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前立腺肥大症に合併した過活動膀胱の治療 柿崎秀宏 谷口成実 沼田篤 安住誠 芳生旭辰 旭川医科大学泌尿器科学講座 Treatment of overactive bladder associated with benign prostatic hyperplasia KEY WORDS: 前立腺肥大症 過活動膀胱 α 1 ブロッカー 抗ムスカリン薬 はじめに前立腺肥大症 (benign prostatic hyperplasia 以下 BPH) に伴う下部尿路症状 (lower urinary tract symptoms 以下 LUTS) の頻度は高い 海外の疫学調査では 50 歳以降の男性において中等症から重症の LUTS が 4 人に1 人の割合でみられている 1,2) LUTS は男性に特異的な症状ではなく 女性でも加齢に伴って LUTS が増加する 3) しかし前立腺を有する男性では 50 歳以降の同年代の女性に比較して排尿症状が有意に強く 一方蓄尿症状にはほぼ男女差がないのが特徴である 3) 臨床的な BPH の約半数に過活動膀胱が合併する 本稿では まず BPH の病態について概略を述べた上で BPH に合併した過活動膀胱の治療について解説する Ⅰ.BPHの病態臨床的な BPH は 前立腺肥大により引き起こされる LUTS という単純な疾患ではなく LUTS 前立腺腺腫(benign prostatic enlargement 以下 BPE) 膀胱出口部閉塞 (bladder outlet obstruction 以下 BOO) という3つの要素がさまざまな程度に交錯する疾患として理解されている ( 図 1) 3つの輪が重なる部分が古典的な BPH の概念であったが 実際に LUTS を訴えて病院を 1

受診する患者の中には BPE もなく またウロダイナミクスという詳細な下部尿路機能検査を行っても BOO が証明されないケースも少なくないことがわかってきた LUTS がありながら 検査上 BPE も BOO もない場合には 膀胱機能異常が LUTS の原因であることが少なくない 膀胱機能異常には 排尿筋過活動 ( 蓄尿中に不随意的な排尿筋の収縮が起こる現象 ) と排尿筋収縮力低下があり この両者の合併という病態も存在する このように 50 歳以降の男性で LUTS を訴える場合には 前立腺のみでなく 膀胱機能異常にも配慮することが大切である 下部尿路閉塞により過活動膀胱が発生する機序は複雑であり 神経性因子 筋原性因子 そして膀胱の高圧環境に伴う虚血性因子が関与する ( 図 2) Ⅱ. 前立腺肥大症に合併する過活動膀胱の治療 BPH に合併する過活動膀胱に対する治療指針を表 1に示す α 1 ブロッカーを使用し 過活動膀胱の症状が改善しない場合には残尿をモニタリングしながら 抗ムスカリン薬を併用するなど 安全性に配慮しながら治療内容を変更する慎重な姿勢が重要である 薬物療法で過活動膀胱の症状が改善しない場合には 泌尿器科専門医へのコンサルトが不可欠である 1.α 1 ブロッカー BPH に伴う LUTS の薬物治療の第 1 選択として α 1 ブロッカーが広く使用されている α 1 ブロッカーは効果発現が早く 4 週間投与で有意に症状が改善し 投与後 2~3ヶ月でほぼ最大の効果が発現し その後も効果が持続する 4,5) 国際前立腺症状スコア(international prostatic symptom score 以下 I-PSS) を用いた効果判定では 一般的にα 1 ブロッカー投与により症状スコアは約 40% 改善する 4,5) α 1 ブロッカーであるナフトピジルを用いた著者らの検討では I-PSS による自覚症状 QOL 最大尿流率の領域別の有効性は 有効以上がそれぞれ 34.7%, 20.4%, 20.7% であり やや有効以上がそれぞれ 61.2%, 67.4%, 41.2% であった 全般治療効果は 有効以上 20.7%, やや有効以上 62.1% であった ( 排尿障害臨床試験ガイドラインの判定基準による有効性 ) 5) 2

