卒 論 研 究 計 画 書 稲 葉 栞 農 協 組 織 の 実 態 はじめに JA 農 協 は 現 在 全 国 すべての 地 域 に 存 在 し 本 来 下 からの 積 み 上 げによる 自 主 的 な 活 動 組 織 であるはずの 協 同 組 合 とは 異 なり 行 政 組 織 と 類 似 したトップダウンの 巨 大 組 織 となっ ている 近 年 組 織 の 非 効 率 さがよく 指 摘 されるようになったが 依 然 として 力 を 有 し その 改 革 は 行 われずにいる はたして 農 協 はどのようにしてここまで 成 長 するに 至 ったの か 本 稿 では 複 雑 な 農 協 組 織 の 仕 組 みを 整 理 したうえで 現 在 のように 農 協 が 力 を 持 つよ うになった 背 景 を 見 ていく 農 協 制 度 農 協 とは 農 業 に 携 わる 人 たちの 生 産 者 団 体 として 結 成 されたものであり 農 業 生 産 者 の 互 助 組 織 である 一 般 的 に 農 協 として 知 られる JA(Japan Agricultural Cooperatives)は 全 国 農 業 協 同 組 合 中 央 会 が 組 織 する 農 協 グループである JA 以 外 にも 特 定 の 業 種 に 特 化 し た 専 門 農 協 がいくつか 存 在 するが 以 下 本 稿 では JA を 農 協 として 扱 っていく 農 協 は 非 営 利 組 織 であり 協 同 組 合 原 則 を 掲 げ 組 合 員 の 生 産 と 生 活 を 守 り 向 上 させる ことを 組 織 の 目 的 としている 現 在 農 協 は 農 業 生 産 をしている 農 家 が 中 心 となり 全 国 のほとんどの 地 域 で 組 織 されている 三 段 階 組 織 組 合 員 に 密 接 に 結 びついているのは 全 国 各 地 に 存 在 する 農 協 であるが それぞれ 単 独 で はあまりにも 規 模 が 小 さく 業 務 範 囲 が 限 られてしまうため 各 農 協 を 支 援 する 仕 組 みとし て 連 合 会 や 中 央 会 がある 普 段 私 たちが 目 にする 市 町 村 レベルでの 総 合 農 協 に 始 まり 都 道 府 県 レベルでの 系 統 組 織 全 国 レベルでの 系 統 組 織 があり 全 部 で 三 段 階 になっている 各 総 合 農 協 では 各 種 事 業 が 総 合 して 行 われているが 上 部 組 織 では 経 済 事 業 信 用 事 業 共 済 事 業 など 分 化 されている
図 農 協 系 統 組 織 図 市 町 村 レベル 都 道 府 県 レベル 全 国 レベル 組 都 道 府 県 中 央 会 全 中 合 総 合 農 協 経 済 連 全 農 員 710 信 連 農 林 中 金 約 969 万 人 正 組 合 員 : 約 470 万 人 準 組 合 員 : 約 500 万 人 全 共 連 資 料 : 全 中 JA グループ 組 織 図 をもとに 筆 者 作 成 注 1: 組 合 員 数 は 農 林 水 産 省 平 成 22 事 業 年 度 総 合 農 協 統 計 表 による 注 2: 総 合 農 協 は 全 中 JA 数 の 推 移 (2012 年 4 月 1 日 現 在 )による 現 在 農 協 の 組 合 員 は 正 組 合 員 と 準 組 合 員 を 合 わせて 969 万 人 に 上 る 正 組 合 員 は 農 業 者 であること 等 がその 条 件 となっており 一 人 一 票 の 平 等 な 総 会 における 議 決 権 を 有 している 組 合 員 資 格 としては 耕 作 面 積 や 農 業 従 事 日 数 など 各 総 合 農 協 ごとに 基 準 が 定 め られている 一 方 準 組 合 員 は 一 定 の 出 資 金 を 払 えば 正 組 合 員 と 同 様 に 農 協 事 業 を 利 用 できるが 議 決 権 を 持 たず 農 協 の 運 営 には 関 与 できない 日 本 における 2010 年 の 農 業 総 産 出 額 は 8.1 兆 円 であり 農 協 職 員 は 約 22 万 人 正 組 合 員 は 約 470 万 人 準 組 合 員 はそれを 上 回 り 約 500 万 人 もいる GDP に 占 める 農 業 の 割 合 は 1%にすぎないのに 日 本 の 成 人 人 口 の 1 割 が 農 協 の 職 員 正 組 合 員 準 組 合 員 ということ になる また ここ 数 年 準 組 合 員 数 が 増 加 していることについて 農 協 の 脱 農 化 であると 指 摘 されている
