第 33 回長崎県糖尿病治療研究会 症例検討会 使用したスライドは近日中に研究会の HP へ掲載いたします http://www.mh.nagasaki-u.ac.jp/ndmm/
症例 48 歳 男性 2 型糖尿病 不安障害 高血圧 痛風 脂質異常症 生活歴 : アルコール (-) 喫煙 (-) 現病歴 : 平成 20 年に高血圧で初診 この時の体重 88kg HbA1c 5.9% その後 不安症状やストレスで過食となり心療内科受診 平成 22 年 10 月 FPG 167mg/dl 空腹時 IRI 31.7µU/ml HbA1c 8.1% でセイブル 150mg 3x 開始 直後に左下腿蜂窩織炎で入院 強化インスリン療法導入 セイブル 150mg 3x メトグルコ 750mg 3x で退院 体重 103kg 1 年後に 体重 100kg HbA1c 6.5% まで改善し約 2 年間はメトグルコ 1000mg で HbA1c 6% 台であったが 平成 25 年 5 月には体重 105kg HbA1c 7.8% と再上昇 現症 : 身長 175.3 cm 体重 104.9 kg(bmi 34.1 kg/m 2 ) 血圧 135/ 85 検査所見 : 尿たんぱく (-) AST 34IU/l ALT 48IU/l γ-gtp 61IU/l BUN 11.9mg/dl Cr 0.68mg/dl LDL-C 85mg/dl HDL-C 46mg/dl TG 416mg/dl 随時血糖 289mg/dl HbA1c 7.8% GAD65 抗体 (-) 質問 精神疾患合併で過食傾向があり 経済的心配もある患者ですが 今後の治療方針について教えてください
症例 1 のまとめ 48 歳 男性 2 型糖尿病 不安障害 高血圧 痛風 脂質異常症 糖尿病罹病期間 3 年 過食にて HbA1c 7.8% 随時血糖 289 に再上昇 BMI 34.1 と肥満 (+) エックスフォージ フェブリク メトグルコ 質問 精神疾患合併で過食傾向があり 経済的心配もある肥満 2 型糖尿病患者の治療方針
肥満 2 型糖尿病患者への初期治療 インスリン抵抗性を改善させる薬剤 あるいは体重増加をきたしにくい薬剤の選択が望ましい ビグアナイド薬 α- グルコシダーゼ阻害薬 チアゾリジン薬 ( インスリン抵抗性改善薬 ) グリニド系薬 ( 速効型インスリン分泌促薬 ) インクレチン関連薬 しかし 著明な高血糖がある場合にはブドウ糖毒性解除のためインスリン導入をおこなう
症例 1 の治療 <BMI 34.1kg/m 2 脂肪肝 脂質異常症 > 食事療法による減量が重要! 1. 調理担当者を明らかにする 栄養指導時には同席を 2. 問題点を明確にする 食べる速度 咀嚼回数 食べる順番 間食 3. 達成可能かつ明確な目標を設定する 体重 1kg 減量 =-7000kcal 3~5% 減を目標に
症例 1 における治療薬の選択 キーワード : 過食傾向があり 経済的心配もある メトグルコ 1000mg 1. メトグルコの増量 (2250mg まで )+ アクトス少量 2. メトグルコの増量 (2250mg まで )+ アマリール少量 3.DPP-4 阻害薬の使用 4.GLP-1 受容体作動薬の使用 5. 外科的肥満治療
症例 2.67 歳 男性 2 型糖尿病 陳旧性心筋梗塞 慢性心不全 脂質異常症 高尿酸血症 現病歴 : 平成 9 年に広範囲心筋梗塞を発症後 慢性心不全となる ( 左室駆出率 36%) 2 型糖尿病に関してはアマリール ( 朝 3mg 夕 1mg) エクア 100mg 2x メトグルコ 750mg 3x で HbA1c 8.5~9.2% とコントロールは不良であった インスリン治療拒否にて平成 25 年 1 月よりアクトス 7.5mg 1x 隔日を開始したところ 3 月に 8.7% 6 月には HbA1c 7.4% にまで改善した その間の体重変化はなく 最近は食事の際に野菜から食べるようにしているとのこと 尚 平成 25 年 3 月にリピトールをクレストールへ変更した 現症 : 身長 162.7 cm 体重 70.7 kg(bmi 26.8 kg/m 2 ) 検査所見 : 尿たんぱく (-) AST 59IU/l UA 7.3mg/dl Cr 0.90mg/dl HDL-C 38mg/dl TG 346mg/dl HbA1c 7.4% IRI 18.1µU/ml( 食後 2 時間 ) CPR 4.27ng/ml( 食後 2 時間 ) GAD65 抗体 (-) 質問 1. 3 剤の経口薬でもコントロール不良な糖尿病が アクトスの少量 隔日投与でこのように改善するのか スタチン変更の関与はどうか
