環 境 対 策 の 階 層 構 成 とベストミックス(その2) ( 日 本 の 環 境 問 題 と 環 境 対 策 ) 環 境 企 画 主 宰 松 村 眞 本 稿 は 化 学 装 置 2012 年 4 月 号 に 掲 載 された 原 稿 を 出 版 社 の 許 可 を 得 て 転 載 するものである 1. 日 本 の 環 境 問 題 と 環 境 対 策 環 境 問 題 の 歴 史 は 古 く 日 本 では 西 暦 740 年 代 の 大 仏 建 立 時 に 金 メッキにともなう 水 銀 蒸 気 で 中 毒 患 者 が 発 生 している 1600 年 代 には 別 子 銅 山 や 足 尾 銅 山 が 大 量 の 二 酸 化 硫 黄 を 放 散 させ 山 林 と 農 作 物 に 大 規 模 な 被 害 が 発 生 した 第 二 次 大 戦 後 は 1960 年 代 の 急 激 な 経 済 成 長 にともなって 多 くの 工 業 都 市 が 深 刻 な 大 気 と 水 質 の 汚 染 に 悩 まされるように なった 図 1 の 写 真 は 1960 年 頃 の 四 日 市 コンビナートである 当 時 は 環 境 汚 染 状 況 の 計 測 器 が 不 備 だったから 製 鉄 所 が 立 地 する 北 九 州 市 では 図 2 の 写 真 に 見 られる 煤 煙 監 視 員 が 煙 突 の 煙 を 監 視 していた この 写 真 から 当 時 の 日 本 の 大 気 汚 染 が 今 では 想 像 できないほ ど 深 刻 だったことがわかる しかし 煙 突 の 煙 は 経 済 成 長 の 象 徴 とされ 社 会 的 には 大 きな 問 題 とされていなかった 日 本 の 環 境 意 識 が 変 わった 契 機 は 1956 年 に 水 俣 市 で 発 生 し 1968 年 に 原 因 が 確 定 した 水 俣 病 である 運 動 失 調 や 言 語 障 害 の 患 者 がテレビで 放 映 され 環 境 問 題 の 重 要 性 に 関 する 共 通 認 識 が 一 挙 に 広 まった 厳 しい 環 境 規 制 を 容 認 する 国 民 的 な 合 意 形 成 が 促 進 されたのである 問 題 を 指 摘 するどんな 文 書 よりも リアルで 悲 惨 な 映 像 が 意 識 改 革 の 原 動 力 になったといってよい その 結 果 1971 年 に 環 境 省 ( 当 時 は 環 境 庁 ) が 発 足 し 1970 年 代 の 前 半 には 多 くの 環 境 関 連 法 規 が 制 定 された 産 業 界 も 規 制 に 対 応 し て 顕 在 化 していた 大 気 汚 染 の 対 策 に 着 手 し 多 くの 排 ガス 処 理 装 置 が 設 置 された 排 煙 脱 硫 装 置 を 例 にとると 1970 年 代 には 1 年 に 100 基 以 上 も 建 設 されたのである 集 塵 機 も 普 及 し 計 測 器 も 開 発 されたので 煤 煙 監 視 員 はいなくなった 図 3 は 1991 年 の 京 浜 工 業 地 域 の 写 真 だが 煙 を 出 している 煙 突 はもう 見 られない 日 本 は 約 30 年 で 大 気 汚 染 問 題 を 解 決 したのである では 水 質 対 策 や 廃 棄 物 対 策 も 含 めて どの 次 元 の 対 策 が 主 役 だったのか あるいはわき 役 だったのであろうか また 歴 史 の 中 で 主 役 と 脇 役 に 変 化 がなかったのか 見 てみることにする 1
図1 1960 年頃 四日市コンビナート 出典 日本の大気汚染の歴史 公害協会 図2 煤煙監視員 北九州市 1961 年 出典 日本の大気汚染の歴史 公害協会 図3 京浜工業地域 1991 年 出典 日本の大気汚染の歴史 公害協会 2
