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論文リートベルト法により定量したセメントクリンカーの鉱物組成とセメント品質との関係 佐川孝広 *1 西村信二 *2 灰原智 *3 *4 橋本敏英 要旨 :X 線回折リートベルト法を用いて, クリンカーの化学組成と鉱物組成, セメントの鉱物組成とモルタル圧縮強さ, 早強セメント中の石こう半水化率とモルタルの流動性の関係について検討した リートベルト法により定量したクリンカーの鉱物組成は, 顕微鏡ポイントカウント法とほぼ等しく, ボーグ式により求めた鉱物組成とは異なった また, クリンカー中の MgO 含有量によりエーライトの格子定数やアルミネート, フェライト量が変化した 早強セメント中のエーライト量とモルタル圧縮強さには相関が認められた 早強セメントの石こう半水化率が高いほど, モルタルの流動性は優れていた キーワード : セメント, リートベルト法, 鉱物組成, 半水石こう, 圧縮強さ, 流動性 1. はじめにセメントの品質は, 鉱物組成や粉末度によりコントロールされている 従来は, セメント中の各鉱物量はボーグ式により算出する場合がほとんどであった しかし, ボーグ式により求めた鉱物組成はセメント中の微量元素の影響やクリンカーの焼成状態等は考慮されておらず, ポイントカウント法等の直接的な鉱物量の測定結果とは大きく異なる場合があることが指摘されている 1) 近年, セメント鉱物やセメント水和物の直接的な定量方法として, 粉末 X 線回折リートベルト法が注目されている 2~7) リートベルト法による鉱物の定量は, 試料調製が比較的容易であることや測定の個人差が出にくいこと, 従来の検量線法に比べ精度が高いこと, 定量と同時に鉱物の結晶構造の変化を捉えることも可能であること等から, セメント品質管理への適用が期待されている また, セメント中の石こうの種類は, モルタルやコンクリートの流動性に影響を及ぼすといわれている 半水石こうによるセ メントの偽凝結現象はよく知られているが, ナフタレン系やポリカルボン酸塩系減水剤共存下での半水石こうと流動性の関係には諸説があり 8,9), 更なる検討が必要と考えられる そこで, 本研究では, 実機クリンカーの化学組成とリートベルト法により求めた鉱物組成や, エーライト結晶構造との関係について検討した また, 実機セメントの鉱物組成とモルタル圧縮強さとの関係や, 早強セメント中の石こう半水化率 (2 水と半水石こうの合計 SO 3 量に対する半水石こうの SO 3 量の割合 ) とモルタルの流動性との関係についても検討を行った なお, 以下ではセメント鉱物であるエーライト (3CaO SiO 2 ), ビーライト (2CaO SiO 2 ),3CaO Al 2 O 3 および 4CaO Al 2 O 3 Fe 2 O 3 をそれぞれ C 3 S, C 2 S,C 3 A および C 4 AF の略記号を用いて表した 2. 実験概要 2.1 測定試料測定試料は, 表 -1に示す範囲の化学組成及び諸率 ) の実機クリンカーおよび, 表 -2に示 *1 日鐵セメント ( 株 ) 研究開発部研究開発グループ ( 正会員 ) *2 日鐵セメント ( 株 ) 研究開発部品質管理グループ *3 日鐵セメント ( 株 ) 研究開発部品質管理グループ *4 フジコンサルタント ( 株 ) 試験研究部

す範囲の粉末度,SO 3 量の実機セメントとした 2.2 セメント鉱物の定量 X 線回折測定用の試料は, 振動ミルで平均粒径 6μm 程度まで微粉砕した X 線回折の測定条件は, ターゲット CuKα, 管電圧 40kV, 管電流 40mA, 走査範囲 2θ~, ステップ幅 0.02,1 ステップ計数時間 1 秒, 発散スリット, 散乱スリット 1, 受光スリット 0.3mm, 回転試料台, モノクロメーターを使用して行った リートベルト解析は, 泉の配布する RIETAN-00 の内部パラメーターを拡張して用いた 11) 解析の対象とした鉱物は, クリンカー試料については C 3 S(MⅢ),C 2 S(β 型 ),C 3 A( 立方晶 ),C 4 