の60% に比較すると 減少しているものの依然として高い分離率を示している 2) MRSA はヒトの皮膚や鼻腔のほか 口腔内 上気道 腸管等に存在する 健常者であれば MRSA の保菌自体は問題ないが 易感染者における MRSA 感染症は 感染者自身が保有する菌による内因性感染である場合が多く 感染

Similar documents
公開情報 2016 年 1 月 ~12 月年報 院内感染対策サーベイランス集中治療室部門 3. 感染症発生率感染症発生件数の合計は 981 件であった 人工呼吸器関連肺炎の発生率が 1.5 件 / 1,000 患者 日 (499 件 ) と最も多く 次いでカテーテル関連血流感染症が 0.8 件 /

四国大学紀要 Ser.A No.42,Ser.B No.39.pdf

褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

Microsoft Word - <原文>.doc



ROCKY NOTE 肺炎球菌 / レジオネラ尿中抗原の感度と特異度 ( ) (140724) 研修医が経験したレジオネラ肺炎症例は 1 群ではなかったとのこと 確かに 臨床的 に問題に

スライド 1

浜松地区における耐性菌調査の報告

13●53頁●6-7▲院内感染対策▲.ppt

中医協総会の資料にも上記の 抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス から一部が抜粋されていることからも ガイダンスの発表は時機を得たものであり 関連した8 学会が共同でまとめたという点も行政から高評価されたものと考えられます 抗菌薬の適正使用は 院内 と 外来 のいずれの抗菌薬処方におい

目 次 1. はじめに 1 2. 組成および性状 2 3. 効能 効果 2 4. 特徴 2 5. 使用方法 2 6. 即時効果 持続効果および累積効果 3 7. 抗菌スペクトル 5 サラヤ株式会社スクラビイン S4% 液製品情報 2/ PDF

平成15年度8階病棟の目標                  2003/06/03

名称未設定

2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

耐性菌届出基準

CHGエタノール消毒液1%製品情報_PDF

164 SDD & SOD SDD E100 mg 80 mg B500 mg 2 E 2 B 48 /59 81 SDD SOD 10 /63 16 RCT RCT 1992 Gastinne 15 ICU 445 SDD E100 mg 80 mg B 10

Clostridium difficile 毒素遺伝子検査を踏まえた検査アルゴリズム

2015 年 9 月 30 日放送 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE) はなぜ問題なのか 長崎大学大学院感染免疫学臨床感染症学分野教授泉川公一 CRE とはカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 以下 CRE 感染症は 広域抗菌薬であるカルバペネム系薬に耐性を示す大腸菌や肺炎桿菌などの いわゆる

<4D F736F F D D8ACC8D6495CF8AB38ED282CC88E397C38AD698418AB490F58FC782C982A882A282C48D4C88E E B8

Q&A(最終)ホームページ公開用.xlsx

Ⅰ. 緒言 Suzuki, et al., Ⅱ. 研究方法 1. 対象および方法 1 6 表 1 1, 調査票の内容 図

_原著03_濱田_責.indd

(案の2)


<4D F736F F F696E74202D204E6F2E395F8FC78CF390AB AB490F58FC75F E B93C782DD8EE682E890EA97705D>

「薬剤耐性菌判定基準」 改定内容

求人面接資料PPT

2 経験から科学する老年医療 上記 12 カ月間に検出された病原細菌総計 56 株中 Escherichia coli は 24 株 うち ESBL 産生菌 14 株 それ以外のレボフロキサシン (LVFX) 耐性菌 2 株であった E. coli 以外の合計は 32 株で 内訳は Enteroco

医療関連感染サーベイランス


2015 年 7 月 8 日放送 抗 MRS 薬 最近の進歩 昭和大学内科学臨床感染症学部門教授二木芳人はじめに MRSA 感染症は 今日においてももっとも頻繁に遭遇する院内感染症の一つであり また時に患者状態を反映して重症化し そのような症例では予後不良であったり 難治化するなどの可能性を含んだ感

