Roadmap for PFI Road―道路維持修繕事業を対象としたPFI導入可能性分析―



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2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1


は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし

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(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 き 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている

Taro-01 議案概要.jtd

1 予 算 の 姿 ( 平 成 25 当 初 予 算 ) 長 野 県 財 政 の 状 況 H 現 在 長 野 県 の 予 算 を 歳 入 面 から 見 ると 自 主 財 源 の 根 幹 である 県 税 が 全 体 の5 分 の1 程 度 しかなく 地 方 交 付 税 や 国 庫 支

6 構 造 等 コンクリートブロック 造 平 屋 建 て4 戸 長 屋 16 棟 64 戸 建 築 年 1 戸 当 床 面 積 棟 数 住 戸 改 善 後 床 面 積 昭 和 42 年 36.00m m2 昭 和 43 年 36.50m m2 昭 和 44 年 36.

平成24年度税制改正要望 公募結果 153. 不動産取得税

その 他 事 業 推 進 体 制 平 成 20 年 3 月 26 日 に 石 垣 島 国 営 土 地 改 良 事 業 推 進 協 議 会 を 設 立 し 事 業 を 推 進 ( 構 成 : 石 垣 市 石 垣 市 議 会 石 垣 島 土 地 改 良 区 石 垣 市 農 業 委 員 会 沖 縄 県 農

ていることから それに 先 行 する 形 で 下 請 業 者 についても 対 策 を 講 じることとしまし た 本 県 としましては それまでの 間 に 未 加 入 の 建 設 業 者 に 加 入 していただきますよう 28 年 4 月 から 実 施 することとしました 問 6 公 共 工 事 の

公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

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2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

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文化政策情報システムの運用等

1 特 別 会 計 財 務 書 類 の 検 査 特 別 会 計 に 関 する 法 律 ( 平 成 19 年 法 律 第 23 号 以 下 法 という ) 第 19 条 第 1 項 の 規 定 に 基 づき 所 管 大 臣 は 毎 会 計 年 度 その 管 理 する 特 別 会 計 について 資 産

った 場 合 など 監 事 の 任 務 懈 怠 の 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 減 算 する (8) 役 員 の 法 人 に 対 する 特 段 の 貢 献 が 認 められる 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 加 算 することができる


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公表表紙


1 総 合 設 計 一 定 規 模 以 上 の 敷 地 面 積 及 び 一 定 割 合 以 上 の 空 地 を 有 する 建 築 計 画 について 特 定 行 政 庁 の 許 可 により 容 積 率 斜 線 制 限 などの 制 限 を 緩 和 する 制 度 である 建 築 敷 地 の 共 同 化 や

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連結計算書

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18 国立高等専門学校機構

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預 金 を 確 保 しつつ 資 金 調 達 手 段 も 確 保 する 収 益 性 を 示 す 指 標 として 営 業 利 益 率 を 採 用 し 営 業 利 益 率 の 目 安 となる 数 値 を 公 表 する 株 主 の 皆 様 への 還 元 については 持 続 的 な 成 長 による 配 当 可

1 変更の許可等(都市計画法第35条の2)

一般競争入札について

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質 問 票 ( 様 式 3) 質 問 番 号 62-1 質 問 内 容 鑑 定 評 価 依 頼 先 は 千 葉 県 などは 入 札 制 度 にしているが 神 奈 川 県 は 入 札 なのか?または 随 契 なのか?その 理 由 は? 地 価 調 査 業 務 は 単 にそれぞれの 地 点 の 鑑 定

国 家 公 務 員 の 年 金 払 い 退 職 給 付 の 創 設 について 検 討 を 進 めるものとする 平 成 19 年 法 案 をベースに 一 元 化 の 具 体 的 内 容 について 検 討 する 関 係 省 庁 間 で 調 整 の 上 平 成 24 年 通 常 国 会 への 法 案 提

入 札 参 加 者 は 入 札 の 執 行 完 了 に 至 るまではいつでも 入 札 を 辞 退 することができ これを 理 由 として 以 降 の 指 名 等 において 不 利 益 な 取 扱 いを 受 けることはない 12 入 札 保 証 金 免 除 13 契 約 保 証 金 免 除 14 入

3. 選 任 固 定 資 産 評 価 員 は 固 定 資 産 の 評 価 に 関 する 知 識 及 び 経 験 を 有 する 者 のうちから 市 町 村 長 が 当 該 市 町 村 の 議 会 の 同 意 を 得 て 選 任 する 二 以 上 の 市 町 村 の 長 は 当 該 市 町 村 の 議

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2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 法 人 の 長 A 18,248 11,166 4, ,066 6,42

要 な 指 示 をさせることができる ( 検 査 ) 第 8 条 甲 は 乙 の 業 務 にかかる 契 約 履 行 状 況 について 作 業 完 了 後 10 日 以 内 に 検 査 を 行 うものとする ( 発 生 した 著 作 権 等 の 帰 属 ) 第 9 条 業 務 によって 甲 が 乙 に

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弁護士報酬規定(抜粋)

損 益 計 算 書 自. 平 成 26 年 4 月 1 日 至. 平 成 27 年 3 月 31 日 科 目 内 訳 金 額 千 円 千 円 営 業 収 益 6,167,402 委 託 者 報 酬 4,328,295 運 用 受 託 報 酬 1,839,106 営 業 費 用 3,911,389 一

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(4) ラスパイレス 指 数 の 状 況 H H H5.4.1 ( 参 考 値 ) 97.1 H H H H5.4.1 H H5.4.1 ( 参 考

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 26 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 法 人 の 長 副 理 事 長 A 理 事 16,638 10,332 4,446 1,

容 積 率 制 限 の 概 要 1 容 積 率 制 限 の 目 的 地 域 で 行 われる 各 種 の 社 会 経 済 活 動 の 総 量 を 誘 導 することにより 建 築 物 と 道 路 等 の 公 共 施 設 とのバランスを 確 保 することを 目 的 として 行 われており 市 街 地 環

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リング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 に 係 る 繰 延 税 金 資 産 について 回 収 可 能 性 がないも のとする 原 則 的 な 取 扱 いに 対 して スケジューリング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 を 回 収 できることを 反 証 できる 場 合 に 原 則

03 平成28年度文部科学省税制改正要望事項

損 益 計 算 書 ( 自 平 成 25 年 4 月 1 日 至 平 成 26 年 3 月 31 日 ) ( 単 位 : 百 万 円 ) 科 目 金 額 営 業 収 益 75,917 取 引 参 加 料 金 39,032 上 場 関 係 収 入 11,772 情 報 関 係 収 入 13,352 そ

別紙3

Speed突破!Premium問題集 基本書サンプル

【労働保険事務組合事務処理規約】

市 町 村 税 の 概 況 市 町 村 税 の 概 況 は 平 成 25 年 度 地 方 財 政 状 況 調 査 平 成 26 年 度 市 町 村 税 の 課 税 状 況 等 の 調 及 び 平 成 26 年 度 固 定 資 産 の 価 格 等 の 概 要 調 書 等 報 告 書 等 の 資 料 に

(4) ラスパイレス 指 数 の 状 況 ( 各 年 4 月 1 日 現 在 ) ( 例 ) ( 例 ) 15 (H2) (H2) (H24) (H24) (H25.4.1) (H25.4.1) (H24) (H24)

 

4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 有

職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 ( 平 成 年 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 福 岡 県 技 能 労 務 職 歳 1,19,98 9,9 歳 8,

4 参 加 資 格 要 件 本 提 案 への 参 加 予 定 者 は 以 下 の 条 件 を 全 て 満 たすこと 1 地 方 自 治 法 施 行 令 ( 昭 和 22 年 政 令 第 16 号 ) 第 167 条 の4 第 1 項 各 号 の 規 定 に 該 当 しない 者 であること 2 会 社

スライド 1

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為 が 行 われるおそれがある 場 合 に 都 道 府 県 公 安 委 員 会 がその 指 定 暴 力 団 等 を 特 定 抗 争 指 定 暴 力 団 等 として 指 定 し その 所 属 する 指 定 暴 力 団 員 が 警 戒 区 域 内 において 暴 力 団 の 事 務 所 を 新 たに 設

4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 有

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続 に 基 づく 一 般 競 争 ( 指 名 競 争 ) 参 加 資 格 の 再 認 定 を 受 けていること ) c) 会 社 更 生 法 に 基 づき 更 生 手 続 開 始 の 申 立 てがなされている 者 又 は 民 事 再 生 法 に 基 づき 再 生 手 続 開 始 の 申 立 てがなさ

(4) ラスパイレス 指 数 の 状 況 (H20.4.1) 96.7 (H25.4.1) (H25.7.1) (H25.4.1), (H25.4.1) 参 考 値 98.3 (H25.7.1) (H20.4.1) (H25.4

Transcription:

東 京 大 学 公 共 政 策 大 学 院 事 例 研 究 ( 不 動 産 証 券 化 と 都 市 地 域 政 策 解 決 策 分 析 )2009 年 度 国 際 公 共 政 策 コース2 年 川 瀬 翔 平 経 済 政 策 コース2 年 佐 藤 直 人 経 済 政 策 コース2 年 原 貴 紀 GraSPP ポリシーリサーチ ペーパーシリーズの 多 くは 以 下 のサイトから 無 料 で 入 手 可 能 です http://www.pp.u-tokyo.ac.jp/research/wp/index.htm このポリシーリサーチ ペーパーシリーズは 内 部 での 討 論 に 資 するための 未 定 稿 の 段 階 にある 論 文 草 稿 である 著 者 の 承 諾 なしに 引 用 配 布 することは 差 し 控 えられたい 東 京 大 学 公 共 政 策 大 学 院 代 表 TEL 03-5841-1349

東 京 大 学 公 共 政 策 大 学 院 2009 年 度 事 例 研 究 ( 不 動 産 証 券 化 と 都 市 地 域 政 策 解 決 策 分 析 ) 最 終 報 告 書 Roadmap for PFI Road 道 路 維 持 修 繕 事 業 を 対 象 とした PFI の 導 入 可 能 性 分 析 平 成 22 年 3 月 12 日 東 京 大 学 公 共 政 策 大 学 院 事 例 研 究 ( 不 動 産 証 券 化 と 都 市 地 域 政 策 ) PFI グループ 国 際 公 共 政 策 コース 2 年 川 瀬 翔 平 経 済 政 策 コース 2 年 佐 藤 直 人 経 済 政 策 コース 2 年 原 貴 紀

目 次 要 旨... iv 序 論... 1 1. 現 状 分 析... 2 1.1 日 本 における PFI の 現 状 : 日 本 の 行 政 は PFI に 消 極 的 ではない... 3 1.2 日 本 の 道 路 と PPP: 日 本 の 道 路 行 政 は 道 路 PPP に 積 極 的 とは 言 い 難 い... 4 1.3 社 会 経 済 状 況 の 見 通 し: 予 算 の 削 減 や 公 共 部 門 の 縮 小 といった 状 況 下 で 道 路 イ ンフラの 老 朽 化 に 対 処 しなければならない... 6 1.4 小 括 : 道 路 事 業 への 民 間 関 与 を 現 実 的 な 選 択 肢 として 検 討 する 必 要 がある... 10 2. PFI 導 入 への 制 約 と 可 能 性... 11 2.1 法 律 行 政 上 の 課 題 : 日 本 の 道 路 行 政 は PFI を 想 定 していない... 11 2.2 経 済 的 課 題 : 日 本 の 道 路 PFI は 検 証 を 要 するものの VFM を 達 成 しうる... 16 2.3 道 路 PFI の 実 現 の 可 能 性 : 日 本 の 道 路 PFI は 維 持 修 繕 業 務 において 有 効... 17 2.4 小 括 : 問 題 は 法 制 度 上 のハードルを 乗 り 越 えるだけの 効 果 が 道 路 維 持 管 理 PFI に 見 込 めるか... 19 3. 道 路 維 持 管 理 業 務 への PFI 導 入 効 果 と 実 務 上 の 課 題... 20 3.1. VFM の 源 泉 : 道 路 維 持 管 理 業 務 が VFM をもたらす 5 つの 要 素... 20 3.2. 他 分 野 における PFI 事 業 : 廃 棄 物 PFI はなぜ 項 調 に 導 入 が 行 われたのか... 27 3.3. 道 路 維 持 管 理 PFI 導 入 への 環 境 整 備 : 法 制 度 の 改 正 だけでは PFI は 導 入 できない... 29 3.4. 小 括 : 道 路 維 持 管 理 事 業 への PFI 導 入 は 実 務 上 の 課 題 の 解 決 が 鍵... 30 4. 道 路 維 持 管 理 PFI の 普 及 へ 向 けて... 32 4.1. 標 準 化 プロジェクトの 検 討 : 道 路 維 持 管 理 業 務 の 中 期 包 括 的 な 民 間 委 託... 33 4.2. 道 路 維 持 管 理 PFI 推 進 プログラム: 道 路 PFI 導 入 へ 向 けた 戦 略 的 な 取 組 として... 40 5. まとめ... 43 参 考 文 献... 44 謝 辞... 47 インタビューにご 協 力 頂 いた 方 々... 47 ii

補 論 PFI 全 般 の 課 題... 49 A.1 報 告 されている 課 題... 49 A.2 指 摘 されている 課 題 への 対 応... 50 付 表 ポーツマス 市 道 路 維 持 管 理 PFI における 業 務 分 担... 52 iii

