原性機構の違いから 腸管出血性大腸菌 (EHEC) 腸管病原性大腸菌 腸管毒素原性大腸菌 腸管侵入性大腸菌 腸管凝集接着性大腸菌の 5 種類に分類されています 1) ( 表 1) このうち EHEC は志賀毒素 (Shiga toxin:stx) を産生し 出血性大腸炎を起こす大腸菌と定義されます

Similar documents
緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

Microsoft Word - 届出基準


耐性菌届出基準

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

博士学位論文審査報告書

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

!YAK Sample 教材! 問題 2 セレウス菌 27 セレウス菌は 短い潜伏期間で嘔吐を主徴とするタイプと より長い潜伏期間で下痢を主徴とするタイプの2 つの型があり それらの発症にはいずれも毒素が関与している (94 70) 黄色ブドウ球菌 28 Staphylococcus aureus

5 表 1. 志賀毒素産生性大腸菌による集団感染事例 場所年患者数 HUS 患者数 死者数起因菌経路 Pubmed USA Mar O157:H7 hamburger at fast food restaurants Japan

109 非定型溶血性尿毒症症候群

5 がん化学療法に附随する消化器症状への対応 下痢, 便秘および 重篤な消化管症状への対応 後藤歩, 小栗千里, 光永幸代, 市川靖史 小林規俊, 前田愼, 遠藤格

PowerPoint Presentation

Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

Clostridium difficile 毒素遺伝子検査を踏まえた検査アルゴリズム

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

表 2 衛生研究所 保健所別菌株検出数 ( 医療機関を含む ) 内訳 衛生研究所保健所試験検査課県中支所会津支所郡山市いわき市 総計 喫食者 接触者 従事者食品 3 3 拭きとり総計 遺伝子型別解析遺伝子型別解析は, デンカ生研の病

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

スライド 1

年次別 主な病原体別の食中毒事件数の推移 * 腸管出血性大腸菌を含む

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

(Microsoft PowerPoint - \220H\222\206\223\ \214\335\212\267\203\202\201[\203h)

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

146 (1) コレラ 三類感染症 Cholera 感染経路 経口感染菌が含まれた便で汚染された水 食物 ( 魚介類など ) その他の媒介物の経口摂取 潜伏期間 : 12 時間から 5 日 ( 平均 1.4 日 ) 病原体 ( 細菌 ) Vibriocholerae( コレラ菌 ) O1 型生物型

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

 

64 血栓性血小板減少性紫斑病 概要 1. 概要血栓性血小板減少性紫斑病 (TTP) は 1924 年米国の Eli Moschcowitz によって始めて報告された疾患で 症状は 1) 細血管障害性溶血性貧血 2) 破壊性血小板減少 3) 細血管内血小板血栓 4) 発熱 5) 動揺性精神神経障害を

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

障害程度等級表 級別じん臓機能障害 1 級 じん臓の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの 2 級 3 級 じん臓の機能の障害により家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの 4 級 じん臓の機能の障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

 溶血性尿毒症症候群に関する一次調査

2015 年 9 月 30 日放送 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE) はなぜ問題なのか 長崎大学大学院感染免疫学臨床感染症学分野教授泉川公一 CRE とはカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 以下 CRE 感染症は 広域抗菌薬であるカルバペネム系薬に耐性を示す大腸菌や肺炎桿菌などの いわゆる

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎


PowerPoint プレゼンテーション

1 月号は以下の情報を掲載しています 1. 茨城県感染症発生動向調査事業に基づく試験検査 検出状況 1) 全数把握疾患 2) 病原体定点依頼検査その他の検査 3) 集団 ( 施設や学校等 ) 事例 月別検出件数 1) 三類 四類 五類 ( 全数把握 ) 2) 五類 ( 定点 ) その他の検査 3)

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

貧血 

消化器病市民向け

減量・コース投与期間短縮の基準

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

1)表紙14年v0

064 血栓性血小板減少性紫斑病

第 4 章感染患者への対策マニュアル ウイルス性肝炎の定義と届け出基準 1) 定義ウイルス感染が原因と考えられる急性肝炎 (B 型肝炎,C 型肝炎, その他のウイルス性肝炎 ) である. 慢性肝疾患, 無症候性キャリア及びこれらの急性増悪例は含まない. したがって, 透析室では HBs

