Ⅱ 章 背 景 知 識 以 上 より, 海 外 の 先 行 研 究 では,がん 患 者 はオピオイドに 対 して,1 麻 薬 中 毒 になる といった 誤 解 をもっているため, 誤 解 に 対 する 説 明 が 必 要 であること,2 鎮 痛 効 果 とバランスの 取 れた 副 作 用 対 策 に



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6 患者のオピオイドについての認識 6 患者のオピオイドについての認識 Ⅱ章 1 患者はオピオイドをどうとらえているか オピオイドに対する患者の心配は何か 背景知識 1 1 海外における患者のオピオイドについての認識 がん患者はオピオイドの使用をためらうことが少なくない 患者の躊躇に関係し た認識として 麻薬中毒 になる心配 徐々に効かなくなる ことへの心配 鎮 痛薬の 副作用が強い ことへの心配 痛みが疾患の進行を予期させることによる 不安 医師は痛みについての話をよく思わない との考えなどが挙げられる 患者 がオピオイドの使用を躊躇する要因 barrier を定量的に測定する手段として最も よく用いられる Barrier Questionnaire では 患者がオピオイドの使用をためらう要 因として 8 つの項目が抽出されている 表 1 終末期がん患者 988 例を対象とした 痛みに関する治療についての米国の大規模 調査では がん患者の約半数が中等度以上の強い痛みを体験していたが 痛みの治 療をさらに求めていたのは約 30 にすぎなかった その理由には 麻薬中毒の心 配 が約 40 オピオイドの副作用の心配 が約 30 などが挙げられ 疼痛治療 では 単に痛みを緩和するだけでなく 患者のオピオイドについての誤解に働きか けることや オピオイドの副作用と鎮痛効果のバランスに配慮することが重要であ ると結論している また 実際に いま 痛みを体験しており オピオイドを使用 する選択肢を初めて提示された患者 18 例を対象とした質的研究では モルヒネは 最後の手段である モルヒネの使用により痛みは取れるが 体が動かなくなるこ とで生活ができなくなり死を早める と認識している患者が多かった そのような 認識の理由として 死亡した家族や友人の経験 や 人から聞いた話 医師から の説明 が挙げられた 一方 患者は オピオイドについて 少量から始めて 体 にあわなければやめてもいい と説明されることで よりオピオイドを受け入れや すくなると述べていた また 麻薬中毒 や 徐々に効果がなくなる ことへの心 配を挙げた患者は少なかったことから いま 痛みを体験している患者におけるオ ピオイドの使用の主要なバリアは オピオイドが 死に向かう過程を安楽に過ごす ためだけの手段 と思われることであると指摘している 表 1 Barriers Questionnaire 8 項目 1 精神依存 麻薬中毒 になる 2 徐々に効果がなくなる 3 副作用が強い 4 痛みは病気の進行を示す 5 注射がこわい 6 痛みを治療しても和らげることができない 7 痛みを訴えない患者は 良い患者 であり 良い患者でいたい 8 医療従事者は痛みの話をすることを好まない 89

Ⅱ 章 背 景 知 識 以 上 より, 海 外 の 先 行 研 究 では,がん 患 者 はオピオイドに 対 して,1 麻 薬 中 毒 になる といった 誤 解 をもっているため, 誤 解 に 対 する 説 明 が 必 要 であること,2 鎮 痛 効 果 とバランスの 取 れた 副 作 用 対 策 に 配 慮 すること,および3 最 後 の 手 段 といった, 死 を 連 想 させることに 対 する 配 慮 が 重 要 であることが 示 唆 される 2 ) 日 本 における 患 者 のオピオイドについての 認 識 患 者 のオピオイドについての 認 識 に 関 して, 日 本 でもいくつかの 研 究 が 行 われて いる Morita らの 一 般 人 口 5,000 名 を 対 象 とした 全 国 調 査 では, 約 30%が モルヒネは 中 毒 になる, モルヒネは 寿 命 を 縮 める といったオピオイドについての 誤 解 をもっていた Akiyama