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第28回介護福祉士国家試験 試験問題「社会の理解」

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介護保険制度改正の全体図 2 総合事業のあり方の検討における基本的な考え方本市における総合事業のあり方を検討するに当たりましては 現在 予防給付として介護保険サービスを受けている対象者の状況や 本市におけるボランティア NPO 等の社会資源の状況などを踏まえるとともに 以下の事項に留意しながら検討を

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相対的貧困率の動向: 2006, 2009, 2012年

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表紙

スライド 1

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高齢者住宅施策の現状と今後の方向性

第 2 章高齢者を取り巻く現状 1 人口の推移 ( 文章は更新予定 ) 本市の総人口は 今後 ほぼ横ばいで推移する見込みです 高齢者数は 増加基調で推移し 2025 年には 41,621 人 高齢化率は 22.0% となる見込みです 特に 平成 27 年以降は 後期高齢者数が大幅に増加する見通しです

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資料1:地球温暖化対策基本法案(環境大臣案の概要)

14 日本 ( 社人研推計 ) 日本 ( 国連推計 ) 韓国中国イタリアドイツ英国フランススウェーデン 米国 図 1. 1 主要国の高齢化率の推移と将来推計 ( 国立社会保障 人口問題研究所 資料による ) 高齢者を支える

障害厚生年金 厚生年金に加入している間に初診日 ( 障害のもととなった病気やけがで初めて医者にかかった日 ) がある病気やけがによって 65 歳になるまでの間に 厚生年金保険法で定める障害の状態になったときに 受給要件を満たしていれば支給される年金です なお 障害厚生年金に該当する状態よりも軽い障害

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2 保険者協議会からの意見 ( 医療法第 30 条の 4 第 14 項の規定に基づく意見聴取 ) (1) 照会日平成 28 年 3 月 3 日 ( 同日開催の保険者協議会において説明も実施 ) (2) 期限平成 28 年 3 月 30 日 (3) 意見数 25 件 ( 総論 3 件 各論 22 件

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相続財産の評価P64~75

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( 資料 3) 比較検討した住宅 (%) 注文住宅取得世帯分譲戸建住宅取得世帯分譲マンション取得世帯 中古戸建住宅取得世帯 中古マンション取得世帯 ( 資料 4) 住宅の選択理由 (%) 注文住宅取得世帯分譲戸建住宅取得世帯分譲マンション取得世帯 中古戸建住宅取得世帯 中古マンション取得世帯 ( 資

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別表 有料老人ホームの類型及び表示事項 類型介護付有料老人ホーム ( 一般型特定施設入居者生活介護 ) 介護付有料老人ホーム ( 外部サービス利用型特定施設入居者生活介護 ) 住宅型有料老人ホーム ( 注 ) 健康型有料老人ホーム ( 注 ) 類型の説明介護等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設で

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図表 02 の 01 の 1 世界人口 地域別 年 図表 2-1-1A 世界人口 地域別 年 ( 実数 1000 人 ) 地域 国 世界全体 2,532,229 3,038,413 3,69

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の病床数及び新たに併設する介護保険施設の入所定員 ( 病院から転換した病床 ( 以下 転換病床 という ) を活用するものに限る ) の合計が転換前の病院の病床数以下である場合には 実態として 転換後の施設 ( 病院と介護保険施設を併せた全体をいう 以下同じ ) 全体の医療提供の内容は 転換前の病院

タイトル

特定健康診査等実施計画

2 経口移行加算の充実 経口移行加算については 経管栄養により食事を摂取している入所者の摂食 嚥 下機能を踏まえた経口移行支援を充実させる 経口移行加算 (1 日につき ) 28 単位 (1 日につき ) 28 単位 算定要件等 ( 変更点のみ ) 経口移行計画に従い 医師の指示を受けた管理栄養士又

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Transcription:

同志社女子大学学術研究年報 2010 年第 61 巻 81 論 文台湾における 老人社区 ( 退職者コミュニティ ) の新傾向 桃園縣亀山郷 長庚養生文化村 の調査から 宮本義信 生活科学部 人間生活学科 はじめに筆者は 台湾の退職者コミュニティの動静を探るため 台湾を代表する 老人社区 長庚養生文化村 ( 桃園県亀山郷 ) において 2004 年から実地踏査を継続している 本稿は その調査結果の中間的な報告である 我が国において 2006 年 住生活基本法 が制定され それに基づき住生活基本計画が決定された 同計画においては ストック重視 市場重視 の観点から 公的賃貸住宅と併せ 民間賃貸住宅を含めた高齢者住宅の質的向上と安定的確保が謳われた 1 そして2009 年には 高齢者の居住の安定確保に関する法律 ( 高齢者住まい法 ) が改正され 住宅政策と福祉政策を一体として民間活力を活用し 総合的に高齢者の居住環境を高めるための取り組みが強化された また 今日では 公共公益施設や交通 移動手段の整備と住民の地域参加や連携 交流の促進を要件に 高齢者がある程度自己完結可能な中範囲の日常生活圏を構想するコンパクトシティの構築が議論されている 2 同じ東アジアで少子高齢の課題に直面し 政府がその対応 ( 制度の効率化 ) のため 市場重視と民間活力の活用によって住宅政策と福祉政策を一体とした 老人社区 (retirementcommunityorseniortown) すなわち退職者コミュニティの施策を推進しているのが台湾である 退職者コミュニティとは 経済的に自立した高齢者を対象に 各種商業施設 健康 医療 教育 文化施設から通信 移動手段網まで 生活に必要な社会インフラを配備した郊外立地の自己完結型施設群を指して言う 政府による 銀髪産業 (seniorservicesinbusiness andindustry) の施政計画が 老人社区 の経営主体に広範かつ重大な影響を及ぼす 本稿では この動静を探るため 第一に 台湾の高齢者居住施設体系における 老人 New DirectionsfortheRetirementCommunity in Taiwan 社区 の位置を確認し 第二に 大企業集団による 銀髪産業 発展の背景について検討を加える そして第三に 長庚養生文化村 に焦点を絞り その今日的な傾向及び当面の課題を踏まえ 老人社区 発展の可能性について考察する 1. 高齢者居住施設体系と 老人社区 台湾の高齢者居住施設は 保健衛生系 ( 慢性病棟 護理之家 (nursinghome)) 老人福利系( 長期照護 養護 失智照顧 安養 ) 退輔会( 行政院国軍退除役官兵輔導委員会 ) 系 ( 栄民之家 ) 住宅系( 老人住宅 (seniorcitizen s housing): 老人社区 老人公寓 ) に大別される ( 図表 1. 台湾の高齢者居住施設体系 参照) 老人福利系の施設 ( 老人福利機構 ) は 老人福利機構設立標準 (1981 年 ) において 1 長期照顧機構 (longtermcareinstitutions): 長期照護型 養護型 失智照顧型 2 安養機構 (domiciliarycareinstitutions) 3その他の老人福利機構の三種に分類される 老人福利機構については 行政院内政部の下で社会司が各種施政計画を策定し 地方政府 ( 直轄市 縣 市 ) がサービスを実施している 住宅系の 老人住宅 とは 基本施設及び設備の企画設 図表 1. 台湾の高齢者居住施設体系

82 同志社女子大学学術研究年報 2010 年第 61 巻 計が 老人福利法 (1990 年 ) 及び老人住宅関係法令に合致することを条件に 主管機関が認可する自己負担型の老人居住使用の建築物をいう ( 老人住宅綜合管理要点 (2003 年 ) 第 3 条 ) そして この 老人住宅 には 老人公寓 (elderlyresidentialsettling) と 老人社区 の二つがある 老人住宅綜合管理要点 に 老人住宅 の設置申請と管理運営規則 老人の居住安全と権益の保持が規定され また 老人住宅基本設施及設備規画設計規範 (2003 年 ) において 外部空間 居室空間 共用空間 公共空間 設備及び施設などの基準が定められている 施設の運営管理 (administration) は 政府 ( 公立 公設民営 ) 及び民間 ( 財団法人 委託他業者管理 ) であり 職員配置の基準は無規定 主管機関は行政院内政部営建署 政府補助は税の優遇となっている 3 内政部社会司の 2007 年度全国老人住宅及老人福利機構供需資訊統計表 によると 老人住宅 の需要総数が 125,271 人であるのに対し 供給総数は3,120 人と著しく不足している 4 一方の老人福利機構については 内政部の 老人長期照顧 安養機構概況 では 2008 年現在 長期照顧機構と安養機構の総数が1,042 か所 入居者定員が 53,160 人 入居者総数が38,273 人と 充足率 72.0% となっている 5 何故 老人福利機構で定員割れが起こるのか その理由として次のことが指摘できる 台湾の老人福利機構への入所は 老人福利法 の規定を根拠に 直轄市 縣 ( 市 ) の主管機関が 法定の扶養義務者が無いこと また生命 身体に危険があり 経済的に困窮していることを条件に 申請及び行政職権により行われる ( 同法第 42 条 ) すなわち その特徴は 家族責任を強調し 貧困 低所得者対策として実施されるところにある 台湾の家族は 倫理的に保守的養老観念 ( 孝道 倫理 = 漢人の儒教道徳 ) が強く 法的にも 法定の扶養義務者は老人扶養の責を負う ( 老人福利法 第 30 条 ) と明示されている 扶養義務者に遺棄 自由妨害 傷害 心身虐待 放置 拒否などの行為があった場合は 3 万元以上 15 万元以下の罰金に加え 加害者の名前が公表され 刑法に基づき罰せられる ( 同法第 51 条 ) また前項の違反者には 主管機関により4 時間以上 20 時間以下の家庭教育と指導が行われる ( 同法第 52 条 ) 今日の台湾では 施設入所を選択する高齢者においても 民間の高齢者向け高級マンションに入所する者と 救済型施設への入所を余儀なくされる者とに二極化している 6 高齢者やその家族の経済能力の如何によって 活用できるサービスの内容や質が規定される 老人福利法 ( 福 利系施設 ) は保護 救済の観点から対象の範囲を厳しく制限 限定する一方で 富裕層は贅沢な有償型サービスを潤沢に受けられる この両者の狭間 換言すれば 公的及び民間セクターの政策対応の隙間におかれた中間層をどうするか これが台湾の高齢者政策の今日的重要課題の一つである 2. 銀髪産業 発展の背景 近年の 老人住宅 の新傾向として 高齢者向けマンション市場が急速に立ち上がりつつある 在宅介護サービスや介護施設が 公的機関 財団法人 ( 非営利団体 ) や小規模事業者による運営であったのに対して この市場には大企業グループが参入している 7 では何故 今日の台湾において 大企業グループが経営する 銀髪産業 が発展するのか その背景について述べる ( 図表 2. 銀髪産業 発展の背景 参照 ) 統制的経済体制の開放 1980 年代後半からの民主化による公営企業 ( 国営事業 ) の民営化 ( 経済自由化政策 ) に伴って 政府の老人施政計画においても 民間資本の参入と主導性が強まった 民主化以前 台湾では公営の事業体が金融 エネルギー 鉄鋼 機械 電信 電力 鉄道などの基幹産業を独占してきた その多くが 退輔会 ( 行政院国軍退除役官兵輔導委員会 ) による事業経営であった 8 しかし 1980 年代に入り 公営企業 ( 国営事業 ) の行き詰まり ( 経営非効率の問題 ) が深刻化し また 同時期 中国大陸が経済体制の改革 対外開放政策 ( 改革開放路線 ) 図表 2. 銀髪産業 発展の背景

