Japanese Society for Joint Diseases

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おきみちたておか
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1 日関病誌,34(2): 113~118, 第 42 回学会寄稿股関節唇損傷に対する股関節鏡視下手術の適応浜松医科大学整形外科星野裕信 Application of Hip Arthroscopic Surgery for Labral Tears Hironobu HOSHINO Department of Orthopaedic Surgery, Hamamatsu University School of Medicine Abstract Objective: There have been many reports about arthroscopic treatment for labrum injury accompanied by acetabular dysplasia or femoroacetabular impingement. Meanwhile, poor results including catastrophic failure in arthroscopic surgery for hip disorders have been reported. The purpose of this study was to investigate the results of arthroscopic surgery for labrum injury in order to determine the better application of arthroscopic surgery for its treatment. Methods: There were 143 hip joints from patients with labrum injuries that underwent arthroscopic surgery. The cohort were divided into three groups; 28 joints without acetabular dysplasia (non-d group: CE angle <25 ), 30 joints with mild acetabular dysplasia (mild-d group: CE angle ), and 85 joints with acetabular dysplasia (D group: CE angle >20 ). The morphology of each labral tear was arthroscopically evaluated and categorized into partial or complete peripheral longitudinal tear, radial flap tear, degenerative tear and inverted limbus. Clinical scores by the Japanese Orthopaedic Association (JOA) were evaluated both in the preoperative and postoperative phase. Osteoarthritic changes on the plain radiographs of the hip joint were also evaluated. Results: There were more cases with partial peripheral longitudinal tears in non-d and mild D groups, while there were more cases with degenerative tears in D group. In D group, there were three joints with 80 points or more of the JOA score, six joints with less than 80 points of the JOA score, 15 joints which finally resulted in total hip arthroplasty (THA), and 61 joints combined with rotational acetabular osteotomy. Arthroscopic findings in 15 joints finally resulted in THA and were characterized by inverted limbs in eight joints and degenerative tears with instability in all joints. On the other hand, arthroscopic findings in three joints with JOA scores of 80 points or more were characterized by partial peripheral longitudinal tears without instability and minor degrees of chondral injury in all cases. Conclusion: Our results suggest that arthroscopic surgery for labral tears with mild dysplastic hip joints should be avoided in cases with inverted limbs, labrum injuries with instability, or major degrees of chondral injury. Keywords: arthroscopic surgery, hip joint, labral tear ( 受付 : 受理 : )

