フラットパネルディスプレイ概論(2)液晶ディスプレイ:LCD

Similar documents
02.indd

Microsoft PowerPoint - 山口高校資料 ppt

Microsoft PowerPoint - tft.ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint - 集積デバイス工学5.ppt

Microsoft PowerPoint - semi_ppt07.ppt

Microsoft PowerPoint - 集積デバイス工学7.ppt

Microsoft PowerPoint - semi_ppt07.ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint - lcd.pptx

メモリ液晶ディスプレイの構成と特徴 業天誠二郎 モバイル液晶事業本部モバイル液晶第 1 事業部 近年, 携帯電話に代表されるモバイル機器の進化は目覚しく, 搭載されるディスプレイに対する高性能化, 高機能化の要求はますます高くなっています そのような中で, 当社オンリーワン技術である CG-Sili

..... 兆円 約 5.1 兆円 年 2010 年 約 12 兆円 小型 中型 大型 車載パネル用 ビデオ

電子回路I_4.ppt

α α α α α α

AlGaN/GaN HFETにおける 仮想ゲート型電流コラプスのSPICE回路モデル

レイアウト設計ワンポイント講座CMOSレイアウト設計_5

SP8WS

<4D F736F F D2097CA8E718CF889CA F E F E2E646F63>

PowerPoint Presentation

【NanotechJapan Bulletin】10-9 INNOVATIONの最先端<第4回>

IGZO 技術 松尾 拓哉 ディスプレイデバイス開発本部 スマートフォンに代表されるモバイル機器は目覚ましい進化を遂げています 通信速度の飛躍的な高速化に伴って送受信される情報量も増え, それらをより正確に表現できる超高精細ディスプレイの需要が急激に拡大しています 当社の商標 ( 商標登録第 545

Microsoft PowerPoint - 6.memory.ppt

基本的なノイズ発生メカニズムとその対策 電源 GND バウンス CMOS デジタル回路におけるスイッチング動作に伴い 駆動 MOS トランジスタのソース / ドレインに過渡的な充放電電流 及び貫通電流が生じます これが電源 GND に流れ込む際 配線の抵抗成分 及びインダクタンス成分によって電源電圧

Microsoft PowerPoint - アナログ電子回路3回目.pptx

<4D F736F F F696E74202D F938C8D4891E590E6925B8CA48B868D EF>

(Microsoft PowerPoint - \217W\220\317\211\361\230H\215H\212w_ ppt)

Microsoft PowerPoint - H30パワエレ-3回.pptx

偏光板 波長板 円偏光板総合カタログ 偏光板 シリーズ 波長板 シリーズ 自社製高機能フィルムをガラスで挟み接着した光学フィルター

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - 集積デバイス工学2.ppt

Datenblatt

Microsoft PowerPoint - 集積回路工学(5)_ pptm

Microsoft PowerPoint pptx

テクニカル ホワイト ペーパー HP Sure View

CMOS リニアイメージセンサ用駆動回路 C CMOS リニアイメージセンサ S 等用 C は当社製 CMOSリニアイメージセンサ S 等用に開発された駆動回路です USB 2.0インターフェースを用いて C と PCを接続

Microsoft PowerPoint - IR向け資料15年6月04_Ver1.51.pptx

Microsoft PowerPoint - 今栄一郎.ppt [互換モード]

新技術説明会 様式例

Microsoft PowerPoint - 2.devi2008.ppt

寄稿記事液晶テレビ用 LED バックライトの現状と将来動向 御子柴茂生 電気通信大学電子通信学部電子工学科教授 液晶テレビ用バックライトとして冷陰極蛍光管, 外部電極蛍光管, 有機 EL など種々の技術がある が,LED を用いたバックライトは他の技術では替え難い特徴を有する 動画表示時に発生するぼ

CCD リニアイメージセンサ用駆動回路 C CCD リニアイメージセンサ (S11155/S ) 用 C は 当社製 CCDリニアイメージセンサ S11155/S 用に開発された駆動回路です S11155/S11156-