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ


Web Stamps 96 KJ Stamps Web Vol 8, No 1, 2004

スライド タイトルなし

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

番号

第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

37, 9-14, 2017 : cefcapene piperacillin 3 CT Clostridium difficile CD vancomycin CD 7 Clostridium difficile CD CD associate

院内感染対策サーベイランス実施マニュアル

CHEMOTHERAPY aureus 0.10, Enterococcus faecalis 3.13, Escherichia coli 0.20, Klebsiella pneumoniae, Enterobacter spp., Serratia marcescens 0.78, Prote

Ⅱ 方法と対象 1. 所得段階別保険料に関する情報の収集 ~3 1, 分析手法

PowerPoint プレゼンテーション


2 The Bulletin of Meiji University of Integrative Medicine 3, Yamashita 10 11

48小児感染_一般演題リスト160909

ブドウ球菌

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性


H26_大和証券_研究業績_C本文_p indd

Ⅱ. 用語の操作的定義 Ⅲ. 対象と方法 1. 対象 WAM NET 2. 調査期間 : 3. 調査方法 4. 調査内容 5. 分析方法 FisherMann-Whitney U Kruskal-Wallis SPSS. for Windows 6. 倫理的配慮 Vol. No.

H8.6 P

Key words : influenza, nested-pcr, serotype

(Microsoft Word - \202\205\202\2232-1HP.doc)

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

< C E8E9E939982CC8AB490F591CE8DF482DC82C682DF2E786C7378>

1 MRSA が増加する原因としては皮膚 科 小児科 耳鼻科などでの抗生剤の乱用 があげられます 特にセフェム系抗生剤の 使用頻度が高くなると MRSA の発生率が 高くなります 最近ではこれらの科では抗 生剤の乱用が減少してきており MRSA の発生率が低下することが期待できます アトピー性皮膚炎

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

CHEMOTHERAPY JUNE 1993 Table 1. Background of patients in pharmacokinetic study

(病院・有床診療所用) 院内感染対策指針(案)

CHEMOTHERAPY

づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

, , & 18

原著論文 実践女子大学生活科学部紀要第 46 号,15 ~ 21, 市販おにぎりの細菌汚染および保存による細菌の挙動 民谷万里子 * 左官愛野 西島基弘 食生活科学科食品衛生学研究室 * 戸板女子短期大学 Microbial contamination of commercial ri

2014 年 10 月 29 日放送 MRSA 腸炎はあるのか? 神戸大学病院感染症内科教授岩田健太郎 MRSA 腸炎の歴史きょうはこのMRSA 腸炎は本当にあるのかという 多少刺激的なタイトルでお話ししようと思います MRSA 腸炎は抗菌薬関連下痢症の一つで 抗菌薬治療をおこなっている患者さんが下

2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

THE JAPANESE JOURNAL OF ANTIBIOTICS 65 2 Apr NTT NTT

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

PowerPoint プレゼンテーション

12 Vol. 12, No Benner 8 ICU 1 2 ICU Krippendorff, K ICU 5

市中肺炎に血液培養は必要か?

小児感染免疫第29巻第2号

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

CRA3689A

<34398FAC8E998AB490F55F DCC91F092CA926D E786C7378>

〈企業特集:検査機器・試薬・技術の新たな展開〉新規マイコプラズマ抗原検査キット—プロラスト®Myco

PowerPoint プレゼンテーション

IR0036_62-3.indb

ブック2

EQUIVALENT TRANSFORMATION TECHNIQUE FOR ISLANDING DETECTION METHODS OF SYNCHRONOUS GENERATOR -REACTIVE POWER PERTURBATION METHODS USING AVR OR SVC- Ju