要 旨 日 本 の 道 路 は 将 来 の 社 会 経 済 情 勢 の 変 化 を 乗 り 切 るために その 事 業 への 民 間 関 与 を さらに 進 めていくことが 必 要 である しかしながら 今 日 まで 公 共 部 門 の 責 任 においてそ の 整 備 が 図 られてきた 日 本 の 道 路 には PPP/PFI といった 包 括 的 な 民 間 関 与 を 推 進 する 上 で 様 々な 実 務 上 のボトルネックが 存 在 することも 事 実 であろう そこで 本 稿 では 道 路 の 維 持 管 理 業 務 における PFI 導 入 の 可 能 性 を 検 討 することを 通 じて 日 本 の 道 路 事 業 への PFI 導 入 の 効 果 を 探 り その 意 義 について 考 察 する 本 稿 の 主 たる 提 案 は 道 路 維 持 管 理 業 務 における 性 能 規 定 に 基 づいた 長 期 包 括 委 託 を PFI の 枠 組 みによって 実 施 するために そ の 標 準 的 なプロジェクトの 枠 組 みの 提 示 及 び 当 該 事 業 に 係 る 実 務 経 験 を 効 果 的 に 積 み 上 げるための 推 進 プログラムを 通 じた 民 間 関 与 の 拡 大 へのロードマップの 提 示 である 日 本 でも 制 度 導 入 から 10 年 が 経 過 し イギリスと 比 較 しても 遜 色 ないといえるほど 様 々 な 事 業 について PFI の 導 入 が 図 られてきた しかし 長 らく 政 府 が 主 体 的 に 整 備 を 行 ってき た 道 路 事 業 においては イギリスとは 対 照 的 に PFI をはじめとする 民 間 関 与 の 手 法 はほと んど 導 入 されていない この 事 実 自 体 は 問 題 ではないと 考 えられるものの 日 本 の 道 路 が 将 来 直 面 しうる 顕 著 な 課 題 として 財 政 制 約 への 対 応 : 財 政 赤 字 の 拡 大 と 特 定 財 源 の 廃 止 道 路 公 団 の 民 営 化 インフラの 老 朽 化 : 高 度 成 長 期 に 建 設 した 道 路 インフラの 修 繕 更 新 公 共 部 門 の 縮 小 : 公 務 員 の 削 減 と 外 部 委 託 の 推 進 によるノウハウの 喪 失 という 点 がある 今 後 道 路 インフラの 老 朽 化 によって 維 持 修 繕 の 重 要 性 が 高 まっていく ことが 考 えられる 事 実 道 路 特 定 財 源 は 一 般 財 源 化 され 道 路 公 団 は 民 営 化 されたこと で 政 府 が 道 路 整 備 のために 優 先 的 に 用 いることができる 財 源 は 限 定 的 なものとなってい る また 財 政 赤 字 が 累 増 するなかでその 予 算 確 保 はさらに 困 難 になっていくと 考 えられ ることに 加 え この 業 務 を 支 えるべき 公 共 部 門 の 人 材 は 減 尐 を 続 けることが 考 えられる つまり 道 路 の 整 備 や 維 持 管 理 の 全 てを 政 府 が 実 施 し 続 けることはかなり 困 難 になってい くと 考 えられる しかしながら 日 本 においては 近 年 まで 公 共 部 門 が 中 心 となって 道 路 の 整 備 管 理 を 行 ってきており それを 担 う 道 路 行 政 及 び 関 連 法 制 度 も 公 共 部 門 による 道 路 整 備 を 前 提 に 設 計 されている そのため 民 間 事 業 者 が 主 体 となって 道 路 の 整 備 及 び 管 理 を 行 うことに ついては 法 制 度 上 の 課 題 が 大 きいと 指 摘 されている 一 方 イギリスでは 行 政 組 織 や 法 制 度 も 民 間 関 与 の 拡 大 を 志 向 して 変 化 している 日 本 でも 法 制 度 の 障 害 を 乗 り 越 えて 道 路 PFI を 導 入 するのであれば それに 見 合 う 効 果 があるかを 吟 味 する 必 要 があろう iv

現 状 と 今 後 の 見 通 しを 鑑 みた 際 道 路 管 理 へのリソースを 確 保 することは 喫 緊 の 課 題 で あり これに 対 して PFI に 代 表 される 民 間 関 与 の 方 策 は 潜 在 的 な 解 決 策 となりうる PFI を 導 入 する 上 では 以 下 の PFI の 特 徴 から 発 生 する VFM(Value for Money)の 発 生 が 前 提 と なる 性 能 発 注 : 性 能 規 定 に 基 づく 民 間 事 業 者 の 創 意 工 夫 の 活 用 長 期 包 括 契 約 :ライフサイクルコストの 最 小 化 へのインセンティブ 付 け リスク 分 担 と 業 績 連 動 支 払 い: 民 間 事 業 者 が 負 えるリスクの 移 転 競 争 原 理 : 高 い 応 札 コストと 透 明 な 手 続 きによる 競 争 性 の 確 保 道 路 PFI については イギリスの DBFO をはじめとする 諸 外 国 の 事 例 の 蓄 積 があり その 知 見 を 活 用 できる また 日 本 でも PFI ではないものの 包 括 委 託 や 性 能 規 定 の 導 入 指 定 管 理 者 制 度 に 基 づく 長 期 契 約 という 形 での 民 間 関 与 の 事 例 が 蓄 積 されつつある しかし ながら 既 に 述 べたように 道 路 管 理 業 務 は 様 々な 側 面 によって 特 徴 付 けられており 全 ての 業 務 に 対 して 無 差 別 に PFI を 導 入 することが 有 効 であるかについては 議 論 の 余 地 があ ろう 既 存 の 取 組 をはじめとする 事 例 を 踏 まえた 場 合 日 本 では 道 路 維 持 管 理 業 務 への 性 能 発 注 に 基 づいた 長 期 包 括 的 な 委 託 の 導 入 が 社 会 的 要 請 も 大 きく 効 果 も 期 待 できると 考 えられる しかしながら 道 路 事 業 に PFI を 導 入 するためには 実 際 に 道 路 PFI 事 業 を 運 用 する 上 で 遭 遇 するであろう 以 下 の 障 害 への 対 応 を 検 討 する 必 要 がある (i) 性 能 規 定 のための 事 例 蓄 積 (ii) 官 民 リスク 分 担 協 力 体 制 の 方 法 論 確 立 (iii) リスク 評 価 へ 向 けたデータ 蓄 積 本 稿 では これらを 解 決 する 手 段 として 標 準 化 プロジェクトによる 推 進 プログラムの 導 入 を 提 案 している 提 案 する 標 準 化 プロジェクトは 国 道 16 号 線 保 土 ヶ 谷 バイパスの 維 持 工 事 で 実 施 されている 包 括 委 託 よりも 長 期 間 であり かつ 性 能 規 定 に 基 づいたものである しかしながら イギリス ポーツマス 市 における 道 路 維 持 管 理 PFI 契 約 のような 超 長 期 か つ 資 金 調 達 を 含 む 複 雑 な 事 業 を 想 定 するものではない 公 共 側 としても 発 注 へのハード ルがある 程 度 低 い 事 業 を 設 計 することで その 導 入 を 容 易 にすることが 狙 いである 具 体 的 な 内 容 としては 3 年 から 5 年 程 度 の 維 持 巡 回 業 務 の 委 託 ひび 割 れ わだち 掘 れ 平 たん 性 及 び 障 害 物 処 理 の 4 点 に 係 る 性 能 規 定 の 導 入 天 災 制 度 変 更 管 理 瑕 疵 責 任 の 一 部 を 除 くリスクの 移 転 によって 特 徴 づけることができる 道 路 維 持 管 理 PFI 推 進 プログラムは 道 路 維 持 管 理 業 務 へ の PFI 導 入 へのボトルネックに 効 率 的 に 対 処 する 目 的 で 導 入 するものであり 以 下 の 3 点 の 取 組 によって 構 成 される v

性 能 規 定 の 試 験 的 導 入 とその 評 価 に 基 づくガイドラインの 策 定 業 務 実 施 体 制 に 関 する PFI 方 式 と 従 来 方 式 との 比 較 と PFI モデルの 提 示 データの 蓄 積 と 分 析 を 通 じた 性 能 規 定 リスク 分 担 に 関 する 方 針 の 決 定 プログラムの 目 的 は 当 初 は 国 が 維 持 管 理 PFI の 発 注 を 行 い データ 収 集 やガイドライン 策 定 を 行 うことであり その 効 果 として 長 期 的 に 地 方 公 共 団 体 の 維 持 管 理 PFI 事 業 導 入 への ハードルを 下 げていくことが 期 待 できる vi

序 論 1999 年 9 月 に 民 間 資 金 等 の 活 用 による 公 共 施 設 等 の 整 備 等 の 促 進 に 関 する 法 律 ( 平 成 11 年 法 律 第 117 号 以 下 PFI 法 ) が 施 行 されてから 10 年 が 経 過 した この 間 多 くの PFI 事 業 が 実 施 され その 目 的 である 民 間 の 資 金 能 力 を 活 用 した 公 共 サービスの 提 供 が 行 われてきた 日 本 における PFI は 学 校 や 病 院 庁 舎 等 で 広 く 導 入 が 行 われているものの 道 路 に 代 表 される 経 済 インフラへの 導 入 は 未 だなされていないのが 事 実 である しかしな がら 予 算 の 削 減 や 維 持 管 理 需 要 の 増 大 それを 担 う 公 共 部 門 への 縮 小 圧 力 といった 今 後 の 社 会 経 済 情 勢 を 鑑 みた 際 道 路 事 業 への PFI 導 入 は 十 分 検 討 に 値 する 選 択 肢 だと 考 えられ る しかしながら 日 本 は 近 年 に 至 るまで 公 共 部 門 が 道 路 ネットワークの 整 備 管 理 を 全 面 的 に 担 っており 法 制 度 や 行 政 組 織 もそれに 対 応 した 構 造 が 形 成 されている このような 現 状 の 下 で イギリスで 生 まれた 制 度 である PFI という 手 法 を 道 路 事 業 に 導 入 することは 容 易 なことではない 今 日 に 至 るまで 道 路 事 業 における PFI 事 業 が 実 施 されてこなかったとい う 事 実 はその 大 きな 証 拠 ともいえるだろう 日 本 の 道 路 行 政 制 度 を 所 与 としたときに 日 本 に 道 路 PFI を 導 入 するために 取 り 組 むべき 課 題 は 多 い それでもなお 道 路 PFI の 導 入 を 推 進 するのであれば 道 路 事 業 への PFI 導 入 がどのような 効 果 を 発 揮 するのか つまり 一 般 的 に 言 われる VFM の 達 成 が 道 路 事 業 においても 可 能 であるのかを 示 す 必 要 がある また それらの 効 果 を 発 揮 させるための 課 題 を 整 理 していくことで 道 路 PFI の 導 入 を 具 体 的 に 論 じていくことが 出 来 るだろう 本 稿 では 道 路 維 持 管 理 事 業 の 性 能 発 注 による 長 期 包 括 的 な 民 間 委 託 について PFI に よって 推 進 する 政 策 パッケージの 導 入 を 提 唱 することを 目 的 とする 以 下 では 第 1 章 にお いて 日 本 の PFI 日 本 の 道 路 PFI 及 び 日 本 の 社 会 経 済 情 勢 の 見 通 しを 分 析 することで 道 路 事 業 への PFI 導 入 の 検 討 が 不 可 避 であることを 示 す 第 2 章 において 日 本 における 道 路 PFI を 導 入 するうえでの 制 約 として 道 路 行 政 制 度 と VFM の 達 成 可 能 性 について 考 察 し 制 度 的 経 済 的 に 道 路 PFI の 導 入 が 有 効 な 分 野 として 一 般 道 の 維 持 管 理 業 務 を 提 示 する 第 3 章 では 一 般 道 の 維 持 管 理 業 務 への PFI 導 入 が VFM を 達 成 可 能 であることを 示 し 続 く 第 4 章 において 維 持 管 理 業 務 への 道 路 PFI 導 入 を 推 進 する 方 策 として 道 路 維 持 管 理 PFI に 関 する 標 準 化 プロジェクトと 推 進 プログラムの 導 入 を 提 唱 し その 具 体 的 な 内 容 を 検 討 する 1

1. 現 状 分 析 PFI(Private Finance Initiative:プライベート ファイナンス イニシアティブ) は 英 国 で 生 まれた 新 しい 公 共 事 業 の 手 法 であり その 目 的 としては 良 質 の 公 共 サービスをよ り 尐 ない 税 金 で 提 供 することがあげられている 国 や 地 方 公 共 団 体 等 が 直 接 実 施 するより も 民 間 事 業 者 が 実 施 することで 効 率 的 かつ 効 果 的 に 公 共 サービスを 提 供 できる 事 業 につい て PFI 手 法 を 用 いて 実 施 することで 事 業 の VFM を 最 大 化 することができる PFI の 事 業 は 一 般 に 以 下 に 示 すような 枠 組 みで 実 施 される 図 1 一 般 的 な PFI 事 業 のスキーム ( 出 典 )PFI アニュアルレポート( 平 成 20 年 度 ) まず 選 定 された 民 間 事 業 者 は 事 業 を 実 施 する 主 体 となる SPC( 特 別 目 的 会 社 )を 設 立 する 次 に SPC は 発 注 者 である 事 業 実 施 主 体 ( 公 共 施 設 の 管 理 者 等 )と PFI 事 業 契 約 を 締 結 し 事 業 に 着 手 する SPC は 施 設 整 備 については 建 設 会 社 等 に 維 持 管 理 や 運 営 業 務 はそれぞれの 専 門 会 社 に 業 務 を 発 注 する 整 備 に 必 要 な 資 金 は 金 融 機 関 などから 調 達 し 事 業 実 施 主 体 等 から 支 払 われるサービス 提 供 の 対 価 の 一 部 を 返 済 に 充 てる この 際 要 求 水 準 通 りのサービスを 提 供 することができなければ サービス 対 価 の 減 額 が 行 われる なお 事 業 の 実 施 に 際 しては 事 業 の 破 綻 を 避 けるために 金 融 機 関 等 と 事 業 実 施 主 体 の 間 で 直 接 協 定 が 結 ばれる PFI は Private Finance Initiative という 名 前 が 示 すとおり 民 間 事 業 者 が 事 業 に 係 る 資 金 調 達 を 行 うことが 大 きな 特 徴 の 一 つである この 際 各 PFI 事 業 はプロジェクトファイナン スによって 資 金 調 達 が 行 われることから 金 融 機 関 が 事 業 内 容 や 運 営 に 関 して 果 たす 役 割 は 非 常 に 大 きい 従 来 型 の 公 共 事 業 では 公 共 部 門 が 資 金 調 達 を 行 うのに 比 べ PFI 事 業 では 民 間 事 業 者 が 資 金 調 達 を 行 うため PFI による 資 金 調 達 コストは 従 来 型 公 共 事 業 よりも 高 く 2

案 件 数 事 業 費 / 契 約 額 合 計 ( 百 万 ポンド/ 億 円 ) なるのが 通 常 であるが これは 民 間 部 門 が 中 心 となって 公 共 サービスの 提 供 を 行 う PFI 事 業 に 特 有 のリスクを 管 理 するコストとも 考 えることができる 1.1 日 本 における PFI の 現 状 : 日 本 の 行 政 は PFI に 消 極 的 ではない 2008 年 度 末 までに PFI の 実 施 方 針 が 公 表 された 事 業 は 国 地 方 公 共 団 体 等 を 合 わせて 339 件 にのぼり その 事 業 費 も 3 兆 円 に 上 っている( 図 2 参 照 ) 案 件 の 増 加 ペースについ ても 実 施 方 針 の 公 表 は 40~50 件 / 年 度 で 安 定 的 に 推 移 している 事 業 分 野 については 内 閣 府 が 公 表 している 8 分 類 では 教 育 と 文 化 ( 学 校 図 書 館 美 術 館 ホール 等 ) が 108 事 業 と 最 も 多 く 次 いで 健 康 と 環 境 ( 病 院 斎 場 浄 化 槽 等 ) が 61 事 業 庁 舎 と 宿 舎 が 47 事 業 で 続 いている 近 年 庁 舎 と 宿 舎 の 占 める 割 合 が 増 加 している 1 図 2 日 本 と 英 国 における PFI の 導 入 状 況 80 60,000 60 45,000 40 30,000 20 0 1992 1995 1996 1997 イギリス 案 件 数 イギリス 契 約 金 額 合 計 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 日 本 案 件 数 日 本 事 業 費 合 計 15,000 ( 出 典 )PFI アニュアルレポート イギリス 財 務 省 資 料 より 作 成 0 日 本 は 1990 年 代 の 財 政 悪 化 により 公 共 事 業 削 減 に 対 する 圧 力 が 強 まる 一 方 景 気 刺 激 策 としての 公 共 事 業 に 対 する 要 請 が 根 強 いことなどを 背 景 に PFI に 対 する 関 心 が 高 まって いた 橋 本 内 閣 の 下 で 公 共 事 業 費 の 削 減 や 中 央 省 庁 の 再 編 等 の 行 政 改 革 が 取 り 組 まれたも のの 公 共 事 業 そのものに 対 する 改 革 は 限 定 的 なものにとどまった PFI は 官 と 民 のあり 1 PFI 推 進 委 員 会 PFI アニュアルレポート( 平 成 20 年 度 ) より 3

