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は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし


平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

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< 現 在 の 我 が 国 D&O 保 険 の 基 本 的 な 設 計 (イメージ)> < 一 般 的 な 補 償 の 範 囲 の 概 要 > 請 求 の 形 態 会 社 の 役 員 会 社 による 請 求 に 対 する 損 免 責 事 由 の 場 合 に 害 賠 償 請 求 は 補 償 されず(


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Speed突破!Premium問題集 基本書サンプル

m07 北見工業大学 様式①

国 家 公 務 員 の 年 金 払 い 退 職 給 付 の 創 設 について 検 討 を 進 めるものとする 平 成 19 年 法 案 をベースに 一 元 化 の 具 体 的 内 容 について 検 討 する 関 係 省 庁 間 で 調 整 の 上 平 成 24 年 通 常 国 会 への 法 案 提

( 別 紙 ) 以 下 法 とあるのは 改 正 法 第 5 条 の 規 定 による 改 正 後 の 健 康 保 険 法 を 指 す ( 施 行 期 日 は 平 成 28 年 4 月 1 日 ) 1. 標 準 報 酬 月 額 の 等 級 区 分 の 追 加 について 問 1 法 改 正 により 追 加

別紙3

( 別 途 調 査 様 式 1) 減 損 損 失 を 認 識 するに 至 った 経 緯 等 1 列 2 列 3 列 4 列 5 列 6 列 7 列 8 列 9 列 10 列 11 列 12 列 13 列 14 列 15 列 16 列 17 列 18 列 19 列 20 列 21 列 22 列 固 定

(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 き 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている

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ていることから それに 先 行 する 形 で 下 請 業 者 についても 対 策 を 講 じることとしまし た 本 県 としましては それまでの 間 に 未 加 入 の 建 設 業 者 に 加 入 していただきますよう 28 年 4 月 から 実 施 することとしました 問 6 公 共 工 事 の

PowerPoint プレゼンテーション

為 が 行 われるおそれがある 場 合 に 都 道 府 県 公 安 委 員 会 がその 指 定 暴 力 団 等 を 特 定 抗 争 指 定 暴 力 団 等 として 指 定 し その 所 属 する 指 定 暴 力 団 員 が 警 戒 区 域 内 において 暴 力 団 の 事 務 所 を 新 たに 設

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スライド 1

平成25年度 独立行政法人日本学生支援機構の役職員の報酬・給与等について

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

第316回取締役会議案

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

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経 常 収 支 差 引 額 等 の 状 況 平 成 26 年 度 予 算 早 期 集 計 平 成 25 年 度 予 算 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 3,689 億 円 4,597 億 円 908 億 円 減 少 赤 字 組 合 数 1,114 組 合 1,180 組 合 66

Microsoft Word - 目次.doc


2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 22 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 号 給 の 給 料 月 額 ( 単 位 : ) 1 級 2 級 3 級 4 級 5 級 6 級 7 級 135, , , , , ,600

技 能 労 務 職 公 務 員 民 間 参 考 区 分 平 均 年 齢 職 員 数 平 均 給 与 月 額 平 均 給 与 月 額 平 均 給 料 月 額 (A) ( 国 ベース) 平 均 年 齢 平 均 給 与 月 額 対 応 する 民 間 の 類 似 職 種 東 庄 町 51.3 歳 18 77

(4) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 国 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている.

養 老 保 険 の 減 額 払 済 保 険 への 変 更 1. 設 例 会 社 が 役 員 を 被 保 険 者 とし 死 亡 保 険 金 及 び 満 期 保 険 金 のいずれも 会 社 を 受 取 人 とする 養 老 保 険 に 加 入 してい る 場 合 を 解 説 します 資 金 繰 りの 都

1


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セルフメディケーション推進のための一般用医薬品等に関する所得控除制度の創設(個別要望事項:HP掲載用)

平成24年度 業務概況書

(別紙3)保険会社向けの総合的な監督指針の一部を改正する(案)

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代 議 員 会 決 議 内 容 についてお 知 らせします さる3 月 4 日 当 基 金 の 代 議 員 会 を 開 催 し 次 の 議 案 が 審 議 され 可 決 承 認 されました 第 1 号 議 案 : 財 政 再 計 算 について ( 概 要 ) 確 定 給 付 企 業 年 金 法 第

リング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 に 係 る 繰 延 税 金 資 産 について 回 収 可 能 性 がないも のとする 原 則 的 な 取 扱 いに 対 して スケジューリング 不 能 な 将 来 減 算 一 時 差 異 を 回 収 できることを 反 証 できる 場 合 に 原 則

質 問 票 ( 様 式 3) 質 問 番 号 62-1 質 問 内 容 鑑 定 評 価 依 頼 先 は 千 葉 県 などは 入 札 制 度 にしているが 神 奈 川 県 は 入 札 なのか?または 随 契 なのか?その 理 由 は? 地 価 調 査 業 務 は 単 にそれぞれの 地 点 の 鑑 定

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職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 ( 平 成 年 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 福 岡 県 技 能 労 務 職 歳 1,19,98 9,9 歳 8,

職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 (5 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 一 般 行 政 職 区 類 団 府 分 似 体 平 均 年 齢

(4) 運 転 する 学 校 職 員 が 交 通 事 故 を 起 こし 若 しくは 交 通 法 規 に 違 反 したことにより 刑 法 ( 明 治 40 年 法 律 第 45 号 ) 若 しくは 道 路 交 通 法 に 基 づく 刑 罰 を 科 せられてから1 年 を 経 過 していない 場 合 同

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Microsoft Word - 【溶け込み】【修正】第2章~第4章

2. 会 計 規 程 の 業 務 (1) 規 程 と 実 際 の 業 務 の 調 査 規 程 や 運 用 方 針 に 規 定 されている 業 務 ( 帳 票 )が 実 際 に 行 われているか( 作 成 されている か)どうかについて 調 べてみた 以 下 の 表 は 規 程 の 条 項 とそこに

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 現 況 ( 平 成 22 1 号 給 の 給 料 月 額 137,9 188,9 226,7 266,4 294,3 最 高 号 給 の 給 料 月 額 247,9 314,9 362,8 399,9 415,1 ( 注 ) 給 料 月 額 は 給 与 抑 制

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6. 共 有 等 に 係 る 固 定 資 産 の 判 定 3 共 有 に 係 る 固 定 資 産 については それぞれの 共 有 者 が 他 に 固 定 資 産 を 所 有 している 場 合 であっても その 資 産 とは 別 個 に 共 有 されている 固 定 資 産 を 別 の 人 格 が 所

(1)1オールゼロ 記 録 ケース 厚 生 年 金 期 間 A B 及 びCに 係 る 旧 厚 生 年 金 保 険 法 の 老 齢 年 金 ( 以 下 旧 厚 老 という )の 受 給 者 に 時 効 特 例 法 施 行 後 厚 生 年 金 期 間 Dが 判 明 した Bは 事 業 所 記 号 が

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波佐見町の給与・定員管理等について

●電力自由化推進法案

公表表紙

Ⅰ 元 請 負 人 を 社 会 保 険 等 加 入 建 設 業 者 に 限 定 平 成 28 年 10 月 1 日 以 降 に 入 札 公 告 指 名 通 知 随 意 契 約 のための 見 積 依 頼 を 行 う 工 事 から 以 下 に 定 める 届 出 の 義 務 ( 以 下 届 出 義 務 と

スライド 1

2 一 般 行 政 職 給 料 表 の 状 況 ( 平 成 24 年 4 月 1 日 現 在 ) 1 号 給 の 給 料 月 額 最 高 号 給 の 給 料 月 額 1 級 135,6 2 級 185,8 ( 注 ) 給 料 月 額 は 給 与 抑 制 措 置 を 行 う 前 のものである 3 級

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個 人 所 得 課 税 ~ 住 宅 ローン 控 除 等 の 適 用 期 限 の 延 長 2 4. 既 存 住 宅 に 係 る 特 定 の 改 修 工 事 をした 場 合 の 所 得 税 額 の 特 別 控 除 居 住 年 省 エネ 改 修 工 事 控 除 限 度 額 バリアフリー 改 修 工 事 平

注 記 事 項 (1) 当 四 半 期 連 結 累 計 期 間 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 : 無 (2) 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 : 有 ( 注 ) 詳 細 は 添 付 資 料 4ページ 2.サマリー 情 報 (

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- 1 - 総 控 負 傷 疾 病 療 養 産 産 女 性 責 帰 べ 由 試 ~ 8 契 約 契 約 完 了 ほ 契 約 超 締 結 専 門 的 知 識 技 術 験 専 門 的 知 識 高 大 臣 専 門 的 知 識 高 専 門 的 知 識 締 結 契 約 満 歳 締 結 契 約 契 約 係 始

定 性 的 情 報 財 務 諸 表 等 1. 連 結 経 営 成 績 に 関 する 定 性 的 情 報 当 第 3 四 半 期 連 結 累 計 期 間 の 業 績 は 売 上 高 につきましては 前 年 同 四 半 期 累 計 期 間 比 15.1% 減 少 の 454 億 27 百 万 円 となり

4 参 加 資 格 要 件 本 提 案 への 参 加 予 定 者 は 以 下 の 条 件 を 全 て 満 たすこと 1 地 方 自 治 法 施 行 令 ( 昭 和 22 年 政 令 第 16 号 ) 第 167 条 の4 第 1 項 各 号 の 規 定 に 該 当 しない 者 であること 2 会 社


別 紙 第 号 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 議 案 高 知 県 立 学 校 授 業 料 等 徴 収 条 例 の 一 部 を 改 正 する 条 例 を 次 のように 定 める 平 成 26 年 2 月 日 提 出 高 知 県 知 事 尾

Taro-契約条項(全部)

平成22年度

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2 職 員 の 平 均 給 与 月 額 初 任 給 等 の 状 況 (1) 職 員 の 平 均 年 齢 平 均 給 料 月 額 及 び 平 均 給 与 月 額 の 状 況 ( 平 成 25 年 4 月 1 日 現 在 ) 1) 一 般 行 政 職 福 島 県 国 類 似 団 体 平 均 年 齢 平

1 はじめに 財 政 の 役 割 資 源 配 分 ( 公 共 財 供 給 ) 所 得 再 分 配 経 済 安 定 化 ( 景 気 調 整 ) 地 方 自 治 体 の 役 割 は 資 源 配 分 ( 公 共 財 の 安 定 供 給 )とされる ( 所 得 再 分 配 や 経 済 安 定 化 は 国 の