2 114 はじめに股関節唇は寛骨臼縁を全周性に縁どるように存在し, ヒップソケットを深くして大腿骨頭の被覆を拡大し, シーリングにより関節液の潤滑を保つことによって関節の安定性を向上させている 1, 2) 股関節唇は部位により形態学的, 組織学的構造が異なっている前方では関節軟骨表面と股関節唇の間にはrecessが存在するが, 後方では股関節唇は直接関節軟骨に移行しており, 股関節唇のコラーゲン線維は前方では辺縁に平行に走っているが, 後方では辺縁に垂直に走っており, この組織学的な違いが股関節唇損傷の大半が前方に生じる理由の一つであると報告されている 3) 股関節唇損傷の原因には, 寛骨臼形成不全のように股関節の不安定性と荷重部の応力集中をきたす病態によるものと, femoroacetabular impingement( 以下 FAI) のように大腿骨や寛骨臼の形態異常により股関節の生理的可動域内で生じる病態もある近年では股関節鏡視下手術に関する器具の改良や技術の進歩により, 寛骨臼形成不全やFAIに伴う股関節唇損傷に対する良好な股関節鏡視下手術の成績が報告されるようになる一方で成績不良例も報告されており, 股関節鏡視下手術の適応の拡大が危惧される今回の研究の目的は, 当科で股関節唇損傷に対して股関節鏡視下手術を行った症例の術後成績を調査し, 股関節唇損傷の鏡視下手術適応について検討することであるの有無は単純 X 線正面像, 側面像より判断し, cross over sign 陽性であるpincer type(13 関節 ),α 角 55 以上であるcam type(5 関節 ), 両形態を有するcombined type(6 関節 ) であり,FAIの形態なし(4 関節 ) と分類した股関節鏡視下における股関節唇の損傷形態の評価はLageら 4) の分類により, 軟骨移行部での部分損傷完全損傷, 実質部でのフラップ断裂, 変性断裂の有無, およびinverted limbusの有無を調査した臨床評価は術前と最終観察時の Japanese Orthopaedic Association(JOA) スコア, 最終観察時単純 X 線上の関節症性変化の有無を調査した結果関節唇の損傷形態をみてみると,non D 群, mild D 群では軟骨移行部の部分損傷が多い傾向にあり,D 群では変性断裂が多い傾向にあった ( 図 1) さらにinverted limbusはd 群において多くみられた non D 群とmild D 群で関節唇部分切除術を施行した症例は20 関節であり,JOAスコアは術前平均 58 点から91 点と有意に改善していた ( 図 2) 関節症性変化が進行したものは3 関節であったまた関節唇縫合術を施行した38 関節ではJOAスコアは術前平均 59 点から93 点と有意に改善していた関節症性変化が進行したものは3 関節であった D 群の症例のうちJOA scoreが80 点以上は3 関節, 80 点未満は6 関節,Total Hip Arthroplasty (THA) に移行したのは15 関節であり, 寛骨臼方法対象は当科にて2000 年 1 月から2014 年 3 月までに股関節鏡視下手術を施行した関節唇損傷患者 143 関節である内訳は寛骨臼形成不全のないCE 角 25 以上は28 関節 (non D 群 :16 歳 ~54 歳, 男性 12 関節, 女性 16 関節 ),CE 角 20 以上 25 未満の軽度の寛骨臼形成不全を伴う30 関節 (mild D 群 :21 歳 ~42 歳, 男性 10 関節, 女性 20 関節 ),CE 角 20 未満の寛骨臼形成不全を伴う 85 関節 (D 群 :16 歳 ~34 歳, 男性 22 関節, 女性 63 関節 ) を対象とした non D 群におけるFAI 図 1 各群における股関節唇の損傷形態の比較

115 図 2 寛骨臼形成不全のない群と軽度の寛骨臼形成不全群における股関節唇部分切除と縫合術の術前と術後最終臨床成績の比較図 4 症例

3) THAに移行した15 関節の股関節鏡視所見は,8 関節でinverted limbusを伴い,

点以上の 3 関節では股関節唇の損傷形態は全例軟骨移行部での部分損傷であり, プロービングにて不安定性がなく, 軟骨損傷も軽度であった

度,cross over signを認め ( 図 4), 左股関節唇損傷と診断した股関節鏡視所見では,

3 115 図 2 寛骨臼形成不全のない群と軽度の寛骨臼形成不全群における股関節唇部分切除と縫合術の術前と術後最終臨床成績の比較図 4 症例 1 股関節単純 X 線正面像回転骨切り術 ( 以下 RAO) に至った症例は61 関節であり全例 CE 角が15 度以下であった ( 図 3) THAに移行した15 関節の股関節鏡視所見は,8 関節でinverted limbusを伴い, 全例プロービングにて不安定な変性断裂の所見であったまた全例関節唇軟骨移行部での強い軟骨損傷がみられた一方,JOA scoreが80 点以上の 3 関節では股関節唇の損傷形態は全例軟骨移行部での部分損傷であり, プロービングにて不安定性がなく, 軟骨損傷も軽度であった症例を供覧する症例 1は23 歳女性でD 群である主訴は左股関節痛で, 仕事中に股関節を捻って受傷単純 X 線上 CE 角 15 度,cross over signを認め ( 図 4), 左股関節唇損傷と診断した股関節鏡視所見では, 前上方部の軟骨移行部での部分損傷があり ( 図 5), 部分切除術を図 5 股関節鏡所見前上方部の軟骨移行部での部分損傷図 3 CE 角 20 度未満の寛骨臼形成不全群における股関節鏡視下手術の予後図 6 部分切除後

