O for A 2008 Spring
Contents 中 心 と 辺 境 2 シュウィンの 教 訓 6
Opportunities for Action 中 心 と 辺 境 1517 年 10 月 31 日 41 歳 のローマ 教 皇 レオ10 世 は この 日 をど のように 過 ごしたのだろうか 詳 細 はわからないが おおよその 見 当 はつきそうだ メディチ 家 出 身 の 彼 は 模 範 的 な 教 皇 とい うよりは 模 範 的 なメディチ 家 の 一 員 といったほうが 当 たってい る 軍 隊 の 司 令 官 を 務 め 前 教 皇 から 引 き 継 いだサンピエトロ 大 聖 堂 の 再 建 を 進 め 人 生 の 快 楽 に 耽 り 芸 術 や 狩 猟 を 楽 しんだ 男 彼 はこの 日 資 金 繰 りで 忙 しかったはずだ サンピエトロ 大 聖 堂 の 再 建 資 金 を 何 としても 手 に 入 れたかった 教 皇 は ドイツ しょくゆうじょう で 贖 宥 状 ( 免 罪 符 )の 販 売 を 許 可 し それをローマにとっての 金 のなる 木 にした 1517 年 10 月 31 日 ヴィッテンベルク 大 学 神 学 部 のある 教 授 が 95カ 条 の 論 題 を 同 封 した 書 簡 を 上 層 部 に 宛 てて 書 いた 内 容 は 贖 宥 状 の 売 買 を 批 判 するもので 教 授 の 名 はマルティン ルター 伝 統 に 従 い 彼 はその 論 題 を 教 会 の 扉 に 張 り 出 したが そのとき 自 分 が 教 会 史 における 最 大 級 の 分 裂 を 引 き 起 こすこと になろうとは 夢 にも 思 っていなかった その 秋 の 日 ローマがキリスト 教 の 中 心 であることを 疑 う 者 は 誰 もいなかった 当 時 のローマ 人 がヴィッテンベルクを 辺 境 と 呼 んだりすれば そこにいた 人 全 員 から 笑 い 飛 ばされたこ とだろう ヴィッテンベルクは 地 図 にも 載 っておらず 辺 境 とさえ 認 識 されていなかった 世 界 はカトリック 各 宗 派 の 修 道 士 や 伝 道 師 で 溢 れていた ローマに 懸 念 すべきことなど 何 もなく 教 皇 庁 の 権 力 は 安 泰 と 思 われた しかし 歴 史 を 見 れば 中 心 がいつまでも 中 心 であり 続 ける ことはないことがわかる 辺 境 にいるアウトサイダーは 喜 んで 中 心 までの 距 離 を 乗 り 越 え 中 心 を 征 服 する 彼 らに 失 うものは なく 得 るものばかりだ それとは 逆 に 中 心 から 辺 境 に 向 かうこ とは はるかに 難 しい 中 心 を 占 有 する 者 は 大 抵 時 すでに 遅 しという 段 階 になって 初 めて 自 らの 脆 弱 さに 気 づくものだ 1517
中 心 と 辺 境 年 のレオ10 世 であれ 1970 年 代 に 日 本 メーカーが 進 出 す る 前 の 欧 米 の 自 動 車 企 業 であれ さらには2001 年 にiPod が 誕 生 する 前 の 音 楽 産 業 であれ 中 心 にいる 者 が 認 識 しなければいけないのは 中 心 と 辺 境 は 単 なる 机 上 の 概 念 ではなく 戦 略 的 打 ち 手 を 生 み 出 す 源 泉 だということ である 辺 境 にはいくつものチャンスが 眠 っている 中 心 にいる 有 力 企 業 が 市 場 を 支 配 している 場 合 であっ ても 産 業 界 はしばしば 辺 境 からのパラダイム 変 化 に 大 き く 揺 さぶられる パソコン 格 安 航 空 Linux デジタルカ メラ インターネットの 検 索 エンジン デルの 受 注 生 産 式 ビ ジネスモデル ipod 市 場 のリーダー 企 業 は このよう な 破 壊 的 なイノベーションが 大 成 功 をおさめ 始 めても 十 分 な 注 意 を 払 ってこなかったのが 実 情 だ どのケースでも 中 心 からはるかに 離 れたところで アウ トサイダーは 新 しいアイデアを 考 え 出 し 市 場 を 創 り 出 し そして 数 年 をかけて 中 