目 改 正 項 目 軽 自 動 車 率 の 引 上 げ 〇 国 及 び 地 方 を 通 じた 自 動 車 関 連 制 の 見 直 しに 伴 い 軽 自 動 車 の 標 準 率 が 次 のとおり 引 き 上 げられます 車 種 区 分 引 上 げ 幅 50cc 以 下 1,000 円 2,000 円

(1) 率 等 一 覧 ( 平 成 26 年 度 ) 目 課 客 体 及 び 納 義 務 者 課 標 準 及 び 率 法 内 に 住 所 を 有 する ( 均 等 割 所 得 割 ) 内 に 事 務 所 事 業 所 又 は 家 屋 敷 を 有 する で 内 に 住 所 を 有 し ないもの( 均 等

< 圧 縮 記 帳 の 効 果 > 圧 縮 記 帳 を 適 用 した 場 合 に 得 られる 税 務 上 の 効 果 はどのようなものでしょうか 前 述 のように 圧 縮 記 帳 の 制 度 目 的 は 補 助 金 等 の 受 贈 益 に 対 して 直 ちに 課 税 しないことにより 補 助 目 的

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第5回法人課税ディスカッショングループ 法D5-4

. 負 担 調 整 措 置 8 (1) 宅 地 等 調 整 固 定 資 産 税 額 宅 地 に 係 る 固 定 資 産 税 額 は 当 該 年 度 分 の 固 定 資 産 税 額 が 前 年 度 課 税 標 準 額 又 は 比 準 課 税 標 準 額 に 当 該 年 度 分 の 価 格 ( 住 宅

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国立研究開発法人土木研究所の役職員の報酬・給与等について

4. その 他 (1) 期 中 における 重 要 な 子 会 社 の 異 動 ( 連 結 範 囲 の 変 更 を 伴 う 特 定 子 会 社 の 異 動 ) 無 (2) 簡 便 な 会 計 処 理 及 び 四 半 期 連 結 財 務 諸 表 の 作 成 に 特 有 の 会 計 処 理 の 適 用 有

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平成24年度税制改正要望 公募結果 153. 不動産取得税

(3) 善 通 寺 市 の 状 況 善 通 寺 市 においては 固 定 資 産 税 の 納 期 前 前 納 に 対 する 報 奨 金 について 善 通 寺 市 税 条 例 の 規 定 ( 交 付 率 :0.1% 限 度 額 :2 万 円 )に 基 づき 交 付 を 行 っています 参 考 善 通 寺

第 3 四 半 期 運 用 状 況 の 概 要 第 3 四 半 期 末 の 運 用 資 産 額 は 2,976 億 円 となりました 第 3 四 半 期 の 修 正 総 合 収 益 率 ( 期 間 率 )は +1.79%となりました なお 実 現 収 益 率 は +0.67%です 第 3 四 半 期

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経 済 研 究 ( 明 治 学 院 大 学 ) 第 152 号 2016 年 自 動 車 保 険 への 課 税 による 事 故 外 部 性 の 内 部 化 について 1 明 治 学 院 大 学 経 済 学 部 斉 藤 都 美 要 約 1.はじめに 本 論 文 では, 都 道 府 県 レベルで 自 動 車 走 行 に 伴 う 事 故 外 部 性 の 大 きさを 計 測 し,ガソリン 税 によ り 外 部 性 を 内 部 化 した 場 合 と, 走 行 距 離 を 保 険 料 に 反 映 させた 自 動 車 保 険 (PAYD 自 動 車 保 険 ) への 課 税 により 外 部 性 を 内 部 化 した 場 合 とで, 課 税 額 やその 効 果 にどのような 違 いが 現 れるか 実 証 的 に 検 討 した その 結 果, 現 状 の 走 行 距 離 から 社 会 的 に 望 ましい 走 行 距 離 までの 削 減 幅 を 100 とす ると, 全 国 一 律 のガソリン 税 の 場 合, 走 行 距 離 の 短 い 都 道 府 県 では 最 大 111 だけ 余 計 に 削 減 されて しまい, 走 行 距 離 の 長 い 都 道 府 県 では 最 大 84 ま でしか 削 減 されないことがわかった 個 人 レベル では 走 行 距 離 のばらつきがはるかに 大 きいため, 事 故 外 部 性 を 内 部 化 する 際 の 具 体 的 手 段 として, 走 行 距 離 その 他 の 異 質 性 を 考 慮 できる PAYD 自 動 車 保 険 への 課 税 が 望 ましいと 考 えられる その 際 検 討 すべき 諸 問 題 についても 議 論 した 自 動 車 走 行 には 事 故 外 部 性 (accident externality)と 呼 ばれる 外 部 性 が 存 在 する 人 々が 自 動 車 に 乗 るほど 道 路 は 混 雑 し, 道 路 が 混 雑 するほど 事 故 が 増 加 するが, 現 状 では 追 加 的 1km 走 行 に 対 してドライバーが 負 担 する 費 用 はガソリン 代 のみ であり, 交 通 法 規 さえ 守 っていれば 追 加 的 走 行 に 伴 い 発 生 する 事 故 コストを 担 う 必 要 がないため, 社 会 的 に 見 ると 人 々は 乗 りすぎてしまう 2 経 済 学 の 概 念 を 借 りれば, 運 転 に 伴 う 私 的 限 界 費 用 が 社 会 的 限 界 費 用 と 乖 離 するため, 社 会 的 な 観 点 からは 過 大 な 運 転 がなされてしまう,ということ になる ( 詳 細 は 第 2 章 を 参 照 ) このような 意 味 での 外 部 性 を 内 部 化 する 一 つの 方 法 は,いわゆるピグー 税 を 課 すことである 3 私 的 限 界 費 用 と 社 会 的 限 界 費 用 の 乖 離 を 埋 め 合 わ せるだけの 課 税 をすることで, 個 人 が 直 面 する 私 的 限 界 費 用 を 社 会 的 限 界 費 用 まで 引 き 上 げ, 社 会 的 に 望 ましい 走 行 距 離 と 事 故 コストを 達 成 しよう というアイデアである ( 事 故 外 部 性 の 文 脈 では Vickrey (1961),Walters(1961)を 参 照 詳 細 103

経 済 研 究 ( 明 治 学 院 大 学 ) 第 152 号 は 第 2 章 で 触 れる ) では 実 際, 事 故 外 部 性 はどの 程 度 なのだろうか Edlin and Karaca-Mandic (2006)は, 米 国 の 州 レベルのパネルデータを 用 いて 事 故 外 部 性 の 大 き さを 計 測 した 4 その 結 果, 混 雑 しているカリフォ ルニア 州 では 外 部 性 が 年 間 1 台 当 たり 23 万 6,500 円 程 度 (1 ドル 110 円 換 算 )だが, 混 雑 していな いメイン 州 では 年 間 1 台 当 たり 6,380 円 ( 同 ), 外 部 性 を 内 部 化 した 場 合 のピグー 税 額 は, 全 米 で 年 間 12 兆 4,300 億 円 ( 同 )という 推 計 結 果 を 得 ている これらの 数 字 を 大 きいとみるか 小 さいと みるかは 主 観 の 域 を 出 ないが, 外 部 性 の 大 きさは 混 雑 している 州 で 大 きいが 混 雑 していない 州 では 小 さく, 全 米 では 相 当 程 度 大 きな 外 部 性 が 発 生 し ていると 言 ってよいだろう 外 部 性 を 内 部 化 するためには 追 加 的 走 行 に 伴 う 費 用 を 引 き 上 げる 必 要 があるが,その 具 体 的 な 方 法 としてただちに 思 い 浮 かぶのが,ガソリンへの 課 税 である だがガソリンへの 課 税 はいくつかの 点 で 問 題 がある まず,ガソリン 税 では 運 転 者 の 異 質 性 が 考 慮 されない 無 謀 な 運 転 をする 人 にも 安 全 運 転 する 人 にも,ガソリン 1 リッターに 対 し て 同 額 の 税 が 課 される あるいは 移 動 距 離 をベー スに 考 えれば, 燃 費 の 良 い 車 の 所 有 者 は 税 負 担 が 軽 く, 燃 費 の 悪 い 車 の 所 有 者 は 税 負 担 が 重 くなる このように 運 転 者 の 事 故 確 率 とは 無 関 係 な 要 因 で 負 担 の 大 きさが 決 まるのは, 公 平 性 の 点 で 問 題 が ある ガソリン 税 はまた, 効 率 性 の 面 でも 問 題 である ガソリンに 課 税 される 限 り, 事 故 の 有 無 とは 無 関 係 に 税 負 担 が 発 生 する そのため 日 々の 運 転 で 安 全 運 転 を 心 がけたりする 誘 因 は 提 供 されないし, 長 期 的 な 観 点 からも, 燃 費 の 良 い 車 を 選 択 する 誘 因 は 生 まれても, 自 動 停 止 装 置 や 歩 行 者 エアバッ グといった 安 全 装 置 が 充 実 した 車 を 選 ぶ 誘 因 は 発 生 しない この 点 は 社 会 全 体 の 事 故 削 減 につなが らないという 意 味 で 望 ましくない このように, ガソリン 税 は 事 故 外 部 性 を 内 部 化 するものの, 公 平 性 と 効 率 性 の 両 面 で 問 題 点 を 抱 えている 5 ガソリン 税 以 外 の 内 部 化 の 手 段 としてしばしば 挙 げられるのが, 走 行 距 離 を 保 険 料 に 反 映 させた 自 動 車 保 険 ( 以 下,PAYD(pay as you drive) 自 動 車 保 険 )を 普 及 させ,そのうえで 自 動 車 保 険 に 対 して 課 税 する 方 法 である PAYD 自 動 車 保 険 では 年 間 走 行 距 離 が 保 険 料 に 反 映 されるため, その 分, 私 的 限 界 費 用 が 引 き 上 げられることにな る ただし 脚 注 2 で 述 べたように, 過 失 責 任 制 度 のもとでは 外 部 性 のすべてが 内 部 化 されるわけで はないため, 社 会 的 に 最 適 な 走 行 距 離 を 実 現 する ためにはやはり 課 税 が 必 要 になる PAYD 自 動 車 保 険 の 普 及 課 税 が 望 ましいの は, 税 負 担 が 公 平 であり,かつ 効 率 的 に 事 故 を 減 らせる 点 にある すなわち, 保 険 会 社 はすでに 事 故 率 と 相 関 する 契 約 者 の 多 様 な 属 性 ( 年 齢, 性 別, 車 種, 車 齢, 地 域, 走 行 距 離, 過 去 の 事 故 歴 など) を 保 険 料 に 反 映 させ, 事 故 率 の 高 い 契 約 者 には 高 い 保 険 料 を, 事 故 率 の 低 い 契 約 者 には 低 い 保 険 料 を 提 示 している したがって 自 動 車 保 険 料 に 課 税 した 場 合, 事 故 率 の 高 い 契 約 者 には 重 い 課 税 を, 事 故 率 の 低 い 契 約 者 には 軽 い 課 税 を 課 すことがで きる より 大 きな 外 部 性 を 生 み 出 す 者 ほど 大 きな 負 担 をする 仕 組 みは, 公 平 性 の 面 で 望 ましいと 言 える 加 えて, 自 動 車 保 険 への 課 税 により 効 率 的 に 事 故 を 減 少 させられる なぜならリスクの 高 い 契 約 者 ほど 重 い 税 負 担 が 課 されるため,ガソリン 需 要 に 対 する 価 格 弾 力 性 がリスクと 無 関 係 である 限 り, 事 故 を 起 こしやすいドライバーほど 交 通 量 を 大 きく 削 減 することになるからである ガソリン 税 の 場 合,どれだけ 交 通 量 が 削 減 されるかはガソ 104