Rinku General Medical Center

<4D F736F F F696E74202D2088E397C396F28A778FA797E38FDC8EF68FDC8D DC58F4994C5205B8CDD8AB B83685D>

前頭蓋底の再建術式の標準化と外傷への応用

審査結果 平成 26 年 1 月 6 日 [ 販 売 名 ] ダラシン S 注射液 300mg 同注射液 600mg [ 一 般 名 ] クリンダマイシンリン酸エステル [ 申請者名 ] ファイザー株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 25 年 8 月 21 日 [ 審査結果 ] 平成 25 年 7

(Antimicrobial stewardship) を開始している セット採取は 血流感染症の診療効率を高めるために最も有効であり また 血液培養の適正化 ( 採取から診断まで ) にかかわるすべての医療スタッフからの協力を得やすく導入効果が高いと考えた 以下に 市立札幌病院において セット採取

DNA 抽出条件かき取った花粉 1~3 粒程度を 3 μl の抽出液 (10 mm Tris/HCl [ph8.0] 10 mm EDTA 0.01% SDS 0.2 mg/ml Proteinase K) に懸濁し 37 C 60 min そして 95 C 10 min の処理を行うことで DNA

0a-p1-12-会告.indd

Table 1. Antimicrobial drugs using for MIC

Key words: bacterial meningitis, Haemophilus influenzae type b, Streptococcus pneumoniae, rapid diagnosis, childhood

274 コバス TaqMan48 を用いた液体培地からの抗酸菌検出 澤村卓宏 1) 森部龍一 2) 社会医療法人大雄会第二医科学研究所 1) 社会医療法人大雄会総合大雄会病院 2) [ 目的 ] 我々はコバス TaqMan48( ロシュ ダイアグノステックス ) を用いた液体培地からの抗酸菌検出に関

27 VR Effects of the position of viewpoint on self body in VR environment

プライマリーケアのためのワンポイントレクチャー「総論」(2017年4月12日開催)

TDM研究 Vol.26 No.2

家政_08紀要48_自然&工学century

PowerPoint プレゼンテーション

474 Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi Vol. /-, No.3,.1..2* (,**0) 24 Measurement of Deterioration of Frying Oil Using Electrical Properties Yoshio

Transcription:

鼻腔からのブドウ球菌の採取方法の検討 ~ 湿った綿棒と乾燥綿棒の比較 ~ The study of the method for collecting Staphylococci from nasal cavity 塩田澄子 ( 就実大学薬学部 ) 萩谷英大 ( 岡山大学病院 ) 内田多恵子 ( 就実大学薬学部 ) 見尾光庸 ( 就実大学薬学部 ) メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) は院内感染の主たる起因菌であり 院内感染対策上最も重要な菌の一つである ICU 入院時には鼻腔の MRSA 保菌調査が推奨されるが 採取に関しては統一した方法はない 鼻腔からの菌の採取に湿った綿棒を使うと記載された論文もあることから ブドウ球菌の採取の際に 湿った綿棒を使う優位性があるかを検討した 対象は実習中の学生とボランティア学生で延べ192 名であった 一方の鼻腔から湿った綿棒 他の鼻腔からは乾燥綿棒を用いて菌を採取し ブドウ球菌選択培地に生育した菌の数を調べた 培地に生えたすべての菌の菌数を比較した結果 湿った綿棒の方が乾燥綿棒より 有意に多くの菌を採取することができた (p <0.001) 黄色ブドウ球菌についても同様であった (p <0.0153) 左右両方の鼻腔から湿った綿棒および乾燥綿棒で採取した192 人中 黄色ブドウ球菌が検出された人は74 人で 検出率は38.5% であった 左右それぞれの鼻腔からの黄色ブドウ球菌の検出率は 湿った綿棒 29.7% 乾燥綿棒 29.1% となり 両者で差はなかった 今回の結果から より多くの菌を採取するには乾燥綿棒より湿った綿棒を用いる方が良いことがわかった 黄色ブドウ球菌検出率を上げるためには 片方だけより 両方の鼻腔から採取した方が良いことが示された 緒言黄色ブドウ球菌は環境における生存性が高く 接触感染で容易に伝播し 薬剤耐性を獲得しやすい点や カテーテル関連血流感染症 (CRBSI) や感染性心内膜炎 (IE) 等難治性疾患を惹起することから 最も重要な院内感染原因菌とされている CDC の 血管留置カテーテルに関連する感染予防のガイドライン (2011 年 ) によると 米国では集中治療室 (ICU) で分離される黄色ブドウ球菌の50% 以上が MRSA とされる 1) 日本の病院においても 2012 年の厚生労働省の院内感染対策サーベイランス (JANIS) 年報 ( 検査部門 ) によると 臨床分離される黄色ブドウ球菌における MRSA の割合は53% であり 2008 年 499