らは 外 来 通 院 中 の 転 移 や 再 発 のあるがん 患 者 833 例 を 対 象 に 質 問 紙 調 査 を 行 った 73%の 患 者 が ほとんどのがんの 痛 みはオピオイドで 和 らげることがで きる と 認 識 している 一 方 で, 約 30%の 患 者 が オピオイドは 中 毒 性 がある, 寿 命 を 縮 める と 誤 解 していた 特 に, 男 性 患 者 がオピオイドに 対 する 誤 解 を 持 って いた(p=0.03) 近 藤 らは,がん 疼 痛 のためモルヒネを 経 口 投 与 している 外 来 通 院 患 者 32 例 を 対 象 として,Barriers Questionnaire を 用 いた 調 査 を 行 った モルヒネに 関 する 心 配 とし て 頻 度 が 高 かったのは, 病 気 の 進 行 への 心 配 ( 痛 みがあるのは 病 気 が 重 くなって いるためである など), 耐 性 の 心 配 ( 痛 みが 強 くなった 時 に 効 かなくなる な ど), 習 慣 性 の 心 配 ( 痛 み 止 めの 薬 は 習 慣 性 が 起 こるので 危 ない など) であっ た Morita らは, 緩 和 ケア 病 棟 に 入 院 中 にモルヒネを 開 始 したがん 患 者 50 例 を 対 象 としてモルヒネに 関 する 心 配 を 同 定 したところ, 精 神 症 状 の 副 作 用 がある, 寿 命 を 縮 める, 麻 薬 中 毒 になる との 心 配 が 約 40%に 認 められ, 心 配 の 数 はオピオイ ドを 開 始 するかどうかの 意 思 決 定 に 関 係 していた 吉 田 は,がん 疼 痛 で 鎮 痛 薬 を 使 用 している 49 例 の 患 者 を 対 象 に 面 接 調 査 を 行 っ た その 結 果, 患 者 は 痛 みのコントロールに 対 する 不 満 をもっているが, 医 療 者 に 何 もしてもらえないため 痛 みを 訴 えても 無 駄 と 感 じており,さらに, 鎮 痛 薬 の 使 用 に 関 して 依 存 性 に 対 する 懸 念, 副 作 用 への 不 安 をもっていた 以 上 より, 海 外 の 研 究 と 同 様 に, 本 邦 においても,がん 患 者 はオピオイドに 対 し て,1 麻 薬 中 毒 になる, 寿 命 を 縮 める といった 誤 解 をもっているため, 誤 解 に 対 する 説 明 が 必 要 であること,2 鎮 痛 とバランスの 取 れた 副 作 用, 特 に 眠 気 など の 精 神 症 状 に 配 慮 すること,および3 最 後 の 手 段 といった 死 を 連 想 させること に 対 する 配 慮 が 重 要 であることが 示 唆 される 3 )オピオイドに 対 する 認 識 のまとめ 表 2にオピオイドに 対 する 患 者 の 認 識 と 臨 床 的 対 応 をまとめた がん 患 者 がもつ オピオイドの 認 識 として, 医 学 的 事 実 と 一 致 しない 誤 解 ( 麻 薬 中 毒 になる, 寿 命 が 縮 まる, 徐 々に 効 果 がなくなる など)がある 場 合 には,その 認 識 に 至 っ た 患 者 個 々の 背 景 などを 十 分 に 把 握 したうえで,がん 疼 痛 やオピオイドについての 情 報 を 提 供 していく 必 要 がある 90

6 患者のオピオイドについての認識 表 2 オピオイドに対する患者の認識と臨床的対応 患者の認識 臨床的対応 麻薬中毒になる 寿 誤解に対する患者の考えを把握する 命を縮める などの誤解 上記をもとに オピオイドに関する説明を行う 副作用への心配 Ⅱ章 最後の手段 など 死 を連想させること 鎮痛効果とバランスの取れた副作用対策を行う 精神症状に配慮する 背景知識 楽になる だけではなく オピオイドを使用することで できないことができる ようになることを伝える 死の不安に対する精神的サポートを提供する また 患者は痛みが取れることだけを希望しているわけではなく バランスの取 れた疼痛治療 を希望していることを念頭に 副作用への配慮や対策を十分に行う ことが必要である さらに オピオイドが最後の手段や死を連想させることによる不安に対しては 