2. 環 境 問 題 の 改 善 に 寄 与 した 対 策 の 階 層 表 1 は 予 防 分 野 と 治 療 分 野 を 含 めて 日 本 のいくつかの 環 境 問 題 と 対 策 をマトリックス 形 式 で 示 したものである 石 油 燃 料 に 起 因 する 硫 黄 酸 化 物 対 策 としては 上 流 対 策 として 低 硫 黄 原 油 の 確 保 に 努 めた その 結 果 1965 年 頃 の 輸 入 原 油 には 平 均 で 2.04%の 硫 黄 分 が 含 まれていたが 1975 年 には 1.36%の 原 油 を 輸 入 するようになった 10 年 間 で 日 本 に 入 ってくる 硫 黄 分 を 約 3 割 削 減 したのである 上 流 対 策 としては 燃 料 脱 硫 も 非 常 に 大 きな 貢 献 をしている 灯 油 や 軽 油 の 脱 硫 は 1960 年 代 の 前 半 には 実 用 化 されていたが 硫 黄 分 の 多 い 重 油 からの 脱 硫 が 始 まったのは 1967 年 である その 後 1980 年 には 大 部 分 の 製 油 所 に 重 油 脱 硫 装 置 が 普 及 した 現 時 点 で 製 油 所 の 燃 料 脱 硫 は 原 油 に 含 まれている 硫 黄 の 三 分 の 二 を 除 去 している 上 流 対 策 としては 省 エネルギー 対 策 も 大 きく 貢 献 している 平 成 2 年 の 環 境 白 書 によると 図 4 のように 日 本 は 1974 年 から 1986 年 までに 次 元 の 異 なる 複 数 の 対 策 で 硫 黄 酸 化 物 の 放 散 量 を 四 分 の 一 に 削 減 している このうち 省 エネルギー 対 策 の 寄 与 が 約 33%と 最 も 大 きい 次 は 燃 料 脱 硫 と 排 煙 脱 硫 が 27% LNGへの 転 換 が 13% の 寄 与 率 となっている 一 方 下 流 の 分 野 では 大 規 模 な 発 電 所 や 工 場 がボイラーに 排 煙 脱 硫 装 置 を 設 置 した 1970 年 の 排 煙 脱 硫 装 置 は 102 基 だが 1975 年 には 994 基 になり 1980 年 には 1329 基 に 達 し ている 現 在 日 本 には 約 1900 基 の 排 煙 脱 硫 装 置 があるが その 7 割 が 1980 年 までに 建 設 されたのである ただし 排 煙 脱 硫 装 置 には 石 炭 ボイラーや 非 鉄 金 属 の 精 錬 工 場 に 設 置 された 装 置 も 含 まれている したがって 石 油 燃 料 を 対 象 とした 排 煙 脱 硫 装 置 はこの 半 数 程 度 であろう なお 排 煙 脱 硫 装 置 は 数 が 多 いが1 基 当 たりの 硫 黄 除 去 量 が 少 ない こ のため 硫 黄 の 除 去 量 は 全 装 置 を 合 わせても 約 10%で 燃 料 脱 硫 の 三 分 の 一 程 度 に 過 ぎな い このように 石 油 燃 料 に 起 因 する 硫 黄 酸 化 物 の 対 策 は 明 らかに 予 防 が 主 役 で 治 療 はわ き 役 である 重 油 の 脱 硫 技 術 が 発 展 した 結 果 遠 くない 将 来 石 油 を 燃 料 とするボイラー や 加 熱 炉 には 排 煙 脱 硫 装 置 が 不 要 になるであろう すでに 排 煙 脱 硫 装 置 は 稼 働 基 数 が 毎 年 少 なくなっているから 治 療 分 野 の 寄 与 率 はさらに 低 下 するであろう 3
表 1. 大 気 汚 染 水 質 汚 濁 廃 棄 物 問 題 に 対 する 各 階 層 の 環 境 対 策 環 境 対 策 分 野 ( 下 ) 予 防 対 策 上 流 治 療 対 策 下 流 : 非 常 に 有 効 : 有 効 : 疑 問 : 無 効 地 球 環 境 問 題 ( 右 ) 需 要 の 抑 制 : 製 品 の 長 寿 命 化 負 荷 の 発 生 抑 制 資 源 化 など 燃 / 原 料 のクリーン 化 :LNG 転 換 低 硫 黄 石 油 石 炭 など 燃 / 原 料 からの 汚 染 物 質 除 去 : 燃 料 脱 硫 石 炭 の 洗 炭 など 硫 黄 酸 化 物 ( 燃 料 ) 非 石 油 石 炭 大 気 汚 染 ( 汚 染 因 子 ) 省 資 源 省 燃 料 : 省 エネルギ: 歩 留 まり 向 上 水 循 環 使 用 など 発 生 源 処 理 : 鉄 金 属 精 錬 窒 素 酸 化 物 ば い 塵 揮 発 性 有 機 化 合 物 水 質 汚 染 パ ル プ 廃 液 下 水 処 理 汚 泥 一 般 廃 棄 物 廃 棄 物 リ サ イ ク ル 廃 棄 物 排 煙 脱 硫 集 塵 排 煙 脱 硝 など 集 中 処 理 : 下 水 処 理 清 掃 工 場 焼 却 など 最 終 処 分 : 埋 め 立 て 処 分 安 定 型 / 管 理 型 など 汚 染 修 復 : 汚 染 土 壌 修 復 砂 漠 の 緑 化 など 4