Microsoft PowerPoint - 9.Analog.ppt

Microsoft Word -

Microsoft PowerPoint - 4.CMOSLogic.ppt

特長 01 裏面入射型 S12362/S12363 シリーズは 裏面入射型構造を採用したフォトダイオードアレイです 構造上デリケートなボンディングワイヤを使用せず フォトダイオードアレイの出力端子と基板電極をバンプボンディングによって直接接続しています これによって 基板の配線は基板内部に納められて

s ss s ss = ε = = s ss s (3) と表される s の要素における s s = κ = κ, =,, (4) jωε jω s は複素比誘電率に相当する物理量であり ここで PML 媒質定数を次のように定義する すなわち κξ をPML 媒質の等価比誘電率 ξ をPML 媒質の

「リフレッシュ理科教室」テキスト執筆要領

Microsoft Word - サイリスタ設計

等価回路図 絶対最大定格 (T a = 25ºC) 項目記号定格単位 入力電圧 1 V IN 15 V 入力電圧 2 V STB GND-0.3~V IN+0.3 V 出力電圧 V GND-0.3~V IN+0.3 V 出力電流 I 120 ma 許容損失 P D 200 mw 動作温度範囲 T o

Microsoft PowerPoint - ch3

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

Microsoft PowerPoint - H22パワエレ第3回.ppt

問題 バイポーラ電源がないと 正と負の電圧や電流を瞬断なくテスト機器に供給することが困難になります 極性反転リレーやスイッチ マトリクスを持つ 1 象限または 2 象限電源では V またはその近傍に不連続が生じ これが問題になる場合があります ソリューション 2 象限電圧のペアを逆直列に接続すれば

電子回路I_6.ppt

Micro Fans & Blowers Innovation in Motion マイクロファン & ブロワー 有限会社シーエス技研 PTB 事業部東京オフィス 千葉県市原市辰巳台西

王子計測機器株式会社 LCD における PET フィルムの虹ムラに関する実験結果 はじめに最近 PETフィルムはLCD 関連の部材として バックライトユニットの構成部材 保護シート タッチセンサーの基材等に数多く使用されています 特に 液晶セルの外側にPET フィルムが設けられる状態

3.5 トランジスタ基本増幅回路 ベース接地基本増幅回路 C 1 C n n 2 R E p v V 2 v R E p 1 v EE 0 VCC 結合コンデンサ ベース接地基本増幅回路 V EE =0, V CC =0として交流分の回路 (C 1, C 2 により短絡 ) トランジスタ

600 V系スーパージャンクション パワーMOSFET TO-247-4Lパッケージのシミュレーションによる解析

<4D F736F F F696E74202D AC89CA95F18D9089EF975C8D658F F43945A A CC8A4A94AD298F4390B394C5205B8CDD8AB B83685D>

ユーザーマニュアル 製品概要 プロジェクターレンズ 2 投影オン / オフボタン 3 フォーカスリング 4 ボリューム調節ボタン 5 メニューボタン 6 トップホルダー * 7 充電モードボタン 8 LED インジケータ 9 HDMI オスコ

PowerPoint 프레젠테이션

PowerPoint Presentation

記者発表資料

名称 型名 SiC ゲートドライバー SDM1810 仕様書 適用 本仕様書は SiC-MOSFET 一体取付形 2 回路ゲートドライバー SDM1810 について適用いたします 2. 概要本ドライバーは ROHM 社製 2ch 入り 180A/1200V クラス SiC-MOSFET

<4D F736F F D DC58F498D A C A838A815B83585F C8B8FBB8C758CF591CC2E646F6378>

elm73xxxxxxa_jp.indd

PEA_24回実装学会a.ppt

0 21 カラー反射率 slope aspect 図 2.9: 復元結果例 2.4 画像生成技術としての計算フォトグラフィ 3 次元情報を復元することにより, 画像生成 ( レンダリング ) に応用することが可能である. 近年, コンピュータにより, カメラで直接得られない画像を生成する技術分野が生

