基礎マクロマクロ経済学 (2015 年度前期 ) 9. 総需要 :IS-LM 分析の応用担当 : 小塚匡文 9.1 IS-LM 分析の応用 : 短期均衡の変化 < 政府購入の変更 > 政府購入が ΔG だけ増えた場合 ( 拡張的財政政策 ) IS 曲線は右シフトし 仮に金利が一定であるとすれば 所得 生産は 1
= G 1 ( MPC) だけ増加 ( : ケインジアン クロスと乗数効果 ) LM 曲線との交点 (= 均衡点 ) は A から B へ 所得 生産は 2 金利は r2 に移る そのメカニズムは? の増加によって貨幣需要は増加するが 貨幣供給量は一定であるので これに対応するため 金利は上昇する 2
ここで 投資は一定一定としていないとしていないことに注意 金利が上昇し 投資は減少する ( クラウディング アウト = 押しのけ ) そのため 所得 生産の増加分は ケインジアン クロスの場合よりも小さい グラフ上の均衡点の移動を追うだけでなく その背景にあることを理解すること 3
図 9-1 r ΔG LM r2 r1 A 1 2 政府購入増加によってIS 曲線は右シフトし 所得 は増加 貨幣供給量は一定であるので 金利上昇により 貨幣需要を従来と同じレベルにとどめるよう調整 投資が減少し 所得は2にとどまる B IS1 IS2 4
< 租税の変更 > ΔTだけ減税した場合 IS 曲線は右シフトし 金利が一定ならば 所得 生産は ( T MPC) ( MPC) = 1 だけ増加 ( 図 9-2 の ) LM 曲線との交点 (= 均衡点 ) は A から B へ ただし貨幣供給量は一定なので 貨幣需要を調整する必要がある 金利を r2 に上昇させることで貨幣需要は減少 所得 生産は 2 となり この増加分は ケインジアン クロスの場合よりも小さい 5
図 9-2 r IS1 ー ΔT ( 減税 ) IS2 LM r2 r1 A B 1 2 減税によってIS 曲線は右シフトし 所得 は増加 貨幣供給量は一定であるので 金利上昇により 貨幣需要を従来と同じレベルにとどめるよう調整 投資が減少し 所得は2にとどまる 6
< マネーサプライの増加 > 中央銀行がマネーサプライを増加 LM 曲線は右シフト ( 所与の所得水準で 金利は低下する 流動性選好理論より ) IS 曲線との交点 (= 均衡点 ) は A から B へ 所得 生産は 2 に増加 金利は r2 に低下 貨幣供給が増えると 人々は余分な貨幣を預けようとする 貨幣を保有しようと人々が考えるレベルまで金利は低下するため 金利水準は r2 になる 金利低下により 財市場では投資が増え 計画支出 生産 所得 () が 2 まで増加する 7
図 9-3 LM1 r LM2 r1 r2 A 1 B 2 金融政策が金利 ( 利子率 ) の変化を通して所得に影響を与える 貨幣の増大が与える影響を詳細に見たもの 金融政策の波及経路 IS 8
< 金融政策と財政政策の相互作用 > 金融政策は中央銀行が 財政政策は政府が立案する 政策の相互作用によって 政策効果は変わる 例えば 政府が増税を決めたとき 1 中央銀行は貨幣供給量を一定に保つ 2 中央銀行は利子率を一定に保つ 3 中央銀行は所得を一定に保つ といった政策をとった場合 どうなるか? 9
図 9-41 r ΔT LM r1 r2 B 2 1 LM 曲線は変わらない 増税により IS 曲線はIS1からIS2にシフト 利子率 (r1からr2へ) と所得 (1から2へ) は減少し 景気後退局面に A IS2 IS1 10
図 9-42 r ΔT LM2 LM1 r1 B A 2 増税により IS 曲線はIS1からIS2にシフト LM 曲線はLM1からLM2に左シフトし 貨幣供給量を減少させることで 利子率を一定 (r1) に保つ 所得は大幅大幅に減少減少し (1から2へ) 景気後退局面に 1 IS2 IS1 11
図 9-43 r IS2 ΔT IS1 LM1 LM2 r1 r2 A 1 B 増税により IS 曲線は IS1 から IS2 にシフト LM 曲線は LM1 から LM2 に右シフトし 貨幣供給量を増加させる 利子率は減少し (r1 から r2 へ ) 投資が増えるので 所得は一定 (1) に保たれる 12
