ここで Ω は系全体の格子数,φ は高分子の体積分率,k BT は熱エネルギー,f m(φ) は 1 格子 あたりの混合自由エネルギーを表す. またこのとき浸透圧 Π は Π = k BT v c [ φ N ln(1 φ) φ χφ2 ] (2) で与えられる. ここで N は高分子の長さ,χ は
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- れんか そめや
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1 東京理科大学 Ⅰ 部化学研究部 2013 年度春輪講書 多糖類を用いた吸水性ポリマーの 吸水能の評価 Inoshita.D(2K),Katoh.D(2K),Katogi.A(2K),Saitoh.K(2C),Handa.Y(2K), Maekawa.J(2K),Yamada.T(2K),Doi.R(2K),Niwa.K(2K),Aoki.S(2C) 水曜班 1. 動機吸水性ポリマーは紙おむつなどの私たちの生活における身近な製品や, 土壌の改良剤に用いられるなどその用途は多岐にわたっており, 現在用いられている吸水性ポリマーとしてはポリアクリル酸塩系のものが主流を占めている. しかしこれは廃棄の際に燃焼処理されるがそれには多大なエネルギーを必要とし, また難分解性であるため埋め立てによる処理を行ったとしても環境に大きな負担がかかる. しかし天然物由来のポリマーを作製することができれば, これらは自然環境下で分解されるので環境への負担を軽減することができる. 現在研究されている生分解性を有する吸水性ポリマーとしては多糖類やポリアミノ酸などがあげられる. しかしこれらは重合や架橋を放射線で行うことが多く, それには複雑な装置が必要でコストも掛かり価格も高くなってしまうので広く普及するには至っていない. 1) しかし天然に大量に存在する天然高分子を用いて, まだあまり研究がされていないような架橋剤により架橋できれば新規性がありかつより実用的な吸水性ポリマーになるのではないかと考えた. そこで今年度の水曜班では一般に用いられている吸水性ポリマーに匹敵するような高い吸水力をもち, かつ生分解性を有する多糖類を用いた吸水性ポリマーの作製を目指すことにした. この実験では多糖類としてセルロースおよびその誘導体を用い, それをカルボン酸二無水物により架橋しその際の架橋剤や架橋剤量を変えることにより吸水力を測定し比較する. 2. 原理 2.1. 膨潤の原理高分子と溶媒の混合の自由エネルギー F m を 2 成分混合の問題として扱うと以下のような式が導かれる. F m = Ωk B Tf m (φ) (1) 1
2 ここで Ω は系全体の格子数,φ は高分子の体積分率,k BT は熱エネルギー,f m(φ) は 1 格子 あたりの混合自由エネルギーを表す. またこのとき浸透圧 Π は Π = k BT v c [ φ N ln(1 φ) φ χφ2 ] (2) で与えられる. ここで N は高分子の長さ,χ はパラメータである. また V は高分子溶液全 体の体積,n は溶液全体に含まれる高分子のモノマーの総数,v c は 1 格子の体積を表す. 浸 透圧は高分子溶液が溶媒と溶媒のみを通す膜で接しているときの膜に働く圧力であるので, Π>0 のときには高分子溶液の体積は膨潤し,Π<0 のときには収縮することになる. 高分子を架橋してゲルにしたときは高分子に弾性のエントロピーが加わる. よって以下 の式が与えられる. F r = 3 2 n pk B T(λ 2 1 lnλ) (3) ここで n p はゲル中の架橋点間の高分子鎖の総数,λ は伸長倍率を表す. 膨潤収縮は 3 方向 同じとみなすため, 基準状態の体積を V 0, 高分子の体積分率を φ 0 とすると λ 3 α = V V 0 = φ 0 φ (4) の関係が成り立つ. ここで α は膨潤度である. 混合自由エネルギー F m に弾性の自由エネル ギー F r を加えると高分子ゲルの自由エネルギーが得られる. また平衡状態では浸透圧 Π=0 なのでこれより n p v c [ φ ( φ 1 3 ) ] = ln(1 φ) + φ + χφ 2 (5) V 0 2φ 0 φ 0 という式が導かれる. これは Flory-Rhener の式と呼ばれるものである. ゲルが膨潤すると φ が小さくなるので上式は α 5 3 = φ 0 N c ( 1 χ) (6) 2 と表せる. ここで N c は架橋点間高分子鎖のセグメント数を表す. 