卒 業 論 文 証 券 業 界 における 規 模 の 経 済 性 について 千 葉 大 学 法 経 学 部 経 済 学 科 大 鋸 ゼミナール 09A2168H 山 岸 美 保 子
目 次 1. はじめに 2. 証 券 業 界 の 概 要 2-1 証 券 会 社 の 動 向 2-2 大 手 証 券 会 社 とネット 証 券 会 社 の 現 状 2-3 証 券 会 社 の 収 益 構 造 2-4 先 行 研 究 3. 分 析 3-1 規 模 の 経 済 性 と 生 産 関 数 3-2 生 産 関 数 の 推 定 3-3 生 産 関 数 の 推 定 結 果 4. 結 論 と 課 題 5. 参 考 文 献 6. 付 録 1
1.はじめに 本 研 究 は 日 本 の 証 券 会 社 の 収 益 と 費 用 の 関 係 を 規 模 の 経 済 性 という 観 点 から 検 証 し 収 益 向 上 の 手 かがりを 見 つけだすことを 目 的 としている 今 日 の 証 券 業 界 は ネット 証 券 が 拡 大 し 投 資 がより 便 利 で 手 軽 に 行 えるようになり その 手 数 料 の 安 さや 少 額 投 資 ができることにより 投 資 人 口 を 増 やす 手 助 けになっている 一 方 で 証 券 会 社 にとっては 手 数 料 が 大 きな 収 益 源 であるため 収 益 の 減 少 をもたらし 図 1 からもわかるようにかつてより 収 益 は 大 きく 減 少 している よって 証 券 業 界 はこれまでの 対 面 営 業 を 中 心 とした 営 業 スタイルを 変 えざるを 得 ない 状 況 にある こうした 現 状 から 証 券 会 社 の 売 上 を 伸 ばすためにどのような 経 営 努 力 を 行 うべきであるかを 計 量 的 手 法 によ って 分 析 する 本 研 究 ではコブ ダグラス 型 の 費 用 関 数 を 想 定 し 規 模 弾 力 性 を 推 計 することによって 規 模 の 経 済 性 を 分 析 する 推 計 にあたり 生 産 物 は 営 業 収 入 と 定 義 し 具 体 的 には 委 託 手 数 料 収 入 引 受 売 出 業 務 からの 収 入 募 集 売 出 の 取 扱 業 務 からの 収 入 トレーディン グ 損 益 を 取 り 上 げる 生 産 要 素 は 労 働 資 本 を 表 すものとして 従 業 員 数 と 物 件 費 ( 不 動 産 関 係 費 事 務 費 減 価 償 却 費 合 計 )を 考 えた またサンプルはこれらのデータ 入 手 可 能 な 20 社 で 計 測 期 間 は 2002 年 から 2011 年 までの 10 年 間 とした また 大 手 準 大 手 証 券 と ネット 証 券 各 5 社 のそれぞれの 分 析 も 行 った 推 計 の 結 果 証 券 会 社 全 体 として 営 業 収 益 の 規 模 の 経 済 性 は 認 められたが 営 業 収 益 の 大 半 を 占 める 委 託 手 数 料 収 入 については 認 められなかった それに 対 し 引 受 売 出 手 数 料 収 入 の 規 模 弾 性 値 は 有 意 に 1 を 大 きく 超 えており 規 模 の 経 済 性 が 認 められた しかし 中 には 説 明 変 数 の 係 数 がマイナスとなるものもみられ 資 本 の 増 加 には 慎 重 を 要 するとい える 大 手 5 社 とネット 5 社 を 比 較 してみると 規 模 弾 性 値 に 大 きな 違 いはなくても 説 明 変 数 の 係 数 の 値 がネット 証 券 でマイナスになることが 目 立 った これはネット 証 券 の 業 務 形 態 から 考 えて わずかな 人 員 で 業 務 を 行 えることからも 必 要 以 上 の 資 本 投 入 はかえって 収 入 の 減 少 を 引 き 起 こすということがいえる また 全 ての 分 析 を 通 して 引 受 売 出 手 数 料 収 入 の 規 模 弾 性 値 が 高 かったことから 証 券 会 社 全 体 において 有 価 証 券 の 引 受 や 販 売 の 業 務 に 重 点 を 置 くとより 