<IS-LM モデルにおけるショック > IS ショック 財 サービス市場への需要の外生的変化 アニマル スピリッツ ( 外生的でおそらく自己実現的な楽観主義と悲観主義の波 ) 例えば 企業が将来に対して悲観的になり 利子率に水準に関係なく 投資を減らす IS 曲線の左シフト LM ショック 貨幣需要に対する外生的な変化 例えば クレジットカード利用に制限が課せられ 保有しようとする貨幣量が増加すると 利子率は上昇 LM 曲線は上方 ( 左方 ) にシフト 13
9.2 総需要理論と IS-LM IS-LMモデルをベースに 物価水準物価水準の変化変化の影響を調べる 総需要曲線の導出 < 総需要曲線の形状とシフト> 総需要曲線は右下がり なぜか? IS-LMモデルにある物価水準に着目 LM 曲線に含まれている 物価水準 Pが変化 (P1 P2) する 実質貨幣供給 M/P が減少減少する LM 曲線は上方 ( 左方 ) にシフトする 14
図 9-5 r2 r1 r B A 2 1 LM2(P2) LM1(P1) IS 均衡利子率は上昇 均衡所得水準は低下 (1 2) 物価水準は P1 から P2 に上昇している この両者を合わせると 右下がりの総需要曲線が導出 P2 P1 P AD 2 1 15
1 金融政策による総需要のシフト 物価水準は一定で 金融緩和政策 ( 拡張的政策 M の増加 ) をとると 所得水準は上昇 総需要は右にシフト ( 物価は同じで 所得は増えているため ) 2 財政政策による総需要のシフト 物価水準は一定で 拡張的財政政策をとると 所得水準は上昇 総需要は右にシフト ( 物価は同じで 所得は増えているため ) ともに 図 9-612 を参照 16
図 9-61 r LM1(P1) P r1 r2 A B 1 2 LM2(P1) IS 均衡所得水準は上昇 (1 2) 物価水準は同じ その結果 同じ物価水準で所得の増加を表すため 総需要は右にシフトする P1 AD1 AD2 1 2 17
図 9-62 r LM(P1) P r2 r1 A B 1 2 IS1 IS2 均衡所得水準は上昇 (1 2) 物価水準は同じ その結果 同じ物価水準で所得の増加を表すため 総需要は右にシフトする P1 AD1 AD2 1 2 18
< 短期と長期の IS-LM> 長期の経済と IS-LM モデル ケインジアン モデルと古典派モデルとの違いを明示 図 9-7 で 長期と短期の均衡の違いをみる 物価水準が P1 から P2 に下落する 物価水準 P1 では十分な需要がない ( 長期均衡になり得ない ) 短期では LM 曲線は LM1 のままであり 短期の均衡は K 点 ( 物価は P1 のまま ) 長期では 物価が P2 に移り LM 曲線は LM2 にシフトし 長期均衡は C 点となる (* は自然失業率での産出 : 自然産出率 ) 19
図 9-7 r K LRAS C 1 * LM1(P1) LM2(P2) IS C 点は長期均衡であり 長期総供給曲線 (LRAS) が通る 短期総供給 (SRAS) は シフトした先々の物価水準にあわせて存在する P1 P2 P AD K LRAS C 1 * SRAS1 SRAS2 20
< 追加トピックス : 貨幣供給量か利子率か > 1980 年代以降 金融政策では 貨幣供給量ではなく 利子率 ( 短期金利 ) を目標値に誘導する という金融政策が報じられているが なぜか? 一般に IS よりも LM が不安定で 頻繁にショックが発生している このとき 利子率を安定化させる 政策のほうが 所得が安定的になるからである (Poole 1970, QJE Vol.84 も参照 ) 21
1 のように財市場 (IS 曲線 ) が不安定ならば マネーサプライをコントロールするべき ( これを一定に保つ ) 2 のように貨幣市場 (LM 曲線 ) が不安定ならば 金利をコントロールするべき (IS-LM モデルで解釈可能 ) 均衡水準の産出を * 利子率を r* として
