2020 年 の 東 京 オリンピックを 契 機 とした 東 京 再 構 築 の 必 要 性 る 株 式 会 社 野 村 総 合 研 究 所 社 会 システムコンサルティング 部 上 級 コンサルタント 小 林 庸 至 1.2020 年 の 東 京 オリンピックで 残 すべきレ ガシーとは 2020 年 の 東 京 オリンピック 開 催 が 決 まり 大 会 施 設 の 整 備 にかかる 建 設 需 要 や 観 戦 に 関 連 した 消 費 等 による 経 済 効 果 が 注 目 されてい る 東 京 都 は 経 済 効 果 を 約 3 兆 円 と 試 算 して おり 世 間 ではこれを 過 小 評 価 と 見 る 向 きも あ る よ う だ が イ ギ リ ス 貿 易 投 資 省 ( UK Trade & Investment)の 発 表 (2013 年 7 月 ) によるロンドンオリンピックの 経 済 効 果 99 億 ポンド( 約 1.5 兆 円 )と 比 較 すると 妥 当 な 水 準 と 言 えるだろう しかし オリンピック 開 催 のメリットを 一 過 性 の 経 済 効 果 で 終 わらせてしまってはも ったいない 1964 年 の 東 京 オリンピックでは 首 都 高 速 道 路 東 海 道 新 幹 線 等 のインフラ 整 備 が 行 われ これがオリンピックのレガシー ( 遺 産 )として 残 された 次 期 オリンピック で 残 すべきレガシーとは 何 だろうか 東 京 招 致 決 定 は 政 府 にとって 2020 年 というわかりやすい 目 標 ができたことを 意 味 する オリンピック 開 催 を 長 期 的 な 日 本 東 京 の 再 生 に 如 何 に 結 び 付 けていくかが 問 わ れている 筆 者 は 2020 年 を 目 指 して い つかはやらなければならないとわかっていな がら 先 送 りしていた 東 京 の 課 題 解 決 に 着 手 する ことを 提 案 したい 2. 東 京 の 課 題 と 求 められる 取 り 組 み 1) 東 京 の 課 題 (ⅰ):インフラの 老 朽 化 笹 子 トンネル 事 故 を 契 機 に インフラの 老 朽 化 が 関 心 を 集 めている 特 に 都 市 部 は わ が 国 の 経 済 を 牽 引 する 地 域 として 先 行 的 に インフラ 整 備 が 行 われたため 老 朽 化 が 顕 在 化 するのも 早 い 過 去 の 公 共 投 資 実 績 をもと にインフラのヴィンテージ( 平 均 供 用 年 数 ) を 計 算 すると 東 京 でインフラの 老 朽 化 が 進 んでいることがよくわかる 20 平 15 均 供 用 年 数 10 図 表 1 インフラのヴィンテージ 5 1960 65 70 75 80 85 90 95 2000 05 ( 年 ) 全 国 東 京 出 所 ) 内 閣 府 日 本 の 社 会 資 本 2012 及 び 総 務 省 行 政 投 資 実 績 より NRI 作 成 インフラの 老 朽 化 に 伴 い 修 繕 や 更 新 に 膨 大 な 費 用 が 必 要 となる 1 都 3 県 におけるこ れまでの 国 都 県 市 町 村 によるインフラ 投 資 額 から 将 来 の 必 要 費 用 を 推 計 すると 2038 年 には 9.7 兆 円 に 達 する 2010 年 の 投 資 額 は 4.5 兆 円 のため その 2 倍 以 上 の 費 用 がかか る 計 算 になる * 1 *1 総 務 省 行 政 投 資 実 績 に 基 づく 投 資 額 には 維 持 管 理 費 用 地 補 償 費 等 が 含 まれているため 過 大 評 価 となっている 点 に 留 意 が 必 要 である NRI パブリックマネジメントレビュー November 2013 vol.124-1-