AF,f-CaO, Periclase( 遊離 MgO) とし, セメント試料はこれらに加え 2 水, 半水石こうとした セメント鉱物は主要成分を扱うこととし, 他の変態, 固溶体については考慮しないこととした セメント鉱物の結晶構造データの初期値は, 文献 12)~15) の値を用いた なお,2 水石こうおよび半水石こうのメインピークは 2θ 以下にあるが, 予備実験の結果, 本研究の範囲内ではパターンフィッティング法であるリートベルト解析の走査範囲が ~ と ~ で同程度の定量結果となった したがって本研究での測定条件は ~ とした また, 一部のクリンカー試料については鏡面研磨試料を作製し, 反射顕微鏡にて 00 点程度のポイントカウントを行いセメント鉱物を定量した 2.3 モルタル圧縮強さモルタル圧縮強さ試験は,JIS R51 セメントの物理試験方法に準じて行った 2.4 セメントの流動性早強セメントの流動性をモルタルにて評価した 細骨材は表乾密度 2.69g/cm 3, 吸水率 1.57% の陸砂を, 細骨材比 1.9 で用いた モルタルの配合は, 水セメント比 35%, ポリカルボン酸塩系高性能 AE 減水剤を 0.5% 添加した モルタルの混練はホバードミキサーを用い, 細骨材とセメントを 秒間空練りし, 水および混和剤投入 表 -1 クリンカー試料の化学組成と諸率の範囲 化学組成 (%) SiO 2 Al 2 O 3 Fe 2 O 3 CaO MgO SO 3 21.0~ 22.6 4.7~ 5.7 2.6~ 3.2 65.1~ 67.9 1.1~ 2.6 0.0~ 0.6 諸率 HM SM IM 2.12~ 2.34 2.48~ 3.02 1.61~ 1.97 表 -2 セメント試料の粉末度と SO 3 量の範囲 セメント 普通 早強 Braine (cm 2 /g) 3130~ 33 4540~ 40 SO 3 (%) 1.~ 1.93 2.80~ 3.13 して 1 分間練り混ぜた モルタルの流動性は,JIS A1171 に準拠したミニスランプコーンのスランプ値を練り直後,15 分,30 分経過後に測定した 3. 実験結果および考察 3.1 リートベルト解析粉末 X 線回折リートベルト法による鉱物の定量は, 対象鉱物の構造モデルを仮定して回折プロファイル強度を計算し, パターン全体をフィッティングする方法である リートベルト法により得られる定量値は, 結晶構造データの初期値や, 解析に用いるソフトウェアが異なると同じ測定データを解析しても最終的に得られる定量値が異なる場合があり, 解析は結晶構造データ初期値の標準化が必要である また, 含有量の少ない鉱物を定量する場合には, 格子定数, 選択配向等のパラメーターを全て精密化すると計算が無意味な値へ収束する可能性が高くなる したがって, 含有量の少ない鉱物においては, 得られた定量値の絶対値には十分な注意が必要と考えられる 6) なお, 本実験の解析においては,C 3 S,C 2 S については格子定数, 選択配向, プロファイル関

数に関するパラメーターを,C 4 AF は格子定数のみを精密化し,C 3 A についてはこれらのパラメーターをすべて固定し, スケールファクターのみを精密化したことから, 計算の無意味な値への収束は防がれていると考えられる 本研究ではまず, リートベルト法で得られる定量値の妥当性を検討するために, クリンカー試料のポイントカウント法で得られる定量値との比較検討を行った 図 -1にクリンカー試料の C 3 S, C 2 S のリートベルト法とポイントカウント法の定量値の関係を示す 一定のバイアスはあるものの, ポイントカウント法とリートベルト法による定量値はほぼ同程度であった したがって, 本研究でのリートベルト法による定量は, ポイントカウント法と比較しても十分な妥当性を有していると考えられる 3.2 クリンカーの鉱物組成クリンカー試料について, リートベルト法による各鉱物の定量値と, 化学組成から算出したボーグ式との比較を図 -2から図-5にそれぞれ示す ( データ数 :0) 図 -2, 図 -3に示すように,C 3 S,C 2 S とも, ボーグ式とリートベルト法の定量値には相関が認められたが,C 3 