台湾における 老人社区 ( 退職者コミュニティ ) の新傾向 83 へと方向転換したことによって 台湾の国際的孤立と乗り遅れが顕著になった こうした現状を回避すべく 当時最大の民間企業グループであった台湾プラスチック ( 台塑企業 :FormosaPlasticsCorp) の王永慶 (1917 2008 年 ) 後述の 長庚養生文化村 の創立者が 経済の改革と革新を主張し 経済の自由化が大きな政策課題となっていく 9 ていくことが予想される これを受け 政府は 2000 年 促進民間参與公共建設法 2004 年 促進民間参與老人住宅建設推動方案 をスタートさせ 民間資本の 老人住宅 への投資策を奨励 推進した 13 政府の投資奨励策 促進民間参與公共建設法 では 民間活力の活用によ る社会経済発展の加速化を目的に 交通 環境 水道 観 少子高齢化する社会台湾でも 不婚 不生 による少子化が進んでいる 女性一人当たりの平均子ども数 ( 合計特殊出生率 ) は 1990 年には1.81 人 2000 年 1.68 人 2008 年 1.09 人 そして2009 年には1.0 人と減少し続け 日本と比べても より急激な低下を示している 一方 高齢化率は 2010 年現在 10.7 % であるが 2017 年には14% を超え ( 高齢社会 ) そして 2025 年には21% を超える ( 超高齢社会 ) と推計されている 台湾の高齢化の特徴は 65 歳以上の老年人口に占める80 歳以上高齢者の割合が上昇すること (2010 年が24.4% 2060 年が44.0%) および人口老化のスピードが加速化するこ 光 衛生 文教など13 項目にわたる公共建設への民間参加の推進が規定されたが その項目の一つに 社会及労工福利設施 がある そして 行政院裁定 ( 決定 ) 促進民間参與老人住宅建設推動方案 ( 計画 ) を相関させることによって 政府は 民間が自己資金を老人住宅や老人安養機構の建設に投資することを奨励し 各種の優遇措置 ( 経費補助 ) を行った 14 また 2007 年の行政院裁定 整體住宅政策実施方案 では 結合政府與民間資源 健全住宅市場 を謳っている 15 1990 年代後半以降 政府の老人施政計画の民営化に対する見解は大きく変わった 民間セクターの範疇は非営利団 とである 10 ( 図表 3. 老年人口割合(65 歳以上 ) 比較 参照) 日台 体 ( 公設民営 事業委託 ) を中軸とするこれまでの枠組みを超え 企業を含んで幅を広げつつある 16 台湾では 飛 内政部統計處 老人状況調査報告 によれば 2000 年から2005 年の5 年間で 子女と同居が67.8% から57.3% へ 高齢者夫婦のみ15.1% から22.2% へ 独居 9.2% から13.7% へと急激に変化している 11 今後は核家族 小家族化の進行や平均寿命の伸び (1951 年 : 女性 57.3 歳 男性 53.1 歳 2008 年 : 女性 82.0 歳 男性 75.5 歳 ) 12 とも相まって 速いテンポで一人暮らしや夫婦のみ世帯の高齢者の割合が増加し 躍的な経済成長や中国大陸との交易で富を得た新富裕層や新中間層が拡がりをみせている 人びとの所得水準が上昇するに伴い 政府は個人主義 自己責任 自己負担原則の方向へと 老人施政計画の舵を大きく切ろうとしている ( 現代的福利思潮 としての 民営化與商品化 ) 国の推奨政策としての 促進民間参與 を受け 各種大企業集団も進出し 1990 年の奇岩居 ( 太平洋建設 ) を皮切 図表 3. 老年人口割合 (65 歳以上 ) 日台比較 りに 潤福生活新象館 潤福大台北華城館 ( 包括潤泰 ) 泰和園 ( 北海福座 ) 西湖渡暇村聖恩養生会館( 国宝人寿 ) 悠蘭山荘 ( 奇美 ) 水蓮山荘( 和信 ) 奇美集團( 石化業 ) 悠蘭山荘 ( 台南關廟 ) など 業界は製造 金融 建設 不動産 総合と多岐にわたる また それぞれの顧客ターゲットと事業スキームは 中間層の開拓から富裕層 ( 元国営企業幹部 官僚 高級将校 ) への特化まで 多様化している そしてこれら一連の動向の中で 2004 年 台湾の最大企業グループ 台塑集団 は 台北市近郊に 長庚養生文化村 の経営を開始した 資料 : 国立社会保障 人口問題研究所 日本の将来推計人口 2006 年 行政院経済建設委員会人力規画處 2010 年至 2060 年台湾人口推計 2010 年 3. 老人社区 長庚養生文化村 の概観 長庚養生文化村 (ChangGungRetirementResidence andelderlycareintaiwan) は 台北市から約 25km 南

