物学的現象をはっきりと掌握することに成功した論文である との高い評価を得ています 2. 研究成果ブフネラゲノムの全塩基配列の決定に当たっては 全ゲノムショットガンシークエンス法 4 を用いました 今回ゲノム解析に成功したのは エンドウヒゲナガアブラムシ (Acyrthosiphon pisum) の

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胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

みどりの葉緑体で新しいタンパク質合成の分子機構を発見ー遺伝子の中央から合成が始まるー

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ドメイン検索を行うアプリケーション に適用できるようにしました また 検索を高速に実施するユーザのことを考慮して 複数のネットワーク機器 ( ノード ) に分散処理させるアプリケーションである Condor( コンドル ) 7 などの作業管理機能を盛り込み 高速実行環境を簡便な手順で構築することがで

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

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15K14554 研究成果報告書

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抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

報道関係者各位 平成 29 年 2 月 23 日 国立大学法人筑波大学 高効率植物形質転換が可能に ~ 新規アグロバクテリウムの分子育種に成功 ~ 研究成果のポイント 1. 植物への形質転換効率向上を目指し 新規のアグロバクテリウム菌株の分子育種に成功しました 2. アグロバクテリウムを介した植物へ

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

東京医科歯科大学医歯学研究支援センター illumina Genome Analyzer IIx 利用基準 平成 23 年 10 月 1 日医歯学研究支援センター長制定 ( 趣旨 ) 第 1 条次世代型シークエンサーはヒトを含むあらゆる生物種の全ゲノム配列の決定 全エキソンの変異解析 トランスクリプ

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60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

報道発表資料 2008 年 12 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 葉緑体の活性酸素の除去に必須な 2 つの酵素遺伝子を発見 - 植物に有害な活性酸素を消す スーパーオキシドディスムターゼの新たな機能を解明 - ポイント 鉄イオンを含む活性酸素除去酵素の FSD2 と FSD3 遺伝子は葉緑体形

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生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス


報道発表資料 2006 年 6 月 5 日 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人科学技術振興機構 カルシウム振動が生み出されるメカニズムを説明する新たな知見 - 細胞内の IP3 の緩やかな蓄積がカルシウム振動に大きく関与 - ポイント 細胞内のイノシトール三リン酸(IP3) を高効率で可視化可能

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

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DVDを見た後で、次の問いに答えてください

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卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM


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平成 31 年 4 月 24 日 発表機関 基礎生物学研究所 鳥取大学 琉球大学 広島大学 中央大学 産業技術総合研究所 学習院大学 イモリの再生能力の謎に迫る遺伝子カタログの作成 新規の器官再生研究モデル生物イベリアトゲイモリ 本研究成果のポイント 1. 新規モデル生物 #1 イベリアトゲイモリ

Transcription:

報道発表資料 2000 年 9 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 東京大学 世界で初めて共生微生物 ブフネラ の全ゲノムを解析 東京大学大学院理学系研究科 細胞生理化学研究室 石川統教授の研究グループと 理化学研究所ゲノム科学総合研究センター (GSC) ゲノム構造情報研究グループ ( 榊佳之プロジェクトディレクター ) は共同で 世界で初めて共生微生物であるブフネラの全塩基配列を解読しました 当研究所のジュニア リサーチ アソシエイト (JRA 1 ) であり 同大学院の重信秀治氏 ( 博士課程在学中 ) らによる成果です 今回解析されたブフネラは アブラムシ ( アリマキ ) の細胞内に共生するバクテリアです 宿主であるアブラムシと 共生者のブフネラは 2 億年もの間 進化を共にし 極めて緊密な相互依存関係を築いており 互いに相手なしでは生きていくことができません ブフネラの全ゲノム解析の結果 宿主と協調して生きていくための情報が DNA にプログラムされていることが分かりました また ブフネラは 生命維持に必須な遺伝子の一部を失っており 宿主アブラムシの体外では生存できないことも明らかになりました これらの遺伝子セットの特徴は 既存のあらゆる生物には見られないユニークなものであり 生命進化を理解する上で極めて重要な成果です 本研究成果は 英国科学雑誌 Nature の 9 月 7 日号に掲載されます 1. 背景地球上の全ての生物は 種を越えた相互作用の中で生態系をつくりあげています その中でも真核生物の細胞の中に原核生物が生息する 細胞内共生 現象は 異種間相互作用の中でも最も緊密なものと考えられており ミトコンドリアや葉緑体の細胞内共生説 2 が現在広く受け入れられている点をかんがみると その重要性は明らかです なかでも 半翅目 ( はんしもく ) 昆虫のアブラムシ ( アリマキ ) に典型的にみられる細胞内共生は 共生微生物であるブフネラが宿主昆虫の世代を越えて永続的に垂直感染を繰り返す 相互依存度の極めて高い共生系であり細胞内共生の良いモデルです 東京大学の石川統教授のグループは 20 年余にわたって ブフネラの進化と遺伝子発現 代謝生理学上の意義について研究を行ってきました 一方 DNA シークエンス技術の発展により 1995 年の Haemophilus influenzae 3 ゲノム全塩基配列決定を皮切りに 数々の微生物ゲノムの全貌が明らかになっており その数は現在 (2000 年 8 月 28 日時点 )31 にのぼります しかし, これまでの多くの研究は病原菌に焦点が当てられてきました 1998 年に石川教授のグループは ブフネラのゲノムサイズが約 650Kb と非常に小さいことを明らかにしました さらに 日本におけるゲノム科学研究の拠点である理研 GSC のゲノム情報構造研究グループと共同で 共生生物としては世界で初めてゲノム DNA 全塩基配列決定に着手し 解読は昨年の秋に終了しました Nature の査読者からは 数多くのゲノムプロジェクトの論文の中でも最も興味深く 生

物学的現象をはっきりと掌握することに成功した論文である との高い評価を得ています 2. 研究成果ブフネラゲノムの全塩基配列の決定に当たっては 全ゲノムショットガンシークエンス法 4 を用いました 今回ゲノム解析に成功したのは エンドウヒゲナガアブラムシ (Acyrthosiphon pisum) の細胞内に生息する ブフネラ (Buchnera sp. APS) とよばれるバクテリアです 1) 大腸菌に近縁であるが小さなゲノムサイズブフネラのゲノム DNA は 640,681b です ( これに加えて小さなプラスミドが 2 個ある ) これは既知のゲノムのなかで 2 番目に小さなゲノムです 系統解析の結果 大腸菌に非常に近いことが既に分かっていましたが 4.6Mb の大腸菌のゲノムに比べてそのサイズは 7 分の 1 しかありません また ブフネラに特有な新規遺伝子は 4 つのみであり ほかのほとんどすべての遺伝子は大腸菌の相同遺伝子です 2) 宿主と相互依存関係であることを裏付ける遺伝子セット 583 個のタンパク質をコードする遺伝子を同定しました その遺伝子セットは 自由生活性バクテリア ( 大腸菌や枯草菌など ) とも 寄生性バクテリアとも まったく異なるユニークなものです 例えばブフネラは 宿主が合成することが出来ない必須アミノ酸の合成に関与する遺伝子をそろえていますが 宿主が合成可能な可欠アミノ酸に関する合成遺伝子をほとんど持っていません これは ブフネラと宿主であるアブラムシの間でアミノ酸合成が ギブアンドテイク の関係にあることを如実に表すものです 3)DNA レベル 細胞構造レベルで無防備であることを示す遺伝子セットブフネラは DNA 修復関連遺伝子を多く失っていること 細胞壁合成能力がないこと が明らかになりました これらの特徴は ブフネラが DNA レベルで細胞構造が脆弱であり 宿主の外では生存することが出来ないことを意味しています 2 億年という長い期間にわたり 宿主昆虫に保護されて進化した結果だと解釈されます 4) 転写制御の欠失大腸菌等には数多く見られる二成分シグナル伝達システムをブフネラは持ちません さらに転写制御の遺伝子はほとんど見つかりません これらの特徴は ブフネラが環境の変化に対応できないことを示しており 宿主細胞内の安定した環境でのみ生存可能であることを示しています 5) 生存に必須な遺伝子の欠如ブフネラは リン脂質合成酵素をほとんど失っているので細胞膜を作ることができず 宿主に依存していると予想されます 自分の細胞膜さえも宿主に依存している点は ブフネラが独立したバクテリアから ミトコンドリアのようなオルガネラに近い存在に進化しつつあることを示唆するものです 3. 今後の展開共生の維持に重要な因子の探索を目標として プロテオーム解析を進めています

