46 46 豊橋創造大学短期大学部研究紀要第 29 号 5) 下声 3 拍め Es 音 6) 下声 1 拍め D 音上声中声上声 1 拍め H 音上中声 3 拍め E 音中声 1 拍め Cis 音上中声 1 拍め Cis 音上 5)6) 表 Ⅰ Sinfoni 11 と Fntsi 10

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よしたかさかいざわ
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1 Bulletin of Toyohshi Sozo Junior College 2012, No.29, 解釈 J.S. バッハ作曲三声シンフォニアの楽曲分析と演奏解釈第 11 番ト短調 BWV 797 藤本逸子はじめにこの小論に先立ち, J.S. バッハ作曲二声インヴェンション 1) の楽曲分析と演奏解釈 2) と題し, 第 1 番ハ長調 BWV 772 3) から第 11 番ト短調 BWV 782 までの11 曲を, 豊橋短期大学研究紀要第 2 号から同第 12 号の各号に, それぞれ楽曲分析し演奏解釈した. また, 第 12 番イ長調 BWV 783 から第 15 番ロ短調 BWV 786 までを, 豊橋創造大学短期大学部研究紀要第 14 号から同第 17 号に, 同じく楽曲分析し演奏解釈した. 続いて, J.S. バッハ作曲三声シンフォニアの楽曲分析と演奏解釈と題し第 1 番ハ長調 BWV787 から第 10 番ト長調 BWV 796 を, 豊橋創造大学短期大学部研究紀要第 19 号から同第 28 号に, 楽曲分析し演奏解釈した. この小論も, それらと同じ観点にたって, 三声シンフォニアの第 11 番ト短調 BWV 797 を取り上げたものである. 楽曲分析と演奏解釈 Sinfoni 11 は,72 小節で構成された曲である. テーマと対旋律という構造ではなく, シチリアーナを感じさせる舞曲風の曲となっている. テーマは3 回しか現れず, テーマの断片やテーマの変奏によって作り上げられている. W.F. バッハのための小曲集 4) において, この Sinfoni 11 にあたるのは,58 番めの曲で Fntsi 10 (BWV 797) と題されている. 双方には, 表 Ⅰに示したような違いが見られる.9 小節めは, 用いられた記号が違うが, 実質的な違いはない. 1) 二声インヴェンションと三声シンフォニアという呼び名については, 豊橋短期大学研究紀要第 2 号 J.S. バッハ作曲二声インヴェンションの楽曲分析と演奏解釈藤本逸子 1985 年 ( 以下第 2 号における小論 ) のインヴェンションについての項を参照のこと. 2) 作品名書名強調語句は, 原則としてに入れて表わす. 3)BWV=Bh - Werke - Verzeihinis, W. シュミーダーによる J.S. バッハ作品総目録番号. 4) W.F. バッハのための小曲集については, 第 2 号における小論のインヴェンションについての項を参照のこと.

2 46 46 豊橋創造大学短期大学部研究紀要第 29 号 5) 下声 3 拍め Es 音 6) 下声 1 拍め D 音上声中声上声 1 拍め H 音上中声 3 拍め E 音中声 1 拍め Cis 音上中声 1 拍め Cis 音上 5)6) 表 Ⅰ Sinfoni 11 と Fntsi 10 の相違箇所 Sinfoni 11 Fntsi 10 付点八分音符 B 音十六分音符 B 音八分音符 Es 音十六分音符 A 音 Fis 音四分音符 G 音下声 1 拍め A 音タイなし中声 1 拍め付点八分音符 B 音前小節からのからのタイあり上声上声 3 拍め As 音下声 3 拍め G 音 B 音上声 3 拍め E 音 G 音下声下声中声下声下声 3 拍め Es 音下声 1 拍め D 音上声 B 音 D 音 C 音 Es 音 D 音 A 音八分音符 D 音四分音符 1 オクターブ上 D 音までタイで続く付点四分音符 D 音前小節からのタイあり十六分休符十六分音符 D 音 Fis 音 A 音八分音符 D 音付点八分音符にタイで続き, その後まで中声部休止十六分休符十六分音符 D 音次 D 音にタイで続く四分音符 D 音次小節にタイで続く付点八分音符 B 音十六分音符 B 音八分音符 Es 音下声 3 拍め B 音下声 1 拍め 1 オクターブ上の D 音上声中声上声 1 拍め H 音上 tr. 中声 3 拍め D 音四分音符 B 音八分音符 Es 音付点八分音符 A 音十六分音符 Fis 音八分音符 G 音中声 1 拍め Cis 音上装飾記号なし中声 1 拍め Cis 音上装飾記号なし下声 1 拍め A 音次小節に向けてタイあり中声 1 拍め八分休符十六分休符上声上声 3 拍め A 音下声 3 拍め Es 音上声 3 拍め Es 音 G 音下声下声中声下声下声 3 拍め B 音 B 音 Es 音 D 音 B 音 A 音 C 音付点四分音符 D 音次小節へのタイなし付点四分音符 D 音までタイで続くただし前小節からのタイなしまで中声部休止休符省略十六分休符十六分音符 D 音 Fis 音 A 音八分音符 D 音次小節にタイで続く下声 1 拍め 1 オクターブ上の D 音上声四分音符 B 音八分音符 Es 音 5) 小節数は, 数字をで囲むことによって表わす. 例 : 第 4 小節め, 第 3 小節めから第 10 小節め. 6) 音名は, 原則としてドイツ音名で表わす. 例 : 変ロ音 B 音, 嬰ヘ音 Fis 音.