省エネルギー対策 の硫黄酸化物排出 抑制への寄与 1974 年 1986年 脱硫寄与 27 燃料 排煙 燃料変更寄与 13 省エネの寄与 化石燃料の保全 省エネ寄与 33 大気汚染防止 地球温暖化の抑制 製品変更寄与 5 生産拡大増加 4 出典 平成2年版環境白書 78 の排出削減 12年 図4 省エネルギー対策の硫黄酸化物削減効果 石炭に起因する硫黄酸化物対策も 予防対策として低硫黄石炭の確保に努力し 現在で は硫黄分が 0.3 から 0.9 程度のオーストラリア炭が主に使われている しかし石炭から硫 黄分を除去する石炭脱硫は技術的に難度が高く まだ実用化されていない 原理的には微 生物を使う方法が可能なのだが 反応時間が長く設備が大きくなるので経済性がない 石 油燃料と違って この点が上流対策の寄与を高められない原因である 硫黄酸化物の対策 は 石油燃料の場合は明らかに予防が主役で治療がわき役だが 石炭の場合は治療が主役 で予防がわき役なのである なお 将来は石炭をガス化して硫黄分を除去し それからボ イラーで燃焼させるガス化発電が普及する可能性がある そうなれば石油燃料と同様に 予防が主役になれるだろう 日本の硫黄発生量は 銅精錬に代表される非鉄金属が約 30 を占めている 非鉄金属の 鉱石は硫黄化合物なので 精錬の前に鉱石から硫黄を分離することができない このため 精錬の過程で大量の硫黄酸化物を発生させ 明治時代には山林と農地に甚大な被害を与え た 当時は発生する硫黄酸化物を除去する技術がなかったので 大気に放散させるよりほ かに方法がなかったのである しかし現在は排煙脱硫装置で 95 以上の硫黄を回収し 硫 酸や石膏にしている したがって非鉄金属精錬の場合も 主役は上流分野の予防対策では なく下流の治療対策である 5
窒 素 酸 化 物 の 対 策 は 予 防 と 治 療 のどちら 主 役 なのだろうか 現 在 日 本 には 約 1400 基 の 排 煙 脱 硝 装 置 があるが 発 電 所 が 処 理 ガス 量 の 82%を 占 めており 残 りもほとんどが 石 油 精 製 や 製 鉄 などの 大 規 模 工 場 である 大 半 の 製 造 業 やサービス 業 は 数 十 万 基 のボイラ ーを 使 用 しているが 排 煙 脱 硝 装 置 は 設 置 していない というのも 低 NOXバーナーや 二 段 燃 焼 それに 排 ガス 循 環 など 窒 素 酸 化 物 の 発 生 を 抑 制 する 予 防 技 術 が 開 発 され 設 備 が 普 及 したからである 窒 素 酸 化 物 の 発 生 抑 制 技 術 と 設 備 は 1980 年 台 から 徐 々に 開 発 が 進 み 性 能 が 向 上 した したがって 既 設 の 排 煙 脱 硝 設 備 1400 基 も 徐 々に 少 なくなり 上 流 の 予 防 対 策 に 移 行 していくであろう 近 い 将 来 も 排 煙 脱 硝 装 置 が 残 るのは 予 防 だけでは 規 制 基 準 を 順 守 できない 大 型 ボイラーや 燃 焼 炉 だけになるであろう すでに 排 煙 脱 硝 装 置 は 排 煙 脱 硫 装 置 と 同 様 に 稼 働 を 停 止 する 傾 向 にある 窒 素 酸 化 物 対 策 は 以 前 は 治 療 分 野 が 主 役 だったが 発 生 抑 制 技 術 の 発 達 で 予 防 分 野 が 主 役 に 代 わったのである では 煤 塵 対 策 はどうだろうか 図 1 の 四 日 市 コンビナートと 図 2 の 北 九 州 の 写 真 を 見 ると 当 時 の 大 気 汚 染 は 煤 塵 が 深 刻 だったことがわかる 煤 塵 の 発 生 源 の 一 つは 製 鉄 所 で 白 い 煤 塵 は 石 炭 灰 黒 い 煤 塵 は 未 燃 の すす: 煤 だった 北 九 州 など 