収 入 の 増 加 が 期 待 できるということがわかった 今 回 の 研 究 において 規 模 の 経 済 性 の 存 在 が 認 められたものの 説 明 変 数 の 係 数 がマイナ スとなることが 多 くみられた 従 業 員 やその 他 経 費 の 資 本 の 増 員 には 十 分 な 検 討 が 必 要 で あると 考 えられる また 今 後 のネット 証 券 の 拡 大 を 考 えても 資 本 の 投 入 にはより 慎 重 にな るべきであり HPの 充 実 など 多 くの 費 用 を 要 せずとも 人 々に 広 く 伝 わるネット 関 連 に 力 を 入 れていくことが 重 要 であると 考 えられる 本 論 文 の 構 成 は 以 下 のようになっている まず 2 章 で 証 券 業 界 について 説 明 し 先 行 研 究 を 挙 げる そして 3 章 で 規 模 の 経 済 性 についての 分 析 をし 4 章 で 結 論 と 課 題 を 述 べてい る 2
2. 証 券 業 界 の 概 要 2-1 証 券 会 社 の 動 向 図 2 1 によると 証 券 会 社 の 数 は 2003 年 からは 年 々 増 加 したが 2008 年 を 機 に 再 び 減 少 傾 向 である 2003 年 以 降 規 制 緩 和 の 浸 透 や 良 好 な 市 場 環 境 などを 背 景 として 金 融 先 物 取 引 業 者 やネット 取 引 業 者 投 信 販 売 に 特 化 した 証 券 会 社 の 新 規 参 入 が 相 次 いだ 2007 年 2008 年 の 世 界 的 金 融 危 機 により 財 務 状 況 が 悪 化 し 2009 年 以 降 金 融 商 品 取 引 業 を 廃 止 する 証 券 会 社 が 増 加 し 現 在 の 数 字 に 至 っている 図 2-2 によると 証 券 会 社 全 体 の 従 業 員 数 営 業 所 の 数 は 2003 年 から 2008 年 にかけ 年 々 増 加 したが それ 以 降 減 少 し 続 け 2011 年 にはピーク 時 の 約 90%にまで 減 少 している また 証 券 会 社 の 数 に 対 し 営 業 所 や 従 業 者 の 数 が 大 きく 減 少 している これは 投 資 家 の 株 式 離 れに 加 えて 株 式 委 託 手 数 料 の 値 下 げ 競 争 が 激 化 し 証 券 会 社 の 収 益 が 悪 化 して 多 く の 営 業 所 や 従 業 者 を 維 持 することができなくなったためだと 考 えられる また 最 近 では ネット 取 引 が 普 及 し 図 2-3 からわかるようにネット 口 座 も 年 々 増 加 しており こうした ネット 取 引 の 普 及 が 営 業 所 や 営 業 マンの 数 の 減 少 に 拍 車 をかけていると 考 えられる 80 年 代 の 金 融 自 由 化 により 証 券 会 社 の 経 営 環 境 は 大 きく 変 わった 97 年 に 4 社 寡 占 体 制 の 一 角 を 占 めていた 山 一 證 券 が 自 主 廃 業 し 事 実 上 倒 産 した また 経 営 困 難 に 陥 った 準 大 手 証 券 中 堅 証 券 の 再 編 が 相 次 いだ 同 時 に 証 券 業 界 への 新 規 参 入 促 進 も 業 界 地 図 を 大 きく 変 え 89 年 に 証 券 会 社 の 設 立 は 免 許 制 から 届 出 制 に 変 わり 他 産 業 からの 参 入 が 容 易 となった 新 規 参 入 企 業 との 競 争 から 守 られてきた 証 券 業 界 は これを 機 に 抜 本 的 な 経 営 の 見 直 しを 迫 られることにな った 異 業 種 からの 参 入 としては ソニーがマネックス 証 券 に 出 資 したり インターネッ ト 企 業 の 楽 天 が DLJ ディレクト 証 券 (2004 年 7 月 に 社 名 を 楽 天 証 券 に 改 称 )を 買 収 した している こうした 新 規 参 入 証 券 の 特 徴 は 多 くがネット 証 券 である 従 来 の 店 舗 を 設 置 し 大 量 