総 合 保 健 科 学 : 広 島 大 学 保 健 管 理 センター 研 究 論 文 集 Vol. 31, 2015, 7-12 原 著 大 学 生 を 対 象 とした 睡 眠 調 査 について 三 宅 典 恵 1), 岡 本 百 合 1), 神 人 蘭 1) 2), 永 澤 一 恵 矢 式 寿 子 1), 内 野 悌 司 1), 磯 部 典 子 1) 1), 高 田 純 小 島 奈 々 恵 1), 二 本 松 美 里 1) 1), 吉 原 正 治 日 本 では 約 5 人 に1 人 が 入 眠 困 難, 中 途 覚 醒, 早 朝 覚 醒 などの 睡 眠 の 問 題 を 抱 えていることが 報 告 さ れている 大 学 生 においても 生 活 が 深 夜 型 化 しており, 睡 眠 の 問 題 を 主 訴 にメンタルヘルス 相 談 を 希 望 する 学 生 が 増 加 している われわれは, 本 学 の 教 養 科 目 を 受 講 した 大 学 生 を 対 象 に, 睡 眠 に 関 するアン ケート 調 査 を 実 施 した 多 くの 学 生 が, 睡 眠 時 間 の 不 足 や 日 中 の 眠 気, 睡 眠 の 質 への 不 満 を 感 じていた 不 眠 障 害 はうつ 病 の 発 症 や 不 登 校 への 関 与 も 報 告 されており, 身 体 面 や 精 神 面 への 影 響 は 大 きい 大 学 生 活 への 適 応 が 困 難 となる 事 例 もあるため, 大 学 メンタルヘルスにおいても, 学 生 に 対 して 不 眠 障 害 に 関 する 知 識 や 情 報 の 提 供, 早 期 の 支 援 が 必 要 であると 思 われる キーワード: 不 眠 障 害, 大 学 生,メンタルヘルス Insomnia disorder in university students Yoshie MIYAKE 1), Yuri OKAMOTO 1), Ran JINNIN 1), Ichie NAGASAWA 2) Hisako YASHIKI 1), Teiji UCHINO 1), Noriko ISOBE 1), Jun TAKATA 1) Nanae KOJIMA 1), Misato NIHONMATSU 1), Masaharu YOSHIHARA 1) It is reported that twenty percent of Japanese people suffer from sleeping problems such as difficulty getting to sleep, arousal during sleep, and early-morning awakening. This is also thought to be true with university students who tend to have life styles that last through the night. The number of university students who come for mental health consultations about their sleeping problems are increasing. A questionnaire about sleep was conducted to university students in a class. Many students felt that they did not have enough sleep, felt sleepy during the day, and was unsatisfied with the quality of their sleep. Insomnia disorder is said to be related to depression and school refusal, and its physical and mental effects are significant resulting in, for example, difficulty adapting to campus life. On campus, it would be important to provide the students with appropriate information about insomnia disorders, and to offer early support. Key words: Insomnia disorder, university students, mental health Ⅰ.