α 1 ブロッカーにより 排尿症状のみならず蓄尿症状 ( すなわち過活動膀胱の症状 ) も改善する α 1 ブロッカーによる蓄尿症状の改善には BOO の改善による間接的な効果と膀胱平滑筋および脊髄への直接作用の両方が指摘されている 前者の間接的な効果は α 1 ブロッカーが BOO を改善することにより排尿圧が低下し 蓄尿時の膀胱平滑筋機能が改善して蓄尿症状が軽減するという機序によるものである しかし 一般的にα 1 ブロッカーによる閉塞の改善効果はウロダイナミクス的には軽度であり 6) α 1 ブロッカーによる蓄尿症状の改善は主として膀胱平滑筋や脊髄に対する直接作用によりもたらされることが推測される 前立腺間質 ( 平滑筋を多く含む ) には α 1 受容体のサブタイプのうちα 1a 受容体が最も多く ヒトの膀胱平滑筋にはα 1d 受容体がもっとも多い またヒトの脊髄では 特に排尿中枢として重要な仙髄の領域にはα 1d 受容体が多く分布することが報告されている 現在頻用されているα 1 ブロッカーには α 1d 受容体に選択性が高いナフトピジルと α 1a 受容体に選択性の高いタムスロシンがある したがって ナフトピジルとタムスロシンでは蓄尿症状の改善効果が異なる可能性が推測されるが 両薬剤の効果には大きな違いは認められていない 一方 ナフトピジルとタムスロシンのどちらかを投与され QOL スコアが改善しなかった例において 他剤に変更後に症状の一部が改善し QOL スコアも改善することが報告されている 今後 個々の患者においてどのα 1 ブロッカーの使用が望ましいかを判断できるようなエビデンスの集積を期待したい 2.α1 ブロッカーと抗ムスカリン薬の併用 α 1 ブロッカーを2~3ヶ月投与しても 過活動膀胱の症状が改善しない場合には 抗ムスカリン薬の併用を考慮する ただし 抗ムスカリン薬使用により排尿困難 残尿の増加 尿閉などの合併症が発生する可能性があるため 7) 投与前に超音波を用いて残尿量を計測し 残尿が 50ml 未満の場合に抗ムスカリン薬を併用する もし残尿が 50ml 以上と多い場合には 泌尿器科専門医への紹介が望ましい また抗ムスカリン薬投与後に残尿が増加する可能性もあるため 抗ムスカリン薬投与後にも残尿をモニタリングする必要がある これまでの国外の報告では あらかじめウロダイナミクスを行い BOO が軽度と判 3

定された場合には α 1 ブロッカーと抗ムスカリン薬の併用はα 1 ブロッカー単独より有効性が高いとされている 8) また 残尿率 30% 未満の患者を対象とすると α 1 ブロッカーと抗ムスカリン薬の併用は投与後に残尿がやや増加するものの 重篤な副作用はなく α 1 ブロッカー単独より過活動膀胱の症状の改善がより良好であることが報告されている ( 表 2) 9) 3. 抗ムスカリン薬単独使用少数例を対象とした検討ながら α 1 ブロッカーの failure 例 ( 副作用あるいは無効例 ) において 抗ムスカリン薬単独使用が有効かつ安全であることが最近報告された 10) I-PSS で判定した自覚症状のみならず 膀胱容量の増加に伴って最大尿流率 ( 尿勢の客観的指標 ) が改善し 残尿の増加はみられなかった BPH における抗ムスカリン薬の使用に関して慎重な姿勢をとってきたこれまでの常識を覆すような結果であり 今後多数例における かつプラセボを用いた二重盲検比較試験の施行が望まれる 4. 下部尿路閉塞解除のための手術療法先に述べたように α 1 ブロッカーによる BOO の改善効果はウロダイナミクス的には軽度であるが 手術療法は閉塞の解除において劇的な効果をもつ 薬物治療の限界 あるいは手術的治療への切り替え時期については 種々の議論がなされている 11) BPH に対する手術的治療には 低侵襲治療として前立腺レーザー治療 高温度治療などがあるが 経尿道的前立腺切除術 (transurethral resection of prostate 以下 TURP) は BPH に対する手術治療の gold standard である TURP により I-PSS は 65~70% 改善する 12) (α 1 ブロッカーでは約 40% の改善 ) TURP の効果は 術前の BOO の有無のみでは差がなく また術前の排尿筋過活動の有無のみでも差がないことが報告されている 12) しかし 術前に明らかな BOO がなく かつ排尿筋過活動を合併する症例では TURP 後の症状改善が不良である 12) 術前に明らかな BOO がなく かつ排尿筋過活動を合併する症例では TURP 後も排尿筋過活動が残存する確率が 60% と高いのが原因と思われる 一方 BOO に伴う排尿筋過活動は TURP により 70% の症例で排尿 4