のセールスマンを 投 入 する 営 業 形 態 は 収 益 性 が 低 いため 低 い 手 数 料 を 武 器 に ネット 取 引 を 拡 大 することで 独 自 の 営 業 基 盤 を 確 立 している 2-2 大 手 証 券 会 社 とネット 証 券 会 社 の 現 状 表 2-1 によると 証 券 会 社 大 手 5 社 の 平 成 23 年 4 月 1 日 ~ 平 成 23 年 12 月 31 日 までの 業 績 は 野 村 HD 大 和 証 券 みずほ 証 券 は 赤 字 で 黒 字 を 維 持 している 三 菱 と 日 興 も 前 年 同 期 比 では 大 幅 な 減 少 となっている 同 条 件 でネット 証 券 大 手 5 社 を 見 てみると 純 利 益 は 軒 並 み 前 年 同 期 比 で 大 幅 な 減 少 になっているが 各 社 黒 字 は 維 持 しており 大 手 証 券 会 社 と の 明 暗 が 分 かれた 形 となっている 証 券 業 界 は 他 業 種 に 比 べ 給 料 が 高 く 現 状 のような 厳 しい 市 場 環 境 では 人 件 費 が 抑 えられるネット 証 券 の 方 が 黒 字 を 確 保 しやすく マネックス グループの HP によると 費 用 額 のうち 人 件 費 が 占 める 比 率 は 大 手 証 券 会 社 だと 50% 程 度 (40~60%)であるところ 当 会 社 は 20% 弱 と 表 記 している 現 に 大 手 証 券 会 社 は 大 3
幅 な 人 員 削 減 などコスト 圧 縮 を 推 進 している 今 後 もネット 取 引 が 伸 びていくことは 明 ら かで 対 面 営 業 中 心 としてきた 証 券 会 社 でもネット 取 引 口 座 は 年 々 増 加 傾 向 にある 2-3 証 券 会 社 の 収 益 構 造 証 券 会 社 の 営 業 収 益 は 受 取 手 数 料 ( 委 託 手 数 料 引 受 売 出 手 数 料 募 集 売 出 しの 取 扱 手 数 料 その 他 受 取 手 数 料 ) トレーディング 損 益 からなる また 証 券 業 務 は 発 行 市 場 に おけるアンダーライター 業 務 と 流 通 市 場 におけるディーラー 業 務 及 びブローカー 業 務 に 分 けられ アンダーライター 業 務 とは 有 価 証 券 の 引 受 及 び 売 出 を 行 う 業 務 である ディー ラー 業 務 とは 証 券 会 社 が 顧 客 または 他 の 証 券 会 社 から 有 価 証 券 を 買 い またはこれらに 対 して 自 己 の 有 価 証 券 を 売 却 する 業 務 である また ブローカー 業 務 とは 顧 客 の 計 算 にお いて 行 う 有 価 証 券 の 売 買 の 媒 介 取 次 などの 業 務 である アンダーライター 業 務 から 得 ら れる 収 益 が 引 受 売 出 手 数 料 および 募 集 売 出 の 取 扱 手 数 料 であり ディーラー 業 務 がト レーディング 損 益 ブローカー 業 務 が 委 託 手 数 料 となっている 原 田 福 田 (2010)はバブル 崩 壊 後 の 証 券 業 界 の 業 容 変 化 に 関 する 分 析 を 行 っており それ によると 株 式 委 託 手 数 料 が 自 由 化 されるまでの 時 期 (1987 年 から 1999 年 )は 売 買 代 金 と 証 券 会 社 の 経 常 損 益 の 相 関 は 0.96 と 非 常 に 強 いのに 対 し 株 式 委 託 手 数 料 自 由 化 後 の 時 期 (2000 年 から 2009 年 )は 相 関 係 数 が 0.33 にまで 低 下 していると 述 べている 株 式 委 託 手 数 料 の 自 由 化 以 降 証 券 会 社 は 株 式 委 託 手 数 料 収 入 に 頼 れなくなっている 2-4 先 行 研 究 大 手 中 規 模 の 証 券 業 界 の 個 別 の 財 務 データを 用 いた 分 析 としては 規 模 の 経 済 性 の 研 究 を 行 っている 村 山 渡 辺 (1989)が 挙 げられる