はじめに 生 活 習 慣 の 多 様 化 や 労 働 環 境 の 変 化 などに 伴 い, 不 眠 障 害 の 増 加 が 注 目 されている 一 般 人 口 を 対 象 とした 疫 学 調 査 から, 日 本 においておよそ 5 人 に1 人 は 入 眠 困 難, 中 途 覚 醒, 早 朝 覚 醒 など の 睡 眠 の 問 題 を 抱 えていることが 報 告 されてい る 1) 睡 眠 障 害 国 際 分 類 第 2 版 2) によると, 不 眠 1) 広 島 大 学 保 健 管 理 センター 2) 広 島 大 学 大 学 院 精 神 神 経 医 科 学 著 者 連 絡 先 : 739-8514 広 島 県 東 広 島 市 鏡 山 1-7-1 1)Health Service Center, Hiroshima University 2)Department of Psychiatry and Neurosciences, Hiroshima University 広 島 大 学 保 健 管 理 センター 7
総 合 保 健 科 学 第 31 巻 2015 症 とは,A) 入 眠 困 難, 睡 眠 維 持 困 難, 早 朝 覚 醒, 回 復 感 欠 如 などの 夜 間 の 睡 眠 困 難 があり,B) 適 切 なタイミングと 適 切 な 環 境 下 で 起 こり,C) 夜 間 の 睡 眠 困 難 により, 疲 労, 不 調 感, 注 意 集 中 力 低 下, 気 分 変 調 などの 日 中 の 問 題 が 起 きている 場 合 とされる 1) すなわち, 適 切 な 時 間 帯 に 床 で 過 ごす 状 態 が 確 保 されているにもかかわらず, 夜 間 睡 眠 の 質 的 低 下 があり,これにより 日 中 に 生 活 の 質 の 低 下 がみられる 状 態 である 3) 米 国 精 神 医 学 会 による 精 神 疾 患 の 診 断 統 計 マニュアル (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition; DSM-5) 4) では, 不 眠 障 害 (Insomnia disorder)と 呼 ばれるようになった 一 般 労 働 者 の20-40%が 不 眠 であるとも 言 われ ており 5), 社 会 全 体 への 不 眠 障 害 の 影 響 は 大 き い 日 中 の 眠 気 から 集 中 力 が 欠 け, 社 会 生 活 の 効 率 が 悪 くなり, 時 に 重 大 な 事 故 につながる 症 例 も みられる また, 不 眠 障 害 がうつ 病 の 発 症 要 因 と いう 報 告 や 不 登 校 の 合 併 例 も 少 なくない 6,7) 三 池 らは, 不 登 校 は 慢 性 的 睡 眠 欠 乏 の 持 続 によって 引 き 起 こされる 中 枢 神 経 機 能 の 病 的 疲 労 状 態 である とも 述 べている 8) 大 学 生 においても 生 活 が 深 夜 型 化 しており, 睡 眠 の 問 題 を 主 訴 にメンタルヘル ス 相 談 を 希 望 する 学 生 が 増 加 している しかしな がら, 不 眠 障 害 を 抱 えながらも 相 談 に 至 らない 症 例 は 多 いと 思 われる 不 眠 障 害 に 対 する 今 後 の 支 援 のあり 方 について 検 討 するためには, 大 学 生 の 睡 眠 状 態 や 不 眠 障 害 に 対 する 理 解 について 明 らか にすることが 重 要 である 今 回, 大 学 生 を 対 象 に 睡 眠 に 関 するアンケート 調 査 を 行 ったので, 報 告 する Ⅱ. 対 象 と 方 法 本 学 の 教 養 科 目 を 受 講 した 大 学 生 を 対 象 に, 調 査 の 主 旨 を 説 明 し, 同 意 を 得 た 上 で, 自 記 式 質 問 紙 を 用 いたアンケート 調 査 を 実 施 した 大 学 生 の 睡 眠 状 態 について 調 査 するため, 不 眠 障 害 の 評 価 尺 度 であるアテネ 不 眠 尺 度 (Athens Insomnia Scale) 9) を 用 いた 質 問 紙 では, あなたが 過 去 1ヶ 月 間 に 少 なくとも 週 3 回 以 上 経 験 したものを 選 択 して 下 さい の 問 いに 対 して, 睡 眠 に 関 する8 項 目 の 質 問 に 対 して 回 答 を 選 択 する 各 項 目 0-3 点 で 評 価 を 行 い, 総 得 点 により 不 眠 の 度 合 いを 判 定 する 0-3 点 は 問 題 なし,4-5 点 は 少 し 不 眠 の 疑 いあり,6-9 点 は 不 眠 症 の 疑 いがあり, 10 点 以 上 は 専 門 家 への 相 談 を 勧 めると 評 価 され る アンケートの 内 容 は,アテネ 不 眠 尺 度, 現 在 の 睡 眠 状 態 に 関 する 質 問, 不 眠 障 害 に 対 する 理 解 と 対 応 に 関 する 質 問,などから 構 成 されている 回 答 者 は448 人 ( 男 性 267 人, 女 性 181 人 )であり, 平 均 年 齢 は18.8±1.0 歳 であった Ⅲ. 