平 成 26 年 2 月 1 8 日 量 子 ナノ 構 造 を 利 用 した 太 陽 電 池 の 光 キャリアの 振 る 舞 いを 解 明 - 高 効 率 太 陽 電 池 の 実 現 に 前 進 - 概 要 金 光 義 彦 化 学 研 究 所 教 授 ディビット テックス (David M. Tex) CREST 研 究 員 は 異 なる 三 種 類 の 波 長 のレーザー 光 を 用 いた 分 光 測 定 によって 通 常 の 太 陽 電 池 では 利 用 できない 近 赤 外 領 域 の 光 を 効 率 よく 電 力 に 変 換 できるナノ 構 造 中 間 バンド 型 太 陽 電 池 の 実 現 に 向 けた 突 破 口 を 見 出 しました 本 研 究 は 豊 田 工 業 大 学 の 神 谷 格 教 授 との 共 同 研 究 により 行 ったものです 太 陽 光 の 光 エネルギーを 直 接 電 気 エネルギーに 変 換 できる 太 陽 電 池 は 近 年 の 逼 迫 するエネルギー 環 境 問 題 の 解 決 を 期 待 されている 電 力 源 の 一 つです より 多 くの 安 価 な 太 陽 電 池 を 利 用 するため エネ ルギー 変 換 効 率 の 更 なる 向 上 が 必 要 とされています 一 種 類 の 半 導 体 材 料 によって 構 成 された 単 接 合 太 陽 電 池 のエネルギー 変 換 効 率 は その 材 料 のバンドギャップエネルギー( 注 1)によって 決 定 され 理 論 的 な 限 界 は 約 30%になることが 知 られています その 理 論 限 界 に 迫 り さらに 超 えることを 目 指 して これまでに 様 々な 構 造 の 太 陽 電 池 が 提 案 され 多 くの 検 証 実 験 が 行 われてきました しかし これらの 新 型 太 陽 電 池 は 実 際 には 期 待 される 変 換 効 率 に 達 していません 変 換 効 率 を 制 限 している 主 な 要 因 の 一 つは 太 陽 光 の 光 エネルギーの 多 くを 担 っている 近 赤 外 光 を 利 用 できないことです 本 研 究 では 近 赤 外 光 を 利 用 するために 提 案 されている 中 間 バンド 型 太 陽 電 池 を 理 想 的 な 太 陽 電 池 材 料 の 一 つである GaAs あるいは AlGaAs のバルク 結 晶 内 に InAs のナノ 構 造 ( 量 子 ドッ トや 量 子 ディスク)( 注 2)を 挿 入 することによって 作 製 し その 光 学 的 電 気 的 な 特 性 を 明 らかにしま した このナノ 構 造 試 料 に 対 して 異 なる 三 種 類 の 波 長 の 光 を 同 時 に 照 射 し 高 効 率 なアップコンバージ ョン( 注 3)による 光 電 流 を 測 定 しました その 結 果 量 子 ディスクが 光 電 流 の 増 大 に 大 きく 寄 与 する ことを 明 らかにしました また 量 子 ドット 構 造 を 利 用 した 中 間 バンド 型 太 陽 電 池 の 効 率 が 理 論 予 想 よ りも 低 い 原 因 を 突 き 止 め 中 間 バンド 型 太 陽 電 池 の 高 効 率 化 への 突 破 口 を 見 出 しました 研 究 成 果 は 平 成 26 年 2 月 18 日 ( 英 国 時 間 )に 英 国 ネイチャー 出 版 グループのオンライン 科 学 誌 Scientific Reports で 公 開 されます 1
ポイント: 多 波 長 励 起 光 電 流 分 光 によるアップコンバージョン 光 電 流 生 成 機 構 の 解 明 半 導 体 ナノ 構 造 を 利 用 した 中 間 バンド 型 太 陽 電 池 の 効 率 を 支 配 するプロセスを 究 明 キャリア 多 体 効 果 を 利 用 することによる 太 陽 電 池 の 高 効 率 化 の 提 案 1. 背 景 半 導 体 の 単 接 合 型 太 陽 電 池 の 光 エネルギー 変 換 効 率 には その 半 導 体 材 料 のバンドギャップエネルギ ーによって 決 まる Shockley-Queisser 限 界 (SQ 限 界 )と 呼 ばれる 原 理 的 限 界 があり 30% 程 度 の 変 換 効 率 しか 得 られないことが 広 く 知 られています このような 理 論 限 界 が 存 在 する 理 由 は 太 陽 光 が 紫 外 光 から 可 視 光 赤 外 光 まで 幅 広 いエネルギー 範 囲 から 構 成 されているためです 一 種 類 の 半 導 体 材 料 で 作 られた 太 陽 電 池 には 変 換 効 率 を 低 下 させる 要 因 が 主 に 二 つ 存 在 