この 研 究 は 生 産 物 を 営 業 収 益 生 産 要 素 として 従 業 員 数 固 定 資 産 および 有 利 子 負 債 残 高 としてわが 国 の 証 券 業 トップ 10 社 に ついて 規 模 の 経 済 性 を 分 析 している また 証 券 会 社 の 業 務 を 株 式 売 買 の 取 り 次 ぎとその 他 業 務 に 二 分 し 業 務 別 の 規 模 の 経 済 性 を 測 定 している それによると 証 券 会 社 間 に 規 模 の 経 済 性 が 存 在 する つまり 事 業 規 模 が 大 きくなればなるほど 単 位 当 たりのコストが 小 さ くなり 競 争 上 有 利 になることがわかった また 業 務 別 にみても 両 業 務 ともほぼ 規 模 の 経 済 性 が 見 られ 委 託 売 買 業 務 よりもその 他 業 務 のほうが 規 模 の 経 済 性 が 大 きいという 結 果 にいたった この 結 果 より 規 模 の 経 済 性 の 存 在 を 前 提 としたとき 証 券 業 において 規 模 拡 大 による 生 産 効 率 促 進 よりも 競 争 促 進 による 資 源 配 分 の 効 率 促 進 に 重 点 を 置 くべきであり 中 でもその 他 業 務 において より 競 争 促 進 政 策 がとられるべきであると 結 論 付 けている 上 記 の 研 究 は 1978 年 ~1987 年 までのデータであり また 証 券 業 務 を 単 に 二 分 して 多 様 性 を 考 慮 していない またより 具 体 的 な 業 務 の 促 進 については 不 明 確 である 近 年 の 証 券 市 場 は 手 数 料 の 自 由 化 やネット 証 券 の 参 入 など 以 前 とは 大 きく 様 変 わりしており 業 務 も 多 様 化 している そういった 観 点 を 考 慮 しつつ 本 研 究 では 証 券 会 社 の 売 上 げを 伸 ば すためには どこに 重 点 をおいた 経 営 をしていくべきかを 検 証 する 4
3. 分 析 3-1 規 模 の 経 済 性 と 生 産 関 数 本 研 究 では 規 模 の 経 済 性 という 観 点 から 分 析 を 行 う 規 模 の 経 済 性 とは 企 業 が 生 産 規 模 を 拡 大 した 時 に 生 産 の 効 率 性 がよくなることをいう 言 い 換 えれば 資 本 や 労 働 などの 生 産 要 素 の 投 入 量 を 増 加 させたとき 生 産 量 が 比 例 的 以 上 に 増 大 することであ る いま m 種 の 生 産 要 素 から 単 一 の 生 産 物 が 作 られるという 関 係 をあらわすものとして 生 産 関 数 を 考 える Y を 産 出 量 X を 投 入 量 とし 生 産 関 数 を Y=f(X)と 書 く 例 えば X=(x1,x2, xm)で x1 は 労 働 量 x2 は 資 本 設 備 量 などを 表 す 規 模 の 経 済 性 とは 投 入 量 をすべて n 倍 にしたときに 産 出 量 が n 倍 になることをいうのであるから と 定 義 される > 収 穫 逓 増 ( 規 模 の 経 済 ) f(nx) = nf(x) 規 模 に 関 する 収 穫 一 定 < 収 穫 逓 減 ( 規 模 の 不 経 済 ) また 生 産 要 素 構 成 比 を 一 定 に 保 った 場 合 の 生 産 要 素 規 模 をμとするとμに 関 する 生 産 量 の 弾 力 性 が 規 模 弾 力 性 として 定 義 される つまり 規 模 弾 力 性 は 生 産 要 素 の 投 入 規 模 の 増 加 率 dμ/μに 対 する 生 産 量 の 増 加 率 dy/y の 比 として 次 のように 定 義 される 規 模 弾 力 性 :k= dd/y dμ/μ したがって 規 模 弾 力 性 kが1より 大 きいとき 生 産 要 素 規 模 の 増 加 率 よりも 生 産 量 の 増 加 率 が 大 きく 規 模 の 経 済 性 があるといえる また k=1のときは 規 模 に 関 する 収 穫 一 定 k<1 のときは 規 模 