(検3)5.構成員資料1.寺本班基本資料 特定健診検討会(脂質)寺本班(案)ver2

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標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

1-A-1[016-20].indd

Microsoft Word - 44-第4編頭紙.doc

PowerPoint プレゼンテーション

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厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

現況解析2 [081027].indd

(6/5 19:00修正)資料3 標準的な健診・保健指導プログラム改定のポイント (2) (2)

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

「長寿のためのコレステロール ガイドライン2010 年版」に対する声明

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

EBM と臨床 ( その 2)

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

,995,972 6,992,875 1,158 4,383,372 4,380,511 2,612,600 2,612, ,433,188 3,330, ,880,573 2,779, , ,

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スライド 1

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Microsoft PowerPoint - 2.医療費プロファイル 平成25年度(長野県・・

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第 90 回 MSGR トピック : 急性冠症候群 LDL-C Ezetimibe 発表者 : 山田亮太 ( 研修医 ) コメンテーター : 高橋宗一郎 ( 循環器内科 ) 文献 :Ezetimibe Added to Statin Theraphy after Acute Coronary Syn

座談会 Round Table Discussion 末梢動脈疾患におけるこれからの脂質低下療法を考える PAD に対しては, 脚の病変部分だけでなく, 冠動脈疾患や脳血管障害の予防を見据えた治療対策を常に考慮しておく必要があります 中村正人 ( 座長 ) 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

Q2 はどのような構造ですか? A2 LDL の主要構造蛋白はアポ B であり LDL1 粒子につき1 分子存在します 一方 (sd LDL) の構造上の特徴はコレステロール含有量の減少です 粒子径を規定する脂質のコレステロールが少ないため小さく また1 分子のアポ B に対してコレステロールが相対

脂質異常症 治療の目標値は?

動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年版 ( 日本動脈硬化学会 ) ガイドラインの策定経緯 高脂血症診療ガイドライン :1997 年 動脈硬化性疾患診療ガイドライン 2002 年版 :2002 年 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 年版 :2007 年 動脈硬化性疾患予防ガイドライン

山梨県生活習慣病実態調査の状況 1 調査目的平成 20 年 4 月に施行される医療制度改革において生活習慣病対策が一つの大きな柱となっている このため 糖尿病等生活習慣病の有病者 予備群の減少を図るために健康増進計画を見直し メタボリックシンドロームの概念を導入した 糖尿病等生活習慣病の有病者や予備

1 ししつ脂質 いじょうしょう へ 高脂血症から 脂質脂質異常症 医療法人将優会クリニックうしたに 理事長 院長牛谷義秀 脂質異常症とは 血液中に含まれる LDL( 悪玉 ) コレステロールと中性脂肪中性脂肪のどちらか一方 あるいは両方が過剰の状態 または HDL( 善玉 ) コレステロールが少ない

1 疾患別医療費札幌市国保の総医療費に占める入院医療費では 悪性新生物が 21.2% 循環器疾患が 18.6% となっており 循環器疾患では 虚血性心疾患が 4.5% 脳梗塞が 2.8% を占めています 外来医療費では 糖尿病が 7.8% 高血圧症が 6.6% 脂質異常症が 4.3% となっています

談会提供 : サノフィ株式会社 これからの日本人の脂質代謝異常症の治療戦略を考える ~ 家族性高コレステロール血症を見逃さないために ~ ROUND TABLE DISCUSSION 座席者東京女子医科大学医学部循環器内科講師出座長 寺本民生先生帝京大学臨床研究センターセンター長 Alberico

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(別紙様式1)

死亡率 我が国における疾病構造 生活習慣病は死亡割合の約 6 割を占めている 我が国の疾病構造は感染症から生活習慣病へと変化 死因別死亡割合 ( 平成 24 年 ) 生活習

全国の30 歳以上の男女を調査対象に 層化無作為に抽出した300 単位区内 ( 国民栄養調査対象地区 ) の世帯 ( 約 5,000 世帯 ) の世帯員のうち 平成 12 年 11 月 1 日現在で満 30 歳以上の者の全員を調査対象としている 調査票には 既往歴 現在の治療等の状況 自覚症状 健康

