画像診断で頸部リンパ節転移を強く疑ったが組織学的に否定された舌癌の1例

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ふみなたけはな
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1 口腔腫瘍 29 巻 3 号 141 ~ 145 頁 2017 画像診断で頸部リンパ節転移を強く疑ったが組織学的に否定された舌癌の 1 例檀上敦森啓輔合島怜央奈下平大治靏岡祥子山下佳雄 : 今回われわれは, 舌癌の術後に頸部リンパ節転移を疑い, 頸部郭清を行ったが, 組織学的に転移を否定された症例を経験したので報告する症例は,60 歳, 女性左側舌縁部潰瘍の精査目的に当科紹介受診となった舌側転位した下顎左側第二小臼歯歯冠と一致して舌縁に 2 3mm の白斑を伴った潰瘍を認めた左側舌潰瘍の切除生検を行ったところ, 高分化型扁平上皮癌の病理診断で切除断端は陰性であった術後 4 年 2 か月経過したところで, 同側顎下リンパ節の腫脹を認めた造影 CT 検査で左顎下部に直径 10mm 大のリンパ節を認め,MRI 検査では顎下リンパ節の他に, 中内深頸リンパ節の腫大も認めた PET-CT 検査でも両リンパ節に高集積を認めた頸部エコー検査においてもリンパ節はリンパ門の狭小化もしくは消失を認めたため, 最終診断を転移リンパ節とした根治的頸部郭清術を行い, 郭清組織中の 31 個のリンパ節を検討したが, すべてのリンパ節に癌の転移は認めず, 組織学的にはリンパ節炎の診断であった : 画像診断, 頸部郭清, 頸部リンパ節転移口腔癌の頸部リンパ節転移の制御は, その予後を左右する重要な因子である近年, 口腔癌に対する治療法も進歩し, 治療成績も向上しているが, 頸部リンパ節転移症例の予後は依然として不良である頸部リンパ節転移の診断は Computed Tomography (CT),Magnetic Resonance Imaging (MRI),Ultrasonography (US),Positron Emission Tomogaphy-CT (PET-CT) 等の画像診断と臨床所見から総合的に判断する事が一般的である今回, われわれは舌癌 (T1N0M0 stage I) の術後 4 年に同側の顎下リンパ節の腫大を認め, 種々の画像検査で複数個のリンパ節転移が疑われたため頸部郭清術を行ったが, 組織学的にリンパ節転移が否定された症例を経験したので報告する患者 :60 歳, 女性初診 :2010 年 1 月主訴 : 左側舌縁部の疼痛既往歴 : 子宮筋腫で子宮全摘 (1990 年 ) 痔核摘出(2002 年 ) 胃ポリープ切除 (2006 年 ) 脂質異常症で内服加療佐賀大学医学部歯科口腔外科学講座 ( 主任 : 山下佳雄教授 ) 受付 :2017 年 1 月 5 日, 受理 :2017 年 7 月 24 日中喫煙歴や飲酒歴はない家族歴 : 特記事項なし現病歴 :2009 年 10 月頃より左側舌縁部の疼痛を自覚し, 近医内科でステロイド軟膏の外用を開始した症状は改善せず, 疼痛が増大したため, 近医歯科を受診したところ, 同部位へのレーザー治療を施行されたしかし症状の改善を認めないため,2010 年 1 月当科紹介受診となった舌側転位した下顎左側第二小臼歯歯冠と一致して舌縁部に 2 3mm の白色病変を伴った潰瘍を認めた ( 図 1) 患者の希望もあり全身麻酔下に下顎左側第二小臼歯抜歯と左側舌潰瘍の切除生検を行った病理組織診断の結果は, 高分化型扁平上皮癌で, 切除断端陰性であった (pt1,yk-2, 深達度 :1.6mm, 脈管浸潤なし, 神経周囲浸潤なし )( 図 2) 術後は補助療法を行わず経過観察とした 4 年 2 か月経過したところで, 触診で同側顎下リンパ節の腫脹を認めた同リンパ節の圧痛や自発痛はなく可動性を認めた血液検査では明らかな炎症反応はなく,IL-2R や LDH の値も正常値であった腫瘍マーカーの SCC は軽度上昇を認めた ( 表 1) 口腔内所見としては炎症を疑うような所見はなく, パノラマ X 線写真画像においても特記すべき所見は認めなかった舌癌の既往を考慮し,CT,MRI, PET-CT,US 検査を施行した造影 CT 所見 : 左側顎下部に径 mm, 左側中内深頸領域に径 mm のリンパ節を各 1 つ認めた Rim enhancement は認められなかった ( 図 3) 造影 MRI 所見 : 左側顎下部に径 mm, 左側中内深頸領域に径 mm のリンパ節を各 1 つ認めた

142 口腔腫瘍 29 巻 3 号 2017 檀上敦ほか 1 顎下リンパ節腫脹時の血液検査所見 WBC :7.7 10 3 /ul RBC :4.31 10 3 /ul LDH :156 U/l sil-2r :252 U/ml CRP :0.06 mg/dl SCC :1.6 ng/ml HIV :0.