方 の 抜 本 的 な 見 直 しを 含 む 公 共 事 業 そのものの 改 革 が 不 可 欠 であるという 認 識 が 次 第 に 持 たれるようになったなかで 導 入 されたものである PFI の 日 本 への 導 入 を 進 めていく 上 での 制 度 面 での 手 当 てについても PFI 推 進 委 員 会 で の 取 組 を 中 心 に 様 々な 対 策 が 取 られている しかしながら PFI 事 業 の 様 々な 段 階 において 数 多 くの 課 題 が 指 摘 されているのも 事 実 である 2 1.1.1 イギリスでの PFI PFI の 母 国 であるイギリスにおける PFI の 導 入 実 績 は 2008 年 時 点 で 約 600 件 契 約 総 額 も 約 600 億 ポンドに 達 している 案 件 の 増 加 ペースは 年 間 50 件 前 後 で 推 移 している 特 に 導 入 が 進 んでいる 分 野 として 交 通 病 院 防 衛 及 び 学 校 があげられる イギリスで PFI が 導 入 されたのは 1992 年 に 当 時 のノーマン ラモント 大 蔵 大 臣 の 提 唱 を 受 けてのものである この 背 景 としては 1980 年 代 を 通 じて 行 われた 一 連 の サッチャ ー 改 革 の 影 響 が 大 きく PFI は 1980 年 代 に 行 われた 大 胆 な 民 営 化 プロセスの 延 長 線 上 に あるものといえる それゆえに PFI においても サッチャー 政 権 下 で 取 り 組 んできた 様 々 な 行 政 改 革 の 成 果 や 教 訓 が 生 かされている 今 日 まで PFI の 公 共 サービスの 提 供 を 民 間 に 委 ねる という 新 しい 手 法 の 定 着 に 向 け て 多 くの 取 り 組 みが 政 府 によって 行 われてきた 1994 年 に 大 蔵 省 によって 導 入 された ユ ニバーサル テスティング は 公 共 事 業 に PFI の 適 用 可 能 性 の 検 討 を 義 務 付 け これを 契 機 に PFI の 導 入 は 飛 躍 的 に 進 むこととなった 実 務 上 の 課 題 についても 大 蔵 省 や 各 省 庁 の PFI 担 当 部 局 でのガイドラインや 標 準 契 約 書 (SoPC 4, Standardization of PFI Contract Ver. 4) の 策 定 といった 取 組 が 進 められている さらに Partnerships UK や Local Partnerships といっ た 支 援 組 織 の 役 割 も 大 きい 日 本 とイギリスとの 間 で PFI を 巡 る 現 状 を 比 較 した 際 のポイントは 以 下 の 3 点 である (1) 件 数 金 額 ベースで 評 価 した 場 合 日 本 の PFI 導 入 はイギリスのそれと 比 較 して 必 ずしも 遅 れているわけではない (2) PFI の 導 入 がなされている 分 野 は 日 本 とイギリスとで 尐 なからず 異 なり 道 路 はその 代 表 的 なものの 一 つ (3) 制 度 全 体 にかかる 環 境 整 備 や 推 進 体 制 の 整 備 は 圧 倒 的 にイギリスが 先 行 1.2 日 本 の 道 路 と PPP: 日 本 の 道 路 行 政 は 道 路 PPP に 積 極 的 とは 言 い 難 い 日 本 における 道 路 事 業 への PPP 導 入 は 道 半 ばである PPP の 手 法 としては PFI のみなら ず 指 定 管 理 者 制 度 やコンセッション 民 営 化 等 も 含 まれるが 2009 年 時 点 における 道 路 事 業 において このような 取 組 みは 極 めて 稀 である 前 節 で 示 したとおり 道 路 事 業 を 対 象 とした PFI 事 業 について 実 施 方 針 が 公 表 された 事 2 PFI 全 般 の 課 題 については 補 論 PFI 全 般 の 課 題 を 参 照 4

例 は 2009 年 末 時 点 で 存 在 しない 一 部 の 道 路 事 業 について 導 入 可 能 性 を 検 討 された 例 が あるものの 実 施 方 針 の 公 表 には 至 らなかったようである 3 また 地 方 公 共 団 体 が 管 理 す る 道 路 は 地 方 自 治 法 に 規 定 される 公 の 施 設 として 指 定 管 理 者 制 度 の 対 象 となるが 地 方 公 共 団 体 の 中 には 道 路 は 指 定 管 理 者 制 度 の 対 象 から 除 外 しているものも 尐 なくない 道 路 公 団 は 民 営 化 され 高 速 道 路 会 社 になったものの 現 状 は 政 府 が 全 額 出 資 しており 株 式 会 社 化 という 表 現 が 現 実 をより 反 映 している また 制 度 上 は 高 速 道 路 会 社 や 地 方 道 路 公 社 はコンセッションと 解 釈 することも 可 能 であるが その 事 業 運 営 に 関 する 最 終 的 な 責 任 が 公 共 部 門 に 帰 属 してしまう 恐 れがあるため これをフランス 等 で 実 施 されているコ ンセッション 方 式 とは 区 別 して 考 える 必 要 がある 表 1 道 路 事 業 への PFI 導 入 可 能 性 検 討 実 績 発 注 者 事 業 概 要 茨 城 県 静 岡 県 掛 川 市 有 料 道 路 事 業 市 道 掛 川 東 環 状 線 整 備 上 曽 トンネル 朝 日 峠 トンネル 霞 ヶ 浦 2 橋 ( 仮 称 )の3 路 線 で 可 能 性 を 検 討 東 環 状 線 は 東 名 高 速 道 路 の 掛 川 IC 付 近 から 同 市 東 部 工 業 団 地 付 近 を 結 ぶ4 車 線 の 都 市 計 画 道 路 大 阪 府 有 料 道 路 橋 有 料 道 路 事 業 について 事 業 モデルを 検 討 し シミュレー ションを 実 施 しているがVFMは 見 込 みにくいと 判 断 実 際 にPFIを 実 施 する 場 合 道 路 公 社 との 兼 ね 合 いや 現 行 の 道 路 整 備 特 別 措 置 法 により 事 業 者 となる 民 間 企 業 の 自 由 度 が 制 限 されることなどの 問 題 をクリアしなければならない 広 島 市 平 和 大 橋 西 平 和 大 橋 緑 大 橋 3 橋 架 け 替 え 基 本 方 針 では 平 和 大 橋 と 西 平 和 大 橋 について 世 界 的 な 彫 刻 家 イサム ノグチ 氏 により 高 欄 がデザインされてい ることを 踏 まえ 芸 術 的 価 値 や 歴 史 的 価 値 から 別 の 場 所 での 保 存 方 法 を 検 討 し 新 たな 橋 のデザインを 現 高 欄 の デザインコンセプトを 継 承 したものにするとしている 長 崎 県 長 大 橋 梁 建 設 事 業 延 長 200メートル 以 上 の 橋 梁 事 業 等 が 対 象 ( 出 典 ) 野 田 (2004) 3 野 田 (2004) p.193 5

表 2 道 路 事 業 を 指 定 管 理 者 の 対 象 外 としている 例 自 治 体 柏 原 市 山 口 市 概 要 河 川 道 路 学 校 など 個 別 法 でその 管 理 を 規 定 している 施 設 を 除 く 以 下 の 施 設 を 対 象 外 としている 1 種 々の 施 設 が 一 体 となって 公 の 施 設 を 構 成 しており 個 々の 業 務 を 個 別 に 外 部 委 託 する 方 が 効 果 的 な 施 設 ( 例 ) 水 道 公 共 下 水 道 農 業 集 落 排 水 処 理 施 設 2 市 民 の 利 用 に 使 用 許 可 を 必 要 としない 施 設 で 指 定 管 理 者 制 度 を 導 入 しても 利 用 者 の 増 加 や 経 費 の 縮 減 等 が 見 込 めないもの ( 例 ) 市 道 準 用 河 川 駐 車 場 3 行 政 判 断 等 により 市 が 直 接 使 用 許 可 を 行 う 必 要 のある 施 設 で 指 定 管 理 者 制 度 を 導 入 しても 利 用 者 の 増 加 や 経 費 の 節 減 等 が 見 込 めないもの ( 例 ) 市 営 住 宅 公 園 ( 出 典 ) 土 木 学 会 (2008a)より 作 成 1.2.1 イギリスの 道 路 PPP イギリスでは 有 料 道 路 DBFO 維 持 管 理 への PFI MAC による 包 括 委 託 等 様 々な 形 で 道 路 事 業 への 民 間 関 与 を 進 めている イギリスでの 道 路 事 業 への 民 間 関 与 の 最 も 初 期 の 形 態 は 民 間 事 業 者 による 有 料 道 路 の 建 設 であった イギリスでは 一 般 的 に 高 速 道 路 は 料 金 徴 収 を 行 わないが 橋 やトンネルにつ いては 例 外 的 に 料 金 徴 収 が 行 われてきた 1980 年 代 には ロンドン 郊 外 の Queen Elizabeth II 世 橋 やブリストル 近 郊 の Second Severn 橋 について 民 間 主 体 が 事 業 者 となって 建 設 が 行 われ た 1990 年 代 には 橋 以 外 の 道 路 として バーミンガム 郊 外 における M6 Toll が 民 間 運 営 の 有 料 道 路 として 建 設 されている イギリスにおける 道 路 PFI は 主 として DBFO(Design, Build, Operate, and Finance)という 形 式 で 実 施 される DBFO は 1996 年 に Tranche 1 と 呼 ばれる 4 つの 事 業 について 試 験 的 に 導 入 され 2008 年 度 末 時 点 で 22 件 総 延 長 1,102km のプロジェクトについて DBFO による 整 備 が 行 われている DBFO では 公 共 部 門 がサービス 対 価 を 民 間 に 支 払 うため 通 行 者 は 直 接 料 金 を 負 担 しないことが 一 つの 特 徴 である 既 存 の 道 路 の 維 持 管 理 についても 民 間 関 与 が 拡 大 している ポーツマスでは 市 内 の 主 要 な 道 路 について 維 持 修 繕 を PFI 契 約 によって 民 間 に 委 託 した また MAC と 呼 ばれる 民 間 事 業 者 に 長 期 包 括 的 に 維 持 管 理 業 務 を 委 託 す る 契 約 方 式 の 導 入 が 進 められている 1.3 社 会 経 済 状 況 の 見 通 し: 予 算 の 削 減 や 公 共 部 門 の 縮 小 といった 状 況 下 で 道 路 インフラの 老 朽 化 に 対 処 しなければならない 国 によって 事 情 は 様 々であり イギリスで 道 路 PFI が 進 んでいるからといって 日 本 で 道 路 PFI を 実 施 しなければならないという 理 由 はない しかしながら 日 本 が 今 後 直 面 する 社 会 6

投 資 額 ( 億 円 ) 経 済 情 勢 は 道 路 事 業 への PFI をはじめとする 民 間 関 与 の 拡 大 を 検 討 していく 必 要 があるだ ろう 1.3.1 道 路 予 算 の 減 尐 現 在 までも 道 路 への 投 資 は 減 尐 を 続 けてきたが 今 後 さらに 道 路 への 投 資 水 準 が 低 下 す る 可 能 性 が 高 い 道 路 投 資 額 は 1998 年 の 約 15.3 兆 円 をピークに 減 尐 を 続 け 2008 年 度 に は 7.8 兆 円 となっている( 図 3 参 照 ) 加 えて 従 来 まで 道 路 整 備 については 道 路 特 定 財 源 を 通 じた 手 当 てがなされてきたものの これが 平 成 21 年 度 から 一 般 財 源 化 されることとな った 図 3 道 路 投 資 額 の 推 移 180,000 160,000 140,000 120,000 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 0 平 成 元 3 5 7 9 11 13 15 年 度 17 19 一 般 道 路 事 業 有 料 道 路 事 業 地 方 単 独 事 業 ( 出 典 ) 道 路 行 政 平 成 20 年 度 版 より 作 成 また 日 本 における PFI 導 入 の 一 つのきっかけでもあった 財 政 面 の 制 約 は この 10 年 で さらに 厳 しさを 増 している 2009 年 度 の 国 と 地 方 のプライマリーバランスは 対 GDP 比 マイ ナス 8.1%に 達 し 一 般 会 計 の 国 債 発 行 額 は 約 44 兆 円 に 達 した 国 と 地 方 の 長 期 債 務 残 高 は 816 兆 円 (GDP 比 169%)に 達 する 見 通 しとなっており 2010 年 度 予 算 では 財 政 支 出 がさら に 増 加 することが 見 込 まれることから 財 政 状 況 は 極 めて 厳 しい 状 態 が 継 続 する さらに 2009 年 には 直 轄 負 担 金 問 題 が 表 面 化 した 直 轄 負 担 金 とは 国 が 直 轄 で 行 う 事 業 について 地 方 公 共 団 体 がその 事 業 費 の 一 部 を 負 担 する 制 度 であり 建 設 費 については 3 分 の 1 を 維 持 管 理 費 については 10 分 の 4.5 が 地 方 負 担 となっている しかしながら 維 持 管 理 費 負 担 金 については 2010 年 度 には 一 部 を 除 いて 廃 止 することが 決 まり 建 設 費 負 担 金 についても 長 期 的 には 廃 止 する 方 向 で 制 度 改 正 が 行 われている 7

65 69 73 77 81 85 89 93 97 01 05 09 13 17 21 25 29 投 資 額 ( 兆 円 ) 以 上 のような 状 況 を 鑑 みた 際 今 後 の 日 本 において 道 路 投 資 は 減 尐 こそすれ 増 加 するこ とは 考 えにくい 道 路 投 資 の 必 要 性 が 無 くなっていく 中 で 投 資 額 が 減 尐 することに 問 題 は 無 いが 道 路 投 資 の 必 要 性 は 今 後 維 持 修 繕 や 改 修 といった 点 で 増 加 することが 見 込 まれ る 1.3.2 道 路 維 持 修 繕 需 要 の 増 加 日 本 において 道 路 をはじめとする 社 会 資 本 の 整 備 は 高 度 成 長 期 に 急 速 に 実 施 されたこ とから 今 後 老 朽 化 していく 既 存 の 社 会 資 本 ストックに 対 する 維 持 管 理 更 新 への 需 要 が 急 増 する 国 土 交 通 省 (2005)が 同 省 所 管 の 社 会 資 本 について 2030 年 までの 維 持 管 理 更 新 費 の 推 計 を 行 ったところ 社 会 資 本 の 維 持 管 理 費 は 2010 年 度 以 降 毎 年 約 4 兆 円 が 必 要 となり 2020 年 代 に 急 増 する 更 新 費 は 2029 年 度 に 3 兆 円 を 突 破 するとの 推 計 結 果 が 得 ら れた しかしながら 図 3 で 示 した 道 路 投 資 額 と 同 様 公 共 事 業 関 係 費 についても 1998 年 度 以 降 概 ね 減 尐 傾 向 にある このような 形 で 社 会 資 本 への 投 資 が 削 減 される 状 況 が 続 い た 場 合 社 会 資 本 ストックの 維 持 は 極 めて 困 難 なものとならざるを 得 ない 国 土 交 通 省 (2005)は 先 に 述 べた 社 会 資 本 の 維 持 管 理 更 新 費 の 推 計 に 関 連 して 社 会 資 本 への 投 資 可 能 総 額 が 減 尐 していくという 前 提 ( 国 : 3%/ 年 地 方 : 5%/ 年 )の 下 では 2022 年 度 以 降 新 規 投 資 はおろか 既 存 の 設 備 の 更 新 すら 不 可 能 となることを 指 摘 している( 図 4 参 照 ) 図 4 道 路 投 資 額 の 推 移 と 今 後 の 見 通 し 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 年 度 維 持 管 理 費 更 新 費 災 害 復 旧 費 新 設 ( 充 当 可 能 ) 費 ( 出 典 ) 国 土 交 通 省 (2007)より 作 成 8