発表内容 1. 背景感染症や自己免疫疾患は免疫系が強く関与している病気であり その進行にはT 細胞が重要な役割を担っています リンパ球の一種であるT 細胞には 様々な種類の分化したT 細胞が存在しています その中で インターロイキン (IL)-17 産生性 T 細胞 (Th17 細胞 ) は免疫反応

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

newsletter16_fin.indd

◎ 腸管出血性大腸菌 (EHEC/VTEC)による感染症の発生動向について

Microsoft Word 高尿酸血症痛風の治療ガイドライン第3版主な変更点_最終

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

第1 総 括 的 事 項

調査の結果は神奈川県衛生研究所感染症情報センターに集められ 患者の行動や喫食状況等をセンターにおいて解析したところ 市販の未加熱メンチカツが共通食品として疑われることが明らかとなった この情報は感染症情報センターから直ちに各保健福祉事務所に提供され この情報に基づいてすでに調査を開始していた患者およ

NEWS RELEASE 東京都港区芝 年 3 月 24 日 ハイカカオチョコレート共存下におけるビフィズス菌 BB536 の増殖促進作用が示されました ~ 日本農芸化学会 2017 年度大会 (3/17~

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

スライド 1

参考 9 大量出血や急速出血に対する対処 2) 投与方法 (1) 使用血液 3) 使用上の注意 (1) 溶血の防止 参考 9 大量出血や急速出血に対する対処 参考 11 慢性貧血患者における代償反応 2) 投与方法 (1) 使用血液 3) 使用上の注意 (1) 溶血の防止 赤血球液 RBC 赤血球液

ファクトシート 作成日 : 平成 23 年 11 月 24 日 エルシニア症 (Yersiniosis) 1 エルシニア症とは エルシニア症は Yersinia 属菌の中で一般的に食中毒菌として知られる Yersinia enterocolitica と仮性結核菌として知られる Yersinia p

平成14年度研究報告

日産婦誌58巻9号研修コーナー

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

性食中毒である きのこ類による食中毒や貝毒による食虫毒は 毒素型の自然毒食中毒である ウエルシュ菌や ベロ毒素陽性の大腸菌が原因の場合には 感染毒素中間型細菌性食中毒に分類 されるべきものである 学校医が知っておくべき食中毒に関連する法律は 主に食品衛生法と感染症法 それに学校保健安全法である 食品


したことによると考えられています 4. ピロリ菌の検査法ピロリ菌の検査法にはいくつかの種類があり 内視鏡を使うものとそうでないものに大きく分けられます 前者は 内視鏡を使って胃の組織を採取し それを材料にしてピロリ菌の有無を調べます 胃粘膜組織を顕微鏡で見てピロリ菌を探す方法 ( 鏡検法 ) 先に述

<4D F736F F D F4390B38CE3816A90528DB88C8B89CA2E646F63>

情報提供の例

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

Microsoft Word _ソリリス点滴静注300mg 同意説明文書 aHUS-ICF-1712.docx

h29c04

ADAMTS13 活性が著減する定型的 TTP として ADAMTS13 遺伝子異常に基づく先天性 TTP( 別名 Upshaw-Schulman 症候群, USS) と ADAMTS13 対する IgG IgA あるいは IgM 型の中和ないし非中和自己抗体による後天性 TTP が知られている こ

HUS guideline 溶血性尿毒症症候群の診断 治療ガイドライン 総括責任者五十嵐 隆 国立成育医療研究センター総長 編集溶血性尿毒症症候群の診断 治療ガイドライン作成班 東京医学社

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

Ⅰ 滋賀県感染症発生動向調査事業の概要

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

なくて 脳以外の場所で起きている感染が 例えばサイトカインやケモカイン 酸化ストレスなどによって間接的に脳の障害を起こすもの これにはインフルエンザ脳症やH HV-6による脳症などが含まれます 三つ目には 例えば感染の後 自己免疫によって起きてくる 感染後の自己免疫性の脳症 脳炎がありますが これは

Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

( 症状および検査所見 ) 3~7 日の潜伏期間の後に 発熱 発疹 頭痛 骨関節痛 嘔気 嘔吐などの症状がおこる 日本国内で診断されたデング熱患者の症状や検査所見の出現頻度を表 1 に示す 3) 発熱は発病者のほぼ全例にみられ 時に二峰性となる 通常 発病後 2~7 日で解熱し そのまま治癒する 約