84 同志社女子大学学術研究年報 2010 年第 61 巻 の桃園縣亀山郷にあり 34 ヘクタール ( 約 10 万 3 千坪 ) の広大な敷地に6 千人 (4 千戸 ) 規模を構想する健康型 老人社区 である ( 写真 1. 長庚養生文化村 参照) ゾーニング (zoning) を採用し 敷地を1 居住区 2 医療区 ( 診療所 護理之家 :nursinghome) を中心に 3 商店区 ( コンビニ ブックストア 理美容室 銀行など ) 4 飲食区 ( セントラルダイニング カフェテリア 中華 西欧レストラン パーティ会場など ) 5 健康増進区 ( 体育館 ゴルフコース テニスコート 園芸 プール 遊歩道など ) 6 文化区 ( 銀髪学園 国際会議ホール 図書館 地域活動センターなど ) 7 信仰区 ( 仏教 道教 キリスト教 回教など各種の礼拝堂 ) 8 招待区 ( 家族 友人などの来訪者のための宿泊施設 ) そして9 行政区 ( 事務管理棟 郵便局など ) に機能的に区画している また 同所は 2009 年発刊の行政院内政部統計處 内政概要 において 台湾を代表するバリアフリー施設 ( 建築物無障害環境工作 ) として写真が掲載されている 17 養生とは health 文化とは culture を意味するように 開発 促進的なアクティビティ サービスが 運動 ( 太極 拳 元極舞 テニス 水泳 卓球など ) 娯楽( カラオケ 映画鑑賞 観劇 麻雀 囲碁 ビリヤードなど ) 文芸 ( 語学 : 日文 英文 書道 絵画 音楽 戯曲 押し花 陶芸など ) 民族 ( 春節元宵 端午中秋 中元重陽など節慶活動 ) と多様に提供されている 街中の公園では 早朝からジョギング 太極拳 囲碁に打ち込むグループで賑わい コミュニティには勢いが感じられる 外界保持開放的往来関係 を標榜し 敷地は近隣住民の散策コースとして自由に往来でき 地域の子どもたちへの里親プログラムを実施して 開放的な雰囲気が漂っている また 無料シャトルバスが台北都心 桃園駅 長庚紀念医院へ定時定線で頻繁に連結している 人的往来は活発で 地域の大学と生涯教育講座で連携し 国際会議ホールでの学術団体によるシンポジウムの開催など 知的交流の場として社会的にも貢献している 2010 年 9 月現在 運営されているのは A~D 棟の A 棟 (706 室 ) のみで 約 400 人の高齢者が居住している ( 写真 2. 長庚養生文化村 立体模型 参照) 入居者の男女比は4 対 6 年齢は56 歳から95 歳まで 平均は79 歳であ 写真 1. 長庚養生文化村

台湾における 老人社区 ( 退職者コミュニティ ) の新傾向 85 写真 2. 長庚養生文化村 全景 ( 立体模型 ) 東南アジア とりわけフィリピンからの介護労働者 2 20 ( 外籍護工 ) の積極採用 保健 医療との連続性の重視 同一企業集団 長庚紀念医院 21 との連携 ( 緊急医療 : 22 24 時間監視センターの設置 ) 及び 護理之家 の併設 ) 継続( 連続 ) 的ケアを目的に インディペンデントリ A 棟 706 室 C 棟来年 3 月開設 1,360 室 B 棟 701 室 及び D 棟 1,005 室は建設予定 ビング ( 自立生活住宅 ) から 独立では生活できなくなったときに入居するアシスティッドリビングや 本格的な医療介護が必要になった際に入居するナーシングホームまで 様々なレベルのケアを提供するコミュ ニティ 長庚紀念医院との活発な人事交流とケース記録の共有 る 専任スタッフは 医師 護理師 護士 (nurse) 護工 (careworker) 心理師 栄養師 物理治療師 客服専員 社会工作師 (socialworker) から構成され 総数 40 人が交代制で勤務している 5 名の護理師 護士は 台塑集団 と同系列の私立長庚護理専科学校 (1987 年創設 ) の卒業生 18 であり また 客服専員も同系列の長庚大学管理学院 (ColegeofManagement) 医務健康照護管理学系 (DepartmentofHealthCareManagement) の卒業生から構成され ケースマネジメントの専門職として 苦情処理 危機管理 人権擁護を含め 複雑で大規模な保健 医療サービス供給システム全体を効率的に管理 運営している 老人社区 は老人福利系の施設と違い社会工作人員は必 管理 ( 例えば 客服専員の名刺に 長庚記念医院復健分院擴建組総務主辧 養生文化村客服専員 とあった ) 入居料は 1カ月の管理費が 14 坪で 一人 18,000 元 / 47,340 円 二人 23,000 元 /60,490 円 22 坪で 一人 26,000 元 /68,380 円 二人 31,000 元 /81,530 円 食費は1カ月一人あたり4,500 元 /11,835 円 水道 光熱費は実費 この他に 入住保証金 ( 一年分の管理費 ) が必要だが 退所時に全額を無利子で返還される 夫婦で22 坪の居室で暮らした場合 1カ月 40,000 元 /105,200 円となるが ちなみに 台湾の2008 年度平均国民所得は477,929 元 (125 万 7 千円 ) で 1カ月に換算すると 39,827 元 (104,750 円 ) となり 23 夫婦で文化村を利用した場合の金額とほぼ同額である 置制ではないが 4 名の専職社工師 ( 有資格ソーシャルワー カー ) が配置され 家族支援を中心に活動している そして 約 100 名の登録ボランティアが定期的に交代で活動している その基本的特徴 ( 顧客ターゲット 事業スキーム ) は 中間層を対象に 1コスト効率性の追求と 2 保健 医療との連続性 ( 健常高齢者対応と医療 福祉対応のバランス ) の重視である 以下 箇条書きに要約する 4. 長庚養生文化村 の現状 課題 2002 年に台湾で不動産開発の対中 ( 大陸 ) 投資が正式に解禁されて以来 不動産業者の大陸進出が活発になっている 一方 台湾本土においても 2006 年に中国大陸からの観光ツアー解禁の動きを受けて以降 大陸の人びとに対する台湾居留許可も1998 年の1,809 件から 2008 年の20,404 1 コスト効率性の追求 高額な終身利用権方式から初期費用負担を抑えた低額な賃貸方式及び短期入所方式の採用 件へと大幅に緩和された 24 台湾の土地 建物を大陸で売り出す業者も登場し 長庚養生文化村 においても 今後は チャイナマネー による市場活性化への期待感が高 高額なフルパッケージ商品からサービスを絞った低価格商品へ ( 必須の基礎サービスーとオプションサービスの組み合わせ ) 19 個人負担を標準化する相互扶助システムの導入 ( 健常時から会費を積み立てることで 高齢化に伴い変化するさまざまなヘルスケアサービスを低負担で享受できるシステム ) まっている また 日本の団塊世代も顧客ターゲットの一つであり 外僑永久居留証 (permanentresidencevisa) 25 や退職者居留証 (retirementvisa) の発効促進など 政府の政策的な支援の下で利用者の一層の拡大を図っている しかし 現状として 老人社区 の多くが 定員充足率の確保をめぐって困難な状況に置かれている 内政部営