疼痛治療を行うことは単に 楽になる だけではなく いまできないことができる ようになること を伝えることや いったん始めても 具合が悪ければ相談してや めてもよいこと 死の不安を念頭に置いた精神的なサポート 否認への配慮 が必 要になる 廣岡佳代 参考文献 1 Jacobsen R, Møldrup C, Christrup L, Sjogren P. Patient related barriers to cancer pain management a systematic exploratory review. Scand J Caring Sci 2009 23 190 208 2 Ward SE, Goldberg N, Miller McCauley V, et al. Patient relatied barriers to management of cancer pain. Pain 1993 52 319 24 3 Weiss SC, Emanuel LL, Fairclough DL, Emanuel EJ. Understanding the experience of pain in terminally ill patients. Lancet 2001 357 9265 1311 5 4 Reid CM, Gooberman Hill R, Hanks GW. Opioid analgesics for cancer pain symptom control for the living or comfort for the dying? A qualitative study to investigate the factors influencing the decision to accept morphine for pain caused by cancer. Ann Oncol 2008 19 44 8 5 Morita T, Miyashita M, Shibagaki M, et al. Knowledge and beliefs about end of life care and the effects of specialized palliative care a population based survey in Japan. J Pain Symptom Manage 2006 31 306 16 6 近藤由香 渋谷優子 痛みのある外来がん患者のモルヒネ使用に対する懸念と服薬行動に関す る研究 がん看護 2002 16 5 16 7 Morita T, Tsunoda J, Inoue S, et al. Concerns of Japanese hospice inpatients about morphine therapy as a factor in pain management a pilot study. J Palliat Care 2000 16 54 8 8 吉田みつ子 痛みのある癌患者の日常生活の安寧感と痛みのコントロール 日本看護科学会誌 1997 17 4 56 63 9 Akiyama M, Takebayashi T, Morita T, et al. Knowledge, beliefs, and concerns about opioids, palliative care, and homecare of advanced cancer patients a nationwide survey in Japan. Support Care Cancer 2012 20 5 923 31 91