製 鉄 所 の 街 はすべ ての 建 物 が 黒 ずんでおり 洗 濯 物 を 表 で 干 せば 黒 い すす がついた コンビナートの 場 合 は 発 電 所 と 石 油 関 連 プラントが 煤 塵 の 発 生 源 で 正 体 はやはり 石 炭 灰 と 未 燃 の すす だった 1968 年 に 大 気 汚 染 防 止 法 が 制 定 されると 集 塵 機 が 普 及 したが 未 燃 の すす を 少 なくするのは 困 難 だった というのも すす を 出 さないようにするには 燃 焼 用 の 空 気 を 多 くすればよいのだが そうするとエネルギー 効 率 が 低 下 し 燃 料 消 費 量 が 多 くなって しまうからである このためボイラーや 加 熱 炉 のオペレーターは いつも 煙 突 の 先 を 見 な がら すす が 発 生 しないように それでいてなるべく 空 気 量 を 少 なくするように 気 を 使 っていた しかしどのように 注 意 して 頻 繁 に 調 整 しても 人 間 の 操 作 では 負 荷 変 動 に 追 随 するのが 困 難 だった そこでボイラーや 加 熱 炉 の 内 部 に 酸 素 濃 度 計 を 設 置 し 空 気 量 の 過 不 足 を 検 知 して 空 気 量 を 自 動 的 に 調 整 する 自 動 制 御 システムが 開 発 された このシステ ムは この 頃 から 発 展 しはじめたマイクロコンピュ-ターとIT 技 術 に 負 うところが 大 き い 燃 焼 空 気 を 制 御 するコンピューターシステムは 大 規 模 なボイラーと 燃 焼 炉 から 順 次 採 用 され 今 では 広 く 普 及 している 燃 焼 空 気 の 自 動 制 御 システムは 少 ない 空 気 量 で 完 全 燃 焼 を 維 持 し すす の 発 生 を 抑 制 する 上 流 の 予 防 対 策 である 一 方 集 塵 機 による 煤 塵 の 除 去 は 発 生 した 煤 塵 を 除 去 する 下 流 の 対 策 である 煤 塵 対 策 は 初 めは 集 塵 機 とい う 治 療 対 策 が 主 役 だったが 自 動 制 御 システムの 普 及 が 主 役 の 座 を 予 防 対 策 に 明 け 渡 した といってよい 6
揮 発 性 有 機 化 合 物 (VOC)の 場 合 はどうだろうか 発 生 源 は 主 に 有 機 溶 剤 を 使 う 塗 装 関 連 施 設 と 油 槽 所 や 内 航 タンカーなど 石 油 燃 料 を 貯 蔵 している 施 設 である 塗 装 関 連 施 設 では 大 気 への 放 散 を 防 ぐ 予 防 対 策 として 水 性 塗 料 への 転 換 が 進 み 今 や 広 範 囲 に 利 用 されて 有 機 溶 剤 そのものの 削 減 に 寄 与 している 有 機 溶 剤 の 割 合 が 少 ない 塗 料 やインクも 開 発 され 旧 製 品 との 代 替 が 進 んでいる 石 油 燃 料 の 貯 蔵 施 設 では 受 け 入 れと 排 出 のた びに 揮 発 性 有 機 化 合 物 が 発 生 するが 冷 却 して 回 収 する 設 備 が 普 及 している 下 流 分 野 の 対 策 は 主 に 焼 却 と 吸 着 廃 棄 処 分 である 焼 却 といっても 濃 度 が 低 いので 通 常 は 燃 料 が 必 要 になるが 触 媒 を 使 って 低 温 燃 焼 させれば 燃 料 が 不 要 か 少 なくて 済 む この 分 野 の 特 徴 は 発 生 量 を 抑 制 する 工 程 内 対 策 をインプラント 対 策 発 生 した 揮 発 性 有 機 化 合 物 を 無 害 化 処 理 する 対 策 をエンドオブパイプ 対 策 と 称 して 明 確 に 区 分 している 点 にある そして エンドオブパイプ 対 策 は 除 去 効 果 が 高 いが 大 きな 設 備 投 資 や 運 転 経 費 を 必 要 とするの で 対 策 の 順 序 は 工 程 内 対 策 を 優 先 し 次 にエンドオブパイプ 対 策 を 考 慮 するのが 効 果 的 との 指 針 を 出 している 予 防 対 策 を 主 役 として 重 視 し 治 療 対 策 より 