農 協 の 事 業 指 導 事 業 組 合 員 の 農 業 経 営 および 技 術 向 上 を 図 るための 指 導 経 済 事 業 組 合 員 の 事 業 または 生 活 に 必 要 な 物 資 の 供 給 ( 購 買 事 業 ) 組 合 員 の 生 産 する 物 資 の 販 売 ( 販 売 事 業 ) 信 用 事 業 資 金 の 貸 付 貯 金 または 定 期 積 金 の 受 入 等 共 済 事 業 生 命 共 済 火 災 建 物 更 生 共 済 自 動 車 共 済 等 資 料 : 農 林 水 産 省 農 協 の 主 な 事 業 をもとに 筆 者 作 成 農 協 は 多 くの 事 業 に 取 り 組 んでいるが 農 業 組 合 として 土 台 となるのは 指 導 事 業 である 組 合 員 の 農 業 経 営 の 改 善 や 生 活 の 向 上 のために 研 修 機 会 の 提 供 や 営 農 技 術 の 指 導 を 行 っている しかし 指 導 事 業 は 組 合 員 に 対 するサービス 事 業 であり これ 自 体 は 収 益 を 生 み 出 さない また 生 産 物 販 売 や 資 材 等 の 購 入 を 行 う 経 済 事 業 は 赤 字 となっている その ため これらによる 赤 字 を 補 填 する 形 で 信 用 事 業 や 共 済 事 業 が 行 われている 指 導 事 業 は 都 道 府 県 中 央 会 全 中 経 済 事 業 は 経 済 連 全 農 信 用 事 業 は 信 連 農 林 中 金 共 済 事 業 は 全 共 連 へという 仕 組 みで 各 事 業 の 機 能 役 割 の 分 担 が 行 われる 農 協 事 業 の 特 徴 は 利 潤 を 目 的 として 行 われるのではなく 事 業 の 利 用 を 通 じて 組 合 員 の 営 農 や 生 活 の 向 上 がどれだけ 実 現 しているかによって 評 価 されるというところにある 農 協 の 成 立 第 二 次 世 界 大 戦 以 前 農 業 には 産 業 組 合 と 農 会 という 二 つの 組 織 があった 産 業 組 合 は 現 在 も 農 協 が 行 っている 経 済 事 業 や 信 用 事 業 等 を 担 った 組 織 である 当 初 は 地 主 や 上 層 農 主 体 の 資 金 融 通 団 体 にすぎなかったが 1933 年 に 開 始 された 産 業 組 合 拡 充 5 ヵ 年 計 画 によ り 小 作 貧 農 を 含 む 農 民 組 織 化 が 進 行 した その 後 戦 時 体 制 の 下 で 1942 年 に 食 糧 管 理 法 が 制 定 され 米 が 国 家 管 理 の 下 に 置 かれる( 食 糧 管 理 制 度 )と 産 業 組 合 は 農 家 から 政 府 へ 米 を 集 めるための 一 元 的 な 供 出 集 荷 機 関 としての 役 割 も 果 たすこととなった 他 方 農 会 は 現 在 の 農 協 が 行 っている 指 導 事 業 や 農 家 の 利 益 を 代 弁 するための 政 治 活 動 を 担 った 組 織 で ある そして 1943 年 この 産 業 組 合 と 農 会 という 二 つの 組 織 が 戦 時 統 制 団 体 である 農 業 会 として 統 一 された 農 業 会 は 農 産 物 の 一 元 集 荷 農 業 資 材 の 一 元 配 給 貯 金 による 国 債 の 消 化 を 行 う 国 策 代 行 機 関 であった 国 府 県 市 町 村 の 三 段 階 制 が 採 られ 市 町 村 段 階 の 農 業 会 は 域 内 の 農 業 者 農 地 所 有 者 のすべてを 会 員 とした 戦 後 農 業 会 は 解 散 され 事 実 上 これを 引 き 継 ぐかたちで 1948 年 に 農 協 が 発 足 した 当 時 GHQ は 戦 時 統 制 団 体 としての 農 業 会 を 完 全 に 解 体 するとともに 農 協 は 強 制 加 入 では なく 加 入 脱 退 を 自 由 にすべきだとした しかしながら 食 料 供 出 が 最 大 の 課 題 であった ために 米 麦 の 集 荷 機 関 としての 農 業 会 の 組 織 を 無 くすわけにはいかなかった こうして 農 協 が 全 戸 加 入 の 農 業 会 を 引 き 継 いだため 農 家 は 自 動 的 半 強 制 的 に 農 協 に 加 入 した
