解離性障害の外来治療

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こうじひめい
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1 解離性障害の外来治療 2015/3/15 第 103 回東京精神医学会学術総会 ( 吉野相英会長 ) 第 18 回専門医制度生涯教育研修会埼玉医科大学総合医療センター ( 川越 ) 吉益晴夫 1

2 想起できない過去の記憶が現在の行動思考感情に影響を与える 2

3 精神科で記憶障害を標榜すると以下のような人が受診します解離性健忘 (= 心因性健忘 ) 解離性同一性障害 (= 多重人格性障害 ) 急性ストレス障害 PTSD 境界性パーソナリティ障害側頭葉てんかんアルコール依存症のブラックアウト高次脳機能障害 ( 頭部外傷後遺症脳血管障害後遺症 ) 健忘症候群 ( アルコール性コルサコフ症候群前交通動脈瘤破裂後 ) 認知症 ( 順不同 ) 3

4 解離性障害の薬物療法外来概要完全予約制毎週木曜日 13:00-15:30 診察時間 3 4 人 /30 分通院間隔 2 週間 8 週間基本的な方針治療で症状を悪化させない自然回復力に期待する併存症や実際の症状をターゲットにして薬物療法を行う通常の外来診療枠で行える範囲の精神療法を行う (= 解離性同一性障害の交代人格には介入しない 4

DSM-5 の診断枠組 DSM-IV 1994 第 7 章第 8 章第 10 章第 15 章身体表現性障害不安障害解離性障害適応障害 DSM-5

5 DSM-5 の診断枠組 DSM-IV 1994 第 7 章第 8 章第 10 章第 15 章身体表現性障害不安障害解離性障害適応障害 DSM 第 5 章第 7 章第 8 章不安症強迫症急性ストレス障害 PTSD トラウマストレス因関連障害解離症第 9 章身体症状症 5

6 DSM における解離性障害と ICD における解離性 ( 転換性 ) 障害 ICD の解離性 ( 転換性 ) 障害 DSM の解離性障害転換性障害解離性健忘解離性同一性障害特定不能の解離性障害離人現実感喪失障害解離性障害の基本的特徴 (DSM-5) 解離性障害の特徴は意識記憶同一性情動知覚身体表現運動制御行動の統合が損なわれることまたは連続性を失うことである解離性 ( 転換性 ) 障害が共有する共通の主題 (ICD-10) 解離性 ( あるいは転換性 ) 障害が共有する共通の主題は過去の記憶同一性と直接的感覚および身体運動のコントロールの間の正常な統合が部分的にあるいは完全に失われることである 6

7 解離症状を呈する精神疾患人格の交代解離性障害記憶の欠損解離性同一性障害解離性健忘局在性健忘 : ある期間に生じた出来事を全て想起することができない選択性健忘 : ある期間の特定のことがらを想起できない全般性健忘 : 全人生を想起できない離人現実感喪失障害特定可能な他の解離性障害意識の消失特定不能の解離性障害トラウマストレス因関連障害心的外傷後ストレス障害(PTSD) 急性ストレス障害記憶の欠損適応障害記憶の欠損パーソナリティ障害境界性パーソナリティ障害その他の精神疾患転換性障害双極性障害うつ病統合失調症など 7

8 ヘビににらまれた蛙大きな恐怖に直面したときの反応 : Fight( 闘争 ) Flight( 逃走 ) Freeze ヘビににらまれた蛙 Freeze 非常に恐ろしいもの苦手なものの前で身がすくんでしまい動けなくなるようすのたとえ ( 辞書 ) Freeze を利用した動物実験ブザー音の後に電気ショックを与えたラット 8

9 私の外傷記憶 9

10 恐怖は我々の生活を脅かすこともあるがそれによって我々は守られておりこれからも守られていく 10

11 記憶システムの分類短期記憶即時記憶ワーキングメモリー前頭前野長期記憶顕在記憶エピソード記憶海馬大脳皮質意味記憶優位半球側頭葉潜在記憶手続き記憶大脳基底核条件付けプライミング短期記憶課題即時記憶課題注意力をみている長期記憶課題エピソード記憶をみている 11

12 エピソード記憶時間と場所が特定された出来事の記憶海馬が関与する長期間高濃度のステロイド暴露で海馬は萎縮する反復想起をすると神経経路が強化されるしないと忘却記憶は想起するたびに書き換えられる不要なものが削除されたり勘違いで追加されたりする 12