結 果 1.アテネ 不 眠 尺 度 を 用 いた 質 問 について 8 項 目 の 総 得 点 の 平 均 は,4.8±3.2 点 であった 総 得 点 は,0-3 点 が179 人 (40.0%),4-5 点 が109 人 (24.3%), 6-9 点 が125 人 (27.9%), 10 点 以 上 は35 人 (7.8%)であった 結 果 の 一 部 を 表 1に 示 す 項 目 別 では, 寝 つきはどうでし たか という 質 問 に 対 して, いつも 寝 つきはよい と 回 答 した 学 生 は60.7%であり, 残 りの 約 4 割 の 学 生 が 入 眠 の 困 難 さを 認 めていた 夜 間, 睡 眠 途 中 に 目 が 覚 めることはありましたか という 質 問 に 対 して, 問 題 になるほどではなかった と 回 答 した 学 生 は80.8%であり, 約 2 割 の 学 生 が 中 途 覚 醒 を 認 めていた 希 望 する 起 床 時 間 より 早 く 目 覚 め,それ 以 上 眠 れないことはありましたか という 質 問 に 対 して, そのようなことはなかっ た と 回 答 した 学 生 は79.4%であり, 約 2 割 の 学 生 が 早 朝 覚 醒 を 認 めていた あなたの 総 睡 眠 時 間 はどうでしたか という 質 問 に 対 して, 十 分 である と 回 答 した 学 生 は35.9%であり, 多 くの 学 生 は 睡 眠 時 間 が 足 りないと 回 答 した あなた の 全 体 的 な 睡 眠 の 質 はどうでしたか という 質 問 に 対 して, 満 足 している と 回 答 した 学 生 は 37.7%であり, 多 くの 学 生 が 睡 眠 の 質 に 不 満 を 感 じていた 日 中 の 気 分 や 活 動 については, いつ も 通 り と 回 答 した 学 生 が 約 65%であった 日 中 の 眠 気 はどうでしたか という 質 問 に 対 して, 全 くない と 回 答 した 学 生 は8%であり,ほと んどの 学 生 が 日 中 の 眠 気 を 感 じていた 8
大 学 生 を 対 象 とした 睡 眠 調 査 について 表 1 アテネ 不 眠 尺 度 を 用 いた 質 問 紙 結 果 総 得 点 0-3 点 40.0% 4-5 点 24.3% 6-9 点 27.9% 10 点 以 上 7.8% A 寝 つきはどうでしたか いつも 寝 つきはよい 60.7% いつもより 少 し 時 間 がかかった 28.3% いつもよりかなり 時 間 がかかった 8.0% いつもより 非 常 に 時 間 がかかったか, 全 く 眠 れなかった 8.0% B 夜 間, 睡 眠 途 中 に 目 が 覚 めることはありましたか 問 題 になるほどではなかった 80.8% 少 し 困 ることがあった 15.2% かなり 困 っている 3.8% 深 刻 な 状 態 か, 全 く 眠 れなかった 0.2% C 希 望 する 起 床 時 間 より 早 く 目 覚 め,それ 以 上 眠 れないことはありましたか そのようなことはなかった 79.4% 少 し 早 かった 16.3% かなり 早 かった 3.6% 非 常 に 早 かったか, 全 く 眠 れなかった 0.7% D あなたの 総 睡 眠 時 間 はどうでしたか 十 分 である 35.9% 少 し 足 りない 46.5% かなり 足 りない 16.3% 全 く 足 りないか, 全 く 眠 れなかった 1.3% E あなたの 全 体 的 な 睡 眠 の 質 はどうでしたか 満 足 している 37.8% 少 し 不 満 49.8% かなり 不 満 11.2% 非 常 に 不 満 か, 全 く 眠 れなかった 1.3% F 日 中 の 気 分 はどうでしたか いつも 通 り 65.2% 少 しめいった 30.6% かなりめいった 3.1% 非 常 にめいった 1.1% G 日 中 の 活 動 について( 身 体 的 および 精 神 的 )はどうでしたか いつも 通 り 64.3% 少 し 低 下 31.5% かなり 低 下 3.8% 非 常 に 低 下 0.4% H 日 中 の 眠 気 はありましたか 少 しある 53.6% かなりある 30.8% 激 しい 1.3% 全 くない 8.0% 9