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

2

3 成人保健

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第2次「健康くるめ21」計画

( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

TC TG HDL-C LDL-C GLU HbA1c 慶應義塾大学病院早川富夫

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目次 1. はじめに P2 2. 本剤の特徴 作用機序 P3 3. 臨床成績 P4 4. 施設について P9 5. 投与対象となる患者 P11 6. 投与に際して留意すべき事項 P13 1

当し 図 6. のように 2 分類 ( 疾患の有無 ) のデータを直線の代わりにシグモイド曲線 (S 字状曲線 ) で回帰する手法である ちなみに 直線で回帰する手法はコクラン アーミテージの傾向検定 疾患の確率 x : リスクファクター 図 6. ロジスティック曲線と回帰直線 疾患が発

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調査の概要 本調査は 788 組合を対象に平成 24 年度の特定健診の 問診回答 (22 項目 ) の状況について前年度の比較から調査したものです 対象データの概要 ( 全体 ) 年度 被保険区分 加入者 ( 人 ) 健診対象者数 ( 人 ) 健診受診者数 ( 人 ) 健診受診率 (%) 評価対象者

平成 21 年循環器疾患登録の年集計について 喫煙習慣の割合は 男性で約 4 割 女性で約 1 割である 週 1~2 回以上の運動習慣のある割合は1 割程度と 男女共に運動習慣のある者の割合が低い 平成 21 年における循環器疾患登録者数 ( 循環器疾患にかかった人のうち届出のあった人 ) について

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(検8)05資料4 門脇構成員 随時血糖値の判定基準について

-3- Ⅰ 市町村国保の状況 1 特定健康診査受診者の状況 平成 23 年度は 市町村国保 (41 保険者 )98,439 人の特定健康診査データの集計を行った 市町村国保の診者数は男性 女性ともに 歳の割合が多く 次いで 歳 歳の順となっている 男性 女性 総数

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また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

Microsoft PowerPoint 古川杉本SASWEB用プレゼン.ppt

す しかし 日本での検討はいまだに少なく 比較的小規模の参加者での検討や 個別の要因との関連を報告したものが殆どでした 本研究では うつ病患者と対照者を含む 1 万人以上の日本人を対象とした大規模ウェブ調査で うつ病と体格 メタボリック症候群 生活習慣の関連について総合的に検討しました 研究の内容

データを正しく 活用していただくために 今回は 平成 23 年度に市町村国保で実施した特定健診結果のみ集計しています 今後 協会けんぽ沖縄支部の結果とあわせて 改めてデータ集を発行する予定です 1. 集計対象者 今回の集計対象者は 平成 23 年度に特定健康診査を受診した者 ( 市町村国保分のみ )

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3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

平成28年度地域包括診療加算・地域包括診療料に係る かかりつけ医研修会

データの取り扱いについて (原則)

カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

特定健康診査等実施計画(案)

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

大規模臨床データベースにおける プロジェクト設計の評価基準

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

平成26年患者調査 新旧対照表(案)

対象疾患名及び ICD-10 コード等 対象疾患名 ( 診療行為 ) ICD-10 等 1 糖尿病 2 脳血管障害 3 虚血性心疾患 4 動脈閉塞 5 高血圧症 6 高尿酸血症 7 高脂血症 8 肝機能障害 9 高血圧性腎臓障害 10 人工透析 E11~E14 I61 I639 I64 I209 I

学会抄録集

特定健康診査及び特定保健指導に係る自己負担額の医療費控除の取扱いの一部変更について(厚生労働省健康局長、保険局長:H )

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

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Microsoft Word 高尿酸血症痛風の治療ガイドライン第3版主な変更点_最終

PowerPoint プレゼンテーション

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平成13-15年度厚生労働科学研究費補助金

オレオサイエンス第 10 巻第 12 号 (2010) 471 解説ここが知りたい! LDL コ レステロールとは? その測定法の問題点と解決策は? 東京医科歯科大学名誉教授 スカイライト バイオテック技術顧問岡崎三代 1 はじめに 2008 年 4 月から全国一斉に特定健診 ( メタボ健診 ) が