図 表 2 1 都 3 県 で 必 要 になる 更 新 投 資 14 12 投 資 額 ( 兆 円 ) 10 8 6 4 2 既 存 ストックの 形 成 に 要 した 費 用 2020 年 東 京 五 輪 既 存 ストックの 更 新 に 必 要 な 費 用 0 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 出 所 ) 総 務 省 行 政 投 資 実 績 をもとに NRI 作 成 高 度 経 済 成 長 期 以 降 都 市 部 と 地 方 部 の 格 差 是 正 のため 公 共 投 資 の 重 点 は 都 市 部 から 地 方 部 に 移 された しかし 地 方 部 でインフ ラ 整 備 が 進 んでも 結 局 人 口 や GDP の 首 都 圏 集 中 に 歯 止 めがかかることはなかった 誤 解 を 恐 れずに 言 えば 日 本 の 富 の 多 くを 東 京 が 生 み 出 しているにも 関 わらず 東 京 への 投 資 は 疎 かにされてきたと 言 える 図 表 3 全 国 の 人 口 GRP 社 会 資 本 ストック のうち1 都 3 県 が 占 める 割 合 35% 30% 25% 20% 15% 人 口 GRP 社 会 資 本 ストック 出 所 ) 総 務 省 国 勢 調 査 内 閣 府 県 民 経 済 計 算 日 本 の 社 会 資 本 2012 をもとに NRI 作 成 さらに 東 京 はアジアの 主 要 都 市 の 中 でも 突 出 して 災 害 リスクが 高 いと 言 われている 近 い 将 来 首 都 直 下 地 震 の 発 生 が 危 惧 される 中 インフラの 老 朽 化 対 策 は 喫 緊 の 課 題 であ る 図 表 4 アジアの 主 要 都 市 の 災 害 リスク 指 数 東 京 横 浜 大 阪 神 戸 京 都 香 港 広 州 マニラ 北 京 ソウル 上 海 シドニー バンコク ジャカルタ シンガポール 0 200 400 600 800 41 31 15 15 13 6 5 4 4 92 710 注 ) 世 界 主 要 都 市 の 災 害 危 険 度 (Hazard) 災 害 へ の 脆 弱 性 (Vulnerability) 危 険 にさらされる 経 済 的 価 値 (Exposed values)を 0~10 で 評 価 し これらを 乗 じたもの 出 所 )Munich Re (ミュンヘン 再 保 険 会 社 ) ANNUAL REVIEW: NATURAL CATASTROPHES 2002 をもとに NRI 作 成 NRI パブリックマネジメントレビュー November 2013 vol.124-2-
2020 年 に 向 けたインフラ 投 資 として 三 環 状 道 路 ( 首 都 高 速 中 央 環 状 線 東 京 外 かく 環 状 道 路 首 都 圏 中 央 連 絡 自 動 車 道 )の 整 備 *2 公 共 交 通 機 関 のバリアフリー 化 を 行 うことが すでに 決 まっている また 羽 田 空 港 の 拡 張 羽 田 空 港 と 成 田 空 港 を 結 ぶ 新 たな 鉄 道 の 整 備 等 も 話 題 に 上 っている 1964 年 の 東 京 オリンピックの 際 にさまざ まなインフラが 整 備 され 老 朽 化 が 深 刻 する 56 年 後 の 2020 年 に 奇 しくも 再 びオリンピッ クが 開 催 される これを 契 機 に 老 朽 化 が 進 む 首 都 圏 インフラの 再 生 に 着 手 すべきと 考 え る 特 に 重 視 されるのが 首 都 高 速 道 路 の 再 構 築 である 首 都 高 速 道 路 は 老 朽 化 による 損 傷 が 進 んでいるだけでなく 河 川 の 上 部 空 間 を 利 用 して 建 設 されたため 点 検 補 修 を 行 うのが 難 しい 区 間 があること 急 カーブが 随 所 にあ り 安 全 な 高 速 走 行 に 支 障 があること 日 本 橋 上 空 の 高 架 橋 によって 都 市 景 観 を 阻 害 してい ることなど さまざまな 問 題 を 抱 えている オリンピックに 向 けて 首 都 高 速 道 路 の 再 構 築 に 道 筋 をつけ 安 全 な 東 京 を 確 かなものに することの 社 会 的 な 意 義 は 大 きい 再 構 築 に 向 けた 検 討 は 2012 年 から 始 まっ ている 首 都 高 速 道 路 が 設 置 した 調 査 研 究 委 員 会 は 現 在 と 同 じルート 構 造 を 維 持 す ることを 前 提 に 大 規 模 修 繕 更 新 が 必 要 な 区 間 を 選 定 し 総 事 業 費 を 最 大 で 9,100 億 円 と 見 積 もった また 同 時 