技 術 論 文 湿 度 制 御 雰 囲 気 中 におけるアルミニウム 合 金 の 低 ひずみ 速 度 引 張 り 変 形 特 性 Slow Strain Rate Tensile Properties of Aluminum Alloys under Controlled Experimental Humidity 一 谷 Koji Ichitani 幸 司 小 山 克 己 Katsumi Koyama 概 要 CO 2 排 出 量 削 減 のため 水 素 エネルギーを 利 用 する 燃 料 電 池 自 動 車 の 開 発 が 進 められている アルミニウム 合 金 はこの 自 動 車 に 搭 載 される 高 圧 水 素 ガスタンク 用 ライナ 材 の 有 力 な 候 補 材 料 であ り, 今 後 は 他 の 水 素 ガス 用 部 材 への 用 途 拡 大 も 期 待 されている アルミニウム 合 金 は 概 して 鉄 鋼 材 料 に 比 較 して 耐 水 素 脆 性 に 優 れることが 知 られているが, 高 圧 水 素 ガス 環 境 中 での 安 全 性 を 確 保 するた めの 適 切 な 合 金 の 選 択 が 必 要 である 本 研 究 では,Al-Mn,Al-Cu,Al-Cu-MgおよびAl-Zn-Mg 系 合 金 に 固 有 の 水 素 脆 化 特 性 を 基 礎 的 に 調 査 するために, 各 種 の 二 元 および 三 元 合 金 を 作 製 して, 湿 度 制 御 雰 囲 気 中 での 低 ひずみ 速 度 引 張 試 験 に 供 して, 各 種 合 金 の 水 素 脆 化 感 受 性 を 定 量 的 に 評 価 した Abstract: Development of fuel-cell-powered cars is underway worldwide to reduce the emission of green house gases. Aluminum alloys are strong candidate materials for the liner of high pressure hydrogen gas tanks for fuel-cell-powered cars, and their application is expected to expand to other parts used in a hydrogen atmosphere. Although it is known that aluminum alloys generally have better hydrogen embrittlement (HE) resistance than steel materials, adoption of a proper aluminum alloy is necessary for its safe use under high-pressure hydrogen gas environments. In the present study, with a view to evaluating inherent HE characters of Al-Mn, Al-Cu, Al-Cu-Mg and Al-Zn-Mg alloy systems, several binary and ternary aluminum alloys were subjected to slow strain rate tensile tests under controlled experimental humidity to evaluate their hydrogen embrittlement sensitivity quantitatively. 1. はじめに CO 2 排 出 量 の 削 減 を 目 的 として, 従 来 の 化 石 燃 料 に 替 えて 水 素 エネルギーを 利 用 する 技 術 の 開 発 が 進 められて いる 燃 料 電 池 自 動 車 はこの 代 表 的 な 例 であり, 既 に 公 道 を 走 行 している 燃 料 電 池 自 動 車 への 水 素 エネルギー の 搭 載 方 式 としては, 高 圧 水 素 ガス, 液 体 水 素, 水 素 吸 蔵 材 料 などが 挙 げられるが, 取 り 扱 いの 容 易 さや 軽 量 性 などから 高 圧 水 素 ガスが 主 に 採 用 され,そのために 車 載 用 の 高 圧 水 素 ガスタンクが 開 発 されている このタンク は, 図 1に 模 式 的 に 示 すように, 水 素 ガスを 気 密 保 持 す るためのライナの 周 囲 を 炭 素 繊 維 強 化 樹 脂 で 巻 きつけ て 強 化 した 構 造 となっており,アルミニウム 合 金 は 水 素 ガスに 対 する 気 密 性 や 軽 量 性 に 優 れていることから,こ のライナの 有 力 な 候 補 材 料 となっている また,これ 以 外 にもタンクに 取 り 付 けられるバルブや 水 素 ガス 配 管 な ど,アルミニウム 合 金 の 用 途 拡 大 が 期 待 される しかし ながら,ほとんど 全 ての 金 属 材 料 が 水 素 によって 脆 化 す ることが 知 られており,アルミニウム 合 金 についてもそ の 安 全 性 の 確 認 が 必 要 である このためには,アルミニウム 合 金 の 水 素 脆 化 感 受 性 を 評 価 する 必 要 があるが, 簡 便 な 試 験 方 法 として 湿 度 制 御 雰 囲 気 中 での 低 ひずみ 速 度 引 張 (slow strain rate tensile: SSRT) 試 験 がある 1,2) この 試 験 によってアルミニウム 合 金 表 面 に 生 じる 反 応 を 図 2に 模 式 的 に 示 した 低 ひず み 速 度 で 変 形 中 に 連 続 的 に 露 出 する 新 生 アルミニウム 合 金 表 面 と 雰 囲 気 中 の 水 蒸 気 との 反 応 により 発 生 する 水 素 を 利 用 することにより, 高 圧 水 素 ガスに 相 当 する 環 境 3) を 簡 便 に 模 擬 することが 可 能 であると 考 えられる 最 近, 水 素 脆 化 感 受 性 を 高 めた 特 殊 なアルミニウム 合 金 を 供 試 2 Furukawa-Sky Review No.5 29