の 不 経 済 を 意 味 する 規 模 の 経 済 性 の 有 無 を 判 定 するには 生 産 関 数 を 推 計 し 規 模 弾 力 性 を 計 算 すればよい ことになる 3-2 生 産 関 数 の 推 定 生 産 関 数 を 推 定 するにあたり 生 産 物 と 生 産 要 素 を 定 義 する 必 要 がある 証 券 会 社 のト ータルの 活 動 から 生 まれる 生 産 物 として 営 業 収 入 を 用 いる また 業 務 別 に 生 まれる 生 産 物 として 委 託 手 数 料 収 入 引 受 売 出 手 数 料 収 入 募 集 売 出 の 取 扱 手 数 料 収 入 トレーデ ィング 損 益 を 取 り 上 げる これらの 収 入 とその 他 収 入 を 合 わせたものが 営 業 収 入 であるが 本 研 究 ではその 他 収 入 についての 分 析 は 行 わない 次 に 生 産 関 数 の 説 明 変 数 である 生 産 要 素 としては 労 働 と 資 本 を 表 す 指 標 として 従 業 員 数 と 物 件 費 を 用 いる 5
生 産 物 と 生 産 要 素 の 関 係 を 表 す 生 産 関 数 としてはコブ ダグラス 型 の 関 数 形 を 想 定 し 以 下 の 回 帰 式 を 最 小 2 乗 法 で 推 計 した コブ ダグラス 型 生 産 関 数 Y i = α 0 K α i L β i ε i (1) Y は 生 産 物 Kは 資 本 投 入 量 Lは 労 働 投 入 量 を 表 す 本 研 究 では 生 産 物 Yを 前 述 した 営 業 収 入 と 4 つの 収 入 項 目 とし Kを 物 件 費 Lを 従 業 員 数 とした (1) 式 を 対 数 変 換 すると lny i = a 0 + αlnk i + βlnl i + ε i (2) となり a 0 は 定 数 項 α βは 推 計 される 各 係 数 を 表 す また 規 模 弾 力 性 kは(3) 式 のようになる k=α + β (3) なお 分 析 するデータは 2002 年 3 月 決 算 期 から 2011 年 3 月 決 算 期 までの 10 年 間 とす る サンプル 数 は 20 社 であるが 対 数 変 換 のため 収 入 項 目 がマイナスとなるデータは 除 い た 3-3 生 産 関 数 の 推 計 結 果 前 節 で 説 明 した 5 つの 生 産 物 の 規 模 弾 力 性 の 推 計 結 果 は 表 3-1 2 3 のようになった 全 体 の 分 析 を 通 して 営 業 収 益 の 規 模 弾 性 値 が 有 意 1に 1 を 超 えるか 1 に 近 い 値 となってい るが 営 業 収 益 の 大 半 を 占 める 委 託 手 数 料 収 入 の 値 はどれも 有 意 に 1 を 下 回 った それに 対 し 引 受 売 出 手 数 料 収 入 の 値 はどれも 有 意 に 1 を 大 きく 超 えており 規 模 の 経 済 性 が 認 められた しかしネット 証 券 の 分 析 結 果 を 見 ると 物 件 費 の 説 明 変 数 の 値 がマイナスと なっている これは 物 件 費 を 増 やすことにより 収 入 が 減 少 することを 意 味 する ネット 証 券 の 他 の 収 入 を 対 象 とした 分 析 結 果 を 見 ても 説 明 変 数 の 係 数 にマイナスが 目 立 つ これは ネット 証 券 の 業 務 形 態 から 従 来 よりも 少 ない 人 員 で 業 務 を 行 えるためだと 考 えられる 必 要 以 上 の 資 本 投 入 はかえって 収 入 の 減 少 を 引 き 起 こしてしまうということがわかった 1 (1) 式 において 仮 説 検 定 を 行 う 帰 無 仮 説 H 0 :α + β = 1 対 立 仮 説 H 1 :α + β 1 で 帰 無 仮 説 の 制 約 下 での 対 数 モデルは 次 のように 展 開 される α + β = 1より β =1 α と 変 形 して 対 立 モデルに 代 入 すると,lnY i = a 0 + αlnk i + (1 α)lnl i + ε i = a 0 + α(lnk i lnl i ) + lnl i + ε i よって lny i lnl i = a 0 + α(lnk i lnl i ) + ε i が 帰 無 仮 説 の 回 帰 式 となり 制 約 下 モデルの 残 差 平 方 和 と 制 約 なしモデルの 残 差 平 方 和 を 用 い て 検 定 統 計 量 を 算 出 し F 検 定 を 行 う 6