期 に 国 土 交 通 省 が 設 置 した 有 識 者 会 議 は 首 都 高 速 道 路 は 首 都 東 京 を 支 える 基 盤 であることから 都 市 環 状 線 の 地 下 化 を 含 む 再 生 事 業 を 国 家 プロジェク トとして 行 うべきと 提 言 した 後 者 は 事 業 費 を 示 していないが ロータリークラブの 試 算 によると 都 心 環 状 線 及 び 周 辺 路 線 をすべて 撤 去 地 下 化 した 場 合 の 建 設 費 は 3.8 兆 円 に 上 るという リニア 中 央 新 幹 線 ( 東 京 - 名 古 屋 間 )の 建 設 費 は 5 兆 円 以 上 かかると 言 われ ていることから それには 及 ばないものの 相 当 規 模 のビッグプロジェクトになる どちらの 案 にせよ 莫 大 な 費 用 がかかるわ けだが その 財 源 は 確 保 されていない 道 路 法 に 基 づく 道 路 は 無 料 公 開 が 原 則 であり 首 都 高 速 道 路 は 道 路 整 備 特 別 措 置 法 による 例 外 措 置 として 料 金 徴 収 が 認 められているが 整 備 費 用 の 償 還 期 間 が 終 われば 無 料 化 しなけれ ばならない これには 修 繕 更 新 のための 費 用 が 含 まれていないため 税 金 で 賄 うことに なる この 場 合 政 府 の 財 政 状 況 を 考 えると できるだけ 費 用 がかからないプランが 選 択 さ れる 可 能 性 が 高 い しかし 首 都 高 速 道 路 は 単 に 安 全 かつ 高 速 な 走 行 を 実 現 する とい う 道 路 の 機 能 を 果 たせばよいというわけでは なく 都 市 景 観 を 構 成 する 重 要 な 要 素 の 一 つ であり 東 京 の 魅 力 や 競 争 力 に 大 きな 影 響 を 及 ぼすという 点 を 忘 れてはいけない 海 外 では 高 架 道 路 を 撤 去 地 下 化 し 都 市 の 再 生 を 成 功 させた 事 例 が 存 在 する ボス トンでは 都 心 部 を 南 北 に 縦 貫 していた 高 架 道 路 を 地 下 に 移 設 拡 幅 し 地 上 部 の 大 半 を オープンスペースとして 開 放 した これによ り 都 市 景 観 が 大 幅 に 改 善 され 周 辺 の 不 動 産 価 値 も 上 昇 したという 事 業 費 146 億 ドル( 約 1.4 兆 円 )の 6 割 を 連 邦 政 府 4 割 を 州 政 府 等 が 拠 出 した また シアトルでは 市 街 地 とウォーターフロントを 分 断 するように 走 っ ていた 高 架 道 路 を 撤 去 地 下 化 し 地 上 部 に LRT を 整 備 する 計 画 を 進 めている 地 域 活 性 化 水 辺 環 境 の 整 備 のため コストの 高 い 地 下 化 案 が 採 用 された 総 事 業 費 31 億 ドルは 連 邦 州 市 等 が 分 担 して 拠 出 している ソ ウルでは 都 心 部 を 東 西 に 流 れる 清 渓 川 (チ ョンゲチョン)は 暗 渠 *3 化 され 上 部 に 高 架 *2 2020 年 には 9 割 が 完 成 予 定 である *3 地 下 に 埋 設 された 水 路 のこと NRI パブリックマネジメントレビュー November 2013 vol.124-3-
道 路 が 整 備 されていたが 周 辺 地 区 の 再 生 の ため 道 路 が 撤 去 され 河 川 が 復 元 された 事 業 費 3,867 億 ウォン( 約 350 億 円 )の 全 額 を 市 が 負 担 し 2 年 という 驚 異 的 なスピードで 工 事 を 成 し 遂 げた インフラを 整 備 すれば 例 外 なく 更 新 期 を 迎 える これを 考 えると 新 規 整 備 だけを 見 込 んだ 現 在 の 資 金 調 達 スキームは 不 十 分 と 言 わざるを 得 ず 法 改 正 による 利 用 者 負 担 の 継 続 を 検 討 する 必 要 があるだろう また 不 動 産 開 発 ポテンシャルが 高 い 東 京 に 立 地 すると いうメリットを 活 かし 特 例 容 積 率 適 用 区 域 制 度 を 活 用 した 空 中 