Ⅱ章 背景知識 2 オピオイドの誤解についての医学的真実 1 オピオイドを使用すると麻薬中毒になる という誤解 麻薬中毒 医学的には 依存性とは関係 なく 大量投与時あるいは慢 性的に投与した時に現れる有 害反応 法律用語では 麻 薬 大麻又はあへんの慢性中 毒 をいう 精神依存 いわゆる 麻薬中毒 とは 自己制御できずに薬物を使用する 症 状 痛み がないにもかかわらず強迫的に薬物を使用するなどの行動によって特徴 づけられる一次性の慢性神経生物学的疾患である P66 Ⅱ 4 1 13 精神依存 身体依存 耐性の項参照 オピオイドはがん疼痛に有効な薬剤であるが がん患者にとってオピオイドの精 神依存は大きな懸念であり オピオイド導入への障害の一つの要因である しかし がん疼痛に対してオピオイドを使用した場合 精神依存が生じることはまれであ る がん患者を対象にした 4 つの研究における 精神依存 研究によって addiction など用いられた定義が異なっている の発現率は 0 74 例 横断研究 0 148 例 後向き研究 2 100 例 後向き研究 であった 特に オピオイドを使用したが ん患者を追跡したコホート研究では 550 例中 1 例 0.2 が Portenoy の addiction の基準を満たしたのみである Højsted J したがって がん疼痛で精神依存を生じる可能性は非常に低く がん疼痛に対し て精神依存になる懸念がオピオイドの使用を控える理由とはならない 2 オピオイドを使用すると寿命が縮まる という誤解 WHO 方式がん疼痛治療が普及する以前は 痛みに対してオピオイドを定期的に 投与する ことは少なかった したがって がん疼痛に対して 痛みが耐えられな くなってから 全身状態の悪化している患者に いよいよモルヒネの注射 を行う ことが多かった そのため 急激に血中濃度が上昇し 副作用を生じる場合もあっ たと推測される このことが モルヒネは死を早める という印象を一般の人たち だけでなく医療従事者にも与えたと考えられる しかし WHO 方式がん疼痛治療 法に基づき 痛みの強さに応じてオピオイドを定期的に鎮痛に必要な量で投与すれ ば 患者の生命予後に影響を与えないことを 3 つのコホート研究が示唆している Bercovitch らは イスラエルの 1 つの緩和ケア病棟の終末期がん患者 453 例を対 象に オピオイドの使用量と入院から死亡までの生存期間との相関を検討した 入 院中に投与された定期およびレスキュー薬のオピオイドの平均投与量をモルヒネ経 口投与換算して 300 mg 日以上の群と未満の群とでは 生存期間に有意な差はな また 600 mg 日以上を使用した群 300 599 mg 日を使 かった 15 日 vs 14 日 用した群 300 mg 未満を使用した群の 3 群で比較しても生存期間に有意差はなかっ た したがって オピオイドの投与量は生命予後に影響を与えないと結論した Morita らは 日本の 1 つの緩和ケア病棟の終末期がん患者 209 例を対象に オピ オイドの使用量と入院から死亡までの生存期間との相関を検討した 死亡前 48 時間 にモルヒネ経口投与換算 600 mg 以上を使用した群 240 599 mg を使用した群 240 mg 未満を使用した群の 3 群で比較して生存期間に有意差はなかった また オ ピオイドの投与量を生命予後の予測式に追加しても説明率の有意な上昇はみられな かったことから オピオイドの投与量は生命予後に影響を与えないと結論した Portenoy らは 米国の在宅ホスピス 13 プログラムでケアを受けた 1,306 例のうち オピオイドの投与を受けた 725 例 がん患者 307 例 42 を対象に ホスピスプ 92

6 患者のオピオイドについての認識 ログラムに紹介されてから死亡までのオピオイドの最大使用量および最終のオピオ イドの増加率と 生存期間との相関を検討した モルヒネ静脈内投与換算 200 mg 日以上を使用した群と 200 mg 日以下を使用した群とでは モルヒネを大量使用 生存期間を目的変数として しているほうが生存期間は長かった 47 日 vs 28 日 モルヒネ投与量を説明変数とした回帰分析を行うと モルヒネ投与量は 原疾患の Ⅱ章 診断 意識水準 痛みの程度などと同様に生命予後の有意な説明要因であったが どのモデルも説明率は 10 未満であった 以上から モルヒネの投与量は生命予後 背景知識 に相関したが 説明率は小さく オピオイドを必要とした背景の要因 例えば呼吸 困難など の影響を受けている可能性があるため オピオイドが生命予後を短縮す るかもしれない との懸念はオピオイドによる鎮痛を差し控える理由にはならない と結論した 以上より 既存の研究の対象は 