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アオコってなに ラン藻の大発生についてもっと知るために 写真 1 湖沼に発生したアオコ 1 アオコを正しく見分ける これらの現象とアオコは 専門家でも見間違う 夏の風の穏やかなよく晴れた日 池や湖沼の水 場合があります そこで この小冊子のはじめに 面が緑色の粉をまいたようになることがあります アオコを正しく区別するポイントについて説明し 写真1 この現象は アオコ と呼ばれ 水 ます 中の植物プランクトンが大量に増殖したものです まず その緑色の粉がどこで発生しているのか アオコをつくるのは 植物プランクトンのうち ラ を見てください アオコが田んぼで発生すること ン藻 あるいは シアノバクテリア と呼ばれる は ほとんどありません この理由は明らかでは 一群です 注1 ありませんが ラン藻が増殖するには浅すぎるの アオコと似た現象は 日本各地で見られます かもしれません アオコはたいてい池や湖沼で発 身近な例では 春の田んぼの水面に見られる鮮や 生します かな緑色の粉をまいたような現象が挙げられます 続いて 周りの空気のにおいを嗅いでみてくだ 写真2 アオコと大変よく似ていますが 多く さい ミドリムシや浮草である場合には 特に変 はミドリムシ ユーグレナ属 が大増殖したもの なにおいはしません また 金魚を飼育している で別物です 水では 少しにおいがあるかもしれません しか また 池や湖の表面に緑色の小さい円盤がたく し アオコが発生すると アオコからは何とも変 さん漂うことがあります 写真3 これも たく なにおいがします そのにおいを言葉で表現する さんの浮草が流れているものであり アオコでは のは難しいですが 青臭いカビ臭というか墨汁と ありません いうか とにかく気持ちが悪くなる変なにおいで そして 金魚を飼育している水が緑色に濁るこ す とがあります ほとんどの場合 これは緑藻とい そして 水面に浮ぶものや周辺の水の色を見て う植物プランクトンが繁殖したものです 写真4 みましょう アオコが発生すると緑っぽい色にな 写真 2 インドネシアのため池 写真 3 琵琶湖沿岸の浮草 滋 写真 4 金魚用水槽で繁殖した で大増殖したミドリムシ 日本 賀県 琵琶湖 2011 年 10 月 緑藻 の水田でも 5 月頃見られる 1

ります ただし アオコが発生している場所や季 うで裏に根が生えているので アオコと区別でき 節によって 鮮やかな緑色 少しくすんだ緑色 ます 写真8 後で説明しますが ラン藻は細菌 青緑色という風に違った色を呈します もし 池 なので もちろん根がありません や湖沼の水が抹茶色のかなりドロドロとした状態 ラン藻 アオコ には ミドリムシ 浮草 緑 になっていれば その池や湖沼の岸を観察してく 藻には無いさまざまな特徴があります みなさん ださい 風や波で打ち寄せられて濃い密度になり が ラン藻から成るアオコを正しく見分けること ドロドロのものが岸辺に集積したり岸壁に付着し が アオコについてもっと知るための第一歩とな て乾燥し ライトブルー色になっていれば おそ ります らくそれはラン藻でしょう 写真5 写真6 2 アオコは 生き物 である また 写真7のように 水の色は抹茶のようで すが ちょっと黄色っぽい粒々が水中に漂ってい アオコをうまく見分けることができ 皆さんが ることがあります この場合も ラン藻である可 正真正銘のラン藻によるアオコに出会ったとしま 能性が高いです ラン藻は水の表面に浮く性質を しょう もし可能であれば 透明な容器で水ごと 持っています 写真7の例では ラン藻が少し弱 アオコを採ってみてください 注2 肉眼で観察す っている状態だと言えるでしょう るだけでも アオコにはいろんな形のあることが わかります 写真9 ところで 同じように池や湖沼の水面に浮かん で生息するものに 浮草があります しかし 手 続いて その容器を平らなところにおいて 静 に取って近くで見ると 浮草は小さい葉っぱのよ かに 1 分間ほど放置してください これで ラン 写真 5 池で発生したアオコが岸辺に集積し ラ 写真 6 湖で発生したアオコがコンクリート岸 イトブルーに変色している 京都市 広沢池 壁に付着して乾燥し ライトブルーに変色して 2010 年 8 月 いる 茨城県 霞ヶ浦 2011 年 9 月 写真 7 少し弱ったアオコ 鮮や 写真 8 浮草の葉と根 かな緑色ではなく 黄みを帯びる 2 写真 9 近くで観察したアオコ

