受信機時計誤差項の が残ったままであるが これをも消去するのが 重位相差である. 重位相差ある時刻に 衛星 から送られてくる搬送波位相データを 台の受信機 でそれぞれ測定する このとき各受信機で測定された衛星 からの搬送波位相データを Φ Φ とし 同様に衛星 からの搬送波位相データを Φ Φ とす

Similar documents
国土技術政策総合研究所 研究資料

パソコンシミュレータの現状

行列、ベクトル

Microsoft PowerPoint tokura.pptx

微分方程式による現象記述と解きかた

測量士補 重要事項 はじめに GNSS測量の基礎

Microsoft Word - thesis.doc

Microsoft Word - 1B2011.doc

Microsoft PowerPoint - 10.pptx

Microsoft Word - NumericalComputation.docx

景気指標の新しい動向

PowerPoint Presentation

PowerPoint Presentation

0 21 カラー反射率 slope aspect 図 2.9: 復元結果例 2.4 画像生成技術としての計算フォトグラフィ 3 次元情報を復元することにより, 画像生成 ( レンダリング ) に応用することが可能である. 近年, コンピュータにより, カメラで直接得られない画像を生成する技術分野が生

航空機の運動方程式

1/12 平成 29 年 3 月 24 日午後 1 時 1 分第 3 章測地線 第 3 章測地線 Ⅰ. 変分法と運動方程式最小作用の原理に基づくラグランジュの方法により 重力場中の粒子の運動方程式が求められる これは 力が未知の時に有効な方法であり 今のような 一般相対性理論における力を求めるのに使

衛星軌道情報について! アルマナック : ケプラーによる6 軌道要素に基づいて作成されたもの! エフェメリス :6 軌道要素 摂動等の影響を考慮して作成されたもの! 精密軌道暦 : エフェメリスは数箇所のマスターコントロール局のデータより作成されているが 精密軌道暦は数百箇所に及ぶモニター局のデータ

DVIOUT

vecrot

Microsoft PowerPoint - H21生物計算化学2.ppt

DVIOUT-SS_Ma

20~22.prt

2011年度 大阪大・理系数学

2011年度 筑波大・理系数学

Microsoft Word - 非線形計画法 原稿

補足 中学で学習したフレミング左手の法則 ( 電 磁 力 ) と関連付けると覚えやすい 電磁力は電流と磁界の外積で表される 力 F 磁 電磁力 F li 右ねじの回転の向き電 li ( l は導線の長さ ) 補足 有向線分とベクトル有向線分 : 矢印の位

2015-2017年度 2次数学セレクション(複素数)解答解説

2018年度 東京大・理系数学

代数 幾何 < ベクトル > 1 ベクトルの演算 和 差 実数倍については 文字の計算と同様 2 ベクトルの成分表示 平面ベクトル : a x e y e x, ) ( 1 y1 空間ベクトル : a x e y e z e x, y, ) ( 1 1 z1

横浜市環境科学研究所

線積分.indd

Microsoft PowerPoint - 10.pptx

ファイナンスのための数学基礎 第1回 オリエンテーション、ベクトル

学習指導要領

以下 変数の上のドットは時間に関する微分を表わしている (ex. 2 dx d x x, x 2 dt dt ) 付録 E 非線形微分方程式の平衡点の安定性解析 E-1) 非線形方程式の線形近似特に言及してこなかったが これまでは線形微分方程式 ( x や x, x などがすべて 1 次で なおかつ

PowerPoint プレゼンテーション

KM_C554e

相対性理論入門 1 Lorentz 変換 光がどのような座標系に対しても同一の速さ c で進むことから導かれる座標の一次変換である. (x, y, z, t ) の座標系が (x, y, z, t) の座標系に対して x 軸方向に w の速度で進んでいる場合, 座標系が一次変換で関係づけられるとする

<4D F736F F D E4F8E9F82C982A882AF82E98D7397F1>

2014年度 筑波大・理系数学

Microsoft PowerPoint - 9.pptx

測量試補 重要事項

Microsoft Word - Chap11

データ解析

2010年度 筑波大・理系数学

測量士補 重要事項「標準偏差」

(Microsoft Word - \216\221\227\277\201i\220\333\223\256\201jv2.doc)