専門的な緩和ケアを受けている終末期のがん患 者に限られているものの オピオイドの使用が生命予後を短縮するという根拠はな い オピオイドを使用すると寿命が縮まる 懸念のために 鎮痛のためのオピオイ ドを差し控えることは妥当ではないと考えられる 林ゑり子 参考文献 1 Højsted J, Sjøgren P. Addiction to opioids in chronic pain patients a literature review. Eur J Pain 2007 11 490 518 2 Bercovitch M, Waller A, Adunsky A. High dose morphine use in the hospice setting, A database survey of patient characteristics and effect on life expectancy. Cancer 1999 86 871 7 3 Morita T, Tsunoda J, Inoue S, et al. Effects of high dose opioids and sedatives on survival in terminally ill cancer patients. J Pain Symptom Manage 2001 21 282 9 4 Portenoy RK, Sibirceva U, Smout R, et al. Opioid use and survival at the end of life a survey of a hospice population. J Pain Symptom Manage 2006 32 532 40 3 オピオイドの服薬指導 オピオイドの服薬指導の主な目的は 患者の抱えている誤解や懸念を解消しアド ヒアランス を高めること 痛みや副作用に対する適切な対処方法を習得させるこ と 服薬指導時に得た薬物療法上の問題点などを多職種で共有し その後の疼痛マ ネジメントに活かすことなどであり これらを通じて個々の患者の痛みの軽減と QOL 向上に寄与することを目指すものである オピオイドに対する誤解や懸念は がん疼痛治療を受ける患者やその家族にオピ オイドの使用を躊躇させるなど 疼痛マネジメントの重大な障壁となる 実際 複 アドヒアランス adherence 患者が主体となって治療方針 の決定に参加し その決定に 従って治療を受けること 従 来使われてきたコンプライア ンス 遵守 よりも医療の主 体を患者側に置いた考え方 数の系統的レビューや無作為化比較試験により 疼痛マネジメントについて患者教 育を行うことは 痛みの改善に効果的であることが示唆されており 患者への情報 提供や教育的支援は がん疼痛治療の質を大きく左右すると考えられている オピオイドの服薬指導をどのように行うべきかについて 具体的な方法を比較検 討した質の高い臨床試験は存在しない したがって 実際に有効性が実証された教 育プログラムを参考に 個々の患者に応じて複数の方法を組み合わせて患者教育を 93

Ⅱ 章 背 景 知 識 行 うことになる 以 下, 先 行 研 究 の 結 果 をふまえて,オピオイドの 服 薬 指 導 の 要 点 を 示 す 1 服 薬 指 導 におけるコミュニケーション 先 行 研 究 より, 効 果 的 なコミュニケーションは, 患 者 の 満 足 感,アドヒアランス, 情 報 の 想 起 や 理 解 の 促 進, 心 理 的 ストレスの 軽 減 などと 関 係 することが 示 唆 されて いる 服 薬 指 導 においても, 良 質 なコミュニケーションに 基 づく 医 療 者 と 患 者 との 相 互 理 解 や 信 頼 関 係 の 構 築 が 基 本 となる 医 療 者 が 患 者 とのラポールを 形 成 するた めには, 基 本 的 コミュニケーションスキルとして, 温 かさ, 礼 節, 受 容, 傾 聴, 支 持, 肯 定, 保 証 および 共 感 といった 要 素 が 重 要 である 特 にがん 患 者 においては, 身 体 状 態 が 日 々 変 化 し 得 ることを 念 頭 に 置 き, 個 々の 患 者 の 状 況 やニーズにあわせ て 柔 