86 同志社女子大学学術研究年報 2010 年第 61 巻 建署によると 2004 年 促進民間参與老人住宅建設推動方案 を決定してからの5 年間 (2008 年現在 ) で 16 縣 ( 市 ) 政府への申請は27 件 ( 内訳 :9 件申請人撤回 9 件縣市政府不受理 1 件縣市政府と民間機構協議終止 8 件計 1,612 戸受理 ) となっていて 成案率は29.6% と低い また 長庚養生文化村 の充足率は27.9%( 営業未開始を含まず ) と極めて低い水準に停滞している 26 2010 年 9 月 14 日 筆者が 長庚養生文化村 で実施した調査において 社工組長 ( 主任ソーシャルワーカー ) は 現在の入居者総数は約 400 人 と答えている 同様の算定方法に従えば 充足率は56.7% に上昇するが 大幅な定員割れが続いている という感は否めない 台塑集団 は既に嘉義縣 ( 台湾中南部の阿里山西麓 ) に1 万 2 千戸 (2 万人 ) 規模の巨大ビレッジ ( 長庚新港養生文化村 :265 ヘクタール ) を構想したが 着工は当初の予定よりも大幅に遅れ 現在においても目処は立っていない こうした状況のもと 政府は 2007 年 老人福利法 を改正し 直轄市 縣 ( 市 ) が推進に努める 老人安居之住宅 (accommodationsthataresuitabletoelders) は 小規模 (smal-scale) 融入社区 (community-blend) 多機能性 (multi-functional) を原則とする方向を決定した ( 同法第 33 条 ) そして 同年修正発布の 老人福利法施行細則 第 8 条において 老人住宅原則 の詳細が次のように規定された 1 小規模 :200 戸以下の老人住宅 2 融入社区 : 基礎的な公共施設及び生活機能 交通手段 文化 教育 医療 アミューズメント 余暇など 可近性と便利性を既に備えた一般社区 ( コミュニティ ) 中に設置 3 多機能性 : 老人のニーズの変化に応じた広範囲のサポートサービスを適宜提供 老人福利法 第 33 条には 他の住宅関連法令規定も本原則に従う と規定されていることから 老人社区 の 大型化住宅方式開発 は当然見直しを迫られる また 2007 年 内政部が公表した 促進民間参與老人住宅建設推動方案評価報告 において 次のように再検討を求めている 民間業者による 大型化住宅方式開発 の採用が老人住宅の 偏遠化 を招来した 郊外の土地を開発して新しい建物を建てる 長年住みついたところを離れ老人単身あるいは配偶者とだけ生活するのは 世界的趨勢に反している 27 このように 政府は 大型化住宅方式開発 を軌道修正していくことを求めるが しかし 民間資源の活用 ( 民営化 ) を今後も奨励 推進していくことには変わりはない 5. 老人社区 発展の可能性 各種企業集団が経営する 老人社区 の全てが定員割れかといえば 決してそうではない 例えば 筆者が実地踏査を続けている 老人社区 の一つ 潤福生活新象 ( 台北縣淡水市 ) は 定員を充足し 多くの入所希望者が待機している 1996 年に創設された同施設は 大企業グループ 潤泰集団 が経営する300 戸規模の健康型 老人社区 である そこは20 階から成る高層住宅で 各居室 (30 坪 ) 及び共有空間が開放的で また 淡水市は自然や文化的景観にすぐれ 台北都心へは MRTで直結する有利な地理的条件を備えている こうした交通の利便性に加え 私立淡江大学に隣接し 若者や地域住民と日常的交流を深めるための公共空間 ( コモンスペース ) は一見の価値がある 28 筆者は 台湾の 老人社区 を調査するとき 施設内のあちこちで入居者が訪ねてきた家族と楽しく談笑する光景に驚かされ 彼らは家族を想い絆が強いことを実感する 台湾の人びとは 何故家族への想いが強いのか それは 以下に述べる台湾の特殊な家族 ( 社会 ) 状況から招来してくる そしてこの特殊な家族 ( 社会 ) 状況が 老人社区 への需要を今後増大させるものと推測する ( 図表 4. 台湾の特殊な家族 ( 社会 ) 状況 参照 ) 制度的に 先述のように 台湾の老人福利機構 ( 福利系施設 ) は 老人福利法 第 30 条の規定 ( 法定の扶養義務者は老人扶養の責を負う ) を受け 保護 救済の観点から対象の範囲を独居老人 貧困 低所得者対策に厳しく制限 ( 限定 ) している ( 社会福利の特殊化 ) そして これに起因して 多くの老人福利機構で定員割れの状態が続いている この 図表 4. 台湾の特殊な家族 ( 社会 ) 状況