組織学的にはリンパ節炎の診断であった ( 図 7) 2 初回手術時の摘出標本の病理組織像微少浸潤を伴う高分化型扁平上皮癌であった脈管浸潤はなく, 断端陰性であった内部壊死はなく, リンパ門は確認できた ( 図 4) PET-CT 所見 : 左側中内深頸リンパ節および左側顎下リンパ節に高集積を認めた SUV(Standardized uptake values)max は

2 142 口腔腫瘍 29 巻 3 号 2017 檀上敦ほか 1 顎下リンパ節腫脹時の血液検査所見 WBC : /ul RBC : /ul LDH :156 U/l sil-2r :252 U/ml CRP :0.06 mg/dl SCC :1.6 ng/ml HIV :0.08 S/CO 1 初診時口腔内所見左側舌縁部に白斑を伴った 2 3mm の潰瘍を認めたを伴う根治的頸部郭清術を施行した術後より頸部皮膚の知覚異常, 鈍痛, 僧帽筋痛といった shoulder syndrome の症状が出現した現在, 術後 2 年経過しており, 症状は軽減している病理組織学的診断 : 郭清組織中の 31 個のリンパ節を検討したが, すべてのリンパ節に癌細胞は認められず, 組織学的にはリンパ節炎の診断であった ( 図 7) 2 初回手術時の摘出標本の病理組織像微少浸潤を伴う高分化型扁平上皮癌であった脈管浸潤はなく, 断端陰性であった内部壊死はなく, リンパ門は確認できた ( 図 4) PET-CT 所見 : 左側中内深頸リンパ節および左側顎下リンパ節に高集積を認めた SUV(Standardized uptake values)max は dual-time-point 法 ( 二相性撮像 ) において, 早期相 =7.97, 遅延相 =9.96 であった ( 図 5A,B) 右側上咽頭部にも高集積を認めたが, 当院耳鼻咽喉科での内視鏡検査で腫瘍性病変は認められなかった頸部 US 所見 : 左側中内深頸リンパ節の腫大, リンパ門の狭小化と血流の増加を認めた左側顎下リンパ節も円形, ないし類円形に腫大しており, リンパ門が狭小化もしくは消失していた ( 図 6) 臨床診断 : 舌癌術後の頸部リンパ節転移処置および経過 : 上記の画像検査に 1 か月を要したため, 再度 CT 検査を行ったところ, 左側顎下部と左側中内深頸リンパ節はそれぞれ径 mm, 径 mm と, 以前の造影 CT と比べて増大傾向にあった以上の事象から, 最終的に転移リンパ節と診断した患者の同意のもと,Level Ⅰ-Ⅴ, 胸鎖乳突筋, 内頸静脈, 副神経の切除頸部リンパ節腫脹の原因を大きく分けると炎症, 腫瘍, その他の 3 つに分けられる炎症に起因するものとしてはさらに, 急性, 亜急性, 結核性などに細分化される急性感染性リンパ節炎は口腔, 上気道などの細菌, ウイルス感染によって起こる 1) 本症例では, 口腔内や上気道に症状はなく, 血液検査でも明らかな感染所見は認められなかった亜急性リンパ節炎は経過が長く発熱を伴う事が多く, 若い女性に多い両側の副神経領域のリンパ節が腫脹する事が多く,C 反応性タンパク (CRP) の軽度上昇が特徴であり 1), 本症例とは所見が異なった結核性リンパ節炎に関しては, 結核の症状が現れない事も多く, 診断に苦慮する事がある Im ら 2) は結核性リンパ節炎を, 造影 CT 画像を用いて 4 タイプに分類している本症例では, 肺結核像など, 特徴的な CT 所見も認められなかったため結核性リンパ節炎も否定された一方, 腫瘍性のものとして Maisel 3) は, 成人の甲状腺腫瘍を除く頸部リンパ節腫脹疾患の 80% が腫瘍性疾患であり, この腫瘍性疾患の 80% が悪性腫瘍であると述べているさらに, 原発巣の 80% が鎖骨より上方にあると加えている本症例も舌癌の既往を考えて腫瘍性リンパ節を強く疑い, 種々の画像検査を施行したその中で,PET- CT にて右側上咽頭部に SUV 値の上昇を認めたため, 上咽頭癌からの転移リンパ節の可能性も考慮し, 内視鏡検査を行ったが, 腫瘍性病変は認めなかった頸部リンパ節腫脹をきたすその他の原因疾患 1) としては, サルコイドーシス, 猫ひっかき病などが報告されているが, 本症例には該当しなかった特異な例として, 頸部