自 動 車 保 険 への 課 税 による 事 故 外 部 性 の 内 部 化 について リン 需 要 への 価 格 弾 力 性 によって 決 められるが, PAYD 自 動 車 保 険 への 課 税 では 事 故 を 起 こしや すいドライバーほど 交 通 量 の 削 減 効 果 が 大 きくな るという 意 味 で, 事 故 削 減 の 観 点 から 望 ましい 性 質 を 持 つ 政 策 としての 実 行 可 能 性 もまた, 自 動 車 保 険 へ の 課 税 の 魅 力 である 一 般 に, 各 個 人 の 事 故 確 率 は 私 的 情 報 であり,それをベースとして 課 税 する ことは 情 報 の 非 対 称 性 の 観 点 から 困 難 である だ が 自 動 車 保 険 の 場 合, 保 険 会 社 がすでに 契 約 者 の リスクを 反 映 させた 自 動 車 保 険 料 を 設 定 している ため, 政 府 が 個 々のドライバーのリスクを 評 価 せ ずとも, 競 争 市 場 で 保 険 会 社 が 設 定 した 保 険 料 に 課 税 することで 自 動 的 にリスクに 応 じた 課 税 が 達 成 される 以 上 の 議 論 を 踏 まえ, 本 論 文 ではガソリンに 課 税 した 場 合 と PAYD 自 動 車 保 険 に 課 税 した 場 合 とで, 課 税 額 とその 効 果 にどのような 違 いが 出 て くるかを 検 討 する すでに 述 べたように,PAYD 自 動 車 保 険 への 課 税 は 契 約 者 の 多 様 な 属 性 を 踏 ま えた 課 税 を 可 能 にするが,すべての 属 性 について 検 討 するのは(データ 的 に) 不 可 能 である そこ で 本 論 文 では 走 行 距 離 に 焦 点 を 当 てて, 走 行 距 離 の 異 なる 契 約 者 ごとに 外 部 性 を 内 部 化 すべく 課 税 した 場 合, 税 負 担 や 政 策 の 影 響 にどのように 違 い が 出 るかを 実 証 的 に 検 討 する 分 析 結 果 は 以 下 のようにまとめられる 都 道 府 県 データを 用 いて 外 部 性 の 大 きさを 測 り,ガソリ ン 税 により 外 部 性 を 内 部 化 する 場 合 と PAYD 自 動 車 保 険 の 普 及 とそれへの 課 税 により 内 部 化 した 場 合 を 比 較 したところ, 社 会 的 に 最 適 な 走 行 距 離 の 削 減 幅 を 100 とすると,ガソリン 税 では 走 行 距 離 が 長 い 都 道 府 県 で 最 大 84 までしか 削 減 されず, 走 行 距 離 が 短 い 都 道 府 県 では 最 大 111 だけ 過 剰 に 削 減 されてしまうことがわかった このように, 走 行 距 離 の 比 が 最 大 でも 7.48 倍 の 都 道 府 県 レベ ルでも 最 適 な 削 減 幅 からの 乖 離 が 生 じるが,ばら つきがはるかに 大 きい 個 人 レベルでは,ガソリン 税 による 最 適 削 減 幅 からの 乖 離 はさらに 大 きくな る このことから, 外 部 性 の 内 部 化 の 具 体 的 手 段 としては, 走 行 距 離 その 他 の 異 質 性 を 考 慮 しなが ら 課 税 ができる PAYD 自 動 車 保 険 の 普 及 とそれ への 課 税 が 望 ましいと 考 えられる またその 際 の 条 件 として, 強 制 保 険 の 範 囲 拡 大 と 料 率 設 定 の 自 由 化 が 必 要 であることを 議 論 する 論 文 の 構 成 は 次 のとおりである 第 2 章 では 外 部 性 の 計 測 方 法 を 提 示 する 第 3 章 では 実 証 のた めのモデルとデータ, 分 析 結 果 を 提 示 する 第 4 章 では 分 析 結 果 の 考 察 と 政 策 的 インプリケーショ ンを 示 す 第 5 章 は 結 論 である 2. 外 部 性 の 計 測 方 法 事 故 外 部 性 の 計 測 はいくつかの 手 法 が 存 在 する が,ここでは 次 の 方 法 で 推 定 する 年 間 自 動 車 事 故 総 費 用 (AccidentCost)が 年 間 走 行 距 離 Q の 2 次 関 数, AccidentCost=a+bQ+cQ 2 ⑴ で 表 されるとすると, 社 会 的 限 界 費 用 (social marginal cost:smc)は, d(accidentcost) SMC = = b + 2cQ ⑵ dq となる 6 私 的 限 界 費 用 (private marginal cost:pmc) は, 後 述 ( 第 3.2 節 )するようにガソリン 代 とみ なすことができるため, 定 数 項 のみで 以 下 のよう に 表 される PMC=e(e > 0) 自 動 車 走 行 に 対 する 需 要 は, 需 要 の 価 格 弾 力 性 ε(> 0)が 一 定 の 次 の 逆 需 要 関 数 を 仮 定 する 105

経 済 研 究 ( 明 治 学 院 大 学 ) 第 152 号 Q Demand(Q)= ( k ) - 1 ε 図 1 は 横 軸 に 年 間 走 行 距 離 Q を 取 り, 社 会 的 限 界 費 用 曲 線, 私 的 限 界 費 用 曲 線, 需 要 曲 線 を 描 いたものである 図 1 において, 市 場 均 衡 は 私 的 限 界 費 用 曲 線 と 需 要 曲 線 の 交 点 C で 達 成 され,そのときの 走 行 距 離 は Q * private である これに 対 し 社 会 的 に 望 ま しい 点 は, 社 会 的 限 界 費 用 曲 線 と 需 要 曲 線 の 交 点 A であり,そのときの 走 行 距 離 は Q * optimal である よって 市 場 均 衡 では(Q * private-q * optimal)だけ 過 剰 に 自 動 車 が 走 行 している 社 会 的 に 最 適 な 走 行 距 離 を 達 成 するためには, 走 行 距 離 1 単 位 当 たり 線 分 AB の 大 きさだけのピ グー 税 をかければよい これにより 私 的 限 界 費 用 曲 線 が 引 き 上 げられ,その 結 果 走 行 距 離 は Q * optimal まで 抑 えられる 3.モデルと 分 析 結 果 本 章 では, 前 章 で 説 明 した 外 部 性 分 析 の 枠 組 み を 実 証 するためのモデルを 提 示 し, 使 用 したデー タと 分 析 結 果 を 示 す ⑶ 3.1.モデル 図 1 で 示 したように, 基 本 的 な 関 心 は 走 行 距 離 が 増 加 するにつれてどれだけ 私 的 社 会 的 限 界 費 用 が 増 加 するかにある しかし 言 うまでもなく 事 故 コストは 走 行 距 離 以 外 の 要 因 にも 影 響 されるた め, 他 の 要 因 を 考 慮 しながら 両 者 の 関 係 を 分 析 し なくてはならない そこで⑴ 式 にコントロール 変 数 X it と 誤 差 項 ε it を 加 えた 次 の 推 定 式 を 考 える AccidentCost it =a+bq it +cq 2 it +X it +ε it ⑷ ここで 添 え 字 の i と t はそれぞれ 都 道 府 県 と 年 度 を 表 す この 式 の 係 数 の 推 定 値 を^b, ^c とする と,⑵ 式 より 社 会 的 限 界 費 用 は^b +2cQ ^ it と 表 さ れる 3.2.データ 本 論 文 で 使 用 するデータは,1987 年 から 2000 年 までの 14 年 分 の 都 道 府 県 パネルデータである すべて 公 開 データである パネルデータの 利 用 に より,データとして 得 られない 都 道 府 県 特 有 の 効 果 や 年 度 特 有 の 効 果 をコントロールすることがで きるため,より 正 確 に 外 部 性 を 計 測 できることが 期 待 できる たとえば 信 号 機 や 歩 道 橋 の 設 置 状 況 や 警 察 の 取 締 りなどは 事 故 発 生 に 影 響 を 与 えるだ 図 1: 私 的 限 界 費 用 曲 線 社 会 的 限 界 費 用 曲 線 需 要 曲 線 私 的 限 界 費 用 曲 線 社 会 的 限 界 費 用 曲 線 需 要 曲 線 k 需 要 曲 線 D ( = Q ) -ε 社 会 的 限 界 費 用 SMC(= b + 2cQ) A ピグー 税 B C 私 的 限 界 費 用 ( 課 税 前 ) O 走 行 距 離 (Q) Q * optimal Q * private ( 社 会 的 に 望 ましい 走 行 距 離 ) ( 市 場 で 達 成 される 走 行 距 離 ) 106

