6 県内に点在 危ない建物 NEXT 初版発行 :2011 年 9 月 9 日
鉄筋 鉄骨2割 木造の4割耐震性に疑問( 二〇〇六年二月二十七日) 県内に点在 危ない建物 大地震発生時に倒壊 地域の安全脅かす大地震の発生時 どんな住宅に住んでいるかが住民の生命を左右する 大分県内の住宅の実態はどうなっているのだろうか 大分大学の推計によると 県内では 耐震性に疑問がある住宅が鉄筋 鉄骨コンクリート造で全体の約二割 木造では約四割に上っている 建築物の鉄筋コンクリート造のビルや木造家屋が密集する大分市中心部明日を守る ~ 防災立県めざして p. 2
地震対策 が大きな課題となっている 総務省の住宅 土地統計調査(二〇〇三年)では 県内の住宅戸数は計四十四万七千五百世帯 木造が三十万九百世帯 鉄筋 鉄骨コンクリート造(鉄筋コンクリート造と鉄骨鉄筋コンクリート造)が十二万四百世帯 鉄骨造は二万四千二百世帯 となっている このうち新耐震基準(一九八一年)以前に建てられた住宅の割合は木造54 3% 鉄筋 鉄骨コンクリート造27 7%で ともに全国平均より高い これまでの調査 研究から推計すると 耐震性に疑問がある住宅はそれぞれ全体の約四割 約二割を占めるとみられる 危なさの程度はさまざまだが 八一年以降の建物でも現行の耐震基準を満たしていないものがある と井上正文 大分大学工学部教授(建築構造学 木質構造学) 菊池健児 工学部教授(建築構造学)は 自分が住んでいる住宅が 健康 であるかどうかを診断し 疑問がある場合は耐震補強が必要 と対策を呼び掛ける 新耐震基準被害の少なさを実証地震に耐える建築物を造るため 建築基準法は耐震基準を定めている 近代都市に壊滅的打撃を与えた阪神大震災(一九九五年)は 古い建物ほど地震に弱い という事実を見せつけた 日本建築学会近畿支部の被害調査によると 阪神大震災では 神戸市灘区 東灘区 中央区にある明日を守る ~ 防災立県めざして p. 3
鉄筋コンクリート造のビル計五千六百十八棟で大破以上の被害を受けたビルの割合は 一九七一年以前の建設が全体の12 3% 七二 八一年が9 1% 八二年以降は2 4% 建築基準法は七一年 八一年に大きく改正され その度に耐震基準が強化された 古いビルの被害が目立つ一方 新耐震基準(八一年)で設計されたビルは 阪神大震災クラスの大地震でも比較的被害が少ないことを実証した 現行の建築基準法は建物の重さに加え 地震や風圧 積雪といった外力を考慮し 構造を設計するよう定めている 耐震設計には一次設計と二次設計がある 一次設計は建物の耐用年限(四十 五十年程度)中に二~三回 発生する中地震(震度五弱 五強程度)を想定 地震により 水平方向に建物の重さの〇 二倍に相当する力が掛かるとして計算する 例えば重さ千トンの鉄筋ビルの場合 地震で二百トン分の力が働くと考え この力によって損傷がほとんど生じないように柱などの構造を設計する 地震の力建物の重さに比例明日を守る ~ 防災立県めざして p. 4
二次設計は新耐震基準(一九八一年)で追加されたもので 比較的小規模で壁の多い建物を除き 多くの鉄筋ビルなどで適用する 耐用年限中に一度あるかないかの大地震(震度6強程度)を想定 地震力は建物の重さの一 〇倍として計算するため 八一年以前の建物に比べ より耐震性の高いものとなる 建築基準法は人命が損なわれることのないよう 最低の耐震基準を定めたものであり 被害ゼロ を保証するものではない 建築物の倒壊は道路を閉ざして通行を困難とし 被害の拡大につながる 大分大学工学部は商業ビルやマンション 住宅が混在する大分市春日地区周辺を対象に 大地震により道路が閉ざされる状況をシミュレーションした 道路の幅 建物の高さ 建物の間口 の三要素を総合的に評価 仮に すべての建物が倒れたとした場合に 道路が閉ざされる可能性を色分けした 赤に近いほど閉そくの可能性が高く 緑に近いほど影響が建物倒壊道路閉ざし通行困難に 延焼拡大の恐れ小さい 国道10 号など幹線道路はそれほど影響を受けないが 住宅密集地の狭い路地や 幹線道路につながる狭い道路などは閉ざされやすい 人も車も 通行不能の可能性が高くなることが分かる 調査に携わった小林祐司講師(都市計画)は 道路閉そくは緊急車両明日を守る ~ 防災立県めざして p. 5
