塗 料 技 術 の 最 新 展 望 サイペイントと 塗 料 技 術 田 端 伸 行 (たばた のぶゆき) サイペイントジャパン 代 表 取 締 役 社 長 は じ め に サイペイントの 塗 料 技 術 について 問 われる 事 は 多 い サイペイントジャパンは, 社 名 にもペイントの 字 句 が 入 っている 上, 遮 熱 塗 料 などの 特 殊 塗 料 の みを 生 産 しているメーカーであるから, 当 然 のこ となのかもしれない しかし,サイペイントの 塗 料 技 術 は,ペイント メーカーとしてのそれではない 実 は,サイペイントは 環 境 改 善 会 社 として 誕 生 した 企 業 体 であり,ペイントを 生 産 するメーカー として 起 業 したものではないのである サイペイントの 遮 熱 塗 料 は, 日 本 製 の 遮 熱 塗 料 としては 後 発 である 2008 年 設 立 の 会 社 であるから, 塗 料 メーカーと しては 相 当 に 新 しい しかし,サイペイントは 塗 料 メーカーではない 世 界 の 自 然 環 境 を 改 善 し 地 球 を 本 来 の 美 しい 星 に 戻 すことを 目 標 に, 私 たちの 生 活 向 上 や 文 明 社 会 の 発 展,そして, 地 球 の 自 然 環 境 改 善 に 貢 献 す る 事 を 目 的 としている その 中 にあって,サイペイントの 技 術 と 言 う 切 り 口 からお 話 しをするとすれば, 目 標 志 向 を 挙 げ ることになる メーカーとして, 自 社 の 持 つ 高 度 なペイント 生 産 技 術 を 応 用 し 新 製 品 を 編 み 出 す 一 般 的 なペイン トメーカーとは 違 い,サイペイントは 特 異 な 目 標 を 持 つペイントメーカーである 事 に 留 意 してほし い 1. 環 境 改 善 目 的 から 生 まれた 塗 料 サイペイントの 塗 料 は, 塗 料 技 術 ではなく, 起 業 目 標 である 環 境 改 善 目 的 から 生 まれた 誰 もがご 承 知 の 通 り, 人 類 の 文 明 は 果 てしなく 発 展 し 続 け, 生 活 レベルは 向 上 し, 年 々 多 くの 人 が 文 明 の 利 器 を 享 受 できるようになっている しかし, 文 明 技 術 の 一 部 はその 便 利 さと 引 き 換 えに 地 球 環 境 に 悪 影 響 を 及 ぼし, 深 刻 な 問 題 と なっている 文 明 社 会 の 発 展 に 最 も 寄 与 している 第 1 図 サイペイントの 塗 料 Vol.63,No.10(2015) JETI 1
技 術 のひとつには,おそらくはエネルギー 技 術 が 挙 げられると 思 うが,この 点 には 誰 からも 異 存 は ないだろう 文 明 進 化 を 遂 げつつも, 地 球 環 境 を 保 護 する 事 も 真 剣 に 考 えないといけない 時 期 になってきている 日 本 では 2011 年 の 東 北 大 震 災 の 時 に 大 きな 被 害 を 受 け, 文 明 技 術 の 恐 ろしさとエネルギーの 有 難 さを 思 い 知 らされた 格 好 だ サイペイントは,その 時 期 を 遡 る 事 3 年 前 の 2008 年 1 月 に 地 球 環 境 改 善 と 省 エネルギー 政 策 を 推 進 する 企 業 として 創 設 された 先 ほど 述 べたように,エネルギーを 費 消 する 事 により 大 きな 環 境 破 壊 を 行 ってきた 施 策 に 対 して は,それを 生 み 出 さないようにその 施 策 を 取 りや めることが 望 ましいが, 一 旦 享 受 した 文 明 を 放 棄 する 事 がいかに 難 しいかは, 容 易 に 想 像 がつく 照 明 の 無 い 夜 の 部 屋, 暑 い 時 の 冷 房 機 器, 食 品 を 安 全 に 保 管 する 冷 蔵 庫, 移 動 するスピードを 補 う 自 動 車 や 航 空 機 と, 考 えたらきりがない これらを 後 退 させる 事 ができるだろうか? もちろん, 一 部 には 後 退 させる 事 が 善 と 言 う 方 もいるだろうが, 一 般 的 には 無 理 な 相 談 であると 思 う そう 考 えると, 使 用 する 事 を 我 慢 するのではな く,せめて, 少 なくしようとする 考 え 方 がサイペ イントの 基 本 理 念 である ここから,サイペイントの 技 術 は 生 まれた 2. 