フロントエンド IC 付光センサ S CR S CR 各種光量の検出に適した小型 APD Si APD とプリアンプを一体化した小型光デバイスです 外乱光の影響を低減するための DC フィードバック回路を内蔵していま す また 優れたノイズ特性 周波数特性を実現しています

Microsoft PowerPoint - fid-100.pptx

Microsoft Word - 1.2全反射.doc

第 5 章復調回路 古橋武 5.1 組み立て 5.2 理論 ダイオードの特性と復調波形 バイアス回路と復調波形 復調回路 (II) 5.3 倍電圧検波回路 倍電圧検波回路 (I) バイアス回路付き倍電圧検波回路 本稿の Web ページ ht

単板マイクロチップコンデンサ / 薄膜回路基板

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

Microsoft Word - basic_15.doc

diode_revise

Jan/25/2019 errata_c17m11_10 S1C17 マニュアル正誤表 項目 リセット保持時間 対象マニュアル発行 No. 項目ページ S1C17M10 テクニカルマニュアル システムリセットコントローラ (SRC) 特性 19-3 S1C17M20/M

Microsoft Word - 01.doc

コネクタ 角形コネクタ 仕様一覧表 仕様 基本形式 SC XC KC CTM MPC 形式 SC-PS12C SC-PS24C SC-PS36C XC-P1 XC-P2M XC-P10T XC-P10M XC-T10 XC-S4 XC-S20 XC-S40 KC-12PS KC-20PS CTM-S

降圧コンバータIC のスナバ回路 : パワーマネジメント

2 磁性薄膜を用いたデバイスを動作させるには ( 磁気記録装置 (HDD) を例に ) コイルに電流を流すことで発生する磁界を用いて 薄膜の磁化方向を制御している

QOBU1011_40.pdf

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

暮らしのなかの物理:光を知って光を使う

Microsoft PowerPoint - パワエレH20第4回.ppt

Microsoft PowerPoint - summer_school_for_web_ver2.pptx

untitled

Microsoft PowerPoint - SDF2007_nakanishi_2.ppt[読み取り専用]

(3) E-I 特性の傾きが出力コンダクタンス である 添え字 は utput( 出力 ) を意味する (4) E-BE 特性の傾きが電圧帰還率 r である 添え字 r は rrs( 逆 ) を表す 定数の値は, トランジスタの種類によって異なるばかりでなく, 同一のトランジスタでも,I, E, 周

Microsoft PowerPoint EM2_15.ppt

NJM78L00S 3 端子正定電圧電源 概要 NJM78L00S は Io=100mA の 3 端子正定電圧電源です 既存の NJM78L00 と比較し 出力電圧精度の向上 動作温度範囲の拡大 セラミックコンデンサ対応および 3.3V の出力電圧もラインアップしました 外形図 特長 出力電流 10

Microsoft PowerPoint - 4.1I-V特性.pptx

円筒型 SPCP オゾナイザー技術資料 T ( 株 ) 増田研究所 1. 構造株式会社増田研究所は 独自に開発したセラミックの表面に発生させる沿面放電によるプラズマ生成技術を Surface Discharge Induced Plasma Chemical P

CMOS リニアイメージセンサ用駆動回路 C10808 シリーズ 蓄積時間の可変機能付き 高精度駆動回路 C10808 シリーズは 電流出力タイプ CMOS リニアイメージセンサ S10111~S10114 シリーズ S10121~S10124 シリーズ (-01) 用に設計された駆動回路です セン

( オルタステクノロジー ) 産業用 TFT-LCD モニター ( 超高精細 高画質アモルファスシリコン TFT)HAST HAST(Hyper Amorphous Silicon TFT) とは 超高精細 TFTアレイ加工技術 微細低抵抗配線技術 超狭ピッチCOG 接合技術 高画質光学設計技術を追


RMS(Root Mean Square value 実効値 ) 実効値は AC の電圧と電流両方の値を規定する 最も一般的で便利な値です AC 波形の実効値はその波形から得られる パワーのレベルを示すものであり AC 信号の最も重要な属性となります 実効値の計算は AC の電流波形と それによって