写真 10: 水面に浮いたアオコ藻の特徴をいくつか見ることができます まず 基本的にラン藻は緑色であることがわかります これは 植物と同じ光合成をおこなうための色素 クロロフィル a による緑色です 樹木や草と同じように ラン藻も この色素を使って光合成します 光のエネルギーを使って 二酸化炭素と水を材料にして 自ら有機物 ( つまり 自分のからだ ) を作ることができます ただし 生物学的な分類では ラン藻は細菌類 ( バクテリア ) に属しています注 3) 細菌の仲間であるところが樹木や草と大きく違う点で 浮草のように根を持っていません たとえ根はなくても ラン藻は体全体から成長に必要な栄養物質を取り込みます 水温が暖かく 日光と栄養物質が十分にあって 天敵が少ないといった条件が整うと 光合成によってどんどんラン藻は増殖します 次に 透明な容器中のアオコが 水面に浮かんでいることがわかるでしょう ( 写真 10) ラン藻には 浮き袋 があり これを使って水の表面に浮くことができます この浮き袋は ガス胞 と呼ばれ 二酸化炭素を主成分とするガスがたんぱく質の袋に詰まっています ある種のラン藻は ガス胞を膨らませたり 縮ませたりして 1 日の間に湖の表面と底を行き来することができます これを 鉛直移動 といいます よく晴れて天気が安定している夏の日に 鮮やかな緑色の元気な状態のアオコを見かけたら 午前から夕方にかけて そのアオコの様子をときどき観察してください 午前中に 水面で粉を吹いた抹茶状態であったアオコが 昼くらいから少しずつ減ります 夕方までに 湖水は緑色のまま 粉状のアオコは消えていくことがわかると思います そして 翌日も晴れて天気が安定していれば 午前中には 再び湖面に粉をまいたような状態になるでしょう ラン藻 ( アオコ ) は自分で泳ぐことはできませんが ガス胞によって浮いたり沈んだりします 顕微鏡をお持ちの方であれば 一度それでアオコを観察されてはいかがでしょう 倍率は 200 倍 ( 例えば 対物レンズ 20 倍 接眼レンズ 10 倍 ) あれば見やすいですが 100 倍でも見えます うまく観察できた場合 写真 11 から写真 16 のような生き物が見えるでしょう これらのラン藻は 世界中の富栄養化した湖沼で頻繁に観察されています 写真 11 から写真 13 のラン藻はミクロキスティス属の仲間です 小さい粒々がひとつひとつの細胞であり これが集まって群体 ( コロニー ) を作って生活しています 写真 14 と写真 15 のラン藻は アナベナ属の仲間です やはり小さい粒々がひとつひとつの細胞ですが これが直線状あるいはらせん状につながっています 写真 16 のラン藻は プランクトスリックス属の仲間です 細胞のつなぎ目がくびれておらず 円筒形の細胞が直線状につながっています よく観察していると滑るように動くことがあります 3. アオコには害があるの? アオコは わたしたちが直接触れなければ すぐに害を及ぼさないように思われます しかし これまで透き通っていた池の水が緑一色になると その景観を楽しみに訪れる人が減るかもしれません また 湖沼の岸辺に吹き寄せられたアオコが腐って強烈な悪臭を放ち この悪臭のために気分が悪くなる人が多く見られます 湖沼や貯水池でアオコが発生すると わたしたちがその水資源を利用するための費用が それまで以上にかかります たとえば 飲料水源の湖沼にアオコがあると 水中からゴミなどを除くろ過作業の障害となるため 浄水処理の効率が下がってしまいます 発生したアオコが原因となって地域の飲料水供給が滞る場合もあります 2007 年の中国 太湖でアオコが大発生し 大勢の市民が飲用水確保に奔走したという事件はよく知られています 加えて アオコについて心配されているのは有毒タイプのラン藻の存在です 1989 年にイギリスの湖で水泳訓練をおこなった兵士が下痢などの中毒をおこした例がありました その湖では毒のあ 3