また 委 託 手 数 料 収 入 において 証 券 会 社 全 体 では 従 業 員 数 の 係 数 がマイナスとなっている ことから 人 員 をあまり 割 くべきではないといえるが 大 手 証 券 の 係 数 の 値 はプラスにな っている 大 手 証 券 では 営 業 マンを 主 体 とした 業 務 形 態 であるため やはり 人 員 は 必 要 で あるということがいえる その 他 収 入 項 目 については 証 券 会 社 全 体 としては 規 模 の 経 済 性 が 認 められたものの 大 手 5 社 には 認 められず ネット 証 券 の 方 で 規 模 の 経 済 性 が 認 められた よってこれらの 収 入 に 関 わる 業 務 はネット 証 券 において 資 本 の 増 加 により 収 入 の 増 加 が 期 待 できると 考 えられる 以 上 で 得 られた 結 果 から 証 券 会 社 全 体 については 引 受 売 出 し 手 数 料 収 入 の 規 模 弾 性 値 が 高 かったことから 有 価 証 券 の 引 き 受 け 業 務 に 重 点 を 置 くとよいといえる しかし 引 受 業 務 は 証 券 会 社 が 新 株 式 や 新 債 券 をいったん 買 い 取 り 広 く 投 資 家 へ 販 売 する 業 務 で 引 き 受 け た 後 に 全 部 売 りきることができなければ 証 券 会 社 が 引 き 取 らなければならないというリスクを 負 う よって 安 易 に 引 受 業 務 を 拡 大 することは 危 険 であるため 経 営 を 見 直 す 際 の 参 考 として 考 えることが 望 ましい また 大 手 証 券 とネット 証 券 の 比 較 より 結 果 の 違 いからみても 両 者 の 業 務 形 態 の 違 いが 伺 える ネット 証 券 については 説 明 変 数 の 係 数 の 値 がマイナスになることが 多 くみられ これはネット 証 券 の 業 務 形 態 から 考 えて わずかな 人 員 で 業 務 を 行 えることからも 必 要 以 上 の 資 本 投 入 はかえ って 収 入 の 減 少 を 引 き 起 こすということがいえる 4. 結 論 と 課 題 以 上 本 研 究 では 証 券 業 務 を 規 模 の 経 済 性 という 観 点 から 検 証 した 今 回 の 研 究 におい て 規 模 の 経 済 性 の 存 在 が 認 められたものの 説 明 変 数 の 係 数 がマイナスとなることが 多 く みられた 単 に 資 本 を 投 入 すれば 収 入 も 増 えるというわけにはいかず 従 業 員 やその 他 経 費 の 増 員 には 十 分 な 見 直 しが 必 要 であると 考 えられる また 今 後 ネット 証 券 が 拡 大 してい くことは 明 らかなので 資 本 の 投 入 にはより 慎 重 になるべきであるといえる 従 業 員 や 営 業 所 を 増 やすより 多 くの 費 用 を 要 しないネット 関 連 に 力 をいれていくことがよいと 考 え られる このように 今 後 も 人 員 削 減 が 進 行 するであろう 証 券 業 界 において ネット 証 券 の さらなる 利 便 性 従 業 員 の 質 や 知 識 の 向 上 により 証 券 業 界 の 発 展 を 目 指 していくことが 必 要 であると 考 えられる 今 後 の 課 題 としては 今 回 の 研 究 はサンプル 数 が 財 務 諸 表 データが 公 開 されている 20 社 に 限 られていることもあり 統 計 的 に 有 意 な 結 果 が 十 分 に 得 られなかった よって 200 社 を 超 えるわが 国 証 券 業 界 全 体 について 論 ずるには 不 十 分 である また 生 産 物 や 生 産 要 素 と して 用 いる 指 標 については 様 々な 議 論 があることからさらなる 検 討 が 必 要 とされる デー タを 増 やし 指 標 を 変 えることでさらなる 有 用 な 結 果 が 得 られることが 期 待 できるので このような 課 題 を 踏 まえて 研 究 を 続 けたい 7
