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図 1 関連構造 腸骨下腹神経 上殿皮神経 腸骨枝 脊髄枝 上殿神経 中殿皮神経 上前腸骨棘 深腸骨回旋動脈 上殿動脈 大転子 坐骨結節 図 2 右殿部剖出例 ( 模式図 ) 上殿動脈 坐骨結節 上前腸骨棘 大転子 3 穿刺により損傷を受ける可能性のある脈管と末梢神経 ( 図 1 2) 末梢の脈管は 動脈と静脈が伴行しており 時には1 本の動脈の両側を並走する静脈や動脈の周りで静脈叢を作ることもある 腸骨翼を穿刺した場合には上殿動脈とその伴行静脈が 腸骨稜を貫通穿刺した場合には腸腰動脈の腸骨枝や深腸骨回旋動脈が 仙骨後面を穿刺した場合には脊髄枝からの貫通枝が 損傷を受けると考えられる 特に 上殿動脈は筋と筋との隙間で枝分かれし 広く殿筋内に末梢枝を送るため 大坐骨切痕を回るところでは動脈径も太く危険である 23

末梢神経で穿刺により損傷を受ける可能性のあるものは 上殿動静脈に伴行する上殿神経 大坐骨切痕付近を穿刺貫通した場合には坐骨神経 殿部皮膚感覚を司る下殿皮神経と上殿皮神経 大腿外側部の皮膚感覚を司る腸骨下腹神経と外側大腿皮神経 である 24

図 3 腸骨の厚さ 図 4 腸骨髄腔厚と皮質厚 上前腸骨棘 4 腸骨の厚さと骨髄腔の厚さ ( 図 3 4) 腸骨を含む寛骨は短骨と扁平骨とからなる混合骨で 腸骨翼は扁平骨に分類される しかし腸骨翼は典型的な扁平骨である頭頂骨のように厚さが一様ではなく辺縁が厚く中央が薄い 若年や成年では骨髄腔は腸骨翼のすべての部位で認められるが 老年では腸骨翼中央部は薄くなり骨髄腔も認められなくなる 辺縁部の腸骨稜も厚さは一様でなく髄腔厚が充分にある部分は前 1/3と後ろ1/3の部分である 25

図 5 腸骨翼までの深さ ( 模式図 ) 深さ 3cm 殿部切除縁 深さ 6cm 大殿筋断端 深さ 1cm 坐骨棘 尾骨尖 5 腸骨翼までの軟部組織の厚さ ( 図 5) 皮膚から骨表面までの間には皮下結合組織 筋組織等が存在する 年齢差 性差 栄養状態による差 などがあるが 軟部組織の厚さが厚いほど針先での誤差が大きいと考えられる 体表から触知できる腸骨稜でも部位による軟部組織の厚さには差があり 脊柱起立筋起始部外側では最も厚くなる また 通常この部位は皮下脂肪が生体で最も厚い部位としても知られている 26

(2) 連続断面観察標本の提示 ( 断面観察 1-7) 腸骨稜から坐骨棘に至る連続 7 断面を提示する 添付の背面図には断面の高さを示してある 添付図の緑の指標点は 上から脊柱起立筋外側縁 坐骨結節を示している 断面観察 1 腸骨稜 中殿筋 総腸骨動脈 断面 1 はほぼ腸骨稜上縁の高さでの断面である 画面左では腸骨稜を通過しているが 画面右ではわずかな位置の差で腸骨翼の薄い部分が切れている 腸骨稜までの到達距離が長くかつ骨髄腔の幅が狭いために刺入角度によっては腸骨翼を貫通し腸骨窩から誤って吸引する可能性もある 断面観察 2 中殿筋 総腸骨動脈 27

断面観察 3 内腸骨動脈 外腸骨動脈 断面観察 4 大殿筋 貫通枝 中殿筋 上殿動脈 外腸骨動脈 上前腸骨棘 断面 2から断面 4にかけては 脊柱起立筋外側縁付着位置からまでの腸骨稜が切れている ここでは大殿筋も腸骨を覆うようには存在せず 皮下の浅層に骨髄腔が現れ 多少針先がずれても正しく刺入できることがわかる また 前方では から上前腸骨棘にかけても皮膚直下に厚い骨髄腔を持つことがわかる 断面 3や断面 4からは刺入方向を骨髄腔の方向に向けてやや外側にさした方が骨髄腔からずれることなく採取できるものと思われる 28

断面観察 5 上殿動脈 下後腸骨棘 外腸骨動脈 上殿動脈 断面 5は下後腸骨棘の位置での横断面である と仙骨がほぼ同等の大きさで切れている 従って 内側の仙骨を下後腸骨棘と見誤った場合に仙骨孔への穿刺や貫通して上殿動脈を穿刺する可能性がある また 断面 6とともに見比べたときに 大坐骨切痕付近で大きな上殿動脈が腸骨をはさんで内外に見受けられる 骨髄腔の厚さは充分だが刺入位置が外側にずれた場合には誤って動脈穿刺をする可能性がある 29

断面観察 6 上殿動脈 下殿動脈と坐骨神経 大殿筋 中殿筋 小殿筋 断面観察 7 坐骨神経 直腸 外腸骨動脈 断面 6と断面 7のようにさらに下に穿刺した場合 動脈損傷以外に坐骨神経損傷も引き起こす可能性がある 30