道 路 ストックの 老 朽 化 に 関 連 して 大 きな 課 題 として 指 摘 されているのが 橋 梁 やトンネ ル 等 の 構 造 物 の 老 朽 化 である この 問 題 に 対 して 国 土 交 通 省 は 国 及 び 地 方 公 共 団 体 にお ける 道 路 橋 の 維 持 管 理 更 新 に 当 たっては 点 検 に 基 づいて 損 傷 が 軽 微 な 段 階 から 対 応 を 行 うことで 更 新 時 期 の 平 準 化 と ライフサイクルコストの 縮 減 を 図 る アセットマネジメ ントの 取 組 を 推 進 している しかしながら 総 務 省 が 2010 年 2 月 にとりまとめた 橋 梁 及 びトンネルを 中 心 とした 社 会 資 本 の 維 持 管 理 及 び 更 新 に 関 する 行 政 評 価 の 結 果 によれば 4 地 方 公 共 団 体 が 管 理 する 道 路 橋 に 対 するアセットマネジメントの 取 組 が 不 十 分 であること が 指 摘 されている また 小 澤 (2007)によれば 現 時 点 まで 維 持 修 繕 に 対 する 支 出 は 減 尐 傾 向 にある インフラストックの 絶 対 量 増 加 や 老 朽 化 の 進 行 に 伴 って 本 来 ならば 増 大 す るのが 自 然 な 維 持 修 繕 費 が 減 尐 しているのは 維 持 管 理 に 係 る 予 算 が 確 保 できないことを 示 唆 するものである 特 に 地 方 公 共 団 体 の 場 合 は 維 持 管 理 費 についてはほぼ 全 額 を 一 般 財 源 から 確 保 する 必 要 があるため 長 期 的 安 定 的 な 財 源 の 確 保 はより 困 難 になると 考 え られる このような 事 態 は アセットマネジメントの 取 組 を 困 難 にするとともに 将 来 的 に 健 全 な 道 路 ストックの 維 持 を 困 難 にしてしまう 可 能 性 がある 1.3.3 日 本 の 公 共 部 門 の 縮 小 さらに 大 きな 課 題 として 公 共 部 門 自 体 が 縮 小 していく 傾 向 のなかで 公 共 部 門 に 道 路 行 政 の 実 務 ノウハウが 継 承 されない 可 能 性 が 考 えられる 現 在 道 路 の 維 持 管 理 は 国 は 国 土 交 通 省 の 各 地 方 整 備 局 に 設 置 された 事 務 所 と 出 張 所 が 実 施 しており 地 方 公 共 団 体 に おいても 都 道 府 県 及 び 大 規 模 な 市 では 土 木 事 務 所 や 維 持 事 務 所 等 の 出 先 機 関 が 実 施 して いる しかしながら 地 方 公 共 団 体 の 道 路 維 持 管 理 体 制 は 不 十 分 であり 今 後 の 公 務 員 削 減 の 傾 向 はこれに 拍 車 をかける 可 能 性 があろう 直 轄 国 道 の 維 持 管 理 は 直 轄 維 持 修 繕 実 施 要 領 等 に 従 って 実 施 されており その 維 持 管 理 体 制 も 現 時 点 ではある 程 度 構 築 されている 5 しかしながら 維 持 管 理 に 係 る 具 体 的 な 業 務 は 請 負 や 委 託 を 通 じて そのほとんどが 民 間 事 業 者 によって 担 われているという 現 実 がある また 公 務 員 の 削 減 が 進 んだ 結 果 として 公 共 側 の 職 員 の 負 担 が 増 大 しており 具 体 的 な 業 務 に 関 するノウハウを 公 共 部 門 が 保 持 し 続 けることが 困 難 になっているといわ れている また 一 部 の 地 方 公 共 団 体 における 維 持 管 理 体 制 は 現 時 点 でも 不 十 分 である 土 木 学 会 によるアンケート 調 査 6 によれば 維 持 管 理 に 携 わる 技 術 職 員 は 都 道 府 県 政 令 指 定 都 市 及 び 多 くの 市 で 配 置 されているが 小 規 模 の 都 市 では 配 置 されていない 例 も 尐 なくない 点 検 は 小 規 模 都 市 では 全 く 実 施 されていないケースが 半 数 以 上 にのぼり 橋 梁 に 限 定 すれば 財 政 事 情 などを 理 由 に 定 期 点 検 を 実 施 していないところは 都 道 府 県 の 約 2 割 市 町 村 の 約 9 割 に 達 するという 維 持 管 理 に 関 する 中 長 期 的 な 計 画 についても 都 道 府 県 及 び 政 令 指 定 都 市 の 多 くでは 策 定 に 着 手 済 み 又 は 検 討 中 であるが 中 小 規 模 の 4 5 6 総 務 省 (2009) 小 沢 (2007) 土 木 学 会 (2005) pp.23-26. 9

都 市 のほとんどは 未 着 手 で その 見 込 みすら 立 っていない 状 況 にある これに 加 えて 公 務 員 の 削 減 が 道 路 維 持 管 理 等 を 担 う 公 共 部 門 の 人 的 資 源 をさらに 制 約 すると 考 えられる 国 家 公 務 員 の 定 数 削 減 は 昭 和 40 年 代 から 継 続 的 に 取 り 組 まれてきてお り 7 近 年 は 5 年 間 で 10%の 合 理 化 というペースで 定 数 削 減 が 行 われている 平 成 18 年 度 以 降 の 定 員 管 理 について においては 2005 年 度 から 2009 年 度 までの 5 年 間 で 10% 以 上 の 定 員 合 理 化 が 策 定 された また 現 在 は 経 済 財 政 改 革 の 基 本 方 針 2009( 平 成 21 年 6 月 23 日 閣 議 決 定 )に 基 づいて 2010 年 度 以 降 の 5 年 間 で 2009 年 度 末 比 10%の 合 理 化 を 削 減 というペースでの 人 員 抑 制 計 画 が 策 定 されている 8 地 方 公 務 員 についても これと 軌 を 一 にして 人 員 削 減 が 進 められ 団 塊 世 代 の 引 退 とともに 定 員 抑 制 を 進 めることが 謳 われてい る 1.4 小 括 : 道 路 事 業 への 民 間 関 与 を 現 実 的 な 選 択 肢 として 検 討 する 必 要 が ある 本 章 では PFI の 母 国 であるイギリスとの 比 較 を 通 じて 日 本 における PFI 導 入 の 現 状 を 整 理 し 道 路 事 業 への PFI 導 入 が 未 だなされていない 点 に 注 目 した もちろん 国 によってお かれている 状 況 は 様 々であり イギリスで 道 路 PFI が 導 入 されていることは 日 本 で 道 路 PFI を 導 入 すべきという 主 張 の 理 由 にはならない しかしながら 日 本 が 今 後 直 面 する 社 会 経 済 情 勢 は 道 路 事 業 への PFI をはじめとする 民 間 関 与 の 拡 大 を 検 討 していく 必 要 性 を 十 分 示 唆 するものである 7 1967 年 12 月 に 第 1 次 定 員 削 減 計 画 が 閣 議 決 定 されて 以 来 2000 年 7 月 まで 第 10 次 にわたる 定 員 削 減 計 画 が 策 定 されてきた 法 制 度 としても 1969 年 に 行 政 機 関 の 職 員 の 定 員 に 関 する 法 律 ( 昭 和 44 年 法 律 第 33 号 )によって 各 省 庁 別 に 定 められていた 定 員 を 政 令 で 定 めることとしている( 早 川,2006) 8 総 務 省 (2009) 10

2. PFI 導 入 への 制 約 と 可 能 性 前 章 で 整 理 した 日 本 における 道 路 PFI を 取 り 巻 く 現 状 と 今 後 の 見 通 しは 道 路 事 業 を 公 共 部 門 のみで 担 うことが 困 難 になりつつあることを 示 唆 するものであった しかしながら 道 路 事 業 を 取 り 巻 く 制 度 的 な 環 境 は 先 に 提 示 された 課 題 を 解 決 する 手 法 として 道 路 PFI を 導 入 することを 容 易 ならざるものとしているようである 特 に 道 路 事 業 への 民 間 関 与 に 対 する 法 律 的 行 政 的 な 側 面 からの 手 当 ては 極 めて 乏 しい しかしながら 維 持 修 繕 事 業 においては PFI の 必 要 性 が 大 きく またそれによって 見 込 まれる 経 済 的 なメリットも 小 さく ないと 思 われる 2.1 法 律 行 政 上 の 課 題 : 日 本 の 道 路 行 政 は PFI を 想 定 していない 日 本 においては 近 年 まで 公 共 部 門 が 中 心 となって 道 路 の 整 備 管 理 を 行 ってきた そ れを 担 う 道 路 行 政 及 び 関 連 法 制 度 も 公 共 部 門 による 道 路 整 備 を 前 提 に 設 計 されており 民 間 事 業 者 が 主 体 となって 道 路 の 整 備 及 び 管 理 を 行 うことが 想 定 されていない もちろん このような 道 路 行 政 制 度 が 戦 後 の 日 本 における 道 路 整 備 の 飛 躍 的 発 展 に 貢 献 してきたこ とは 事 実 である しかしながら その 2 つの 柱 である 道 路 特 定 財 源 制 度 と 有 料 道 路 制 度 が 大 きな 転 換 点 を 迎 えた 現 在 これに 代 わる 公 共 部 門 による 道 路 整 備 の 制 度 的 な 手 当 てが 弱 くなっていることもまた 事 実 である 一 方 イギリスでは 1980 年 代 以 降 道 路 事 業 への 民 間 関 与 を 拡 大 させてきた 行 政 組 織 や 法 制 度 も 民 間 関 与 の 拡 大 を 志 向 して 変 化 している その 背 景 として 公 共 部 門 単 独 で 公 共 サービスの 提 供 を 図 ることという 発 想 ではなく 公 共 部 門 の 限 界 を 踏 まえたうえで 民 間 部 門 の 能 力 をいかに 活 用 するかという 発 想 がベースにあることは 今 後 日 本 が 直 面 しう る 状 況 を 鑑 みた 際 示 唆 に 富 むポイントである 2.1.1 道 路 行 政 と 法 制 度 現 在 日 本 の 道 路 総 延 長 は 約 120 万 km に 達 し 国 土 面 積 の 約 3%が 道 路 に 供 されている 9 これらは 有 料 道 路 と 一 般 道 路 とに 分 けられ さらに 有 料 道 路 は 高 速 自 動 車 国 道 ( 高 速 道 路 ) と 一 般 有 料 道 路 とで 構 成 される また 一 般 道 路 は 一 般 国 道 と 地 方 道 とに 分 けられ 一 般 国 道 については 指 定 区 間 内 と 指 定 区 間 外 とに 分 かれる これらの 管 理 主 体 について 整 理 す ると 図 5 のようになる 日 本 における 道 路 行 政 は 道 路 法 をはじめとする 様 々な 法 律 によ って 規 律 されている 道 路 法 ( 昭 和 27 年 法 律 第 180 号 )は 道 路 に 関 する 基 本 法 であり その 管 理 体 系 占 用 保 全 及 び 管 理 に 係 る 費 用 負 担 区 分 等 が 定 められている 9 道 路 行 政 より なお ここでいう 道 路 は 道 路 法 上 の 道 路 に 限 るため 農 道 林 道 及 び 道 路 運 送 法 上 の 一 般 自 動 車 道 を 含 まない 11

図 5 日 本 の 道 路 の 種 別 種 別 管 理 者 総 延 長 (07 年 度 ) 道 路 公 共 部 門 1,203,770km 有 料 道 路 高 速 自 動 車 国 道 高 速 道 路 会 社 7,560km 都 市 高 速 道 路 首 都 高 速 道 路 会 社 ほか (720km) 一 般 有 料 道 路 高 速 道 路 会 社 地 方 道 路 公 社 ほか (1,971.9km) 一 般 道 路 一 般 国 道 指 定 区 間 国 22,787km 指 定 区 間 外 都 道 府 県 31,949km 地 方 道 都 道 府 県 道 都 道 府 県 129,393km 市 町 村 道 市 町 村 1,012,088km 道 路 法 以 外 の 道 路 民 間 事 業 者 など ( 一 般 自 動 車 道 323km ほか) 注 : 都 市 高 速 道 路 及 び 一 般 有 料 道 路 道 路 法 以 外 の 道 路 の 延 長 は 道 路 の 総 延 長 には 含 まない 日 本 の 道 路 はかつて 工 業 国 にして これ 程 完 全 にその 道 路 網 を 無 視 してきた 国 は 日 本 の 他 にない 10 と 指 摘 されるほど 道 路 の 整 備 が 立 ち 遅 れていた これを 現 在 の 姿 へと 飛 躍 的 に 発 展 させた 2 つの 制 度 として 道 路 特 定 財 源 と 有 料 道 路 制 度 の 存 在 が 指 摘 されてい る 11 道 路 特 定 財 源 は 揮 発 油 税 や 自 動 車 重 量 税 をはじめとする 自 動 車 関 連 諸 税 について その 使 途 を 道 路 整 備 に 限 定 することで 道 路 整 備 に 必 要 な 資 金 の 確 保 を 図 るものであった これは 社 会 資 本 整 備 事 業 特 別 会 計 道 路 整 備 勘 定 ( 旧 道 路 整 備 特 別 会 計 )に 繰 り 入 れられ るなどして 一 般 道 路 整 備 の 原 資 の 一 部 となった 有 料 道 路 制 度 については 道 路 整 備 特 別 措 置 法 によって 整 備 にかかる 費 用 を 利 用 者 の 料 金 徴 収 によって 回 収 するという 制 度 を 整 備 した 有 料 の 高 速 道 路 は 基 本 的 に 道 路 整 備 特 別 措 置 法 に 基 づいて 建 設 されており 高 速 道 路 ネットワークの 整 備 は 有 料 道 路 制 度 なくしては 実 現 できなかったといえるだろう < 道 路 の 管 理 > ここで 道 路 の 管 理 について 若 干 の 整 理 をしておく 道 路 法 は 道 路 管 理 行 為 について 国 及 び 地 方 公 共 団 体 が 行 うものと 規 定 している ここでいう 道 路 管 理 とは 道 路 管 理 者 が 行 う 道 路 に 関 する 工 事 行 為 等 のすべてを 含 むものであり これを 大 別 すると 以 下 のよう になる 10 ワトキンス 調 査 団 の 報 告 において 言 及 された(http://www.mlit.go.jp/common/000044521.pdf を 参 照 ) 11 道 路 行 政 平 成 20 年 度 版 p17 12