自 動 車 保 険 への 課 税 による 事 故 外 部 性 の 内 部 化 について ろうが,これらが 時 間 を 通 じて 変 わらないとすれ ば 都 道 府 県 ダミーによってコントロールされる なお 1987 年 を 開 始 年 とするのはガソリン 価 格 の 都 道 府 県 別 データがこの 年 度 以 降 しか 得 られない からであり,2000 年 までを 対 象 とするのは,こ の 時 点 ではまだ 日 本 で PAYD 自 動 車 保 険 が 普 及 しておらず, 私 的 限 界 費 用 に 自 動 車 保 険 料 を 含 め る 必 要 がないからである 以 下 では 中 心 的 役 割 を 果 たす 2 つの 変 数 である 事 故 コストと 走 行 距 離 について 詳 述 し,その 他 の コントロール 変 数 については 出 所 と 記 述 統 計 量 を 記 すにとどめる データの 出 所 は 末 尾 の データ 補 遺 に 示 した 事 故 コスト(AccidentCost) 事 故 コストは, 損 害 保 険 料 率 算 定 会 発 行 の 自 動 車 保 険 の 概 況 に 掲 載 されている 自 賠 責 保 険 保 険 金 支 払 額 と 任 意 自 動 車 保 険 保 険 金 支 払 額 の 合 計 として 定 義 する 一 般 に 交 通 事 故 による 死 亡 や 傷 害 による 損 失 を 評 価 することは 困 難 だが, 自 動 車 保 険 金 の 支 払 額 は 逸 失 利 益 や 車 両 の 市 場 価 値 などを 参 考 に 算 出 しているため,ある 意 味 では 客 観 的 に 事 故 コストを 評 価 しており, 代 理 変 数 と して 完 全 でなくとも 最 善 である 事 故 コストデータについて, 以 下 の 2 点 に 注 意 が 必 要 である 第 1 に, 支 払 保 険 金 に 含 まれない 事 故 コストは 計 上 されないため,その 分 だけ 事 故 コスト 外 部 性 の 大 きさを 過 小 に 見 積 もることに なる 支 払 保 険 金 に 含 まれないコストとしては, 訴 訟 費 用, 職 場 の 損 失, 警 察 関 連 コスト, 事 故 に 伴 う 渋 滞 コスト, 救 急 車 による 搬 送 コストなどが 挙 げられる 第 2 に, 任 意 保 険 は 加 入 率 が 100%ではないた め, 任 意 保 険 に 未 加 入 のドライバーが 起 こした 事 故 コストは 計 上 されないことになる そこで 各 都 道 府 県 の 任 意 自 動 車 保 険 加 入 率 が 100%だとみな して 事 故 コストを 計 算 する たとえばある 都 道 府 県 における 支 払 保 険 金 額 が 100 億 円 で 任 意 保 険 加 入 率 が 60%であれば,その 都 道 府 県 の 支 払 保 険 100% 金 額 を 100( 億 円 ) 167 億 円 と 見 積 も 60% る 7 走 行 距 離 (Q) 各 都 道 府 県 における 走 行 距 離 データは,2 種 類 のデータから 作 成 した 1 つは 国 土 交 通 省 一 般 交 通 量 調 査 基 本 集 計 表 道 路 交 通 センサス の データである この 統 計 は 一 定 期 間 に 当 該 測 定 箇 所 を 通 過 した 車 の 数 をカウントすることによって 作 られている 統 計 であり, 大 規 模 かつ 包 括 的 だが, 5 年 に 1 度 しか 実 施 されないという 問 題 がある そこでもう 1 つの 補 完 的 なデータとして, 国 土 交 通 省 自 動 車 輸 送 統 計 年 報 を 用 いる この 統 計 は, 無 作 為 に 選 ばれた 3 万 件 のサンプルを 対 象 に 年 間 走 行 距 離 などを 質 問 し,その 結 果 を 国 土 交 通 省 が 集 計 し 公 開 しているものである 毎 年 実 施 さ れており,すべての 道 路 をカバーしているという 利 点 がある これら 2 つのデータを 用 いて 各 都 道 府 県 別 に 走 行 距 離 のデータを 作 成 した 8 なお 走 行 距 離 (Q) の 単 位 として 台 km を 用 いたが,これは 台 数 と 走 行 距 離 を 掛 け 合 わせて 表 される 単 位 である た とえば 1,000 台 kmとは,1,000 台 の 自 動 車 が 1kmず つ 走 行,あるいは 100 台 の 自 動 車 が 10kmずつ 走 行 するといったケースを 意 味 する 本 分 析 では 各 都 道 府 県 内 である 期 間 にどれだけ 自 動 車 が 走 行 し たかという 総 量 に 関 心 があるため,この 定 義 を 採 用 した 107

経 済 研 究 ( 明 治 学 院 大 学 ) 第 152 号 表 1: 記 述 統 計 量 変 数 名 説 明 単 位 1987 年 2000 年 平 均 標 準 偏 差 平 均 標 準 偏 差 AccidentCost 事 故 コスト 円 4.42.E+10 4.25.E+10 7.86.E+10 7.46.E+10 Q 走 行 距 離 千 台 km 11,700,000 7,430,690 16,500,000 10,000,000 lanemile 道 路 総 延 長 km 24,875 17,370 28,598 19,576 car 登 録 自 動 車 台 数 台 1,120,112 858,456 1,606,914 1,155,740 med 医 療 費 円 12,830 1,279 18,237 1,888 young 15-24 歳 男 性 割 合 % 6.70 1.06 6.32 0.47 snow 降 雪 日 数 日 36 33 33 36 rain 降 雨 量 mm 1,486 553 1,553 447 alcohol アルコール 消 費 量 l 167,551 189,610 225,761 279,042 pop 人 口 人 2,600,809 2,387,326 2,700,550 2,516,876 注 )データの 出 所 はデータ 補 遺 に 示 した コントロール 変 数 (X) 走 行 距 離 以 外 の 要 因 で 事 故 コストに 影 響 を 与 え ると 考 えられる 変 数 をコントロール 変 数 として 含 めた 具 体 的 には, 道 路 総 延 長 (lanemile), 登 録 自 動 車 台 数 (car), 医 療 費 (med),15-24 歳 男 性 割 合 (young), 降 雪 日 数 (snow), 降 雨 量 (rain), アルコール 消 費 量 (alcohol), 人 口 (pop)の8 変 数 を 含 めた 表 1 は 1987 年 と 2000 年 についての 記 述 統 計 量 である 3.3. 初 歩 的 な 分 析 まずは 単 純 に 走 行 距 離 と 事 故 コストの 関 係 を 観 察 しよう 図 2 は 2000 年 のみのデータを 用 いて 47 都 道 府 県 の 走 行 距 離 と 事 故 コスト( 限 界 費 用 ではなく 総 図 2: 走 行 距 離 と 事 故 コストの 関 係 (47 都 道 府 県,2000 年 ) 事 故 コスト( 円 ) 0 1.00e+11 2.00e+11 3.00e+11 Tokyo Osaka Chiba Kanagawa Saitama Fukuoka Hyogo Ibaraki Shizuoka Gumma GifuHiroshima Kyoto Miyagi Okayama Mie Tochigi Fukushima Nagano Niigata Nara Yamaguchi Aomori Shiga Wakayama Kagawa Ehime Kumamoto Ishikawa Toyama Akita Yamagata Iwate Tokushima Fukui Yamanashi Saga Nagasaki Miyazaki Kagoshima Oita Tottori Kochi Shimane Okinawa Aichi Hokkaido 0 10000000 20000000 30000000 40000000 走 行 距 離 ( 千 台 キロ) 注 ) 走 行 距 離 と 事 故 コストの 関 係 は 正 かつ quadratic な 関 係 にあること がわかる ただし 北 海 道 は 他 府 県 と 比 べて 走 行 距 離 に 対 する 事 故 コ ストが 小 さい これは 面 積 の 広 い 北 海 道 の 特 徴 を 反 映 しているため, 外 れ 値 として 扱 う 108

自 動 車 保 険 への 課 税 による 事 故 外 部 性 の 内 部 化 について 図 3: 走 行 距 離 と 事 故 コストの 関 係 ( 北 海 道 を 除 く,2000 年 ) 事 故 コスト( 円 ) 0 1.00e+11 2.00e+11 3.00e+11 Tokyo Osaka Chiba Kanagawa Saitama Fukuoka Hyogo Ibaraki Shizuoka Gumma GifuHiroshima Kyoto Miyagi Okayama Mie Tochigi Fukushima Nagano Niigata Nara Yamaguchi Aomori Shiga Wakayama Kagawa Ehime Kumamoto Ishikawa Toyama Akita Yamagata Iwate Tokushima Fukui Yamanashi Saga Nagasaki Miyazaki Kagoshima Oita Tottori Kochi Shimane Okinawa Aichi 0 10000000 20000000 30000000 40000000 走 行 距 離 ( 千 台 キロ) 注 ) 北 海 道 を 外 れ 値 として 除 き, 走 行 距 離 と 事 故 コストの 関 係 を 示 し ている 費 用 )の 関 係 を 見 た 散 布 図 である 走 行 距 離 20,000,000 千 台 km 以 下 の 水 準 に 多 くのデータが 集 中 しているものの,データは 縦 軸 横 軸 方 向 に 十 分 ばらついており,Q と AccidentCost の 関 係 を 分 析 するのに 信 頼 できる 結 果 が 見 込 まれる グラフからわかるのは, 両 者 の 間 には 明 確 な 正 の 関 係 があり, 線 形 ではなく quadratic な 形 状 を していることである つまり 走 行 距 離 が 長 くなる と 事 故 コストが 増 加 するが,その 増 加 の 仕 方 は 単 調 的 ではなく 指 数 的 である このことは 社 会 的 限 界 費 用 が 右 上 がりであることを 示 唆 している 北 海 道 については, 他 県 と 比 べて 走 行 距 離 が 長 い 割 に 事 故 コストが 小 さい 警 察 庁 の 統 計 (1999 年 )でも, 走 行 台 km 当 たりの 交 通 事 故 発 生 件 数 は, 全 国 平 均 が 0.0011 件 / 千 台 kmなのに 対 し, 北 海 道 はそれより 35%ほど 少 ない 0.00072 件 / 千 台 kmで ある そこで 以 下 のすべての 分 析 では 北 海 道 を 外 れ 値 (outlier)とみなして 分 析 することにする 図 3 は 北 海 道 を 除 いて 再 度 散 布 図 を 描 いたもので ある 3.4. 回 帰 分 析 前 節 での 単 純 な 分 析 は, 走 行 距 離 と 事 故 コスト の 関 係 について 視 覚 的 な 情 報 を 与 えてくれるが, 事 故 コストに 影 響 を 与 える 走 行 距 離 以 外 の 要 因 を 一 切 考 慮 していないため, 両 者 間 の 真 の 関 係 を 表 していない 可 能 性 がある そこでパネルデータを 用 いて⑷ 式 を 推 定 する 推 定 に 当 たり 注 意 すべきことは, 走 行 距 離 Q とその 2 乗 値 Q 2 が 外 生 でない( 誤 差 項 と 相 関 を 持 つ) 可 能 性 である Q と Q 2 は 次 のような 理 由 で 誤 差 項 と 相 関 を 持 つ 可 能 性 がある まず,これ らは 交 通 量 調 査 により 収 集 されるデータのため, 測 定 誤 差 (measurement error)を 持 つ 可 能 性 が ある その 場 合 は 誤 差 項 と 相 関 し 内 生 性 の 問 題 が 生 じる また AccidentCost が 走 行 距 離 Q,Q 2 に 影 響 を 与 えるという 逆 の 因 果 関 係 がある 可 能 性 も ある たとえば 都 市 部 のように 事 故 が 多 い 地 域 で は 運 転 が 控 えられ, 地 方 では 事 故 が 少 なくそのた め 自 動 車 利 用 も 多 くなるとすれば, 事 故 コストが 走 行 距 離 に 影 響 を 与 える このような 場 合 もやは り Q は 内 生 変 数 になる (Wooldridge (2010)) 109