の60% に比較すると 減少しているものの依然として高い分離率を示している 2) MRSA はヒトの皮膚や鼻腔のほか 口腔内 上気道 腸管等に存在する 健常者であれば MRSA の保菌自体は問題ないが 易感染者における MRSA 感染症は 感染者自身が保有する菌による内因性感染である場合が多く 感染対策上 保菌者の確認と管理が重要になる 特に重症患者が集まる ICU では MRSA 保菌者が感染症を起こすリスクは メチシリン感受性黄色ブドウ球菌 (MSSA) 保菌者または非保菌者より有意に高いとされる 3, 4, 5) 従って ICU では入院時に MRSA の保菌調査を行うことが推奨されている さらに MRSA を保菌していることが分かった患者に対しては 接触感染予防策に則って 個室管理やコホーティング ( 同一病原体に感染した患者をまとめ 同じスタッフが看護するなど 周囲への感染の広がりを抑える管理体制を採ること ) を行うことが望ましいとされる 6) より確実な保菌調査を行うことが重要であるが 現状は鼻腔からの採取法は各病院の看護スタッフに任されており 調べた範囲では菌の採取の際に 綿棒を用いてとだけ書かれている場合が多い その中で 湿った綿棒を用いてと記載された論文も一部ではあるが見つかった 7) 経験的に湿らせた綿棒の方が菌の採取率が高いとされるが 根拠となる論文はほとんどない そこで 菌の採取に湿った綿棒を使う利点があるかどうかを調べるために 生物系薬学実習 II の微生物学実習の1 項目である 鼻腔に存在する My ブドウ球菌の分離と同定 8) を利用して 鼻腔のブドウ球菌の採取における湿った綿棒 乾燥綿棒の優位性を検討した 方法 1. 調査方法 2012 年 10 月 ~11 月に 就実大学薬学部学生延べ192 名を対象として調査した 学生実習中の3 年生とボランティアである4 年生にインフォームドコンセントをとり 承諾した学生が調査に参加した 左右の鼻腔の菌数に差があるかを確認するために 菌の採取は2 日に分けて左右を逆にして2 回行った 学生自身が 一方の鼻腔からは乾燥 他方からは滅菌生理食塩水で湿らせたコットン製綿棒 ( 平和メディック株式会社 ) を使って菌を採取した 採取条件を鼻腔の内壁の表面を綿棒で3 回なぞると決めた その場でブドウ球菌選択培地である7.5% 食塩添加マンニット寒天培地 ( 日水製薬株式会社 ) の表面全体に 綿棒の向きを変えながら3か所から塗り拡げた 37 で2 日間培養後 黄色コロニー数と白色コニー数をそれぞれ計測した 数えられないほどの多数のコロニーが形成された場合は 上限の菌数を10000 個とした 2. 黄色ブドウ球菌の同定 7.5% 食塩添加マンニット寒天培地の黄色のコロニーを1 個選び コアグラーゼ産生性と DNase 活性を調べた コアグラーゼ検出用ウサギプラズマ ( 栄研株式会社 ) 溶液に菌を懸濁し 37 で培養し 2 時間後 凝集したものをコアグラーゼ陽性とした また同時に DNA 培地 ( 日水製薬株式会社 ) 上に菌を塗布し 2 日間 37 で培養後培地が青色から紫色に変化したものを DNase 陽性とした どちらか一方が陽性に 500