権 の 売 却 ( 東 京 駅 舎 の 復 元 に 用 いられた)など 民 間 資 金 を 活 用 する 方 法 を 検 討 する 必 要 もあろう 地 下 化 を 伴 う 場 合 オリンピックまでに 完 遂 することは 不 可 能 である まずは フラッグシッププロジ ェクトとして 注 目 度 の 高 い 日 本 橋 川 *4 の 再 生 に 着 手 してはどうか これをきっかけ に 東 京 が 大 きく 変 わる 可 能 性 がある 2) 東 京 の 課 題 (ⅱ): 既 成 市 街 地 の 再 構 築 東 京 に 限 らず 世 界 中 の 都 市 で 将 来 世 代 の ニーズを 満 たす 能 力 を 損 なうことなく 現 在 の 世 代 のニーズを 満 たす 持 続 可 能 な 都 市 へ の 再 構 築 が 重 要 なテーマとなっている 新 興 国 の 経 済 成 長 に 伴 い 世 界 中 でメガシティが 誕 生 しつつある 中 新 たにスマートシティを 建 設 する のではとても 対 応 しきれない 既 成 の 都 市 を 再 構 築 していくソリューションの 開 発 が 求 められている 国 際 連 合 World Urbanization Prospects によると 東 京 都 市 圏 は 将 来 (2025 年 )にお いても 世 界 最 大 のメガシティであり 続 ける 東 京 が 環 境 技 術 やバリアフリー 技 術 を 駆 使 した 仕 掛 けを 街 中 で 駆 使 し 成 熟 都 市 を 持 続 可 能 な 都 市 に 再 構 築 していくモデルを 示 すこ とができれば オリンピックは 絶 好 の シテ ィセールス の 場 となるだろう 図 表 5 世 界 の 都 市 圏 人 口 順 位 2010 年 人 口 ( 百 万 人 ) 2025 年 人 口 ( 百 万 人 ) 1 東 京 36.9 東 京 38.7 2 デリー 21.9 デリー 32.9 3 メキシコシティ 20.1 上 海 28.4 4 ニューヨーク 20.1 ムンバイ 26.6 5 サンパウロ 19.6 メキシコシティ 24.6 6 上 海 19.6 ニューヨーク 23.6 7 ムンバイ 19.4 サンパウロ 23.2 8 北 京 15.0 ダッカ 22.9 9 ダッカ 14.9 北 京 22.6 10 コルカタ 14.3 カラチ 20.2 出 所 ) 国 際 連 合 World Urbanization Prospects, the 2011 Revision をもとに NRI 作 成 1 都 心 部 の 自 動 車 利 用 抑 制 オリンピック 開 催 期 間 中 は 選 手 村 や 競 技 場 を 結 ぶ 高 速 道 路 や 主 要 道 に 大 会 関 係 車 両 だけが 走 れる オリンピックレーン ( 計 317km)が 設 置 され また 大 会 関 係 車 両 優 先 の オリンピックプライオリティ ールート ( 計 290km)が 指 定 される そ して 市 民 や 企 業 に 都 心 部 での 自 動 車 利 用 の 抑 制 を 呼 びかけ 交 通 量 を 1 割 削 減 する ことが 目 標 とされている 前 述 の 三 環 状 道 路 の 整 備 が 進 めば 都 心 部 の 通 過 交 通 量 が 減 少 する オリンピック で 自 動 車 利 用 を 控 えるのを 契 機 に ロード プライシング * 5 やパーク&ライドを 推 進 し 都 心 部 の 自 動 車 交 通 抑 制 に 向 けて 取 り 組 ん ではどうか 自 動 車 を 使 わない 生 活 が 根 付 けば 東 京 が 持 続 可 能 な 都 市 に 向 けて 大 きな 一 歩 を 踏 み 出 すことになろう 2 都 心 居 住 の 推 進 東 京 をはじめとする 日 本 の 大 都 市 は そ の 発 展 の 過 程 において 機 能 純 化 が 進 んだ 結 *4 東 京 都 千 代 田 区 と 中 央 区 にある 長 さ 4,840 メートルの 一 級 河 川 で 一 部 分 ( 約 500 メートル)を 除 いて 首 都 高 速 道 路 の 高 架 下 を 流 れている 下 流 に 日 本 橋 が 架 かっている *5 自 動 車 の 道 路 利 用 者 に 課 金 課 税 をすることによって 交 通 量 や 環 境 汚 染 の 低 減 を 図 る 政 策 措 置 をいう NRI パブリックマネジメントレビュー November 2013 vol.124-4-