経 済 研 究 ( 明 治 学 院 大 学 ) 第 152 号 以 上 の 可 能 性 を 考 慮 して,Q と Q 2 を 内 生 変 数 とする 操 作 変 数 法 (IV)も 採 用 する 操 作 変 数 としては Q と Q 2 と 相 関 があり,かつ 誤 差 項 ε it と は 相 関 しない,すなわち Q と Q 2 を 通 じてしか AccidentCost に 影 響 を 与 えない 変 数 を 探 す 必 要 が あるが,そうした 条 件 を 満 たす 変 数 として,ガソ リン 価 格 (gasprice), 普 通 免 許 保 有 者 数 (license), 所 得 (income)の 3 つを 候 補 とする これらは 次 の 理 由 で 操 作 変 数 として 有 効 であることが 見 込 ま れる まずガソリン 価 格 は,ガソリン 消 費 に 直 接 影 響 を 与 えるため 走 行 距 離 と 相 関 が 高 いはずであ るが,それ 自 体 が 事 故 コストに 影 響 を 与 えること は 考 えにくい また 普 通 免 許 保 有 者 数 が 多 ければ その 都 府 県 における 走 行 距 離 が 長 くなるが,やは りそれ 以 外 のルートで 事 故 コストに 影 響 すること は 考 えにくい 最 後 に, 所 得 が 高 ければ 車 の 利 用 が 増 えるため, 走 行 距 離 と 相 関 するはずである ただ 所 得 の 大 きさは, 逸 失 利 益 や 車 両 価 額 に 影 響 するため, 走 行 距 離 以 外 のルートを 通 じて 事 故 コ ストに 影 響 を 与 える 可 能 性 があり,この 点 で 誤 差 項 と 相 関 を 持 つ(exogeneity の 条 件 を 満 たさな い) 可 能 性 がある 表 2 には Pooled OLS, 固 定 効 果 モデル(Panel (FE)), 操 作 変 数 法 による 固 定 効 果 モデル(Panel (IV))の 3 通 りの 方 法 で 推 定 した 結 果 が 示 され ている 定 数 項 はモデルに 含 めたが 省 略 した 列 ⑴, 列 ⑵にはそれぞれ Pooled OLS と 固 定 効 果 モデルによる 推 計 結 果 が 示 されている 表 には 示 されていないが, 都 道 府 県 ダミーがすべてゼ ロ を 帰 無 仮 説 とする F 検 定 では 帰 無 仮 説 が 棄 却 されることから, 固 定 効 果 モデルが 望 ましいと 判 断 する 列 ⑶には 操 作 変 数 (IV) 法 を 用 いた 推 計 結 果 が 示 されている まず IV が 統 計 的 に 満 たすべき 2 つの 条 件 を 満 たしているかチェックしよう まず IV が 内 生 変 数 と 相 関 しているか(relevant か,weak でないか)どうかを 確 認 する 表 2 よ り 第 一 段 階 推 定 における F 統 計 量 は 21.47 であ り, 目 安 である10を 上 回 っているためIVは weak ではないと 判 断 する (Stock and Watson (2007)) 次 に IV が 誤 差 項 と 相 関 していないか( 外 生 か どうか)については,Sargan-Hansen テストにお ける 帰 無 仮 説 である IV が 外 生 である という 帰 無 仮 説 が 棄 却 されるかどうかで 判 断 する 表 よ り Sargan-Hansen s J-statistic は 0.561,p 値 は 0.454 であり,IV が 外 生 であるという 帰 無 仮 説 は 棄 却 されない 以 上 より,IV は 統 計 的 に 満 たす べき 2 条 件 をクリアしており,この 意 味 で 推 計 結 果 は 信 頼 できる 関 心 のある 走 行 距 離 (Q)とそ の2 乗 (Q 2 )の 係 数 はいずれも 有 意 水 準 1%で 統 計 的 に 有 意 である 以 上 から,ここでは IV による 結 果 を 採 用 し, 以 下 の 議 論 を 行 う 表 2 の 列 ⑶より,⑵ 式 の 社 会 的 限 界 費 用 を^b+2cQ ^ は, 17.95+2 0.000000149 Q と 表 される 次 に 私 的 限 界 費 用 を 導 出 する 私 的 限 界 費 用 は Q が 追 加 的 に 1 単 位 (つまりここでは 1 千 台 km) 増 加 したときの 私 的 総 費 用 の 増 加 分 ということに なるが,すでに 述 べたように 本 分 析 が 対 象 とする 2000 年 までは PAYD 自 動 車 保 険 が 普 及 していな いため, 走 行 距 離 に 応 じて 変 化 する 費 用 はガソリ ン 費 用 のみということになる 自 動 車 取 得 税 重 量 税 や 駐 車 場, 保 険 料 などはすべて 走 行 距 離 に 応 じて 変 化 しないため 固 定 費 用 とみなされる ガソ リン 費 用 は 都 道 府 県 ごとに 多 少 ばらつきがあるた め,その 点 を 考 慮 して 分 析 する たとえば 2000 年 のガソリンの 年 平 均 価 格 (レ ギュラー)は 全 国 平 均 で 103.2 円 /lであり, 国 110

自 動 車 保 険 への 課 税 による 事 故 外 部 性 の 内 部 化 について Pooled OLS 被 説 明 変 数 AccidentCost Q 0.0632 (0.132) Q 2 1.16e-08 (1.005) lanemile -887.4 *** (-8.438) car 59.18 *** (16.05) med 448.2 ** (2.297) young -152,175 (-0.259) snow -9,147 (-0.776) rain -1,471 ** (-2.579) alcohol 43.41 *** (5.684) pop -2.922 ** (-2.565) 表 2: 推 計 結 果 ⑴ ⑵ ⑶ Panel(FE) AccidentCost -1.787 * (-1.754) 8.31e-08 *** (3.936) -2,875 ** (-2.598) 82.39 *** (5.778) -15.23 (-0.0301) 1.997e + 06 ** (2.572) 2,491 (0.159) 841.6 (1.508) 40.10 *** (2.869) -33.85 ** (-2.169) Panel(IV) AccidentCost 17.95 *** (4.089) 1.49e-07 *** (2.727) -10,803 *** (-5.443) -81.46 * (-1.734) 747.4 (0.639) 954,557 (0.761) -13,870 (-0.298) 421.3 (0.461) -9.194 (-0.385) Observations 644 644 644 R-squared 0.982 0.876 0.584 Number of prefectures 46 46 First-stage F-statistic 21.47 Sargan-Hansen s Overidentifying restrictions J- test and p-value 0.561 (0.454) 注 )( ) 内 は Robust t-statistics である *** p < 0.01, ** p < 0.05, * p < 0.1 定 数 項 の 結 果 は 除 く 北 海 道 を 除 く 46 都 府 県 についての 1987 年 度 から 2000 年 度 までの 14 年 分 のデータ 土 交 通 省 の 調 査 によれば,ガソリン 自 動 車 全 体 の 燃 費 は 全 国 平 均 で 13.5km/l であった 9 したがって 走 行 距 離 がもう 1 千 台 km 増 加 したときの 私 的 費 用 の 増 加 分 は 次 のように 計 算 できる 103.2( 円 /l) PMC 2000 = = 1000( 千 台 km)= 7644.4( 円 ) 13.5(km/l) 最 後 に 需 要 関 数 を 特 定 する ガソリン 需 要 の 価 格 弾 力 性 ε は,( 二 村 真 理 子,1999)を 参 照 し,ε 度 の 値 が 計 測 されており,ともにサーベイ 研 究 で ある Dahl and Sterner (1991)と Espey (1998) は, 短 期 におけるガソリン 需 要 の 価 格 弾 力 性 をそ れぞれ 平 均 -0.26,-0.23 と 報 告 している パラメータ k の 値 は 次 のようにして 特 定 でき る まず 図 1 の 点 C の 座 標 は 実 際 の 走 行 距 離 と 私 的 限 界 費 用 曲 線 の 交 点 (Q * private,pmc it )であ るからデータから 特 定 される 需 要 曲 線 がこの 点 =-0.21 とする ちなみに 弾 力 性 は 欧 米 でも 同 程 111