116 施行 ( 図 6), 術度疼痛は一時的に消失した術後 6 年で関節裂隙の狭小化が進行し ( 図 7), 術度 11

主訴は右股関節痛で, ストレッチをしていて右股関節痛を自覚するようになった単純 X 線上 CE 角 15 度であり ( 図 9),

11), 術度疼痛は消失した術後 12 年で JOA score 98 点で経過良好である ( 図 12) 考察

の後,FAIの関与の有無を判断して手術適応を決定している寛骨臼形成不全でもCE 角 16 度図 7 術後 6 年の単純 X

4 116 施行 ( 図 6), 術度疼痛は一時的に消失した術後 6 年で関節裂隙の狭小化が進行し ( 図 7), 術度 11 年で末期変形性股関節症となり ( 図 8), JOA score 55 点でTHAに移行した症例 2は33 歳女性でD 群である主訴は右股関節痛で, ストレッチをしていて右股関節痛を自覚するようになった単純 X 線上 CE 角 15 度であり ( 図 9), 右股関節唇損傷と診断した股関節鏡視所見では, 前上方部の軟骨移行部での部分損傷があり ( 図 10), 部分切除術を施行 ( 図 11), 術度疼痛は消失した術後 12 年で JOA score 98 点で経過良好である ( 図 12) 考察股関節唇損傷においては3か月間の保存治療 ( 疼痛誘発姿位を避ける, 消炎鎮痛剤の投与 ) の後,FAIの関与の有無を判断して手術適応を決定している寛骨臼形成不全でもCE 角 16 度図 7 術後 6 年の単純 X 線正面像関節症性変化の進行がみられる図 9 症例 2 股関節単純 X 線正面像図 8 術後 11 年の単純 X 線正面像末期変形性股関節症となる図 10 股関節鏡所見前上方部の軟骨移行部での部分損傷

117 以上で理学所見より関節唇損傷に起因する痛みと判断した場合にのみ股関節鏡視下の単独手術を行っているが, 不安定性を助長する可能性がありRAOの適応を常に考慮しなければならないと考えている FAIでは前方のimpingementが早期の変形性股関節症の原因となることが報告されている 5) FAIの股関節唇損傷における股関節鏡視下にデブリドマンと縫合術の3.

であり,FAIに伴う股関節唇損傷では股関節唇部分切除より縫合術の方がよいという結論であった寛骨臼形成不全の股関節唇損傷における鏡視下手術の成績では, ごく軽度の寛骨臼形成不全には股関節鏡視下の関節唇デブリドマンの成績は良好であったという報告があるが 7, 8),7 割の患者で痛みがとれず,4 割の患者で関節症の進行大腿骨頭のmigrationが起こったため,