心 に 突 き 進 み 最 終 的 には 中 心 を 征 服 してきた 当 初 は こうしたアウトサイダーは 恐 れるほ どの 存 在 ではなかったが 次 第 にその 脅 威 を 増 していき 最 終 的 には 中 心 までの 距 離 を 乗 り 越 え 既 存 のリーダー 企 業 を 打 ち 倒 したのだ このような 緩 やかで 着 実 な 主 役 交 代 の 事 例 は 枚 挙 に 暇 がない サウスウエスト 航 空 は 1971 年 に 米 国 で 初 めて 格 安 航 空 事 業 を 始 めた 企 業 だ ヨーロッパでは 長 らくこのビジネスモデルを 模 倣 する 企 業 はなかったが 1985 年 になって 格 安 航 空 会 社 ライ アンエアーが 設 立 された そして2002 年 ブリティッシュ エアウェイズは 傘 下 の 格 安 航 空 会 社 であるGO( 中 心 の 産 物 である)を 1995 年 に 設 立 された 格 安 航 空 会 社 イー ジージェットに 売 却 した 戦 略 を 立 てるには 辺 境 を 定 期 的 に 訪 れ 調 べ そこか ら 学 ぶ 必 要 がある 辺 境 には 既 存 企 業 がまだ 発 見 して いないチャンスが いくつも 埋 もれている そこは 中 心 に いる 企 業 にとって 小 規 模 な 投 資 をするだけで 巨 大 な 利 益 を 生 み 出 しうる 広 大 な 未 開 発 地 域 なのだ これらの 投 資 は さまざまな 形 態 で 実 施 される たとえば 有 望 なベ ンチャー 企 業 の 買 収 中 心 から 完 全 に 独 立 した 極 秘 の 最 先 端 技 術 開 発 チームへの 資 金 投 入 競 合 する 複 数 の 開 発 チームの 設 立 辺 境 からの 専 門 家 の 登 用 などがある 中 心 にいる 企 業 辺 境 に 位 置 する 企 業 いずれにとっても 最 も 重 要 な 点 は この2 極 間 の 距 離 を 埋 めるコストを 計 算 することである 中 心 の 強 みは 弱 みでもある しかしながら 中 心 にはマイナスの 要 因 ばかり 辺 境 に はプラスの 要 因 ばかりあると 考 えるのは 間 違 いだ 中 心 は 社 会 的 な 交 流 に 欠 かせない 要 素 である 組 織 化 を 担 う 中 心 がなければ 強 力 な 文 化 は 存 在 しえない 人 間 は 社 会 的 な 生 き 物 であり 集 団 行 動 によって つまり 他 の 人 間 と 密 に 接 することを 通 じて 成 長 し 進 歩 する 精 神 宗 教 社 会 政 治 文 化 のいずれの 側 面 においても 中 心 が 秩 序 を 確 立 し 共 存 状 態 における 調 整 弁 の 機 能 を 果 たす 中 心 は 思 考 と 計 画 の 場 であり 大 きな 試 みが 導 入 されたり 数 多 くのイノベーションが 生 み 出 される 場 だ 中 心 には 共 有 さ れた 価 値 観 が 反 映 される 中 心 は 権 力 の 象 徴 であるため ブラマンテやミケランジェロなど 権 力 に 近 づきたいと 考 え る 者 を 惹 きつけ さらにはマルティン ルターのように 権 力 に 挑 む 者 をも 引 き 寄 せる しかし 中 心 が 持 つ 強 みと その 時 点 の 主 流 であるビジ ネスモデルは 同 時 に 弱 みにもなりうる ビル ゲイツは かつて マイクロソフトの 最 も 危 険 な 競 争 相 手 はIBMでも Linuxでもなく Windowsの 巨 大 なユーザー 基 盤 だと 断 言 したことがある 言 い 換 えれば マイクロソフトの 未 来 は 同 社 の 顧 客 の 動 向 にかかっているということだ 通 信 業 界 についても 同 じことがいえる VoIP 技 術 を 利 用 したIP 電 話 は 既 存 企 業 すなわち 伝 統 的 な 電 話 会 社 や 機 器 メーカー が 自 ら 推 し 進 めてきたわけではなく 辺 境 から 登 場 してき た もしVoIPが 主 流 となって 固 定 電 話 を 皮 切 りに 携 帯 電 話 にまで 浸 透 したらどうなるのだろうか 私 たちは 辺 境 からやってきた 一 匹 狼 が 中 心 を 征 服 する という 輝 かしい 物 語 に 目 を 奪 われがちだが 辺 境 からやっ てくるアウトサイダーにうまく 対 処 してきた 既 存 リーダー 企 業 も 多 数 存 在 する いくつかの 例 をあげてみよう IBMは スタートでつまずいたものの パソコンという 破 壊 的 なイノ