301128_課_薬生薬審発1128第1号_ニボルマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドラインの一部改正について

2 経験から科学する老年医療 上記 12 カ月間に検出された病原細菌総計 56 株中 Escherichia coli は 24 株 うち ESBL 産生菌 14 株 それ以外のレボフロキサシン (LVFX) 耐性菌 2 株であった E. coli 以外の合計は 32 株で 内訳は Enteroco

pdf0_1ページ目

PT51_p69_77.indd

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

pdf0_1ページ目

ロミプレート 患者用冊子 特発性血小板減少性紫斑病の治療を受ける患者さんへ

検査項目情報 6475 ヒト TARC 一次サンプル採取マニュアル 5. 免疫学的検査 >> 5J. サイトカイン >> 5J228. ヒトTARC Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital Ver.6 thymus a

Transcription:

2016 年 5 月 11 日放送 腸管出血性大腸菌感染症と溶血性尿毒症症候群 近畿大学堺病院小児科教授森口直彦はじめに腸管出血性大腸菌 (enterohemorrhagic E.coli, EHEC) は 1982 年に米国でハンバーガーによる集団食中毒の原因菌として初めて報告されました それ以降 欧米では牛肉 ソーゼージなどを原因とした集団発生が多数報告されています わが国でも 1996 年に堺市で O157:H7 による患者数 9500 人という最大規模の集団感染が発生し 社会的にも大きな問題となりましたが 以後も小規模な集団発生がみられています EHEC 感染症は溶血性尿毒症症候群 (hemolytic uremic syndrome, HUS) を合併すれば死に至ることもある重篤な感染症であり 現在 感染症法の 3 類感染症に分類され 診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出ることになっています 今回 この感染症の病態と臨床経過 診断 治療について解説します 腸管出血性大腸菌の定義大腸菌はグラム陰性桿菌で鞭毛を持ち 腸管内では常在細菌叢を構成して宿主の消化 吸収 ビタミン合成 病原性微生物の侵入防御に働いています 大腸菌の多くは病原性を持たないですが 一部の大腸菌は特有の病原因子を保有しており これらの大腸菌が経口的に摂取されると下痢を主徴とする消化管感染症を引き起こすことがあります このような大腸菌は下痢原性大腸菌と呼ばれています これらの大腸菌は 現在 病

原性機構の違いから 腸管出血性大腸菌 (EHEC) 腸管病原性大腸菌 腸管毒素原性大腸菌 腸管侵入性大腸菌 腸管凝集接着性大腸菌の 5 種類に分類されています 1) ( 表 1) このうち EHEC は志賀毒素 (Shiga toxin:stx) を産生し 出血性大腸炎を起こす大腸菌と定義されます 腸管出血性大腸菌感染症の疫学わが国では毎年 3000~4000 人の感染者の報告があり 発生パターンでは夏季に流行のピークを繰り返しています 2011 年には富山県を中心に牛の生肉 ユッケ を原因とした O111 および O157 による集団食中毒が発生して 181 名が感染 5 名が死亡し さらに 2012 年では北海道を中心に浅漬けによる O157 の集団発生が報告され 169 名が感染し 8 名が亡くなりました 世界的には 2011 年にヨーロッパで O104:H4 抗原型による EHEC 感染症と合併症の HUS 患者が多発し 国際的な問題になりました 2) EHEC の O 抗原型では 日本では従来 O157 が全体の 70% 前後を占めていましたが 2011 年頃から減少し 2012 年には 50% 台になりました 代わりに O26 O103 O111 などの非 O157 EHEC の割合が増加しています 3) ( 図 1) 感染形式は経口感染で 家畜 特に牛は EHEC の保菌率が高く 食肉の加工過程における EHEC 汚染や 保菌動物の糞便に汚染された野菜や水が感染源となります 生肉や加熱の不十分な牛肉は最も注意が必要であり 摂取すべきではありません EHEC は 100 個以下の少量の菌の摂取でも感染が成立するため 患児の糞便処理によるヒトからヒトへの水平感染も重要です 腸管出血性大腸菌感染症の病態 EHEC は経口摂取された後に大腸上皮に定着し 志賀毒素 (Stx) を産生することによって病態が出現します ( 図 2) a) 腸管上皮への接着 EHEC は消化管 ( 主に大腸 ) 粘膜に到達すると 線毛などによる初期定着の後に Translocated intimin