経 済 研 究 ( 明 治 学 院 大 学 ) 第 152 号 を 通 過 することを 利 用 すれば, * Q private より, Q k = -ε = としてパラメータが 決 ま P -0.21 PMCit る この 作 業 を 都 道 府 県 ごとに 行 えば,すべての 都 道 府 県 について 需 要 曲 線 を 定 めることができる 以 上 で 私 的 限 界 費 用 曲 線, 社 会 的 限 界 費 用 曲 線, 需 要 曲 線 が 導 出 され, 都 道 府 県 ごとに 図 1 のよう なグラフを 描 く 準 備 が 整 った 3.5.ケース: 愛 知 県 と 鳥 取 県 47 都 道 府 県 すべてについて 外 部 性 を 計 測 する ことは 作 業 上 困 難 なため, 以 下 では 具 体 的 なケー スとして, 年 間 走 行 距 離 が 最 も 長 い 愛 知 県 と, 最 も 短 い 鳥 取 県 について 分 析 する 分 析 対 象 は 2000 年 度 とする ガソリンに 課 税 する 場 合 と PAYD 自 動 車 保 険 に 課 税 する 場 合 は,それぞれ 以 下 のような 政 策 が 実 施 されると 仮 定 する Q - 1 ε k P= ( ) まずガソリン 税 の 場 合 は, 走 行 距 離 が 平 均 的 な 都 道 府 県 の 外 部 費 用 が 内 部 化 されるようにガソリ ンに 税 が 設 定 され,その 税 率 がすべての 都 道 府 県 に 適 用 されると 仮 定 する 具 体 的 には, 走 行 距 離 の 全 国 平 均 は 16,504,753 千 台 km( 北 海 道 含 む, 2000 年 )であるが, 走 行 距 離 がこの 値 にもっと も 近 いのは 三 重 県 であるため, 三 重 県 における 事 故 外 部 性 が 内 部 化 されるようガソリン 税 率 が 設 定 され,この 税 率 がすべての 都 道 府 県 に 適 用 される と 仮 定 する 次 に PAYD 自 動 車 保 険 に 課 税 する 場 合 は, 都 道 府 県 ごとに 外 部 性 が 内 部 化 されるものとする すなわち 各 都 道 府 県 の 私 的 限 界 外 部 費 用 が 社 会 的 限 界 外 部 費 用 と 一 致 するよう, 私 的 限 界 費 用 が 引 き 上 げられると 仮 定 する 両 者 を 比 較 することで,ガソリン 税 を 採 用 した 場 合 と PAYD 自 動 車 保 険 を 採 用 した 場 合 とで, 課 税 額 やその 影 響 にどのような 違 いが 出 るかを 検 討 することが 目 的 である 愛 知 県 のケース 図 4 は 前 節 までの 分 析 結 果 をもとに,2000 年 度 の 愛 知 県 における 私 的 限 界 費 用 曲 線, 社 会 的 限 界 費 用 曲 線, 需 要 曲 線 を 描 いたグラフである 市 場 均 衡 では 点 Cが 達 成 され, 走 行 距 離 41,940,671 千 台 kmが 実 現 される いま, 全 国 一 律 のガソリン 税 が 課 された 場 合, 図 4: 私 的 限 界 費 用, 社 会 的 限 界 費 用, 需 要 曲 線 ( 愛 知 県,2000 年 ) 40,000 35,000 P M C30,000 S M 25,000 C 20,000 需 要 曲 15,000 線 ( 円 10,000 ) 5,000 0 0 社 会 的 限 界 費 用 曲 線 私 的 限 界 費 用 曲 線 ( 課 税 後 ) 私 的 限 界 費 用 曲 線 ( 課 税 前 ) 1,500,000 3,000,000 4,500,000 6,000,000 7,500,000 9,000,000 10,500,000 12,000,000 13,500,000 15,000,000 16,500,000 18,000,000 19,500,000 21,000,000 22,500,000 24,000,000 25,500,000 27,000,000 28,500,000 30,000,000 31,500,000 33,000,000 34,500,000 36,000,000 37,500,000 39,000,000 40,500,000 42,000,000 43,500,000 45,000,000 46,500,000 48,000,000 49,500,000 走 行 距 離 ( 千 台 km) 注 ) 愛 知 県 の 私 的 限 界 費 用 曲 線, 社 会 的 限 界 費 用 曲 線, 需 要 曲 線 を 描 いた 市 場 均 衡 は 点 C であり, 社 会 的 に 最 適 な 点 は A である ガソリン 税 として 全 国 一 律 に 課 税 した 場 合 は 過 小 に 課 税 され, 点 A が 実 現 する B A 需 要 曲 線 ( 愛 知 県 ) A B C 112

自 動 車 保 険 への 課 税 による 事 故 外 部 性 の 内 部 化 について 均 衡 点 は A となる この 点 の 座 標 を 求 めると 10, 元 の 点 C と 比 べて 私 的 限 界 費 用 は 182.2% 引 き 上 げられ,その 結 果 走 行 距 離 は 33,747,349 千 台 kmと なり 19.6%だけ 減 少 することがわかる 一 方,PAYD 自 動 車 保 険 が 普 及 して 走 行 距 離 に 応 じた 課 税 が 可 能 となり, 社 会 的 に 望 ましい 均 衡 が 達 成 されるように 課 税 された 場 合 の 均 衡 点 は 点 A となる このとき 私 的 限 界 費 用 は 253.8% 引 き 上 げられており,その 結 果, 走 行 距 離 は 32,180,349 千 台 kmとなり,もとの 点 C と 比 べると 23.3%だけ 減 少 している このように, 走 行 距 離 が 長 い 都 道 府 県 では, 全 国 一 律 のガソリン 税 では 走 行 距 離 の 削 減 が 十 分 で なく, 最 適 な 削 減 幅 を 100 とすると,84 までし か 削 減 されない 鳥 取 県 のケース 図 5 は 鳥 取 県 について 私 的 限 界 費 用 曲 線, 社 会 的 限 界 費 用 曲 線, 需 要 曲 線 を 示 したものである 縦 軸 のスケールは 愛 知 県 と 異 なる 点 に 留 意 されたい 市 場 均 衡 として 達 成 される 点 C では,5,606,466 千 台 kmだけ 自 動 車 走 行 がなされる いま, 全 国 一 律 のガソリン 税 を 課 すと,A 点 が 均 衡 として 実 現 する このとき 私 的 限 界 費 用 は 182.2% 引 き 上 げられており,その 結 果, 走 行 距 離 は 4,509,064 千 台 kmとなり, 市 場 均 衡 と 比 べる 図 5: 私 的 限 界 費 用, 社 会 的 限 界 費 用, 需 要 曲 線 ( 鳥 取 県,2000 年 ) 40,000 需 要 曲 線 ( 鳥 取 県 ) 35,000 P M C30,000 私 的 限 界 費 用 曲 線 ( 課 税 後 ) S M 25,000 C 20,000 需 要 A A 曲 15,000 線 ( 社 会 的 限 界 費 用 曲 線 私 的 限 界 費 用 曲 線 ( 課 税 前 ) 円 10,000 ) C 5,000 B B 0 0 500000 1000000 1500000 2000000 2500000 3000000 3500000 4000000 4500000 5000000 5500000 6000000 6500000 7000000 7500000 8000000 8500000 9000000 9500000 10000000 走 行 距 離 ( 千 台 km) 注 ) 鳥 取 県 の 私 的 限 界 費 用 曲 線, 社 会 的 限 界 費 用 曲 線, 需 要 曲 線 を 描 い た 横 軸 のスケールは 愛 知 県 と 異 なる 市 場 均 衡 は 点 C であり, 社 会 的 に 最 適 な 点 は A であるが,ガソリン 税 として 全 国 一 律 に 課 税 した 場 合 は 過 大 に 課 税 され, 点 A が 実 現 する 表 3: 政 策 の 効 果 のまとめ( 愛 知 県 と 鳥 取 県 のケース,2000 年 ) ガソリンへの 課 税 PAYD 自 動 車 保 険 への 課 税 ( 点 C から 点 A ) ( 点 C から 点 A) 愛 知 県 鳥 取 県 愛 知 県 鳥 取 県 PMC の 引 上 率 182.2% 182.2% 253.8% 151.6% 課 税 前 の 走 行 距 離 ( 千 台 km) 41,960,671 5,606,466 41,960,671 5,606,466 課 税 後 の 走 行 距 離 ( 千 台 km) 33,747,349 4,509,064 32,180,349 4,619,016 課 税 による 走 行 距 離 の 減 少 率 -19.6% -19.6% -23.3% -17.6% 注 ) ガソリンへの 課 税 による 走 行 距 離 の 減 少 率 が 愛 知 県 と 鳥 取 県 で 同 じ-19.6%であるのは, 需 要 の 価 格 弾 力 性 が 一 定 の 需 要 曲 線 を 仮 定 しているためである 113

経 済 研 究 ( 明 治 学 院 大 学 ) 第 152 号 と 19.6%だけ 削 減 される 一 方 PAYD 自 動 車 保 険 が 普 及 して 走 行 距 離 に 応 じて 課 税 が 可 能 になった 場 合 の 均 衡 は A であ る このとき 私 的 限 界 費 用 は 151.6%だけ 引 き 上 げられ,その 結 果, 走 行 距 離 は 4,619,016 千 台 km となり,もとの 市 場 均 衡 点 C と 比 べると 17.6% だけ 削 減 されている つまり, 走 行 距 離 の 短 い 都 道 府 県 では, 走 行 距 離 の 異 質 性 による 外 部 性 の 違 いを 考 慮 しないガソ リン 税 の 場 合, 税 負 担 が 過 大 になり,その 結 果 必 要 以 上 に 走 行 距 離 が 削 減 されてしまう 最 適 な 削 減 幅 を 100 とすると,111 だけ 削 減 されてしまう 表 3 は 以 上 の 結 果 をまとめたものである 4. 考 察 と 政 策 的 インプリケーション 本 章 では 以 上 の 分 析 結 果 を 考 察 した 上 で, 政 策 的 インプリケーションを 提 示 する 4.1. 分 析 結 果 の 考 察 分 析 で 示 したように,ガソリン 税 は 都 道 府 県 ご との 走 行 距 離 によって 外 部 性 が 異 なることを 考 慮 せず 一 律 に 課 税 するため, 走 行 距 離 が 平 均 よりも 長 い 都 道 府 県 では 過 小 に, 短 い 都 道 府 県 では 過 大 に 課 税 される 具 体 的 には 愛 知 県 では 23.3% 走 行 距 離 が 削 減 されることが 望 ましいが,ガソリン 税 の 場 合 は 19.6%の 削 減 にとどまる また 鳥 取 県 で は 逆 に,17.6%の 走 行 距 離 削 減 が 望 ましいが,ガ ソリン 税 の 場 合 は 19.6% 削 減 されることになり, 必 要 以 上 に 走 行 距 離 が 抑 えられる 両 者 の 違 いを 大 きいと 捉 えるか 小 さいと 捉 える かは 主 観 的 な 判 断 になってしまうが,いずれにせ よ 個 人 レベルではこの 違 いが 大 きな 違 いとなる 可 能 性 がある というのは, 個 人 レベルでは 都 道 府 県 平 均 以 上 に 走 行 距 離 のばらつきが 大 きいからで ある 図 6 はアンケート 調 査 による, 個 人 レベルでの 年 間 走 行 距 離 の 分 布 である ( 調 査 対 象 は 合 計 18,841 件 調 査 の 詳 細 は 自 動 車 安 全 運 転 センター (1995)を 参 照 )ただしアンケート 記 入 ミスの 関 係 から, 年 間 走 行 距 離 10 万 km 以 上 と 回 答 したサ ンプルは, 集 計 対 象 から 除 かれている 年 間 走 行 距 離 2,000kmごとにデータを 区 切 ると, 年 間 8,000km~10,000km 運 転 する 人 々が 最 も 多 い 12 図 6: 年 間 走 行 距 離 の 分 布 ( 全 車 種 ) 10 構 8 成 比 ( 全 6 車 種 ) 4 2 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000 20,000 22,000 24,000 26,000 28,000 30,000 32,000 34,000 36,000 38,000 40,000 42,000 44,000 46,000 48,000 50,000 52,000 54,000 56,000 58,000 60,000 62,000 64,000 66,000 68,000 70,000 72,000 74,000 76,000 78,000 80,000 82,000 84,000 86,000 88,000 90,000 92,000 94,000 96,000 98,000 年 間 走 行 距 離 の 上 限 (km) 出 所 ) 自 動 車 安 全 運 転 センター(1995) 表 2-2-2 走 行 距 離 の 回 答 のあった 車 両 の 車 種 別 走 行 距 離 分 布 ( 構 成 比 ) より 作 成 100,000 114