3 J.S. バッハ作曲三声シンフォニアの楽曲分析と演奏解釈 ( 藤本 ) 47 楽曲分析 ( 譜 1 7) 参照 ) この曲は, 二つの部分からなり, それぞれの部分は, 次のような構成になっている. 第 1 部 (35) 第 2 部 (37) 主題 (8) 間奏 4 (5) 間奏 1 (8) 間奏 5 (7) 間奏 2 (6) 間奏 6 (9) 間奏 3 (6) 間奏 7 (8) 主題 (7) 主題 (8) 各部分における楽曲分析第 1 部主題上声部には, 十六分休符一つ十六分音符三つと八分音符からなる要素間奏 1 () と, 付点四分音符からなる要素 () と, 四分音符と八分音符からなる要素 () と, 付点八分音符十六分音符と八分音符からなる要素 () の四つの要素で組み立てられたテーマ (T) がある. 本曲は, これらの四つの要素とその変奏で全て組み立てられている. これらの要素は,()()()()()() ()() と並び,1 小節の単位で見ると,G 音 F 音 Es 音 D 音 C 音 B 音 A 音と順次下行し, 最後に主和音第三音の B 音に至って (T) をなしている. 中声部は,1 小節休んだ後, 上声 (T) の () を 1 小節遅れで追うように () が出, その後,()()()(1)()() と続いている. の ( 1) は,() がリズム的に変化したものである. 中声部も,1 小節の単位で見ると, から D 音 C 音 B 音 A 音 G 音 Fis 音と (T) の 3 度下で順次下行し, 最後に主音の G 音に至り,(T) にそった動きをしている. 下声部は,()()()()()()()() と並んで, 上声部と中声部を和声的に支えている. 上声部は,(1)()()()()()()() と要素を並べている. の (1) は,() に tr. がついたもので, 二つの三十二分音符は,tr. の後打音と見ることができる. 中声部は, 要素が ()()()()()(2)()() と並んでいる. の (2) は, W.F. バッハのための小曲集の Fntsi 10 を見れば, () がタイによってリズム的に変化したものであることがわかる. 7) この小論における Sinfoni 11 に関する楽譜は,Johnn Sestin Bh Inventionen un Snfonien Urtext (Bärenreiter- Verlg. Kssel 1972) を用いている. 国内においては, ベーレンライター社の許可を得て, 全音楽譜出版社が, 印刷出版している.