温度上昇とともに上式右 辺が増加し膨潤度 α が大きくなる, つまりゲルが膨潤する. また架橋密度が低下し架橋点 2) 3) 間高分子鎖のセグメント数が増加するとともにゲルは膨潤する 吸水の原理吸水性ポリマーは親水基を持つモノマーを重合し架橋したことによる三次元網目構造を持っており, この網目の中に水が取り込まれることにより吸水能を示す. 親水基としてカルボキシル基を用いた場合, 水酸化ナトリウムを用いて中和しこれを水の中に入れるとナトリウムイオンが解離し, カルボキシルイオン間に静電気的な反発力が働く. しかしポ 2
3 リマーは架橋されておりその大きさは制限されるので, カルボキシルイオンは網目上に固定される. カルボキシルイオンは溶液中のナトリウムイオンを静電気的に引きつけるためナトリウムイオンはポリマー内部に保持され, ポリマー内部と周囲の水との間に濃度差が生じるので, 平衡に達するまで浸透圧により水がポリマー内部に取り込まれる. また水と親水基のカルボキシル基の間には親和力が働くので水を網目に保持することができる. 一方で架橋することにより分子鎖の広がり, つまり網目の大きさが制限されてしまうので, 架橋密度が高いほど吸水力は低下する. 架橋密度は架橋剤量を増やすと高くなる. 吸水前 Fig.1 ポリマーの膨潤 吸水性ポリマーの吸水力は下式のように表される. Q 5 3=[( 1 2 i 1 1 V u S2 2 ) 吸水後 + ( 1 2 X 1) 1 V 1 ] V 0 ν (7) ここで i V u は網目に固定された電荷濃度, 1 S 1 2 は外部溶液の電解質のイオン強度,( 1 2 X 1) 1 V 1 は網目と水の親和力, V 0 ν は架橋密度を表す. つまり吸水力はポリマー内部の濃度が高いこと により生じる浸透圧, 高分子電解質と水の親和力, および架橋密度により決定される. よって上式は以下のように表すことができる. 吸水力 = イオンの浸透圧 + 高分子電解質の水との親和力架橋密度 (8) 4) 2.3. 架橋反応ポリマーとしてセルロース, 架橋剤として 1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物を用いる. まずセルロースを塩化リチウムを加えた N-メチルピロリドン溶液に溶解する.N,N- ジメチル-4-アミノピリジンを触媒として用いそこに架橋剤を加えると, セルロースのヒドロキシ基とカルボン酸無水物がエステル結合し, セルロース分子間でエステル性架橋が形成されセルロースがゲル化する. またその際カルボン酸無水物はカルボキシル基に変換さ 3
4 れる. Fig.2 セルロースの構造式 Scheme.1 セルロースの架橋上記エステル架橋反応で得られた反応物をアセトンに沈殿させ, 水酸化ナトリウムにより中和し生成したカルボキシル基をカルボキシルイオンに変換することにより, 吸水性ポリマーが得られる. 5) 3. 実験方法 3.1. 器具ビーカー, シャーレ, 試薬びん, パスツールピペット, デシケーター, シリカゲル, ティーパック, ろ紙,pH メータ 3.2. 試薬セルロース, カルボキシメチルセルロース, アセトン,N-メチルピロリドン, 塩化リチウム,1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物,3,3,4,4 -ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物, ビフェニルテトラカルボン酸二無水物, 水酸化ナトリウム,N,N- ジメチル-4- アミノピリジン, 塩化ナトリウム 一部の試薬の構造式を以下に示す. 4
5 Fig.3 カルボキシメチルセルロース Fig.4 N,N- ジメチル -4- アミノピリジン Fig.5 N- メチルピロリドン Fig.6 1,2,3,4- ブタンテトラカルボン酸二無水物 Fig.7 3,3,4,4 - ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物 Fig.8 ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 5