自 動 車 保 険 への 課 税 による 事 故 外 部 性 の 内 部 化 について しかしグラフからわかるように,データは 相 当 程 度 ばらついており, 年 間 2,000km 以 下 運 転 する 人 々 がいる 一 方 で,50,000km 超 運 転 する 人 々もそれな りの 割 合 で 存 在 している このことは 都 道 府 県 レ ベルでは 高 々7.48 倍 の 違 いであるのに 対 し, 個 人 レベルでは 数 十 倍 の 単 位 で 走 行 距 離 にばらつきが あり,それに 伴 い 各 人 が 生 み 出 す 外 部 性 も 大 きく ばらついていることを 意 味 している 外 部 性 を 内 部 化 する 際 には,こうした 年 間 走 行 距 離 の 異 質 性 を 考 慮 しなければ, 都 道 府 県 データで 示 された 以 上 に 走 行 距 離 の 短 いドライバーには 過 大 な 課 税 が なされ, 長 いドライバーには 過 小 な 課 税 がなされ ることになる また 第 1 章 で 議 論 したように, 自 動 車 保 険 は 走 行 距 離 だけでなく,リスクと 相 関 する 多 様 な 属 性 ( 年 齢 性 別 車 種 地 域 など)を 保 険 料 に 反 映 しているため, 自 動 車 保 険 への 課 税 は 事 故 確 率 の 高 い 人 々ほど 重 い 負 担 を 課 すことになる この 点 でガソリン 税 よりも 課 税 は 公 平 であり, 効 率 的 に 事 故 を 削 減 できる 4.2.PAYD 自 動 車 保 険 普 及 への 課 題 以 上 のように,PAYD 自 動 車 保 険 への 課 税 は ガソリンへの 課 税 よりも 望 ましい 側 面 がある だ が 現 状 では,PAYD 自 動 車 保 険 の 普 及 は 十 分 で ない 2010 年 度 における 自 動 車 保 険 全 体 の 任 意 保 険 料 収 入 は 3 兆 1,961 億 円 ( 損 害 保 険 料 率 算 定 機 構 自 動 車 保 険 の 概 況 平 成 26 年 度 版 p. 81) だったが, 同 年 の 通 販 型 自 動 車 保 険 会 社 10 社 の 正 味 収 入 保 険 料 の 合 計 は 1,866 億 円 であり, 自 動 車 保 険 料 収 入 全 体 に 占 める 割 合 は 5.84%と 依 然 と して 大 きくない この 状 況 は 米 国 でも 同 様 だが, 普 及 が 進 まない 理 由 として 以 下 の 3 つの 点 が 指 摘 されている 11 1 走 行 距 離 を 技 術 的 に 計 測 することはごく 最 近 になってはじめて 可 能 になった 2 保 険 会 社 が 契 約 者 のプライバシーを 懸 念 し ている 3 最 初 に PAYD 自 動 車 保 険 を 大 規 模 に 提 供 することのビジネス 上 のリスク これら 3 つの 理 由 は,いずれも 技 術 革 新 により 急 速 に 解 決 される 可 能 性 が 高 い 1については GPS の 普 及 により 技 術 的 にもコスト 的 にも 走 行 距 離 を 計 測 することは 容 易 になったし,2につい ても 暗 号 技 術 の 進 展 により,プライバシーを 確 保 しながら 契 約 者 の 運 転 情 報 を 蓄 積 することが 技 術 的 に 可 能 になっている また3については 1999 年 秋 にソニー 損 保 が PAYD 型 自 動 車 保 険 を 販 売 して 以 来,15 年 以 上 が 経 過 していることを 考 え ると,ビジネス 上 のノウハウも 蓄 積 されつつある と 言 える だが 日 本 の 場 合, 上 記 の 理 由 に 加 えてもう 1 つ, PAYD 自 動 車 保 険 の 普 及 を 阻 害 している 要 因 が あると 考 えられる それは 損 害 保 険 会 社 の 保 険 料 設 定 に 一 定 の 制 約 があることである 日 本 の 損 害 保 険 各 社 は, 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 が 算 出 した 自 動 車 保 険 参 考 純 率 を 参 考 にして 保 険 料 を 設 定 し ている だがこの 参 考 純 率 は, 契 約 者 の 属 性 ( 車 種 や 年 齢 など)の 最 大 リスククラスと 最 小 リスク クラスの 較 差 を 低 く 抑 えた 形 で 公 表 されている たとえば 2016 年 2 月 現 在, 自 動 車 の 型 式 ごとに 9 つの 料 率 クラスが 設 定 されているが, 最 大 と 最 小 の 較 差 は 約 4.30 倍 とされている ( 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 参 考 純 率 のあらまし より) 実 際 は 統 計 的 にさらに 大 きなリスクの 較 差 があると 想 定 されるが, 保 険 料 に 過 度 な 格 差 が 生 じないよう 格 差 に 制 限 を 設 けているのである 保 険 料 がリスクに 見 合 った 形 で 設 定 されない 限 り,PAYD 自 動 車 保 険 も 普 及 が 進 まない 可 能 性 が 高 い というのは PAYD 自 動 車 保 険 が 普 及 す 115

経 済 研 究 ( 明 治 学 院 大 学 ) 第 152 号 るためには, 保 険 会 社 が 走 行 距 離 の 短 い 契 約 者 に 低 い 保 険 料 を 提 示 し,それに 契 約 者 が 魅 力 を 感 じ て 購 入 していくというプロセスによって 実 現 され るはずである ところが 保 険 料 の 較 差 に 制 限 があ り, 走 行 距 離 の 短 い 契 約 者 に 十 分 低 い 保 険 料 が 提 示 されなければ, 上 記 プロセスは 実 現 しない し たがって PAYD 自 動 車 保 険 を 普 及 させるもう 一 つの 条 件 として, 保 険 料 設 定 の 実 質 的 な 自 由 化 が 必 要 となるはずだ ただし 日 本 で 現 状 のような 保 険 料 の 較 差 制 限 が 存 在 するのは, 自 動 車 保 険 の 普 及 率 を 高 めること が 目 的 の 一 つにあるはずである すなわち 純 粋 に 統 計 的 な 観 点 から 契 約 者 のリスクに 応 じた 保 険 料 設 定 をした 場 合, 一 部 にきわめて 高 い 保 険 料 が 提 示 される 契 約 者 が 出 現 することになり,もはや 彼 らは 保 険 の 購 入 が 不 可 能 になる あるいは 現 在 保 険 会 社 には 自 賠 責 保 険 の 引 受 義 務 が 存 在 するが, 任 意 保 険 については 引 受 義 務 が 存 在 しないため, 保 険 会 社 は 明 らかにリスクの 高 い 契 約 者 との 契 約 を 拒 絶 することが 予 想 される 前 者 は affordability crisis, 後 者 は availability crisis と 呼 ばれてい るが,こうした 問 題 を 回 避 するために 一 定 の 較 差 が 設 けられていると 考 えられる 較 差 の 制 限 をなくした 場 合, 上 記 の 問 題 から 保 険 が 十 分 に 付 帯 されていない 車 両 が 路 上 に 増 加 し, 事 故 発 生 時 に 賠 償 責 任 能 力 を 持 たない 当 事 者 を 多 く 生 み 出 すことになる 可 能 性 がある このこ とは 本 人 のみならず 事 故 に 巻 き 込 まれた 人 々にも 影 響 するため 深 刻 な 社 会 問 題 となり 得 る しかし この 問 題 への 対 応 が, 較 差 の 縮 小 によりなされる こともまた 問 題 といえる 一 部 の 契 約 者 に 法 外 に 高 い 保 険 料 が 提 示 されるのは,その 契 約 者 が 事 故 を 起 こす 確 率 のきわめて 高 い 契 約 者 だからであっ て, 本 来 はそうしたドライバーには 車 の 運 転 をさ せないことが 望 ましいはずだ 保 険 料 の 較 差 制 限 はそうした 危 険 な 人 々にまで 保 険 を 提 供 し, 車 の 運 転 を 可 能 にしているという 意 味 で, 社 会 全 体 と しての 事 故 削 減 を 阻 む 一 因 となっている 以 上 の 議 論 を 踏 まえると, 保 険 料 はあくまでリ スクに 見 合 った 価 格 が 提 示 されるように 自 由 に 設 定 した 上 で,affordability crisis,availability crisis への 対 応 策 として, 強 制 保 険 の 範 囲 拡 大 を 同 時 に 行 うことが 望 ましい 具 体 的 には 対 人 賠 償 責 任 保 険 対 物 賠 償 責 任 保 険 搭 乗 者 傷 害 保 険 をす べて 補 償 限 度 額 無 制 限 での 加 入 を 義 務 化 すること で, 無 保 険 車 の 増 加 を 抑 止 する 政 策 を 同 時 に 実 施 すべきである 5. 結 論 警 察 庁 資 料 によると,2012 年 の 交 通 事 故 死 者 数 は 4,411 人, 死 傷 者 数 は 829,807 人, 死 傷 事 故 件 数 は 665,138 件 であった 交 通 事 故 は 長 期 的 趨 勢 としては 減 少 傾 向 にあり, 今 後 も 自 動 運 転 車 や 自 動 ブレーキなど 安 全 面 での 技 術 革 新 により 大 き く 減 少 する 可 能 性 がある だが 一 方 で,2011 年 における 交 通 事 故 死 者 数 のうちの 約 半 数 は 65 歳 以 上 であることを 踏 まえると 12, 今 後 高 齢 化 が 進 む 中 で 本 当 に 交 通 事 故 が 一 貫 して 減 少 していくの か, 不 透 明 な 部 分 も 大 きい 交 通 事 故 は 少 なくとも 表 向 きは 重 大 な 社 会 問 題 として 扱 われてきたが, 実 際 に 採 用 される 交 通 安 全 対 策 は 費 用 対 効 果 の 点 で 問 題 があったり,そも そも 効 果 が 疑 わしかったりするものが 多 い 本 論 文 で 議 論 した 政 策 は, 政 策 実 施 コストがゼロに 近 く, 人 々のインセンティブに 影 響 を 与 えることで 事 故 を 確 実 に 減 らすことができるという 意 味 で, 有 力 な 選 択 肢 となり 得 るはずだ もちろん 事 故 を 減 らす 政 策 には 他 にも 多 様 な 選 択 肢 があるが,い ずれにせよ 政 策 の 有 効 性 やコストパフォーマンス 116