台湾における 老人社区 ( 退職者コミュニティ ) の新傾向 87 ため 政府は その改善策として 自費安養など対象を緩和し低額な料金による自己負担型の老人福利機構の拡大を図っているが この施政計画は保護 救済の域を超えるものでは決してない 中間層の人びとを吸収する有力な社会資源とはなり得ていないのが現状である 2008 年 政府は今日的最大の福利課題といわれていた 国民年金法 を施行した それは 既存の年金保険 すなわち一部特権階級の優遇政策としての軍人保険 労工保険 公教人員保険に加入できなかった全ての人びとを対象に 老齢年金 障害年金 遺族年金を給付する制度である 1995 年の 全民健康保険法 の施行と併せた国民皆保険 皆年金制度に基づく社会福利の普遍化策によって 一般的中間層の経済的な 老人社区 利用可能性は確実に高まっている 社工組長の言によれば 長庚養生文化村 においても 軍人 公営事業の幹部 公務員 教師が入居者総数の8 割近くを占めているが ここ数年 相対的な比率は減少傾向にある 社会 政治的に台湾は 中国大陸との関係 特に 一辺一国 一つの中国 をめぐって 複雑な社会 政治的な対立や不安を強くうっ積させている ところがその一方で経済的には 中国が最大の貿易相手となっていて ( 大陸への輸出は 2000 29 年が43 億ドル 2008 年が668 億ドルと15 倍に急増 ) 三通による巨大化する中国経済との一体化が急ピッチで進んでいる それは台湾と中国との間 ( 対岸 ) の通航 通商 通信に関する自由化政策であり 中国側が台湾経済の大陸依 存関係の拡大を目的に提案した これによって台湾企業の大陸投資熱が高まり ( 対大陸投資金額は 2000 年が26 億ドル 2008 年が107 億ドル 30 ) 現在中国には100 万人を超える台湾人がいると言われている 31 2008 年 総統選挙で民主進歩党の候補に勝利した国民党の馬英九が 直行便の就航や中国人観光客の拡大など対中積極開放を軸にした経済発展政策を前面に掲げて就任した そして 2010 年には 経済協力枠組み協定 (ECFA: EconomicCooperationFrameworkAgreement) に調印することによって 大陸との間で一段の経済緊密化に踏み出した こうした大陸移動に伴う家族の空洞化現象のもと 同居が困難な高齢者が急増している 長庚養生文化村 の入居案内には 次の一文が掲載されている 搬入養老住宅的原因 : 子女長年在国外 子女出国 房屋売了, 不習慣国外的生活返台後 選択至養老村 歴史的に台湾では これまで親戚や同族による相互扶助が世代を超え継承されてきた 歴史的に マレー ポリネシア語系の先住民と漢人 ( 本省人 : 南系 客家系 及び外省人 ) などが言語や文化に違いを持ちながらせめぎ合う社会にあっては 親戚や同族の利益は自力で守るしかない それに加え 統治者が頻繁に交替した歴史も影響している そこにあっては 人びとは国家や政府の保護を期待できず 自分の努力で生きることを余儀なくされる しかし 親戚や同族の結束力が強いその分 人びとはそこを離れると帰属感情が希薄で 排他的となって共助 ( 互助 ) のすそ野が拡がらない それがさらに 親戚や同族の自助意識を強めていく 筆者の調査では 長庚養生文化村 は本省人 ( 戦前から台湾に住んでいる漢人 ) が 潤福生活新象 は外省人 (1949 年の中華人民共和国が成立する前後に大陸から移住 した漢人 ) が入居者の多くを占める ことの是非はさておき 現状として 多くの高齢者と家族は 民族性や宗教性など個別の属性に配慮した木目細かな対応を求めている こうしたニーズに応えることができるのは 自己責任 自己負担原則に基づいた営利型の 老人社区 だけである 文化的に台湾の家族には 倫理的に保守的養老観念が強く 漢人の儒教道徳である 孝道 の考え方が根強く残っている そして 多くの家庭が 孝道 順守のため 輪流奉養父母 ( 輪 : 順番に 流 : 移動する ) 子女分攤経費的方式 ( 攤 : 分担する 割り当てる ) を採用している 32 それは 輪 ( 吃 ) 頭 とも呼ばれ 代わる代わる ( 輪 ) 集団の 長老 ( 頭 ) と 一緒に食べること ( ) という意味であり 兄弟姉妹で老親の財産と扶養を等しく分けあうこと ( 財産相続の均等分配 老親扶養の兄弟姉妹均分 ) を指す言葉である 33 その根底には 家戸群家族 ( それぞれに核家族を形成する兄弟姉妹が父母の扶養を共同責任で分担する家族 ) 聯邦家庭 ( 聯邦 = 連邦 : 複数の家庭が結合し 全体を包括する一つの家庭として形成されたもの ) という家族観がある 34 内政部統計處 老人状況調査報告 において 次のことが指摘された 子どもがいる高齢者全体で 子どもが5 人以上いる割合が37.2% であったが 80 歳以上が53.5% 75 から79 歳が45.4% 70 から74 歳が35.6% そして65 から69 歳が23.7 パーセントと 年齢が下がるにつれ子どもの数が減少していく 今後は 子ども達の家庭での老親扶養負担

