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Transcription:

回転性めまいを主訴とする 小脳梗塞の一例 名瀬徳洲会病院田島泰 松浦甲彰

症例 63 歳女性 主訴 回転性めまい 吐気 嘔吐

現病歴 特に既往歴のない 63 歳女性が平成 20 年 6 月 27 日午後 15 時頃トイレに行こうと立ち上がった時にぐるぐる回るようなめまいが出現した 嘔吐数回しており 吐気もあった それ以外の症状 特に頭痛 脱力感 感覚異常 蝸牛症状 感冒症状の先行等はなかった

生活歴 既往歴 ADL 喫煙 酒 : 自立 :never アレルギー : なし 嗜好 既往歴 : 甘いものが大好き : 特記すべきものなし

現症 1 Vital : 身長 150cm体重 63kg BP120/70 HR99 BT36.6 SpO2 98%(R/A) 意識 :JCS-0 全身状態 : 吐気のため目を閉じてガマンしているが受け答えははっきりできる様子 体動時にめまい増悪するため ベッドで臥床している

現症 2 頭頸心肺腹部に明らかな異常所見なし 神経所見脳神経所見は明らかな異常なし 筋力 感覚異常認めず 腱反射異常なし 瞳孔 :4/4mm 対光反射異常なし 複視なし EOM;full 眼振ははっきりしない小脳機能 Finger to Nose: 異常なし Diadochokinesia: 右やや ataxia?

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検査所見 2 血液ガス PH7.421 PCO2:43.8 PO2:74.6 HCO3:28 BE3.5 尿検査 ph6.5 比重 1.010 糖 (4+) 蛋白 (-) ケトン (1+) 潜血 (-) 沈査 :WBC5~9 RBC<1 細菌 (-) 硝子円柱 顆粒円柱 (-) 心電図 :NSR

検査所見 3 腹部エコー (6/30) 所見なし 心エコー (7/1) MS- MR- AS- AR- Vegitation- 血栓 - 頚動脈エコー (6/30) Rt CCA bulbus hard plaque+(1.2 1.6mm) ICA ECA VA に plaque-

画像 発症 3 時間後の頭部 CT MRI

病歴 検査所見のまとめ ( 入院時 ) 特に既往歴のない 63 歳の女性 体動時に突然発症の回転性めまい 吐気 嘔吐をともなう 体動時に増悪する 三時間以上続いている その他蝸牛症状 明らかな神経症状等の随伴症状を伴わない MRI 上 明らかな急性脳梗塞 ( 出血 ) の所見なし 高血糖 炎症反応やや高値

Assessment 1 末梢性めまい ( 体動時増悪する回転性めまい BPPV? 前庭神経炎? 画像上中枢性めまいは否定的?) 2TIA の疑い ( 血管系のリスクあり ) 3 陳旧性無症候性脳梗塞の疑い (MRI 上で側脳室周囲に直径 1~2mm 程の梗塞巣を数個認めた ) 4 高血糖症 (BS475 HbA1c12.6 の糖尿病 ) 5 白血球上昇 ( 前庭神経炎によるもの? 嘔吐による一過性のもの?)

Plan 1 炭酸水素 Na 抗ヒスタミン薬 ドパミン受容体拮抗薬投与 23 バイアスピリン (100)1T 内服 4 生食 1L 負荷 速効型インスリン 10 単位皮下注 BS4 検 ( スライディングあり ) 5 経過観察

入院経過 第一病日 点滴でめまいが少し軽くなりました でもまだ動くとめまいがひどいわ BP130/80 HR88 BT38 食事食べられず BS200 WBC10510 血清 OSMO295 血糖コントロール良好 炎症反応変わらないが発熱あり めまいが続いている

第二 三病日 少し頭が痛くなってきたわ 起き上がるとふらふらするし 食欲もないわ BP145/85 HR75 BT37.4 頭痛が出現 BS は 150~200 前半で落ち着いている

第四病日 頭痛が強くなってきたわ 薬ちょうだい ( 少しボーっとしている ) BP166/98 HR85 BT36.5 症状が 4 日間も続いている! 頭痛増悪傾向 採血 頭部 CT 施行

画像 入院時 第四病日

臨床診断 小脳梗塞 画像上 小脳虫部から右小脳半球にかけて梗塞巣あり 梗塞範囲より塞栓性の機序によるものが疑われる 心電図上 NSR 心エコー上は弁膜症 - 血栓 - 頚動脈エコーで Rt CCA に hard plaque+ より Artery to Artery の emboli によるものか? グリセオール開始

第五病日 ( 傾眠傾向 呼びかけに少しうなずくだけ 痛み刺激を加えると両腕をそこに持ってくる ) BP178/90 HR85 BT37.8 意識レベル低下!! 頭部 CT 再び施行

画像 入院時 第五病日

臨床診断 急性水頭症 広範囲の小脳梗塞による脳浮腫によって第四脳室が圧排され 急性水頭症が発症したものと思われる 脳外科医のいる県立病院へ搬送!