13 2 9

TC74HC14AP/AF

Microsoft PowerPoint pptx

Microsoft PowerPoint - machida0206

Microsoft PowerPoint - fid-554.pptx

Transcription:

フラットパネルディスプレイ概論 (2) 液晶ディスプレイ : LCD Introduction to Flat Panel Display (FPD)(2) Liquid Crystal Display : LCD Ukai Display Device Institute 代表工学博士鵜飼育弘 YASUHIRO UKAI Ph.D. Ukai Display Device Institute 1. はじめに FPDの中で揺るぎない地位を占めている液晶ディスプレイ (LCD) について 構成部材としての液晶 偏光板について説明する 次に液晶配列と表示モードについて述べ LCDの理解を深める LCDの中でも一番多く用いられている薄膜トランジスタ (TFT) 駆動のTFT-LCDの構造と動作原理を概説し 最後に応用分野についても触れる 図 2に示す棒状液晶 3PBC 3,4F 2 は44.2 で固体となり 118 で液体となる なお この液晶分子の長軸は 20Å 短軸は5Åである 各タイプの液晶はそれぞれ特有な規則的分子配列を形成し 分子長軸が互いに平行に配列している点が共通している 2. 液晶とは 通常の固体は 昇温により融点で液体に変化する しかし 特殊な分子構造を有する物質は 図 1に示すように 固体から液体に直接には転移しない 液晶 (liquid crystal) と呼ばれる中間状態を経てから 通常の液体に変化する このような ある温度範囲で液体と結晶の双方の性質を示す物質を総称して液晶と呼ぶ 図 1 物質の状態 液晶にはネマティック (nematic) スメクティック (smectic) コレステリック(cholesteric) 等が知られている ディスプレイには主にネマティック液晶が用いられている いずれも棒状分子か板状分子の集団からなる 例えば 図 2 液晶分子と特性 このような特徴的な分子配列のため 液晶が持つ屈折率 誘電率 磁化率 電導度 粘性率など物性値 ( 図 3) は 分子長軸に平行な方向と直角な方向 ( 短軸 ) では相違し 異方性を有す このような異方性の特徴に加えて 液晶の分子配列は電場 磁場 応力などの外部場の作用で容易に変化するという特徴がある これは 液晶の弾性率が非常に弱いことに基づいている 誘電率異方性と屈折率異方性を組み合わせた電気光学効果や磁化異方性と屈折率異方性を組み合わせた磁気光学効果などは工学的応用に役立っている ネマティック液晶に電界を印加すると 液晶分子配列の遷移とそれに伴う光学的性質の変化が生じる これは 液晶分子軸方向の誘電率 ε // とこれに直行方向の誘電率 ε が異なるからである この誘電率異方性 ε(=ε // -ε ) は 液晶の持つ各種の電気光学効果ならびに液 2 THE CHEMICAL TIMES 2010 No.4( 通巻 218 号 )