H O Oxide lm 湿 度 制 御 雰 囲 気 中 におけるアルミニウム 合 金 の 低 ひずみ 速 度 引 張 り 変 形 特 性 材 として, 高 圧 水 素 ガス 環 境 と 湿 度 制 御 雰 囲 気 の 相 関 が 調 査 され 4),この 簡 便 試 験 法 の 有 効 性 の 裏 づけが 進 めら れている またこの 試 験 法 では, 液 体 の 水 分 が 全 く 関 与 しないため, 水 蒸 気 による 表 面 の 酸 化 以 外 の,アノード 溶 解 のような 腐 食 の 影 響 を 受 けることなく, 材 料 固 有 の 水 素 脆 性 を 評 価 できるものと 考 えられる 燃 料 電 池 自 動 車 に 搭 載 される 高 圧 水 素 タンクのライ ナ 素 材 として 一 般 的 に 使 用 されている 6 系 (Al-Mg-Si 系 ) 合 金 の 水 素 脆 性 については,この 簡 便 的 な 試 験 方 法 5)と 実 使 用 環 境 である 高 圧 水 素 ガス 中 でのSSRT 試 験 6) の 両 方 で 評 価 され,その 安 全 性 が 確 認 されている 今 後 水 素 エネルギーの 利 用 拡 大 に 伴 う 用 途 の 多 様 化 に 応 じて 使 用 される 合 金 種 の 拡 大 が 予 想 される そこで 本 研 究 で は 7 系 (Al-Zn-Mg 系 ) 合 金,2 系 (Al-Cu 系 および Al-Cu-Mg 系 ) 合 金,3 系 (Al-Mn 系 ) 合 金 の 使 用 を 想 定 して,これらの 合 金 系 の 基 本 的 な 構 成 元 素 のみからな る 各 種 の 二 元 および 三 元 合 金 固 有 の 水 素 脆 化 感 受 性 を, 湿 度 制 御 雰 囲 気 中 でのSSRT 試 験 により 評 価 し, 各 種 の Aluminum alloy liner Fiber reinforced plastic(fr ) High-pressure hydrogen gas 図 1 高 圧 水 素 ガスタンクの 模 式 図 Fig.1 Schematic illustration of a high-pressure hydrogen gas tank. 用 途 に 対 する 最 適 合 金 選 択 に 必 要 な 基 礎 的 知 見 を 得 るこ とを 目 的 とした 2. 実 験 方 法 2.1 供 試 材 表 1に 示 す 化 学 成 分 の7 種 の 合 金 を 実 験 室 レベルの DC 鋳 造 により 作 製 した このうちAl-Cu 系,Al-Cu-Mg 系 およびAl-Zn-Mg 系 合 金 については, 比 較 的 広 い 成 分 範 囲 で 実 用 合 金 として 使 用 されていることを 考 慮 して, 表 1 中 に 示 したAA 規 格 またはJIS 規 格 合 金 の 成 分 を 参 照 して, 合 金 成 分 の 濃 度 が 異 なる2 種 の 合 金 をそれぞれ 作 製 した 例 えばAl-Cu 系 合 金 の 場 合,Cu 量 が 低 い 合 金 をLow-Cuまた 高 い 合 金 をHigh-Cuとそれぞれの 合 金 名 とした 他 の 合 金 成 分 の 含 有 量 とその 合 金 名 についても これと 同 様 に 表 示 した 本 研 究 では, 各 種 の 合 金 固 有 の 水 素 脆 化 感 受 性 を 相 互 に 比 較 する 目 的 で, 各 合 金 の 基 本 的 な 構 成 元 素 のみからなる 二 元 および 三 元 合 金 の 作 製 を 意 図 したが, 作 製 した 合 金 は 表 1に 示 すように,DC 鋳 塊 の 作 製 に 使 用 した 地 金 に 由 来 する 不 純 物 のSiやFe,ま た 微 細 化 剤 に 由 来 するTiを 微 量 に 含 有 している これらのDC 鋳 塊 を 均 質 化 処 理 後 に 面 削 して, 熱 間 圧 延 ( 厚 さ7 mm 4 mm)および 冷 間 圧 延 ( 厚 さ4 mm 1 mm)を 行 った これらの 合 金 板 のうち 時 効 硬 化 型 合 金 であるAl-Cu 系,Al-Cu-Mg 系,Al-Zn-Mg 系 合 金 については, 溶 体 化 処 理 後 にピーク 強 度 が 得 られるま で 時 効 処 理 を 行 った またAl-Mn 合 金 については 高 温 短 時 間 の 焼 鈍 処 理 を 行 った 各 合 金 について 行 った 均 質 化 処 理, 溶 体 化 処 理 および 時 効 処 理 (Al-Mnについては 焼 鈍 処 理 )の 条 件 を 表 2にまとめた Reaction between water vapor and metal aluminum 2Al 3H 2O Al 2O 3 3H 2 H 2O Oxide lm Absorbed hydrogen atom Aluminum alloy Hydrogen atom Slow strain rate tensile deformation 図 2 湿 度 制 御 環 境 中 でのSSRT 試 験 時 の 試 験 片 表 面 の 模 式 図 Fig.2 Schematic diagram of a specimen surface during SSRT tests under controlled experimental humidity. Reaction between water vapor and metal aluminum 2Al 3H 2O Al 2O21 3 3HFurukawa-Sky 2 Review No.5 29