総 合 保 健 科 学 第 31 巻 2015 2. 睡 眠 状 態 に 関 する 質 問 に 対 して 入 眠 までに 要 する 時 間 について, 15 分 未 満 が51.6%, 15-29 分 が27.2%であり, 約 8 割 の 学 生 は 入 眠 までに 要 する 時 間 は30 分 未 満 であっ た しかし, 30-59 分 が14.7%, 60 分 以 上 が6.5%であり, 入 眠 までに 長 時 間 を 要 する 学 生 も 少 なくなかった 睡 眠 時 間 の 平 均 は, 平 日 は6 時 間 6 分, 休 日 は7 時 間 47 分 であった 今 まで 不 眠 などの 不 眠 障 害 の 症 状 に 悩 んだ 経 験 がありま すか という 質 問 に 対 して, ある と 回 答 した 学 生 は45 人 (10%)であった このうち, 医 療 機 関 を 受 診 した 経 験 があると 回 答 した 学 生 は1 人 で あった 3. 不 眠 障 害 の 理 解 に 関 する 質 問 に 対 して 不 眠 障 害 で 悩 んでいることは 周 囲 に 言 いづら いですか,という 質 問 には, そう 思 う が41 人 (9.1%), ややそう 思 う が80 人 (17.9%), あ まりそう 思 わない が153 人 (34.2%), そう 思 わない が174 人 (38.8%)であった 不 眠 で 医 療 機 関 を 受 診 する 必 要 はないと 思 いますか,と いう 質 問 には, そう 思 う が63 人 (14.1%), や やそう 思 う が83 人 (18.5%), あまりそう 思 わ ない が166 人 (37.0%), そう 思 わない が136 人 (30.4%)であった 不 眠 障 害 はうつ 病 など のこころの 病 気 の 一 症 状 としてあらわれることが 多 いと 思 いますか,という 質 問 には, そう 思 う が202 人 (45.1%), や や そ う 思 う が191 人 (42.6%), あまりそう 思 わない が35 人 (7.8%), そう 思 わない が20 人 (4.5%)であった 不 眠 障 害 の 治 療 薬 を 飲 むことにネガティブなイメー ジがありますか,という 質 問 には, そう 思 う が135 人 (30.1%), や や そ う 思 う が146 人 (32.6%), あまりそう 思 わない が99 人 (22.1%), そう 思 わない が68 人 (15.2%)であった 不 眠 障 害 の 症 状 に 悩 んだらどうしますか,と いう 質 問 には, 生 活 習 慣 を 改 善 する が274 人 (61.2%), 睡 眠 の 環 境 を 整 える が256 人 (57.1%), 気 分 転 換 などのストレスの 軽 減 をする が229 人 (51.1%), 誰 かに 相 談 する が143 人 (31.9%), 放 っておいてもいつか 自 然 に 治 る が136 人 (30.4%), 病 院 を 受 診 する が101 人 (22.5%), 保 健 管 理 センターに 相 談 する が62 人 (13.8%), よ くわからない が10 人 (2.2%)であった( 重 複 回 答 あり) Ⅳ. 考 察 大 学 生 448 人 を 対 象 に 睡 眠 に 関 するアンケート 調 査 を 行 った 本 調 査 で 用 いたアテネ 不 眠 尺 度 は, 世 界 保 健 機 関 (WHO)が 中 心 となって 設 立 した 睡 眠 と 健 康 に 関 する 世 界 プロジェクト が 作 成 した 世 界 共 通 の 不 眠 症 判 定 法 に 基 づいたチェック リストである アテネ 不 眠 尺 度 による 質 問 では, 入 眠 困 難 を 認 めている 学 生 が 約 4 割, 中 途 覚 醒 を 認 めている 学 生 が 約 2 割, 早 朝 覚 醒 を 認 めている 学 生 が 約 2 割 であった また, 睡 眠 時 間 の 平 均 は 平 日 6 時 間 6 分, 休 日 7 時 間 47 分 であり, 約 6 割 の 学 生 が 睡 眠 時 間 の 不 足 や 睡 眠 の 質 への 不 満 を 感 じており, 多 くの 学 生 が 日 中 の 眠 気 を 感 じてい た また,アテネ 不 眠 尺 度 の 総 得 点 が10 点 以 上 の, 不 眠 症 の 疑 いが 強 く 相 談 が 必 要 と 判 定 される 学 生 が7.8%であり, 不 眠 障 害 を 抱 える 学 生 は 少 なく ないと 思 われる 不 眠 障 害 があると, 日 中 の 眠 気 から QOL の 低 下 につながり, 学 生 生 活 への 影 響 は 大 きい しかし, 今 までに 不 眠 障 害 の 症 