6 4. 実験操作 4.1. セルロースを用いた吸水性ポリマーの作製 ポリマーとしてセルロースを, 架橋剤として 1,2,3,4- ブタンテトラカルボン酸二無水物と 3,3,4,4 - ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物およびビフェニルテトラカルボン 酸二無水物を用いてそれぞれの吸水量を比較する. また以下 1,2,3,4- ブタンテトラカルボン 酸二無水物をブタンテトラカルボン酸二無水物,3,3,4,4 - ジフェニルスルホンテトラカルボ ン酸二無水物をジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と記す. 加える架橋剤量は反応当量倍数を用いて決定する. このとき反応当量倍数は以下のよう に求められる. 反応当量倍数 = カルボン酸無水物のカルボキシル基の数ポリマーのヒドロキシル基の数 すなわちセルロースを用いた場合, 架橋点として 1 つのモノマー単位, すなわちグルコー ス単位当たり 3 つのヒドロキシル基をもち, 架橋剤としてブタンテトラカルボン酸二無水 物を用いた場合, 加水分解によりブタンテトラカルボン酸になるので架橋点として 1 分子 当たり 2 つのカルボキシル基をもつ. したがって反応の当量はセルロースのグルコース 1 単位 : ブタンテトラカルボン酸二無水物 =3:2 となり, これとセルロースおよびブタンテトラ カルボン酸二無水物の物質量を用いることにより反応当量倍数を求めることができる. た だしこの反応当量倍数は, セルロースをグルコース 1 単位あたりに換算したものに対する 値となる. (9) ブタンテトラカルボン酸二無水物を用いた吸水性ポリマーの作製架橋剤としてブタンテトラカルボン酸二無水物を用い, それぞれの反応当量倍数が 0.5, 1.0,2.0,5.0,10.0 となるように架橋剤量を変えて吸水量を比較する. すなわちブタンテトラカルボン酸二無水物を 0.46 g,0.92 g,1.84 g,4.60 g,9.20 g ずつ用いる. 1 N-メチルピロリドン 100 ml に塩化リチウム 5.00 g を溶解する. 2 セルロースを 0.50 g 加え溶解する. 3 N,N-ジメチル-4-アミノピリジン 1.20 g およびブタンテトラカルボン酸二無水物を上記の架橋剤量だけ加えて撹拌し,12 時間静置する ml のアセトンを加えゲルを析出させる. 5 析出したゲルに水酸化ナトリウムを滴下し,pH 7 に調整する. 6 試料にろ紙を押し当てて水分を取り除いた後, シャーレに移しデシケーター内で 1 週間乾燥させる. このときデシケーター内の乾燥剤としてシリカゲルを用いる. 7 1 週間静置した試料の重量を測定し収率を求める. 8 試料をティーパックに入れて重量を測定する. このとき空のティーパックの重量も測定する. 6
7 9 試薬びんの中にイオン交換水を 100 ml 入れ, 試薬びんの中に空のティーパックととも に 1 週間試験液に浸漬した後引き上げて 1 分間水滴がしたたり落ちないことを確認して 重量を測定する ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を用いた吸水性ポリマーの作製架橋剤としてジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を用いる と同じ反応当量倍数となるように3で架橋剤を 0.83 g,1.66 g,3.32 g,8.31 g,16.6 g ずつ使用する. それ以外は と同様の操作を行う ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いた吸水性ポリマーの作製架橋剤としてビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いる と同じ反応当量倍数となるように3で架橋剤を 0.68 g,1.36 g,2.73 g,6.83 g,13.6 g ずつ使用する. それ以外は と同様の操作を行う カルボキシメチルセルロースを用いた吸水性ポリマーの作製ポリマーとしてカルボキシメチルセルロース, 架橋剤としてブタンテトラカルボン酸二無水物を用いる. カルボキシメチルセルロースはセルロースの誘導体であり, セルロースのヒドロキシ基とカルボキシメチル基がエーテル結合したものである. よってポリマーと架橋剤の反応当量は 1:1 となり, これと用いるカルボキシメチルセルロースおよびブタンテトラカルボン酸二無水物の物質量により反応当量倍数を求めることができる. 