100µm 写真 11 ミクロキスティス エルギノーサ (Microcystis aeruginosa 50µm 写真 12 ミクロキスティス ヴェーゼンベルギー (Microcystis wesenbergii 50µm 50µm 写真 14 アナベナの1種 (Anabaena sp. 写真 13 ミクロキスティス ヴィリディス (Microcystis viridis 20µm 20µm 写真 15 アナベナの1種 (Anabaena sp. 写真 16 プランクトスリックス アガルディ (Planktothrix agardhii るタイプのラン藻が大量に発生していて 水泳中 畜やペットにも及びます 1991 年 オーストラリ に触れたり 誤飲したために症状が出たとわかり アのマーレー ダーリング川水系で大規模なアオ ました また 1996 年のブラジルで アオコが発 コが発生し 岸辺の水を飲んだ 2000 頭近くの牛や 生する水源を利用していた病院で多くの透析患者 羊が死ぬという被害がありました 家畜は表層の が亡くなるという不幸な事件がありました 詳し 水を飲むため 浮かんでいるアオコを一緒に飲ん く調べた結果 その水源には有毒タイプのラン藻 でしまいがちです 海外では アオコの発生する が発生しており さらに 本来なら毒を除くはず 湖沼の岸辺でペットを遊ばせないように インタ の病院の浄化装置が十分働いていなかったことが ーネット上で 注意報 を発表しているところも 重なっていました アオコの毒による被害は 家 あります 幸いなことに 日本国内では人間への 4

目立った健康被害は報告されていません しかし ラン藻が作り出す毒素は多くの湖沼で発見されていますし ある鳥の死亡原因がアオコ毒によるものだと予想している報告もあるので 注意していく必要があります ところで 一口にラン藻 ( アオコ ) の毒と言っていますが 複数種のラン藻による毒がいくつか発見されています 人間に作用する体の部位で分けると 肝臓毒 神経毒 皮膚毒に大別されます そして 接触後の症状の現れ方で分類すると 嘔吐 下痢などの胃腸の症状や皮膚のかゆみなど比較的すぐに現れる場合と ゆっくり作用して肝臓障害を引き起こす慢性的な場合に分けられます 毒を持つアオコの存在は少なくとも 19 世紀末から知られていましたが 1980 年代以降に毒素の構造が明らかになるなど研究が進み 少しずつ詳しいことがわかってきました 同じ種類のラン藻であるにもかかわらず 毒を作るタイプと作らないタイプがあること あるいは 毒を作るタイプ ( 遺伝子を持っている ) であっても常に毒を作っているわけではないこと などがわかってきました ここまで アオコ ( つまり 増殖したラン藻 ) の 害 について紹介してきました それに対して わたしたちはラン藻から何か 恵み を受けることがあるのでしょうか 実は アフリカ 中南米 アジアでは ある種のラン藻を食用とする地域があり 国内では九州で作られている 水前寺のり がそれに当たります しかし 先に写真 11 から写真 16 で紹介した種類を含む大多数のラン藻は食用ではありません このように わずかに食品として利用される例を除いて アオコが人間に与える直接的な 恵み を見つけることはなかなか難しいです 実際 アオコが発生すると その程度が大きいほど人間社会への悪影響も大きくなるので わたしたちにとってアオコが無いに越したことはありません 強いて言えば 湖沼環境の異変を人間社会へ教えてくれるシグナル という働きをアオコに見出すことはできます ある湖沼でアオコが発生すると 富栄養化が進行していることがわかります 時には 湖水の透明度や窒素 リンの濃度といった物理 化学的な測定項目では検知できないような水域の変化を アオコの発生から発見することがあります 4. アオコはなぜ発生するのか? 一般に 生物の成長や生存に第一に重要とされるのは 温度です アオコは 主に夏に発生しますが これはラン藻の増殖が他の植物プランクトンと比べて高い温度で活発になるためと 考えられています また 湖沼での富栄養化が深刻になると アオコが発生するとされています 富栄養化 とは 湖沼に窒素やリンなどの栄養物質が多く流入し その栄養物質を使って植物プランクトンが大量に増殖することです 湖沼には 多くの場合河川が流入していますが 河川は湖沼に土砂を運び込みます この際 窒素やリンなどの栄養物質も湖沼に入ってくるので 自然の状態でも湖沼はいずれ富栄養化します ところが 人間が湖沼の周辺でさまざまな活動を行うと 自然の状態をはるかに越えた量の窒素やリンを使って それらを排出します 排出されたこれらの物質は 