これにより 農 協 は 国 家 による 保 護 と 統 制 を 受 け 入 れやすい 体 質 をそなえることとなった 農 協 が 発 展 した 背 景 農 協 はその 成 立 の 事 情 から 食 糧 管 理 制 度 を 利 用 しながら 発 展 してきた 食 管 制 度 の 下 で 独 占 的 に 高 米 価 を 実 現 すれば 農 協 の 米 販 売 手 数 料 は 多 くなるし 収 入 が 増 えることで 農 家 は 高 い 肥 料 や 農 薬 代 を 農 協 に 払 えるようになる また 米 の 販 売 代 金 は 農 協 の 口 座 を 通 じて 農 家 に 支 払 われたため 米 代 金 から 諸 経 費 を 引 いた 後 の 余 剰 金 はそのまま 農 協 へ 預 金 された さらに 農 地 転 用 が 進 んだことにより 農 家 は 多 くの 農 地 転 用 利 益 を 得 これも 農 協 に 預 金 された このように 農 協 は 貯 金 の 勧 誘 活 動 をしなくても 自 動 的 に 農 協 預 金 が 増 えていく 仕 組 みであった これにより 農 協 は 日 本 トップクラスの 金 融 投 資 機 関 として 成 功 したのである 兼 業 農 家 との 結 びつき 兼 業 農 家 とは 農 業 以 外 の 仕 事 にも 従 事 して 収 入 を 得 ている 農 家 である 兼 業 農 家 の 多 くは 農 業 以 外 の 仕 事 を 主 としている 高 米 価 政 策 により 規 模 の 経 済 が 十 分 に 働 かなくても 収 入 が 得 られるため 零 細 な 兼 業 農 家 がそのまま 留 まることになった 兼 業 農 家 を 維 持 すれば 農 家 戸 数 を 多 く 維 持 できるた め 農 協 の 組 合 員 一 人 一 票 制 のもとでは 政 治 力 維 持 につながる また ほとんどの 兼 業 農 家 は 週 末 しか 農 業 をしないため 効 率 性 を 求 め 肥 料 や 農 薬 を 多 く 利 用 する 傾 向 がある 兼 業 農 家 の 維 持 により 集 めた 政 治 力 を 使 って 農 産 物 価 格 を 引 き 上 げれば 兼 業 農 家 がたくさ ん 使 う 肥 料 や 農 薬 も 高 く 売 れ 農 協 は 農 産 物 と 資 材 の 販 売 の 両 方 で 高 いマージンを 獲 得 で きることとなる 高 度 経 済 成 長 期 以 後 農 業 の 機 械 化 が 進 むと 面 積 あたりの 耕 作 時 間 が 短 縮 され 同 じ 労 働 時 間 でより 多 くの 面 積 を 耕 作 できるようになった 数 多 く 存 在 する 零 細 な 兼 業 農 家 の 戸 数 が 減 り 専 業 農 家 の 農 業 経 営 規 模 が 拡 大 すると 農 業 が 効 率 的 に 行 われることになり 体 質 強 化 を 図 ることができる 実 際 にフランスでは 成 功 例 が 見 られる しかしわが 国 では 機 械 化 により 余 った 労 働 時 間 を 他 産 業 に 就 業 する 兼 業 化 が 進 んでしまった 専 業 農 家 を 育 成 しようとする 農 業 改 革 も 試 みられたが 政 治 力 維 持 のために 農 協 が 一 貫 して 反 対 し 改 革 は 実 現 しなかった 卒 業 論 文 に 向 けて 農 協 を 通 じて 農 家 が 購 入 する 化 学 肥 料 や 機 械 等 の 資 材 価 格 は なかなか 低 下 しないこと
が 指 摘 され 続 けている 卒 業 論 文 では 農 協 が 行 う 事 業 のうち 経 済 事 業 に 注 目 し 高 額 と なっている 物 資 価 格 および 販 売 手 数 料 がなぜ 維 持 できるのかについて 探 る 農 協 を 介 さな いほうが 安 く 上 がるにもかかわらず 農 協 を 利 用 する あるいは 利 用 せざるを 得 ない 組 合 員 の 現 状 について 農 協 がより 身 近 でその 影 響 を 受 けやすいであろう 地 方 地 域 における 組 合 員 を 対 象 とし 迫 っていきたい 参 考 文 献 山 下 一 仁 (2009) 農 協 の 大 罪 宝 島 社 吾 妻 博 勝 (2009) コメほど 汚 い 世 界 はない 宝 島 社 全 農 ホームページ http://www.zennoh.or.jp/ (2012/7/11 閲 覧 ) 全 中 ホームページ http://www.zenchu-ja.or.jp/ (2012/7/11 閲 覧 ) JA グループホームページ http://ja-kizuna.jp/ (2012/7/11 閲 覧 ) 農 林 水 産 省 http://www.maff.go.jp/j/tokei/ (2012/07/18 閲 覧 )