4 48 48 豊橋創造大学短期大学部研究紀要第 29 号下声部は, 要素が ()()()()()()()() と並んでいる. で, これらの3 声は, 上記のように要素を並べることによって, 三つ巴となって掛け合いをしているようになり,() が中声下声上声の順に2 回出現する. この間, moll 8) を通ってB urに転調している. 間奏 2 上声部は, 要素が ()()()()()() と並んでいる.() () で一組となり,2 小節単位でB 音 A 音 G 音 F 音と順次下行している. ただし,G 音 F 音の間は1 小節で下行し, 時間的凝縮が図られている. 中声部は, 要素が ()()()()()(3) と並んでいる.( 3) は,() の付点八分音符と十六分音符の組み合わせのリズムが八分音符三つに変化したものである. 中声部も上声部同様,2 小節単位で,Es 音 D 音 Cis 音と順次下行している. ただし, 順次下行はから始まり, 時間的凝縮は行われていない. 下声部は,()(3)()(3)()() と並んでいる. 下声部も,2 小節単位で,G 音 F 音 E 音 D 音と順次下行し, 時間的凝縮も上声部同様に行われている. この間,B urから mollに転調している. 間奏 3 上声部は,()(1)(1)(1)(1)(1) となっている.(1) は,() の八分音符の部分も十六分音符となってアルペジオを奏でる () の変形である.(1) のアルペジオは, では, 下声の mollの属音上で, mollの属和音と主和音を鳴らしている. 中声部は,(3)()()()()() となっている. 下声部は,(3) の後, オルガンプンクトとして, mollの属音 A 音を鳴らし続ける. 主題上声部は,(T) であるが, mollの属和音から始まる. は, と同じ音であるが, あくまで, mollによる (T) であり, で mollの主音 D 音に至り, 第 1 部を終了している. 構成は,()()()()()()() () となり, の (T) とは大きく違う. 中声部も, 上声部同様, と同じ音である. 構成は,()()() ()()()()(2) となっている. 中声部も, 上声部同様で mollの主音 D 音に至り, 第 1 部を終了している.(2) は, 付点四分音符である () が, 四分音符と八分音符に変化したものである. 下声部は,1 オクターブ低い音になっているところもあるが, 上声部中声部同様と同じ音である. 構成は,(2)()()()()()( 8) 調名は, 原則として, ドイツ音名を用い, ドイツ音名の大文字は長調, 小文字は短調を表わす. 例 : ハ長調 C ur あるいは C:, イ短調 moll あるいは :.

5 J.S. バッハ作曲三声シンフォニアの楽曲分析と演奏解釈 ( 藤本 ) 49 3)(1) となっている.(2) は,() がリズム的にも変化しているが, それに加えて,() は十六分音符がアルペジオであるが,(2) は順次進行している. 下声部も, 上声部中声部同様で mollの主音 D 音に至り, 第 1 部を終了している. は, 第 1 部の終了と第 2 部の出だしが共存している. 第 2 部間奏 4 は, 第 1 部と第 2 部が重なっている小節である. 声部によって, 第 2 部の出だしが違う. 上声部の第 2 部の始まりは,3 拍め八分音符のF 音からである. 中声部は,では第 1 部の終わりであるD 音のあとは休符となって, 第 2 部の始まりは,からとなる. 下声部は,の二つめの十六分音符である低いD 音から第 2 部が始まっている. 上声部は,から()()()() と2 小節単位で,F 音 Es 音と順次下行している. 中声部は,から(4)()()() となっている.(4) は, () の付点八分音符に当たるところが, 休符に変化している. 下声部は,から(1)(1)(1)(1)(1) とアルペジオを鳴らしている. この (1) は, 一小節単位で,4 度ずつ跳躍上行している. 間奏 5 上声部は,()()()()()(3)(1) と並び,1 小節単位で, B 音 A 音 G 音 Fis 音 Es 音 D 音と順次下行して,で,g mollの第三音の B 音に至る.(3) は,() がリズム的変化をしたものである. 中声部は,()()()()()(1)() と並び,で,g mollの主音のg 音に至る. 下声部は,()()()()()()() と並んでいる.() は, G 音からC 音まで順次下行している. 中声部同様,で,g mollの主音のg 音に至る. 間奏 4と間奏 5の間に, mollからg mollに転調している. 間奏 6 間奏 6は, 間奏 2を少し変化させたものである. この変化は, では, 属調 mollの属音 A 音のオルガンプンクトに至っているが, では, 主調 g mollの属音 D 音のオルガンプンクトに至っているためである. 上声部は,()()()()()(1)(1)()() と並んでいる. 中声部は,()(3)()(3)()()()(2) と並び,は休符となっている.