なったものは黄色ブドウ球菌と判定した 3. 統計解析 Wilcoxon signed rank test を用いて解析した 4. 倫理面における研究の妥当性 本研究は課題名 鼻腔に存在する菌の採取方法に関す る検討 で 平成24年度8月22日開催された第10回就実大学研究倫理安全委員会で審議され 適当と認定する との結果を得ている 結果 1 左右の鼻腔からの採取菌数の比較 7.5 食塩添加マンニット寒天培地は7.5 の食塩が添加されているために 耐塩性のあ るブドウ球菌 Staphylococcus 属や Micrococcus 属しか生育できない また マンニット とフェノールレッドを含有するため マンニット分解性を持つ黄色ブドウ球菌のコロニー は黄色となり その周囲は黄変する 表皮ブドウ球菌を主体とする他のブドウ球菌属や Micrococcus 属は白色コロニーとなるため 黄色ブドウ球菌を判別することができる 今 回はマンニット寒天培地に生育したすべての菌と 黄変したコロニーを黄色ブドウ球菌と して それぞれ乾燥綿棒と湿った綿棒で鼻腔から採取した際の菌数を比較した さらに学 生実習では黄色コロニーの一部を採り 黄色ブドウ球菌に特徴的な酵素であるコアグラー ゼまたは DNase が陽性であることを確認した 2日とも参加した52名の学生を対象とした Right Le Right S. aureus all bacteria Le Right Le Right S. aureus all bacteria Le 図1 Comparison between the number of colony of Staphylococcus aureus or all bacteria grown on the mannitol saltthe agar plate obtained right or left aureus nasal cavity, between number of colony from of Staphylococcus or all using a 図 1 Comparison dry swab (A) and wet swab (B). bacteria grown on the mannitol salt agar plate obtained from right or left nasal cavity, using a dry swab (A) and wet swab (B). All samples were taken from healthy students, the 501material and the way of sampling was described in methods. The horizontal line expresses the average. (N = 52, Wilcoxon signed rank test). * The countless number of colonies was considered to be 10000.

乾燥綿棒を用いて採取したすべての菌 または黄色ブドウ球菌の菌数を Wilcoxon signed rank test を用いて左右の鼻腔で比較したところ それぞれ p=0.505 p=0.394となり 左右 の鼻腔から採取される菌数に有意差は見られなかった ( 図1 A) 同様に湿った綿棒を用 いた時もすべての菌 黄色ブドウ球菌とも左右の鼻腔で採取菌数に有意差は見られなかっ た それぞれ p=0.144, p=0.322 ( 図1 B) ブドウ球菌については 左右の鼻腔から 採取される菌数に差はないと考えられた 2. すべての菌数に対する乾燥綿棒と湿った綿棒の比較 左右の鼻腔を変えて2日間で2回菌を採取した学生を含めると 延192名の学生が対象と なった どの学生からもマンニット寒天培地上にコロニーが形成されたことから 鼻腔か らのブドウ球菌の採取率は100 であった 湿った綿棒と乾燥綿棒を使って左右の鼻腔か ら採取したすべての菌数を比較すると 湿った綿棒で採取したほうが 乾燥綿棒より有意 に採取菌数は多かった p<0.001 図2 Dry swab Wet swab Comparison between the number of colony of all bacteria obtained from 図 2 nasal cavities, using a dr y swab and a wet swab. 3. Comparison between the number of colony of all bacteria obtained from nasal 図2 黄色ブドウ球菌の菌数に対する乾燥綿棒と湿った綿棒の比較 cavities, using a dry swab and a wet swab. 黄色ブドウ球菌は延べ192名の学生のうち 74名から分離された 調べた大学生の黄色ブ All samples were taken from healthy students, and the way of sampling was described in the material methods. (N = 192, Wilcoxon signed rank test). * The countless number of の菌数の比較を行った結果 湿った綿棒で採取したほうが採取菌数は有意に多いことが示 colonies was considered to be 10000. ドウ球菌の保菌率は38.5 であった 乾燥綿棒と湿った綿棒で採取できた黄色ブドウ球菌 502