表 1 供 試 材 の 化 学 成 分 (mass%) Table 1 Chemical composition (mass%)of the alloys. Alloy ID Alloy System Mn Cu Zn Mg Fe Si Ti Al Standard alloy Al-Mn Al-Mn 1.2....6.3.1 bal 33 Low-Cu Al-Cu. 2.46...6.3.1 bal 29 High-Cu Al-Cu. 4.53...7.3.1 bal 225 Low-Cu-Mg Al-Cu-Mg. 4.52..48.7.3.1 bal 214 High-Cu-Mg Al-Cu-Mg. 4.5. 1.48.6.3.1 bal 224 Low-Zn-Mg Al-Zn-Mg.. 4.19 1.46.6.2.1 bal 7N1 High-Zn-Mg Al-Zn-Mg.. 5.57 2.48.6.2.1 bal 775 表 2 供 試 材 の 熱 処 理 条 件 Table 2 Heat treatment conditions for the alloys. Alloy ID Homogenization Solution heat treatment Aging Al-Mn 55 C x 1 hour 5 C x 1 min 1) - Low-Cu 48 C x 12 hour 5 C x 1 hour 19 C x 36 hour High-Cu 48 C x 12 hour 5 C x 1 hour 19 C x 36 hour Low-Cu-Mg 48 C x 12 hour 5 C x 5 min 175 C x 24 hour High-Cu-Mg 48 C x 12 hour 495 C x 3 min 19 C x 8 hour Low-Zn-Mg 45 C x 12 hour 48 C x 3 min 12 C x 48 hour High-Zn-Mg 45 C x 12 hour 48 C x 5 min 12 C x 48 hour 1)An annealing treatment for Al-Mn. 最 終 的 な 熱 処 理 を 行 った 供 試 合 金 板 のL-ST 面 を 鏡 面 研 磨 した 後,バーカー 氏 液 中 にて 3 V,2 分 間 の 条 件 で 陽 極 酸 化 処 理 して 光 学 顕 微 鏡 により 結 晶 粒 組 織 を 観 察 し た 観 察 結 果 をもとにして, 切 断 法 で 求 めた 平 均 切 断 長 さ(mean-linear-intercept length)によって, 供 試 合 金 板 の 結 晶 粒 径 を 評 価 した また, 圧 延 直 角 方 向 が 引 張 り 方 向 となるように 合 金 板 より JIS5 号 試 験 片 を 作 製 して,ク ロスヘッド 速 度 5 mm/min で 引 張 試 験 を 行 い, 供 試 合 金 板 の 機 械 的 性 質 を 調 べた 2.2 低 ひずみ 速 度 引 張 (SSRT) 試 験 最 終 的 な 熱 処 理 を 行 った 合 金 板 より 図 3に 示 す 形 状 の 引 張 試 験 片 を 引 張 り 方 向 が 圧 延 方 向 に 対 して 直 角 方 向 と なるように 作 製 してSSRT 試 験 に 供 した 試 験 雰 囲 気 は 脆 化 促 進 環 境 として 相 対 湿 度 9%(RH9%)およびその 比 較 のための 基 準 としての 不 活 性 環 境 である 乾 燥 窒 素 ガ ス(dry nitrogen gas: DNG)の 2 条 件 とした いずれの 試 験 も 試 験 温 度 25 にて, 初 期 ひずみ 速 度 1.39 1-6/s にて2 本 ずつ 行 った SSRT 試 験 により 応 力 変 位 曲 線 を 採 取 して,これより 引 張 強 さ,.2% 耐 力 および 伸 びを 求 めた また 両 試 験 雰 囲 気 での 破 壊 形 態 を 比 較 するために SSRT 試 験 後 の 破 断 面 を 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 (SEM)により 観 察 した 6 3. 結 果 と 考 察 R7.5 5 12 42 6 3.1 供 試 材 のミクロ 組 織 と 機 械 的 性 質 Thickness:1 mm 図 4に 供 試 材 のミクロ 組 織 観 察 の 結 果 を 示 し, 平 均 切 断 長 さで 評 価 した 結 晶 粒 サイズを 表 3に 示 した 供 試 材 のうち,Al-Cu 系 とAl-Cu-Mg 系 合 金 はいずれも3 µm 前 後 で 同 等 レベルであった これに 対 してAl-Zn-Mg 系 合 金 のLow-Zn-Mgは 約 1.3 倍 の39 µm,high-zn-mgは 約 2 倍 の62 µmの 結 晶 粒 サイズであった またAl-Mnは これらの 合 金 に 比 較 して 結 晶 粒 サイズが15 µmと 微 細 であり,また 結 晶 粒 が 圧 延 方 向 に 伸 長 した 形 状 であった これは,この 合 金 が 結 晶 粒 微 細 化 元 素 であるMnを 主 成 分 として 含 有 しているためと 考 えられ,ほかの 合 金 はこ のような 微 細 化 元 素 が 添 加 されていない 水 素 脆 化 が 粒 界 割 れの 形 態 で 発 現 する 場 合, 脆 化 感 受 性 は 結 晶 粒 サイ ズに 依 存 して 増 大 することが 考 えられるが,Al-Mn 以 外 の 供 試 材 の 結 晶 粒 サイズは 最 大 最 小 比 で 約 2のレンジに 2 図 3 SSRT 試 験 片 形 状 Fig.3 Specimen for SSRT tests. 22 Furukawa-Sky Review No.5 29