(i) 新 設 または 改 築 (ii) 維 持 修 繕 および 災 害 復 旧 (iii) その 他 の 管 理 (iii) その 他 の 管 理 に 含 まれる 業 務 としては 道 路 の 占 用 許 可 や 道 路 台 帳 の 管 理 等 が 挙 げら れている 12 また 道 路 の 巡 回 点 検 や 道 路 情 報 の 収 集 伝 達 等 は 具 体 的 な 手 続 きや 執 行 方 法 に 関 する 規 定 が 道 路 法 には 存 在 されていないものの 上 に 示 す 道 路 管 理 の 前 提 となるの で 道 路 管 理 の 範 疇 に 含 まれるものである これらについて 道 路 法 が 定 める 道 路 管 理 行 為 つまり 上 の (i) (ii) (iii) 全 てを 広 義 の 道 路 管 理 と (iii) その 他 の 管 理 を 狭 義 の 道 路 管 理 と 解 することができよう 以 下 本 稿 の 議 論 においては 特 に 断 りのない 限 り 道 路 管 理 及 び 道 路 の 管 理 という 用 語 は 狭 義 の 道 路 管 理 の 意 味 で 用 いる また (ii) の 維 持 修 繕 について 日 本 道 路 協 会 は 以 下 のような 区 分 を 行 っている 13 維 持 : 道 路 の 機 能 を 保 持 するために 行 われる 道 路 の 保 存 行 為 であって 一 般 に 日 常 計 画 的 に 反 復 して 行 われる 手 入 れ または 軽 度 な 修 理 修 繕 : 日 常 の 手 入 れでは 及 ばない 程 大 きくなった 損 傷 部 分 の 修 理 および 施 設 の 更 新 しかしながら 道 路 法 は 道 路 の 維 持 又 は 修 繕 に 関 して その 技 術 的 基 準 については 政 令 で 定 めるとしているものの この 政 令 は 現 在 まで 制 定 されていない 道 路 の 整 備 に 係 る 技 術 的 な 規 定 が 道 路 構 造 令 ( 昭 和 45 年 政 令 第 320 号 )において 規 定 されているのとは 対 照 的 である そのため 各 道 路 管 理 者 は 道 路 の 維 持 管 理 に 関 する 各 種 の 通 達 や 個 別 の 道 路 構 造 物 に 関 する 点 検 要 領 等 を 指 針 として 道 路 の 維 持 管 理 を 行 っている 14 < 道 路 特 定 財 源 制 度 > 2009 年 度 に 一 般 財 源 化 されたものの それまで 道 路 の 整 備 に 道 路 特 定 財 源 が 果 たしてき た 役 割 は 小 さくない 道 路 特 定 財 源 制 度 は 1953 年 に 道 路 整 備 費 の 財 源 等 に 関 する 臨 時 措 置 法 ( 昭 和 33 年 法 律 第 34 号 )が 制 定 され 揮 発 油 税 収 相 当 額 を 道 路 整 備 の 財 源 に 用 いる 旨 規 定 されたことを 嚆 矢 とする 2008 年 度 時 点 では 道 路 特 定 財 源 として 揮 発 油 税 に 加 え 石 油 ガス 税 (1966 年 創 設 ) 自 動 車 重 量 税 (1971 年 創 設 ) 及 び 地 方 道 路 譲 与 税 (1955 年 創 設 )が 国 税 として 軽 油 引 取 税 (1956 年 創 設 ) 及 び 自 動 車 取 得 税 (1967 年 創 設 )が 地 方 税 として 課 されている( 表 3 参 照 ) これらの 諸 税 は 社 会 資 本 整 備 事 業 特 別 会 計 道 路 整 備 勘 定 (2008 年 度 までは 道 路 整 備 特 別 会 計 )に 繰 り 入 れられるなどして 道 路 整 備 の 財 源 として 用 いられてきた しかしながら 道 路 特 定 財 源 については 小 泉 内 閣 における 構 造 改 革 の 流 れを 受 けて 見 直 しの 機 運 が 高 まり 2009 年 度 以 降 一 般 財 源 化 することが 決 定 され た 12 道 路 行 政 平 成 20 年 度 版 :pp.82-83 13 14 日 本 道 路 協 会 (1978) 小 沢 (2007) 13

国 税 地 方 税 表 3 道 路 特 定 財 源 の 一 覧 税 目 道 路 整 備 充 当 分 税 率 税 収 (08 年 度 ) 48.6 円 /l 揮 発 油 税 全 額 27,299 24.3 円 /l 石 油 ガス 税 自 動 車 重 量 税 地 方 道 路 譲 与 税 軽 油 引 取 税 自 動 車 取 得 税 収 入 額 の1/2( 残 りは 都 道 府 県 及 び 指 定 市 に 譲 与 ) 収 入 額 の 国 分 (2/3)の77.5%( 残 りは 市 町 村 に 譲 与 ) 全 額 (うち58/100を 都 道 府 県 及 び 指 定 市 に 42/100を 市 町 村 に 配 分 ) 全 額 ( 都 道 府 県 及 び 指 定 市 ) 全 額 (うち3/10を 都 道 府 県 及 び 指 定 市 に 7/10を 市 町 村 に 配 分 ) 17.5 円 /kg 6,300 円 /0.5t 年 2,500 円 /0.5t 年 ( 自 家 用 ) 5.2 円 /l 4.4 円 /l 32.1 円 /l 15.0 円 /l ( 自 家 用 ) 取 得 価 格 の5% 取 得 価 格 の3% 注 : 税 率 の 下 線 部 は 暫 定 税 率 であり 斜 字 部 が 本 則 税 率 を 示 す また 税 収 の 単 位 は 億 円 280 9,142 2,998 9,914 4,024 ( 出 典 ) 道 路 行 政 平 成 20 年 度 版 < 有 料 道 路 制 度 > 日 本 の 有 料 道 路 はそのほとんどが 高 速 道 路 会 社 によって 管 理 されている 有 料 道 路 制 度 は 主 に 道 路 整 備 特 別 措 置 法 ( 昭 和 31 年 法 律 第 7 号 ) 及 び 地 方 道 路 公 社 法 ( 昭 和 45 年 法 律 第 82 号 )によって 規 定 されており 有 料 道 路 の 整 備 主 体 として 日 本 道 路 公 団 ( 現 在 の 高 速 道 路 会 社 )が 1956 年 に 設 立 されている また 高 速 道 路 については 高 速 自 動 車 国 道 法 ( 昭 和 32 年 法 律 第 79 号 ) 及 び 国 土 開 発 幹 線 自 動 車 建 設 法 ( 昭 和 32 年 法 律 第 68 号 )によ ってその 整 備 計 画 管 理 等 の 事 頄 が 定 められており 2007 年 度 末 で 7,553kmにのぼる 日 本 の 高 速 道 路 ネットワーク 整 備 はこれらの 制 度 の 下 で 構 築 されてきたものである 日 本 道 路 公 団 は 2005 年 に 民 営 化 され 高 速 道 路 会 社 となった しかしながら この 背 景 には 道 路 公 団 民 営 化 が 小 泉 内 閣 における 特 殊 法 人 改 革 の 目 玉 として 行 われたという 側 面 が ある 15 最 終 的 には 政 府 が 全 額 出 資 する 高 速 道 路 会 社 が 道 路 の 建 設 と 維 持 管 理 を 行 い 債 務 の 償 還 と 道 路 の 保 有 は 高 速 道 路 保 有 債 務 返 済 機 構 が 行 う 上 下 分 離 によるコンセッシ ョン 方 式 による 民 営 化 が 実 施 されることとなった 2.1.2 課 題 の 背 景 道 路 PFI の 導 入 に 際 して 指 摘 される 法 制 度 上 の 問 題 点 は 実 際 の 事 業 運 営 に 際 して 民 間 事 業 者 は 具 体 的 に 何 ができ 何 ができないのかが 明 確 でないという 点 に 集 約 される 国 土 交 通 省 は 現 行 法 下 でも PFI による 道 路 事 業 に 制 約 が 無 いという 見 解 を 示 している しかしなが ら PFI 事 業 において 民 間 事 業 者 が 道 路 事 業 に 携 わる 上 で 直 面 しうる 問 題 の 全 てが 解 決 され 15 武 藤 (2008) 第 二 章 参 照 14

ているとはいえないようである 土 木 学 会 (2004)は 道 路 をはじめとするインフラ 事 業 への PFI 導 入 について 網 羅 的 な 検 討 を 加 えており これによれば 制 度 的 な 面 については 以 下 のポイントを 指 摘 している 16 公 物 管 理 法 管 理 者 責 任 と 賠 償 単 年 度 予 算 主 義 と 議 会 手 続 き 都 市 計 画 事 業 との 手 続 きの 整 合 性 入 札 契 約 方 式 この 中 で 道 路 法 などの 公 物 管 理 法 上 の 規 定 の 存 在 はインフラ 事 業 に 特 徴 的 な 論 点 である が 土 木 学 会 (2004)は 内 閣 府 (2003)による 公 権 力 の 行 使 に 係 る 部 分 を 除 いた 事 実 行 為 である 公 物 管 理 行 為 については PFI 事 業 者 が 行 いうるという 議 論 を 踏 まえ 管 理 権 限 の 有 無 が 道 路 PFI への 制 約 となっているわけではないとまとめている また これに 引 き 続 く 報 告 書 としてまとめられた 土 木 学 会 (2008a)でも 道 路 法 をはじめとする 公 物 管 理 法 上 の 規 定 はインフラ 事 業 への PFI 導 入 のボトルネックではないと 結 論 付 けている もちろん 賠 償 責 任 や 支 払 いに 係 る 予 算 措 置 等 実 際 に 事 業 を 実 施 していくに 際 して 生 ずる 問 題 について 民 間 事 業 者 がどの 範 囲 まで 対 応 可 能 か それについての 制 度 的 実 務 的 な 裏 付 けは 明 確 で ない 点 が 尐 なくない しかしながら これらは PFI 事 業 全 体 についていえる 課 題 であり こ れを 直 接 の 理 由 として 道 路 事 業 に PFI 導 入 ができないとする 理 由 は 根 拠 に 乏 しい 2.1.3 イギリスにおける 道 路 への 民 間 関 与 とその 背 景 イギリスにおける 道 路 事 業 への 民 間 関 与 拡 大 の 背 景 として 財 政 制 約 への 対 処 と それ に 伴 う 過 尐 投 資 の 解 消 という 点 があげられる さらに サッチャー 改 革 以 来 の 小 さな 政 府 の 追 求 や NPM として 整 理 された 成 果 主 義 や 顧 客 志 向 の 考 え 方 も 民 間 関 与 拡 大 の 背 景 をなすポイントであろう イギリスの 財 政 政 策 は サッチャー 政 権 及 びメージャー 政 権 下 では 財 政 再 建 が 最 大 の 目 標 であり その 実 現 のために 公 共 支 出 の 抑 制 を 続 けた ブ レア 政 権 以 降 は 公 的 借 入 を 投 資 的 支 出 に 限 定 すること(ゴールデン ルール) また 公 的 部 門 の 純 債 務 残 高 を 対 GDP 比 で 安 定 的 に 推 移 させること(サステナビリティ ルール)に よって 長 期 安 定 的 な 財 政 運 営 を 行 う 上 での 規 律 付 けを 行 っている 17 ブレア 政 権 は 社 会 資 本 整 備 への 重 点 的 な 資 源 配 分 も 提 唱 しているものの これらのルールは 道 路 事 業 への 財 政 支 出 に 対 して 十 分 な 制 約 となりうるものである HM Treasury は 1990 年 代 を 通 じてイギリ スの 道 路 への 投 資 が 他 の 先 進 諸 国 と 比 べて 極 めて 低 水 準 となっていたことを 指 摘 している これへの 対 応 として 2000 年 代 に 入 ると 交 通 10 箇 年 計 画 (2000 年 )や 交 通 の 将 来 (2004 年 )といった 計 画 を 通 じて 交 通 投 資 を 大 幅 に 増 加 させている PFI をはじめとする 民 間 関 与 手 法 は 上 に 述 べたような 財 政 上 のルールと 交 通 投 資 の 維 持 を 両 立 するために 有 効 な 16 17 土 木 学 会 (2004) pp.229-255 福 田 (2009) p379 15

政 策 手 段 であったと 考 えられる 18 イギリスにおける 道 路 事 業 への 民 間 関 与 の 拡 大 に 向 けて 制 度 面 での 対 応 もなされてい たことは 見 逃 せない 事 実 である イギリスは 日 本 と 法 体 系 が 異 なるため 道 路 PFI 導 入 に 際 して 法 律 上 の 規 定 の 存 在 がその 障 害 となることは 稀 なようである 19 しかしながら 有 料 道 路 事 業 の 運 営 を 包 括 的 に 民 間 事 業 者 に 委 任 する 際 には 1980 年 代 の 有 料 橋 事 業 については 特 別 法 の 1990 年 代 に 試 みられた 有 料 道 路 事 業 については New Roads and Street Works Act 1991 の 制 定 を 必 要 としている また 1994 年 には 道 路 事 業 の 所 管 自 体 を 交 通 省 (Department of Transport 現 Department for Transport)から 高 速 道 路 庁 (Highway Agency)に 移 管 するな ど 民 間 部 門 のノウハウを 活 用 するために 法 律 や 行 政 組 織 の 改 革 が 積 極 的 に 行 われている 道 路 PFI に 限 らない 問 題 についても 事 業 者 選 定 時 における 競 争 的 対 話 方 式 の 導 入 など PFI 制 度 をより 使 いやすいものにするための 制 度 改 正 が 活 発 に 行 われていることは 今 後 の 日 本 にさらに PFI を 根 付 かせていく 上 で 注 意 すべき 点 であろう 2.2 経 済 的 課 題 : 日 本 の 道 路 PFI は 検 証 を 要 するものの VFM を 達 成 し うる 道 路 事 業 に PFI が 導 入 されることには 一 定 の 経 済 的 メリットが 存 在 する イギリスにおけ る PFI をはじめとする 道 路 事 業 への 民 間 関 与 実 績 の 評 価 は その 一 つの 証 拠 となろう もち ろん これがそのまま 日 本 で 適 用 可 能 というわけではなく 検 証 が 求 められる しかしな がら イギリスでも 道 路 整 備 維 持 管 理 の 全 てを 完 全 に 民 間 に 任 せているわけではない 道 路 の 新 設 に 伴 う 用 地 需 要 変 動 リスクは 民 間 に 負 わせることが 困 難 であり VFM は 公 共 部 門 との 民 間 事 業 者 との 役 割 分 担 を 通 じて 達 成 されるものである 日 本 でも 道 路 PFI を 実 現 する 上 では 公 共 部 門 と 民 間 部 門 の 協 業 が 重 要 であろう 2.2.1 イギリスにおける 道 路 事 業 への 民 間 関 与 への 評 価 イギリスでは 会 計 検 査 院 (NAO)が PFI/ PPP 事 業 に 対 する 事 後 評 価 を 実 施 している 道 路 事 業 への PPP については 1998 年 に Skye Bridge 及 び Tranche 1 の DBFO 事 業 に 対 する 評 価 を 実 施 している 20 DBFO プロジェクトについては 一 部 のプロジェクトについては VFM が 達 成 されなかっ たと 指 摘 しているものの Tranche 1 の DBFO プロジェクトについては 平 均 して 15%の VFM が 達 成 されたと 評 価 している 初 期 の DBFO プロジェクトは 公 共 部 門 が 用 地 リスクや 需 要 リスクの 大 部 分 を 引 き 受 け 民 間 事 業 者 へのリスク 移 転 の 主 なポイントは 工 期 の 遅 延 や 18 道 路 行 政 平 成 20 年 度 版 p832 19 DBFO 事 業 の 実 施 における 道 路 管 理 権 限 については 法 律 上 の 委 任 によって 処 理 可 能 なため 制 度 的 な 拘 束 はないようである( 武 蔵 野 経 済 研 究 所 2003 pp.21-22) 20 National Audit Office: The Private Finance Initiative: The First Four Design, Build and Operate Roads Contracts, The Skye Bridge http://www.nao.org.uk/recommendation/ 16