3 画像診断で後発転移を疑ったが組織学的に否定された舌癌症例口腔腫瘍 29 巻 3 号造影 CT 画像所見複数のリンパ節腫大を認めた 4 造影 MRI 画像所見 CT 撮影時よりもリンパ節は増大傾向であった 5 PET-CT 画像所見 CT や MRI で指摘されたリンパ節に高集積を認めた 6 頸部 US 所見 (A): 左側中内深頸リンパ節 (B): 左側顎下リンパ節左側中内深頸リンパ節では血流の増大を認めた顎下リンパ節ではリンパ門が消失していた郭清後の頸部に出現した類表皮囊胞を転移リンパ節と診断した症例もある 4) 扁平上皮癌の頸部リンパ節転移における特徴的な画像所見としては,1 短径が 10mm 以上である事,2 内部壊死が認められる事 ( 造影 CT や造影 MRI における Rim enhancement),3 リンパ門が消失している事, そして4PET- CT における SUV 値の上昇などがあげられる 5) 転移リンパ節に対する PET の診断能は SUV 値の閾値を 2.5 とすれ

4 144 口腔腫瘍 29 巻 3 号 2017 檀上敦ほか 7 顎下リンパ節の病理組織像癌細胞の浸潤は認めず, リンパ門には脂肪変性を認めたば, 感度 72.2%, 特異度 98.6%, 精度 96.1% と報告されている 6) このように PET-CT 検査は高い診断能を有する検査法であるが, 偽陽性や偽陰性例が存在する事を考慮しておくべきである炎症性や反応性リンパ節炎, ワルチン腫瘍などの一部の良性腫瘍では偽陽性を示す事が知られている一方, 偽陰性になりやすいものは径の小さなリンパ節やリンパ節の大半が内部壊死を起こしているもの, 大きな原発巣近くに存在するリンパ節があげられるさらに, 高血糖によって病変の FDG 集積が低下する事も報告されている 7) 本症例においては短径が 10mm に満たない点, 内部壊死を認めない点が典型像から異なっていたしかし, 画像検査の期間中に CT でリンパ節が増大した事,MRI 検査で保たれていたリンパ門が US 施行時には消失していた事, 本症例の平均 SUV 値は 3.71 と 3.44 であった事などから, 総合的にリンパ節転移と判断したしかし結果的に転移性リンパ節と診断したリンパ節は組織学的に脂肪変性が認められ, この事が US 検査でのリンパ門の狭小化や消失をまねいたと推測する Yoshimura ら 8) は頸部リンパ節腫脹のため, 口腔癌のリンパ節転移を疑い頸部郭清術を施行した症例を検討したところ,87 例のうち 9 例が反応性リンパ節炎だったと報告し, その特徴として転移症例と比較して, 初回手術からリンパ節腫脹までの経過が長かったと述べている Dik ら 9) は ct1/t2cn0 で予防的郭清をしなかった症例において後発転移をきたしたのは 13% であり, 転移までの期間は最大で 2 年と述べているさらに, 全例で原発巣の厚みが 4mm 以上であったと述べている本症例をふりかえれば,1 患者に舌癌の既往があった事,2 頸部リンパ節が腫脹する明確な原因が同定できなかった事,3 CT,MRI,US,PET-CT といった複数の画像検査において転移の可能性がどれも否定できなかった事,4 検査期間中にリンパ節のサイズが増大傾向にあった事, 以上の事象より舌癌術後のリンパ節転移と診断したしかし一方で1 原発癌は制御できていた事,2 術後 4 年経過していた事,3 原発癌の悪性度は低く, 厚みも 2mm 以下であった事,4 個々の画像検査において決定的な所見がなかった事, 以上を十分に考慮しなくてはならなかった本症例のように, 術前の画像評価で確定診断をつける事が難しい症例においては, 穿刺可能な部位にリンパ節が存在していれば, 穿刺吸引細胞診 (FNA) を検討すべきと考えるあるいは, 疑わしいリンパ節の術中生検を行った上で郭清術の必要性を決定する事も考慮すべきであった今回, 最終的な病理診断はリンパ節炎であったが, 明らかな原因確定には至っていない EBV,CMV などによるウイルス性リンパ節炎を鑑別するために適切な時期に, ウイルス抗体価の検査を行っておくべきだった SLE やシェーグレン症候群といった自己免疫疾患の可能性に関しては血液検査にて否定されていたが,CT や PET-CT で慢性甲状腺炎の疑いが指摘されており, 関連性があったかもしれない口腔癌の後発転移であれば予後に大きく影響を及ぼすため, 早期の対応が望まれるが, 一方で確定診断を確実につける慎重さも必要であったと反省する本論文の要旨は第 34 回日本口腔腫瘍学会総会学術大会 (2016 年 1 月, 横浜市 ) において発表した本論文について申告すべき利益相反状態はありません 1) 河田了 : 頸部リンパ節腫脹の診断と治療. 大阪医科大学雑誌 69:1-5, )Im, J.G., Song, K.S., et al. : Mediastinal tuberculous lymphadenitis: CT manifestations. Radiology 164: , )Maisel, R.H.: When your patient complains of a neck mass. Geniatrics 35: , ) 森啓輔, 山下佳雄, 他 : 舌癌の頸部再発が強く疑われた放線菌感染を伴う類表皮嚢胞の 1 例. 口腔腫瘍 23: , ) 日本口腔腫瘍学会, 日本口腔外科学会 : 科学的根拠に基づく口腔癌診療ガイドライン 2013 年度版. 医歯薬出版, 東京, 2013,49. 6) 横井共, 阿部厚, 他 : 頸部リンパ節転移における PET の診断精度および病理組織学的所見について. 日口外誌 56: , ) 隈部洋平, 田中信三, 他 : 頭頸部扁平上皮癌の頸部リンパ節転移診断における PET/CT の有用性. 頭頸部癌 38:69-73, )Yoshimura, Y., Nariai, Y., et al.: Development or existence of non-metastatic lymph nodes in the previously operated neck: A good prognostic sign for oromaxillary squamous cell carcinoma? Oral Oncology 41: , )Dik, E.A., Willems, N.A., et al.: Watchful waiting of the neck in early stage oral cancer is unfavorable for patients with occult nodal disease. Int J Oral Maxillofac Surg 45: , 2016.