された p=0.0153 図3 左右それぞれ片方の鼻腔から採取した場合 黄色ブドウ球菌 が検出された学生は 湿った綿棒で 192人中57名となり検出率は29.7 乾燥綿棒では 56名で検出率は29.1 となった 黄色ブドウ球菌の検出率は湿った綿棒でも乾燥綿棒でも 差はなかった Dry swab Wet swab Comparison between the number of colony of S. aureus obtained from nasal 図3 cavities, using a dr y swab and a wet swab. 考察 MRSA の予防と感染管理のためのアクティブ サーベイランス MRSA の積極的監視 Comparison between the number of colony of S. aureus obtainedにおける from nasal 3 図MRSA による の保菌の判別と隔離政策 除菌も含む を実施することで ICU using a dry swab and ashea wet swab. MRSAcavities, の蔓延を確実に防止できると 米国医療疫学学会 (SHEA) のガイドラインに All samples were taken from healthy students, and the way of sampling was described in ある9 このため多くの病院では ICU 入院時に MRSA の保菌調査を行っている アクティ the material methods. (N = 74, Wilcoxon signed rank test). * The countless number of colonies was considered to be 10000. ブ サーベイランスの基本となる MRSA の保菌の判別を行うためには 確実な鼻腔から の菌の採取が重要となるが 採取方法については明確な基準は示されていない 本研究で は 確実な MRSA の保菌の判別をするための手段として 湿った綿棒と乾燥綿棒で採取 される菌数を比較し 評価した ブドウ球菌選択培地に生育したすべての菌数も 黄色ブドウ球菌もいずれも湿った綿棒 を用いた方が有意に多くの菌数を採取することができた また 鼻腔からの菌の採取率は 100 であった これまでも学生実習で鼻腔からの菌の採取を行ってきたが 採取方法を 503

学生に任せていたためか 菌が採取できない学生が毎年数人出ていた 採取条件を 鼻腔の内壁の表面を綿棒で3 回なぞる と決めたことにより 採取率が100% になったと考えられる 今回 黄色ブドウ球菌の検出率は両方の鼻腔から採取した場合 38.5% となった 2001 年から2002 年にかけて 米国で行われた大規模な黄色ブドウ球菌と MRSA の保菌調査によると 黄色ブドウ球菌の保菌率は32.4% で MRSA の保菌率は0.8% であった 10) 年齢別に見た場合 10 代から20 代の保菌率は平均より高いことから 今回の調査における黄色ブドウ球菌の検出率は適正と考えられる 片方の鼻腔だけだと採取率は29~30% となり 両方から採取した時より検出率は低かった 左右の鼻腔で保有する菌種が異なるというという報告もあることから 11) 菌を採取する場合は両方の鼻腔から採取することが望ましい 一方 並行して行われた津山中央病院の ICU における調査では 湿った綿棒と乾燥綿棒ですべての菌数 黄色ブドウ球菌ともに採取菌数に差がないという結果となった 12) 採取に用いた綿棒がレーヨン製であるなど調査方法に違いがあったため 今回とは異なる結果になったと考えらえる また12 人の MRSA 保菌者を対象として湿った綿棒 乾燥綿棒で鼻腔からの菌を採取した結果 MRSA の検出率に変化はなかったとする論文もあった 13) ひと手間かけて湿った綿棒で採取することに関しては 費用対効果の面で まだ検討の余地があると思われる 今回学生対象の実験では 採取に用いたのはコットン製の綿棒であった 臨床ではレーヨン製の綿棒が用いられていることから レーヨン製の綿棒を使って行う必要がある また 今回の調査では MRSA まで調べることができなかった 鼻腔の保菌調査は MRSA の感染防止のために行われることを考えると MRSA の採取菌数 検出率などの精査も行うべきであり より確実な菌の採取方法を確立するためにはさらなる検討が重要となる 謝辞この研究は 本学の連携病院である財団法人津山慈風会津山中央病院の ICT( インフェクションコントロールチーム ) 活動の一環として行われました 研究の体制づくりにご尽力くださいました森本直樹副院長 および國米由美氏 村瀬知子氏をはじめとする ICT メンバーの皆様に心から感謝申し上げます また調査に協力して下さった学生の皆さんに深謝申し上げます 参考文献 1) http://www.medicon.co.jp/views/pdf/cdc_guideline2011.pdf 2) http://www.nih-janis.jp/report/index.html 3) Altınbas A, Shorbagi A, Ascıoglu S, Zarakolu P, Cetinkaya-Sardan Y. Risk factors for intensive care unit acquired nasal colonization of MRSA and its impact on MRSA infection. 504