(3) 解剖学的見地からの腸骨骨髄血採取に伴う危険性と回避条件 以上より 腸骨から骨髄血を採取する場合に 次のような項目が解剖学的に危険性があると考えられ それに対応する回避条件を示す 腸骨翼の中央部のように年齢や個人差によって骨髄腔が薄い場合や消失している場合がある この場合 骨皮質を貫通した先が骨髄腔ではなく腸骨窩での筋組織内に針先が存在し 髄腔外からの末梢血が採取される可能性がある また 皮膚穿通点は一点でも深部にいたるほど面として針先がずれる可能性があり 皮下の軟部組織通過距離は短いほうが望ましい さらに 筋組織は一本の筋線維が収縮単位として存在するため 筋組織を反復穿刺することは筋損傷による萎縮を引き起こす可能性がある そして 筋腹には筋運動を司る神経が存在するため 反復穿刺は筋の支配神経損傷を引き起こす可能性が高く 穿刺損傷した場合には筋運動麻痺を引き起こすことになる 皮神経損傷による知覚異常は 皮下組織を通過する皮神経を直接穿刺損傷する以外に 出血や腫脹による圧迫麻痺や長時間同一姿勢をとったことによる接地面での圧迫阻血による知覚異常が引き起こされる可能性がある 従って 回避条件は 1 神経枝の少ない部位 2 血管枝の少ない部位 3 皮膚からの到達距離が短い部位 4 皮下に筋組織が厚くない部位 5 充分に髄腔が厚い部位 等が考えられる 31

図 6 採取部位試案 上殿動脈上殿神経 部位 1 A C G E H 上殿皮神経 B 部位 2 腸骨下腹神経 D F 中殿皮神経 (4) 解剖学的見地からの腸骨骨髄血採取部位試案の提示 ( 図 6) 指標点は6か所である ( 点 A~ 点 F) 解剖学的な晒浄骨における学名は骨の最突出点だが 臨床上の点は皮膚を通しての触知点のため厳密な点ではない 点 Aは 点 Bは上前腸骨棘 点 Cは腸骨稜での脊柱起立筋起始最外側縁 点 Dは坐骨結節触知点 点 Eは 点 Fは大転子触知点 とする 線 ABと線 CDとの交点を点 G 線 ABと線 EFとの交点を点 Hとしたとき 面 AGCでの腸骨稜すなわちとその上部稜線が最も上記の回避条件を満たす部位である 次いで 面 EHBでの腸骨稜すなわちから上前腸骨棘にかけての稜線がこの上部皮下結合組織中を通過分布する腸骨下腹神経の障害が懸念される程度でほぼ回避条件を満たしている 以上 2 部位 ( 部位 1: 面 AGC 部位 2: 面 EHB) を解剖学的見地からの腸骨骨髄血採取好適部位の試案として提示する 但し 骨髄バンクドナーの採取部位は 両側後腸骨としている (P7 参照 ) 32

腸腰筋部位に血腫を認めた事例についてなお 骨髄採取後 腸腰筋部位に血腫を認めた事例が過去に数例発生しており 直近の事例 (2009 年 11 月 ) が発生した際にドナー安全委員会から発出した安全情報について ここに紹介する < 経過 > 入院時 Day +0 Day +1 Day +2 Day +3 Day +5 Hb 13.2 g/dl 骨髄採取採取部位 : 両側後腸骨陵骨髄採取量 :1010 ml 採取 2 時間後 左鼠径部辺りの腹痛を訴え 鎮痛剤を処方するが 痛みが治まらず CTを施行 骨盤内出血を確認し 血管造影を施行 出血の責任血管と思われる動脈にスポンゼルでの塞栓術を施行し 鎮痛剤と安静にて経過観察とした Hb 11.1 g/dl CT 施行し 血腫の縮小傾向を認めた 新たな出血所見は見られなかった Hb 9.9 g/dl Hb 9.5 g/dl CT 施行し 血腫は前日より更に縮小が見られた 食事の制限はなし Hb 9.4 g/dl 左足の動きに若干の制限あり Hb 10.7 g/dl 室内歩行可能 < 調査の結論 > 本事例に関して 骨髄採取手技そのものに問題があったとは考えにくいが 更なる安全確保のため下記 < 対策 ( 再発防止策 )>の注意をお願いする 但し 出血をきたした原因となった採取部位は特定されていない 骨形成に関して 骨盤骨は正常範囲の厚さの範囲であり CT をあらかじめ撮影していたとしても穿刺の深さを調節することは現実的には困難であったと考えられる ドナーの体格から見て 必要以上に長い採取針が使われていたと考える < 対策 ( 再発防止策 )> 採取部位は 後腸骨稜から採取すること ( 図 7 参照 ) 健常人であっても 骨盤の形状に個人差があることを認識する 骨髄採取針は 骨髄提供者の BMI 等を考慮し 可能な限り短い長さの骨髄採取針 (2 インチ程度の長さのものを推奨 ) を選択すること 33

なお 骨髄穿刺後ドナーが下腹部に強い痛みを訴えた場合には CT 等必要な検査を行い 出血を認めた場合は適切な処置を講ずること < 図 7> 採取部位 上殿動脈上殿神経 部位 A C G E H 上殿皮神経 B 腸骨下腹神経 D F 中殿皮神経 34