5 画像診断で後発転移を疑ったが組織学的に否定された舌癌症例口腔腫瘍 29 巻 3 号 A case of tongue squamous cell carcinoma which pathological diagnosis had denied metastasis in spite of images had suspected metastasis strongly Atsushi Danjo, Keisuke Mori, Reona Aijima, Daiji Shimohira, Shoko Tsuruoka and Yoshio Yamashita Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Faculty of Medicine, Saga University (Chief: Prof. Yoshio Yamashita) Abstract We report a case of tongue carcinoma for which the pathological diagnosis reported no metastasis even though some images strongly indicated metastasis. A 60-year-old woman with a left tongue border ulcer was referred to our outpatient clinic. She had a 2 3mm ulcer with a whitish lesion on the left tongue border that contacted the lingual malposed left lower second premolar. We performed excisional biopsy and tooth extraction under general anesthesia. Pathological diagnosis showed differentiated squamous cell carcinoma with clear margins. After 4 years and 2 months, she developed lymphadenopathy in the left submandibular region. Contrast computed tomography (CT)images showed a 10 mm lymphadenopathy in the left submandibular region. Lymphadenopathy in the left submandibular and superior internal jugular regions was also detected by contrast magnetic resonance imaging. The lymphadenopathy was further identified by positron emission tomography CT (PET CT), with average standardized uptake values (SUV)of 3.71 and 3.44, respectively. Because neck ultrasonography indicated a collapsed or constricted hilum of the lymph nodes, we diagnosed neck metastasis from tongue cancer as the lymphadenopathy. Under informed consent, we performed a left radical neck dissection; 31 lymph nodes in the dissected tissue showed no cancer but rather lymphadenitis. Key words:diagnostic imaging, neck dissection, cervical lymph node metastasis Requests for reprints to : Dr. Danjo A., Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Faculty of Medicine, Saga University, 5-1-1, Nabeshima, Saga, , Japan

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or 33 NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 2015 年第 2 版 NCCN.org NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) の Lugano