また ブフネラの外膜タンパク質と 相互作用する宿主側タンパク質の同定も試みています ブフネラのゲノム解析が ほかのゲノムプロジェクトと比べて極めてユニークであった点は ブフネラの生命現象がブフネラのゲノムだけで賄われているのではないことも明らかにした点です そのため宿主側の因子を考慮したアプローチが今後重要となります なお 宿主昆虫であるアブラムシは 世界的な農業害虫として知られており 細胞内共生バクテリアはそのバイオマスコントロールの手段として有望視されています また ブフネラがわれわれ動物に必須な栄養分を 選択的に合成している点も注目に値します これら産業面での応用については 解決すべき多くの問題がありますが 今回のゲノム解析結果はその解決の糸口を提供するものと期待されます ( 問い合わせ先 ) 東京大学大学院理学系研究科 細胞生理化学研究室 教授 石川統 Tel & Fax : 03-5800-3553 Mail : iskw@biol.s.u-tokyo.ac.jp 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻大学院博士課程 3 年重信秀治 Tel & Fax : 03-5841-4448 Mail : shige@gsc.riken.go.jp 独立行政法人理化学研究所横浜研究所ゲノム科学総合研究センターゲノム構造情報研究グループプロジェクトディレクター 榊 佳之 Tel : 042-778-9923 / Fax : 042-778-9924 Tel : 03-5449-5622 / Fax : 03-5449-5445 ( 東大医科研 ) ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室嶋田庸嗣 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@postman.riken.go.jp < 補足説明 > 1 JRA 研究現場において知識と経験を豊富に蓄積した研究者と 柔軟な発想と活力に富む若手研究者とが一体となって研究をすすめるため 大学院博士課程に在籍する若手

研究人材を非常勤として理化学研究所に採用し 研究活動に参加させる制度 2 細胞内共生説ミトコンドリアや葉緑体といった真核細胞の細胞小器官 ( オルガネラ ) は かつては細胞内共生したある種の細菌類 ( それぞれリケッチアやシアノバクテリアの仲間 ) に起源を持つ - という説 リン マーグリスによって提唱された これらのオルガネラは細胞内で分裂して増えることができ 独自の DNA も持っているが ほとんどの遺伝子は宿主の核ゲノムに移行している 3 Haemophilus influenzae インフルエンザ菌 大腸菌やブフネラと同じプロテオバクテリアの γ3 亜属に属する ゲノムサイズは約 1.8Mb 4 全ゲノムランダムショットガンシークエンス法ゲノム全体を 1~4Kb の細かい断片にランダムに切断し 手当たり次第に各断片の DNA 配列を読み データが大量に集まった時点で断片同士を比べて順々にコンピュータ上でつなげていき ( アセンブル ) 最終的にひとつながりのゲノム DNA の配列が決定されるという手法 断片同士の重なる度合いがアセンブルの精度を決めるので ゲノムの長さの 5-10 倍量のシークエンスが必要である シークエンスの自動化技術とコストダウンの結果 バクテリアレベルの大きさのゲノム配列決定では最も効率がよい手法として広く使われている ヒトゲノム解読においても一部 取り入られている < 参考 > 本研究成果で得られた ブフネラ の機能情報については理化学研究所にて特許申請中です