13 解離性健忘の分類 (DSM-5) エピソード記憶障害の分類解離性健忘の分類逆向性健忘受傷前向性健忘時間軸限局的健忘選択的健忘持続的健忘全般性健忘系統的健忘逆向性健忘前向性健忘 13

14 情動記憶情動を伴った記憶記憶の最も原始的な形態扁桃体が関与する危険を回避するためのシステム 3つのF 扁桃体は感覚刺激視覚嗅覚聴覚触覚味覚刺激で賦活される類似刺激で賦活されやすい刺激が何か分からないことも多いフラッシュバックとして想起される恐怖感情だけが想起されることがある自律神経の反応を伴う忘却されにくいステロイドが情動記憶を強化 14

15 解離は幼少期のトラウマと関連している解離性障害のある群とない群とで虐待既往の比較 (odds ratio) (Foote et al., 2006) 幼少期の身体的虐待 5.86(p<0.001) 幼少期の性的虐待 7.87(p<0.001) 解離性同一性障害患者が報告した児童虐待の既往歴 (%) (Ross, 1996) Putnum n=100 Ross n=236 Cones n=50 Schultz n=335 Ross n=102 性的虐待身体的虐待性的または身体的虐待

16 幼少期のトラウマは思い出せないことがある反復するトラウマトリガー解離性同一性障害解離性健忘反復するトラウマトリガー解離性健忘トリガー PTSD 幼児期小児期青年期成人期 16

17 症例 3: 解離性同一性障害 (23 歳女性 ) 症例は顕著な解離症状のために解離性障害の薬物療法外来に紹介されてきた解離閾値を下げる抗不安薬と睡眠薬を中止し衝動性や攻撃性を高める抗うつ薬を中止した幻聴は交代人格の声であったり過去の記憶のフラッシュバックであり抗精神病薬への反応が不良であることから精神病性ではなく解離性幻聴と判断した症状を抱えながら大学を卒業し会社員として就労している精神療法的には解離に至るトリガーの認識および過去の外傷記憶との関連理解を促した解離性障害の治療は薬物療法と精神療法の両者を組み合わせて精神科医が積極的に関わるべきと思われる 17

18 トリガーと諸症状の出現現在のトリガー ( 視覚嗅覚聴覚触覚味覚 ) 視床海馬 ( エピソード記憶 ) 扁桃体 ( 情動記憶 ) 前頭前野視床下部過去のトラウマ想起解離性健忘恐怖感自律神経症状解離症状 PTSD 解離性障害 18

19 現在のトリガーで過去に獲得したトラウマ反応が始まる生来的な素因 + 気分障害 + 飲酒や薬物幼少期の反復するトラウマトラウマ 2 解離性健忘トラウマ 3 + ストレストリガー解離症状 3-8 歳 13 歳 18 歳 24 歳年齢やトラウマの回数は仮の数字です 19

20 PTSD と解離性障害は近縁の疾患であるトリガーアラーム診断 T1 特定の視覚聴覚刺激 A1 外傷エピソードの想起 ( フラッシュバック ) PTSD T2 類似の視覚聴覚刺激 A2 記憶想起を伴わない恐怖感情自律神経症状の再体験 T3 要素的な視覚聴覚嗅覚味覚触覚刺激 A3 解離症状 : 記憶欠損意識消失人格交替解離性障害 20

21 症例 4: 解離性障害 PTSD(41 歳女性 ) 症例は内科入院時の顕著な解離症状のために治療が開始された病棟での入院環境は解離症状発現のトリガーに満ちていた幼少期のトラウマを想起することには逡巡があったが最終的には想起することを本人は決断したトラウマ想起に伴って解離症状は起こらなくなった回復の過程で解離性障害が PTSD に移行することがある 21

22 PTSD の A 項基準 ( 外傷の定義 ) DSM-Ⅲ(1980) 明らかにそうと認められほとんど誰にとっても重大なストレスとなるような出来事 DSM-Ⅲ-R(1987) 人間の通常の体験の範囲を超えた誰にとっても苦痛であるような体験 DSM-Ⅳ(1994) その人は以下の 2 つがともに認められる外傷的な出来事に暴露されたことがある 1) 死や外傷が実際に起きたり起きそうになったり自分や他人の身体的保全が脅かされるといった事態を体験したりそれらを目撃したりそれらに直面したりすること 2) 当人の反応が極度の恐れや絶望や恐怖体験であったこと DSM-5(2013) 実際にまたは危うく死ぬ重症を負う性的暴力を受ける出来事への以下のいずれか 1 つ ( またはそれ以上 ) の形による暴露 : (1) 心的外傷的出来事を直接体験する (2) 他人に起こった出来事を直に体験する (3) 近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうになった出来事の場合それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない (4) 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に繰り返しまたは極端に暴露される体験をする ( 例 : 遺体を収集する緊急対応要員児童虐待の詳細に繰り返し暴露される警官 ) 注 : 基準 A4 は仕事に関連するものでない限り電子媒体テレビ映像または写真による暴露には適用されない