S はボーグ式により求めた値よりもリートベルト法で測定した値の方が大きく,C 2 S はリートベルト法での定量結果の方がボーグ式で算出した値よりも小さくなる傾向にあった また図 -4, 図 -5に示すように C 3 A, C 4 AF については, ボーグ式とリートベルト法の定量値に相関は認められなかった また, クリンカー中の MgO,SO 3 等の少量成分がクリンカー鉱物組成に影響を及ぼすことはよく知られている MgO は C 3 S 中の CaO と置換固溶し, クリンカー中の C 3 S は相対的に多くなること, リートベルト法により定量した C 3 A, C 4 AF 量は MgO の影響を受けること等が明らかにされている 2~5) 図 -6にはクリンカー中の MgO 量と間隙質相中の C 3 A の割合との関係を示す なお,MgO C3S( リートベルト ) (%) C2S( リートベルト ) (%) 80 75 65 15 5 65 75 80 C 3 S( ポイントカウント ) (%) 5 15 C 2 S( ポイントカウント ) (%) 図 -1 ポイントカウント法とリートベルト法による定量値の比較 量と間隙質相量には, 明確な関係は認められなかった MgO 量が 1.8% 程度を境に,1.8% 程度以下では MgO の増加にともない C 3 A が減少し C 4 AF が増加する 1.8% 程度以上では逆に C 4 AF が減少し C 3 A が増加する傾向が認められた ボーグ式では捉えられない C 3 A 量の変動は,MgO が関係していることが考えられる なお, これら鉱物組成の変化がセメントの水和反応性へも影響を及ぼすことが考えられるが, その関連については今後の検討が必要である また,MgO の C 3 S への固溶により,C 3 S の結晶構造は変化するといわれている 2,3,5) 図-7 にクリンカー中の MgO 量と C 3 S c 軸との関係を示す 図 -7より, クリンカー中の MgO が多くなるにともない,C 3 S c 軸の長さが小さくなる傾向が観察された MgO の固溶が C 3 S の水和活性へ影響を与えることも考えられ, 今後デー

C 3 S( リートベルト ) (%) 85 80 75 65 55 55 65 75 80 85 C 3 S( ボーグ ) (%) 図 -2 ボーグ式とリートベルト定量値の関係 (C 3 S) C 2 S ( リートベルト ) (%) 25 15 5 0 0 5 15 25 C 2 S( ボーグ ) (%) 図 -3 ボーグ式とリートベルト定量値の関係 (C 2 S) C 3 A( リートベルト ) (%) 12 8 6 4 4 6 8 12 C 3 A( ボーグ ) (%) 図 -4 ボーグ式とリートベルト定量値の関係 (C 3 A) 11 0.65 1.8 C 4 AF( リートベルト ) (%) 9 8 7 C3A/(C3A+C4AF) 0.55 0.45 0.35 C3S c 軸 (nm) 1.858 1.856 1.854 6 6 7 8 9 11 C 4 AF( ボーグ ) (%) 0.25 1.0 1.4 1.8 2.2 2.6 クリンカー中の MgO 量 (%) 1.852 1.0 1.4 1.8 2.2 2.6 クリンカー中の MgO 量 (%) 図 -5 ボーグ式とリートベルト定量値の関係 (C 4 AF) 図 -6 MgO 量と間隙質相中の C 3 A 比との関係 図 -7 MgO 量と C 3 S c 軸 との関係 圧縮強さ (N/mm 2 ) 50 40 30 σ3 σ7 σ28 圧縮強さ (N/mm 2 ) 80 50 40 30 σ1 σ7 σ3 σ28 R 2 = 0.4758 R 2 = 0.6879 R 2 = 0.7868 R 2 = 0.6 65 75 普通セメント中の C 3 S ( リートベルト ) (%) 74 76 78 80 早強セメント中の C 3 S( リートベルト ) (%) 図 -8 リートベルト法による C 3 S 定量値とモルタル圧縮強さとの関係 タの蓄積により水和反応との関係についても検討できると思われる 3.3 モルタル圧縮強さ図 -8に普通セメントと早強セメントのリートベルト法による C 3 S 定量値とモルタル圧縮強 さとの関係を示す 普通セメントの圧縮強さは C 3 S 量と相関が認められないが, 早強セメントについては, いずれの材齢とも C 3 S 量の増加にともなってモルタル圧縮強さが増加する傾向が認められた 普通セメントでは, セメントの粉