費 用 の 超 過 の 回 避 にあったといえる 一 方 で Skye Bridge や M6 Toll のような 有 料 道 路 事 業 はその 実 施 段 階 で 大 きなトラブルを 抱 え Skye Bridge については 現 在 では 事 業 契 約 が 解 除 されている これらの 事 業 が 直 面 し たのは 有 料 道 路 に 対 する 利 用 者 の 反 発 であり Skye Bridge については 開 通 直 後 から 料 金 低 減 撤 廃 運 動 に 直 面 M6 Toll については 反 対 運 動 の 結 果 として 事 業 の 遅 延 に 見 舞 われた 1994 年 にはイギリス 政 府 が 有 料 道 路 の 整 備 を 行 わない 旨 決 定 しており 英 国 における 民 間 事 業 者 による 有 料 道 路 の 整 備 の 取 組 は M6 Toll 以 降 行 われていない 21 維 持 管 理 への PFI 導 入 は 2004 年 のポーツマス 市 の 例 が 最 初 であり 最 近 はバーミンガム 市 でも 同 様 の 契 約 交 渉 が 行 われている PFI によらない 民 間 関 与 の 仕 組 みとして 長 期 包 括 委 託 アウトソーシングのスキームも 導 入 されている イギリスにおける 道 路 維 持 管 理 業 務 は 以 前 交 通 省 が 地 方 自 治 体 に 委 任 し 地 方 自 治 体 が 具 体 的 な 契 約 や 業 務 を 担 ってきた しかしながら 地 方 自 治 体 と 民 間 事 業 者 との 対 立 や 事 業 ポートフォリオの 管 理 上 の 問 題 を 解 決 する 必 要 が 拡 大 したことから MA/TMC MAC ECI DBFO といった 広 範 な 民 間 関 与 を 含 む 調 達 手 法 を 採 用 するに 至 っている 22 2.2.2 日 本 の 道 路 PFI における VFM 達 成 可 能 性 日 本 における 道 路 事 業 PFI の VFM 達 成 可 能 性 としては イギリスでの 実 績 を 見 る 限 り 道 路 行 政 等 における 背 景 の 違 いはあるが 一 般 論 として VFM は 発 生 すると 考 えられる し かしながら 道 路 事 業 への 民 間 関 与 の 要 請 が 高 まっている 現 状 で そのような PFI が 採 用 さ れないのは 何 らかの 障 害 があることが 考 えられる その 一 つとして 道 路 事 業 への PFI がどのような 過 程 で VFM を 発 生 させているのかが 発 注 者 にわからないというのが 考 えられ る そのため 道 路 事 業 PFI の 効 果 を 一 般 論 のみでなく どのように 発 生 するかを 検 討 し 示 すことが 必 要 となる なおかつ VFM を 達 成 するに 当 たり 運 用 上 の 障 害 を 検 討 し 整 理 することで 発 注 者 側 は PFI による 効 果 と 課 題 を 理 解 することが 出 来 る 2.3 道 路 PFI の 実 現 の 可 能 性 : 日 本 の 道 路 PFI は 維 持 修 繕 業 務 において 有 効 現 状 と 今 後 の 見 通 しを 鑑 みた 際 道 路 管 理 へのリソースを 確 保 することは 喫 緊 の 課 題 で あり これに 対 して PFI に 代 表 される 民 間 関 与 の 方 策 は 潜 在 的 な 解 決 策 となりうる しかし ながら 既 に 述 べたように 道 路 管 理 業 務 は 様 々な 側 面 によって 特 徴 付 けられており 全 ての 業 務 に 対 して 無 差 別 に PFI を 導 入 することが 有 効 であるかについては 議 論 の 余 地 があ る また 現 在 の 道 路 行 政 制 度 は 民 間 事 業 者 の 主 体 的 な 関 与 を 想 定 していないため 道 路 事 業 への PFI 導 入 は 特 例 的 な 取 り 組 みとならざるを 得 ない そして 現 行 の 複 雑 な 法 制 度 下 21 22 土 木 学 会 (2008b) p47 土 木 学 会 (2008b) p47 17

では 制 度 運 用 上 の 制 約 は 容 易 に 解 決 できるものではない これを 鑑 みるに 道 路 事 業 への PFI 導 入 は そのような 制 約 に 対 処 するだけの 価 値 があるかによってその 是 非 が 判 断 される べきであり また どのような 業 務 に PFI を 導 入 することに 意 義 があり 有 効 なのかについ て 整 理 をしておくことは 今 後 の 議 論 を 進 めていく 上 での 前 提 となる 2.3.1 高 速 道 路 会 社 地 方 道 路 公 社 への PFI 導 入 可 能 性 民 間 関 与 を 通 じてより 効 率 的 な 社 会 資 本 整 備 が 図 れるのであれば より 民 間 事 業 者 に 広 い 権 限 が 与 えられている 高 速 道 路 会 社 によって 整 備 運 営 が 行 われるほうが PFI よりも 有 効 だと 考 えられる 前 述 のとおり 高 速 道 路 会 社 はコンセッション 方 式 で 運 営 されていると 解 釈 が 可 能 であり 国 や 地 方 公 共 団 体 の 委 任 を 受 けてより 幅 広 い 管 理 行 為 に 携 わることが 可 能 である つまり コンセッション 方 式 では PFI 方 式 よりも 幅 広 い 業 務 を 担 うことが 可 能 となっている したがって PFI で 実 現 可 能 なメリットはコンセッション 方 式 の 高 速 道 路 会 社 でも 十 分 実 現 可 能 なはずであり PFI を 敢 えて 導 入 するメリットは 薄 い 同 じ 議 論 は 地 方 道 路 公 社 にもついても 適 用 可 能 である これらについてむしろ 重 要 なのは その 経 営 改 革 へ 向 けた 取 組 である 地 方 道 路 公 社 の 中 には 償 還 期 限 を 迎 えても 建 設 費 の 償 還 が 終 了 しない 道 路 を 抱 えているところも 尐 なくない 青 森 県 は 2009 年 6 月 に 青 森 県 有 料 道 路 経 営 改 革 推 進 会 議 を 設 置 青 森 県 道 路 公 社 が 運 営 している 道 路 の 経 営 改 革 へ 向 けて 完 全 な 民 営 化 等 も 含 めた 経 営 改 革 案 の 策 定 を 行 っている 23 2.3.2 一 般 道 への PFI 導 入 可 能 性 一 般 道 路 においては 有 料 道 路 よりも PFI 導 入 の 意 義 は 大 きいと 思 われる しかしながら 一 般 道 路 の 建 設 維 持 管 理 を DBFO 方 式 で 行 う 場 合 その 事 業 期 間 は 20~30 年 間 にわた ると 考 えられる これだけの 長 期 間 にわたって 道 路 の 建 設 から 維 持 管 理 また 資 金 調 達 に 関 するリスクまでを 担 うことができる 民 間 企 業 は 決 して 多 くないだろう 一 般 道 も 特 に 市 街 地 を 通 る 街 路 の 場 合 は その 管 理 権 限 が 錯 綜 するほか 乗 用 車 や 自 転 車 歩 行 者 等 様 々な 通 行 者 への 対 応 一 時 占 用 に 係 る 業 務 への 関 与 が 必 要 となる しかしながら この ようなノウハウを 持 っている 民 間 事 業 者 は 限 定 的 であろう この 事 実 は 競 争 性 の 担 保 と いう 観 点 から 見 たとき VFM の 減 殺 要 因 となりかねない また 長 期 間 の 構 造 物 マネジメ ント 上 必 要 なデータ 蓄 積 が 不 十 分 であることも リスク 評 価 が 難 しいという 点 で 建 設 を 含 む 超 長 期 の 契 約 が 容 易 でないことの 理 由 となる 維 持 管 理 業 務 については 民 間 関 与 がある 程 度 可 能 だと 思 われる そもそも 事 実 行 為 としての 管 理 と 位 置 づけられる 個 別 具 体 的 な 業 務 は 入 札 を 通 じて 民 間 事 業 者 が 行 っている ケースが 大 半 であり その 場 合 の 公 共 部 門 の 業 務 はこれらの 契 約 の 管 理 が 主 体 と 思 われる この 種 の 管 理 については 維 持 工 事 の 包 括 発 注 への 試 みを 通 じて 民 間 事 業 者 も 一 定 の 役 割 を 果 たしており 民 間 事 業 者 の 参 入 への 障 害 は 小 さいといえる そもそも 維 持 管 理 への 23 青 森 県 有 料 道 路 経 営 改 革 推 進 会 議 HP (http://www.pref.aomori.lg.jp/kotsu/build/yuuryou_kaigi.html)より 18

需 要 が 増 加 し 公 共 部 門 のみでその 業 務 の 全 てを 担 い 続 けることは 困 難 になる という 今 後 の 見 通 しに 立 てば 民 間 事 業 者 がそのギャップを 埋 める 役 割 を 担 うことは 十 分 期 待 でき る 2.4 小 括 : 問 題 は 法 制 度 上 のハードルを 乗 り 越 えるだけの 効 果 が 道 路 維 持 管 理 PFI に 見 込 めるか 本 章 では 道 路 事 業 を 取 り 巻 く 制 度 は 道 路 PFI の 導 入 が 決 して 容 易 でないことを 示 した しかしながら 道 路 事 業 への PFI 導 入 は 経 済 的 なメリットが 期 待 できることに 加 え 特 に 維 持 修 繕 事 業 においては PFI の 必 要 性 が 大 きいことも 示 された しかしながら 道 路 維 持 修 繕 への PFI のメリットはまだ 検 証 の 余 地 があろう 19

3. 道 路 維 持 管 理 業 務 への PFI 導 入 効 果 と 実 務 上 の 課 題 前 章 において 日 本 における 道 路 行 政 の 現 状 と 民 間 関 与 の 可 能 性 を 整 理 した しかしな がら 実 際 に 道 路 の 維 持 修 繕 業 務 への 民 間 関 与 を 制 度 として 導 入 するうえでは それがど のような 効 果 をもたらすのかを 整 理 する 必 要 があるだろう 以 下 では PFI において 一 般 的 に 指 摘 される VFM の 源 泉 を 整 理 した 上 で 道 路 維 持 修 繕 業 務 事 業 に 特 徴 的 な 効 果 や 導 入 にあたっての 課 題 を 分 析 する 3.1. VFM の 源 泉 : 道 路 維 持 管 理 業 務 が VFM をもたらす 5 つの 要 素 PFI を 導 入 する 上 で VFM(Value for Money)の 発 生 は 大 きな 前 提 である VFM とは 国 民 が 投 じたお 金 (マネー)に 対 する 対 価 (バリュー) を 表 す 概 念 であるとされている 24 つまり 政 府 が 公 共 事 業 を 行 う 際 に 投 下 した 税 金 に 対 してより 質 の 高 いサービスを 効 率 的 効 果 的 に 行 うべきであるということを 考 えた 指 標 である 25 実 務 においては 公 共 事 業 を 公 共 側 が 自 ら 実 施 した 場 合 の 公 的 財 政 負 担 額 の 見 込 額 の 現 在 価 値 (Public Sector Comparator, PSC)と PFI 事 業 として 実 施 した 場 合 の 公 的 財 政 負 担 額 の 見 込 額 の 現 在 価 値 (PFI Life Cycle Cost, PFI の LCC)を 比 較 して 計 算 を 行 う 26 そのように 計 算 された VFM が 達 成 されることが PFI 事 業 の 導 入 の 前 提 であるが どのよ うなメカニズム 源 泉 によって VFM は 発 生 するのだろうか 野 田 (2003)は VFM の 源 泉 として 性 能 発 注 リスクの 最 適 配 分 業 績 連 動 支 払 い 競 争 原 理 の 導 入 の 4 点 を 挙 げている 27 また HM Treasury (2006)によると The optimum allocation of risks between the various parties, Focusing on the whole life cycle costs, Integrated planning and design of the facility-related services, The use of an outputs specification approach, A rigorously executed transfer of risks, Sufficient flexibility, Ensuring sufficient incentives within the procurement, The term of the contract, There are sufficient skills and expertise, Managing the scale and complexity, Long-term certainty, といった 要 素 が VFM を 引 き 出 す 要 因 として 挙 げられている 28 本 研 究 においては 上 記 を 参 考 にしながら 性 能 発 注 リスク 分 担 業 績 連 動 支 払 い 競 争 原 理 の 導 入 長 期 包 括 契 約 の 導 入 という 5 つの 視 点 から 道 路 維 持 管 理 事 業 における VFM の 発 生 メカニズムを 明 らかにする 24 25 26 27 野 田 (2003) p28 野 田 (2003) p29 野 田 (2003) pp.36-37 野 田 (2003) p39 28 HMTreasury (2006) pp.8-9 20