優 先 する 方 針 を 明 示 しているといえよう 次 に 水 質 汚 染 防 止 対 策 について 二 つの 事 例 を 紹 介 する 筆 者 は 7 年 ほど 前 に 中 国 の 工 業 地 域 を 訪 れ いくつかの 業 種 について 工 場 訪 問 の 後 に 環 境 改 善 の 提 案 をする 機 会 があった 現 地 に 行 く 前 に 国 内 で 対 象 業 種 の 環 境 問 題 を 調 査 し 改 善 提 案 のメニューも 準 備 したのだ が 製 紙 工 場 だけは 提 案 メニューを 思 いつかなかった というのも 中 国 の 製 紙 工 場 はパル プ 廃 液 ( 黒 液 という)を 廃 水 として 処 理 しているのだが 十 分 な 処 理 ができていないこと を 知 っていたからである 処 理 が 困 難 なのは 廃 液 の 有 機 物 濃 度 が 10% 以 上 と 非 常 に 高 い ことにある このため 廃 水 として 処 理 するには 数 百 倍 に 希 釈 しなければならず 莫 大 な 設 備 費 と 処 理 費 が 必 要 だったからである 日 本 では 黒 液 を 希 釈 して 処 理 するのではなく 逆 に 濃 縮 して 燃 料 に 転 換 する 技 術 を 完 成 させ 今 や 製 紙 工 場 の 主 要 なエネルギー 源 になって いる 常 識 的 な 発 想 なら 廃 水 処 理 という 後 処 理 になる 対 策 を 発 生 を 抑 制 するだけでなく 燃 料 に 利 用 する 方 法 で 解 決 したのである だから 同 じ 方 法 を 中 国 の 工 場 にも 提 案 したかっ たのだが 中 国 では 日 本 と 違 って 竹 や 藁 を 原 料 とする 工 場 が 多 く その 場 合 はパルプ 廃 液 の 粘 度 が 高 い このため 木 材 チップのパルプ 廃 液 のように 燃 料 に 使 える 濃 度 にまで 濃 縮 できないのである でも 訪 問 した 製 紙 工 場 の 責 任 者 が 問 題 の 性 質 をよく 理 解 していて パ ルプ 廃 液 が 発 生 しない 再 生 紙 の 専 用 工 場 にしていた 効 果 的 な 対 策 を 提 案 できずに 困 って いたから 中 国 側 の 対 応 にほっとしたのを 覚 えている パルプ 廃 液 の 対 策 は 日 本 では 予 防 対 策 が 完 全 に 主 役 を 担 っているが 原 料 が 違 う 中 国 の 工 場 では 治 療 側 の 対 策 が 主 役 なの である もう 一 つの 事 例 は 下 水 処 理 汚 泥 である 下 水 道 で 集 められた 排 水 は 生 物 処 理 で 浄 化 され 7
るが その 結 果 一 人 1 日 あたり 0.4kg 弱 ( 脱 水 ケーキ)の 汚 泥 が 発 生 している 下 水 汚 泥 の 処 理 方 法 は 海 外 ではほとんどが 埋 立 て 処 分 だが 日 本 では 処 分 用 地 不 足 と 悪 臭 対 策 から 7 割 以 上 が 焼 却 処 分 されている 水 分 が 約 75%もあるので 焼 却 するには 石 油 燃 料 が 必 要 なだけでなく 都 市 部 では 1 基 100 億 円 を 超 す 設 備 費 が 投 入 されている このため 現 在 汚 泥 発 生 量 の 少 ない 下 水 処 理 方 法 が 懸 命 に 探 究 されている 後 処 理 の 焼 却 一 辺 倒 か ら 汚 泥 発 生 量 を 抑 制 する 予 防 対 策 への 移 行 が 強 く 求 められているのである 廃 棄 物 の 分 野 では 以 前 はごみをどんどん 出 して 増 大 するごみ 量 を 全 量 焼 却 できるよ うに 清 掃 工 場 を 拡 充 してきた 大 量 発 生 を 野 放 しにし 下 流 の 焼 却 処 理 で 解 決 しようとし てきたのである 言 い 換 えれば 予 防 対 策 の 発 想 がなく 治 療 側 だけで 対 処 してきたといっ てもよい ところが 1990 年 以 降 になってごみ 減 量 化 の 機 運 が 高 まり 動 機 づけとしてごみ 袋 を 有 料 化 する 地 方 