ベーションに 追 いついた そして 数 年 後 には 自 社 が 強 力 なサービス プラットフォームを 持 っていることに 気 づき グローバルな 専 門 サービス 提 供 者 へと 変 身 を 遂 げたのだ GEメディカルシステムとシーメンス メディカル ソリュー ションズは 積 極 的 な 買 収 により バイオテクノロジーと 診 断 分 野 を 早 い 段 階 で 取 り 込 んでいる ニューズ コーポレー ションはMySpace.comを 買 収 して ソーシャルネットワーキ ング サービス 事 業 に 参 入 した ロシュはジェネンテックの 先 駆 的 買 収 により バイオ 医 薬 品 事 業 を 手 に 入 れている 中 心 と 辺 境 の 間 の 緊 張 から ブレークスルーを 生 み 出 す 戦 略 は 中 心 と 辺 境 に 現 れた 新 しいビジネスモデルの 間 を 継 続 的 に 往 来 することに 他 ならない アップルやグー グル マイクロソフトなど 偉 大 なイノベーターの 歴 史 が 示 すように ビジネスは 辺 境 から 始 まり 徐 々に 成 功 を 収 め 最 後 は 中 心 におさまる そして いったん 中 心 を 占 めると 間 もなく 辺 境 の 新 たな 競 争 相 手 と 対 峙 することになる これらの 企 業 は さまざまな 戦 略 を 用 いて 辺 境 からの 攻 撃 者 の 矛 先 をかわすことに 成 功 している 辺 境 から 生 まれ たアイデアを 応 用 して 新 しいビジネスモデルを 開 発 したり 辺 境 の 企 業 を 丸 ごと 買 収 したりして 組 織 的 には 攻 撃 者 を 傷 つけることなく 切 り 離 し 同 時 に 辺 境 を 中 心 へと 引 きよせ た 自 社 の 既 存 事 業 の 境 界 外 で 起 きている 根 源 的 な 変 化 を 取 り 込 み 既 存 のビジネスモデルを 変 えてしまったので ある 多 極 性 は 競 争 優 位 の 源 泉 世 界 はいつも 中 心 と 辺 境 にはっきり 分 けられるわけでは ない 歴 史 をひもとくと 豊 かな 多 極 性 が 長 期 間 にわたっ て 存 在 したケースが 多 く 見 られる たとえば カエサルの 時 代 のガリア 人 マヤ 文 明 イタリア ルネッサンスの 諸 都 市 などである 多 極 システムは 高 度 な 創 造 性 に 満 ちている が 支 えとなるべき 共 通 の 価 値 観 を 失 うと 脆 弱 になる ビジネスにも 多 極 システムの 事 例 は 数 多 く 見 られる そのひとつは グローバル 企 業 の 研 究 ネットワークだ たと えば GEやシーメンスは 全 世 界 から 最 も 優 れたエンジニ アと 優 れたアイデアを 集 めるために 研 究 開 発 活 動 を 世 界 の 全 ての 大 陸 で 行 っている もうひとつの 例 は 価 値 観 を 共 有 するサプライヤーのネットワークである サプライヤー のシステムが 一 枚 岩 になっていなければ 生 産 量 を2ケタの 勢 いで 急 速 に 成 長 させることはできない 先 進 的 な 自 動 車 メーカーは 早 くからこのことに 気 がついて 価 値 観 を 共 有 する 部 品 メーカーのネットワークを 作 ることに 成 功 している 企 業 の 境 界 スペース に 位 置 する 組 織 や 集 団 すなわ ち 営 業 部 隊 サービス 組 織 流 通 業 者 合 弁 企 業 実 験 的 部 門 など は 辺 境 からの 重 要 なシグナルを 捉 える 責 任 を 負 わねばならない そのためには それぞれの 部 門 ひい ては 組 織 全 体 が 