果 都 心 部 の 人 口 密 度 が 著 しく 低 くなって いる この 結 果 市 民 は 郊 外 住 宅 地 からの 遠 距 離 通 勤 を 強 いられているが 海 外 では こうした 郊 外 に 住 み 都 市 で 働 く ライ フスタイルは 必 ずしも 一 般 的 ではない 都 心 に 住 み 都 心 で 働 く 郊 外 に 住 み 郊 外 で 働 く といった 多 様 な 住 まい 方 が 実 現 されている 図 表 6 世 界 主 要 都 市 の 都 心 部 の 人 口 密 度 出 所 ) 森 記 念 財 団 都 市 戦 略 研 究 所 世 界 の 都 心 総 合 力 インデックス 2010 より 抜 粋 例 えば ウォール 街 があるニューヨーク の 金 融 街 ロウワーマンハッタン 地 区 は 以 前 は 休 日 になると 人 気 がなくなるビジネ ス 街 だったが 都 市 再 生 の 取 り 組 みを 進 め 積 極 的 に 居 住 機 能 を 導 入 した 結 果 この 20 年 で 人 口 密 度 が 2.4 倍 に 増 加 し 158 人 /ha に 達 している これは 東 京 都 心 4 区 ( 千 代 田 区 中 央 区 港 区 新 宿 区 )を 超 える 水 準 である 都 心 居 住 の 推 進 は 自 動 車 を 使 わなくて すむ 都 市 構 造 の 実 現 につながる 都 心 部 へ の 居 住 機 能 及 び 居 住 を 支 える 各 種 生 活 機 能 の 導 入 を 推 進 することが 望 まれる NRI パブリックマネジメントレビュー November 2013 vol.124-5-
図 表 7 ニューヨーク 及 び 東 京 都 心 部 の 人 口 密 度 ( 人 /ha) ロウワーマンハッタン (1990) ロウワーマンハッタン (2000) ロウワーマンハッタン (2010) マンハッタン 全 体 (2010) 千 代 田 区 (2011) 0 100 200 300 41 66 89 158 287 トンの エメラルドネックレス ( 公 園 河 川 緑 豊 かな 街 路 空 間 でつながれた 緑 のネ ットワーク)のような 緑 の 回 廊 を 東 京 の 中 に 出 現 させたり かつては 水 の 都 だっ た 江 戸 の 水 系 を 再 生 させたりしてはどうだ ろう コンクリートジャングルのイメージ が 強 い 東 京 が 実 は 水 と 緑 が 豊 かな 環 境 都 市 だった というのは 海 外 からの 来 訪 者 に 驚 きを 与 えるに 違 いない 東 京 都 心 4 区 (2011) 出 所 )ニューヨーク 市 統 計 より NRI 作 成 図 表 8 ロウワーマンハッタン 地 区 の 居 住 者 像 性 別 男 性 (39%), 女 性 (61%) 業 種 出 所 )Alliance for Downtown New York Survey of Lower Manhattan Residents - Summary of Findings ( 2010.5)をもとに NRI 作 成 3 都 市 緑 化 の 推 進 116 金 融 保 険 不 動 産 (29%) ヒ シ ネスサーヒ ス(14%) 広 告 出 版 (14%) 世 帯 平 均 年 収 18.8 万 ドル(1,880 万 円 ) 徒 歩 通 勤 の 割 合 30% 自 宅 勤 務 の 割 合 14% ロウワーマンハッタンに 住 む 理 由 東 京 の 緑 被 率 は ニューヨークやパリな どの 海 外 都 市 と 比 べて 著 しく 低 いわけでは ない しかし 戸 建 住 宅 内 の 庭 木 や 皇 居 など 市 民 が 立 ち 入 ることができない 緑 地 が 多 く 自 然 の 森 や 林 などを 体 験 できる 空 間 は 限 られているのが 現 状 である これまでに 実 施 された 数 々の 都 市 再 生 プ ロジェクトにより 東 京 の 都 市 景 観 は 大 き く 変 わってきた 丸 の 内 はビジネス 街 から 商 業 文 化 機 能 を 備 えた 魅 力 