します 一 つはバンドギャップエネルギ ー 以 上 の 光 の 余 剰 エネルギーが 熱 に 変 わってしまうこと( 熱 損 失 ) もう 一 つはバンドギャップエネルギ ー 以 下 の 光 を 吸 収 できないことです( 透 過 損 失 ) これらの 理 由 から 最 も 変 換 効 率 が 良 いバンドギャッ プエネルギーは 約 1.4eV( 光 の 波 長 で 850nm 程 度 )で このときの 変 換 効 率 が 30% 程 度 と 理 論 的 に 予 測 されています 太 陽 電 池 を 次 世 代 の 再 生 可 能 エネルギーとして 利 用 するために この 限 界 を 超 えること が 望 まれています SQ 限 界 に 近 づき 更 には 超 えることを 目 指 して 多 接 合 太 陽 電 池 の 作 製 やナノ 構 造 を 用 いた 太 陽 電 池 の 提 案 など 世 界 中 で 活 発 な 研 究 開 発 が 行 われています これまで 利 用 できていな かった 近 赤 外 光 を 効 率 的 に 利 用 するための 研 究 を 展 開 させる 必 要 があると 認 識 されています 2. 研 究 内 容 最 も 太 陽 電 池 に 適 した 半 導 体 材 料 のひとつである GaAs 単 結 晶 を 基 板 とし その 上 に InAs の 量 子 ディ スク 及 び 量 子 ドットが 埋 め 込 まれた GaAs 及 び AlGaAs 薄 膜 を 分 子 線 エピタキシー 法 によって 作 製 しまし た この 試 料 構 造 を 図 1.a に 示 します 量 子 ディスク 及 び 量 子 ドットは 平 面 上 にランダムに 形 成 され 量 子 ドットが 一 番 低 いエネルギーの 構 造 です これらの 量 子 構 造 を 選 択 的 に 励 起 し 発 生 する 光 電 流 を 検 出 するために 図 1.b に 示 すような 複 数 のレーザーを 用 いた 実 験 を 行 いました 量 子 ディスクや 量 子 ドットのエネルギー 準 位 は GaAs や AlGaAs のバンドギャップエネルギーよりも 低 いために GaAs や AlGaAs では 吸 収 されない 光 を 利 用 することができます 各 量 子 構 造 に 生 成 された 光 キ ャリアはそのままでは 光 電 流 に 寄 与 できませんが 再 度 励 起 されることによって GaAs や AlGaAs の 領 域 に 到 達 し 光 電 流 を 増 幅 させます この 過 程 をアップコンバージョン 過 程 と 呼 びます 図 2には 二 つの 光 を 吸 収 することで 起 こるアップコンバージョン 過 程 を 示 しています これにより 通 常 は 透 過 してし まう 光 の 吸 収 が 生 じ 電 力 に 寄 与 できる 電 子 の 数 を 増 やすことが 可 能 になります 電 子 が 流 れる 伝 導 帯 と 正 孔 が 流 れる 価 電 子 帯 の 中 間 に 量 子 構 造 による 準 位 またはバンド 構 造 を 形 成 させる 太 陽 電 池 構 造 を 中 間 バンド 型 太 陽 電 池 ( 注 4)と 呼 んでいます 中 間 バンド 型 太 陽 電 池 を 使 うと 通 常 の 太 陽 電 池 では 透 過 してしまう 光 の 吸 収 が 生 じるため 電 力 に 寄 与 できる 電 子 の 数 を 増 やすことが 可 能 になります これまでは 量 子 ドットのアップコンバージョン 過 程 の 高 効 率 化 を 目 指 して 多 くの 研 究 が 行 われてき ましたが その 効 率 は 低 いのが 現 状 です この 問 題 を 解 決 するため 本 研 究 者 らは 図 2に 示 すように 2
浅 いエネルギー 準 位 の 量 子 ディスク 構 造 に 注 目 し 研 究 を 行 ってきました その 結 果 量 子 ドットより も 量 子 ディスクの 方 がキャリア 多 体 効 果 を 活 用 した 効 率 良 いアップコンバージョン 電 流 を 発 生 できるこ とが 明 らかになり これを 利 用 した 新 しい 中 間 バンド 太 陽 電 池 構 造 を 提 案 しました 今 回 さらに 量 子 ドットの 活 用 を 目 指 して 複 数 のレーザーを 用 いることで 様 々な 波 長 で 試 料 を 励 起 でき る 多 波 長 レーザー 励 起 分 光 システムを 開 発 し 近 赤 外 の 光 を 効 率 よく 電 流 に 変 換 できる 条 件 を 調 べまし た その 詳 細 を 図 3に 示 しており レーザー1と2はそれぞれ 量 子 ドットと 量 子 ディスクを 励 起 してい ます 3 番 目 の 近 赤 外 レーザーの 照 射 による 電 流 の 増 幅 は ディスクを 強 く 励 起 している 場 合 にのみ 観 測 されました このような 振 舞 は 量 子 ドットからアップコンバージョンによって 出 来 たキャリアが 励 起 されていないディスクに 捕 まることを 意 味 しています 即 ち 量 子 ドットのアップコンバージョン 電 流 は 他 のナノ 構 造 によって 抑 制 されていることが 分 かりました これらのことから 量 子 ディスク と 量 子 ドットを 空 間 的 に 分 離 することで 太 陽 電 池 の 効 率 を 向 上 できることを 見 出 しました 3. 