河川を通じて湖沼に流入し 富栄養化を引き起こします 富栄養化はいきなり起こるのではなく 徐々に進む過程です そして 富栄養化の最終段階にはラン藻が大増殖してアオコが発生します 窒素とリンは 他の植物プランクトンの増殖にも必要な物質ですから 富栄養化が進行すると他の植物プランクトンが増殖しても良いはずです ところが どういうわけか最終的にはアオコが出ます この理由は 実はまだよくわかっていません ラン藻の増殖に適した環境条件については これまで世界中で活発な研究がおこなわれてきました その結果からも 湖沼に豊富な窒素とリンが存在していることが重要な環境条件だと考えられています ラン藻の増殖に関わる環境条件として 湖水の 滞留時間 もあります 滞留時間とは 河川から湖沼に流入した水が ふたたび湖沼から下流の河川に出て行くまでの間 どれくらい湖沼に留まるかを見つもったものです 実は ラン藻はそれほど増殖のスピードが速くなく 植物プランクトン全体の中では遅い方です ですから ラン藻が増殖してアオコになるためには ある程度長い滞留時間 ( 少なくとも1 週間以上 ) が必要です 逆に アオコの発生を抑えたければ その湖沼の滞留時間を短くして ラン藻が増殖しないうちに流れてしまうようにすれば良いかもしれません また 先にも述べましたが ラン藻は1 日のう 5

ちで鉛直移動します このため ラン藻が増殖するには 安全に鉛直移動できる物理的環境が必要です アオコが良く発生する湖沼に共通して見られる特徴として 日成層 という現象が知られています 日成層とは 湖沼の水が日中だけ一時的に層状構造をつくることです 日本では 水深数メートルから 10 メートルくらいまでの比較的浅い湖沼で 夏に見られる現象です 夏の強い日差しのために これらの湖沼の浅い部分の水は熱せられます しかし 深い部分の水には十分に熱が伝わりません このため 夏の日中は 湖水の浅い部分は温度が高くて軽い水 深い部分は温度が低くて重い水の二層構造となります しかし 夕方から日差しは弱くなりますので 浅い部分の湖水も冷され 夜には浅い湖水と深い湖水が風の作用も手伝って上下に混じりあいます このように 日成層の起きている湖沼では 1 日のうちで湖水が成層と混合を繰り返しています アオコが発生する湖沼では 日成層が起きていることが多いのですが これは日中にラン藻が静かに沈降できて 夜中に速やかに湖水表面に浮上できるためかもしれません また ラン藻は光合成をすることから 増殖のためには光も重要な環境条件です ラン藻は 他の植物プランクトンと比べて 強い光に対する抵抗力があると言われています 5. アオコの分布拡大では アオコが発生している湖沼には いつからラン藻が住み着いたのでしょうか 実は ラン藻は 湖沼から湖沼へと 頻繁に移送されていると考えられています というのも 世界中の淡水湖沼からラン藻を集めて遺伝子を調べても 各々の湖沼でいろいろな遺伝子型が混じりあっていて 地理的なまとまりがあまりみられないためです それでは ある湖にいるラン藻は どうやって遠くはなれた別の池や湖に移動できるのでしょうか 移動する手段の一つは 風 ( 気流 ) です アオコが発生した湖でラン藻を含む水しぶきが舞い上がり それが風で飛ばされて他の湖沼へ運ばれると考えられています 実際 アオコが発生した貯水池から 1 キロメートル離れた場所に空のビンをしばらく置くと そのアオコを作るラン藻がビン から検出されたという研究があります 風速 30 メートルの強風が吹いたときには ラン藻の群体 (1000 細胞以上のかたまり ) もビンから見つかったそうです 次に 水鳥や水生昆虫も 水辺から水辺へ移動するので アオコ ( ラン藻 ) の運び手として注目されています ( 写真 17) ある研究では 野外の水鳥の脚や嘴 タガメの体を洗って その水を培養すると ラン藻の一種ミクロキスティスが増えたそうです また 最近の研究では アオコを飲んだ水鳥の糞を調べた結果 ダメージをほとんど受けていないラン藻 ( ミクロキスティス ) が見つかりました また 野外に落ちている水鳥の糞からもラン藻の遺伝子が見つかっており 水鳥が水や食物を食べるときにアオコを一緒に飲み込み お腹に入れて遠くまで運んだ証拠と考えられます 干潟や海辺を利用する水鳥でも 一時的に淡水の湖沼を利用するものがいます そう考えると