コスメトロジー研究報告 Vol.24, 2016 図 3 界面不活性性 発現機構の模式図 図 5 界面不活性高分子水溶液に対する添加塩の効果 の模式図 図 4 界面不活性高分子の cmc の添加塩濃度依存性 低分子イオン性界面活性剤と真逆に 上昇傾向を示す 図 6 本研究で用いた 3種のイオン性両親

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コスメトロジー研究報告 Vol.24, 2016 図 3 界面不活性性 発現機構の模式図 図 5 界面不活性高分子水溶液に対する添加塩の効果 の模式図 図 4 界面不活性高分子の cmc の添加塩濃度依存性 低分子イオン性界面活性剤と真逆に 上昇傾向を示す 図 6 本研究で用いた 3種のイオン性両親媒性ブロックコポリマー は図 5 に模式的に示すように 鏡像電荷斥力が添加塩によ 2 実 験 り遮蔽され 吸着しやすくなる 平衡が ミセル側から吸 着側へシフトしたためと考えられる 図 6 に示す 3 種の高分子は 可逆的付加開裂連鎖移動 この cmc 増大の特性を利用すると 図4から分かるよ RAFT 重合により合成した 近年開発された水溶性の連 うに 塩を加えることにより cmc を跨ぐことができ ミ 鎖移動剤を用いることにより 水溶性モノマーを直接重合 セルを 崩壊 させることが可能になると期待される 低分 することが可能となり 100% イオン基を導入した親水鎖 子の場合は 逆向きに跨ぐので ミセルを 形成 させるこ の合成が可能となると共に 疎水鎖とのブロック重合も容 とはできるが 崩壊は不可能である よって このような 易に行えるようになっている 添加塩によるミセルの崩壊制御は 界面不活性高分子によ 表面張力の測定は 協和界面科学製 FACE CBVP-Z に ってのみ達成される 特異機能ということができる より行った 試料水溶液は 調製後一晩静置してから測定 本研究では 図 6 に示す 3 種の高分子 親水鎖が 強酸 を行った cmc の決定は 静的光散乱法により行った 大 性 弱酸性 およびカチオン性 について この cmc 増加 塚電子製 SLS-7000 により散乱角度 90 方向への静的散 現象の普遍性を確認すると共に 添加塩のイオン種依存性 乱強度を測定し ダイレクトとの強度比 Is/I0 を濃度に対 NaCl, KCl, NaBr などなど を調査し さらには ミセル してプロットし その屈曲点を cmc とした ミセルの大 内に取り込ませた色素を 塩の添加により放出させること きさ 流体力学的半径 は 大塚電子製 SLS - 7000 に光子 を試みた さらには より発展的応用として 光照射によ 相関計 GC-1000 を組み合わせたシステムにより決定した り疎水性からイオン性の親水鎖に変化するブロックを有す 蛍光強度測定は 日立製 F-2500 により測定した 照射す る高分子ミセルを構築し UV を照射することにより ミ る UV 光には 三永電機社製コンパクト UV 光源 UV-203F セル内部の色素を放出する系の構築を試みた を用いた Hg-Xe ランプからの波長 360 nm, 強度 30 mw/ cm2 の UV 光を試料に照射した 54