末度やビーライト反応性等も影響することから, C 3 S 量のみではモルタル圧縮強さを評価できないと考えられる なお, 普通, 早強セメントとも, ボーグ式により求めた C 3 S 量とモルタル圧縮強さに相関は認められなかった 早強セメントについては, リートベルト法により正確な C 3 S 量を定量することで, モルタル圧縮強さを推定できる可能性があると考えられる 3.4 セメントの流動性セメント中の石こうの種類と流動性の関係については, これまでに数多くの報告がある 半水石こうによる偽凝結現象はよく知られているが, ポリカルボン酸塩系減水剤共存下での流動性は硫酸イオン量と関係があり, 半水石こうは液相中の硫酸イオン濃度を高め, 流動性を悪化されるともいわれている 8) 一方で, 石こうの半水化率が高いほどセメントの流動性は向上するとの報告もあり 9), 半水石こうとセメントの流動性については, 更なる検討が必要であると考えられる セメント中の石こうの定量は, 熱分析による方法が報告されているが, 定量操作が煩雑であったり装置に特殊な加工が必要であった 16) リートベルト法では, 各セメント鉱物の定量と同時に石こうについても簡便に精度よく定量を行えることから, 石こうの半水化率とセメントの流動性について検討するこことした また, 早強セメントは粉末度が高く,SO 3 量も多いことなどから, 流動性に及ぼす石こうの影響がより顕著に表れると考え, 早強セメントを用いて検討することとした 流動性の評価は, 実験概要に示した配合のモルタルを用い,JIS A1171 に規定される高さ 15cm のミニスランプコーンのスランプ値を測定した ここで, 測定値の評価方法として, 次の式で示される流動指数という指標を考案した 0分値 15分値 30分値 ( 流動指数 ) = 15cm 0分値 0分値 この流動指数は数値が大きいほど, 練り直後 2 [1] 悪い 流動指数 良い 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 40 50 80 90 0 石こう半水化率 (%) 図 -9 早強セメントの石こう半水化率と 流動指数との関係 のスランプ値が大きく, スランプ値の経時低下が小さいことを示す また, 練り直後から 15 分経過後のスランプ値の低下に重み付けを行い, [1] 式右辺第二項を自乗した さらに, 経過時間とともにスランプ値が大きくなる, いわゆる後伸びの現象を示す場合には流動指数は 1.0 以上となるが, これは全て 1.0 として評価した なお, モルタルの混練時間を 1 分から 2 分と増やした場合には, スランプ値の後伸び現象は認められず, 経時低下も小さかった 図 -9に石こうの半水化率と流動指数との関係を示す ( データ数 :65) 半水化率が高いほど流動指数は大きく, 石こうの半水化率が高いほどセメントの流動性は向上する傾向を確認できた ただし同程度の半水化率でも流動指数のばらつきは大きく, 半水石こうのα,β 型等の形態 16) や SO 3 量等も影響していることが考えられる 4. まとめ本研究で得られた結果を以下に示す (1) リートベルト法とポイントカウント法によるクリンカー中の C 3 S,C 2 S の定量値は, 若干のバイアスはあるものの, ほぼ同程度であった (2) クリンカー試料の, リートベルト法とボーグ式により求めた各鉱物定量値を比較すると,