収 まっており, 結 晶 粒 サイズの 影 響 を 受 けにくいものと 考 えられる また,JIS5 号 試 験 片 の 引 張 試 験 により 評 価 した 各 合 金 の 機 械 的 性 質 を 表 3に 示 した 変 形 のひずみ 速 度 が SSRT 試 験 に 比 べて 十 分 に 大 きいため, 水 素 の 影 響 を 受 けない 機 械 的 性 質 を 示 していると 考 えられる 析 出 硬 化 型 合 金 でないAl-Mn の 強 度 が 最 も 低 く, 伸 びは 最 も 高 かった ほかの 析 出 硬 化 型 合 金 では Al-Cu 系 に 比 較 して Al-Cu-Mg 系 合 金 と Al-Zn-Mg 系 合 金 の 強 度 レベルが 高 く, 後 者 の2つの 合 金 系 では,それぞれの 強 度 レベルが 同 程 度 であった 3.2 SSRT 試 験 結 果 図 5に 各 供 試 合 金 について,それぞれの 試 験 雰 囲 気 に て2 回 ずつSSRT 試 験 を 行 って 得 られた 結 果 を 示 す 同 じ 合 金 系 に 属 する 供 試 材 について 得 られた 応 力 変 位 曲 線 は, 同 じグラフに 合 わせて 示 した この 図 では,RH9% 中 で 得 られた 結 果 は 赤 線 で,DNG 中 で 得 られた 結 果 は 青 線 で 示 した また, 表 4にはこれらの 2 つの 試 験 雰 囲 気 下 での 機 械 的 性 質 をまとめた これらの 結 果 から 明 ら かなように, 試 験 雰 囲 気 の 違 いによる 影 響 は,SSRT 試 験 で 得 られた 機 械 的 性 質 のうちで 伸 びにおいて 最 も 顕 著 に 現 れている この 試 験 雰 囲 気 による 伸 びの 大 小 に 着 目 すると,これらの 供 試 合 金 は 大 きく3つに 分 類 される つまり, 第 一 にRH9% 中 の 伸 びがDNG 中 に 比 較 して 小 さい 場 合, 第 二 にRH9% 中 の 伸 びがDNGに 比 較 して 大 きい 場 合, 第 三 に 両 試 験 雰 囲 気 下 での 伸 びに 有 意 な 差 が 見 出 されない 場 合 である 次 にそれぞれの 場 合 について 順 次 述 べる まず,RH9% 中 における 伸 びがDNG 中 よりも 小 さい 場 合 であるが,この 傾 向 はAl-Zn-Mg 系 合 金 で 非 常 に 明 瞭 に 認 められ,Low-Cu-Mgで 若 干 認 められる このう ち,Al-Zn-Mg 系 合 金 のSSRT 試 験 後 の 破 断 面 のSEM 観 察 結 果 を 図 6と 図 7に 示 した これらのうち, 特 に 図 6に 示 したLow-Zn-Mgの 破 面 形 態 において 試 験 雰 囲 気 の 影 響 が 顕 著 に 認 められた すなわち,この 合 金 のDNG 中 での 破 面 は, 図 6(a)に 示 すように, 巨 視 的 には 局 部 伸 び して 絞 れた 形 状 を 呈 しており,また 微 視 的 にはこの 破 面 中 に 指 示 した 部 分 の 拡 大 像 ( 図 6(c))のような 粒 内 ディ ンプル 破 面 を 呈 しており,ほぼ 完 全 に 延 性 的 な 破 壊 で あったことが 確 認 される 一 方, 図 6(b)に 示 すRH9% 中 における 破 面 形 態 はこれとは 対 照 的 であり, 巨 視 的 に は 局 部 伸 びで 絞 れた 形 状 は 認 められず, 試 験 片 の 初 期 の 断 面 形 状 をほぼそのまま 呈 している またこの 絞 れてい ない 破 面 を 縁 取 るように 環 境 と 接 する 表 層 部 でのみ, 図 Rolling Direction (a)al-mn (b)low-cu (c)high-cu Short Transverse Direction (d)low-cu-mg (e)high-cu-mg (f)low-zn-mg (g)high-zn-mg 2 µm 図 4 供 試 材 の 結 晶 粒 組 織 Fig.4 Optical micrographs of the alloys. 表 3 供 試 材 の 結 晶 粒 径 ( 平 均 切 断 長 さで 評 価 )と 機 械 的 性 質 Table 3 Grain sizes evaluated as the mean-linear-intercept lengths of alloys after heat treatment and their mechanical properties. Alloy ID Grain Size, µm Mechanical Properties TS(MPa) YS(MPa) EL(%) Al-Mn 15 15 43 42 Low-Cu 32 213 118 14 High-Cu 31 37 23 13 Low-Cu-Mg 3 366 36 9.6 High-Cu-Mg 28 479 424 7.2 Low-Zn-Mg 39 362 312 15 High-Zn-Mg 62 479 444 11 23 Furukawa-Sky Review No.5 29