反応当量倍数が 0.5,1.0,2.0,5.0,10.0 となるようにカルボキシメチルセルロースを 0.68 g, 架橋剤を 0.31 g,0.61 g,1.23 g,3.07 g,6.14 g ずつ用いる. 1 N-メチルピロリドン 100 ml に塩化リチウム 5.00 g を溶解する. 2 カルボキシメチルセルロースを 0.68 g 加え溶解する. 3 N,N-ジメチル-4-アミノピリジン 1.20 g およびブタンテトラカルボン酸二無水物を上記の架橋剤量だけ加えて撹拌し,12 時間静置する ml のアセトンを加えゲルを析出させる. 6 析出したゲルに水酸化ナトリウムを滴下し,pH 7 に調整する. 7 試料にろ紙を押し当てて水分を取り除いた後, シャーレに移しデシケーター内で 1 週間乾燥させる. このときデシケーター内の乾燥剤としてシリカゲルを用いる. 8 1 週間静置した試料の重量を測定し収率を求める. 9 試料をティーパックに入れて重量を測定する. このとき空のティーパックの重量も測定する. 10 試薬びんの中にイオン交換水を 100 ml 入れ, 試薬びんの中に空のティーパックとともに 1 週間試験液に浸漬した後引き上げて 1 分間水滴がしたたり落ちないことを確認して 7
8 重量を測定する 電解質水溶液に対する吸水量の測定ポリマーとしてセルロースを, 架橋剤としてブタンテトラカルボン酸二無水物とジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物およびビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いて, 電解質水溶液に対するそれぞれの吸水量を比較する. 試験液として電解質水溶液として最も一般的な塩化ナトリウム水溶液を質量パーセント濃度 0.1 % のものを 100 ml 用いる. またそれぞれの反応当量倍数が 0.5,1.0,2.0,5.0,10.0 となるように架橋剤量を変えて吸水量を比較する. 架橋剤量は と同じ重量を用いる. 1 N-メチルピロリドン 100 ml に塩化リチウム 5.00 g を溶解する. 2 セルロースを 0.50 g 加え溶解する. 3 N,N-ジメチル-4-アミノピリジン 1.20 g およびブタンテトラカルボン酸二無水物を上記の架橋剤量だけ加えて撹拌し,12 時間静置する ml のアセトンを加えゲルを析出させる. 5 析出したゲルに水酸化ナトリウムを滴下し,pH 7 に調整する. 6 試料にろ紙を押し当てて水分を取り除いた後, シャーレに移しデシケーター内で 1 週間乾燥させる. このときデシケーター内の乾燥剤としてシリカゲルを用いる. 7 1 週間静置した試料の重量を測定し収率を求める. 8 試料をティーパックに入れて重量を測定する. このとき空のティーパックの重量も測定する. 9 試薬びんの中に 0.1 % 塩化ナトリウム水溶液を 100 ml 入れ, 試薬びんの中に空のティーパックとともに 1 週間に浸漬した後引き上げて 1 分間水滴がしたたり落ちないことを確認して重量を測定する. 5. 評価方法 ポリマー 1 g が保持する水の重量, すなわち吸水率によって各ポリマーの吸水力を評価す る. 測定方法として不織布のティーパックに試料を封入し, 試験液中に浸漬して所定時間 後に引き上げ, 増加した重量を測定するティーパック法を用いる. 6) 吸水前のポリマーの重 量を a[g], 吸水後のポリマーとティーパックを合わせた重量を b[g], 空のティーパックの重 量を c[g], 吸水率を W[g/g] とすると, 吸水率は以下の式で表せる. W= b c a a (10) 8
9 6. 参考文献 1) 柴山充弘他, 高分子ゲルの動向,2004 年, シーエムシー出版,p ) 吉田亮, 高分子ゲル,2004 年, 共立出版, p ) 角岡正弘他, 高分子の架橋 分解技術,2004 年, シーエムシー出版,p ) 増田房義, 高吸水性ポリマー,1987 年, 共立出版,p ) 特開 ,2012 年 1 月 19 日公開, 独立行政法人国立高等専門学校機構 6) 増田房義, 高吸水性ポリマー,1987 年, 共立出版,p 謝辞 東京理科大学理学部化学科斎藤慎一研究室武藤雄一郎先生にはエステル架橋に関する資料 を提供して頂きました. 深く感謝致します. 9
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