88 同志社女子大学学術研究年報 2010 年第 61 巻 が加速度的に増大していく また老親が住居を移動 ( 遷居 ) することの問題も指摘されている 35 こうした状況のもとで 輪 ( 吃 ) 頭 すなわち 定時巡回の老親扶養の精神を継承しながら 遷居 を必要としない 輪 ( 吃 ) 頭 の現代的スタイル ( 儒教文化の社会化 ) として 老人社区 の需要は今後増大していく おわりに先述のように 長庚養生文化村 では 本省人 中間層以上の入居者が多くを占める とりわけ 本省人 には 民間伝承的な 輪 ( 吃 ) 頭 の観念が強く存続し すべての兄弟姉妹による入居コストの均等割り当ての事例も散見され 入居を継続するうえで家族全体への関係調整が欠かせない また 戦後に大陸から移動した 外省人 が多くを占める 潤福生活新象 では 2008 年の民主進歩党から国民党への政権交代に伴い 直行便の就航など大陸との関係改善によって 入居者の間で一時帰省願望が高まっている 台湾の人びとの北米での永住志向 ( 大陸に吸収された際の備えとして ) は相変わらず高く 実際 北米で永住権を取得して暮らしている子弟も多く 彼らとの関係調整の支援も今後の 老人社区 の重要な役割の一つである また 大陸 東南アジア出身の配偶者との世代間ギャップの問題も家族との同居を難しくさせている 高学歴やキャリア重視から 出産を敬遠する台湾女性が増える一方 台湾男性の外国籍の人々との結婚が増えていて 出生率の向上を 外籍新娘 ( 花嫁 ) に期待する感は否めない 36 2004 年の行政院社会福利推動委員会第 8 回会議資料によれば 国際結婚 ( 跨国婚姻 ) が 1998 年には全体の15.7% 2000 年には24.8% 2003 年には31.9% と増加している 37 とりわけ大陸配偶者の増加が著しく 内政部入出国及移民署による 配偶者通過面談 が2007 年 1 月から2008 年 12 月の2 年間で 47,834 件あった 38 こうした台湾の特殊な家族状況のもとで 老人社区 への役割期待は確実に高まっている 老人社区 発展の鍵は 入居者と家族を繋ぐ支援の精緻化にかかっている 長庚養生文化村 において 制度的に配置基準が無規定であるにもかかわらず 4 名の専職社工師 ( 専任有資格ソーシャルワーカー ) を採用しているが それは 家族支援の重要性を認識を認識していることの証左である この社会工作師による家族支援については 機会をあらため報告したい 注 1 国土交通省住宅局住宅総合整備課 高齢者居住施策の 現状と最新動向 月刊福祉 92 巻 3 号 2009 年 17 ページ 2 海道清信 コンパクトシティ 持続可能な社会の都市 像を求めて 学芸出版社 2008 年 20 23 ページ 3 内政部営建署 整体住宅政策及住宅法草案介紹 高 齢化社会與老人住宅之開発実現 社区発展季刊 内 政部社会司 121 期 2008 年 11 12 ページ 内政部営建署 台湾銀髪住宅相関法規簡介 2005 年 4 内政部社会司ウェブサイト (http://sowf.moi.gov. tw/) 5 内政部統計處 中華民国内政統計年報 2008 年 2009 年 行政院内政部 252 253 ページ 6 城本るみ 台湾における高齢者福祉政策と施設介護 人文社会論叢 社会科学篇 弘前大学 2010 年 27 ページ 7 台湾のシルバー産業 中華民国台湾投資通信 116 号 2005 年 3 4 ページ 8 北波道子 台湾における公営事業民営化と行政院国軍 退除役官兵輔導委員会 関西大学 経済論集 57 巻 3 号 関西大学経済学会 2007 年 21 42 ページ 退 輔会 とは 1949 年に蒋介石国民党軍と共に台湾に渡っ てきた中国大陸出身の兵士 ( 栄民 ) 及びその家族 す なわち 外省人による外省人のための生活保障を行う 国家機関を指して言う 9 佐藤幸人 ( 編 ) 台湾の企業と産業 アジア経済研究 所 2008 年 171 172 ページ 台湾プラスチック : 台 湾民営企業之龍頭 台湾経営之神 との異名を持つ 王永慶が1954 年に創業 2006 年 総裁職に王文渊が就 任 2005 年実績 : 売上高 1 兆 4,315 台湾元 利益 2,469 億台湾元 台湾の大企業上位 10 位 (2004 年末時点 )4 位 ( エヌ エヌ エー編著 図解 中国 台湾 香港 の主要企業と業界地図 日刊工業新聞社 2006 年 213 ページ ) 10 行政院経済建設委員会人力規画處 2010 年至 2060 年台 湾人口推計 行政院経済建設委員会 2010 年 2 3 ペー ジ 11 内政部統計處 老人状況調査報告 内政部 2005 年 12 行政院主計處 中華民国統計年鑑 行政院主計處 2009 年 18 ページ 13 内政部営建署 整体住宅政策及住宅法草案介紹 高