省 エネに 貢 献 する 遮 熱 塗 料 サイペイントは, 省 エネ 政 策 の 観 点 から,まずは 環 境 改 善 製 品 に 着 手 すべきである,と 考 えた 省 エネには,ほとんどの 方 が 想 像 するように, ソーラーシステムや 風 力 発 電, 水 力 発 電 からLED 照 明 などがあり, 数 え 上 げたらきりがない しかし,イニシャルコストと 省 エネでできる 電 力 量 から 考 えると,より 簡 単 にトップコストパ フォーマンスを 誇 れるものは 遮 熱 塗 料 である 事 が 結 論 付 けられた そこからのスタートである たかが 塗 料 で 節 約 できるエネルギーが, 壮 大 な 計 画 である 国 や 政 府, 大 企 業 の 行 う 太 陽 光 発 電 や 風 力 発 電 などの 自 然 エネルギー 政 策 に 異 を 唱 える 事 ができるのか できるのである 欧 米 や 日 本 のような 先 進 国 でさえ,それは 可 能 である ましてや 中 東 やアジアの 暑 い 国 々であればなお のことだ 3. 組 み 合 わせの 技 術 で 開 発 へ 塗 料 技 術 は, 先 進 国 日 本 では 既 に 相 当 に 高 度 な レベルに 位 置 していると 言 っても 過 言 ではない よって,その 塗 料 技 術 レベルの 中 で 競 うところに 注 力 する 必 要 はない 既 に 確 立 している 高 度 な 技 術 に,さらに 負 けな い 技 術 を 目 指 し 研 究 開 発 する 事 はとてもコストパ フォーマンスが 悪 いからだ であれば, 既 に 確 立 し 一 般 的 に 周 知 されている 多 くの 技 術 をお 借 りして,そこに 目 的 を 吹 き 込 め ば 良 いのではないか そうすることで, 最 短 距 離 で 新 しい 技 術 力 に 結 び 付 けることができる,こう 考 えて 研 究 開 発 を 続 けているのがサイペイントである いろいろなと ころで 既 に 公 開 されている 数 々の 技 術,それらに は 大 きな 研 究 の 成 果 が 含 まれているのである その 中 の 様 々な 技 術 を 取 りまとめ, 組 み 合 わせ ていけば, 目 標 となる 成 果 に 結 び 付 ける 事 が 可 能 であり,かつ 最 短 の 道 になるのではないだろうか サイペイントは, 組 み 合 わせの 技 術 で 世 界 一 と 言 われる 遮 熱 塗 料 を 開 発 した それは, 組 み 合 わせの 技 術 と 言 うよりも 想 いで あった 性 能 の 低 い, 高 価 な 遮 熱 塗 料 はこれまでにも あった しかし, 塗 料 の 塗 布 という 簡 単 な 方 法 で 膨 大 なエネルギーを 節 約 できる,という 考 え 方 が 無 かったのではないかと 思 う サイペイントは, 目 先 の 利 益 や 利 幅, 販 路 を 作 る 事 ばかりを 優 先 したのでは, 高 度 な 製 品 は 出 来 ないのではないかと 考 えている こんな 簡 単 な 事 でも 世 界 中 に 拡 げる 事 ができれ ば,それは 大 きな 力 となって 地 球 環 境 や 人 々の 生 活 にも 貢 献 できると 言 う 真 摯 な 想 いが 技 術 力 を 高 めてくれる 大 きな 要 件 なのである 4. 輝 度 増 加 塗 料 と 制 振 防 音 塗 料 世 界 中 で 使 用 されている 電 力 量 の 約 3 分 の1が 空 調 電 力 である 暑 いところでは,エアコンにより 快 適 な 室 内 に 2 JETI Vol.63,No.10(2015)