かなり多くの種類の水鳥がラン藻をあちこちの湖沼へと運んでいるようです さらに わたしたち人間は いわゆる水資源開発をおこなって さまざまな湖沼 貯水池から導いた水を都市や工場 農地へ供給しています もし 水源の湖や池にアオコが発生していれば アオコの種であるラン藻も水路 パイプラインを通じて別の土地へ運ばれるでしょう しかも 開発の進展にしたがって ラン藻が届けられる範囲は大きく変化していきます ここまでの話から いろいろな 運び手 によってラン藻が活発に移動している様子をご理解いただけたでしょう どの湖や池にもラン藻 ( アオ写真 17: アオコが発生した湖を訪れたコサギ ( ケニア ビクトリア湖,2010 年 8 月 ) 6

コの種 ) は存在し 条件さえ整えばいつでもアオコは発生する もはや そう考える方が自然なのかもしれません 6. 生態系におけるアオコの影響先にも述べたように ラン藻は植物プランクトンです 植物なので これを食べる動物や 分解する微生物がいます いままでに アオコ ( ラン藻 ) を食べる動物として 魚類 ワムシ 原生動物の一部の種類 ( 写真 18) が知られています ですが 多くの動物にとって アオコ ( ラン藻 ) は食べにくい植物です 水中の動物は 食べるのに適した大きさ つまり口に入る大きさのエサを食べます アオコは 植物プランクトンの中では大型なので 多くの動物プランクトンの口に入りません また 上手く口に入れたとしても そのアオコ ( ラン藻 ) が毒を持っていたら 成長や生存に悪影響を及ぼします ワムシや原生動物の中でラン藻を食べるものは 形が崩れて小さくなったアオコを主に食べます これらの動物に対するラン藻の毒の効果は, 今のところ検出されていません 原生動物のアメーバの中には アオコばかり食べるものもいて 自分よりはるかに大きなアオコに取りついて ラン藻の細胞を一つ一つつまみ上げて食べます ( 写真 19) このように ラン藻を食べる動物はいるのですが それにもかかわらずラン藻の大増殖 ( アオコ ) は発生しています おそらく これらの動物がラン藻を食べるスピードは ラン藻が増えるスピードほど速くないため 結局ラン藻の増殖が勝ってアオコが発生してしまうのでしょう ラン藻と水草は 水面に注ぐ光を取りあっているという研究者もいます 先にアオコが発生すると 水面近くに浮いて光を独占するので 水草は光を利用できなくて 光合成できません 先に水草が繁茂するとこの逆のことがおきる というわけです わたしたち人間にとっては いろいろな害のあるアオコはもちろん困ります しかし 水草が大量に繁茂すると船のスクリューにからまって航行できなくなったり 水草が湖沼の水の混合をさまたげるために湖底の酸素が無くなったりします ラン藻も水草も 大量に発生するのは 人間にとっては好ましくありません 湖沼の生態系は 生物の 食う 食われる 関係を介した物質のリサイクル ( 物質循環ともいう ) をおこなっています その出発点は 植物プランクトンです 私たちが湖沼の生態系から得られる魚介類の源は もとをたどれば 植物プランクトンが太陽のエネルギーと水中の栄養分を利用して光合成からつくりだした有機物にほかなりません 湖沼に生息する全ての生物は 天敵に食べられて糞となったり 病気にかかって死んだりした後 微生物によって分解されます 分解により生物の体から放たれた栄養分は再び植物プランクトンによって利用されます このリサイクルがうまく回っていれば その生態系は健全に働いていると言えるでしょう しかし 先に述べたように ラン藻ばかりが増える湖沼では物質のリサイクルがうまく働いていません 動物プランクトンに食べられにくいラン藻が増えると 生態系のもつ本来の 食う- 食われる 関係が損なわれ 植物プランクトンのつくりだした有機物が魚介類までいきわたりにくくなります 結果として 湖沼の中がラン 写真 18: アオコを食べたコロディクチオンという名前のべん毛虫 写真 19: アオコを食べているペナルドクラミスという名前のアメーバ 7