台湾における 老人社区 ( 退職者コミュニティ ) の新傾向 89 齢化社会與老人住宅之開発実現 前掲論文 14 主な租税優遇として 事業所得最長 5 年免納 事業所所得税額減免 設備 技術 研究開発費 不動産 地価税減免などがある 15 内政部営建署 整體住宅政策実施方案 2007 年 16 荘秀美 台湾における高齢者福祉の民営化の実態と課題 海外社会保障研究 157 号 国立社会保障 人口問題研究所 2006 年 87 ページ 荘秀美 台湾における高齢者介護サービス供給の民間参入に関する課題分析 東アジア研究 山口大学 2008 年 105 ページ 17 内政部統計處 ( 編 ) 内政概要 内政部 2009 年 106 ページ 18 1897 年創設 医学院 工学院 管理学院 大学院 ( 博士 修士 ) を含め学生総数は約 7,000 人 19 主なオプションサービスとして 在宅服務 ( 調理 掃除などの生活援助中心のホームヘルプサービス ) 居家護理 ( 在宅看護サービス ) 日間照護( デイケアサービス ) がある 20 台湾の外籍護工については 例えば フィリピン人海外介護労働者の2009 年新規採用地域 国のトップで 全体 ( 総数 9,071 人 ) の66% を占めている (Philippine OverseasEmploymentAdministration, Overseas EmploymentStatistics2009.http://www.poea.gov. ph/) また 台湾の2008 年度外籍労工人数は365,060 人で そのうち 外籍看護工は165,898 人であり 全体の45% を占めている ( 行政院主計處 中華民国統計年鑑 行政院主計處 2009 年 52 ページ ) 21 1976 年創設 基隆 台北 林口 桃園 嘉義 高雄に設置 6,800 床及び一日の外来入院患者数 27,000 人規模の台湾最大級の総合病院 22 長庚桃園分院附設の347 床からなるナーシングホーム 1カ月入居料 : 多床室 (3 人 )43,000 元 /113,090 円 ) (8 人 )33,000 元 /86,790 円 ) 保証金 2カ月分 ( 出院時全額返還 ) 23 行政院主計處 中華民国統計年鑑 140 ページ 24 内政部入出国及移民署 ( 編 ) 移民行政白皮書 内政部入出国及移民署 2009 年 12 ページ 25 5 年以上続けて居留証を取得し かつ毎年 183 日以上台湾に滞在している外国籍の者に対して発行される 26 内政部営建署 整体住宅政策及住宅法草案介紹高齢化社会與老人住宅之開発実現 前掲論文 27 行政院内政部 促進民間参與老人住宅建設推動方案評価報告 2007 年 28 入居契約金 (30 坪 ):1 千万元 /2 千 630 万円利用料 (2 人 ) 管理費 56,700+ 食費 18,900 2+ 水道光熱費 7,000= 1カ月 101,500 元 /266,945 円 同集団が経営する 潤福大台北華城 ( 台北縣新店市台北都心へ30 分の MRT で直結 ) もまた定員を充足している 29 財政部ウェブサイト (http://www.mof.gov.tw/) 30 経済部ウェブサイト (http://www.moea.gov.tw/) 31 アジア経済研究所 ( 編 ) 2009 アジア動向年報 アジア経済研究所 2009 年 164 169 ページ 32 許敏桃 台湾老人家庭照顧研究之評析 : 護理人類学的観点 人文及社会科学 11 巻 2 期 国家科学委員会研究彙刊 2001 年 168 ページ 33 謝繼昌 仰之村的家族組織 中央研究院民族学研究所集刊 46 1984 年 37 40 ページ 34 莊英章 台湾農村家族対現代化的適応 中央研究院民族学研究所集刊 34 1972 年 88 ページ 35 吃 頭 輪 頭 (mealrotation) 的代間関係 ( 世代関係 ) の問題とは 居住が定まらない 自己の生活が維持できない 自己価値が保てない 他者の考えで ( 他導的に ) 住居を変える ( 遷居する ) ことの無力感 などが指摘されている ( 李薇 失智老人社会心理適応的護理人類学研究 慈済大学人類学研究所博士論文 2007 年 125 126 ページ 慈済大学ウェブサイト http://www.etd.library.tcu.edu.tw/) 36 世界経済情報サービス ( 編 ) ARC レポート2007 台湾 世界経済情報サービス 2007 年 139 ページ 37 2004 年 10 月 18 日行政院社会福利推動委員会第 8 回会議資料 38 内政部入出国及移民署 ( 編 ) 移民行政白皮書 前掲書 22 ページ