会 への 影 響 友 人 との 交 流 への 影 響 レクリエ-ションの 継 続 についてである 外 出 機 会 への 影 響 友 人 との 交 流 については 増 えた 変 わらない 少 し 減 った かなり 減 ったの4つの 回 答 肢 より1つ 選 択 させた レクリエーションの 継 続 については 同 様 にし ている 頻 度 は 減 ったがしている ほとんどしなくなった 全 くしなくなったの4つの 回 答 肢 より 1つ 選 択 させた これらのアンケ-ト 結 果 を 項 目 ごとにカテゴリ- 化 し 実 数 および 百 分 率 で 示 し 分 析 検 討 し た また 期 間 今 後 の 継 続 について 自 覚 症 状 の 改 善 度 外 来 通 院 による 影 響 の 各 項 目 について は 得 られた 結 果 から 性 差 と61 歳 以 上 と60 歳 以 下 の2 群 に 分 けχ² 検 定 を 用 いて 比 較 検 討 した 統 計 学 的 分 析 にはStatoSoft 社 製 STATISTICAを 用 い 危 険 率 5%を 有 意 水 準 とした 倫 理 面 への 配 慮 については 調 査 対 象 者 には 口 頭 および 書 面 を 用 いて 調 査 の 協 力 について 事 前 に 打 診 し 協 力 に 同 意 が 得 られた 対 象 者 のみに 対 して 実 施 した また 調 査 実 施 に 際 しては 対 象 者 には 調 査 の 趣 旨 調 査 の 途 中 でも 中 止 が 可 能 であること 個 人 が 特 定 されないようにすること 内 容 は 第 三 者 に 提 示 しないことを 口 頭 および 書 面 を 用 いて 説 明 した -78-
Ⅲ 結 果 1. 頸 椎 牽 引 の 実 施 状 況 について 1) 診 断 名 と 初 診 時 自 覚 症 状 牽 引 の 対 象 となった 疾 患 は 変 形 性 頸 椎 症 57 例 頸 部 捻 挫 11 例 頸 椎 ヘルニア10 例 むち 打 ち 症 6 例 頸 椎 症 性 脊 髄 症 6 例 不 明 1 例 であった 初 診 時 の 自 覚 症 状 については 腕 肩 の 痛 み49 例 肩 こり33 例 頸 部 痛 30 例 腕 肩 のしびれ25 例 筋 力 低 下 19 例 であった 2) 期 間 頻 度 と 改 善 度 継 続 理 由 について 治 療 期 間 は 1ヶ 月 以 内 から25 年 で 比 較 的 期 間 の 短 い1 年 以 内 が39 例 (45%) 長 期 間 である 1 年 以 上 が48 例 (55%)と 長 期 間 実 施 している 症 例 が 多 かった( 図 1-1) 実 施 頻 度 については 毎 日 が31 例 (36%) 週 に3~4 回 が38 例 (43%) 週 に1~2 回 が18 例 (21%)と1 週 間 に 実 施 する 回 数 が 多 い 症 例 が 多 かった 症 状 の 改 善 度 については 良 くなった が46 例 (53%) あまりあるいは 全 く 変 わらない が41 例 (47%) 悪 化 例 は0であった( 図 1-2) 症 状 別 改 善 度 については 腕 肩 の 痛 み は 59.2%が 改 善 を 示 し 肩 こり 腕 肩 のしびれ 頸 部 痛 は50 ~ 52%と 半 数 以 上 の 症 例 に 改 善 を 示 した 筋 力 低 下 は62.3%が 不 変 であり 頸 椎 牽 引 の 治 療 効 果 については 筋 力 低 下 を 除 き 約 半 数 以 上 に 改 善 効 果 を 示 していた( 図 1-3) 継 続 理 由 については 非 常 に 効 果 があるからが17 例 少 し 効 果 があるからが27 例 気 持 ちがいい からが49 例 中 止 によって 症 状 が 悪 化 したが14 例 中 止 すると 悪 化 する 不 安 がある22 例 であった -79- 図 1. 外 来 通 院 患 者 に 対 する 頸 椎 牽 引 の 実 施 状 況 1.