6(d)で 示 す 拡 大 像 のような 結 晶 粒 界 割 れ 破 面 が 形 成 さ れており,その 内 側 に 図 6(e)で 示 すような 延 性 的 な 粒 内 ディンプル 破 面 が 形 成 されている 図 6(d)に 示 した 結 晶 粒 界 割 れの 表 面 に 着 目 すると,ここにはディンプルな どの 延 性 的 な 痕 跡 は 認 められず, 非 常 に 脆 性 的 な 粒 界 割 れであったのに 対 し, 図 6(e)に 示 した 試 験 片 内 側 のディ ンプル 破 壊 はDNG 中 で 形 成 された 破 面 ( 図 6(c))とほぼ 同 等 の 形 状 であった このような 表 層 部 でのみ 脆 性 粒 界 破 壊 が 存 在 するような 特 徴 的 な 破 面 は, 湿 度 制 御 雰 囲 気 中 でのSSRT 試 験 中 に 図 2に 模 式 的 に 示 すように, 引 張 変 形 中 に 試 験 片 表 面 で 発 生 した 水 素 の 一 部 が 材 料 中 に 侵 入 した 後 に 内 部 へ 拡 散 していき, 水 素 濃 度 が 高 い 試 験 片 の 表 層 近 傍 でのみ 粒 界 割 れが 生 じて, 相 対 的 に 水 素 濃 度 が 低 い 材 料 内 部 で,DNG 中 と 同 様 にディンプルの 形 成 を 伴 う 延 性 破 壊 することにより 形 成 されたものと 解 釈 す ることができる このことから,Low-Zn-Mg の RH9% 中 での 伸 びの 低 下 の 原 因 については, 同 種 のAl-Zn-Mg 系 の 合 金 について 行 われた 湿 度 制 御 雰 囲 気 中 でのSSRT 試 験 についての 既 報 7)の 場 合 と 同 様 に, 水 素 脆 化 によ るものと 判 断 された これと 同 様 に,High-Zn-Mg は, RH9% 中 においては 図 7(b)に 示 すように, 破 面 のほぼ 全 面 において,Low-Zn-Mg 合 金 の 表 層 部 で 観 察 された ものと 同 じような 脆 性 粒 界 破 壊 が 観 察 された これは 高 組 成 合 金 のほうが 低 組 成 合 金 よりも 水 素 脆 化 感 受 性 が 高 Stress(M a) 12 1 8 6 4 2 Al-Mn Displacement(mm) Stress(M a) 4 3 2 1 High-Cu Low-Cu D G RH9% 2 4 6 8 1 2 3 4 Displacement(mm) (a)al-mn (b)al-cu series alloy 5 5 Stress(M a) 4 3 2 High-Cu-Mg Low-Cu-Mg Stress(M a) 4 3 2 High-Zn-Mg Low-Zn-Mg 1 1 1 2 3 1 2 3 Displacement(mm) Displacement(mm) (c)al-cu-mg series alloy (d)al-zn-mg series alloy 図 5 湿 度 制 御 雰 囲 気 中 のSSRT 試 験 によって 得 られた 応 力 変 位 曲 線 図 Fig.5 Stress-displacement curves for SSRT tests of the alloys under controlled experimental humidity. 表 4 SSRT 試 験 から 得 られた 各 供 試 材 の 機 械 的 性 質 および HES 指 数 ( 各 条 件 について 試 験 数 2の 平 均 値 ) Table 4 Mechanical properties and HES parameters obtained from the SSRT tests. Each numerical value is an average of two SSRT test results under experimental condition. Alloy ID Mechanical Properties TS(MPa) YS(MPa) EL(%) DNG RH9% DNG RH9% DNG RH9% HES Parameter Al-Mn 95 94 44 61 44.1 49.8 -.13 Low-Cu 222 221 127 131 25.4 27.1 -.6 High-Cu 298 29 2 19 18.9 17.8.6 Low-Cu-Mg 359 359 31 39 14.5 12.9.11 High-Cu-Mg 468 468 423 426 1.8 1.6.2 Low-Zn-Mg 35 335 38 36 19.4 9..54 High-Zn-Mg 465 441 434 42 8. 1.2.85 24 Furukawa-Sky Review No.5 29
く, 脆 性 粒 界 破 壊 を 引 き 起 こすために 必 要 な 水 素 濃 度 が 低 いため, 水 素 の 侵 入 量 が 比 較 的 少 ない 材 料 内 部 でも 脆 性 破 壊 を 示 したものと 考 えられる これに 対 して DNG 中 では, 図 7(a)で 示 すように, 延 性 的 な 粒 内 ディンプル 破 壊 部 が 占 める 割 合 が 増 大 している また 観 察 結 果 の 表 示 は 省 略 したが, 粒 界 破 壊 部 に 関 しても, 粒 界 破 壊 面 の 表 面 にはある 程 度 変 形 した 後 に 破 壊 したことを 示 す 延 性 的 な 痕 跡 が 認 められ, 全 体 的 にRH9% 中 に 比 較 して 延 性 的 な 破 壊 形 態 を 示 していた ちなみに,RH9% 中 において 形 成 された Low-Zn-Mg の 破 面 においては, 図 8に 示 すように 水 素 脆 化 により 形 成 された 表 層 部 の 粒 界 割 れと 内 部 のディンプル 破 面 の 間 には 遷 移 領 域 が 形 成 されている この 遷 移 領 域 における 特 徴 的 な 破 面 形 態 は 擬 へき 開 状 粒 内 割 れであると 考 えら れ,このような 破 面 は 粒 界 破 壊 を 引 き 起 こすには 不 十 分 な 中 間 的 な 水 素 濃 度 の 領 域 において, 水 素 がすべりを 助 長 することによって 形 成 されたものと 考 えられる この ような 破 壊 形 態 の 連 続 的 な 変 化 は, 前 述 した 試 験 片 表 層 から 内 部 での 水 素 濃 度 分 布 の 存 在 