<Poole のモデル :1 財市場が不安定 > r* r IS1 IS IS2 LM1 3 1 * 2 4 LM LM2 IS 曲線が不安定で IS1 から IS2 まで変動し 産出は 1 から 2 まで変動する もしこれに反応して LM 曲線をシフトさせ LM1 から LM2 まで移動させると 産出は 3 から 4 まで変動し 変動がより大きくなる よって LM 曲線を動かさない方がよい
r* r <Pooleのモデル :2 貨幣市場が不安定 > LM 曲線が不安定で LM1からLM2まで変動し 産出は1から 2まで変動する もしこれを安定化し IS LM1 ようと思うならば 利 LM 子率を一定するよう LM2 に金融政策を行うべきである これはLM 曲線を動かさない という意味でなく LM 曲線を元の水準に戻すよう に調整することを意 1 * 2 味する
9.3 大恐慌 大恐慌についてケーススタディを展開 < 支出仮説 > 1930 年代初頭のアメリカでは 所得と利子率の低下が同時に発生 IS 曲線の縮小方向縮小方向へのシフトへのシフトがあったのでは? ( 原因 ⅰ) 株式市場暴落による消費関数のシフト ( 原因 ⅱ) 住宅投資の大幅な落ち込み ( 原因 ⅲ) 銀行の倒産と投資の減少 ( 原因 ⅳ) 増税と財政支出の減少を図ったこと 25
< 貨幣仮説 > 一方で マネーサプライのが 1929 年から 33 年の間に 25% 落ち込み 失業率は 25.2% まで上昇 経済の下降はマネーサプライの減少によって発生 (Friedman and Schwartz) LM 曲線の縮小 ( 左シフト ) によるもの ただしこの説の問題点として (ⅰ) 実質貨幣残高は物価下落物価下落により 増加していたこと (ⅱ) 利子率は持続的に低下していたこと の2 点がある 26
< 貨幣仮説再考 > デフレーションの影響に着目 物価下落 デフレーションの効果を検証する 実質貨幣残高は富の一部 ( ピグー効果 ) とする考え方があるが その一方でデフレーション ( 持続的物価下落 ) の不安定化効果不安定化効果に着目 <デフレーションの不安定化効果 > 物価下落が所得の減少をもたらした理由として 負債デフレーションデフレーション理論理論 予想予想されるデフレーションの影響の2つが考えられた 27
< 負債デフレーションデフレーション理論 > 負債デフレーションデフレーション理論理論とは 予想されない物価下落により 負債の実質価値が増加することで 債務者は支出を減らす 債務者は債権者より支出性向が高い 国民所得全体の支出は減少 28
< 予想されるデフレーションのされるデフレーションの影響 > 一方 予想予想されるデフレーションのされるデフレーションの影響を考慮したIS-LMモデルは次の通り : = C( T) + I( i Eπ) + G, M P= L( i, ) ここで Eπは予想インフレ率 iは名目利子率 ( 左式では実質利子率 右式では名目利子率 ) となってる点に注意 設備投資は実質利子率実質利子率の影響影響を受けることを明示したモデル 29
よって IS 曲線と LM 曲線は次のような式であらわされる : そしてこれらをグラフとして -i 平面上に描くと 図 9-8 となる : 30 ) ( ) / ( 2 0 2 1 LM l l p M l l i L = ) ( 1 1 0 0 1 IS I T MPC G I A E I MPC i L + + + + = π
図 9-8 名目利子率 i IS1 Eπ は期待インフレ率で これが 0 からマイナスに変化すると デフレが予想されていることになる デフレの予想により 実質利子率は上昇し 設備投資が減少 r2 =i2-eπ i1=r1 i2 IS2 B B Eπ A Eπ LM 2 IS 曲線は IS1 から IS2 へシフト (IS の縮小 ) その結果 所得は 1 から 2 へ移る ( 不況へ ) 実質利子率は上昇 名目利子率は低下する 1 31