フラットパネルディスプレイ概論 (2) 市販されているフィルム状の偏光板は 図 6に示したように偏光子と呼ばれるポリビニールアルコール (PVA) によう素 (I) を染色し延伸した膜を保護層としてのトリアセチルセルロース (TAC) でサンドイッチしたものである なお 一般に片側支持フィルムの外側に粘着剤が塗布されたセパレーターフィルムが添付されている 液晶セルにはセパレーターを剥がして直接貼り付けができる 図 3 液晶分子の各種異方性 晶素子への多様な応用にとって重要な役割を担っている 図 4に示すように 誘電率異方性が正の液晶 ( ε> 0) をNp 液晶と呼び 負 ( ε<0) の液晶をNn 液晶と呼ぶ 図 6 偏光板の構造 図 4 液晶分子の誘電率異方性 3. 偏光と偏光板光は振動ベクトルが異なるいくつかの成分を含んでいる 偏光 (polarization) とは電場および磁場が特定の方向にのみ振動している光のことである 振動方向が規則的な光波の状態を偏光という 偏光板は図 5に示すように 光の進行方向に垂直で 特定の方向に強く振動する光だけを透過し 他の成分は吸収 ( 遮断 ) する機能を持っている 図 5 偏光板の機能 : 光のシャッター 4. 分子配列と表示モード 4.1 分子配列均一で安定な液晶の分子配列はLCDに必須である というのは いずれのタイプの LCDデバイスを取って見ても 液晶の特定な初期分子配列を電場の作用で別の分子配列状態に変化させ この分子配列変化に伴う液晶セルの光学特性の変化を視覚的に変換することにその基礎をおいている 液晶分子配列の種類は多様であるが 図 7に現在実用化されている LCDに用いられている代表的なものを紹介する 1ホモジニアス配向 : 全ての液晶分子が両方の基板面に対して平行に かつ同一方向に配列している Np 液晶を用いた場合 両側の基板間に電圧を印加することで 液晶分子は電界方向に平行に再配列する 2ホメオトロピック配向 : すべての液晶分子が液晶セルの両方の基板面に対して垂直に配列している Nn 液晶を用いた場合 両側の基板間に電圧を印加することで 液晶分子は電界方向に垂直に再配列する THE CHEMICAL TIMES 2010 No.4( 通巻 218 号 ) 3

図 7 誘電率異方性と液晶分子の再配列 4.2 表示モード LCDの表示モードを大別すると 図 8に示すように透過型 (Transmissive Mode) 反射型 (Reflective Mode) 半透過型 (Transflective Mode) がある 透過型はノート PC や液晶 TV 用として広く採用されているモードである このモードは 背面もしくはサイドからの面状もしくは線状のバックライト光を LCDパネルで時間的空間的に変調し情報を表示するものである 光源には冷陰極蛍光ランプ (Cold Cathode Fluorescent Lamp: CCFL) や白色 LEDが用いられている 透過型は後述の反射型に比べ コントラスト比や輝度 色再現範囲などの表示性能が優れている これらは LCDの光透過率の低さと目障りな表面反射を透過型では強力なバックライト ユニット (BLU) で凌いでおり 暗所および室内での表示の視認性は良好である ただし LCD 本来の低消費電力の特徴はBLUの使用で半減される 視差 (parallax) による 2 重像が生じない 従って高精細化が可能となる 反射型は周囲光を変調することで表示を行う したがって 周囲光が暗くなるとおのずと輝度は低くなり視認性が悪くなる これをカバーするのがフロント ライト ユニット (FLU) である 光源として白色 LEDが用いられている 最近のモバイル機器用ディスプレイには いつでも どこでも綺麗な表示品位が要求され全環境型のディスプレイの実現が高まっている この要求を実現するための表示モードが半透過型である セル構造を同図に示したが 1 画素は2 分割された透過部と反射部から構成されている 透過部と反射部のセル厚が異なるマルチギャップ構造を採用し 各部に対応するカラーフィルタは顔料および膜厚の最適化を図り 透過光および反射光で広色再現性を実現し 高品位の表示が得られる構造のものも市販されている 5.TFT-LCD の構造と動作原理 FPDの駆動方式については前回 (1) で触れたので ここでは広く実用化されている薄膜トランジスタ (TFT) 駆動のTFT-LCD について述べる 5.1 TFT-LCD TFT-LCDは 図 9に示すようにスキャンラインとデータラインのマトリックス交差部の画素ごとにスイッチングデバイスを組み込んだ構造 ( アクティブマトリックス ) で駆動する方式であり 必要に応じてキャパシタを付加している この方式を用いることにより 単純マトリクス方式に比べ コントラストや応答時間などの表示特性が大幅に向上している 図 8 LCD の表示モード 図 9 TFT-LCD の基本構成 反射型のセル構造を同図に示すが 反射電極としての拡散反射板を液晶層のすぐ背面に配置した構造 (In- Cell 構造 ) で 反射電極と画素電極が一体構造のため この方式は 用いるスイッチングデバイスにより薄膜トランジスタ TFT(Thin Film Transistor) などを用いる 3 端子デ 4 THE CHEMICAL TIMES 2010 No.4( 通巻 218 号 )