6 50 50 豊橋創造大学短期大学部研究紀要第 29 号下声部は,()()()()(1)()()()() と並んでいる. 間奏 6の前半は, 上声部と下声部の () と () が, 互い違いに出現して, () の掛け合いとなっている. 間奏 7 間奏 7は, 間奏 6が間奏 2と対応しているように, 間奏 3と対応している. 上声部は,(4)(4)(1)(1)(1)(1)(2)(3) と並んでいる. (4) は, リズム的には (1) と同じであるが, 音の並びがアルペジオではなく, 下行する音階のように順次進行となっている.(2) は, 同じ小節内で (2) が始まるために, 本来の () よりも, 十六分音符分短くなっている. 中声部は,(1)()()()()()()(2) と並んでいる. (1) は,() では四分音符であるべきところが, 八分休符と八分音符となっている. ここの (2) は,() の最後の八分音符と () の始まりの音を共有している. 下声部は,()()()()()()(2) と並んでいる. は, 同様, オルガンプンクトとしてg mollの属音 D 音を鳴らし続けている. の () は, リズム的には,() の変形とも見られるが, オルガンプンクトの機能を優先し () とした. 最後の (2) は, 小節最初の十六分休符による. このに出現する () は, 上声部中声部下声部, 何れも十六分音符分短くなっている (2) である. 主題上声部は, の (T) とほとんど同じであるが, 全曲の終止となるため, 多少の変化が付けられている.では最後のC 音であるがではA 音であり, では第三音のB 音であるがでは主音のG 音になっている. 中声部は, の (T) と, 全く同じである. 下声部は, の (T) とほとんど同じであるが, 最後の音は,の1 オクターブ下の音となり () となっている.

7 J.S. バッハ作曲三声シンフォニアの楽曲分析と演奏解釈 ( 藤本 ) 51 演奏解釈 ( 譜 2 参照 ) テンポテンポに関して, 諸校訂版 9) は, 表のような指示をしている. 表 Ⅱ 諸校訂版における Sinfoni 11 のテンポに関する指示校訂者テンポに関する指示 Hns Bishoff Ferruio Busoni Alfreo Csell S.A.Durn Jmes Friskin Vilem Kurz Wm.Mson G.E.Moroni Bruno Mugellini Julius Rötgen 井口基成千倉八郎 Anntino q. = 46 Anntino on moto Anntino mosso Grzioso Allegretto q. = Anntino Allegretto moerto Allegretto moerto q. = 60 Allegretto grzioso e = 160 Allegretto e = 126 Anntino Anntino e = 112 また, 内外 10 人の演奏時間は, 表 Ⅲ のとおりである. 表 Ⅲ 諸演奏家における Sinfoni 11 の演奏時間演奏者録音年楽器演奏時間 Alo Ciolini 不明ピアノ 1 55 Christoph Eshenh 1974 年ピアノ 3 04 Glenn Goul 年ピアノ 3 47 Ttyn Nikolyev 1977 年ピアノ 3 08 Anrás Shiff 年ピアノ 1 57 高橋悠治年ピアノ 2 04 田村宏不明ピアノ 1 50 Kenneth Gilert 1984 年チェンバロ 2 15 Gustv Leonhrt 1974 年チェンバロ 2 44 Helmut Wlh 1961 年チェンバロ ) 各校訂版及び, 各 CD の出版については, 本小論の参考文献参考楽譜参考 CD の項を参照のこと.

8 52 52 豊橋創造大学短期大学部研究紀要第 29 号表 Ⅱの校訂版の指示に見るように, どの演奏も速くなくゆったりとしたテンポである. その中にあって, グールドの演奏時間は, 田村の2 倍以上の長さである.10 名の中で一番速いテンポの田村の演奏は, 装飾音を多用せず, レガートの美しさよりもノンレガートの決然さが目立つ演奏である. それに対して,2 番目に速いテンポのチッコリーニの演奏は, 装飾音を多用した華麗な演奏である. シフも装飾音を多用していたが, トリルよりも掛留音を生かした装飾で, 美しさが際だっている. それに対し, ゆったりと言うよりも遅いと感じさせるグールドの演奏は, トリルを少々加えただけの装飾で, 音の動きのみについて言えばシンプルな演奏である. そのシンプルな音の中に, これ以上込めることはできないと思われるほどの情感を詰め込んだ情緒豊かな演奏をしている. 筆書は, 落ち着いたテンポでシチリアーノ風なリズムを楽しみたいので, Anntino q. = 42 というテンポをとる. シチリアーノは, 八分の六拍子, あるいは八分の十二拍子の舞曲である. よって, e =126 ではなく, q. =42 と表示した. アーティキュレーション表 Ⅲにあげた演奏では, 十六分音符は, 皆レガート奏法であった. 八分音符は, テヌート奏法, ノンレガート奏法, レガート奏法と様々であった. 筆者は, 十六分音符も八分音符もレガートで美しく歌いたい. 区切りを感じたいところには, 譜 2にを記した. 装飾音 Sinfoni 11 (BWV 797) の原典版には, 三箇所だけトリルが付されている. 表 Ⅲにあげた演奏では, 上記の奏者だけでなく, 装飾音を付け加えた演奏が多い. 筆者は,のトリル以外は, 装飾音を付す必要性を感じない.のトリルの演奏法は, 譜 2に, 小音符で記した.