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

スライド 1

Microsoft Word - 血液検査.docx

エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2013 その他, コレスチミド, プロブコール, イコサペント酸エチルなどは尿中排泄が極めて少なく,CKD でも非 CKD と同じ投与量で使用できる. ニセリトロールは腎機能に応じて減量する. これらの脂質低下薬については,CKD において CVD リ

大阪府医師国民健康保険組合 特定健康診査等実施第 2 期計画 ( 平成 25 年 7 月 1 日 ) 1. 計画策定の背景昭和 36 年の国民皆保険の成立により わが国の平均寿命は飛躍的に伸び 今や世界一の長寿国となった しかし 世界に冠たるこの国民皆保険制度は 平均寿命の伸びによる高齢化の急激な進

健康寿命の指標

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婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

study のデータベースを使用した このデータベースには 2010 年 1 月から 2011 年 12 月に PCI を施行された 1918 人が登録された 研究の目的から考えて PCI 中にショックとなった症例は除外した 複数回 PCI を施行された場合は初回の PCI のみをデータとして用いた

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

透析学会2010年

機能分類や左室駆出率, 脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain Natriuretic peptide, BNP) などの心不全重症度とは独立した死亡や入院の予測因子であることが多くの研究で示されているものの, このような関連が示されなかったものもある. これらは, 抑うつと心不全重症度との密接な

日経メディカルの和訳の図を見ても 以下の表を見ても CHA2DS2-VASc スコアが 2 点以上で 抗凝固療法が推奨され 1 点以上で抗凝固療法を考慮することになっている ( 参考文献 1 より引用 ) まあ 素直に CHA2DS2-VASc スコアに従ってもいいのだが 最も大事なのは脳梗塞リスク

複製 転載禁止 The Japan Diabetes Society, 2016 糖尿病診療ガイドライン 2016 CQ ステートメント 推奨グレード一覧 1. 糖尿病診断の指針 CQ なし 2. 糖尿病治療の目標と指針 CQ なし 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士に

メディフィットプラスパンフ_通販用_ ai

(3) 摂取する上での注意事項 ( 該当するものがあれば記載 ) 機能性関与成分と医薬品との相互作用に関する情報を国立健康 栄養研究所 健康食品 有効性 安全性データベース 城西大学食品 医薬品相互作用データベース CiNii Articles で検索しました その結果 検索した範囲内では 相互作用

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Transcription:

平成 28 年 2 月 2 日 第 3 回特定健康診査 特定保健指導の在り方に関する検討会 構成員提出資料 1 平成 25~27 年度厚生労働科学研究 non-hdl 等血中脂質評価指針および脂質異常症標準化システムの構築と基盤整備に関する研究 研究代表者寺本民生 ( 帝京大学医学部臨床研究医学講座 ) 研究分担者 ( 疫学担当 ) 岡村智教 ( 慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学 ) 1

基本項目各論 1: 脂質異常症 ( 再掲 ) 基本的な項目 ( 各国共通 ) 総コレステロール HDL コレステロールメタボリックシンドロームの構成要素 HDL コレステロールトリグリセライド ( 実際は随時採血で行われている保険者はないか?) 日本のみで使用 LDL コレステロール 欧米でも治療の際には最も重要な指標となるがスクリーニングには用いていない 国際的にはフリードワルド式で計算して求める ( 総コレステロールから HDL コレステロールおよびトリグリセライドの 5 分の 1 を引く ただし空腹かつトリグリセライド 400mg/dl 未満でしか計算式を使えない ) 直接測定法があるがほぼ日本でしか使われていない またその測定精度について疑義が出されている 2

LDL 直接測定法の問題点 1. 特定健診で LDL-C( 直接法 ) が広く用いられてきた 特に第 1 期の標準プログラムでは 判定値の検査方法に直接法しか例示がなかったため 直接法を使わなければならないという誤解があった ( 第 2 期の標準プログラム改定版では Friedewald 式 (F 式 ) も追記された ) 直接法の測定キットは複数あるが 特定健診開始以降 それぞれの正確性に疑問を投げかける論文が発表された ( 後述 ) 2. 大規模な住民健診において国際的に広く測定されている総コレステロール (TC) の値が消失した グローバルな情報発信には問題が起こりうる 3