自 動 車 保 険 への 課 税 による 事 故 外 部 性 の 内 部 化 について を 客 観 的 に 評 価 したうえで, 有 効 かつ 無 駄 のない 政 策 を 迅 速 に 実 行 することが 重 要 である 参 考 文 献 Dahl, C. & Sterner, T. (1991). Analysing Gasoline Demand Elasticities: A Survey. Energy Economics, 11, 53-76. Dubner, S.J. & Levitt, S.D. (2008, April 20). The trouble with negative externalities. The New York Times. Edlin, A.S. & Karaca-Mandic, P.K. (2006). The Accident Externality from Driving. Journal of Political Economy, 114(5), 931-955. Edlin, A.S. & Karaca-Mandic, P.K. (2007). Erratum: The Accident Externality from Driving. Journal of Political Economy, 115(4), 704-705. Espey, M. (1998). Gasoline Demand Revisited: An International Meta-Analysis of Elasticities. Energy Economics, 20, 273-295. Saito, K. (2006). Testing for Asymmetric Information in the Automobile Insurance Market under Rate Regulation. The Journal of Risk and Insurance, 73(2), 335-356. データ 補 遺 表 4:データの 定 義 と 出 所 変 数 変 数 名 定 義 単 位 出 所 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 自 動 車 強 制 保 険 支 払 額 千 円 保 険 の 概 況 各 年 版 コ 事 ス Accident- 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 自 動 車 ト 故 任 意 保 険 支 払 額 本 文 を 参 照 千 円 Cost 保 険 の 概 況 各 年 版 対 人 賠 償 保 険 加 入 率 % 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 自 動 車 保 険 の 概 況 各 年 版 距 走 離 行 国 土 交 通 省 一 般 交 通 量 調 査 基 交 通 量 Q 本 文 を 参 照 千 台 キロ 本 集 計 表 道 路 交 通 センサス 道 路 総 延 長 lanemile 区 間 延 長 車 線 数 キロ 国 土 交 通 省 一 般 交 通 量 調 査 基 本 集 計 表 道 路 交 通 センサス 医 療 費 med 国 民 健 康 保 険 診 療 費 ( 被 保 険 者 一 人 一 日 当 たり 費 用 額 ) 円 国 民 健 康 保 険 事 業 年 報 総 人 口 に 対 する 15 歳 以 上 コ 15-24 歳 男 性 割 合 young ン 25 歳 未 満 の 男 性 の 割 合 % 住 民 基 本 台 帳 国 勢 調 査 ト ロ 降 雪 量 snow 雪 日 数 日 気 象 庁 年 報 ー 降 雨 量 rain 降 水 量 mm 気 象 庁 年 報 ル 変 年 間 成 人 一 人 当 たり 酒 類 消 数 アルコール 消 費 alcohol リットル 国 税 庁 統 計 年 報 書 費 数 量 Ⅹ 人 口 pop 総 人 口 人 民 力 CD-ROM より 登 録 自 動 車 台 数 car 保 有 車 両 数 台 運 輸 省 自 動 車 交 通 局 自 動 車 保 有 車 両 数 ガソリンスタンド 数 gas ガソリンスタンド 数 軒 民 力 CD-ROM より( 資 源 エネル ギー 庁 資 源 燃 料 部 石 油 流 通 課 調 べ) 操 石 油 情 報 センター 給 油 所 ガソ ガソリン 価 格 gasprice ガソリン 価 格 の 年 平 均 円 /l 作 リン 軽 油 灯 油 月 次 調 査 変 数 民 力 CD-ROM より( 警 察 庁 交 通 Ⅳ 普 通 免 許 保 有 者 数 license 普 通 自 動 車 運 転 免 許 者 数 人 局 運 転 免 許 課 調 べ) 一 人 当 たり 県 民 所 得 income 一 人 当 たり 県 民 所 得 円 県 民 経 済 計 算 年 報 注 )すべて 1988 年 から 2000 年 までの 都 道 府 県 データである 117

経 済 研 究 ( 明 治 学 院 大 学 ) 第 152 号 Saito, K., Kato, T. & Shimane, T. (2010). Traffic Congestion and Accident Externality: A Japan- U.S. Comparison. The B.E. Journal of Economic Analysis and Policy: Topics, 10(1). Shavell, S. (1980). Strict Liability versus Negligence. The Journal of Legal Studies, 9(1), 1-25. Stock, J.H. & Watson, M.W. (2007). Introduction to Econometrics. Boston: Addison-Wesley, Pearson. Vickrey, W.S. (1961). Pricing in Urban and Suburban Transport. American Economic Review, 53(2), 452-465. Vickrey, W.S. (1968). Automobile Accidents, Tort Law, Externalities, and Insurance: An Economist s Critique. Law and Contemporary Problems, 33, 464-87. Walters, A.A. (1961). The Theory and Measurement of Private and Social Cost of Highway Congestion. Econometrica, 29(4), 676-699. Wooldridge, J.M. (2010). Econometric Analysis of Cross Section and Panel Data. MIT press. 自 動 車 安 全 運 転 センター(1995). 企 業 等 における 交 通 事 故 違 反 と 安 全 運 転 管 理 の 実 態 に 関 する 調 査 研 究 報 告 書 (Ⅱ) 二 村 真 理 子 (1999). 自 動 車 交 通 に 関 する 二 酸 化 炭 素 排 出 抑 制 公 益 事 業 研 究,51(2),1-8. 注 1 本 論 文 は JSPS 科 研 費 26380329 の 助 成 を 受 けている 2 一 見, 過 失 責 任 制 度 により 事 故 コストは 当 時 者 の 負 担 になっているため, 社 会 的 限 界 費 用 と 私 的 限 界 費 用 が 一 致 しているように 思 われるかも 知 れない しかし 過 失 責 任 制 度 はあくまで 過 失 があった 場 合 に のみ 当 事 者 に 事 故 の 責 任 を 負 わせる 制 度 であり, 事 故 コストの 一 部 しか 当 事 者 に 負 わせないことが 知 ら れている (Vickrey (1968), Shavell (1980)) たとえば 次 のような 例 を 考 えよう 赤 信 号 で 止 まっている 車 (A)が 後 ろから 来 た 車 (B)に 衝 突 され,A と B に 100 万 円 ずつ, 合 計 200 万 円 の 損 害 が 発 生 したとする 過 失 責 任 制 度 のもとでは, 止 まっていた 車 A に 責 任 はないものとされ, 衝 突 し た 側 の B の 責 任 が 問 われて 200 万 円 の 事 故 コスト を 負 担 する しかしもし A が 車 に 乗 っていなけれ ば,そもそも 事 故 は 起 こらず, 合 計 200 万 円 の 事 故 コストも 発 生 しなかった この 意 味 では 交 通 法 規 を 守 って 運 転 していた A もまた, 社 会 的 にみれば 事 故 コストを 発 生 させる 要 因 を 作 り 出 していた(つま り 社 会 的 限 界 費 用 を 発 生 させていた)ことになる 過 失 責 任 制 度 は, 交 通 法 規 を 守 って 安 全 運 転 してい る 限 りは 発 生 した 事 故 に 対 する 責 任 が 問 われないこ とから, どれだけ 乗 るか という 意 思 決 定 には 影 響 を 与 えない 3 ただし 自 動 車 走 行 に 伴 う 外 部 性 を 削 減 する 方 法 と しては 他 にもピークロード 料 金 やロンドンにおける congestion charge などがある これらの 政 策 の 検 討 は 本 論 文 の 範 疇 を 超 えるため 立 ち 入 らない 4 推 計 の 修 正 値 が Edlin and Karaca-Mandic (2007) に 掲 載 されており,ここでは 修 正 値 について 触 れて いる 5 さらにガソリン 税 の 引 き 上 げは 政 治 的 に 実 現 が 困 難 だと 言 われる 自 動 車 大 国 の 米 国 においてガソリ ン 税 の 引 き 上 げを 主 張 した 大 統 領 候 補 者 は,1984 年 と 1988 年 に 立 候 補 した Gary Hart 以 来,30 年 近 く 出 ていない 6 Edlin and Karaca-Mandic (2006)は 走 行 距 離 では なく, 道 路 総 延 長 で 割 った 混 雑 度 と 事 故 コスト の 関 係 を 用 いて 外 部 性 を 算 出 している だが 本 論 文 の 関 心 は 走 行 距 離 と 事 故 コストの 関 係,とりわけピ グー 税 の 大 きさやその 結 果 減 少 する 走 行 距 離 にある ため,あえて 走 行 距 離 を 用 いる 混 雑 度 を 用 い て 外 部 性 の 分 析 をした 結 果 は,Saito et al. (2010) にまとめられている 7 逆 選 択 やモラルハザードが 存 在 し, 任 意 自 動 車 保 険 加 入 者 の 事 故 率 が 非 加 入 者 の 事 故 率 よりも 高 けれ ば,この 計 算 により 過 大 に 事 故 コストを 見 積 もるこ とになる しかし Saito (2006)の 結 果 では, 自 動 車 保 険 市 場 における 逆 選 択 とモラルハザードは 深 刻 ではない 8 走 行 距 離 データ 作 成 の 詳 細 は,Saito et al. (2010) を 参 照 9 国 土 交 通 省 資 料 (http://www.mlit.go.jp/common/ 001031306.pdf)(2016 年 3 月 5 日 アクセス) 10 ただしこの 座 標 は 解 析 的 に 解 けないため,Excel のソルバー 機 能 を 用 いて 数 値 解 として 解 いている 11 Dubner and Levitt (2008) 12 国 土 交 通 省 ウェブサイト(http://www.mlit.go.jp/ road/road/traffic/sesaku/genjyo.html)より (2016 年 3 月 5 日 アクセス) 118