9 J.S. バッハ作曲三声シンフォニアの楽曲分析と演奏解釈 ( 藤本 ) 53 各部分における演奏解釈 f で出る. この f は, 音量的な強さを求めるものではなく, 深みを感じさせる f である.3 回出てくる (T) は, いずれも少し哀しみを含んでいるが, 堂々とした深みを表現したい. 上声部の高いG 音は,(T) のクライマックスである. 少しテヌートをかける.,,,2 小節の中で, 音の動きに沿って, 細かくres. とim. する. は, 少々テンポを緩めて (T) の終わりを意識する. mp で始め,に向けて() の塊ごとにres. していく. 上声部の高いB 音は, 第 1 部のクライマックスである. 豊かにテヌートする. クライマックスの後は, 少々 im. するが, 弱くし過ぎないようにして,mf 程度で納める. 間奏 2と間奏 3は, 区切れを入れることなく続けて演奏する. 上声部のB 音は,suito P とする. 音量的には PP で, 音に詰めるエネルギーは ff で, 天上から注ぐ一筋の聖なる光, あるいは, 静かに神々しく響く天使の声, そのような音にしたい.まで上声部と中声部は,2 小節ごとに順次下行する付点四分音符を意識し, 充分テヌートをかける. また, この6 小節間は,2 小節毎にテラス状にim. する. 上声部は, 小節を越えてタイで結ぶ八分音符と十六分音符は意識して, テヌートをかける. テヌートをかけた音の上行する動きと下行する動きにそって, res. とim. する.からは, 中声部もその動きにそって,res. とim. する. また, からは,までの崇高な緊張感からは解放されて,mP となる. は, 少々テンポを緩めて,(T) を迎える準備をする. この(T) は, の (T) 同様, 深みの f とする. 上声部の十六分音符の E 音から,suito f にする.res. とim. は, 細かいところでの (T) とは少々違うが, 音の動きにそってつけることに関しては違いがない. は, 少しテンポを緩めて,のD 音に至り, 第 1 部を納める. 第 2 部は,mP で始める. 間奏 4と間奏 5は, 区切を入れずに続けて演奏する. 上声部 3 拍め八分音符 C 音が, 全曲最大のクライマックスである. 下声部の () が音程 4 度ずつ上へと登っていく, その動きに合わせてクライマックスに向かってres. していき, f となる. クライマックスのC 音を充分テヌートする. クライマックスの後, 上声部と下声部に, タイて結ばれ2 小節ずつ組になっている () がある. その2 小節の塊にそって, テラス状にim. し, で mf に至る. 上声部の上昇する動きにそって, 少しres. する. 間奏 6と間奏 7も, 区切りを入れずに続けて演奏する. 間奏 6は, 対応する間奏 2とテヌートなどのアーティキュレーショ