5. 参 考 文 献 日 本 証 券 業 協 会 http://www.jsda.or.jp/ マネックスグループHP http://www.monexgroup.jp/ 原 田 喜 美 枝 福 田 徹 証 券 業 界 の 変 遷 と 展 望 証 券 アナリストジャーナル 52 62 項 (2010) 村 山 純 渡 辺 健 わが 国 証 券 業 における 規 模 の 経 済 性 について ファイナンシ ャル レビュー 1989 年 1 月 大 蔵 省 財 政 金 融 研 究 所 (1989) 8
6. 付 録 図 1 証 券 業 界 の 手 数 料 収 入 推 移 3500000 3000000 2500000 2000000 1500000 1000000 500000 0 手 数 料 収 入 手 数 料 出 所 : 日 本 証 券 業 協 会 図 2-1 350 証 券 会 社 数 の 推 移 300 250 200 150 100 会 社 数 50 0 出 所 : 日 本 証 券 業 協 会 9
図 2-2 従 業 員 店 舗 数 推 移 105000 100000 95000 90000 85000 80000 75000 2350 2300 2250 2200 2150 2100 2050 2000 1950 1900 従 業 員 店 舗 出 所 : 日 本 証 券 業 協 会 図 2-3 インターネット 取 引 口 座 数 推 移 出 所 : 日 本 証 券 業 協 会 10
表 2-1 大 手 証 券 会 社 とネット 証 券 会 社 比 較 (2011 年 4 月 1 日 ~12 月 31 日 ) 大 手 証 券 営 業 収 益 純 利 益 前 年 同 期 比 増 減 率 % 野 村 HD 1,286,358 10,499 大 和 証 券 G 309,025 50,355 三 菱 UFJ 証 券 G 220,638 4,082 77.8 SMBC 日 興 証 券 180,698 9,143 62.3 みずほ 証 券 166,785 63,383 ネット 証 券 SBI 証 券 29,247 4,087 28.3 マネックス G 23,387 753 60.3 楽 天 証 券 15,249 2,164 35.2 松 井 証 券 12,900 2,870 36.7 カブドットコム 証 券 9,407 1,120 43.8 出 所 : 各 企 業 ディスクロージャー 資 料 より 11
表 3-1 規 模 弾 力 性 の 推 定 結 果 全 20 社 を 対 象 とした 場 合 の 推 計 結 果 推 定 値 説 明 変 数 推 定 値 の 標 準 t 値 P 値 偏 差 定 数 項 1.098 0.194 5.657 0.000 従 業 員 数 0.047 0.037 1.281 0.202 営 業 収 益 物 件 費 0.996 0.040 24.821 0.000 0.927 4.117 1.043** 定 数 項 1.159 0.303 3.826 0.000 従 業 員 数 -0.170 0.057-2.958 0.003 委 託 手 数 物 件 費 1.039 0.063 16.606 0.000 料 0.790 14.503 0.869*** 定 数 項 -7.072 0.646-10.946 0.000 従 業 員 数 1.430 0.123 11.672 0.000 引 受 売 出 物 件 費 0.336 0.134 2.517 0.013 0.783 73.555 1.766*** 定 数 項 -2.607 0.598-4.357 0.000 従 業 員 数 1.497 0.113 13.193 0.000 募 集 売 出 物 件 費 -0.013 0.124-0.107 0.915 しの 取 扱 0.763 42.968 1.484*** 定 数 項 0.131 0.628 0.209 0.835 従 業 員 数 1.732 0.131 13.181 0.000 トレーディ 物 件 費 -0.423 0.136-3.111 0.002 ング 損 益 0.712 17.668 1.308*** ( 注 ) F 統 計 量 は 自 由 度 (1 197)の F 分 布 に 従 う ***1% ** 5% * 10% 水 準 で 有 意 を 表 す 12