3.1.1 性 能 発 注 野 田 (2003)によると 従 来 の 仕 様 発 注 に 対 し 公 共 サービスのアウトプットを 規 定 し 具 体 的 な 仕 様 は 民 間 事 業 者 に 提 案 させることで 民 間 の 創 意 工 夫 が 活 用 され ライフサイ クル 全 体 が 考 慮 されたコスト 削 減 効 果 が 挙 げられる 29 HM Treasury (2006)によると 民 間 事 業 者 の 創 意 工 夫 を 活 かすように 公 共 側 のサービス 水 準 要 求 を 行 うこととしている 30 道 路 の 維 持 及 び 修 繕 工 事 は 現 状 仕 様 発 注 で 実 施 されており 使 用 する 材 料 や 工 事 に 係 る 手 続 き 等 ( 監 督 職 員 への 連 絡 の 時 期 等 )が 仕 様 書 において 細 かく 規 定 されている PFI 導 入 に 伴 う 性 能 発 注 の 導 入 によって このような 発 注 形 態 は 例 えば 路 面 の 舗 装 状 態 であれ ば ポットホールがないようにする といったような 性 能 規 定 に 基 づく 発 注 へと 変 更 され ていくことが 考 えられる それにより 以 下 のような 効 果 が 考 えられる (i) 民 間 事 業 者 の 技 術 に 基 づく 提 案 競 争 の 実 現 (ii) ライフサイクル 全 体 からみて 効 率 的 なサービスの 提 供 の 実 現 性 能 規 定 の 採 用 は 工 事 の 実 施 に 際 して 請 負 業 者 にとって 工 法 材 料 等 に 関 して 選 択 の 余 地 を 高 めることから 民 間 事 業 者 の 技 術 も 含 めた 提 案 競 争 の 実 現 が 期 待 できる また 技 術 革 新 発 展 へ 向 けたインセンティブ 付 けにも 寄 与 することが 考 えられる 加 えて 公 共 サービスの 提 供 という 側 面 からは ライフサイクルを 通 じた 効 率 的 なサービス 提 供 がな されるという 点 が 効 果 として 考 えられる 現 在 の 発 注 方 式 においては 細 かく 仕 様 が 決 め られているために 適 切 なタイミングで 維 持 工 事 を 行 うことが 出 来 ない 場 合 や 必 要 以 上 の 工 事 を 行 ってしまう 可 能 性 がある しかしながら 性 能 規 定 にすることで 要 求 された サービス 水 準 を 満 たす 限 り 最 適 なタイミング 工 法 で 工 事 等 が 行 われるため 効 率 的 な 道 路 サービス 提 供 が 可 能 になる 一 方 で 性 能 発 注 による 効 果 を 道 路 維 持 管 理 事 業 で 発 揮 するには 以 下 のような 障 害 があ ることを 考 慮 しなければならない (i) 業 務 要 求 水 準 書 における 適 切 な 性 能 規 定 の 策 定 (ii) サービス 水 準 維 持 の 保 証 (iii) 発 注 方 式 の 選 択 まず 業 務 要 求 水 準 においてどのように 性 能 を 規 定 すべきかという 論 点 がある 道 路 維 持 修 繕 業 務 においては 後 述 する 廃 棄 物 処 理 事 業 等 と 違 い モニタリング 指 標 の 設 定 が 難 しい 31 具 体 的 には 道 路 の きれいさ や 走 ることが 出 来 る 状 態 をどのような 形 で 規 定 するのかが 論 点 となる 32 客 観 的 に 性 能 を 評 価 出 来 る 指 標 が 設 計 出 来 ない 限 り 性 能 規 定 は 上 手 く 効 果 を 発 現 出 来 ないだろう また このような 指 標 を 上 手 く 設 計 出 来 る 場 合 にお いても 低 規 格 道 路 では 道 路 サービス 水 準 に 関 するデータが 蓄 積 されていないため 要 求 29 野 田 (2003) pp.40-43 30 HM Treasury (2006) p8 31 土 木 学 会 (2004) p25 32 大 島 氏 インタビューより 21

すべき 水 準 の 設 定 が 難 しいという 課 題 も 指 摘 されている 33 また サービス 水 準 の 維 持 という 点 も 懸 念 材 料 として 指 摘 されている 仕 様 規 定 を 通 じ て 具 体 的 な 調 達 内 容 を 規 定 する 従 来 方 式 の 発 注 は 実 質 的 に 高 品 質 の 公 共 サービスの 提 供 を 担 保 するものとなっていた これについて 性 能 規 定 に 基 づいた 発 注 を 行 った 際 にも 従 前 どおりの 品 質 をどのように 維 持 するのかについては 民 間 事 業 者 も 懸 念 する 課 題 であ る つまり 道 路 の 品 質 を 適 切 に 保 つという 本 来 の 維 持 工 事 の 政 策 意 図 を 性 能 規 定 とい う 従 来 とは 異 なる 発 注 方 式 でどこまで 実 現 出 来 るかという 点 である 34 さらに 全 ての 業 務 を 性 能 規 定 に 基 づいて 発 注 すべきかという 論 点 があり この 選 択 を 行 う 上 での 経 験 の 蓄 積 も 乏 しい PFI を 導 入 する 場 合 は 何 もかも 性 能 規 定 で 民 間 事 業 者 へ 発 注 すればよいという 考 えを 持 っている 発 注 者 の 存 在 が 指 摘 されている 一 方 35 上 に 述 べた ような 論 点 から 業 務 のなかには 仕 様 規 定 による 発 注 が 望 ましいものがあるという 意 見 も 聞 かれる 36 加 えて 性 能 規 定 によって 整 備 された 施 設 に 瑕 疵 があった 場 合 の 責 任 もどうす るかという 点 にも 議 論 がある 37 道 路 管 理 者 は 国 家 賠 償 法 上 の 管 理 瑕 疵 責 任 を 問 われる 可 能 性 があるために 民 間 事 業 者 の 創 意 工 夫 を 十 分 に 発 揮 させる 性 能 規 定 を 設 計 することを 躊 躇 するという 懸 念 がある このような 課 題 があるものの 公 共 事 業 への 性 能 規 定 の 採 用 が 徐 々にではあるが 進 めら れている 道 路 においては 舗 装 の 性 能 規 定 化 が 挙 げられる 2001 年 度 には 舗 装 の 構 造 に 関 する 技 術 基 準 が 施 行 され 平 たん 性 等 を 規 定 した 性 能 規 定 を 導 入 している 38 また 道 路 の 維 持 管 理 の 分 野 でも 2010 年 度 より 関 東 地 方 整 備 局 大 宮 国 道 事 務 所 が 発 注 した 大 宮 維 持 工 事 において 性 能 規 定 の 導 入 が 図 られている 同 工 事 は 2010 年 1 月 29 日 付 で 公 告 された 案 件 であり 道 路 の 維 持 工 事 の 性 能 を 表 4 のように 規 定 し 2 年 間 にわたる 維 持 業 務 について 発 注 を 行 う 予 定 である また 中 部 地 方 整 備 局 においても 複 数 の 維 持 工 事 において 巡 回 業 務 の 性 能 規 定 を 行 った 発 注 を 公 告 している 確 かに 性 能 規 定 の 導 入 に は 困 難 を 伴 うものの 既 に 具 体 的 な 試 みも 行 われていることから 実 現 不 可 能 ではないと いうことが 理 解 出 来 る 33 34 35 土 木 学 会 (2008a) p87 土 木 学 会 (2004) p157 熊 谷 組 インタビューより 36 ガイアート T K インタビューより 37 土 木 学 会 (2004) pp.238, 236 38 国 土 交 通 省 (2001) 22

表 4 大 宮 維 持 工 事 における 性 能 規 定 通 常 巡 回 路 面 舗 装 管 理 ( 車 道 粒 密 アス) 項 目 路 面 維 持 ( 車 道 ) 落 下 物 回 収 わだち 掘 れ 量 ひび 割 れ 率 段 差 路 面 清 掃 ( 車 道 ) 緑 地 管 理 ( 低 木 ) 安 全 かつ 円 滑 に 走 行 できるようにする 一 日 一 回 以 上 ポットホール( 直 径 10cm)がないようにする 通 行 に 支 障 を 来 たさないようにする 支 障 を 来 たす 場 合 確 認 後 6 時 間 以 内 に 処 理 30mm 未 満 30% 未 満 20mm 未 満 バイクや 自 転 車 が 路 面 に 積 もるちりや 埃 などで 転 倒 しないように 年 6 回 高 さ80cm 以 下 性 能 規 定 またはサービス 水 準 ( 出 典 ) 建 設 工 業 新 聞 2010 年 1 月 26 日 付 より 作 成 3.1.2 リスク 分 担 PFI を 従 来 型 の 公 共 事 業 と 比 較 して 特 徴 付 ける 大 きなポイントの 一 つとして 民 間 事 業 者 へのリスク 移 転 がある 野 田 (2003)によると 公 共 事 業 には 需 要 見 込 みや 許 認 可 等 の 遅 れ 諸 制 度 の 変 更 天 災 等 様 々なリスクが 考 えられるが リスクを 最 適 にコントロ ールすることが 出 来 る 主 体 が 管 理 することにより 事 業 全 体 のコストを 低 減 出 来 るとして いる 39 道 路 維 持 工 事 を 含 む 従 来 の 公 共 事 業 では 公 共 側 が 暗 黙 裡 に 大 半 のリスクを 負 担 してお り リスク 移 転 の 試 みはおろか 事 前 にリスク 分 担 が 明 記 されていることも 尐 ない これ に 対 して PFI 事 業 では 事 業 に 関 して 想 定 し 得 るリスクを 事 前 に 整 理 し 民 間 事 業 者 のほう がより 適 切 にコントロール 出 来 るものを 民 間 側 へと 移 転 する それにより 民 間 事 業 者 の 責 任 においてその 技 術 や 創 意 工 夫 を 活 用 し そのリスクへの 対 処 をより 低 いコストで 実 現 することが 可 能 となる 例 えば 維 持 工 事 の 需 要 ( 大 がかりな 維 持 工 事 について それが 何 年 後 に どの 程 度 の 頻 度 で 生 ずるか)に 関 するリスクを 適 切 に 民 間 事 業 者 に 移 転 するこ とにより 公 共 側 が 負 う 場 合 と 比 べ 長 期 間 の 視 点 を 持 って 維 持 工 事 の 需 要 が 尐 なくな るような 工 法 等 を 民 間 事 業 者 が 選 択 することが 出 来 るようになる この 結 果 として 事 業 期 間 全 体 から 見 て 望 ましい 時 期 に 維 持 工 事 が 行 われる 一 方 リスク 分 担 に 伴 う 障 害 として 次 のようなポイントが 考 えられる 第 一 に 民 間 事 業 者 がコントロール 出 来 ないリスクが 移 転 される 可 能 性 がある また 瑕 疵 責 任 の 帰 属 が 不 明 確 であることによる 懸 念 も 存 在 する これは 当 該 事 業 の 運 営 に 伴 って 何 らかの 賠 償 責 任 が 発 生 した 際 に 民 間 事 業 者 と 公 共 側 がどのようにそれを 負 担 するかのルールが 不 明 瞭 であるため 民 間 事 業 者 がそのリスクをとることを 嫌 う 可 能 性 がある また リスク の 最 適 配 分 を 考 慮 する 際 には 事 業 に 関 係 するリスクの 発 生 可 能 性 や 顕 在 化 した 際 の 損 失 39 野 田 (2003) pp.45-46 23

等 のデータの 蓄 積 が 必 要 である しかしながら 道 路 事 業 においては そのようなデータ の 蓄 積 が 乏 しい 40 データが 蓄 積 されることによってはじめて 民 間 事 業 者 公 共 側 ともに どのようなリスクをどちらがコントロールするかを 判 断 することが 可 能 になる また そ のリスクに 対 応 するコストを 踏 まえた 提 案 を 行 うことが 可 能 になる 3.1.3 業 績 連 動 支 払 い 野 田 (2003)によると サービスの 質 が 低 下 した 場 合 に 減 額 を 行 う 措 置 により 公 共 サ ービスの 適 切 な 維 持 が 図 れるとしている 41 道 路 維 持 工 事 では 従 来 見 込 み 作 業 量 と 実 際 の 作 業 量 とに 違 いが 生 じた 場 合 その 違 い について 積 算 を 行 い 支 払 い 額 を 変 更 するという 方 式 が 採 用 されている しかしながら PFI を 導 入 によって 性 能 規 定 が 採 用 された 場 合 道 路 の 質 を 要 求 水 準 と 比 較 評 価 した 上 で 望 ましい 水 準 のサービスが 提 供 されていない 場 合 には 減 額 をする 等 の 支 払 いメカニズムに 変 更 することが 考 えられるだろう このような 支 払 いシステムの 導 入 により 契 約 時 に 定 めたサービス 水 準 の 維 持 を 担 保 することが 出 来 る また 性 能 発 注 の 頄 で 指 摘 した 仕 様 発 注 の 際 と 比 較 した 道 路 維 持 サービス 水 準 の 低 下 に 対 する 懸 念 も 適 切 な 業 績 連 動 支 払 い を 導 入 することで 払 拭 することが 出 来 る しかしながら 業 績 連 動 支 払 い 方 式 を 導 入 するためには 適 切 なモニタリング 指 標 と それを 支 払 い 額 にどのように 反 映 させるかという 契 約 の 設 計 が 課 題 となる 前 者 は 性 能 発 注 の 際 に 指 摘 した 課 題 でもあるが このような 支 払 いシステムを 設 計 する 上 で 適 切 な モニタリング 指 標 の 策 定 は 大 きな 前 提 である 客 観 的 にサービスの 質 を 評 価 出 来 る 指 標 が ない 場 合 評 価 の 際 に 公 共 側 の 担 当 者 の 主 観 が 混 在 してしまう 可 能 性 や 民 間 事 業 者 側 が 公 共 側 の 望 むサービスを 提 供 出 来 ない 可 能 性 が 生 じる 後 者 については 具 体 的 には ど のような 状 態 になると 支 払 い 額 がどの 程 度 変 動 するかは 民 間 事 業 者 にとっては 決 定 的 に 重 要 な 問 題 である それにも 関 わらず これに 関 する 議 論 の 蓄 積 も 乏 しい 道 路 維 持 工 事 においては 公 共 側 がそのような 方 式 での 発 注 の 経 験 が 乏 しいため 業 績 連 動 支 払 いメカ ニズムの 設 計 において 困 難 が 発 生 することが 懸 念 される 3.1.4 競 争 原 理 野 田 (2003)は PFI 事 業 においては 透 明 公 平 な 事 業 者 選 定 が 行 われることと 提 案 内 容 を 考 慮 した 総 合 的 な 評 価 を 行 うことで 競 争 性 が 担 保 され 他 の VFM の 達 成 要 因 も 発 現 す るとしている 42 土 木 学 会 (2004)は PFI は 公 共 事 業 を 競 争 市 場 とするものであり 従 来 の 官 の 独 占 市 場 であったことの 弊 害 が 取 り 除 かれるために 費 用 が 低 減 し VFM が 結 果 的 に 生 じることとなる と 論 じている 43 イギリスにおける 調 査 においても bargaining が VFM 40 41 42 43 土 木 学 会 (2004) p89 野 田 (2003) p50 野 田 (2003) pp.51-52 土 木 学 会 (2004) p17 24