の通行 避難路の確保を困難にする さらに 古い木造住宅が多いエリアでは 火災が建物の延焼を広げる可能性も強まる と説明する シミュレーションの結果は 建築物の倒壊が居住者の命を奪うだけでなく 地域全体の安全をも脅かすことにつながることを示している 大地震が発生すると 耐震性が不足した建築物はどうなるのか 被害は構造の特徴によって いくつかのパターンに分けることができる 木造住宅 1階部分崩壊2階建て住宅は 1階部分の方がより大きな地震力を受けるため 1階部分がつぶれやすい 住宅の南側 道路に面した側には玄関や窓など開口部が多いので 壁の量が少なくなり 道路側や南側に倒れやすくなる 鉄筋ビル 下層部崩壊ビル1階には出入り口や店舗 ショーウインドーなどがある ほかの階に比べて壁の量が少ないため 構造的に柔らかいとされ 建物の重さを支えきれなくなる 1階部分が駐車場で 柱だけのピロティー構造のビルも下層部が崩壊しやすい 中間層崩壊低層階が鉄骨鉄筋コンクリート造 高層階が鉄筋コンクリート造といった 二重構造 のビルは耐力やかたさ(剛性)が急に変化するため 構造が変わる部分が崩壊しやすくなる 途中の階から床面積が急に変わ被害パターン木造住宅 道路側や南側に倒れやすく明日を守る ~ 防災立県めざして p. 6
るビルも その部分が崩壊しやすくなる 全層崩壊 転倒全体的に弱い構造の場合 各階の柱が壊れ 全層崩壊が起きる 下層部が弱かったり 地盤が悪いと ビル全体が転倒するケースもある 1 阪神大震災で 1 階がつぶれた木造住宅 2 下層部が崩壊したビル 3 中間層が崩れたビル 4 転倒して道路をふさいだビル = いずれも大分大学提供 1 2 ❸ ❹ 明日を守る ~ 防災立県めざして p. 7
阪神大震災の死者の八割以上が建築物の崩壊による圧死や窒息死だった 一九九五年度版警察白書によると 死者五千五百二人(九五年四月二十四日現在)のうち 家屋や家具の倒壊による圧死と思われるものが全体の88 % ほかに焼死とその疑いがあるものが10 %となっている 消防庁によると 阪神大震災の最終的な死者は六千四百三十四人 阪神大震災圧死や窒息死犠牲者の8割ただ 分類が難しく 死因別データは出していない と言う 調査ごとにやや結果は異なるが 一般的に80 %以上が圧死や窒息死とされている 鉄筋コンクリート造圧縮に強く引っ張りに弱いコンクリートを 引っ張りに強い鉄筋で補強した構造 RC 造とも呼ぶ 鉄骨鉄筋コンクリート造鉄骨造と鉄筋コンクリート造の長所を兼ね備えた構造 鉄骨で柱や梁 ( はり ) を組み その周りに鉄筋を配してコンクリートを打ち込む SRC 造とも呼ぶ 明日を守る ~ 防災立県めざして p. 8
明日を守る ~ 防災立県めざして p. 9 オオイタデジタルブックとはオオイタデジタルブックは 大分合同新聞社と学校法人別府大学が 大分の文化振興の一助となることを願って立ち上げたインターネット活用プロジェクト NAN-NAN( なんなん ) の一環です NAN-NAN では 大分の文化と歴史を伝承していくうえで重要な さまざまな文書や資料をデジタル化して公開します そして 読者からの指摘 追加情報を受けながら逐次 改訂して充実発展を図っていきたいと願っています 情報があれば ぜひ NAN- NAN 事務局にお寄せください NAN-NAN では この 明日を守る~ 防災立県めざして 以外にもデジタルブック等をホームページで公開しています インターネットに接続のうえ下のボタンをクリックすると ホームページが立ち上がります まずは クリック!!! 別府大学 デジタル版 明日を守る~ 防災立県めざして 第 6 回編集大分合同新聞社初出掲載媒体大分合同新聞 (2006 年 1 月 1 日 ~ 2007 年 3 月 5 日 ) デジタル版 2011 年 9 月 9 日初版発行編集大分合同新聞社制作別府大学メディア教育 研究センター地域連携部 / 川村研究室発行 NAN-NAN 事務局 ( 870-8605 大分市府内町 3-9-15 大分合同新聞社企画調査部内 ) c 大分合同新聞社 デジタル版 明日を守る について 明日を守る は 大分合同新聞社が創刊 120 周年記念事業として大分大学と立ち上げた共同プロジェクトの一環で 2006 年 1 月から翌 3 月まで 同紙朝刊に掲載した連載記事 今回 デジタルブックとして再構成し 公開する 登場人物の年齢をはじめ文中の記述内容は 新聞連載時のもの 2011 年 8 月 5 日 NAN-NAN 事務局