居 られる 事 はもはや 必 須 である しかし,そこには 多 大 なエネルギー 消 費 が 伴 う のである エアコンの 消 費 電 力 を 少 なくする 研 究 は 大 手 家 電 メーカーがこぞってしのぎを 削 っている そこ は 大 手 企 業 にお 任 せすることにしよう 難 しそう なので 暑 くなる 一 番 の 原 因 は 太 陽 である その 太 陽 か ら 受 ける 暑 さを 遮 断 する 事 は, 実 はエアコンの 消 費 電 力 を 少 なくする 技 術 よりも 簡 単 なのだ この 考 え 方 がサイペイントの 技 術 である 遮 熱 塗 料 に 次 ぐサイペイントの 2 番 目 の 製 品 は, 輝 度 増 加 塗 料 である 先 ほどの 世 界 使 用 電 力 量 の 3 分 の 1 は 空 調 と 断 言 したが, 照 明 も 同 様 の 電 力 費 消 製 品 であり, 総 電 力 量 の 3 分 の 1 ほども 使 用 されている 東 北 大 震 災 の 時 に, 電 力 不 足 から 官 公 庁 を 始 め 大 手 企 業 は 一 斉 に 省 エネに 走 った 走 らざるを 得 ない 状 況 に 陥 ったと 解 釈 するのが 正 しいだろう 第 2 図 オフィスにおける 各 電 力 消 費 量 の 割 合 2011 年 は, 都 庁 はおろか, 電 車 の 乗 り 換 えで 地 下 通 路 を 歩 いていても,どこも 省 エネ 省 エネで 蛍 光 灯 も 半 分 以 上 間 引 きされて, 真 っ 暗 であっ た 日 本 経 済 も 世 界 も 終 わりそうな, 今 後 の 不 安 を 募 る 雰 囲 気 であったことを 思 い 出 す たとえ 少 ない 光 源 でも,それを 少 しでもアップ させる 事 ができれば,これも 省 エネであり 地 球 環 境 改 善 のお 手 伝 いのできる 製 品 である またもや, 塗 料 でそれを 可 能 にすることができた 目 標 から 生 まれた 技 術 である 研 究 開 発 の 結 果 として 生 まれたものではない 目 標 が 定 まれば,それを 解 決 する 技 術 はかなり の 割 合 ででき 上 がっているものと 言 える 未 完 成 の 技 術 も 世 の 中 には 多 々 存 在 すると 思 う が, 未 完 成 のものであっても 使 用 可 能 な 技 術 はそ の 段 階 で 完 成 品 にする 事 も 可 能 だ 完 成 し, 利 用 してもらいながら 改 良 し, 性 能 を 上 げていくことも 一 つの 方 法 である サイペイントは, 近 く, 制 振 防 音 塗 料 をアナ ウンスする 予 定 である 騒 音 公 害 は,それを 発 生 させている 企 業 側 が 個 人 からクレームを 受 けることを 望 まないため,あ まり 表 面 化 していないが,どの 企 業 も 抱 えている 大 きな 問 題 点 である 騒 音 が 地 球 環 境 を 破 壊 しているのか,と 言 う 疑 問 の 声 もあるかもしれない 確 かに, 騒 音 が 環 境 破 壊 であるとは 言 い 難 い 面 もあるが, 騒 音 を 発 生 させ,そのクレーム 処 理 を 行 うために 新 たに 消 音 装 置 や 防 音 対 策 を 行 う 事 によるエネルギーの 消 費 は 大 きな 問 題 であろう 消 費 する 電 力 を 少 しでも 節 約 する 事 ができるの であれば,それは, 自 然 エネルギーによる 発 電 よ 第 3 図 光 源 から 出 た 光 を 100 とし,3 回 反 射 した 場 合 の 光 の 減 衰 イメージ Vol.63,No.10(2015) JETI 3