Non-HDL コレステロール 各国ではスクリーニングとして総コレステロールが使われているが 日本人は HDL コレステロールが高いので総コレステロールだけでは過剰スクリーニングの危険性がある Non-HDL コレステロールは 総コレステロールから HDL コレステロールを減じた簡便な指標であり 両方とも空腹時でも食後でも大きな値の差は出ない HDL コレステロールの測定も直接法で行われているが こちらのほうは国際的にも国内の検討でも精度に疑義が出されていない 4

日米の脂質の直接比較 :ERA-JUMP 研究 2002 年 ~2006 年に調査 日本人は滋賀県草津市 米国白人はピッツバーグ近郊の住民 40~49 歳の男性のデータ 危険因子 日本人 米国白人 N 281 N 306 有意差 (vs. 日本人 ) 年齢 ( 歳 ) 45 45 NS LDLコレステロール (mg/dl) 134 135 NS HDLコレステロール (mg/dl) 53.3 47.5 * トリグリセライド (mg/dl) 152 151 NS 高脂血症治療中 (%) 3 12 * Non HDLコレステロール (mg/dl) 80.7 87.5 * 有意差あり 参考 ( 論文には記載なし ) 5 Sekikawa A, et al. J Am Coll Cardiol 2008

文献レビュー 1990 年以降の内外の前向きコホート研究 コホート内症例 対照研究 (Nested case-control 研究 ) 無作為化比較対照試験について Non-HD と LDL と脳 心血管疾患等との関連をみた研究の文献レビューを実施した 平成 25 年度に 1085 件 平成 26 年度に 312 件の文献をレビューした その結果 健診対象者である一般集団における検討結果は 35 件あった 研究が行われた地域の内訳は 日本 4 件 東アジア 1 件 欧米 30 件であった Non-HDL の予測能が LDL より優れるという論文が 21 件 ( 日本人集団の論文は 1 件 ) 両者の予測能に差はないという論文が 14 件 ( 日本人集団の論文は 3 件 ) あり LDLC の予測能が Non-HDLC より優れるという文献はなかった 6

アブストラクトテーブル 脂質 :non HDL コレステロール 論文対象エンドポイント結果 Tanaka F, et al. 2013 岩手県北部の地域住民男性 7,931 人 ( 男性 7,931 人 ) 急性心筋梗塞の発症 ( 突然死を含む ) 男性において LDL-C, non-hdl-c は 急性心筋梗塞 / 突然死の発症と関連し 1SD 当たりのハザード比は同じであった また LDL- C<120mg/dl においても non-hdl-c は急性心筋梗塞 / 突然死の発症と関連する Okamura T, et al. 2009 大阪府吹田市から無作為抽出された地域住民 4,698 人 ( 男性 2,169 人 女性 4,698 人 ) 心筋梗塞と脳梗塞の発症 日本人都市住民で non-hdl-c, LDL-C のいずれも心筋梗塞の発症リスクを上昇させるが 脳梗塞のリスクは上昇させない また両者の心筋梗塞発症予測能はほぼ同等であった Mizuno K, et al. 2012 循環器疾患を有さない軽 ~ 中等度脂質異常患者 ( 無作為抽出化試験 MEGA スタディ参加者の一部 ) 7,832 人 ( 男性 2,476 人 女性 5,356 人 ) Primary: 班動脈疾患の発症 Secondary: 脳卒中発症 全循環器疾患発症 軽度脂質異常を有する循環器疾患既往のない患者 ( 日本人 ) において non-hdl-c と LDL-C ともに冠動脈疾患 脳卒中 全循環器疾患発症のリスクと概ね関連しており その関連の強さは 1SD 上昇当たりで比較するとほぼ同じであった Sasaki J, et al. 2012 JELIS の対象患者 (TC250mg/dl 以上 ) のうち偽薬に割り付けられた冠動脈疾患の既往のない者 5,806 人 冠動脈疾患の発症 冠動脈疾患を有さない日本人高コレステロール血症患者 (TC250mg/dl 以上 ) において ベースライン時の non-hdl-c, LDL-C ともに冠動脈疾患の発症リスクと有意な正の関連があった しかし関連の強さは non-hdl-c の方が LDL-C よりも強かった 7