状 に 悩 んだ 経 験 があると 回 答 した 学 生 のうち, 医 療 機 関 を 受 診 した 経 験 がある 学 生 は1 人 であった 多 く の 学 生 が, 不 眠 障 害 で 悩 んでいることは 周 囲 に 言 いづらいという 考 えではなく, 不 眠 障 害 は 精 神 疾 患 の 一 症 状 としてあらわれることも 理 解 してい た しかし, 不 眠 障 害 の 症 状 に 悩 んだ 場 合 も, 約 3 割 の 学 生 は 放 っておいてもいつか 自 然 に 治 る と 回 答 し, 病 院 を 受 診 する, 保 健 管 理 センター に 相 談 する と 回 答 した 学 生 よりも 多 かった ま た, 不 眠 障 害 の 治 療 のために 医 療 機 関 の 受 診 の 必 要 はないと 考 えている 学 生 や 治 療 薬 を 飲 むことに ネガティブなイメージを 抱 いている 学 生 も 多 くみ られた また,アテネ 不 眠 尺 度 の 総 得 点 が10 点 以 上 の 高 得 点 群 では, 不 眠 で 医 療 機 関 を 受 診 する 必 要 はない という 質 問 に 対 し, 約 半 数 の 学 生 が そう 思 う ややそう 思 う と 回 答 しており, 不 眠 障 害 の 症 状 や 治 療 についての 正 しい 理 解 を 促 し 10
大 学 生 を 対 象 とした 睡 眠 調 査 について ていく 必 要 があると 思 われる 過 去 の 調 査 によると, 日 本 人 の 睡 眠 時 間 は 全 体 の 平 均 睡 眠 時 間 が7 時 間 22 分 であった 10) 厚 生 労 働 省 が 実 施 した 平 成 23 年 国 民 栄 養 健 康 調 査 によ ると,20 代 の 睡 眠 時 間 は6 時 間 以 上 7 時 間 未 満 が 男 性 39.3%, 女 性 36.7%と 最 も 多 い 結 果 であった 本 調 査 の 結 果 と 比 較 すると, 大 学 生 の 平 日 の 睡 眠 時 間 が 不 足 していることがわかる 日 本 人 の 平 均 睡 眠 時 間 はこの50 年 間 で 約 50 分 短 くなり, 特 に 若 年 層 の 睡 眠 時 間 の 短 縮 が 著 しいといわれている 11) インターネットやスマートフォン,ゲームの 普 及 の 影 響 もあり, 若 者 の 生 活 の 深 夜 型 化 は 深 刻 な 問 題 である また, 大 学 生 においては, 講 義 の 他 に, 夜 間 のアルバイトやサークル 活 動, 研 究 室 での 活 動 など 多 くの 活 動 に 追 われ, 睡 眠 が 不 足 するケー スも 多 い ゲームなどとは 異 なり, 学 生 生 活 にお いてプラスに 考 えられることが 多 い 活 動 であって も, 不 眠 障 害 につながる 恐 れがあり, 生 活 リズム への 十 分 な 配 慮 が 必 要 である また, 昼 夜 逆 転 の 生 活 が 続 くと 活 動 量 が 減 ったうえに, 光 を 浴 びる ことが 少 なくなり, 体 内 時 計 に 狂 いが 生 じて,さ らに 睡 眠 が 障 害 されることになり, 薬 物 療 法 を 実 施 しても 改 善 がみられない 例 も 多 い 6) 不 眠 障 害 と 精 神 面 は 大 きく 関 与 しており, 最 近 では 先 行 す る 不 眠 がうつ 病 の 発 症 につながることも 報 告 され ている 12) ストレスを 受 けると, 一 過 性 に 不 眠 を 認 めることもあるが,この 際 の 対 処 が 適 切 でない と 慢 性 化 して 不 眠 障 害 に 発 展 する 3) 寝 つけない で 苦 しい 思 いを 経 験 すると, 眠 りに 対 するこだわ りが 強 くなり, 寝 床 に 就 くと 寝 つけるかどうかが 一 番 の 気 がかり 関 心 になり,さらに 寝 つけなく なる 13) 不 眠 を 恐 れる 気 持 ちが 強 いために 入 眠 時 の 情 動 的 興 奮 が 増 強 され, 入 眠 を 妨 げることとな る 入 眠 障 害 に 対 する 認 知 行 動 療 法 である 刺 激 制 御 療 法 では, 眠 たくなるまで 寝 床 に 就 かないこと や, 寝 つけない 場 合 には 寝 床 を 離 れることで, 寝 つけない 恐 怖 を 断 ち 切 るように 指 導 を 行 う 14) こ のように, 不 眠 障 害 の 治 療 においては, 睡 眠 導 入 剤 による 薬 物 療 法 のみならず, 睡 眠 衛 生 のための 患 者 への 指 導 や 精 神 療 法 なども 有 効 であり, 早 期 の 適 切 な 対 処 が 必 要 である 不 眠 障 害 の 身 体 面, 精 神 面 に 及 ぼす 影 響 は 大 き く, 学 生 の 適 切 な 睡 眠 に 対 する 取 り 組 みが 重 要 と なってきている 保 健 管 理 センターでは, 学 生 に 対 して 不 眠 障 害 に 関 する 知 識 や 情 報 の 提 供, 早 期 の 治 療 導 入 を 呼 びかけていくことが 必 要 であると 思 われる Ⅴ. 