表 3-2 大 手 5 社 を 対 象 とした 場 合 の 推 計 結 果 推 定 値 説 明 変 数 推 定 値 の 標 準 t 値 P 値 偏 差 定 数 項 0.367 0.498 0.737 0.465 従 業 員 数 0.862 0.193 4.466 0.000 営 業 収 益 物 件 費 0.403 0.155 2.598 0.012 0.927 12.458 1.265*** 定 数 項 2.540 0.675 3.763 0.000 従 業 員 数 0.530 0.261 2.026 0.048 委 託 手 数 物 件 費 0.321 0.210 1.528 0.133 料 0.735 2.739 0.851 * 定 数 項 -9.535 1.054-9.044 0.000 従 業 員 数 1.702 0.408 4.169 0.000 引 受 売 出 物 件 費 0.347 0.329 1.057 0.296 0.859 26.205 2.049*** 定 数 項 1.059 0.676 1.568 0.124 従 業 員 数 -0.674 0.262-2.577 0.013 募 集 売 出 物 件 費 1.373 0.211 6.521 0.000 しの 取 扱 0.794 9.484 0.698*** 定 数 項 0.950 0.762 1.247 0.219 従 業 員 数 0.345 0.295 1.169 0.248 トレーディ 物 件 費 0.648 0.237 2.729 0.009 ング 損 益 0.771 0.005 0.992 ( 注 ) F 統 計 量 は 自 由 度 (1 47)の F 分 布 に 従 う ***1% ** 5% * 10% 水 準 で 有 意 を 表 す 13
表 3-3 ネット 5 社 を 対 象 とした 場 合 の 推 計 結 果 推 定 値 説 明 変 数 推 定 値 の 標 準 t 値 P 値 偏 差 定 数 項 1.155 0.762 1.516 0.136 従 業 員 数 -0.161 0.172-0.939 0.353 営 業 収 益 物 件 費 1.119 0.160 7.005 0.000 0.747 0.216 0.957 定 数 項 2.231 0.801 2.785 0.008 従 業 員 数 -0.170 0.181-0.940 0.352 委 託 手 数 物 件 費 0.939 0.168 5.587 0.000 料 0.636 5.276 0.768** 定 数 項 -6.245 3.537-1.766 0.084 従 業 員 数 2.359 0.798 2.956 0.005 引 受 売 出 物 件 費 -0.313 0.742-0.423 0.675 0.325 5.507 2.045** 定 数 項 2.658 2.877 0.924 0.360 従 業 員 数 2.799 0.649 4.311 0.000 募 集 売 出 物 件 費 -1.416 0.603-2.347 0.023 しの 取 扱 0.326 1.234 1.383 定 数 項 -10.687 3.388-3.154 0.004 従 業 員 数 2.859 0.638 4.482 0.000 トレーディ 物 件 費 0.079 0.627 0.126 0.901 ング 損 益 0.638 13.609 2.937*** ( 注 ) F 統 計 量 は 自 由 度 (1 47)の F 分 布 に 従 う ***1% ** 5% * 10% 水 準 で 有 意 を 表 す 14