コホートデータ解析 1 Non-HDLC と LDLC の心筋梗塞発症予測能の比較 日本の 4 つのコホート ( 吹田研究 CIRCS 研究 岩手県北コホート研究 NIPPONDATA90) のメタアナリシスで Non-HDL と LDL の心筋梗塞の予測能を比較するメタアナリシスを行った 個々のコホートから得られた多変量調整ハザード比を DerSimonian-Liard 法で統合した 異質性の検討は Cochrane Q 検定及び I 2 値にて行い Cochrane Q 検定の結果が p<0.05 もしくは I 2 値が 40% を超える場合 異質性を無視できないと考えた 8

LDL, Non-HDL, 総コレステロールが JAS 基準以上の場合の心筋梗塞リスク ( 男性 ) 95% 信頼区間 ハザード比 下限 上限 P 値 CIRCSsLDL 1.55 0.60 3.98 0.37 SuitaLDL 2.15 1.11 4.18 0.02 IwateLDL 2.16 1.11 4.20 0.02 ND90LDL 1.98 1.06 3.71 0.03 LDL summary 2.01 1.42 2.85 0.00 CIRCSsNHDL 1.78 0.70 4.56 0.23 SuitaNHDL 1.78 0.91 3.50 0.09 IwateNHDL 2.12 1.05 4.27 0.04 ND90NHDL 1.80 0.94 3.47 0.08 NHDL summary 1.87 1.31 2.68 0.00 CIRCSsTC 2.22 0.87 5.63 0.09 SuitaTC 1.52 0.77 3.00 0.23 IwateTC 1.68 0.81 3.48 0.17 ND90TC 1.43 0.74 2.75 0.29 TC summary 1.62 1.12 2.33 0.01 Hazard ratio and 95% CI 0.2 0.5 1 2 5 risk low risk high JAS( 日本動脈硬化学会 ) のスクリーニング基準を閾値とした解析では LDLとNon- HDLCの心筋梗塞に対する予測能は同程度と考えられた ( 基準値 LDL 140 mg/dl, Non-HDL 170 mg/dl, 総コレステロール 220 mg/dl) 9

コホートデータ解析 2 Non-HDLC のカットオフ値の検討 動脈硬化学会の Non-HDL の管理目標値 (LDL+ 30mg/dl) は治療で LDL がコントロールされている人の値であり トリグリセライドが高い人の目標値である 現状では一般集団の Non-HDL のスクリーニングのカットオフ値には基準がない 複数の一般集団で LDL 値との比較を行うとその差は 30mg/dl より小さいと推定された 適切なカットオフ値については さらに吹田研究の冠動脈疾患発症リスクから赤池情報量基準 (AIC) Bayes 情報量基準 (BIC) を用いて検証した 10

LDL と比較した場合の Non-HDLC の冠動脈疾患発症予測のカットオフ値の検討 95% 信頼区間モデル評価ハザード比 p 値モデル lower upper AIC BIC NHDL-C >160mg/dL 1.17 0.81 1.69 0.40 1880.35 1936.58 NHDL-C >165mg/dL 1.25 0.87 1.80 0.23 1879.61 1935.84 NHDL-C >170mg/dL 1.17 0.81 1.69 0.41 1880.38 1936.62 NHDL-C >175mg/dL 1.22 0.84 1.78 0.29 1879.97 1936.21 NHDL-C >180mg/dL 1.42 0.97 2.08 0.07 1877.89 1934.13 NHDL-C >185mg/dL 1.60 1.09 2.35 0.02 1875.67 1931.90 NHDL-C >190mg/ dl 1.77 1.20 2.6 3 0.00 1873.46 192 9.70 NHDL-C >195mg/dL 1.63 1.08 2.47 0.02 1876.10 1932.34 LDL-C >140mg/dL 1.36 0.95 1.95 0.10 1878.29 1934.53 LDL-C >145mg/dL 1.40 0.98 2.02 0.07 1877.75 1933.99 LDL-C >150mg/dL 1.45 1.00 2.09 0.05 1877.28 1933.52 LDL-C >155mg/dL 1.44 0.99 2.11 0.06 1877.66 1933.89 LDL-C >160mg/dL 1.53 1.03 2.2 7 0.04 1876.86 193 3.09 LDL-C >165mg/dL 1.50 0.99 2.28 0.06 1877.69 1933.93 LDL-C >170mg/dL 1.57 1.01 2.4 5 0.05 1877.36 193 3.60 LDL-C >175mg/dL 1.51 0.93 2.43 0.09 1878.45 1934.69 Non-HDLC 190 mg/dl 以上が統計学的に最もあてはまりのよい結果となった また LDL-C については 160mg/dL 以上が BIC からは最もあてはまりの良い結果となったが この前後との差は小さく 例えばハザード比は LDL-C 170mg/dL 以上で最大であった 11