結 語 大 学 生 の 睡 眠 の 現 状 を 調 査 するため, 教 養 科 目 の 講 義 を 受 講 した 学 生 に 対 して,アンケート 調 査 を 行 った 今 回 の 調 査 により, 多 くの 学 生 が, 睡 眠 時 間 の 不 足 や 日 中 の 眠 気, 睡 眠 の 質 への 不 満 を 感 じていた 不 眠 障 害 は 身 体 面 や 精 神 面 への 影 響 は 大 きく,QOL の 低 下 から 大 学 生 活 への 適 応 が 困 難 となる 事 例 もあるため, 大 学 メンタルヘルス においても, 学 生 に 対 して 睡 眠 に 関 する 知 識 や 情 報 の 提 供, 早 期 の 支 援 や 治 療 導 入 のあり 方 を 検 討 していくことが 課 題 であると 思 われた 文 献 1)Kim K, Uchiyama M, Okawa M, et al: An epidemiological study of insomnia among the Japanese general population. Sleep Med 8: 723-732, 2007. 2) 日 本 睡 眠 学 会 診 断 分 類 委 員 会 訳 : 睡 眠 障 害 国 際 分 類 第 2 版 診 断 とコードの 手 引 き. 医 学 書 院, 東 京,2010. 3) 内 山 真, 鈴 木 正 泰 : 不 眠 障 害. 臨 床 精 神 医 学 43:971-978,2014. 4)American Psychiatric Association: Diagnostic and statistical Manual of Mental Disorders, 5 th edition. Arlington, VA, APA, Washington DC, 2013. 5) 土 井 由 利 子 : 日 本 人 の 眠 りの 特 徴 - 疫 学 研 究 からわかったこと.こころの 科 学 119:21-25, 2005. 6) 菅 重 博, 武 田 彰 久, 佐 々 木 圭 吾 他 : 生 活 習 慣 と 睡 眠. 心 身 医 学 51:783-789,2011. 7) 増 田 彰 則 : 不 登 校 と 睡 眠 障 害 について. 心 身 医 学 51:815-820,2011. 8) 三 池 輝 久, 友 田 明 美 : 登 校 拒 否 と 慢 性 疲 労 症 11
総 合 保 健 科 学 第 31 巻 2015 候 群 (CFS). 臨 床 科 学 29:709 716,1993. 9)Soldatos CR, Dikeos DG, Paparriqopoulos TJ: Athens Insomnia Scale validation of an instrument based on ICD-10 criteria. J Psychosom Res 48: 555-560, 2000. 10)NHK 放 送 文 化 研 究 所 ( 編 ):データブック 国 民 生 活 時 間 調 査 2005.NHK 出 版,2006. 11) 福 田 一 彦 : 教 育 と 睡 眠 問 題. 高 橋 清 久 ( 編 者 代 表 ): 睡 眠 学 - 眠 りの 科 学 医 歯 薬 学 社 会 学.じほう:169-184,2003. 12)Ford DE, Kamerow DB: Epidemiologic study of sleep disturbances and psychiatric disorders. An opportunity for prevention? JAMA 262: 1479-1484, 1989. 13) 内 山 真 : 不 眠 が 主 訴 の 場 合, 睡 眠 障 害 の 鑑 別 診 断. 睡 眠 障 害 の 診 断 治 療 ガイドライン 研 究 会, 内 山 真 編 : 睡 眠 障 害 の 対 応 と 治 療 ガイドラ イン 第 2 版,じほう:67-75,2012. 14) 山 田 尚 登 : 認 知 行 動 療 法, 睡 眠 障 害 の 診 断 治 療 ガイドライン 研 究 会, 内 山 真 編 : 睡 眠 障 害 の 対 応 と 治 療 ガイドライン 第 2 版,じほう: 137-144,2012. 12