神 戸 国 際 大 学 紀 要 第 77 号 n=87 n=84 n=84 n=86 2. 図 2. 外 来 通 院 患 者 に 対 する 頸 椎 牽 引 が 患 者 の 家 族 社 会 生 活 に 及 ぼす 影 響 n=84 n=85 n=80 図 3. 3. 外 来 通 院 患 者 に 対 する 頸 椎 牽 引 が 患 者 の 社 会 活 動 に 及 ぼす 影 響 ( 図 1-4) 3) 今 後 の 継 続 と 終 了 要 件 について 終 了 要 件 については 症 状 が 全 くなくなった が43 例 と 圧 倒 的 に 多 く 次 いで 日 常 の 生 活 や 仕 事 に 支 障 がなくなった 時 が26 例 通 院 時 間 がなくなった 時 13 例 症 状 が 改 善 しないのであ きらめた 時 3 例 の 順 であった( 図 1-5) 今 後 の 継 続 については ずっと 継 続 したい が30 例 (34%) いずれ 中 止 したいあるいはなる べく 早 く 中 止 したい が55 例 (66%)と 多 かった( 図 1-6) 2. 牽 引 療 法 のために 外 来 通 院 することへの 影 響 1) 家 庭 社 会 生 活 への 影 響 経 済 的 負 担 感 については 全 くあるいはあまり 感 じていない が64 例 (74%)と 多 かったが 少 しあるいは 重 荷 に 感 じている が23 例 (26%)みられた( 図 2-1) 仕 事 あるいは 生 活 への 影 響 については 全 くあるいはあまり 感 じていない が56 例 (65%)で あるが 仕 事 生 活 に 何 らかの 支 障 をきたしている が30 例 (35%)いた( 図 2-2) -80-
表 1. 性 別 による 比 較 検 討 結 果 表 2. 年 齢 による 比 較 検 討 結 果 1. 性 別 による 外 出 機 会 への 影 響 との 関 係 1. 年 齢 と 期 間 との 関 係 減 少 不 変 増 加 n 1 年 以 内 1 年 以 上 n 男 性 6(21.4) 22(78.6) 28 60 歳 以 下 20(74.1) 7(25.9) 27 女 性 25(43.9) 32(56.1) 57 p<0.05 61 歳 以 上 19(31.7) 41(68.3) 60 p<0.01 2. 性 別 による 友 人 との 交 流 への 影 響 との 関 係 2. 年 齢 と 生 活 リズムへの 影 響 との 関 係 減 少 不 変 増 加 n 男 性 6(21.4) 22(78.6) 28 女 性 25(43.9) 32(56.1) 57 p< 0.05 家 族 への 負 担 感 については 全 くあるいはあ まり 感 じていない が57 例 (66%)と 多 かったが 家 族 に 負 担 をかけていると 感 じている が27 例 (32%)いた( 図 2-3) 生 活 リズムへの 影 響 については 変 わらない が50 例 (58%)で 良 好 になった 9 例 (10%) 逆 に 悪 くなった が27 例 (32%)いた( 図 2-4) 2) 社 会 活 動 性 への 影 響 悪 くなった 不 変 良 好 n 60 歳 以 下 13(48.1) 14(51.9) 27 61 歳 以 上 14(23.7) 45(76.3) 59 p<0.05 3. 年 齢 と 今 後 の 継 続 との 関 係 ずっと 継 続 中 止 したい n 60 歳 以 下 12(44.4) 15(55.6) 27 61 歳 以 上 45(76.3) 14(23.7) 59 p<0.01 4. 年 齢 と 経 済 的 負 担 感 との 関 係 感 じない 感 じる n 60 歳 以 下 24(88.9) 3(11.1) 27 61 歳 以 上 40(66.7) 20(33.3) 60 p<0.05 外 出 の 機 会 については 変 わらない が39 例 (47%) 増 えた が10 例 (12%)いたが 外 出 の 機 会 の 減 少 を 訴 える 症 例 は35 例 (41%)であった( 図 3-1) 友 人 との 交 流 の 機 会 については 変 わらない が47 例 (56%)で 増 えた が7 例 (8%) 逆 に 減 少 した 症 例 は31 例 (36%)であった( 図 3-2) レクリエ-ションへの 参 加 については 同 様 にしている は20 例 (25%)と 少 なく 参 加 の 減 少 や 全 くしなくなった が60 例 (75%)いた( 図 3-3) 3. 