自 治 体 が 増 えた その 結 果 ごみの 減 量 化 が 進 み 今 では 多 くの 清 掃 工 場 で 設 備 の 稼 働 率 が 低 下 している 都 市 部 では 古 くなった 焼 却 炉 を 更 新 せずに 廃 炉 にす る 傾 向 がみられる 資 源 ごみの 分 別 回 収 と 資 源 化 再 利 用 も ごみの 発 生 量 を 抑 制 する 上 流 対 策 である しかし ごみの 量 を 減 らせても 限 界 があるから 下 流 の 焼 却 処 理 と 埋 立 て 処 分 も 必 要 である このため 当 分 は 治 療 側 の 主 役 に 変 わりはないであろう 3. 公 害 防 止 技 術 から 環 境 技 術 へ 日 本 で 環 境 問 題 が 最 も 深 刻 だったのは 1960 年 代 であろう 工 業 地 域 はどこも 煤 塵 と 硫 黄 酸 化 物 による 大 気 汚 染 が 深 刻 だった 都 市 部 は 下 水 道 が 十 分 に 整 備 されていなかったから 河 川 の 水 質 汚 染 がひどく 酸 素 が 欠 乏 した 黒 い 水 が 悪 臭 を 放 っていた このため 1970 年 代 の 環 境 対 策 は 当 面 の 環 境 汚 染 物 質 を 処 理 する 対 症 療 法 が 中 心 だった 予 防 の 分 野 ではな く 治 療 の 分 野 が 先 行 したのである 環 境 のための 設 備 投 資 も 排 ガス 処 理 や 排 水 処 理 が 中 心 だったから 公 害 防 止 設 備 と 言 われていた その 後 1980 年 代 になって 環 境 が 改 善 さ れ 公 害 防 止 設 備 が 更 新 の 時 期 を 迎 えると もっと 上 流 の 予 防 対 策 の 重 要 性 が 認 識 される ようになった このため 環 境 法 体 系 の 憲 法 と 言 われた 公 害 対 策 基 本 法 は 環 境 基 本 法 に 代 わった 1970 代 に 氾 濫 していた 公 害 という 言 葉 は 急 速 に 環 境 に 名 を 変 え 公 害 防 止 事 業 団 は 環 境 事 業 団 に 産 業 公 害 管 理 協 会 は 産 業 環 境 管 理 協 会 になった 企 業 の 環 境 関 連 組 織 も 公 害 のイメージを 嫌 ったことと 上 流 の 未 然 防 止 分 野 も 視 野 に 入 れるように なり 環 境 と 名 のつく 部 門 になった 公 害 は 1960 代 に 生 まれた 日 本 語 だが 1990 年 代 には 死 語 になったといってよいだろう このとき 環 境 技 術 や 環 境 設 備 も 下 流 の 後 処 理 だけでなく 上 流 も 含 めた 概 念 に 変 化 すべ きだったと 筆 者 は 思 うのだが いまだに 過 去 の 公 害 防 止 の 範 囲 と 認 識 している 傾 向 がある 8
各 種 の 統 計 も 環 境 装 置 というと 処 理 設 備 という 語 尾 がついていることからも 予 防 の 分 野 を 対 象 外 としている 場 合 が 多 い これまで 述 べてきたように 環 境 対 策 には 予 防 の 分 野 と 治 療 の 分 野 があり 予 防 の 分 野 が 主 役 の 環 境 対 策 が 増 加 している 日 本 の 環 境 対 策 は 歴 史 的 な 経 緯 から 治 療 の 分 野 が 先 行 した しかし 末 端 の 後 処 理 といえども 生 産 設 備 や 社 会 システムの 一 部 である したがってプロセス 全 体 として あるいは 社 会 システム として 上 流 分 野 を 含 む 最 適 な 機 能 分 担 を 実 現 するのが 望 ましい 環 境 分 野 環 境 対 策 環 境 技 術 環 境 設 備 は 予 防 の 分 野 も 含 めてもっと 広 く 大 きく 総 合 的 な 視 野 で 考 える 概 念 と 筆 者 は 考 えている 環 境 対 策 の 予 防 と 治 療 という 総 合 的 で 網 羅 的 な 整 理 と 認 識 が 環 境 分 野 に 関 与 する 技 術 者 の 参 考 になることを 期 待 する ( 終 わり) 9