23 PTSD と解離性障害は近縁の疾患であるトリガーアラーム診断 T1 特定の視覚聴覚刺激 A1 外傷エピソードの想起 ( フラッシュバック ) PTSD T2 類似の視覚聴覚刺激 A2 記憶想起を伴わない恐怖感情自律神経症状の再体験 T3 要素的な視覚聴覚嗅覚味覚触覚刺激 A3 解離症状 : 記憶欠損意識消失人格交替解離性障害 23

24 PTSD と解離性障害は近縁の疾患であるトリガーアラーム診断 T1 特定の視覚聴覚刺激 A1 外傷エピソードの想起 ( フラッシュバック ) PTSD T2 類似の視覚聴覚刺激 A2 記憶想起を伴わない恐怖感情自律神経症状の再体験 T3 要素的な視覚聴覚嗅覚味覚触覚刺激 A3 解離症状 : 記憶欠損意識消失人格交替解離性障害 24

25 解離性障害の頻度精神科外来患者 82 例における解離性障害の頻度アメリカ (Foote et al., 2006) 解離性障害 29%(24 例 ) 解離性健忘 10% 特定不能の解離性障害 9% 解離性同一性障害 6% 離人症性障害 5% 解離性とん走 0% 精神科外来患者における解離性障害の割合トルコ (Sar et al., 2000) 解離性障害 12% 解離性同一性障害 4% 特定不能の解離性障害 8% 25

26 解離性障害の頻度ニューヨーク州郊外の住人 658 名における過去 1 年間の解離性障害有病率 (Johnson et al., 2006) 解離性障害 9.1%(24 例 )[ 男性 9.7% 女性 8.6%] 離人症性障害 0.8% 解離性健忘 1.8% 解離性同一性障害 1.5% 特定不能の解離性障害 5.5% 26

27 解離性障害の薬物療法外来の 46 例解離性障害の診断を受けた患者 46 例の解離のタイプ解離性健忘 ( 限局性 ) 15 (32.6%) 特定不能の解離性障害 14 (30.4%) 解離性同一性障害 10 (21.7%) 解離性健忘 ( 全般性 ) 4 (8.7%) 離人症性障害 1 (2.2%) その他 2 (4.4%) 解離性障害の薬物療法外来を受診した患者の最終的な主診断名について ( 吉益晴夫ら総合病院精神医学会 2012) 27

28 解離性障害の薬物療法外来の 46 例解離性障害患者 38 例の過去のトラウマ体験虐待 19 (50%) 精神的虐待 11 (29%) 身体的虐待 8 (21%) 性的虐待 4 (11%) いじめ 5 (13%) 事件 9 (24%) 解離性障害の薬物療法外来を受診した患者の最終的な主診断名について ( 吉益晴夫ら総合病院精神医学会 2012) 28

29 解離性障害の薬物療法外来の 46 例解離性障害の診断を受けた患者 46 例の最終的な主診断名解離性障害 22 (47.8%) 双極性障害 11 (23.9%) 統合失調症 3 (6.5%) 広汎性発達障害 3 (6.5%) 大うつ病性障害 2 (4.3%) 側頭葉てんかん 2 (4.3%) PTSD 1 (2.2%) 薬物依存 1 (2.2%) 診断保留 1 (2.2%) 解離性障害の薬物療法外来を受診した患者の最終的な主診断名について ( 吉益晴夫ら総合病院精神医学会 2012) 29

30 解離性障害の薬物療法外来の 46 例解離性障害の患者がはじめて受診したときには受診に至るほどの解離症状悪化がなぜ今のタイミングで起こったかを考える解離症状のベースに気分障害や統合失調症の発症や悪化があるかもしれない解離性障害双極性障害の症例 ( 症例 5) 解離性障害統合失調症の症例 ( 症例 6) および解離性同一性障害との鑑別診断 30