10 54 54 豊橋創造大学短期大学部研究紀要第 29 号ンは同じようにする. ディナミークも概ね同じであるが, 音高が1オクターブ低く始まっているので, 間奏 2と比べると崇高な緊張感は薄れ, 少し世俗的な弛緩が漂う. しかし,の出だしは, やはり,suito P とする.suito P の緊張感は大切にしたい. 間奏 7も, 間奏 6 同様, 間奏 3とテヌートなどのアーティキュレーションは同じように, ディナミークも概ね同じようにする. ただし, 出だしのは, 上声部は, 下行する音の動きに合わせて少しim. し, 中声部は, 上行する音の動きに合わせて少しres. する. したがって, 本格的なres. は,からとなる. 中声部と上声部の上行するアルペジオにそって, 少しres. する.では, 少しテンポを緩めて, 最後の (T) を迎える準備をする. 最後の(T) も深い f で奏す. 細かいres. とim. も, (T) と同じようにつける. ただし, のres. は, のres. より豊かにして全曲の最後を飾る. また, はゆったりテンポを緩め,のim. と相まって, 深く静かに曲を閉じる. おわりに Sinfoni 11 は, シチリアーノ風のリズムが魅力的である. しかし, 単に舞曲ふうに演奏するのではなく, そこに漂う哀しみを伴った深い情感を豊かに表現したい曲である. 特に, 間奏 2の崇高さは, 特筆すべきものがある. 間奏 2 に対応する間奏 6 を1オクターブ低くしたのは, 間奏 2の崇高さを際だたせるためであったかも知れない. 極めて美しいものは, 二つあるよりも, ただ一つである方がよいという判断からであろう.

11 参考文献参考楽譜参考 CD J.S. バッハ作曲三声シンフォニアの楽曲分析と演奏解釈 ( 藤本 ) 55 * 参考文献市田儀一郎 1983 年バッハインヴェンションとシンフォニア ( 音楽之友社 ) 山崎孝 1984 年バッハインヴェンションとシンフォニア ( ムジカノーヴァ ) * 参考楽譜原典版 Johnn Sestin Bh Klvieruhlein fur Wilhelm Frieemnn Bh Urtext(Bärenreiter - Verlg, Kssel 1979) Johnn Sestin Bh TWO- n THREE-PART INVENTIONS Fsimile of the Autogrph Mnusript (Dover Pulitions, In., New York 1978) BACH Inventionen un Sinfonien Urtext (Bärenreiter - Verlg, Kssel 1972) J.S.BACH Inventionen Sinfonien Urtext (G. Henle Verlg, Munhen 1978) BACH INVENTIONEN UND SINFONIEN Urtext(C.F.Peters oportion, Frnkfurt 1933) J.S.Bh Inventionen un Sinfonien Urtext (Musikverlg Ges. m.. H&Co.,K.G.,Wien 1973) バッハインヴェンションとシンフォニア原典版角倉一朗校訂 ( カワイ出版 1983) バッハインヴェンションとシンフォニア原典版長岡敏夫編 ( 音楽之友社 1965) 校訂版 J.S.BACH 15 SYMPHONIEN Hns Bishoff (Steingrer Verlg, Offenh/M) BACH TOW-n Three-Prt Inventions Ferruio Busoni (G.Shirmer, New York 1967) J.S.BACH Dreistimmge Inventionen Ferruio Busoni(Breitkoph&Hltel Weisen) BACH INVENTIONI A TRE VOCI Alfreo Csell(Eizioni Curi Milno 1946) J.S.BACH Inventions 2` et 3 voix Durn S.A.(Eitions Musiles, Pris 1957) J.S.BACH Three-Prt Inventions Jmes Friskin(J.Fisher & Bro. Belwin Mills 1970) JOH.SEB.BACH 15 Dreistimmge Inventionen(Sinfonien) Alfre Kreutz(B.Shott's Sohnen Minz 1950) BACH DVOUHLASÉ INVENCE A TŘÍHLASÉ SINFONIE Vilem Kurz (Eitio Suprphon, Prh 1981) BACH Three-Prt Inventions WM.Mson(G.Shirmer In New York 1967) BACH 15 INVENTIONI A 3VOCI G.E.Moroni(Crish S.p.. Milno 1981) BACH INVENTIONI A TRE VOCI Bruno Mugellini(Riori 1983) JOH.SEB.BACH ZWEI-UND DREISTIMMIGE INVENTIONEN Julius Rötgen (Universl Eition, Hungry 1951) バッハ二声部インヴェンション三声部インヴェンション小前奏曲小フーガバッハ集 4 井口基成 ( 春秋社 1983) バッハインヴェンション ( 音楽之友社 1955) バッハインヴェンション全音楽譜出版社出版部編 ( 全音楽譜出版社 ) バッハインヴェンション & シンフォニアピアノ指導講座 7 千倉八郎編 ( 日音楽譜出版社 1983) バッハインヴェンション & シンフォニア解釈と奏法千倉八郎編 ( 日音楽譜出版社 1983) J.S. バッハインヴェンションとシンフォニア Hns Bishoff 角倉一朗訳 ( 全音楽譜出版社 1972) * 参考 CD Alo Ciolini (Pino) J.S.BACH INVENTION TOCE6601(TOSHIBA EMI) Christoph Eshenh (Pino)1979 INVENTION & SINFONIA F26G20323(POLYDOR) Glenn Goul (Pino)1989 BACH INVENTIONS & SINFONIAS 28DC5246(CBS SONY) Ttyn Nikolyev (Pino)1986 J.S.Bh INVENTIONS AND SINFONIAS VDC-1079(VICTOR) Anrs Shiff(Pino)1985 J.S.BACH 2&3 PART INVENTIONS FOOL-23100(POLYDOR) 高橋悠治 (Pino)1991 インヴェンションとシンフォニア他 COCO-7967(NIPPON COLUMBIA) 田村宏 (Pino)1989 J.S. バッハインヴェンション CG-3722(NIPPON COLUMBIA) Kenneth Gilert (Cemlo)1985 J.S.BACH INVENTIONEN UND SINFONIEN POCA-2113(ARCHIV) Gustv Leonhrt (Cemro)1992 バッハ: インヴェンションとシンフォニア BVCC-1863(BMG VICTOR) Helmut Wlh(Ammer-emro)1961 J.S. バッハ /2 声部のためのインヴェンション &3 声部のためのシンフォニア TOCE-7231(TOSHIBA EMI)