性 差 による 比 較 検 討 結 果 性 差 については 期 間 今 後 の 継 続 について 自 覚 症 状 の 改 善 度 経 済 的 負 担 仕 事 や 生 活 への 支 障 家 族 への 負 担 感 生 活 リズムの 変 化 レクリエ-ションや 余 暇 活 動 への 影 響 については 男 性 と 女 性 との 間 に 統 計 学 的 な 差 はなかった 一 方 外 出 機 会 友 人 との 交 流 については 男 性 に 比 べ 女 性 の 方 が 外 出 や 友 人 との 交 流 回 数 は 有 意 に 減 少 していた(p<0.05)( 表 1) 4. 年 齢 による 比 較 検 討 結 果 年 齢 については 自 覚 症 状 の 改 善 度 仕 事 や 生 活 への 支 障 外 出 機 会 の 変 化 友 人 との 交 流 の 変 化 レクリエ-ションや 余 暇 活 動 への 影 響 については 60 歳 以 下 と61 歳 以 上 群 との 間 に 統 計 学 的 な 差 はなかった 年 齢 と 期 間 については 61 歳 以 上 群 に 比 べ60 歳 以 下 群 では 有 意 に 期 間 が 短 かった(p<0.01)( 表 2-1) また 生 活 リズムについては 61 歳 以 上 群 に 比 べ60 歳 以 下 群 では 悪 くなったと 答 えた 人 の -81-
神 戸 国 際 大 学 紀 要 第 77 号 割 合 が 有 意 に 多 くなっていた(p<0.05)( 表 2-2) 年 齢 と 今 後 の 継 続 との 関 係 については 60 歳 以 下 群 ではいずれあるいは 早 く 中 止 したいと 答 えた 人 が 多 くなる 傾 向 にあるが 61 歳 以 上 群 ではずっと 続 けたいと 答 えた 人 が 有 意 に 多 かった(p<0.01) ( 表 2-3) 年 齢 と 経 済 的 負 担 との 関 係 については 60 歳 以 下 群 に 比 べ61 歳 以 上 群 では 負 担 に 感 じ ている 症 例 が 有 意 に 多 かった(p<0.05)( 表 2-4) Ⅳ 考 察 頸 椎 牽 引 の 効 果 について Murphyら 4) は 牽 引 により 椎 間 板 内 圧 を 減 少 させ 椎 間 板 への 血 流 が 増 大 することを 報 告 している また 南 光 ら 5) は 頸 椎 牽 引 による 頸 部 筋 の 血 流 量 の 増 加 を 確 認 し ている 佐 藤 ら 6) は 牽 引 力 と 椎 間 板 内 圧 を 測 定 し 椎 間 板 内 圧 が 低 下 することを 報 告 している また 下 俣 ら 7) は 牽 引 中 のMRIからヘルニアの 退 縮 を 確 認 している このように 局 所 的 な 効 果 が 示 される 一 方 頸 椎 牽 引 療 法 のrandomized controlled trialにおいて 牽 引 をしなくても6 週 間 後 に 可 動 域 の 拡 大 と 疼 痛 の 軽 減 が 見 られ 2ヶ 月 後 には 症 状 が 軽 快 したという 報 告 もある 8) また Heijdenら 9) は 牽 引 療 法 と 他 の 理 学 療 法 の 効 果 を 比 較 した 過 去 の 文 献 を 盲 検 法 により 再 検 証 し そ の 結 果 牽 引 療 法 の 特 異 的 な 効 果 は 証 明 されていないことを 報 告 している 頸 椎 牽 引 治 療 の 起 源 は 古 く ヒポクラテスの 時 代 に 遡 るといわれているが その 治 療 効 果 の 科 学 的 根 拠 については 十 分 解 明 されているとはいえない しかし わが 国 においても 古 くから 施 行 されており この 治 療 により 悪 化 する 症 例 も 少 なく 容 易 に 施 行 でき 多 くの 症 例 で 症 状 が 軽 減 あるいは 消 失 するために 第 1 選 択 の 治 療 法 として 継 続 されてきた 3) 今 回 の 対 象 者 の 診 断 名 は 高 齢 者 が 多 