今 後 の 展 開 量 子 ディスクのエネルギー 準 位 はスペクトル 上 の 非 常 に 狭 い 領 域 に 存 在 し 幅 広 いエネルギー 範 囲 に 存 在 する 量 子 ドットに 比 べ 光 エネルギーの 有 効 活 用 の 観 点 からは 不 利 です しかし 量 子 ディスクの 光 電 流 生 成 効 率 は 量 子 ドットより 極 めて 高 く キャリア 多 体 効 果 を 利 用 することにより 新 しい 光 電 変 換 過 程 が 可 能 になります アップコンバージョン 過 程 を 利 用 した 高 効 率 太 陽 電 池 の 実 現 には 基 礎 物 理 の 立 場 からより 詳 細 な 機 構 解 明 が 必 要 です また 量 子 ドットと 量 子 ディスクの 役 割 をはっきりさせ それらを 空 間 的 に 分 離 させることにより 実 用 レベルに 近 いエネルギー 変 換 効 率 が 得 られるものと 期 待 されます 本 研 究 は 科 学 技 術 振 興 機 構 (JST) 戦 略 的 創 造 研 究 推 進 事 業 CREST と 科 研 費 の 援 助 のもとに 行 われ 研 究 成 果 は 平 成 26 年 2 月 18 日 ( 英 国 時 間 )に 英 国 ネイチャー 出 版 グループのオンライン 科 学 誌 Scientific Reports で 公 開 されました 発 表 論 文 : DOI: http://dx.doi.org/10.1038/srep04125 Control of hot-carrier relaxation for realizing ideal quantum-dot intermediate-band solar cells David M. Tex, Itaru Kamiya, and Yoshihiko Kanemitsu, Scientific Reports 4, 4125 (2014). 参 考 文 献 : Efficient upconverted photocurrent through an Auger process in disklike InAs quantum structures for intermediate-band solar cells David M. Tex, Itaru Kamiya, and Yoshihiko Kanemitsu, Phys. Rev. B 87, 245305 (2013). 3
< 用 語 解 説 > 注 1)バンドギャップエネルギー: 結 晶 が 持 っている 材 料 特 性 の 一 つ それが 小 さければ 小 さいほど 赤 外 線 は 吸 収 しやすくなります 太 陽 電 池 に 使 われている 典 型 的 な 半 導 体 材 料 においてはバンドギャップ エネルギーが 近 赤 外 可 視 光 領 域 にあります 注 2) 量 子 構 造 : 量 子 効 果 が 支 配 的 になる 微 小 なサイズの 半 導 体 構 造 InAs 量 子 ドットは 数 nm のサ イズを 持 っている 小 さなピラミット 形 の 結 晶 で InAs 量 子 ディスクは 数 nm のサイズを 持 っている 小 さな 皿 のような 結 晶 です ドットより 薄 いので その 中 に 出 来 る 光 キャリアはより 高 いエネルギーを 持 ちま す 注 3)アップコンバージョン: 光 吸 収 によって 生 成 された 電 子 または 正 孔 がさらに 高 いエネルギーに 励 起 される 機 構 のことです 注 4) 中 間 バンド 型 太 陽 電 池 :ナノ 構 造 等 による 近 赤 外 の 光 の 吸 収 とアップコンバージョンを 利 用 し 電 流 を 増 幅 させる 新 型 太 陽 電 池 の 一 つです 図 1: a) 試 料 構 造 b) 多 波 長 レーザー 励 起 分 光 システムの 概 略 図 4
図 2: 試 料 のエネルギーバンド 図 図 3: 近 赤 外 光 の 吸 収 によるアップコンバージョン 電 流 増 幅 5