J Clin Lab Anal. 2013 Sep;27(5):412-7 4) Rocha LA, Marques Ribas R, da Costa Darini AL, Gontijo Filho PP. Relationship between nasal colonization and ventilator-associated pneumonia and the role of the environment in transmission of Staphylococcus aureus in intensive care units. Am J Infect Control. 2013 Jul 23. S0196-6553 (13) 00850-X 5) Honda H, Krauss MJ, Coopersmith CM, Kollef MH, Richmond AM, Fraser VJ, Warren DK. Staphylococcus aureus nasal colonization and subsequent infection in intensive care unit patients: does methicillin resistance matter? Infect Control Hosp Epidemio.2010 Jun;31(6):584-591. 6) Lee BY, Singh A, Bartsch SM, Wong KF, Kim DS, Avery TR, Brown ST, Murphy CR, Yilmaz SL, Huang SS. The Potential Regional Impact of Contact Precaution Use in Nursing Homes to Control Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus. Infect Control Hosp Epidemiol. 2013 Feb; 34 (2) :151-160. 7) 森脇孝博整形外科病棟入院患者及び同医療従事者より分されたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症学雑誌 2003 第 77 巻第 12 号 p1058-1066 8) 須藤鎮世 塩田澄子 工藤孝之就実大学薬学部生物系薬学実習 II( 遺伝子 微生物学 ) テキスト p23-p25 9) Muto CA, Jernigan JA, Ostrowsky BE, Richet HM, Jarvis WR, Boyce JM, Farr BM; SHEA guideline for preventing nosocomial transmission of multidrug-resistant strains of Staphylococcus aureus and Enterococcus. Infect Control Hosp Epidemiol. 2003 May; 24 (5): 362-86. 10) Kuehnert MJ, Kruszon-Moran D, Hill HA, McQuillan G, McAllister SK, Fosheim G. Prevalence of Staphylococcus aureus nasal colonization in the United States. 2001-2002. J Infect Dis. 2006 ;193:172-179. 11) Kildow BJ, Conradie JP, Robson RL. Nostrils of healthy volunteers are independent with regard to Staphylococcus aureus carriage. J Clin Microbiol 2002; 50:3744-3746. 12) Hagiya H, Mio M, Murase T, Egawa K, Kokumai Y, Uchida T, Morimoto N, Otsuka F, Shiota S. Is wet swab superior to dry swab as an intranasal screening test? Journal of Intensive Care 2013 ;1:10. 13) Codrington L, Kuncio D, Han J, Nachamkin I, Tolomeo P, Hu B, Lautenbach E. Yield of methicillin-resistant Staphylococcus aureus on moist swabs versus dry swabs. Am J Infect Control. 2013 Jan 18. pii: S0196-6553(12)01253-9. 505