的 なまちに 変 貌 を 遂 げ 虎 ノ 門 には 密 集 市 街 地 の 真 ん 中 を 貫 く 緑 豊 かな 街 路 が 出 現 する 予 定 である 今 後 東 京 で 予 定 されている 都 市 開 発 事 業 やインフラ 更 新 事 業 の 連 携 を 図 り ボス 3) 東 京 の 課 題 (ⅲ):ガラパゴス 化 外 国 人 人 口 が 極 端 に 少 ない という 意 味 で 東 京 は 世 界 の 主 要 都 市 の 中 で 最 も 国 際 化 が 遅 れた 都 市 の 一 つである 日 本 で 外 国 人 が 比 較 的 多 い 東 京 でも 100 人 中 1 人 か 2 人 しかいな いが 例 えば トロントでは 2 人 に 1 人 が 外 国 人 である 図 表 9 主 要 都 市 における 外 国 生 まれ 人 口 の 割 合 1 生 活 の 質 (87%) 2 住 宅 の 質 (84%) 0% 20% 40% 60% 3 公 共 交 通 アクセス(82%) 4 安 全 性 (81%) 5 公 園 水 辺 へのアクセス(75%) トロント 45% 香 港 ニューヨーク ロンドン サンフランシスコ アムステルダム シンガポール ストックホルム ウィーン シカゴ ベルリン パリ 東 京 ソウル 2% 1% 注 )データ 年 次 は 2001~2010 年 ( 都 市 によって 異 なる) 出 所 ) World Cities Culture Report, Migration Policy Institute 等 より NRI 作 成 ビジネス 面 でも 国 際 化 の 遅 れが 目 立 つ 日 本 は 主 要 国 の 中 で 海 外 からの 直 接 投 資 が 極 めて 少 ない 国 の 一 つであり GDP に 対 する 割 合 で 見 ると 先 進 国 BRICs 及 びアジア 諸 国 の 中 で 最 下 位 である 13% 12% 18% 18% 18% 31% 30% 28% 27% 37% 43% NRI パブリックマネジメントレビュー November 2013 vol.124-6-
150 図 表 10 主 要 国 の 対 内 直 接 投 資 残 高 IRL 125 対 内 直 接 投 資 残 高 ( 対 G D P 比, 2012 年 ) 100 75 50 25 0 ISL EST HUN CZE CHL SVK KHM PRT VNM NZL DNK POL MYS THA AUT NOR FIN SVN ISR LAO IDN MMR TUR GRC TWN KOR IND PHL JPN MEX SWE ITA RUS NLD ESP CHE AUS CAN BRA DEU 0 250 500 750 1,000 1,250 1,500 対 内 直 接 投 資 残 高 ( 十 億 ドル,2012 年 ) OECD( 欧 州 ) OECD( 米 州 ) OECD(アジア オセアニア) BRICS その 他 アジア CHN FRA GBR 出 所 )UNCTAD World Investment Report より NRI 作 成 多 国 籍 企 業 のアジア オセアニア 統 括 拠 点 の 立 地 国 を 見 ると すべての 統 括 機 能 でシン ガポール 香 港 中 国 がトップ 3 を 占 めてお り 日 本 は 後 塵 を 拝 している 図 表 11 多 国 籍 企 業 の 統 括 拠 点 の 立 地 国 1 位 2 位 3 位 経 営 企 画 機 能 シンガポール 中 国 香 港 営 業 販 売 マーケティング 機 能 シンガポール 中 国 香 港 研 究 開 発 機 能 中 国 シンガポール 香 港 製 造 加 工 機 能 中 国 シンガポール 香 港 物 流 機 能 中 国 シンガポール 香 港 金 融 財 務 機 能 シンガポール 香 港 中 国 人 事 人 材 育 成 機 能 シンガポール 香 港 中 国 出 所 ) 経 済 産 業 省 平 成 22 年 度 外 資 系 企 業 動 向 調 査 より NRI 作 成 こうした 現 状 に 対 し 政 府 は アジア 拠 点 化 対 日 投 資 促 進 プログラムフォローアップ (2012 年 6 月 ) 日 本 再 興 戦 略 (2013 年 6 月 )において 2020 年 