りも 地 球 環 境 改 善 に 貢 献 できるものと 信 じる その 観 点 から, 制 振 防 音 塗 料 に 着 手 すること にしたのである お わ り に サイペイントは, 決 して 塗 料 会 社 ではない し かし, 簡 単 な 方 法 でのコストパフォーマンスを 考 えると, 塗 料 による 対 策 で 大 きな 省 エネ 活 動 が 可 能 になるのである 有 名 なパスカルの 遺 稿 集 パンセ の 中 に 人 間 は 自 然 のうちで 最 も 弱 い 葦 の 一 茎 にすぎない, だがそれは 考 える 葦 である とある 誰 もが 人 の 為 になる 事, 地 球 の 為 になる 事 を 真 剣 に 考 え,それを 実 現 する 事 を 諦 めず, 信 念 を 持 っ て 研 究 をする 事 が 開 発 であると 思 う サイペイントの 技 術 力 とは, 常 に 地 球 環 境 を 考 えることであり, 地 球 に 恩 返 しをする 気 持 ちで 第 4 図 遮 熱 塗 料 プラネットスープラ 塗 布 現 場 ( 埼 玉 県 某 倉 庫 ) あると 言 い 換 える 事 ができる 地 球 を 想 う 人 々の 心 の 向 上 心 の 集 合 体 であるこ とが, 技 術 力 の 大 きさなのである トピックス 昭 和 電 工 川 崎 市 と 低 炭 素 水 素 社 会 実 現 に 向 け 協 定 を 締 結 昭 和 電 工 はこのほど, 神 奈 川 協 定 に 基 づく 取 り 組 みの 一 つと 県 川 崎 市 と 低 炭 素 水 素 社 会 の 実 して, 使 用 済 プラスチック 由 来 の 現 に 向 けた 連 携 協 力 について 水 素 を 川 崎 臨 海 部 の 需 要 者 にパ 合 意 し,7 月 28 日 に 協 定 を 締 結 イプラインで 輸 送 し, 純 水 素 型 した 両 者 で 使 用 済 プラスチック 燃 料 電 池 を 活 用 しエネルギー 利 由 来 低 炭 素 水 素 を 活 用 した 環 境 用 する 技 術 実 証 を 行 なう これ 負 荷 の 少 ない 低 炭 素 な 水 素 社 会 は 環 境 省 が 公 募 した 平 成 27 年 の 実 現 をめざす 度 地 域 連 携 低 炭 素 水 素 技 術 実 証 事 業 において, 昭 和 電 工 の 使 用 済 プラスチック 由 来 低 炭 素 水 素 を 活 用 した 地 域 循 環 型 水 素 地 産 地 消 モデル 実 証 事 業 が 採 択 されたことから, 今 回, 川 崎 市 と 昭 和 電 工 が 連 携 協 力 し, 同 水 素 を 活 用 した 統 合 的 システム の 地 域 実 証 を 行 なっていく 川 崎 市 は 実 証 事 業 に 参 加 する 各 事 業 者 間 の 調 整, 許 認 可 取 得 関 連 の 支 援 などの 役 割 を 担 っていく 大 陽 日 酸 豪 州 のディストリビューターを 買 収 大 陽 日 酸 はこのほど,オースト 持 株 会 社 TNSC 経 由 での 買 収 ラリアのディストリビューターであ となる るRenegade Gas( 本 社 ニュー 大 陽 日 酸 は RGP をオーストラ サウスウェールズ 州,RGP) を リア 並 びにオセアニアの 産 業 ガス 買 収 することにつき 同 社 既 存 株 市 場 開 拓 のための 橋 頭 堡 とし, 主 と 合 意 し,7 月 23 日, 株 式 売 同 社 の 既 存 ネットワークを 活 用 買 契 約 を 締 結 した 新 たに 設 立 した 取 扱 い 製 品 の 拡 充 や 事 業 された 大 陽 日 酸 が 85% 出 資 する 地 域 の 拡 大 を 図 り, 大 陽 日 酸 グ ループとのシナジー 効 果 も 発 揮 さ せ, オーストラリアにおける 確 固 たる 産 業 ガス 事 業 基 盤 を 確 立 す る RGP はニューサウスウェー ルズ 州 や 首 都 特 別 地 域, クイー ンズランド 州 に 17 拠 点 をもち, LPG および 各 種 産 業 ガスの 充 填 販 売, 関 連 機 器 の 販 売 やレ ンタルを 行 なっている 従 業 員 数 は 約 250 名 売 上 高 は 約 80 億 円 (2015 年 6 月 期 見 込 み) 4 JETI Vol.63,No.10(2015)