軟 な 対 応 を 図 るべきである 2 痛 みとオピオイドに 関 する 正 しい 認 識 オピオイドに 関 する 説 明 に 先 立 ち, 痛 みを 緩 和 することの 意 義 や 痛 みを 我 慢 する ことの 悪 影 響 について 伝 え, 患 者 家 族 に 除 痛 の 必 要 性 を 認 識 してもらうことが 重 要 である 痛 みや 治 療 効 果 の 判 定 は, 患 者 の 主 観 的 な 訴 えに 基 づいてなされるので, 痛 みの 強 さや 性 質 を 伝 える 方 法 を 具 体 的 に 示 し( 痛 み 日 記 の 記 入 など), 医 療 者 に 積 極 的 に 痛 みを 伝 えるように 促 す 必 要 がある 誤 解 や 懸 念 からオピオイドの 使 用 に 忌 避 感 を 抱 いている 患 者 に 対 しては, 痛 みに 対 してオピオイドを 使 用 しても 精 神 依 存 を 生 じることはなく, 生 命 予 後 を 短 縮 するという 根 拠 もないことなどを 説 明 す る その 際, 画 一 的 な 説 明 に 終 始 するのではなく, 患 者 の 訴 えを 傾 聴 し, 実 際 に 心 配 していることを 明 確 にし,その 認 識 に 至 った 背 景 など 個 々の 患 者 のナラティヴ ( 語 り)を 尊 重 したうえで, 正 しい 情 報 を 提 供 し 保 証 を 与 えることが 望 ましい 3 オピオイドによる 疼 痛 マネジメントと 服 薬 指 導 疼 痛 マネジメントのための 治 療 計 画,オピオイドの 使 用 方 法, 主 な 副 作 用 とその 対 策 などの 詳 細 について, 平 易 な 言 葉 でわかりやすく 説 明 する 1 )オピオイドの 使 用 方 法 オピオイドの 開 始 に 際 して,まず 疼 痛 マネジメントにおける 具 体 的 な 目 標 と 治 療 計 画 の 概 要 を 説 明 する オピオイドの 実 際 の 使 用 方 法 として,がん 疼 痛 のような 持 続 的 な 痛 みにおいては 1 日 を 通 じて 痛 みのない 生 活 を 送 るために, 鎮 痛 に 必 要 なオピオイドの 血 中 濃 度 ( 正 確 には 効 果 部 位 濃 度 )を 維 持 するよう, 時 刻 を 決 めて 一 定 間 隔 で 使 用 することの 重 要 性 を 理 解 してもらうことが 必 要 である フェンタニル 貼 付 剤 を 用 いる 場 合 は, 貼 付 方 法 を 具 体 的 に 指 導 するとともに, 発 熱 や 運 動 による 体 温 上 昇, 貼 付 部 位 の 熱 源 への 接 触 により, 吸 収 量 が 増 大 し 過 量 投 与 となる 危 険 性 について 注 意 喚 起 を 行 う 入 浴 する 場 合 は, 熱 い 温 度 での 長 時 間 の 入 浴 は 避 けるよう 伝 える 呼 吸 抑 制, 意 識 障 害 などの 症 状 がみられた 場 合 は, 速 や かに 医 療 者 に 連 絡 するよう 患 者 のみならず 家 族 にも 指 導 する 突 出 痛 に 対 しては, 患 者 にレスキュー 薬 の 意 義 や 使 用 方 法 を 説 明 し, 積 極 的 な 使 94

6 患者のオピオイドについての認識 用を促すことが重要である 突出痛への適切な対処が可能となると 自己効力感 の向上に繋がる 使用に際してはレスキュー薬の効果発現時間 持続時間および使 用間隔についても情報提供しておくとよい 体動時痛などの予測可能な突出痛に対 しては 事前にレスキュー薬を使用することで予防可能な場合があるので 適切と 判断される場合は使用方法を十分に説明する 自己効力感 self efficacy 自分が ある具体的な状況に おいて 適切な行動を成功裡 に遂行できるという予測およ び確信 Ⅱ章 患者自己調節鎮痛法 patient controlled analgesia PCA を導入する場合は PCA の目的や機器の機能を理解してもらうことで 患者自らその時々の状況に応じ 背景知識 たレスキュー薬の投与が可能となる 機器の具体的な操作方法 ボーラス投与後の 過量投与防止のためのロックアウト時間などの設定について情報提供を行う 