外部刺激による高分子ミセルの特異的形成 / 崩壊制御とその物質輸送系への応用 3. 結果と考察図 7 は, 用いた 3 試料水溶液の表面張力とI s /I 0 の濃度依存性である. 表面張力は, いずれの試料も高分子濃度に依存しておらず, 純水の値, すなわち,73 mn/m 附近でほぼ一定である. その一方, 静的光散乱強度には, 明らかな屈曲点があり,cmcが存在すること, すなわち, ある濃度以上でミセルが形成されていることがわかる. よって, 表面張力が低下せずミセルを形成する という界面不活性高分子の特性を, 今回のいずれの高分子も有することが確認された. 弱酸およびカチオン性高分子の場合, 高濃度でやや表面張力が低下する傾向が認められる. これは, 界面不活性性があまり高くない高分子に見られる特徴である. 図 8 には,DLS 測定により得られたミセルの流体力学的半径 R h の添加塩濃度依存性を示す.R h はある一定の塩濃度 ( 図では,10-4 M 程度 ) まで R h は変化していない. これは, ミセル表面を覆うイオン性高分子のコロナ ( 一種の高分子 ブラシ ) の中のイオン濃度が極めて高いために, 添加された塩イオンがコロナ内に浸入できず, ミセル構造が添加塩の影響を受けない領域である. 同様の傾向は, 水面のイオン性高分子ブラシに対しても観察されている 4). その後, R h は減少しているが, これは塩イオンがコロナに浸入し, コロナを形成するイオン性高分子鎖が静電反発により伸張した状態から, それが遮蔽され, 収縮していっていることを示している. その後 R h は一定となっているが, これは完全にイオン鎖が収縮しきった状態と考えられる. 図 9 と図 10 は, 用いた 3 種の高分子のcmcに対する添加塩効果のイオン種依存性である. 図 9 は, 塩のカチオンを Li +, Na +, K + と変えた場合, 図 10 は, アニオンを,F -, Cl -, Br - と変えた場合を示している. 図 9 では, 親水鎖がカチオンの高分子は, 塩のカチオン種を変えて, 影響を受けていないが, アニオン性の高分子は, 強酸, 弱酸, いずれもイオン種によりcmc 増大の程度が異なっていることがわかる. 塩のカチオンは, アニオン性親水鎖のカウン 図 7 用いた 3 種のポリマー水溶液の表面張力 ( 赤 ) と静的光散乱強度 ( 青 ) の濃度依存性 図 8 界面不活性高分子ミセルの流体力学的半径 (R h ) の塩濃度依存性. サンプルは,PnBA-b-PSSNa 55

コスメトロジー研究報告 Vol.24, 2016 ターイオンとなり ペアを組むため イオン種依存性が表 + 変えた図 10 では 逆にカチオン性親水鎖のポリマーにイ れるものと考えられる さらに 効果の程度は Li がも オン種依存性が見られ そのイオン種の順番は やはり っとも cmc を増大させる効果が強く 次に Na+, K+ の順と Hofmeister 順列に従っている しかしながら 近年にな なっている この順番は 古典的な Hofmeiser 順列 5 と一 って Hofmeiser 順列の起源に異説が唱えられるようにな + 致していることが興味深い Li は非常に強い水の構造形 り 必ずしも水の構造性を反映するものではないとの考え 成イオン Na+ は やや弱い構造形成イオン K+ は 構 が提示されている 6 このような可能性も念頭に 今後の 造破壊イオンである この事実は cmc の変化が 溶媒で 検討課題としたい ある水の構造性と何らかの相関を有することを示している 次に 蛍光色素であるピレンをミセル内部に取り込ま 可能性がある 今後の課題として興味深い アニオン種を せ 塩の添加によりミセルが崩壊し ピレンが放出される 図 9 3種のポリマーの cmc に対する添加塩の効果とそのカチオン種依存性 図 10 3種のポリマーの cmc に対する添加塩の効果とそのアニオン種依存性 56

外部刺激による高分子ミセルの特異的形成 崩壊制御とその物質輸送系への応用 様子を蛍光分光測定により追跡した 強酸性の高分子を試 つ目は このミセルが高分子であるため ミセルの形成 料として用いた ピレンの蛍光発光の第一ピーク I1 と第 3 崩壊の転移がシャープではないことの影響である 活性剤 ピーク I3 の比 I1/I3 は ピレンが存在する環境の極性を 濃度を変化させての形成 崩壊現象も 低分子界面活性剤 反映することが知られている 7, 8 図 11 は I1/I3 の添加塩 に比べ 高分子の場合は そのシャープさがかなり劣って 濃度依存性である 図中の右上がりの点線は cmc の塩濃 いることが知られている 度依存の線である このように cmc を跨ぐ前後で I1/ 次に 光照射による制御を試みた 9 用いた高分子は I3 が 1.50 程度から 1.55 程度にジャンプする傾向が確認さ 図 12 に示すカルボキシベタインを親水鎖 ポリメタクリ れた I1/I3 は 環境の疎水性が高いほど 小さな値となる ル酸のニトロベンゼンエステルを疎水鎖とするものである よって I1/I3 = 1.50 は ピレン分子がミセルのコア内に存 このエステル結合は UV 照射により容易に切断され 高 在することを示し 1.55 とジャンプしたところは ミセル 分子鎖は 親水性のポリメタクリル酸へと転移し アルデ の崩壊によりピレン分子がミセルコアから放出されたこと ヒドが放出される を示していると考えられる 変化があまり劇的ではないが ph 7 におけるこのミセルの Rh は 25 nm 色素 ナイル これには二つの理由が考えられる 一つは cmc 直前 直 レッド を取り込ませたミセルの Rh は 32 nm となり 十 後の状況となっているため 形成されるミセルもまだ し 分な量が取り込まれていることが確認できた これに UV っかりした ミセルではなく そのコアも緩い状態で そ を照射し 吸光度を測定した結果が 図 13 である 照射前は の疎水性もまだ十分高くない状態である可能性がある 二 図 11 ピレンからの蛍光発光強度の塩濃度依存性と cmc との 関係 図12 光照射によるミセル崩壊転移に用いたポリマーの分子構 造とその反応様式 およびミセル崩壊制御 図13 ナイルレッドの発光スペクトル ポリマー濃度 0.2 mg/ml a ph7 の緩衝液中 b 水中 励起波長 550 nm 57