までに 対 日 直 接 投 資 残 高 外 資 系 企 業 雇 用 者 数 を 倍 増 させ 多 国 籍 企 業 の 高 付 加 価 値 拠 点 を 毎 年 30 件 ずつ 誘 致 していく 目 標 を 掲 げ 取 り 組 みを 進 めている 現 在 検 討 が 進 められている 国 家 戦 略 特 区 でも これらの 目 標 に 寄 与 する 実 験 的 な 施 策 案 が 民 間 から 多 数 寄 せられている オリンピックは 世 界 中 の 注 目 が 東 京 に 集 ま る 絶 好 の 機 会 である これからは 東 京 の 弱 み を 克 服 するとともに 強 み を 強 化 する 取 り 組 みを 重 層 的 に 行 っていく 必 要 がある NRI パブリックマネジメントレビュー November 2013 vol.124-7-
オリンピックの 場 での 一 回 きりの おもてな し に 終 わるのではなく 外 国 人 外 国 企 業 きる 環 境 を 整 備 していくことこそが 重 要 であ る が 違 和 感 なく 居 住 できる 環 境 ビジネスがで 図 表 12 世 界 の 都 市 総 合 力 ランキング (2012 年 )で 把 握 される 東 京 の 強 みと 弱 み 経 済 研 究 開 発 文 化 交 流 1~10 位 GDP 研 究 者 数 美 術 館 博 物 館 数 世 界 トップ300 企 業 研 究 開 発 費 食 事 の 魅 力 政 治 経 済 商 機 のリスク 産 業 財 産 権 ( 特 許 )の 登 録 数 主 要 な 世 界 的 文 化 イベント 開 催 件 数 証 券 取 引 所 の 株 式 時 価 総 額 数 学 科 学 に 関 する 学 力 留 学 生 数 対 事 業 所 サービス 業 従 業 者 数 世 界 トップ200 大 学 買 物 の 魅 力 優 秀 な 人 材 確 保 の 容 易 性 国 際 コンベンション 開 催 件 数 従 業 者 数 文 化 歴 史 伝 統 への 接 触 機 会 一 人 当 たりGDP 劇 場 コンサートホール 数 11~20 位 賃 金 水 準 外 国 人 研 究 者 の 受 入 態 勢 外 国 人 居 住 者 数 経 済 自 由 度 主 要 科 学 技 術 賞 受 賞 者 数 アーティストの 創 作 環 境 研 究 者 の 交 流 機 会 ハイクラスホテル 客 室 数 スタジアム 数 海 外 からの 訪 問 者 数 ホテル 総 数 21~30 位 一 人 当 たりオフィス 面 積 コンテンツ 輸 出 額 ユネスコ 世 界 遺 産 (100km 圏 ) 31~40 位 法 人 税 率 GDP 成 長 率 居 住 交 通 アクセス 環 境 1~10 位 健 康 寿 命 公 共 交 通 の 充 実 正 確 さ ISO14001 取 得 企 業 数 小 売 店 舗 の 充 実 度 滑 走 路 本 数 CO2 排 出 量 飲 食 店 の 充 実 度 公 共 交 通 ( 地 下 鉄 )の 駅 密 度 水 質 人 口 当 たり 殺 人 件 数 人 口 当 たり 交 通 事 故 死 亡 者 数 リサイクル 率 人 口 密 度 通 勤 通 学 の 利 便 性 気 温 の 快 適 性 国 際 線 旅 客 数 11~20 位 地 域 コミュニティの 良 好 さ 国 際 線 直 行 貨 物 便 就 航 都 市 数 SO2 濃 度 NO2 濃 度 災 害 に 対 する 脆 弱 性 外 国 人 人 口 当 たりの 外 国 人 学 校 数 完 全 失 業 率 従 業 員 の 生 活 満 足 度 21~30 位 賃 貸 住 宅 平 均 賃 料 国 際 線 直 行 便 就 航 都 市 数 SPM 濃 度 人 口 当 たりの 医 師 数 タクシー 運 賃 都 心 部 の 緑 被 状 況 総 労 働 時 間 31~40 位 物 価 水 準 都 心 から 国 際 空 港 までのアクセス 時 間 再 生 可 能 エネルギーの 比 率 注 ) 同 ランキングにおける 評 価 対 象 都 市 は 以 下 の 40 都 市 アジア: 東 京 大 阪 福 岡 ソウル 台 北 北 京 上 海 香 港 シンガポール バンコク クアラルン プール ムンバイ イスタンブール ヨーロッパ:ロンドン パリ ベルリン フランクフルト ミラノ マドリッド バルセロナ アムス テルダム ブリュッセル チューリヒ ジュネーブ コペンハーゲン ストックホルム ウィーン モ スクワ アメリカ:ニューヨーク ワシントン DC ボストン シカゴ ロサンゼルス サンフランシスコ トロ ント バンクーバー メキシコシティ サンパウロ その 他 :カイロ シドニー 出 所 ) 森 記 念 財 団 都 市 戦 略 研 究 所 世 界 の 都 市 総 合 力 ランキング (2012 年 )をもとに NRI 作 成 NRI パブリックマネジメントレビュー November 2013 vol.124-8-