フラットパネルディスプレイ概論 (2) バイス型と MIM(Metal Insulator Metal) などの 2 端子デバイス型に大別される なお 現在商品化されているものは 3 端子デバイス型のみである 5.2 デバイス構造と駆動方法図 10(a) にTFT-LCDのデバイス構造を示す TFTアレイが形成された基板と 対向電極として透明電極が形成された基板の間に液晶が注入されている 図には表示していないが カラー LCDの場合は 対向基板上に赤 緑 青のカラーフィルタが画素電極に対応して設けられている なお 画素の等価回路を図 10(b) に示す 図 10 TFT-LCD の構成と駆動方式 5.3 TFTによるアクティブマトリックス駆動 TFT-LCDでは図 9に示したように m 本のスキャンライン (G 1,G 2,G 3,G m)( ゲート線あるいは Yラインともいう ) とn 本のデータライン (D 1,D 2,D 3 D n)( ソース線あるいは X ラインともいう ) からなる m nマトリックス配線の交点に スイッチング素子である TFTが設けられる TFTのゲート電極はスキャンラインに ソース電極はデータラインに接続され ドレイン電極は画素の透明電極に接続される スキャンライン群は外部で Xドライバ ICに データライン群はY ドライバ ICに接続される 液晶を直流駆動すると液晶内部のわずかな不純物が電荷となり一方に偏って蓄積し 液晶が劣化し 正常な表示ができなくなる これを防ぐために常に極性を反転させる交流駆動を行なわねばならない このため 1フレームで1 画面を構成し 1フレームは正フィールドと負フィールドで構成される すなわち データラインには常に図 11のように正および負フィールドにおいて対称なプラスとマイナスの信号を加え交流信号が印加される 図 11 TFT-LCD の駆動波形 各ゲートラインは表示のスキャンに対応し まずG 1 に接続された TFT 列をオンさせる このとき表示のレベルに対応した電圧がデータラインD 1 からD n に送られ オンしているG 1 列のTFTを介し各画素の液晶に一斉に伝えられる このように G 2 列 G 3 列と順次書き込まれ 1フィールド時間内にすべての画素に表示信号が書き込まれる TFTを介して画素に書き込まれた信号は 基本的にはTFTのオフ時には電流が流れないため 次に書き込まれるときまで 画素に電荷の形で保持される これにより 各画素には図 10(c) に示すように 1フレームで 2 回 プラスとマイナスの信号が書き込まれることになる 画素電極波形は (a) 書き込み特性 (b) フィールドスルー特性 (c) 保持特性に依存して変化する ( 図 10(c) 参照 ) 書き込み特性は TFTのオン電流 画素容量 書き込み時間 信号電圧に依存する t w 時間後にゲートがオフした瞬間 画素電極電位 V p はフィールドスルー電圧 V p( 突き抜け電圧ともいう ) 分だけ低くなる その後の保持特性は TFTのオフ電流 画素容量 保持時間 液晶抵抗を通してのリーク電流などに依存する フィールドスルー現象は TFTのゲート ソース間の寄生容量 C gs が原因であり ゲートパルスがオンの時に液晶容量 C LC 蓄積容量 C S C gs に充電された電荷が ゲートパルスがオフになった瞬間に各々の容量に再分配されることに起因する このフィールドスルー電圧 V p は VgCgs V p= C gs+c LC+C s で表される 寄生容量 C gs はTFTの構造に依存するパラメータであり 容易に変えることはできない したがって 設計的には 蓄積容量であるC S を大きくすることで V p の低減をはかることになる TFTのデバイス構造面からの C gs 低減策としては ゲートとソース電極パターンを自己整合 THE CHEMICAL TIMES 2010 No.4( 通巻 218 号 ) 5