かったこともあり 変 形 性 頸 椎 症 が 圧 倒 的 に 多 く65.5%を 占 めていた 初 診 時 の 自 覚 症 状 としては 腕 肩 の 痛 み が6 割 弱 で 肩 こり 頸 部 痛 が 約 10) 4 割 であった 症 状 の 改 善 率 について 小 田 は59% 中 川 ら 11) は64% 小 野 ら 12) は72.9% 片 13) 岡 は82.4% 小 山 ら 3) は80%であったと 報 告 している 我 々の 改 善 率 は 52.9%と 他 の 報 告 より もやや 低 いが 悪 化 例 もなく 良 好 であった 症 状 別 に 見 ると 腕 肩 の 痛 み が6 割 弱 の 症 例 に 改 善 が 見 られ 肩 こり 腕 肩 のしびれ 頸 部 痛 が5 割 の 症 例 に 改 善 が 見 られたが 筋 力 低 下 に 対 しては 悪 化 した 症 例 はいなかったが 逆 に 不 変 が6 割 を 占 めていた すなわち 頸 椎 牽 引 治 療 は 腕 肩 の 痛 み 肩 こり 腕 肩 のしびれ 頸 部 痛 の 症 状 を 有 する 頸 椎 疾 患 患 者 に 対 して 有 用 な 治 療 法 の1つに 成 りうる 可 能 性 が 示 唆 された そのメカニズムについては 今 回 明 らかにはできない が 高 齢 者 が 多 く 加 齢 により 椎 間 板 が 変 性 し 椎 間 板 内 圧 が 低 下 しているため 椎 間 板 内 圧 の 低 下 に よる 効 果 というよりも 頸 椎 柱 に 対 する 力 学 的 負 荷 を 減 少 させることにより 疼 痛 の 発 生 や 機 能 障 害 の 発 生 に 有 効 に 作 用 したのかもしれない 14) いずれにしても 現 在 治 療 効 果 の 科 学 的 根 拠 は 乏 し く 今 後 個 々の 症 例 によって 症 状 病 態 は 異 なるが 頸 椎 牽 引 に 対 する 基 礎 的 研 究 や 臨 床 的 研 究 を 通 してより 科 学 的 な 有 効 な 治 療 法 を 確 立 していくことが 頸 椎 牽 引 治 療 における 今 後 の 課 題 となる と 考 えられた 治 療 期 間 の 決 定 および 治 療 継 続 の 決 定 は 患 者 の 自 覚 症 状 を 参 考 に 主 治 医 や 理 学 療 法 士 によって -82-
決 定 されるが 患 者 の 主 観 によるところが 大 きい 治 療 期 間 の 決 定 については 今 回 の 対 象 者 が 現 在 通 院 治 療 中 の 症 例 であるので 検 討 できないが 1 年 以 上 と 長 期 継 続 者 が55% 占 め 年 齢 との 関 係 では 61 歳 以 上 群 に 比 べ60 歳 以 下 群 では 有 意 に 期 間 が 短 かった 今 後 の 継 続 については いずれ 中 止 したいあるいはなるべく 早 く 中 止 したい が55 例 と 多 かったが その 反 面 年 齢 との 関 係 では 61 歳 以 上 群 では 有 意 にずっと 続 けたいと 答 えた 人 が 多 かった つまり 60 歳 以 下 の 症 例 は 早 期 の 改 善 を 望 み 可 能 な 限 り 早 期 に 治 療 を 中 止 し 社 会 生 活 への 復 帰 を 望 んでいるのに 対 し 61 歳 以 上 の 症 例 では 牽 引 治 療 病 院 への 依 存 が 高 く 病 院 を1つの 生 活 の 場 として 通 院 していると 考 えら れた また 継 続 理 由 については 56%の 症 例 が 気 持 ちがいいから 50.1%の 症 例 が 非 常 に あるいは 少 し 効 果 がある という 理 由 を 挙 げ 終 了 目 標 については 症 状 が 全 くなくなった 時 および 日 常 の 生 活 や 仕 事 に 支 障 がなくなった 時 と 治 癒 願 望 が 強 いものの 頸 椎 牽 引 以 上 の 治 療 は 望 まず 治 療 を 継 続 したいという 願 望 が 強 く 特 に60 歳 以 下 の 症 例 に 比 べ61 歳 以 上 の 症 例 ではよ 15) り 強 くなると 考 えられた 望 月 は 牽 引 長 期 継 続 者 は 患 者 自 身 が 効 果 がある と 主 張 するた