症例 2 のまとめ 67 歳 男性 2 型糖尿病 慢性心不全 脂質異常症 高尿酸血症 BMI 26.8 と肥満 (+) アマリール 4mg エクア 100mg メトグルコ 750mg で HbA1c 8.5~9.2% アクトス 7.5mg 隔日投与で HbA1c 7.4% に改善 リピトールをクレストールへ変更した 質問 血糖コントロールの改善は アクトスの少量 隔日投与のためか スタチンを変更したためか
日本人 2 型糖尿病における アクトス 7.5mg および 15mg の効果 対象 : 新規 2 型糖尿病 ( 全例女性 ) アクトス 7.5mg/day (n=54) アクトス 15mg/day (n=41) (Majiwa T et al. Endocr J 53: 325-330, 2006)
アクトス 15mg の連日および隔日投与の効果 250 a 連日投与 男性女性 250 b 隔日投与 男性女性 血糖値 (mg/dl) 200 150 # * # ** # * ** * * 血糖値 (mg/dl) 200 150 * ** * 男性 n= 27 27 25 24 22 20 17 男性 n= 6 6 6 6 6 6 6 女性 n= 33 33 32 29 23 21 19 女性 n= 14 13 13 13 12 12 12 100-1 0 1 2 3 4 5 6 100-1 0 1 2 3 4 5 6 月 月 n : 人数 平均 ± 標準誤差 *:p<0.05 **:p<0.01 # :p<0.001 対 0 月 隔日投与と連日投与の血糖改善効果には 性差が見られる可能性あり ( 小山一憲 Prog Med 23: 2417-2421, 2003)
リピトールからクレストールへの切り替えに伴う血糖コントロールの変化 (Ida K et al. Therapeutic Research 32, 2011)
症例 2 に対する回答 1. アクトス 7.5mg/ 日と 15mg/ 日の血糖改善効果は同等であり アクトス 7.5mg の隔日投与でも 血糖コントロール改善をもたらすと思われる 2. リピトールからクレストールへの切り替えは インスリン分泌促進薬使用患者において有意な血糖コントロール改善をもたらす 症例 2 における血糖コントロール改善は アクトス少量投与とスタチン変更の両者が関係していると思われる
症例 3.71 歳 男性 2 型糖尿病 糖尿病腎症 (3 期 A) 糖尿病網膜症 高血圧 閉塞性動脈硬化症 現病歴 : 平成 5 年に糖尿病と診断 血糖コントロール不良で HbA1c10% 以上で経過 頑強にインスリン治療を拒みつづけたが アマリール 4mg ネシーナ 25mg アクトス 15mg にて平成 25 年 1 月に血糖値が 489mg/dl になりインスリン療法を受け入れ入院 入院時 糖尿病増殖網膜症および糖尿病腎症 (3 期 A) を認めた ノボラピッド (16 8 12) ランタス (0 0 0 16) で退院 退院後 こんなことなら もっと早くインスリン治療を受ければよかった と発言 しかし 糖尿病網膜症は進行し 最近硝子体手術が行われた 現症 :BMI 20.9 kg/m 2 血圧 148/71mmHg 検査所見 : 尿たんぱく (2+) BUN 27 mg/dl Cr 0.89mg/dl HDL-C 67mg/dl LDL-C 131mg/dl TG 161mg/dl 随時血糖値 497 mg/dl HbA1c 14.0% 尿中 CPR 9.9µg/ 日 尿たんぱく定量 1.13g/gCr 質問 1. インスリン療法を拒み続ける血糖コントロール不良例を説得する良い方法を教えてください 2. インスリン治療開始後の増殖性網膜症の進展について教えてください
症例 3 のまとめ 71 歳 男性 2 型糖尿病 糖尿病顕性腎症 糖尿病網膜症 罹病期間 20 年 血糖コントロール不良 死んでもインスリンは嫌だ BMI 20.9 と肥満 ( ー ) インスリン開始後 網膜症が悪化 尿たんぱく (2+) HbA1c 14% 尿 CPR 9.9µg/ 日 質問 1. インスリン療法の説得法 2. インスリン治療と糖尿病網膜症の進展について