の1つの 裏 づけといえ る これらのAl-Zn-Mg 系 合 金 と 同 様 にLow-Cu-Mgは DNG 中 に 比 較 してRH9% 中 において, 若 干 ではある が 伸 びの 低 下 が 認 められている これがAl-Zn-Mg 系 合 金 の 場 合 と 同 様 に 水 素 脆 性 によるものであるかどう かを 調 べるために 行 った 破 面 観 察 の 結 果 を 図 9に 示 す DNGおよびRH9% 中 での 破 面 ともに 巨 視 的 には, 図 9 (d) (c) (e) (a)d G 中 の 破 面 (a)fracture surface under D G condition (b)rh9%の 破 面.5 mm.5 mm (b)fracture surface under RH9% condition (c)d G 中 の ンプル 破 面 (c)dimpled fracture surface under D G condition 1 µm (d)rh9% 中 の 粒 破 面 1 µm (e)rh9% 中 の ンプル 破 面 1 µm (d)intergranular fracture surface (e)dimpled fracture surface under RH9% condition under RH9% condition 図 6 Low-Zn-Mg の SSRT 試 験 後 の 破 面. サンプル 半 面 の 低 倍 像 ((a)および(b)),およびこれらの 図 (a), (b) 中 に 示 した 位 置 の 拡 大 像 ((c),(d)および(e)) Fig.6 Fracture surfaces of Low-Zn-Mg after the SSRT tests. Low magnification images of the half planes((a)and (b)), and enlarged images of the areas indicated in the whole images((c),(d)and(e)). (a)d G 中 の 破 面 (a)fracture surface under D G condition.5 mm (b)rh9%の 破 面 (b)fracture surface under RH9% condition.5 mm 図 7 High-Zn-MgのSSRT 試 験 後 の 破 面 SEM 像 Fig.7 Fracture surface of High-Zn-Mg after the SSRT tests. 25 Furukawa-Sky Review No.5 29
Intergranular brittle fracture uasi cleavage transgranular fracture Transgranular dimpled fracture (a) 表 部 での れ 形 の (a)transition of fracture patterns near the specimen surface 1 µm (b) 図 (a) 中 に 示 した の 拡 大 像 (b)magni ed image of the region indicated in the gure-(a) 1 µm 図 8 Low-Zn-MgのRH9% 中 SSRT 試 験 後 の 破 面 の SEM 像 Fig.8 Fracture surfaces of Low-Zn-Mg after the SSRT tests under RH9% condition. (a)d G 中 の 破 面 (a)fracture surface under D G condition.5 mm (b) 図 (a) 中 に 示 す 位 置 の 高 倍 像 (b)magni ed image of the region indicated in the gure-(a) 1 µm (c)rh9%の 破 面 (c)fracture surface under RH9% condition.5 mm (d) 図 (c) 中 に 示 す 位 置 の 高 倍 像 (d)magni ed image of the region indicated in the gure-(c) 1 µm 図 9 Low-Cu-MgのSSRT 試 験 後 の 破 面 SEM 像 Fig.9 Fracture surfaces of Low-Cu-Mg after the SSRT tests. (a), (c)に 示 すように 局 部 変 形 をともなって 絞 れた 破 断 形 状 を 示 している また, 微 視 的 にも 図 9(b)および 図 9 (d)に 示 すように 破 面 の 全 面 において 両 試 験 雰 囲 気 でほ ぼ 同 形 態 のディンプル 破 面 を 呈 しており,RH9% 中 の Al-Zn-Mg 系 合 金 で 確 認 されたような 脆 性 粒 界 破 壊 は 全 く 認 められなかった またこれ 以 外 に 水 素 に 起 因 して 伸 びの 低 下 が 生 じたことを 示 す 破 壊 形 態 上 の 差 異 も 認 めら れなかったことから,RH9% 中 での 若 干 の 伸 びの 減 少 は, 水 素 脆 化 によるものではなく, 供 試 材 そのものの 機 械 的 性 質 のばらつきによるものである 可 能 性 も 考 えられ る 一 方,Al-MnはRH9% 中 における 伸 びがDNG 中 より も 大 きいという 傾 向 を 示 している このAl-MnのSSRT 試 験 後 の 破 面 を 図 1 に 示 すが,このうち RH9% 中 の 破 面 は, 図 5(a)に 示 した 本 合 金 の 応 力 変 位 曲 線 のうち 高 い 伸 びを 示 した 試 験 片 について 観 察 したものである こ 26 Furukawa-Sky Review No.5 29