2 オピオイドの主な副作用とその対策 オピオイドの開始時には 予想される副作用とその対策についての説明をあらか じめ行う 十分な説明がなされていない状況で副作用が発現すると 患者の不安が 助長されアドヒアランスを損なうことがある オピオイドの副作用としては 頻度 の高い悪心 嘔吐 便秘および眠気を中心に説明することが実際的である 悪心 嘔吐 患者にとって悪心 嘔吐は最も不快な症状の一つである オピオイド 投与初期あるいは増量時に生じやすく 数日以内に耐性を生じ 症状が治まること が多いことを説明し 悪心時あるいは予防的に使用する制吐薬の服用方法について 指導する また 悪心 嘔吐が生じた際の詳しい状況を報告してもらうと対策が立 てやすくなる 便 秘 便秘はオピオイドを投与された患者に高頻度に起こり 重度の便秘は悪 心 嘔吐の原因となる場合も多い また 耐性形成がほとんど起こらないので 下 剤の継続的な服用が必要であることを説明する 排便の習慣は個人差が大きいた め もともとの排便習慣と比較し 排便回数 量 硬さおよび排便時の不快感など の変化を報告するよう促すとともに 下剤の自己調節方法を具体的に指導する 眠 気 オピオイド投与初期あるいは増量時に出現することがある 耐性が速や かに生じ 数日以内に自然に軽減ないしは消失することが多い 多くの場合 鎮痛 用量よりも投与量が上回ると眠気を生じやすいので 不快な眠気が続いたり 日常 生活に支障を来す場合には報告するよう伝える その他の副作用 その他の副作用としては せん妄 呼吸抑制 口内乾燥 瘙痒 感 排尿障害およびミオクローヌスなどが挙げられる 注意深く副作用を観察し 状況に応じて適宜説明を加えていく 3 在宅における医療用麻薬の管理 患者が生活を営む在宅においては 医療者の観察が行き届きにくい状況で服薬や 薬剤管理が行われるため 患者のみならず家族や介護者にも十分な説明を行う 在宅における医療用麻薬の管理上の要点は下記のとおりである まず 医療用麻 薬の他者への譲渡は禁止し 乳幼児や小児 ペットの手の届かない場所に保管する 特にフェンタニル貼付剤は 使用済み製剤中にもかなりの量の薬効成分が残存して おり 誤って皮膚や粘膜に付着すると致死的となる場合もある 使用済み製剤は家 庭ごみとして廃棄できるが 粘着面を内側に貼りあわせ 専用の廃棄袋に入れて封 をするなど 小児等が手を触れないように配慮して廃棄する さらに 不要となっ 95

Ⅱ 章 背 景 知 識 た 医 療 用 麻 薬 は, 交 付 を 受 けた 診 療 施 設 または 保 険 調 剤 薬 局 に 持 参 するよう 指 導 す る(P87,Ⅱ 5 2 3 在 宅 医 療 での 取 り 扱 いについての 項 も 参 照 ) 4 ) 面 談 のまとめ 服 薬 指 導 の 最 後 には, 説 明 内 容 を 要 約 し, 患 者 の 理 解 度, 気 掛 かりや 疑 問 の 有 無 を 確 認 する 情 緒 的 なサポートを 交 えて 患 者 自 身 が 語 りやすい 雰 囲 気 をつくる そ の 場 で 質 問 がない 場 合 でも, 気 掛 かりや 疑 問 が 生 じた 場 合 にいつでも 質 問 できるこ とを 伝 えておく 患 者 家 族 に 対 して, 最 後 まで 責 任 をもって 薬 物 療 法 にあたる 意 思 を 明 示 することが 重 要 である 患 者 の 痛 みやオピオイドについての 理 解 は 一 度 で 得 られるものではなく, 継 続 的 な 情 報 提 供 や 教 育 的 支 援 が 必 要 である なお, 説 明 内 容 の 要 点 を 平 易 な 言 葉 でまと めた 文 書 として 交 付 することは, 情 報 の 想 起 や 理 解 の 促 進 に 有 効 である 個 々の 患 者 の 痛 みを 改 善 し QOL 向 上 に 寄 与 することを 目 指 し, 良 質 なコミュニ ケーションと 薬 物 療 法 に 関 する 専 門 的 視 点 に 基 づいて, 患 者 の 抱 えている 苦 痛 に 寄 り 添 いながら 服 薬 指 導 を 展 開 していくことが 重 要 である ( 安 田 俊 太 郎, 伊 勢 雄 也 ) 96