Microsoft Word - 03基準点成果表

断面の諸量

例 e 指数関数的に減衰する信号を h( a < + a a すると, それらのラプラス変換は, H ( ) { e } e インパルス応答が h( a < ( ただし a >, U( ) { } となるシステムにステップ信号 ( y( のラプラス変換 Y () は, Y ( ) H ( ) X (

Microsoft Word - 補論3.2

チェビシェフ多項式の2変数への拡張と公開鍵暗号(ElGamal暗号)への応用

Microsoft PowerPoint - 9.pptx

【FdData中間期末過去問題】中学数学2年(連立方程式計算/加減法/代入法/係数決定)

数学の世界

If(A) Vx(V) 1 最小 2 乗法で実験式のパラメータが導出できる測定で得られたデータをよく近似する式を実験式という. その利点は (M1) 多量のデータの特徴を一つの式で簡潔に表現できること. また (M2) y = f ( x ) の関係から, 任意の x のときの y が求まるので,

Taro-F25理論 印刷原稿

多変量解析 ~ 重回帰分析 ~ 2006 年 4 月 21 日 ( 金 ) 南慶典

7 渦度方程式 総観規模あるいは全球規模の大気の運動を考える このような大きな空間スケールでの大気の運動においては 鉛直方向の運動よりも水平方向の運動のほうがずっと大きい しかも 水平方向の運動の中でも 収束 発散成分は相対的に小さく 低気圧や高気圧などで見られるような渦 つまり回転成分のほうが卓越

学習指導要領

<4D F736F F D208C51985F82CD82B682DF82CC88EA95E A>

スライド 1

1/30 平成 29 年 3 月 24 日 ( 金 ) 午前 11 時 25 分第三章フェルミ量子場 : スピノール場 ( 次元あり ) 第三章フェルミ量子場 : スピノール場 フェルミ型 ボーズ量子場のエネルギーは 第二章ボーズ量子場 : スカラー場 の (2.18) より ˆ dp 1 1 =

2014年度 千葉大・医系数学

Microsoft PowerPoint - 第3回2.ppt

2017年度 金沢大・理系数学

技術者のための構造力学 2014/06/11 1. はじめに 資料 2 節点座標系による傾斜支持節点節点の処理 三好崇夫加藤久人 従来, マトリックス変位法に基づく骨組解析を紹介する教科書においては, 全体座標系に対して傾斜 した斜面上の支持条件を考慮する処理方法として, 一旦, 傾斜支持を無視した

板バネの元は固定にします x[0] は常に0です : > x[0]:=t->0; (1.2) 初期値の設定をします 以降 for 文処理のため 空集合を生成しておきます : > init:={}: 30 番目 ( 端 ) 以外については 初期高さおよび初速は全て 0 にします 初期高さを x[j]

Microsoft PowerPoint slide2forWeb.ppt [互換モード]

Microsoft Word ã‡»ã…«ã‡ªã…¼ã…‹ã…žã…‹ã…³ã†¨åłºæœ›å•¤(佒芤喋çfl�)

数学 ⅡB < 公理 > 公理を論拠に定義を用いて定理を証明する 1 大小関係の公理 順序 (a > b, a = b, a > b 1 つ成立 a > b, b > c a > c 成立 ) 順序と演算 (a > b a + c > b + c (a > b, c > 0 ac > bc) 2 図

ベクトル公式.rtf

に対して 例 2: に対して 逆行列は常に存在するとは限らない 逆行列が存在する行列を正則行列 (regular matrix) という 正則である 逆行列が存在する 一般に 正則行列 A の逆行列 A -1 も正則であり (A -1 ) -1 =A が成り立つ また 2 つの正則行列 A B の積

2018年度 筑波大・理系数学

DVIOUT-17syoze

Chap2.key

2013年度 九州大・理系数学

学習指導要領

画像類似度測定の初歩的な手法の検証

重要例題113

2014年度 名古屋大・理系数学

Microsoft PowerPoint - 2.ppt [互換モード]