インスリン注射を嫌がる患者へのアプローチ 1 なぜ嫌がっているのかを考える 概念的あるいは抽象的な理由のことが多い 2 インスリン療法に対する誤ったイメージを払拭する インスリン注射は 補充療法 インスリン依存状態でない限りインスリン注射はいつでもやめられる ( 血糖コントロールは悪くなるが ) 3 血糖コントロール不良のデメリット インスリン療法のメリットについて説明する 4 インスリンデバイス 注射針を見せる 実演してみる
急速な血糖コントロール改善による糖尿病網膜症悪化の原因 低血糖 (+) and/or 低血糖 ( ー ) 高カテコラミン血症交感神経機能亢進 血管の spasm? 血小板凝集亢進 微小塞栓網膜血流障害 血管透過性亢進黄斑浮腫組織酸素欠乏 VEGF HbA1c 上昇に対する代償性 2,3-DPG 上昇 急激な糖代謝の改善 急激な 2,3-DPG 低下 新生血管 2,3-DPG:2,3- ジホスホグリセリン酸 ( 難波光義 Diabetes Update 2: 55-57, 2013)
急速な血糖コントロールによる 糖尿病網膜症悪化の危険因子 1 糖尿病の罹病期間が長い 2 血糖コントロール不良 3 単純網膜症以上のステージにある 4 眼科受診放置 中断歴を有する ( 船津英陽 Diabetes Frontier 22: 402-405, 2011)
血糖コントロール不良糖尿病患者にインスリン 治療を導入する際の注意点 1. 急激な血糖コントロールによって一時的に網膜症が進展する可能性があるので 進行した網膜症ではインスリン導入前に必要かつ可能な患者では光凝固を行う 2. 急激な血糖コントロールを始めたら 最低 1 年間は 3 か月ごとに綿密な眼科的フォローを行なう
症例 4.81 歳 男性 2 型糖尿病 高血圧 発作性心房細動 アルツハイマー型認知症 現病歴 : 平成 22 年 8 月よりアマリール 3mg 1x グラクティブ 50mg 1x メトグルコ 750mg 3x にて治療されていたが HbA1c 11.0% と血糖コントロール不良のため 平成 23 年 1 月より近医へ入院 セイブル 150mg 3x 追加にて退院後 HbA1c 8.8% 体重 57.2 54.5kg と改善 平成 24 年 6 月には HbA1c 7.6% まで改善したが 平成 25 年 1 月 HbA1c 8.9% と再上昇している 以前 アクトス 30mg 内服後も血糖コントロールの改善がみられなかった また 高齢の奥様と二人暮らしでインスリン自己注射は困難である 現症 : 身長 159.3cm 体重 56.6kg(BMI 21.9 kg/m 2 ) 検査所見 :AST 35IU/l ALT 31IU/l BUN 8.9mg/dl Cr 0.77mg/dl 食後 2 時間血糖値 284mg/dl HbA1c 9.2% 血中 CPR 1.17mg/dl( 食後 2 時間 ) IRI 1.3µU/ml( 食後 2 時間 ) 質問 1. 今後の治療はどうしたらよいでしょうか
症例 4 のまとめ 81 歳 男性 2 型糖尿病 高血圧 アルツハイマー型認知症 BMI 21.9 と肥満 ( ー ) アマリール 3mg グラクティブ 50mg メトグルコ 750mg セイブル 150mg で HbA1c 9.2% 食後 2 時間 CPR 1.17mg/dl アクトスは効果なし インスリン管理は困難 質問 1. 今後の治療について
日米欧の高齢者糖尿病における血糖管理目標 健常高齢者 軽度 ~ 中等度 虚弱高齢者 重度 日本 <7.4% 個別に目標設定 EDWPOP* 7.0~7.5% 7.6~8.5% 米国糖尿病学会 <7.5% <8.0 % <8.5% 井藤ら 6.5~7.5% 7.6~8.5% * the European Diabetes Working Party for Older People 低血糖を避けることが大切 ( 井藤英喜高齢期における生活習慣病 101-111, 2013).
症例 4 の方針 1. 内服薬コンプライアンスの確認 2. 奥様への食事指導を定期的に 3. 入院加療による糖毒性の解除 4.DPP-4 阻害薬の変更 5. 週 1 回投与のGLP-1 受容体作動薬 ( ビデュリオン ) の使用
今回 症例をお寄せいただいた先生方 (50 音順 ) 馬場医院深堀内科医院本田内科わたべクリニック 馬場是明先生深堀茂樹先生本田孝也先生渡部誠一郎先生 ありがとうございました 症例をお寄せいただいたことがない先生方は 次回是非お願いいたします