5 117 以上で理学所見より関節唇損傷に起因する痛みと判断した場合にのみ股関節鏡視下の単独手術を行っているが, 不安定性を助長する可能性がありRAOの適応を常に考慮しなければならないと考えている FAIでは前方のimpingementが早期の変形性股関節症の原因となることが報告されている 5) FAIの股関節唇損傷における股関節鏡視下にデブリドマンと縫合術の3.5 年の成績を比較した報告では 6), 両方法とも術前と比較して有意に図 11 部分切除後図 12 術後 12 年の単純 X 線正面像関節症性変化はみられない疼痛が改善したが, 術後評価はデブリドマンと比較して縫合術で有意に良好であり,goodまたはexcellentの割合はデブリドマンで68%, 縫合術で92% であり,FAIに伴う股関節唇損傷では股関節唇部分切除より縫合術の方がよいという結論であった寛骨臼形成不全の股関節唇損傷における鏡視下手術の成績では, ごく軽度の寛骨臼形成不全には股関節鏡視下の関節唇デブリドマンの成績は良好であったという報告があるが 7, 8),7 割の患者で痛みがとれず,4 割の患者で関節症の進行大腿骨頭のmigrationが起こったため, 股関節鏡視下手術単独で行うべきでないと結論づけている報告もある 9) 寛骨臼形成不全においては, 肥厚した股関節唇は股関節の安定化に寄与しているため, 股関節を温存することが重要であり 10), 程度の強い形成不全股には寛骨臼形成術を行う必要があり, 股関節鏡は骨切り術と同時か後に行うことを推奨している報告もある 11) またPhilipponら 12) は50 歳以上の患者で関節裂隙が2mm 以上残存していれば,90% の survivalであったが, 関節裂隙が2mm 未満では57% のsurvivalであったと報告しており, すでに関節症が進行している症例に対しては適応を慎重にすべきであると思われる関節唇部分切除を行うか関節唇縫合術を行うかは, 修復できるものに関しては縫合術を行うべきであり, 本研究の結果から, 軽度の寛骨臼形成不全を伴う股関節唇損傷に対して, 断裂の形態によっては部分切除のみで長期にわたり良好な症例も存在するが,inverted limbusの存在や, 股関節唇の不安定性や軟骨損傷の強い症例には股関節唇部分切除術を避けるべきと思われる股関節鏡視下手術は関節外にとっては低侵襲の手術であるが, 関節内では滑膜切除等の低侵襲な処置から関節唇縫合, 関節包切開, 骨切除と時に高侵襲となることもあり, より厳密な患者選択をすべきであると考えられるいくつかの良好な短期成績が報告される一方で, 股関節内に侵襲を加えたことによりかえって悪い結果に至った症例の報告もあり, 今後報告される股関節鏡視下手術の長期成績が待たれるところである

6 118 文献 1)Seldes RM, Tan V, Hunt J, et al: Anatomy, histologic features, and vascularity of the adult acetabular labrum. Clin Orthop Relat Res. 2001; 382: )Crawford MJ, Dy CJ, Alexander JW, et al: The biomechanics of the hip labrum and the stability of the hip. Clin Orthop Relat Res. 2007; 465: )Cashin M, Uhthoff H, O Neill M, et al: Embryology of the acetabularlabral chondral complex. J Bone Joint Surg. 2008; 90 B: )Lage LA, Patel JV, Villar RN: The acetabularlabral tear: an arthroscopic classification. Arthroscopy. 1996; 12: )Ganz R, Parvizi J, Beck M, et al: Femoroacetabular impingement: a cause for osteoprthritis of the hip. Clin Orthop Relat Res. 2003; 417: )Larson CM, Giveans MR, Stone RM: Arthroscopic debridement versus refixation of the acetabular labrum associated with femoroacetabular impingement: mean 3.5 year follow up. Am J Sports Med. 2012; 40: )Byrd JW, Jones KS: Hip arthroscopy in the presence of dysplasia. Arthroscopy. 2003; 19: )Yamamoto Y, Ide T, Nakamura M, et al: Arthroscopic partial limbectomy in hip joints with acetabular dysplasia. Arthroscopy. 2005; 21: )Parvizi J, Bican O, Bender B, et al: Arthroscopy for labral tears in patients with developmental dysplasia of the hip: a cautionary note. J Arthroplasty. 2009; 24: )Tschauner C, Hofmann S, Graf R, et al: Labrum lesions and residual dysplasia of the hip joint. Definition and prospectives. Orthopade. 1998; 27: )Matsuda DK, Khatod M: Rapidly progressive osteoarthritis after arthroscopic labral repair in patients with hip dysplasia. Arthroscopy. 2012; 28: )Philippon MJ, Schroder E, Souza BG, et al: Hip arthroscopy for femoroacetabular impingement in patients aged 50 years or older. Arthroscopy. 2012; 28:

Arthroscopic Subacromial Decompression for Impingement Syndrome by E. Shimozaki, K. Kitaoka, T. Matsumoto, H. Itokawa, T. Kobayashi and K. Tomita Depa

Arthroscopic Subacromial Decompression for Impingement Syndrome by E. Shimozaki, K. Kitaoka, T. Matsumoto, H. Itokawa, T. Kobayashi and K. Tomita Department of Orthopaedic Surgery, School of Medicine,