<4D F736F F D2097CD8A7793FC96E582BD82ED82DD8A E6318FCD2E646F63>

Microsoft Word - Chap17

2016年度 京都大・文系数学

様々なミクロ計量モデル†

Microsoft Word - reg2.doc

学習指導要領

Microsoft Word - 漸化式の解法NEW.DOCX

2017年度 長崎大・医系数学

Microsoft Word - 201hyouka-tangen-1.doc

Microsoft PowerPoint - H22制御工学I-2回.ppt

Microsoft Word - Time Series Basic - Modeling.doc

2017年度 千葉大・理系数学

宇宙機工学 演習問題

2016年度 筑波大・理系数学

Microsoft PowerPoint - NA03-09black.ppt

FEM原理講座 (サンプルテキスト)

学習指導要領

eq2:=m[g]*diff(x[g](t),t$2)=-s*sin(th eq3:=m[g]*diff(z[g](t),t$2)=m[g]*g-s* 負荷の座標は 以下の通りです eq4:=x[g](t)=x[k](t)+r*sin(theta(t)) eq5:=z[g](t)=r*cos(the

Transcription:

RTK-GPS 測位計算アルゴリズム -FLOT 解 - 東京海洋大学冨永貴樹. はじめに GPS 測量を行う際 実時間で測位結果を得ることが出来るのは今のところ RTK-GPS 測位のみである GPS 測量では GPS 衛星からの搬送波位相データを使用するため 整数値バイアスを決定しなければならず これが測位計算を複雑にしている所以である この整数値バイアスを決定するためのつの方法として FLOT 解 による測位がある ここではその FLOT 解 について解説する その過程の中で搬送波位相データ 重位相差についても記述する 式の展開等を若干詳しく解説するため 経験豊富で自信のある読者は読み飛ばしていただいて結構である. 搬送波位相データおよび位相差. 搬送波位相データ RTK-GPS では搬送波位相データを用いる 受信機 で測定された衛星 からの搬送波位相データ Φ (.) のように表される は 式 ただし Φ d (.) : 搬送波周波数 : 光速 : 受信機アンテナ と衛星 間の真の距離 d : 衛星 の時計誤差による搬送波位相データ誤差 : 受信機 の時計誤差による搬送波位相データ誤差 : 整数値バイアス である ちなみに上側の添字は衛星 下側の添字は受信機アンテナのことである また 本来であれば式 (.) には電離層 対流圏 および受信機系の S/ 比等による誤差項も含まれるが ここでは無視する. 重位相差 重位相差には 衛星間 重位相差と受信機間 重位相差のつがあるが 次に述べる 重位相差を求めることでその意義は薄れてしまうため ここでは受信機間 重位相差についてのみ述べる ある時刻に受信機 それぞれにおいて測定された衛星 からの搬送波位相データを Φ Φ とすると 式 (.) から 受信機間 重位相差 DΦ は式 (.) のように表される DΦ Φ - Φ d d (.) つの搬送波位相データ Φ Φ に含まれていた衛星時計誤差項 d が この計算により完全に消去される しかし