C 3 S はボーグ式により求めた値よりもリートベルト法で測定した値の方が大きく,C 2 S はリートベルト法での定量結果の方がボーグ式で算出した値よりも小さくなる傾向にあった C 3 A および C 4 AF については, リートベルト法とボーグ式の定量値に相関は認められなかった (3) クリンカー中の MgO 量により, 間隙質相中の C 3 A の割合が変化する傾向が観察された (4) クリンカー中の MgO 量と,C 3 S の c 軸の値に非常に高い相関が認められた (5) 早強セメントの C 3 S 量とモルタル圧縮強さには, 全ての材齢で相関が認められた 普通セメントでは相関は認められなかった (6) セメントの流動性を表す流動指数を定義し, 早強セメント流動性を評価した結果, 石こう半水化率が高いほどセメントの流動性は優れていることを確認した 謝辞 : 本研究を行うにあたり, 日鐵セメント ( 株 ) 青由起雄氏, 川西謙司氏にご助力頂きました ここに感謝の意を表します 参考文献 1)L.P.Aldridge: Accuracy and precision of phase analysis in Portland cement by Bogue, microscopic and X-ray diffraction methods, Cement and Concrete Research, Vol.12, No.3, May, pp.381-398, 1982 2) 吉野亮悦, 住田守 :Rietveld 法によるセメント鉱物の定量, セメント コンクリート論文集, No.53, pp.84-89, 00.2 3) 吉野亮悦, 荒野憲之, 西岡朝明 : セメントクリンカーの鉱物組成と製造条件の関係, セメント コンクリート論文集,No.56, pp.2-8, 03.2 4) 伊藤貴康, 真崎克彦, 五十嵐秀明 : リートベルト法により定量したアルミネート相とセメントの初期水和反応特性, セメント コンクリ ート論文集,No.56, pp.29-35, 03.2 5) 伊藤貴康, 山腰享弘, 弓削祐夫 : リートベルト法により得られるエーライトの量および結晶構造とセメント品質との関係, セメント コンクリート論文集,No.57, pp.2-9, 04.2 6)A.G.De la Torre, M.A.G.Aranda: Accuracy in Rietveld quantitative phase analysis of Portland cements, J.Appl.Cryst., 36, pp.1169-1176, 03 7) 佐川孝広ほか : セメント鉱物の反応率に及ぼす水セメント比と養生条件の影響, セメント コンクリート論文集,No.58, pp.23-30, 05.2 8) 菅谷秀幸, 後藤孝治 : 半水セッコウとセメントペーストのこわばりに関する一考察, セメント コンクリート論文集,No.54, pp.15-21, 01.2 9) 一坪幸輝ほか : 半水石膏化率の異なるセメントの流動性と初期水和, 第 58 回セメント技術大会講演要旨,pp.16-17, 04.4 ) セメント協会 :C&C エンサイクロペディア, pp.67-68, 1996.7 11)F.Izumi and T.Ikeda: Mater. Sci. Forum, pp.321-324, 00 12)F.Nishi and Y.Takeuchi: Tricalcium silicate Ca 3 - O[SiO 4 ]: The monoclinic superstructure, Zeit. Krist., 172, pp.297-314, 1985 13) 平野義信ほか : 選択溶解法によるビーライトの分離とそのキャラクタリゼーション, セメント コンクリート論文集,No.45, pp.40-45, 1991.12 14)Y.Takeuchi et.al: Crystal-chemical characterization of the 3CaO Al 2 O 3 -Na 2 O solid-solution series, Zeit. Krist., 152, pp.259-307, 1980 15) 鶴見敬章ほか : セメントクリンカー中のアルミネート相とフェライト相の選択抽出とその結晶構造解析, セメント コンクリート論文集, No.46, pp.50-55, 1992.12 16) 小澤尚志ほか : セメントに含有されるセッコウの多形の解析, 無機マテリアル,Vol.5, Jul., pp.283-289, 1998