LDL 直接法試薬の再検証 LDL 直接測定法はほぼ日本でしか使われていない またその測定精度について米国から疑義が出された ( 文献 1) 一方 HDL の直接測定法には疑義は出されていない ( 同 ) それを受けて日本でも検証を行ったが特にトリグリセライドが高いと真値 (BQ 法 ) とのズレが大きくなることが判明した ( 文献 2) 一方 HDL の直接測定には大きな問題点はなかった ( 文献 3) 寺本班において 先の日本での検証結果を受けて 再度 主な LDL 直接法の試薬を検証した その結果 幾つかの試薬には改善が認められたが 未だ精度が不十分な試薬も存在し使用されていた. 1. Miller WG, et al. Clin Chem 56: 977 986, 2010. 2. Miida T, et al. Atherosclerosis 225: 208-15, 2012. 3. Miida T, et al. Atherosclerosis 233: 253-9, 2014. 12

LDL-C 直接法と LDL-C ( 基準法 ;BQ 法 ) の違い Non-diseased Group (n 49) Diseased Group (N 124) 8 1 2 3 4 5 6 7 9 10 11 12 0-50 50 100 150 Ⅰ 型高脂血症 (n2) Ⅲ 型高脂血症 (n1) (%) Miida T, Teramoro T, et al. Atherosclerosis 225: 208-15, 2012. 8 1 2 3 4 5 6 7 9 10 11 12 13

随時採血のトリグリセライド (1) 日本人集団のコホート研究 ( 冠動脈疾患との関連 ) 日本動脈硬化学会 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年版での引用論文 ) A. 空腹時の TG と冠動脈疾患の発症 1) Satoh H, et al. Circ J 2006; 70: 227-31. 勤務者男性集団 空腹 TG ( 78, 79 110, 111 161, and 162 mg/d で区分 78 に比べてすべて冠動脈疾患発症のリスクの有意な上昇あり 2) Okamura T, et al. Atherosclerosis 2011; 217, 201-206. 空腹 TG 150mg/dl 以上 65 歳以上の男性で冠動脈疾患発症のリスクの有意な上昇を認め 女性や 65 歳未満で認めない B. 随時の TG と冠動脈疾患の発症 1) Iso H, et al. Am J Epidemiol 2001; 153: 490-499. 随時 TG 165mg/dl 以上で冠動脈疾患発症のリスクの有意な上昇あり 男性 男女計で有意差あり ) 2) Noda H, et al. Hypertens Res 2009; 32: 289-98 随時 TG 150 mg/dl 以上で冠動脈疾患発症のリスクの有意な上昇あり 女性では認めない 14

随時採血のトリグリセライド (2) 日本人集団のコホート研究 ( 糖尿病との関連 ) A. 空腹時の TG と糖尿病の発症 1) Fujihara K, et al, J Atheroscler Thromb 2014; 21: 1152-69. 空腹 TG 高値 ( 男性 150mg/dl 以上 ) で糖尿病の発症リスクの上昇あり ( 女性 の 125mg/dl 以上は有意差なし 高値 第 4quartile) B. 随時の TG と糖尿病の発症 1) Fujihara K, et al, J Atheroscler Thromb 2014; 21: 1152-69( 再掲 ) 随時 TG 高値 ( 男性 183mg/dl 女性 173 mg/dl 以上 ) で糖尿病発症リスクの 上昇あり 2) Nishikawa T, et al. Diabetol Int, in press. 随時 TG 高値 ( 男女計 150mg/dl 以上 ) で糖尿病発症リスクの上昇あり 15