藻だらけになるので 水は濁り 魚介類はあまり増えなくなってしまうのです アオコが発生する原因を理解し さまざまな生物が 食う- 食われる 関係をむすべるような生息環境を整えることができれば 湖沼はきれいな水をたたえ 同時に 豊かな魚介類を育む生態系を取り戻せるかもしれません それが多くの人にとって望ましい姿ではないでしょうか 7. おわりにおそらく ラン藻は 多かれ少なかれどの湖沼にも存在しています そして 条件が整えば 大増殖してアオコが発生します 周りに誰も住んでいない自然の状態でも湖沼の富栄養化は進んでいきます しかし 上流側でわたしたち人間が活動して 湖沼へ栄養分を追加すると 富栄養化はさらに加速し アオコ発生の可能性がますます高くなります 小さい池であれば 一度アオコが出ても消すことができるかもしれません しかし 大きな湖で一度アオコが出ると それを消すことは簡単ではなく 時間や費用がかかります もちろん 上流域からの栄養分の流入量を減らしたり 湖沼に浮かぶアオコを除去するといった対策は 可能なかぎりおこなうべきです しかし いったんアオコが発生してしまったら しばらくの間アオコと付き合わなければならないのも事実です アオコによる被害を受けないように アオコとうまく付き合っていくためには まずアオコのことを良く知ることが大切です この小冊子がそのための一助になればと思います 関連する文献 1) 彼谷邦光 (2001) 飲料水に忍びよる有毒シアノバクテリア, 裳華房. 2) 渡辺真利代 原田健一 藤木博太編 (1994) アオコ その出現と毒素, 東京大学出版会. 3) 渡邊眞之 (2007) 日本アオコ大図鑑, 誠文堂新光社. 4) 廣石伸互ほか (2005) 有毒アオコの分子生態学 ミクロシスチンを中心に ( 総特集 ), 海洋, 37(5), 309-385, 海洋出版. 関連するウェブサイト 1) アオコをつくる藍藻 ( 国立科学博物館 ) http://research.kahaku.go.jp/botany/aoko/aoko.html ( 国立科学博物館の デジタル学習コンテンツ のひとつ アオコをつくるラン藻について解説 ) 2) 見た目アオコ指標 ( 国立環境研究所 ) http://www.nies.go.jp/kanko/gyomu/pdf/972302/972302-5-1.pdf ( アオコの計量と発生状況, 発生機構 -アオコ指標検討会資料 ( 国立環境研究所資料 F- 72-'95/NIES) 1995 年発行の国立環境研究所業務報告 ) 3) デジタル教材 アオコ大発生の秘密 (NHK) http://www.nhk.or.jp/rika/micro/index_2008_007.html (NHK for School ミクロワールド (2008 年第 7 回 ) 5 分間の映像を閲覧できる ) 本冊子は下記サイトからダウンロードできます http://www.ecology.kyoto-u.ac.jp/~nakano/index.html 本冊子に関するご感想やお問い合わせは中野伸一 ( 京都大学生態学研究センター ) まで 郵送 ( 下記住所 ) 電子メール (nakano ecology.kyoto-u.ac.jp) でお願いします 注 1) どちらの呼び方でもかまいませんが 本冊子では以降 ラン藻 で統一しています 注 2) アオコは 少しくらいなら手で触れても害のない場合が多いですが ときどき皮膚がかぶれるような場合があります 採水の時には ビニールの手袋をすると良いでしょう もし アオコに触れたときには よく手を洗ってください アオコを含む水に触れた手で 目 口 鼻などを触らないようにしてください また アオコが発生している水域で泳いだり その水を直接飲むことは避けてください 注 3) 細菌と言えば 大腸菌を思い浮かべる人が多いと思います 大腸菌は自ら有機物を作ることはできず 他の生物が作った有機物を食べて生きています これを従属栄養生物と言います 他方 ラン藻は 光合成ができる細菌で 自分で有機物を作る生物です これを独立栄養生物といいます アオコってなに? -ラン藻の大発生についてもっと知るために- 作成日 : 2012 年 2 月 14 日発行所 : 京都大学生態学研究センター 520-2113 大津市平野 2 丁目 509-3 監修 : 中野伸一 田中拓弥編集 : 天野一葉 大林夏湖 奥田昇 片岡剛文小林由紀 近藤竜二 高尾祥丈 田辺雄彦廣石伸互 程木義邦 本間隆満 渡邉信 ( 五十音順 ) 本冊子は 環境省環境研究総合推進費 D-0905 アオコの分布拡大に関する生態 分子系統地理学的研究 の支援を受けて作成された 本冊子の内容には同研究プロジェクトによる成果の一部を含む 8