め 長 期 になり 医 療 的 な 問 題 だけでなく 心 理 社 会 的 な 面 を 含 んでいるので 多 面 的 な 対 応 が 必 要 であると 述 べている 物 理 療 法 を 受 けている 長 期 通 院 患 者 の 特 徴 として 谷 内 ら 16) は1これといっ た 疼 痛 もなく 現 在 調 子 のいい 人 ( 安 心 感 予 防 的 ) 2 病 院 側 の 治 療 方 針 ( 現 在 行 っている 物 理 療 法 )に 満 足 している 人 3 生 活 の 場 として 病 院 に 通 院 する 人 を 挙 げている 今 回 の 調 査 結 果 にお いて 症 状 が 不 変 であるにもかかわらず 長 期 化 していることや 症 状 が 改 善 しているにもかかわら ず 治 療 に 依 存 し 長 期 化 していた この 一 見 過 剰 とも 思 われる 受 療 行 動 の 背 景 には 今 回 明 確 にはで きなかったが 患 者 側 と 医 療 職 側 の 要 因 が 考 えられる 1つは 頸 椎 牽 引 をすると 気 持 ちが 良 く 症 状 も 軽 快 あるいは 悪 化 しない 逆 に 牽 引 をしなければ 症 状 が 悪 化 するのではないかと 不 安 に なる といった 患 者 の 心 理 的 要 因 が 過 剰 な 受 療 行 動 を 常 習 化 させる そして 患 者 の 周 りの 家 庭 や 社 会 といった 環 境 要 因 が 過 剰 な 受 療 行 動 を 可 能 にさせる 状 況 にあると 考 えられる 一 方 医 療 職 側 特 に 理 学 療 法 士 は 日 常 の 診 療 業 務 に 追 われ 外 来 通 院 患 者 に 対 する 牽 引 治 療 に 対 する 患 者 指 導 が 十 分 行 えていないのが 現 状 であり 16) このような 理 学 療 法 士 の 曖 昧 な 関 わりが 過 剰 な 受 療 行 動 を 引 き 起 こす1つの 原 因 になっているとも 考 えられた このような 長 期 化 した 過 剰 な 受 療 行 動 を 防 ぐには 15) 望 月 や 小 山 ら 3) が 述 べているように 治 療 開 始 時 に 牽 引 の 効 果 と 限 界 を 十 分 に 説 明 し 定 期 的 に 効 果 判 定 を 行 い 症 状 が 不 変 あるいは 悪 化 する 場 合 には 治 療 方 針 の 再 検 討 をすることが 重 要 であ ると 考 えられた 17) 長 尾 は 物 理 療 法 に 問 われるべき 社 会 的 倫 理 問 題 として 患 者 に 医 原 性 の 害 を 与 えていないか 患 者 に 益 を 与 えているか が 重 要 であることを 述 べている 今 回 の 調 査 結 果 では 頸 椎 牽 引 を 受 療 するための 外 来 通 院 が 患 者 の 家 庭 社 会 生 活 のみならず 社 会 活 動 性 を 多 かれ 少 なかれ 制 約 して いることが 明 らかとなった また 女 性 患 者 では 男 性 患 者 に 比 べ 外 出 友 人 との 交 流 といった 社 会 活 動 性 の 制 約 を 強 く 受 けていた また61 歳 以 上 群 に 比 べ60 歳 以 下 群 では 生 活 リズムの 変 化 に 対 し て 有 意 に 悪 影 響 を 及 ぼし 60 歳 以 下 群 に 比 べ61 歳 以 上 群 では 有 意 に 治 療 期 間 の 長 期 化 に 加 えて 経 済 的 負 担 に 対 して 悪 影 響 を 及 ぼしていることが 判 明 した このような 状 況 を 防 ぐには 頸 椎 牽 引 を 受 療 する 外 来 通 院 患 者 に 対 し 理 学 療 法 士 は 定 期 的 な 効 果 判 定 を 行 い 長 期 化 を 防 ぐことに 加 えて 患 -83-