の 合 金 は 供 試 合 金 のなかで 最 も 高 い 延 性 を 示 しており, RH9% 中 とDNG 中 の 両 方 の 破 面 ともに 局 部 伸 びによっ て 大 きく 絞 れて,ほかの 合 金 に 比 べてかなり 小 さい 破 断 面 となっている 両 試 験 雰 囲 気 での 破 面 形 態 の 違 いとし て, 破 断 面 の 上 下 端 部 のラインが,DNG 中 では 直 線 状 で 連 続 している( 図 1(a))のに 対 し,RH9% 中 ではこのラ インが 部 分 的 に 途 切 れており( 図 1(c)),この 途 切 れた 部 分 でさらに 局 部 的 に 絞 れた 形 状 を 呈 している 図 5(a) で 示 した 応 力 変 位 曲 線 より,この 試 験 片 は 最 大 荷 重 点 に 達 した 後 の 局 部 伸 びがほかの 試 験 片 の 場 合 に 比 較 して 大 きいことが 分 かり, 破 断 直 前 における 局 部 変 形 に 対 し 水 素 が 影 響 を 及 ぼす 可 能 性 を 示 唆 している ちなみに, 図 1(b)および 図 1(d)には 高 倍 率 で 観 察 したディンプル 破 面 を 示 したが, 両 試 験 雰 囲 気 でディンプルの 形 態 に 大 きな 差 異 は 認 められなかった 以 上 の 結 果 より, 水 素 が 合 金 の 種 類 に 応 じて,Al-Zn-Mg 合 金 の 場 合 のように 脆 性 粒 界 破 壊 を 誘 起 して 延 性 を 低 下 させる 脆 性 の 効 果 と, それとは 反 対 に 塑 性 変 形 挙 動 に 何 らかの 影 響 を 与 えて 延 性 を 助 長 する 効 果 の 両 方 を 示 す 可 能 性 がある 7) ことが 窺 われる しかし,RH9% 中 での 伸 びのばらつきが 大 き く, 平 均 値 としての 伸 びのDNG 中 に 対 する 増 大 幅 は 小 さく,この 場 合 も 供 試 材 そのものの 機 械 的 性 質 のばらつ きに 起 因 する 可 能 性 を 否 むことはできない 最 後 に,Al-Cu 系 合 金 および High-Cu-Mg 合 金 につい てであるが,RH9% 中 とDNG 中 で 伸 びにほとんど 差 異 が 認 められず,これらの 合 金 が 水 素 によって 脆 性 も 延 性 の 助 長 も 明 確 には 示 さないものと 考 えられる High-Cu 合 金 の 応 力 変 位 曲 線 はほかの 合 金 に 比 較 してばらつきが 大 きい 傾 向 にあるが,これについては 試 験 雰 囲 気 による 影 響 ではなく, 材 料 の 機 械 的 性 質 におけるばらつきに 起 因 するものと 解 釈 される またこれらの 合 金 のSSRT 試 験 後 の 破 面 についてもSEM 観 察 を 行 ったが,いずれの 場 合 も 破 面 全 体 が 粒 内 ディンプル 破 壊 の 形 態 を 示 してお り, 試 験 雰 囲 気 によってそのディンプルの 形 態 に 明 確 な 差 異 は 認 められなかったため 観 察 結 果 については 省 略 す る 3.3 水 素 脆 化 感 受 性 の 比 較 各 合 金 の 伸 びに 及 ぼす 水 素 の 影 響 を 定 量 的 に 評 価 して 合 金 間 で 相 互 に 比 較 するために, 次 の 式 (1)で 計 算 され る 水 素 脆 化 感 受 性 (hydrogen embrittlement sensitivity: HES) 指 数 を 求 めた HES 指 数 = (δ DNG - δ RH9% )/ δ DNG (1) ここで,δ DNG はDNG 中 における 伸 び,δ RH9% は RH9% 中 における 伸 びを 示 す この 指 数 は 不 活 性 な 基 準 環 境 であるDNG 中 における 伸 びに 対 する 脆 化 促 進 環 境 であるRH9% 中 での 伸 びの 低 下 割 合 を 示 すものであ り,RH9% 中 で 伸 びがゼロの 場 合 に 最 大 値 1を 示 す ま た,DNG 中 に 比 較 してRH9% 中 において 大 きな 伸 び (a)d G 中 の 破 面 (a)fracture surface under D G condition.5 mm (b) 図 (a) 中 に 示 した 位 置 の 1 µm 拡 大 図 (b)magni ed image of the region indicated in the gure-(a) (c)rh9% 中 の 破 面 (c)fracture surface under RH9% condition.5 mm (d) 図 (c) 中 に 示 した 位 置 の 1 µm 拡 大 図 (d)magni ed image of the region indicated in the gure-(c) 図 1 Al-MnのSSRT 試 験 後 の 破 面 SEM 像 Fig.1 Fracture surfaces of Al-Mn after the SSRT tests. 27 Furukawa-Sky Review No.5 29