考察 ( 反省 ) 体動時に増悪するめまい 回転性めまいという事で末梢性めまいを疑った 発症 3 時間後の MRI で Negative だったため 中枢性めまいを否定的に考えてしまった 上記 2 点のため 末梢性めまいと思い フォローの CT 撮影が遅れてしまった

めまいの鑑別 末梢性めまい BPPV, 前庭神経炎, Ramsay Hunt syndrome, Meniere 病, Labyrinthine conccusion, 外リンパ婁, Semicircular canal dehiscence syndrome, Cogan s syndrome, Recurrent vestibulopathy, Acoustic neuroma, Aminoglycoside toxicitym, Otitis media 中枢性めまい Migrainous vertigo, Brainstem ischemia, 小脳梗塞 ( 出血 ), Chiari malformation, Multiple sclerosis, Episode ataxia type2

めまいの鑑別 ( 表 ) Time course Clinical setting Nystag mus Neurolo gic sympton Auditor y sympton Diagnostic features BPPV seconds 頭位変換時めまい 前庭神経炎 Days to weeks Meniere 病 Hours to days Migrainous vertigo TIA Minutes to hours Minutes to hours 脳幹梗塞 Days to weeks 小脳梗塞 Days to weeks Viral syndrome Spontaneo us onset 末梢性 none none Dix-hallpike maneuver 末梢性 患側へ転倒 Usually none 末梢性 none 片側聴力障害 片頭痛 中枢性 Usually none Vascular risk 中枢性 As above 中枢性 As above 中枢性 Usually none Head thrust test Audiometry All test normal Brainstem synptons none MRI Brainstem synptons none MRI Dysphagia may occur none CT MRI

末梢性眼振水平 回旋混合性の要素を持った 定方向性の眼振 注視方向で眼振の方向は変化せず 注視する事によって軽快する 中枢性眼振純回旋性眼振 純垂直性眼振 注視方向性眼振など 注視方向によって眼振の方向が変化する事がある 注視によって軽快しない

ちなみに 1 めまいの症例のうち 80% は末梢性めまいによるものである 中でも BPPV Meniere 病 前庭神経炎がほとんどである めまいによる吐気 嘔吐は末梢性でも中枢性でも起こりうるが BPPV で嘔吐を伴う事はめったにない

ちなみに 2 BPPV に限らず すべてのめまいは体動時に増悪する 臨床的に小脳梗塞 ( 出血 ) と前庭神経炎は区別が出来ないことがある 四肢の失調が小脳梗塞の診断に有用な事があるが 認めないことが多い UpToDate Pathophysiology,etiology,and differential diagnosis of vertigo

病歴 検査所見のまとめ ( 入院時 ) 特に既往歴のない 63 歳の女性 体動時に突然発症の回転性めまい 吐気 嘔吐をともなう 体動時に増悪する 1 日以上続いている その他蝸牛症状 明らかな神経症状等の随伴症状を伴わない MRI 上 明らかな急性脳梗塞 ( 出血 ) の所見なし 炎症反応やや高値

めまいの鑑別 ( 表 ) Time course Clinical setting Nystag mus Neurolo gic sympton Auditor y sympton Diagnostic features BPPV seconds 頭位変換時めまい 前庭神経炎 Days to weeks Meniere 病 Hours to days Migrainous vertigo TIA Minutes to hours Minutes to hours 脳幹梗塞 Days to weeks 小脳梗塞 Days to weeks Viral syndrome Spontaneo us onset 末梢性 none none Dix-hallpike maneuver 末梢性 患側へ転倒 Usually none 末梢性 none 片側聴力障害 片頭痛 中枢性 Usually none Vascular risk 中枢性 As above 中枢性 As above 中枢性 Usually none Head thrust test Audiometry All test normal Brainstem synptons none MRI Brainstem synptons none MRI Dysphagia may occur none CT MRI

以上より 小脳梗塞 前庭神経炎 が入院時の鑑別診断として最も考えられた!

前庭神経炎 ウィルス感染症後 もしくはウィルス感染と共に発症し 突然のしつこいめまい 吐気 嘔吐を伴い 数日から数週間に及ぶ 歩行は不安定となるが 可能である 末梢性眼振 眼振と反対の方向に転倒する Head thrust test が有用である 診断には臨床所見が大きく寄与する

小脳梗塞 ( 出血 ) 突然に発症するめまい 吐気 嘔吐 頭痛 共同運動障害 構音障害 四肢の失調を伴う事があるが 臨床的に前庭神経炎と鑑別は困難なことが多い 歩行は不能である 中枢性眼振 眼振と同じ方向に転倒する 60 歳以上糖尿病や高血圧のある患者に多い 前庭神経炎との鑑別のために MRI CT が必要になる

まとめ 回転性めまいの鑑別で中枢性と末梢性の鑑別は臨床所見上 最後までつかないことがある 一日以上続く回転性めまいの場合は例え当日の画像 (MRI CT) に梗塞巣を認めなかったとしても 必ず翌日に頭部 CT 検査のフォローを入れる必要がある

御静聴ありがとうございました 参考文献 Pathophysiology,etiology,and differential diagnosis of vertigo(uptodate) Evaluation of vertigo(uptodate) Overview of the evaluation of stroke(uptodate) ベッドサイドの神経の診かた