コスメトロジー研究報告 Vol.24, 2016 十分強い吸収があり, 疎水性で水に不溶なナイルレッドが, ミセルコア内に取り込まれることにより, 水中に存在していることが分かる. これにUVを照射すると, 照射時間を長くするほど, 吸光度は減少し, またピーク位置もレッドシフトし, 純水中でのプロファイルに近づいているが, 完全に消失はしなかった. これは,UV 照射による反応の効率が,70% 程度とやや低く, ミセルが完全には崩壊していない可能性が考えられる. 実際,DLSによりUV 照射後の R h を測定すると,40 nm と大きな値となった. しかしながら, その時の散乱強度は非常に弱くなっており, この大きなR h は, 大きなミセルが形成されたことを意味するのでは無く,UV 照射により疎水鎖の 70% が親水鎖に転移したため, 疎水性のコアが溶媒である水で膨潤したためと考えられる. 今後, 反応効率の改善により, 完全な崩壊 放出系が構築できると期待される. 4. 総括添加塩濃度の増加に伴いcmcが増加するという, 界面不活性高分子 が持つ特長を活かして, 塩を添加することにより, 薬物が放出される という drag delivery に応用可能な高分子ミセル系の構築に成功した. また,triggerとして光を用いる系についても, 検討を行った. 添加塩による系は, 発汗による香料の放出など, コスメ系材料への応用も期待でき, 新しい機能材料開発の可能性が示された. ( 引用文献 ) 1) Matsuoka, H.; Chen, H.; Matsumoto, K. "Molecular weight dependence of non-surface activity for ionic amphiphilic diblock copolymers". Soft Matter, 8, 9 1 4 0 9146, 2012. 2) 松岡秀樹, イオン性両親媒性ジブロックコポリマーの 界面不活性 性は何故発現するか?,Colloid & Interface Communication ( 日本化学会 コロイドおよび界面化学部会ニュースレター ), 38 (3), 30-33, 2013. 3) Kaewsaiha, P.; Matsumoto, K.; Matsuoka, H. "Nonsurface activity and micellization of ionic amphiphilic diblock copolymers in water. Hydrophobic chain length dependence and salt effect on surface activity and the critical micelle concentration". Langmuir, 21, 9938 9945, 2005. 4) Kaewsaiha, P.; Matsumoto, K.; Matsuoka, H. "Salt Effect on the Nanostructure of Strong Polyelectrolyte Brushes in Amphiphilic Diblock Copolymer Monolayers on the Water Surface". Langmuir, 23 (13), 7065 7071, 2007. 5) Kunz, W.; Henle, J.; Ninham, B. W. Zur Lehre von der Wirkung der Salze (about the science of the effect of salts): Franz Hofmeister s historical papers. Curr. Opin. Colloid Interface Sci., 9, 19 37, 2004. 6) Zhang,Y. Cremer, P.S., "Interactions between macromolecules and ions: the Hofmeister series", Curr. Opinion in Chem. Biol., 10, 658-668(2006) 7) Kalyanasundaram, K., Thomas, J. K., "Environmental Effects on Vibronic Band Intensities in Pyrene Monomer Fluorescence and Their Application in Studies of Micellar Systems", J.Amer.Chem.Soc., 99(7), 2039-2044, 1977. 8) Ananthapadmanabhan, K.P., Goddard, E. D., Turro, N. J., Kuot, P. L., "Fluorescence Probes for Critical Micelle Concentration" Langmuir, 1, 352-355, 1985. 9) Shrivastava, S., Matsuoka, H., "Photocleavable amphiphilic diblock copolymer micelles bearing a nitrobenzene block", Coll.Polym.Sci., 294, 879-887, 2016. 58