次 のような 問 いについて 考 えてみるとよ いだろう 既 存 のビジネスモデルの 例 外 的 事 象 で 詳 しく 調 べる 価 値 があるものはないだろうか たとえば 自 社 の 商 品 を 買 いたがらない 消 費 者 利 益 を 無 視 しているように 見 える 競 合 企 業 自 社 のビジネスに 属 さない 技 術 などだ このような 例 外 的 事 象 は 既 存 ビジネスモデルに 将 来 とってかわる 可 能 性 のある 何 かを 示 す 兆 候 だろうか 破 壊 的 なイノベーションとなる 可 能 性 のあるものを 追 求 することに 関 心 を 持 っているのは 誰 か 現 在 辺 境 に いるのはどの 企 業 か 中 心 を 占 めているのはどの 企 業 か これらの 企 業 は 将 来 主 客 を 変 える 可 能 性 があるだ ろうか 中 心 を 占 有 すると 同 時 に 辺 境 にも 足 場 を 築 くことがで きるだろうか 辺 境 はどうすれば 自 らの 洞 察 と 中 心 の 強 固 な 既 成 概 念 との 間 に 横 たわる 距 離 を 乗 り 越 えられ るだろうか 中 心 は 辺 境 から 何 を 学 ぶことができるだろ うか 中 心 と 辺 境 はそれぞれの 強 みを 生 かして イノベーション を 起 こしているだろうか 辺 境 は 独 自 のリソース より
中 心 と 辺 境 高 い 独 立 性 より 大 きな 自 由 を 活 用 して 中 心 は その 強 力 な 文 化 経 済 力 組 織 力 を 使 って 私 たちは 中 心 と 辺 境 の 関 係 を 考 えるとき 今 日 のグロー バル 経 済 を 構 成 している 国 組 織 文 化 の 多 様 性 を 活 かすため 一 極 的 に 考 えるだけでなく 多 極 的 に 考 えよ うとしているだろうか これらの 質 問 を 常 に 問 い 続 ける 企 業 は 中 心 においても 辺 境 においても 独 自 の 道 を 見 出 すことができるだろう そし て 今 日 の 市 場 だけでなく 未 来 の 市 場 においても 居 場 所 を 確 保 することができるのだ ボルコ フォン アーティンガー 原 題 :Center and Periphery ボルコ フォン アーティンガー BCGミュンヘン 事 務 所 シニア パートナー&マネージング ディレクター 著 書 ( 共 著 )に C lau sew it z on St r ate g y( 邦 訳 ク ラ ウ ゼ ヴィッツの 戦 略 思 考 戦 争 論 に 学 ぶリーダーシップと 決 断 の 本 質 ダイヤモンド 社 )
Opportunities for Action シュウィンの 教 訓 私 は1960 年 代 にニューヨークで 少 年 時 代 を 過 ごしたが 当 時 一 番 欲 しかったものはシュウィンの 自 転 車 だった 最 初 に 欲 しかったのは ブラック ファントム モデル それから スティング レイ そして バーシティ だ 近 所 の 子 供 たち は 誰 でも シュウィンを 持 っていれば 鼻 高 々だった 他 の 自 転 車 メーカーなど 比 べ 物 にならなかった 絶 頂 期 のシュウィンは2,000 人 以 上 の 従 業 員 を 抱 え 5つ の 工 場 で 年 間 数 十 万 台 もの 自 転 車 を 生 産 し 米 国 の 自 転 車 市 場 で 2 割 近 くのシェアを 占 めていた シュウィンの 名 は 最 先 端 のイノベーションと 比 類 のない 品 質 の 代 名 詞 だった しかし 今 日 シュウィンはもはや 事 業 会 社 としては 存 在 してい ない 米 国 には シュウィンの 工 場 もなければ 従 業 員 もいな い 1895 年 に 設 立 されたシュウィン 社 は 1992 年 に 倒 産 し 1993 年 に 最 後 の 工 場 が 閉 鎖 された シュウィンのブランドは 今 ではパシフィック サイクルが 所 有 しており そのパシフィッ ク サイクルは カナダに 本 社 を 置 く 消 費 財 企 業 ドレル インダストリーズの 子 会 社 である