神 戸 国 際 大 学 紀 要 第 77 号 者 の 家 庭 生 活 社 会 生 活 経 済 面 といった 社 会 的 側 面 を 評 価 し 治 療 の 実 施 がこれらを 制 約 してい ないか 常 に 注 意 すると 共 に 彼 らの 社 会 活 動 性 を 維 持 向 上 させ QOLの 向 上 に 努 めることが 重 要 と なることが 示 唆 された したがって 患 者 の 評 価 効 果 判 定 に 際 しては 身 体 的 側 面 の 自 然 科 学 的 評 価 に 留 まらず 患 者 の 心 理 社 会 的 側 面 を 含 む 行 動 科 学 的 な 評 価 も 重 要 であると 考 えられた 18) 加 えて 外 来 通 院 患 者 への 対 応 の 見 直 しと 頸 椎 牽 引 に 対 する 患 者 の 依 存 度 の 修 正 が 重 要 であり 頸 椎 牽 引 の 適 切 な 実 施 システムの 再 構 築 が 重 要 な 課 題 となると 考 えられた < 引 用 文 献 > 1.Harris R.Traction, Lichit S (ed) Massage Manipulation and Traction, The 5 th Volume of Physical Medicine Library, pp223-251, Elizabeth Licht Publ New Haven, Waverly Press, Baltimore, Maryland, 1960. 2. 児 玉 直 子, 坂 口 光 晴, 岡 本 徹, 他 頸 椎 簡 潔 牽 引 療 法 の 効 果.PTジャ-ナル 37:575-580, 2003. 3. 小 山 照 幸, 富 田 祐 司, 水 戸 部 聖 子, 他 頸 椎 牽 引 温 熱 療 法 の 実 態 調 査. 総 合 リハ 30: 837-841,2002. 4.Murphy MJ. Effects of cervical traction on muscle activity. J Orthop Sports Phys Ther 13:220-225, 1991. 5. 南 野 光 彦, 白 井 康 正, 武 内 俊 次, 他. 頸 椎 間 欠 的 介 達 牽 引 による 頸 部 筋 血 流 の 変 化. 運 動 物 理 療 法 9:291-295,1998. 6. 佐 藤 勝 彦, 菊 池 臣 一, 米 沢 卓 実. 椎 間 板 内 圧 から 見 た 頸 椎 退 行 性 疾 患 に 対 する 頸 椎 牽 引 の 治 療 効 果 の 検 討. 運 動 物 理 療 法 11:318-323,2000. 7. 下 保 訓 伸, 山 本 博 司, 野 並 誠 二, 他. 頸 椎 牽 引 における 頸 部 局 所 形 態 と 末 梢 循 環. 理 学 診 療 3:8-11,1992. 8.Zylbergold RS, Piper MC. Cervical spine disorders; a comparison of three types of traction. Spine 10:867-871,1985. 9.Heijden GJMG von, Beurskens AJHM, Kobes BW, et al. The efficacy of traction for back and neck pain; a systematic, blinded review of randomized clinical trail methods. Physical Theraphy 75:93-104,1995. 10. 小 田 裕 胤. 疫 学 自 然 経 過.New Mook 整 形 外 科 6. 越 智 隆 弘 他 編. 金 原 出 版.pp22-29, 1999. 11. 中 川 法 一, 池 田 聖 児, 千 代 憲 司, 他. 頸 部 脊 椎 症 に 対 する 牽 引 療 法. 高 知 医 療 学 院 同 窓 会 誌 3:30-37,1985. 12. 小 野 啓 郎, 富 士 武 史. 外 来 での 頸 椎 牽 引 療 法. 整 形 外 科 Mook 増 刊 Ⅰ-A. 伊 丹 康 人 他 編. 金 原 出 版.pp8-13,1983. 13. 片 岡 治. 頸 椎 牽 引. 整 形 外 科 Mook 増 刊 Ⅰ-A. 伊 丹 康 人 他 編. 金 原 出 版.pp158-165,1983. 14.Sato K, Nagata K, Hirohashi T. In vivo intradiscal pressure measurement in health individuals -84-
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