receptor(tir) の細胞内注入 intimin の関与による強固な付着と 腸上皮の微絨毛の退縮と細胞変性 (attaching and effacing ) 病変を形成します これは 腸管病原性大腸菌でも認められる機序で その結果 腸炎の初期に水様性下痢を引き起こすと考えられています 4),5) これまで報告されていた EHEC はいずれもこのような付着機能を有していました しかし 2011 年にドイツを中心として欧州で発生した EHEC O104:H4 には intimin 遺伝子はなく 前述の腸管凝集接着性大腸菌の付着遺伝子を保有しており 腸管凝集接着性大腸菌がファージを介して志賀毒素を獲得した新たなタイプの EHEC と考えられました 6) b) 志賀毒素 (Stx) Stx には Stx1 または Stx2 の 2 種類があり EHEC の多くは両毒素産生株ですが いずれか一方の産生株もあります Stx 単独産生株の場合は Stx2 の方が Stx1 よりも HUS の合併率が高いと言われています Stx は Gb3(globotriaosyl ceramide 3) 受容体に結合して細胞内に取り込まれますが Gb3 受容体は 大腸上皮細胞 腎血管内皮細胞 尿細管細胞 脳血管内皮細胞などに多く分布しています EHEC の産生した Stx は腸管内皮細胞を傷害して出血性腸炎を起こし 腸管壁の浮腫 出血 粘膜の脱落がみられ その結果 Stx や大腸菌のリポポリサッカライドが消化管粘膜から血液中に取り込まれます Stx は好中球 赤血球などと結合して腎 脳などの Gb3 に富んだ臓器に運ばれ 組織障害を引き起こし 同様に活性化された血小板とともに微小血栓を生じて細血管障害性溶血性貧血と血小板減少が出現します さらに 糸球体毛細血管の微小血栓 糸球体内皮細胞障害 尿細管上皮細胞障害から腎障害をきたすと考えられています 1),4) 臨床症状 ( 図 3) EHEC が経口で消化管内に入ったのち 3 ~7 日の潜伏期を経て頻回の水様性下痢 腹痛で発症します 引き続いて血便を伴うようになり 時には便成分が少なく 血液そのもののような鮮血便になります 一部の患者では病初期に発熱を伴います これらの腸炎の症状は 通常 1~2 週間で軽快しますが EHEC 感染者の 2~20% で下痢発症 4~10 日後に HUS や脳症を合併することになります 1),7) 腸管出血性大腸菌感染症の診断 糞便からの EHEC の分離にはソルビトールを含む寒天培地などを用います 培養された大 腸菌について抗血清で O 抗原を特定し 分離された大腸菌の志賀毒素の産生性をラテック

ス凝集反応やイムノクロマト法 酵素免疫法などで確認するか PCR 法による志賀毒素産生遺伝子の検出を行い EHEC 感染症の確定診断を行います また HUS を発症した患者の場合に限っては 便から志賀毒素を検出した場合か 血清からО 抗原凝集抗体または抗志賀毒素抗体を検出した場合に EHEC 感染症と診断して良いとされています 8) ( 表 2) 腸管出血性大腸菌感染症の治療 ( 表 3) 治療の基本は 脱水に対する対処と HUS のモニタリングです 輸液療法については HUS の続発する可能性を考慮し 過剰輸液 溢水にならないように注意します 止痢剤などの腸管蠕動運動を抑制する薬剤は HUS の合併の頻度を増加させるため禁忌です EHEC 感染症への抗菌薬投与については議論が多く 欧米では HUS の発症を予防できないなど否定的な意見が多いです 7) 一方 わが国では 早期の除菌による HUS への進展の阻止を期待して EHEC 感染発症 2 日以内の早期の抗菌薬投与が行われており 9) 小児では一般にホスホマイシンの経口投与が用いられ 使用期間は 3~5 日とされています βラクタム薬や ST 合剤の投与については HUS を増悪させるという報告があり 使用されません HUS 合併初期に HUS を疑わせる症状として 乏尿 浮腫 出血斑 頭痛 傾眠などがあり また 検査データでは 尿検査で尿蛋白 尿潜血陽性 血液検査で血小板減少 LDH 上昇などに引き続き 破砕赤血球の出現に伴う Hb の低下 BUN 血清クレアチニンの上昇が起こることが多いと言われています EHEC 感染症患者ではこれらの臨床徴候や検査マーカーに注意して経過を観察します 溶血性尿毒症症候群 (HUS) EHEC 感染症の 2~20% で HUS を合併します HUS は 乳幼児と高齢者で合併頻度が高いと