パシフィック サイクルの 自 転 車 はすべてアジアで 製 造 されている 今 ウォルマートで 販 売 されているシュウィンの 自 転 車 と 昔 のシュウィンの 自 転 車 の 共 通 点 といえば 唯 一 ブランド 名 のみである 一 体 何 があったというのだろう シュウィンの 経 営 陣 は 世 界 最 高 の 自 転 車 を 設 計 し 製 造 し マーケティングを 行 い 販 売 してきた 長 い 歴 史 だけで 頂 点 に 立 ち 続 けられると 思 っていたのだろうか 同 社 の 幹 部 には 業 界 の 経 済 性 が 変 化 しているのが 見 えなかったのだろうか あるいは そういっ た 変 化 への 対 応 を 見 誤 ったのだろうか たとえば 低 価 格 自 転 車 の 生 産 を 台 湾 のサプライヤーにアウトソースしたことは やり 方 がまずかったために 最 大 のライバル 企 業 をつくる 結 果 となってしまった 同 社 の 崩 壊 の 原 因 となったエピソード は 他 にもあるかもしれないが シュウィンが 倒 産 し ブランド
シュウィンの 教 訓 が 売 却 されたことは 紛 れもない 事 実 である そして 今 日 多 くの 有 名 企 業 が 米 国 だけでなくヨー ロッパやアジアでも シュウィンが 直 面 したのと 同 様 の 状 況 に 対 峙 していることもまた 事 実 だ しかし 今 後 の 展 開 までもが 決 まっているわけではない 自 らの 運 命 の 手 綱 を 放 さないですむ 方 法 もある シュウィンとは 違 う 道 を 歩 むこともできるのだ 選 ばれなかった2つのシナリオ 本 来 ならば シュウィンが 置 かれた 状 況 でも 成 功 に 至 る 道 はいくつかあったはずだ 別 の 道 を 進 んでいたら 全 く 違 うストーリーになっていたことだろう 以 下 に こ んなことも 可 能 だったはず という 仮 想 シナリオを2つ 挙 げてみよう 代 替 シナリオ1: 独 自 の 高 みをめざす シュウィンは アジアをはじめとする 低 コスト 地 域 に 生 産 のほとんどをアウトソースするという 計 画 には 乗 り 出 さないことを 決 めた その 代 わりに 製 品 セグメント に 応 じた 計 画 を 策 定 した 低 価 格 帯 の 自 転 車 につい ては 短 期 的 に 中 国 や 台 湾 のメーカーに 生 産 を 委 託 し たものの 間 もなくそのセグメントは 低 コストのプレー ヤーに 完 全 に 譲 ることにした 一 方 中 価 格 帯 から 高 価 格 帯 のモデルについては 労 働 集 約 的 な 部 品 を 低 コス トのパートナー 企 業 にアウトソースすることで 大 幅 に コストを 下 げられると 判 断 サプライヤー 候 補 の 企 業 を 数 百 社 も 調 査 面 接 し 最 適 と 判 断 された 企 業 と 長 期 の 契 約 を 結 んで 囲 い 込 んだ そして 最 終 段 階 の 組 立 と 検 査 を 米 国 で 行 うようにオペレーションを 再 構 築 し 物 流 コストを 削 減 するとともに 高 い 品 質 が 確 実 に 維 持 されるようにした だが こういった 変 革 を 進 めるためには 断 腸 の 思 い での 決 断 も 必 要 だった 変 革 の 過 程 で 同 社 の 従 業 員 の 約 3 割 を 解 雇 したのだ しかし 一 連 の 変 革 の 結 果 シュウィンは 以 前 の 半 分 のコストで 自 転 車 を 生 産 できる ようになり 中 価 格 帯 の 自 転 車 で 有 力 なポジションを 維 持 することができた これはまた 高 級 製 品 市 場 で 製 品 開 発 や 製 造 のケイパビリティ( 組 織 能 力 )および ブランドを 活 かして 非 常 に 強 力 なポジションを 固 める うえでも 役 にたった たとえば 潤 沢 なキャッシュが 得 られたために リスクをとって 新 製 品 分 野 で 競 争 するこ とができ 新 しいマウンテンバイクやブランドを 開 発 す ることも 可 能 になった その 結 果 