受信機時計誤差項の が残ったままであるが これをも消去するのが 重位相差である. 重位相差ある時刻に 衛星 から送られてくる搬送波位相データを 台の受信機 でそれぞれ測定する このとき各受信機で測定された衛星 からの搬送波位相データを Φ Φ とし 同様に衛星 からの搬送波位相データを Φ Φ とすると 式 (.) と式 (.) から 重位相差 は式 (.) のように表される Φ - Φ (.) 式 (.) に残っていた受信機時計誤差項の が完全に消去されたことがわかる 重位相差では GPS 測量の最大の誤差要因である衛星時計誤差 受信機時計誤差の双方が完全に消去されるため 精密測量を行う際の中心的な技術であると言える. 測位計算アルゴリズムこの章では 重位相差を用いて FLOT 解を求めるアルゴリズムを紹介する GPS では 中心が地球中心と一致した楕円体を基準にした WGS-8(World Geode Sse 98 : 全世界的測地系 98) と呼ばれる座標系により測位計算が行われる そして我々が普段使用する緯度 経度 および高さの座標に変換される また 使用している 次元直交座標系は ECEF(Earh Ceered Earh Fed) と呼ばれており これは地球中心を原点とし 自転軸方向を 軸 ( 北極方向 ) グリニッジ基準子午面と赤道が交わる方向を 軸 さらにこれら 軸と右手系をなすように 軸を設定したものである 各衛星からの搬送波の周波数が等しい ( ドリフト無し ) と仮定すると 式 (.) はエポック において次式をように表すことが出来る { } { } { } { } (.) ここで 式 (.) の未知数を整理しよう ただし 受信機 を基準局 ( 参照地点 ) 受信機 を移動局 ( 未知点 ) とする は観測値であるため既知数である と も 受信機アンテナ の位置と衛星位置が既知であるため ピタゴラスの定理から既知数である と は未知であるが 衛星位置が既知であるため 未知数は移動局側の受信機アンテナ の位置である よって未知数は 整数値バイアス と 受信機アンテナ の位置 ( b ) ということになる つまり式 (.) は 既知数を左辺 未知数を右辺に移項したものなのである FLOT 解は これら未知数を連立方程式から求めようとする解法である 次に 式 (.) を用いて連立方程式を定義する 測位に使用する衛星数を 個とし 衛星 を基準衛星とすると エポック ( ) において独立な 重位相差 すなわち独立な方程式が式 (.) のように定義される

{ } { } { } { } { } { } { } { } (.) と受信機アンテナ の位置 本であるため 式 (.) だけでは解くことは出来ない そ 式 (.) で 未知数は整数値バイアス ( ) の ( ) 個であるが 方程式は b こで サイクルスリップが起こらなければ整数値バイアスの値は不変であるという性質を活かし エポック においても式 (.) と同様な方程式を式 (.) のように定義する { } { } { } { } { } { } { } { } (.) 式 (.) および式 (.) 双方を用いると 未知数の数は変わらず ( ) 個であるが 方程式は ( ) 本となるため のとき すなわち測位に使用する衛星数が 以上のときにすべての未知数を求めることができるのである 次元のアンテナ位置を求めるためには測位に使用する衛星は最低 つ必要であるということは 理由こそ違えど GPS の単独測位と通ずる点である 次に 実際の解法を述べる 基準衛星 と衛星 における式 (.) をもう少し丁寧に表すと 式 (.) のようになる { } ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) (.) 式 (.) から 式 (.) および式 (.) は線形ではないことがわかり そのため簡単に解くことができない そこで GPS の単独測位と同様に未知数を近似値と修正値の和で表し 繰り返し計算によって未知数を求めるといった手法がとられる

エポック における 回目の逐次演算後のアンテナ位置を 対する修正値をそれぞれ とし さらに整数値バイアス に対する修正値 とすると 式 (.5) のような関係式が成り立つ (.5) のときには と整数値バイアス に適当に初期値を与えればよい 式 (.5) の値を式 (.) に代入し テーラー展開を行い さらに修正値が微小であることから 次以上の項を無視すると 式 (.6) のようになる { } { } Φ (.6) 実際には測位に使用する衛星数が 個であるため 式 (.6) のような方程式が 本できる それを表現するために 次のような行列をとる

χ (.7) ただし { } { } Φ である 行列群 (.7) では次のような関係式が成立する χ (.8) 測位に使用する衛星数が つの場合は式 (.8) の両辺に左から の逆行列をかけることにより修正量が求められるが 測位に使用する衛星数が 5 つ以上の場合 が正規行列ではないために直接逆行列を求めることは出来ない 線形の連立方程式で未知数よりも方程式の数の方が多い場合は 最小 乗法を用いて解を求めることが出来る すなわち 式 (.9) を用いて計算する [ ] T T χ (.9) 式 (.9) を たとえば となるまで繰り返し計算することで解が求められるのである

. 実データによる測位結果図 (.) は 東京海洋大学海洋工学部航海学科実習棟屋上のつのアンテナをから取得したデータを用いて実際に求めた FOLT 解の 方向の真値との差である 受信機は共に ovael 社製 RT- 受信機で 基線長はおよそである 時間がたつごとに値が真値に近いていくことがわかる 図 (.): 測位結果と真値との誤差 5. まとめ 生まれて初めて RTK-GPS が出来てよかった