言われています Hb 10g/dl 未満の溶血性貧血 15 万 /μl 未満の血小板減少 急性腎不全を 3 主徴とし 腎外症状として膵機能障害 肝機能障害 中枢神経症状を認めることがあります 8) ( 表 4) HUS 合併症の予防法は確立しておらず 抗菌薬の発症早期の投与についても 前述したように海外では否定的な報告が多いです 治療の主体は体液量を適切に管理して腎血流量を保つことです HUS 発症前の EHEC 感染症早期から等張性輸液を行うことについては HUS の腎障害の予防につながる可能性のあることが複数の報告で指摘されています 8) 一方で 乏尿期に過剰な輸液を行うと高血圧 肺水腫の危険があるため 輸液中は血圧 尿量 血清電解質測定など慎重なモニターが必要です 輸液 利尿剤で管理できない溢水 高血圧 電解質異常に対しては速やかに透析を導入することが望ましいです 予後 EHEC 感染症で 消化管症状のみの患者の多くは予後良好ですが HUS を合併した場合の死亡率は 2~6% で 生存例についても 20~40% で慢性腎後遺症を残すと言われています 死亡例は脳症などの中枢神経障害をきたした場合に多く また HUS の時期に無尿が 1 週以上の長期に至る場合には腎後遺症の頻度が増加すると言われています おわりに EHEC 感染症は重篤な合併症や死に至る可能性のある疾患ですが 現在でも特異的治療法はなく 支持療法が主体です その点ではEHEC 感染を予防することが重要であり 家畜の肉などはEHECに汚染されている可能性が高く 不十分な加熱では感染のリスクがあることを繰り返し注意喚起すべきと思われます 今後 EHEC 感染症と続発するHUSの病態の研究が進み 有効な治療法が確立されることを期待します

文献 1) Kaplan SL, Keusch GT: Diarrhea and Dysenty-Causing Escherichia coli. In : Textbook of Pediatric Infectious Disease (ed by Feigin RD, et al ), 5 th ed, Saunders, Philederphia, 1431-1449, 2004 2) Frank C, Werber D, Cramer JP: Epidemic Profile of Shiga-Toxin Producing Escherichia coli O104:H4 Outbreak in Germany. N Engl J Med 365:1771-1780, 2011 3) 国立感染症研究所感染症情報センター : 腸管出血性大腸菌感染症 2013 年 4 月現在. 病原微 生物検出情報 34:123-124, 2013 4) 山本達男 : 小児腸管出血性大腸菌感染症とその発症メカニズム 新潟医学界雑誌 120: 485-493, 2006 5) Wong AR, Pearson JS, Bright MD, et al : Enteropathogenic and enterohaemorrhagic Escherichia coli: even more subversive elements. Mol Microbiol 80:1420-1438, 2011 6) Rasko DA, Webster DR, Jason WS, et al : Origins of the E.coli strain causing an outbreak of hemolytic uremic syndrome in Germany. N Engl J Med 365:709-717, 2011 7) Tarr PI, Gordon CA, Chandler WL : Shiga-toxin-producing Escherichia coli and haemolytic uremic syndrome. Lancet 365:1073-1086, 2005 8) 溶血性尿毒症症候群の診断 治療ガイドライン作成班 : 溶血性尿毒症症候群の診断 治療ガ イドライン. http:// www.jspn.jp/file/pdf/20140618_guideline.pdf 9) Ikeda K, Ida O, Kimoto K,et al : Effect of fosfomycin treatment on prevention of hemolytic uremic Escherichia coli O157:H7 infection. Clin Nephrol 52:357-62, 1999