シュウィンは 今 では 米 国 できわめて 強 い 競 争 力 を 持 っているだけでなく 中 国 やヨーロッパへ 高 級 自 転 車 を 大 量 に 輸 出 するよう になっている さらにこの 成 長 のおかげで シュウィンの 米 国 内 の 従 業 員 数 は アウトソースを 開 始 する 前 の2 倍 となっている 代 替 シナリオ2: 倒 せないなら 入 り 込 む このシナリオでは シュウィンは 低 コスト 国 に 自 ら 乗 り 込 み 低 コスト プレーヤーと 直 接 対 決 する 同 社 は 生 産 の 大 半 を 下 請 けメーカーに 委 託 する 代 わりに 可 能 な 限 り 速 いスピードで 中 国 に 自 社 工 場 を 開 設 したのだ それによって シュウィンは 以 前 の3 分 の1のコストで 自 転 車 を 製 造 できるようになった 自 社 工 場 の 建 設 に 投 資 したおかげで 独 自 の 製 造 技 術 を 持 ち 込 み 自 前 で 労 働 者 を 訓 練 することができ それが 品 質 の 保 持 に 役 立 った 同 社 はこうして 大 幅 に 低 いコストで 高 い 品 質 を 達 成 できるようになったのだ この 意 思 決 定 により シュウィンは 米 国 内 の 従 業 員 の 7 割 以 上 を 削 減 しなければならなかった しかし 同 社 は 中 国 でのオペレーションの 拡 大 を 続 け 間 もなく 中 国 の 国 内 市 場 でも 自 転 車 の 販 売 を 開 始 した しかも 低 価 格 セグメントだけではなく 米 国 での 長 い 歴 史 のある メーカーという 名 声 を 活 かして 高 価 格 の 高 級 製 品 も 販 売 するようになった さらに 同 社 はこうして 築 いたポジ ションを 利 用 して 低 コスト 国 での 生 産 調 達 を 他 の 製 品 にも 広 げ まずアジア 全 域 に やがては 世 界 全 体 に 輸 出 するようになった その 結 果 シュウィンは 今 日 自 転 車 の 売 上 で 世 界 一 の 企 業 となり 中 国 のほかに 東 欧 やブラジルにも 新 しい 工 場 を 構 えるに 至 った 合 計 する と これまでに 新 興 市 場 で 販 売 した 自 転 車 の 台 数 は5 億 台 以 上 に 上 るが これは 同 社 が 創 立 以 来 100 年 間 で 販 売 した 台 数 を 上 回 る この 成 功 によって シュウィン
一 族 は フォーチュン 誌 の 世 界 の 資 産 家 ファミリー 500 番 付 で 最 上 位 近 くにまで 上 りつめ 米 国 における 同 社 の 従 業 員 数 は 現 在 海 外 進 出 を 決 断 する 前 より も 多 くなっている 何 年 も 前 に 私 はある 製 紙 会 社 のお 手 伝 いをしたこ とがある ウィスコンシン 州 の 小 さな 町 にあったこの 会 社 は 存 亡 の 危 機 に 瀕 していた 50 0 人 の 従 業 員 を 雇 用 するパルプ 工 場 は コスト 高 に 悩 んでいた 一 方 1,000 人 を 雇 用 する 製 紙 工 場 には コスト 競 争 力 があっ た 結 局 この 会 社 は 町 にとっては 極 めて 痛 手 であった 選 択 肢 と 機 会 低 コストのライバルと 競 争 することになっても あきら める 必 要 はない 必 要 なのは どんな 手 を 打 つことがで きるか そして どんな 選 択 肢 があるかを 慎 重 かつ 徹 底 的 に 検 討 することだ まず どんな 脅 威 があるかを 理 解 する 低 コストのライバル 企 業 がどのように 攻 めてく るかを 考 えるのだ ボリューム シェアをとるために 価 格 を 下 げてくるのか あるいは 価 格 プレミアムを 得 るた めに ブランドを 買 収 しようとしているのか あなたの 会 社 にとって 最 大 の 強 みはどこにあるのだろうか そして 以 下 のような 問 いについて 考 えてみよう 何 も しないでも 生 き 残 れるだろうか それ が 無 理 ならば どのように 進 化 