の 最 も 重 要 な 要 素 であるという 回 答 が 得 られている 44 競 争 性 の 担 保 が VFM をもたらす 理 由 として 以 下 の 2 点 があげられる 高 い 応 札 コストに 伴 う 談 合 の 排 除 事 業 提 案 を 通 じたライフサイクルコストの 削 減 前 者 については 従 来 の 公 共 事 業 と 比 較 して PFI 事 業 では 提 案 書 や 契 約 書 を 作 成 するのに 多 くの 費 用 及 び 時 間 が 必 要 となる 場 合 が 多 い それは 民 間 事 業 者 側 が 複 数 の 参 加 企 業 を 束 ね 長 期 間 の 契 約 を 前 提 とした 提 案 作 成 を 行 う 必 要 があるためであり 談 合 で 必 要 となる 提 案 内 容 のすり 合 わせや 付 き 合 いでの 応 札 が 難 しくなる 45 結 果 的 に 応 札 可 能 となるのは 真 に 事 業 実 施 に 意 欲 のある 企 業 のみに 限 られよう 後 者 については 性 能 発 注 や 長 期 包 括 委 託 によって 事 業 者 提 案 の 自 由 度 が 増 すため 提 案 内 容 を 通 じた 競 争 がより 働 くと 考 えら れる 46 このように 競 争 原 理 と 他 の 源 泉 は 密 接 した 関 係 にあることに 注 意 が 必 要 である 日 本 の 道 路 維 持 工 事 は 現 状 仕 様 規 定 に 基 づく 事 業 者 にとって 自 由 度 の 尐 ない 発 注 が 行 われてきた また 1990 年 代 頃 までは 指 名 競 争 入 札 による 限 られた 価 格 競 争 が 行 われる ことが 主 だったようである しかしながら PFI が 導 入 されることにより 道 路 維 持 管 理 に おいても 上 に 整 理 したような 効 果 が 達 成 されうるだろう 民 間 事 業 者 へのインタビューに おいても PFI を 道 路 維 持 管 理 事 業 に 導 入 した 際 の 最 も 重 要 な 効 果 として 競 争 が 働 くこと が 挙 げられていた 47 このように 競 争 原 理 は VFM の 達 成 に 最 も 寄 与 する 部 分 と 考 えるこ とが 出 来 るのである とはいえ 公 共 調 達 における 競 争 性 の 確 保 は 長 らくの 課 題 であり 競 争 性 の 確 保 が 容 易 といわれている PFI 事 業 においても 競 争 原 理 を 確 立 する 上 で 以 下 のような 障 害 が 存 在 する 第 一 に 総 合 評 価 方 式 を 適 切 に 運 用 する 必 要 がある 上 に 示 すような 競 争 原 理 によるメ リットを 享 受 するためには 民 間 事 業 者 が 提 案 競 争 を 行 うことが 出 来 る 環 境 を 発 注 者 側 が 整 備 しなければならない つまり 従 来 の 価 格 のみによる 競 争 ではなく 道 路 維 持 の 質 に 関 わる 非 価 格 要 素 も 含 めた 競 争 環 境 の 整 備 が 必 須 である 具 体 的 には PFI 事 業 において 主 に 用 いられる 総 合 評 価 一 般 競 争 入 札 方 式 において 価 格 要 素 と 非 価 格 要 素 の 双 方 を 審 査 に おいて 適 切 に 考 慮 することが 必 要 になる 第 二 に 非 価 格 要 素 の 明 確 な 提 示 が 必 要 である 民 間 事 業 者 による 提 案 競 争 を 促 すためには 総 合 評 価 による 発 注 の 際 に 非 価 格 要 素 をどの ように 評 価 するかを 公 共 側 が 示 すことが 必 要 となる 価 格 以 外 のどのような 点 が 評 価 され るのかが 予 め 示 されていれば 民 間 事 業 者 側 もどのような 点 を 重 視 した 提 案 を 行 うべきか を 考 慮 することが 出 来 る しかしながら 道 路 維 持 管 理 業 務 において 従 来 そのような 非 価 格 要 素 の 視 点 サービスの 質 を 見 るという 発 注 が 行 われていないため これらの 制 度 設 計 には 困 難 が 予 想 される 44 45 46 47 土 木 学 会 (2004) p16 金 本 (2005) 土 木 学 会 (2004) p17 熊 谷 組 インタビューより 25

3.1.5 長 期 包 括 契 約 長 期 包 括 のサービス 提 供 を 契 約 することによって 民 間 事 業 者 側 は 事 業 期 間 全 体 を 通 じたライフサイクルコストの 最 適 化 を 図 ることが 可 能 になり 公 共 側 の 財 政 負 担 額 の 低 減 が 実 現 される 48 現 状 の 道 路 維 持 業 務 においては 包 括 的 な 委 託 が 行 われている 場 合 もある が 分 離 発 注 もされている 49 そのような 発 注 形 態 から 維 持 工 事 から 巡 回 業 務 まで 包 括 し 民 間 事 業 者 へ 長 期 で 委 託 するという 仕 組 みへの 転 換 が 考 えられる それにより 事 業 期 間 を 通 じたライフサイクルコストの 最 適 化 が 図 られる 長 期 契 約 を することにより 単 年 度 契 約 では 考 慮 することが 出 来 ない 事 業 期 間 を 通 じた 工 事 や 業 務 の 執 行 が 可 能 になる また 単 年 度 では 修 繕 工 事 は 予 算 において 基 本 的 に 確 保 されていた が 長 期 契 約 により 公 共 側 の 財 政 制 約 を 受 けずに 長 期 的 な 視 点 から 適 切 な 時 期 に 維 持 工 事 を 行 うことが 出 来 る 50 つまり 民 間 事 業 者 はどのような 時 期 にどのような 維 持 工 事 が 必 要 かを 考 慮 し 事 業 期 間 全 体 を 通 じた 最 適 な 提 案 を 行 うことが 出 来 る また 突 発 的 に 生 じる 維 持 工 事 についても 巡 回 業 務 と 包 括 して 委 託 することにより 異 常 を 発 見 次 第 迅 速 に 公 共 側 への 煩 雑 な 連 絡 確 認 等 を 経 ずに 対 応 することが 出 来 るようになる また 長 期 包 括 で 行 われることで 内 部 事 務 コストの 削 減 を 図 ることができる 道 路 維 持 修 繕 業 務 に 関 するインタビューでは 単 年 度 契 約 を 繰 り 返 す 場 合 毎 年 同 じような 書 類 を 同 じ 時 期 に 提 出 する 必 要 があり その 事 務 コストは 無 視 できないという 声 が 民 間 事 業 者 から 聞 かれたが 51 同 様 のケースは 公 共 側 にも 存 在 すると 考 えられる 現 状 の 道 路 管 理 者 の 業 務 実 態 として そのような 書 類 の 処 理 に 忙 殺 され 現 場 の 監 督 業 務 に 従 事 できないとい う 点 が 指 摘 されており 52 長 期 包 括 契 約 による 内 部 事 務 コストの 削 減 は 公 共 側 の 人 材 が 本 来 やるべき 仕 事 に 集 中 できるというメリットをもたらす 53 長 期 契 約 により 新 規 事 業 者 が 参 入 できる 可 能 性 が 生 まれる 従 来 設 備 実 績 上 の 観 点 から 受 注 していた 企 業 が 有 利 という 実 態 が 道 路 維 持 工 事 においてはあった 54 長 期 契 約 の 導 入 により 技 術 導 入 や 新 規 設 備 投 資 を 民 間 事 業 者 が 行 うことが 可 能 になるため 従 来 応 札 出 来 なかった 企 業 が 新 たに 参 入 することが 可 能 になり より 競 争 が 働 く 可 能 性 がある また 既 存 業 者 においても 新 規 の 設 備 導 入 の 検 討 を 行 うことが 出 来 るようになる 55 一 方 で 導 入 に 向 けた 課 題 としては 長 期 間 にわたる 維 持 修 繕 工 事 の 需 要 等 を 予 測 する ためのデータの 不 足 に 加 え 同 一 業 者 との 長 期 契 約 への 忌 避 感 という 問 題 がある 維 持 工 事 を 長 期 委 託 する 場 合 いつどのような 維 持 工 事 が 必 要 かという 予 測 可 能 性 が 公 共 側 民 間 事 業 者 側 双 方 において 重 要 になるが それらを 可 能 にするためのデータが 不 足 している 48 土 木 学 会 (2004) p23 49 ガイアート T K インタビューより 50 土 木 学 会 (2008a) p47 51 ガイアート T K インタビューより 52 ガイアート T K インタビューより 53 NPO 石 川 氏 インタビューより 54 ガイアート T K インタビューより 55 泉 建 設 工 業 本 田 氏 インタビューより 26

特 に 大 規 模 修 繕 のリスクを 想 定 するのが 難 しいと 考 えられる また 大 規 模 修 繕 の 場 合 には 長 期 契 約 の 中 にどのようにその 費 用 を 盛 り 込 むかも 重 要 な 視 点 となる これに 加 え 公 共 側 のより 重 要 な 問 題 としては 長 期 で 同 一 業 者 と 契 約 を 結 ぶことを 敬 遠 するという 点 がある 公 共 事 業 という 性 格 上 また 過 去 にそのような 実 績 に 乏 しいことからも 公 務 員 である 公 共 側 は 同 一 企 業 との 癒 着 と 考 えられることを 嫌 がり 長 期 契 約 の 導 入 に 不 安 を 覚 えるという 点 はインタビューにおいて 指 摘 されていた 56 しかしながら 最 近 長 期 包 括 委 託 での 道 路 維 持 工 事 の 発 注 が 行 われている 例 えば 長 期 契 約 で 言 えば 前 述 の 大 宮 維 持 工 事 は 2 年 契 約 であり また 北 海 道 清 里 町 における 道 路 河 川 維 持 に 係 る 指 定 管 理 者 の 選 定 は 3 年 間 にわたるものである 包 括 という 点 に 着 目 すると 詳 細 を 知 ることが 出 来 た 保 土 ヶ 谷 維 持 工 事 においては 民 間 事 業 者 が 巡 回 等 にも 携 わっており 57 中 部 地 方 整 備 局 名 古 屋 国 道 事 務 所 は 2010 年 度 に 発 注 する 国 道 維 持 工 事 に 管 理 巡 回 業 務 を 含 めて 行 っている このように 長 期 包 括 契 約 においては 道 路 維 持 管 理 工 事 での 試 みが 行 われているので その 進 捗 を 注 視 していく 必 要 がある また 道 路 維 持 管 理 における 長 期 包 括 契 約 導 入 へ 向 けた 障 害 は 困 難 な 障 害 ではないと 言 える 3.2. 他 分 野 における PFI 事 業 : 廃 棄 物 PFI はなぜ 項 調 に 導 入 が 行 われたのか ここで 他 のインフラである 廃 棄 物 処 理 施 設 の 整 備 運 営 事 業 における PFI について 分 析 す ることで 道 路 事 業 特 有 の 課 題 等 の 指 摘 を 行 いたい 3.2.1 導 入 の 実 績 道 路 事 業 とは 対 照 的 に 廃 棄 物 処 理 事 業 への PFI の 導 入 は PFI 導 入 初 期 から 行 われてき た 2010 年 2 月 現 在 約 20 事 業 が 実 施 方 針 を 公 表 しており DBO 方 式 (PFI として 内 閣 府 PFI 推 進 室 に 事 例 として 記 載 がないもの)を 含 めると 約 30 件 の 事 業 が 民 間 関 与 で 整 備 さ れている 運 営 方 式 も 他 の 事 業 分 野 に 比 べて 幅 広 く BOT4 件 BTO7 件 BOO5 件 DBO17 件 となっている イギリスにおいても 廃 棄 物 処 理 への PFI 導 入 は 進 んでおり Defra (2010) によれば 38 件 のプロジェクトが 公 表 されている 58 これらの 実 績 を 比 較 する 限 り 廃 棄 物 処 理 施 設 における PFI 導 入 は 比 較 的 成 功 している といってよいだろう 3.2.2 導 入 による 効 果 日 本 の 廃 棄 物 処 理 PFI において 特 定 事 業 選 定 時 の VFM は 平 均 で 約 11% 事 業 者 選 定 時 の VFM は 平 均 で 約 25%に 達 し 他 の 事 業 と 比 較 して 遜 色 ないものであった 59 当 該 事 業 に おける VFM 発 生 の 背 景 としては 以 下 の 点 が 考 えられる 56 NPO 石 川 氏 インタビューより 57 ガイアート T K インタビュー 58 Defra (2010) 59 原 データより 計 算 27

(i) 民 間 事 業 者 による 運 営 という 素 地 の 存 在 (ii) 官 民 間 の 技 術 格 差 (iii) サービス 実 績 の 測 定 可 能 性 (iv) イコールフッティングの 実 現 大 きなポイントは 民 間 事 業 者 がサービス 供 給 の 担 い 手 として 成 立 していたことである 廃 棄 物 処 理 は 廃 棄 物 の 処 理 及 び 清 掃 に 関 する 法 律 ( 廃 掃 法 昭 和 45 年 法 律 第 137 号 )によ って 規 定 されているが ここでは 一 般 廃 棄 物 は 市 町 村 が 産 業 廃 棄 物 は 民 間 事 業 者 がその 処 理 責 任 を 負 うことが 規 定 されている 一 般 廃 棄 物 と 産 業 廃 棄 物 という 違 いはあるものの 民 間 事 業 者 に 廃 棄 物 処 理 のノウハウが 蓄 積 されていた 点 は 見 逃 せない 事 実 である また 廃 棄 物 処 理 施 設 については 環 境 規 制 の 強 化 等 への 対 応 から 技 術 革 新 が 著 しく 民 間 事 業 者 側 が 技 術 面 で 優 位 に 立 つ 場 面 が 多 いといわれている 60 さらに 廃 棄 物 処 理 施 設 の 特 徴 とし て 廃 棄 物 の 量 によってサービス 実 績 を 測 定 することが 可 能 という 点 がある これらの 特 徴 は 民 間 事 業 者 への 包 括 委 託 へのインセンティブとなるとともに その 事 業 化 に 際 して 性 能 発 注 や 業 績 連 動 支 払 いの 制 度 設 計 を 容 易 にするものだったと 考 えられる 事 業 方 式 の 選 択 においても 民 間 事 業 者 へ 委 託 することによる 補 助 金 等 の 変 更 がなかったことが 挙 げられる つまり 公 共 主 体 で 事 業 を 実 施 する 際 交 付 される 補 助 金 が PFI 事 業 者 である SPC にも 交 付 できるという 補 助 が 可 能 であったため BOT 方 式 による 整 備 も 行 われた 61 3.2.3 道 路 維 持 管 理 事 業 との 相 違 上 記 で 指 摘 したように 公 共 側 による 細 かい 仕 様 規 定 で 品 質 が 担 保 されていた 道 路 事 業 と 異 なり 廃 棄 物 処 理 事 業 においては 民 間 事 業 者 が 創 意 工 夫 を 行 う 技 術 的 素 地 が 存 在 し た また 民 間 事 業 者 間 の 技 術 格 差 も 大 きいことから 技 術 を 巡 る 情 報 の 非 対 称 性 が 長 期 契 約 へのインセンティブとなった また 道 路 の 品 質 と 違 い 廃 棄 物 の 量 という 計 測 可 能 な 評 価 指 標 を 設 計 することにより モニタリングが 可 能 という 点 においては 道 路 維 持 よ りも 業 績 連 動 支 払 いや 性 能 規 定 が 導 入 しやすい さらに 廃 棄 物 処 理 においては 処 理 過 程 から 余 熱 やスラグといった 副 生 成 物 が 生 じる 点 も 注 意 が 必 要 である 民 間 委 託 する 際 に それら 副 生 成 物 からの 収 益 の 帰 属 の 設 計 次 第 では 民 間 事 業 者 の 技 術 開 発 新 規 技 術 導 入 のインセンティブを 働 かせることが 出 来 る これらはいずれも VFM の 発 生 に 大 きく 寄 与 す るポイントであり 廃 棄 物 処 理 事 業 に PFI が 項 調 に 導 入 されてきた 背 景 として 無 視 できない ものである しかし 今 後 の 展 望 としては 処 理 施 設 ごとの SPC への 直 接 補 助 方 式 が 可 能 であった 補 助 金 が 市 町 村 に 対 する 交 付 金 へと 変 更 されたことによる 影 響 を 見 る 必 要 62 や 廃 棄 物 の 処 理 は 忌 避 施 設 という 特 性 上 公 共 側 の 管 理 能 力 の 低 下 にもつながりかねない 民 間 委 託 が 今 60 61 62 新 潟 市 インタビューより 土 木 学 会 (2008a) p10 土 木 学 会 (2008a) p10 28