筋過活動が術後消失するため TURP による症状改善が良好である このよう に 前立腺肥大症に伴う過活動膀胱の症状が TURP により改善するかどうかは ウロダイナミクスを行うことにより outcome を予測することが可能である おわりに BPH に伴う過活動膀胱に対する薬物療法と手術療法について概説した BPH は QOL 疾患であるため 患者の希望が最優先される必要があるが 安全性と有効性 そして長期成績を踏まえて治療法を提示することが重要である 文献 1. Garraway WM, Collins GN, Lee RJ: High prevalence of benign prostatic hypertrophy in the community. Lancet 338: 469-471, 1991 2. Chute CG, Panser LA, Girman CJ, et al: The prevalence of prostatism: a population-based survey of urinary symptoms. J Urol 150: 85-89, 1993 3. Kakizaki H, Matsuura S, Mitsui T, et al: Questionnaire analysis on sex difference in lower urinary tract symptoms. Urology 59: 58-62, 2002 4. Kakizaki H, Koyanagi T: Current view and status of the treatment of lower urinary tract symptoms and neurogenic lower urinary tract dysfunction. BJU Int 85 (Suppl. 2): 25-30, 2000 5. 柿崎秀宏 田中博 守屋仁彦 他 : 前立腺肥大症に伴う排尿障害の治療におけるナフトピジルの有効性. 泌尿器外科 18: 825-831, 2005 6. Rossi C, Kortmann BBM, Sonke GS, et al: α -blockade improves symptoms suggestive of bladder outlet obstruction but fails to relieve it. J Urol 165: 38-41, 2001 7. 斉藤博 山田拓己 大島博幸 他 : 頻尿 尿失禁を合併する前立腺肥大症患者に対する塩酸タムスロシン ( ハルナールカプセル ) 単独投与と塩酸プロピベリン ( バップフォー錠 ) と塩酸タムスロシン併用投与の有効性と安全性の比較検討. 泌尿器外科 12: 525-536, 1999 8. Athanasopoulos A, Gyftopoulos K, Giannitsas K, et al: Combination 5

treatment with an α-blocker plus an anticholinergic for bladder outlet obstruction: a prospective, randomized, controlled study. J Urol 169: 2253-2256, 2003 9. Lee KS, Choo MS, Kim DY, et al: Combination treatment with propiverine hydrochloride olus doxazosin controlled release gastrointestinal therapeutic system formulation for overactive bladder and coexisting benign prostatic obstruction: a prospective, randomized, controlled multicenter study. J Urol 174: 1334-1338, 2005 10. Kaplan SA, Walmsley K, Te AE: Tolterodine extended release attenuates lower urinary tract symptoms in men with benign prostatic hyperplasia. J Urol 174: 2273-2276, 2005 11. 田中博 柿崎秀宏 柴田隆 他 : 保存的療法の限界 ( インターベンションへの切り替え時期 ). 排尿障害プラクテイス 10: 315-321, 2002 12. Machino R, Kakizaki H, Ameda K, et al: Detrusor instability with equivocal obstruction: a predictor of unfavorable symptomatic outcomes after transurethral prostatectomy. Neurourol Urodyn 21: 444-449, 2002 6

図 1 前立腺肥大症の構成要素 下部尿路症状 LUTS 腺腫 BPE 閉塞 BOO

図 2 下部尿路閉塞に伴う過活動膀胱の発生機序 膀胱伸展 高圧 虚血 尿道伸展 膀胱壁の部分除神経 Ach に対する収縮反応増加 膀胱平滑筋の変化 平滑筋間隙低下 平滑筋易刺激性 上皮細胞から ATP/NO/PG 放出 C 線維求心路の活動亢進 仙髄 膀胱壁 NGF の増加 求心路 遠心路の神経肥大 尿道求心路の活動亢進 C 線維を介した排尿反射路の再構築 過活動膀胱

表 1 BPH に伴う過活動膀胱の治療指針 α 1 ブロッカー単独 : 初期治療 ( 第 1 選択 ) α 1 ブロッカーと抗ムスカリン薬の併用 : 抗ムスカリン薬単独 : 手術療法 : 残尿が少ないことを確認して抗ムスカリン薬を開始する α 1 ブロッカーの failure 例 ( まだ例外的使用と考えるべき ) 薬物療法中に尿路合併症が発生した場合 α 1 ブロッカーの failure 例 BOO の高度な例 BPE の高度な例

表 2 α 1 ブロッカー ( ドキサゾシン ) と抗ムスカリン薬 ( プロピベリン ) の併用効果 (8 週間投与 ) 昼間の排尿回数 夜間の排尿回数 1 回最大排尿量尿流率残尿 (ml) (ml/s) (ml) ドキサゾシン (4mg/ 日 ) 単独群 (n=67) 8.5 7.6* 2.2 1.6* 164 196* 10.5 12.2* 30.8 26.1 ドキサゾシン (4mg/ 日 ) プロピベリン (20mg/ 日 ) 併用群 (n=131) 8.8 6.9** 2.2 1.5* 170 224** 10.4 11.4* 28.8 49.6* * 投与前に比較し 有意な変化あり ** ドキサゾシン単独群より有意な改善あり