12 56 56 豊橋創造大学短期大学部研究紀要第 29 号譜 1 Sinfoni 11 BWV 797 ( 楽曲分析 ) 主題 1 : 6 間奏 : : 12 2 間奏 2 B: 18 間奏 3 3 B: : 主題 : 30 T 2 : 3

13 J.S. バッハ作曲三声シンフォニアの楽曲分析と演奏解釈 ( 藤本 ) 57 間奏 4 36 間奏 : : : 間奏 : 間奏 : : T :

14 58 58 豊橋創造大学短期大学部研究紀要第 29 号譜 2 Sinfoni 11 BWV 797 ( 演奏解釈 ) 1 T のクライマックス 6 3 res. 12 rit. 第一部のクライマックス 18 im. 24 res. rit. 30 rit.

15 J.S. バッハ作曲三声シンフォニアの楽曲分析と演奏解釈 ( 藤本 ) 59 全曲最大のクライマックス 36 res. 42 im. 48 im. 54 res. 60 rit. 66 rit.

144 Sinfoni 1Fntsi 1 Sinfoni 1 Fntsi 1 5) 3 H 6) 1 H 6). 2 Fis G A Fis. 2 Fis G A 0 2 Fis 0 2 Fis 3 1 D 3 1 D 8 2 E D C B 8 2 E D C H E F G A C

144 Sinfoni 1Fntsi 1 Sinfoni 1 Fntsi 1 5) 3 H 6) 1 H 6). 2 Fis G A Fis. 2 Fis G A 0 2 Fis 0 2 Fis 3 1 D 3 1 D 8 2 E D C B 8 2 E D C H E F G A C Bulletin of oyohshi Sozo Junior College 143 2002, No. 19, 143 154 J. S. 1) 2) 1 BWV 3) 772 11 BWV 782 11 2 12 12BWV 783 15BWV 786 14 17 1) 1 BWV 787 W. F. 4) K. für W.F.B. Sinfoni 1 49 Fntsi 1 BWV 787

46 46 豊橋創造大学短期大学部研究紀要第 29 号 5) 下声 3 拍め Es 音 6) 下声 1 拍め D 音 上声 中声 上声 1 拍め H 音上 中声 3 拍め E 音 中声 1 拍め Cis 音上 中声 1 拍め Cis 音上 5)6) 表 Ⅰ Sinfoni 11 と Fntsi 10

46 46 豊橋創造大学短期大学部研究紀要第 29 号 5) 下声 3 拍め Es 音 6) 下声 1 拍め D 音上声中声上声 1 拍め H 音上中声 3 拍め E 音中声 1 拍め Cis 音上中声 1 拍め Cis 音上 5)6) 表 Ⅰ Sinfoni 11 と Fntsi 10