31 症例 5: 解離性健忘を伴う双極性障害 (43 歳男性 ) 解離性健忘症状のために解離性障害の薬物療法外来に紹介されてきた症例である診療の経過中にベースに双極性障害が存在することが明らかになり双極性障害に対して薬物療法を行った双極性障害のコントロールとパラレルに解離症状も消失した解離症状は目立つ症候であるがその根底に別の精神疾患が隠されていることが少なくない専門外来に紹介された解離性障害の 23.9% が経過中に双極性障害の診断に至った ( 吉益ら, 2012) 31

32 症例 6: 解離性健忘を伴う統合失調症 (28 歳女性 ) トイレに閉じこもって措置入院となり解離性健忘 ( 限局的健忘 ) の診断のついた症例である他院に転院した後に健忘の背後に幻聴の存在が明らかになり統合失調症に診断が変更となった解離症状は目立つ症候であるがその根底に別の精神疾患が隠されていることが少なくない専門外来に紹介された解離性障害の 6.5% が経過中に統合失調症の診断に至った ( 吉益ら, 2012) 32

33 解離性障害の一般的な治療薬物療法薬物療法に関する文献は少ない PTSD の切り口から行くと適応のあるのはパロキセチン精神療法想い出せない外傷記憶を想起する記憶が意識化されれば症状は改善する除反応 (abreaction): これまであまり意識されずにいた外傷記憶を感情を伴って想起しそのエネルギーを解放するベンゾジアゼピン系の抗不安薬が補助的に使用されることがある PE(prolonged exposure: 長期暴露 ):PTSD に対する治療法の 1 つトラウマを有する解離性障害にも応用可能患者はトラウマとなった出来事を安全な場所で詳細に陳述することを繰り返す恐怖心を和らげていく EMDR(eye movement desensitization and reprocessing: 眼球運動による脱感作と再処理 ): 眼球運動は脳を直接的に刺激し脳が本来もっている情報処理のプロセスを活性化する何年もかけて心のどこかに落ち着いていくプロセスを短時間に進める催眠療法 (hypnosis) 33

34 解離性障害の外来治療精神療法安心させる! 脳内の防犯センサーの誤作動である警報は鳴っているが危険は迫っていない過去の記憶が危険を感じている何が誤作動のトリガーかを考えるトリガーを地雷に例える自傷行為はその原因を一緒に考える新たな生活上の困難解離の緩和目的または促進目的危険物 ( 刃物やひも類 ) や薬物の管理法を検討する 34

35 解離性障害の外来治療薬物療法解離閾値 ( 覚醒レベル ) を下げる薬を止める抗不安薬睡眠薬 ( 亢進しているなら ) 衝動性や攻撃性を高める薬を止める抗うつ薬診断の再検討気分障害特に双極性障害のうつ状態と混合状態物質依存アルコール依存薬物依存 35

36 解離性障害の外来治療環境調整安心できる安全な環境に身を置く職場異動転職テレビなど刺激的な画像子供の声や姿を避ける職場から離れる別居する防犯対応住居入院は慎重に精神科病棟は解離トリガーの宝庫基本的な姿勢治療者が回復を信じる二次的なトラウマを作らない治療によって悪化させない 36

37 まとめ解離性障害は特殊なタイプの記憶障害である解離性障害の治療には安心できる安全な環境が必要である治療の過程で一部の解離性障害は PTSD になるこれは回復の徴候である両疾患はストレストラウマ関連疾患としてまとめて考えるべきである気分障害 ( 特に双極性障害 ) の合併に注意するすでに治療中の解離性障害では処方薬 ( 特にベンゾジアゼピン系の抗不安薬と睡眠薬 ) を減らすことがしばしば改善に繋がる 37

38 解離性障害の外来治療 2015/3/15 第 103 回東京精神医学会学術総会 ( 吉野相英会長 ) 第 18 回専門医制度生涯教育研修会埼玉医科大学総合医療センター ( 川越 ) 吉益晴夫 38

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000-はじめに.indd ２リハビリテーション看護 (1) 概要ア看護部の理念方針理念患者様とともにリハビリテーションのゴール目標を目指しできるかぎりの自立を支援し安全で質の高い看護を提供します方針１人間の生命人間としての尊厳および権利を尊重した看護サービスを提供します２リハビリテーション看護の専門性を発揮し患者様の日常生活行動の獲得に向けて見守る待つともに考える姿勢を持ってかかわり