3. 取 り 組 みに 際 しての 留 意 点 の 訓 練 や 認 定 を 行 っている わが 国 でもこう した 仕 組 みの 創 設 を 検 討 してはどうだろうか 1) 民 間 投 資 の 活 用 現 在 日 本 政 府 ( 国 地 方 の 合 計 )の 債 務 残 高 は GDP 比 224%に 達 する これは イタ リア(130%) アメリカ(113%) イギリス (110%) フランス(108%) ドイツ(86%) と 比 べ 圧 倒 的 に 高 い 水 準 である こうした 財 政 状 況 を 考 えると インフラ 投 資 を 国 債 発 行 に 頼 って 行 うのは 避 けるべきである 料 金 徴 収 型 のインフラはできる 限 り 利 用 者 の 負 担 で 賄 い それ 以 外 のインフラは 空 中 権 の 売 却 等 の 民 間 投 資 の 活 用 方 策 を 検 討 する 必 要 があ る 3) 世 界 に 向 けた 情 報 発 信 日 本 経 済 は 安 定 成 長 期 が 終 焉 した 1991 年 以 降 失 われた 20 年 と 呼 ばれる 低 迷 期 が 続 いてきた 都 市 の 再 構 築 に 向 けたさまざ まな 実 験 を 行 う 中 で 低 迷 期 から 脱 却 する 糸 口 を 見 つけたい オリンピック 開 催 まで 東 京 の 動 きは 何 か と 世 界 の 注 目 を 集 めることになる この 貴 重 な 機 会 を 最 大 限 に 活 かし 東 京 がさまざまな チャレンジを 行 い 生 まれ 変 わっていく 姿 を 世 界 に 向 けて 強 く 発 信 すべきである 東 京 はコンパクトな 計 画 が 支 持 されて オ リンピック 開 催 地 に 選 出 された あくまで 今 後 確 実 にやらなければならないもの 東 京 の 競 争 力 向 上 に 寄 与 するものを 選 択 して 行 うべきである 2) 建 設 部 門 労 働 者 の 育 成 確 保 1990 年 代 半 ば 以 降 公 共 投 資 の 抑 制 に 伴 い 建 設 市 場 は 急 速 に 落 ち 込 み 建 設 業 従 事 者 数 は 大 幅 に 減 少 してきた このような 中 震 災 復 興 や 景 気 回 復 に 伴 う 需 要 の 増 加 により 人 件 費 資 材 費 が 高 騰 している 今 後 オリン ピック 関 連 の 建 設 需 要 が 上 乗 せされると 需 給 はさらに 逼 迫 することになり 民 間 の 投 資 意 欲 を 減 退 させることにもなりかねない 若 年 層 の 失 業 が 問 題 となる 中 職 業 訓 練 による 若 年 労 働 者 の 育 成 確 保 を 検 討 すべきではな いか また 長 期 的 に 老 朽 化 したインフラの 修 繕 更 新 に 一 定 の 建 設 需 要 が 見 込 まれること を 考 えると 国 を 挙 げて 建 設 技 能 労 働 者 の 育 成 非 熟 練 労 働 者 の 訓 練 体 制 の 構 築 に 取 り 組 む 必 要 がある 韓 国 では 橋 梁 の 崩 落 事 故 が 頻 発 したのをきっかけに 国 家 機 関 KISTEC ( 韓 国 施 設 安 全 公 団 )を 創 設 し 建 設 技 術 者 筆 者 小 林 庸 至 (こばやし ようじ) 株 式 会 社 野 村 総 合 研 究 所 社 会 システムコンサルティング 部 上 級 コンサルタント 専 門 は 社 会 資 本 政 策 国 土 都 市 政 策 など E-mail: y3-kobayashi@nri.co.jp NRI パブリックマネジメントレビュー November 2013 vol.124-9-