HES parameter 1.8.6.4.2 -.2 Al-Mn Al-Cu Low High Al-Zn-Mg Low Low -.4 1 2 3 4 5 ield strength(m a) Al-Cu-Mg High High 図 11 各 試 材 のHES 指 数 と 耐 力 の 関 係 Fig.11 HES parameters of the alloys plotted as a function of yield strength. (1) 試 験 に 供 したアルミニウム 合 金 の 水 素 脆 化 感 受 性 (HES) 指 数 は-.13 から.85 の 広 い 範 囲 にわたっ た (2)Al-Zn-Mg 系 合 金 は.54~.85 の 比 較 的 高 い HES 指 数 を 示 すが, 同 等 の 強 度 レベルにあるAl-Cu-Mg 系 合 金 のHESは.11 以 下 であり,これに 比 べて 非 常 に 小 さかった これよりアルミニウム 合 金 の 水 素 脆 化 感 受 性 は 材 料 強 度 よりも 合 金 組 成 に 強 く 依 存 するものと 考 えられる (3) 低 いHES 指 数 を 示 したAl-Mn,Al-Cu および Al-Cu-Mg 系 合 金 は, 水 素 脆 性 の 観 点 より, 高 圧 水 素 環 境 下 で 使 用 される 部 材 として 適 するものと 考 えられる が 得 られた 場 合 に,HES 指 数 は 負 の 値 を 示 す SSRT 試 験 の 結 果 より 計 算 した 各 合 金 のHES 指 数 を 表 4に 示 し た また, 図 11 には 各 合 金 のHES 指 数 を 縦 軸 に, 通 常 の 引 張 試 験 で 測 定 した 耐 力 値 を 横 軸 にプロットして 示 し た 本 研 究 での 供 試 材 のHES 指 数 はAl-Mn の-.13 か らHigh-Zn-Mgの.85 に 及 ぶまで 非 常 に 広 い 範 囲 にわた る 値 を 示 し, 合 金 種 によって 水 素 脆 化 感 受 性 が 大 きく 異 なることが 特 徴 的 である また,Al-Zn-Mg 系 合 金 の 強 度 はAl-Cu-Mg 系 合 金 と 同 等 レベルであるが,Al-Zn-Mg 系 合 金 のHES 指 数 はAl-Cu-Mg 系 合 金 に 比 べて 非 常 に 大 きいことから,これらのアルミニウム 合 金 の HES 指 数 が 合 金 の 強 度 に 依 存 するのではなく, 合 金 種 に 大 きく 依 存 していることが 特 徴 的 であるといえる この 傾 向 は, 一 般 的 に 材 料 の 強 度 が 高 くなるにつれて 水 素 脆 化 しやす くなるという 傾 向 が 認 められている 鉄 鋼 材 料 9)とは 大 き く 異 なるものである なぜ Al-Zn-Mg 系 合 金 が 明 確 な 水 素 脆 化 を 示 すのに 対 して, 同 じ 強 度 レベルの Al-Cu-Mg 系 合 金 が 水 素 脆 性 を 示 さないのかの 理 由 については, 本 研 究 の 範 囲 で 明 らかにすることはできなかったが,この 傾 向 はこれら2つの 合 金 系 で 実 用 上 問 題 となる 応 力 腐 食 割 れ(stress corrosion cracking)でのき 裂 進 展 機 構 が Al-Zn-Mg 系 合 金 の 場 合 に 水 素 脆 化 により,Al-Cu-Mg 系 合 金 の 場 合 には 優 先 的 な 粒 界 の 溶 解 によると 区 別 されて いる 1) ことにも 関 連 があるものと 考 えられる 4. おわりに 高 圧 水 素 ガス 中 における 3 系,2 系 および 7 系 合 金 の 将 来 的 な 使 用 を 想 定 して,これらの 合 金 の 本 来 的 な 水 素 脆 化 感 受 性 を 比 較 し, 高 圧 水 素 ガス 中 での 使 用 に 適 する 合 金 系 を 見 出 すことを 目 的 として, 各 種 の 二 元 および 三 元 合 金 を 試 作 して, 湿 度 制 御 雰 囲 気 中 での SSRT 試 験 に 供 して 次 の 知 見 を 得 た なお, 本 研 究 は 新 エネルギー 産 業 技 術 総 合 開 発 機 構 (NEDO)の 開 発 項 目 水 素 社 会 構 築 共 通 基 盤 整 備 事 業 / 水 素 インフラ 等 に 係 る 規 制 再 点 検 及 び 標 準 化 のための 研 究 開 発 / 水 素 用 アルミ 材 料 の 基 礎 研 究 の 一 環 として, 日 本 アルミニウム 協 会 の 協 力 のもとに 実 施 した 研 究 成 果 の 一 部 であり, 関 係 各 位 のご 指 導 とご 協 力 に 感 謝 いた します 参 考 文 献 1) 倉 本 繁, 謝 明 君, 菅 野 幹 宏 : 軽 金 属, 52(22), 25. 2) NEDO 成 果 報 告 水 素 社 会 構 築 共 通 基 盤 整 備 事 業 - 水 素 イン フラ 等 に 係 る 規 制 再 点 検 および 標 準 化 のための 研 究 開 発 - 水 素 用 アルミ 材 料 の 基 礎 研 究 平 成 17 ~ 平 成 18 年 度 のうち 平 成 17 年 度 中 間 年 報 (25). 3) G. A. Young Jr., J. R. Scully: Metal. and Mater. Trans. A, 33A (22), 11. 4) 一 谷 幸 司, 小 山 克 己, 伊 藤 吾 朗, 大 崎 修 平, 薮 田 均 : 軽 金 属 学 会 第 114 回 春 期 大 会 講 演 概 要 (28), 315. 5) 大 崎 修 平, 池 田 淳, 木 下 勝 之, 佐 々 木 侑 慥 : 軽 金 属, 56(26), 721. 6) 田 村 元 紀, 柴 田 浩 司 : 日 本 金 属 学 会 誌, 69(25), 139. 7) 安 藤 誠, 妹 尾 政 臣, 菅 野 幹 宏 : 軽 金 属, 57(27), 19. 8) 大 崎 修 平, 池 田 淳, 木 下 勝 之, 一 谷 幸 司, 竹 島 義 雄, 佐 々 木 侑 慥 : 軽 金 属, 57(27), 74. 9) 松 山 晋 作 : 遅 れ 破 壊, 日 刊 工 業 新 聞 社. 1) T. D. Burleigh: Corrosion, 47(1991), 89. 一 谷 幸 司 (Koji Ichitani) 技 術 研 究 所 小 山 克 己 (Katsumi Koyama) 技 術 研 究 所 28 Furukawa-Sky Review No.5 29