させることによりマスクアライメントに起因するパターン精度の低下を防ぐか 短チャネル化を図って TFT 自体を小さくすることなどが行われている 5.4 Si 系トランジスタの特徴比較現在実用化されているアクティブマトリクス駆動用の Si 系トランジスタには アモルファス シリコン (a-si ) 低温ポリシリコン (Low Temperature poly-si : LTPS) 高温ポリシリコン (High Temperature poly-si : HTPS) 単結晶シリコン (Single crystal-si : c-si) が用いられている 各種基板上に形成されたトランジスタの特徴を表 1に示す ディスプレイ用として比較するために 移動度 デバイス構造 (nch p-ch CMOS) 基板の種類と透明性 基板サイズ プロセス温度 マスク枚数を挙げた 移動度についてみると a-si TFTが 1cm 2 /Vs 以下であるのに対して LTPS-TFT および HTPS-TFTは1 桁から 2 桁以上の移動度を有し 開発レベルではc-SiTFT 並みの移動度を有する LTPS-TFT も報告されている 作製に必要な基板温度は a-siが一番低く 表の右側になるほど高温プロセスを必要とする 無アルカリガラス基板が使えるプロセス温度 (600 ) を境にして 低温プロセスによる多結晶 Si TFTをLTPS-TFT 高温プロセスによるものを HTPS-TFTと呼んでいる 基板サイズは HTPSおよび c-si 用の直径 300mmの基板から a-si 用の第 10 世代無アルカリガラス ( 3m 角 ) の超大型基板が用いられる Siウエハは不透明のため LCDへの応用を考えると反射型による表示しか実現できないが ガラス基板および石英基板は透明なので透過型も実現できる プロセスに必要なマスク枚数は a-si TFTの 3-5 枚からc-Siの30-40 枚と表の右側になるほど多くのマスクを必要とする プロセスコストは 基板の種類 マスク枚数に左右されるため 表で右側の方が高くなる 表 1 Si 系デバイスの比較 5.5 TFT-LCDの種類と応用分野 (1)a-Si TFT-LCD 1986 年に3 型 LCD-TVが商品化されたのが最初である その後ノートブック PC デスクトップモニター用 大型 LCD-TVと応用分野が広がるとともに表示品位も向上し 今やCRTの地位を奪う状態まで市場が成長した 応用分野も民生用に留まらず 航空機のコックピットやナビゲーションなどの車載用にも広く採用されている (2)LTPS TFT-LCD LTPS TFT-LCD はa-Si TFT-LCD と比較して 微細な CMOS 回路を大型基板上に形成できる したがって 応用分野はこの特長を活かした中小型の携帯機器用ディスプレイが主である ビデオカムコーダ (VCR) デジタルスチルカメラ (DSC) ミュージックプレーヤー (MP) 携帯電話 ノート PCなどである (3)HTPS TFT-LCD a-si TFT-LCDおよび LTPS TFT-LCDが ディスプレイを直接目で見る ( 直視型ディスプレイ ) のに対し HTPS TFT- LCDはパネルと光学系の組み合わせで パネル上の画像を投影して見る投影型 ( プロジェクションタイプ ) のディスプレイである 応用分野としては データプロジェクタおよびプロジェクション TVがある (4)LCOS(Liquid Crystal on Silicon) LCOSとは Siウエハと対向する透明基板の間に液晶を挟みこむ構造である Siウエハ側には液晶駆動回路と画素電極を設け 透明基板と液晶層を通過した光は 画素電極において反射される 透過型液晶デバイスでは 画素電極の周囲に信号線等の回路が作られているため開口率が低下するが 反射型液晶デバイスでは 画素電極下に回路が作られているため高い開口率を実現できる 例えば HD 対応のデバイスでは 画素ピッチ 7μ m 画素間スペース 0.35μm 開口率 90% 以上のものが実用化されている 6. おわりに LCDとしての基礎的なことについて述べたが 現在実用化されている広視野角技術や広色再現技術などに関しては紙面の都合で触れられなかった これらの技術に関しては 第 6 回および第 7 回の部品 材料技術の中で取り上げる予定である 6 THE CHEMICAL TIMES 2010 No.4( 通巻 218 号 )