すればよいのだろうか 敵 地 の 低 コスト 国 に 乗 り 込 んで 調 達 や 生 産 を 行 うとか さらに は 低 コスト 国 の 企 業 に 自 社 を 売 却 することまで 考 える のか あるいは コストを 削 減 し ブランドを 強 化 して が パルプ 工 場 を 閉 鎖 することで 製 紙 工 場 を 存 続 させ た つまり 同 社 は500 人 の 雇 用 を 削 減 して1,000 人 の 雇 用 を 守 ったのである 製 紙 工 場 は 成 功 し 今 日 ではそ こで1,500 人 以 上 が 働 いている パルプ 工 場 を 放 棄 す ることで 製 紙 工 場 を 身 軽 にした 同 社 は 生 き 残 っただ けでなく 成 長 できたのだ シュウィンが 同 様 の 道 をたどっていれば 同 じように なったかもしれない 私 が 子 供 の 頃 より 米 国 内 の 雇 用 数 は 増 えていたかもしれない あるいは 私 の 子 供 時 代 のシュウィンとは 全 く 異 なる 姿 で 存 続 し 利 益 をあげ ていたかもしれない 後 知 恵 だから 言 えることだ と 言 われればそれまでだ しかし あなたがシュウィンと 同 じ 間 違 いを 犯 し 自 分 の 運 命 の 手 綱 を 放 すことになっ ても 言 い 訳 はできない ただ 拒 否 することは 勝 利 す る 戦 略 ではない ハロルド L サーキン 競 争 上 のポジションをより 強 固 にする 方 法 を 見 つけるの か 自 社 の 強 みが 得 られるところ 弱 みを 相 殺 できると ころを 明 らかにしたければ 現 状 のサプライチェーンに ついて 詳 細 に 分 析 し 場 合 によっては 将 来 のサプライ チェーンのあり 方 についても 深 く 検 討 することが 不 可 欠 である 最 後 に 迅 速 に 行 動 することだ 脅 威 は 現 実 にある 原 題 :Don t Be a Schwinn ハロルド L サーキン BCGシカゴ 事 務 所 シニア パートナー&マネージング ディレクター 著 書 ( 共 著 )に Payback Reaping the Rewards of Innovation ( 邦 訳 BCG 流 成 功 へのイノベーション 戦 略 ランダムハウス 講 談 社 ) のんびり 行 動 していたら 会 社 は 倒 産 してしまうかもし れない 機 会 についても 同 じことが 言 える 迅 速 に 動 け ば 低 コストのプレーヤーと 既 存 の 競 合 企 業 の 両 方 に 対 して 自 社 のポジションを 強 化 できる 可 能 性 がある 時 には 解 雇 などの 厳 しい 措 置 を 伴 う 選 択 が 長 期 的 には 雇 用 を 守 る 最 善 の 方 法 となることもある
隠 れた 人 材
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12 弊 グループでは 企 業 経 営 に 関 する 様 々なテーマについてコンサルティングサービスを 提 供 しております ご 関 心 をお 持 ちの 方 は 下 記 までお 問 合 せください く す み 秘 書 室 久 須 美 ( 電 話 :03-5211-0386 電 子 メール bcgtokyo@bcg.co.jp FAX:03-5211-0333) 2008 年 5 月 発 行
ボストン コンサルティング グループ 東 京 事 務 所 東 京 都 千 代 田 区 紀 尾 井 町 4-1 ニューオータニガーデンコート 102-0094 Tel.03-5211-0300 Fax.03-5211-0333 中 部 関 西 事 務 所 愛 知 県 名 古 屋 市 中 村 区 名 駅 1-1-4 JRセントラルタワーズ 450-6036 Tel.052-533-3466 Fax.052-533-3468 The Boston Consulting Group K.K. 2008. All rights reserved.
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