坂口武久 球の浸潤に関与する血管内皮細胞および白血球上に発現している PECAM-1 以外の分子を同定するための研究が精力的になされた. その結果,CD99,Vascular Endothelial (VE)- カドヘリン 16-18), そして IgSF である Junctional Adhesi

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埼玉医科大学雑誌第 33 巻第 1 号平成 18 年 1 月 原 著 JAM-B ノックアウトマウスにおける白血球浸潤 坂口武久 Leukocyte Transmigration in JAM-B Disrupted Mice Takehisa Sakaguchi (Division of Developmental Biology, Research Center for Genomic Medicine, Saitama Medical School, 1397-1, Yamane, Hidaka, Saitama 350-1241, Japan) Junctional Adhesion Molecule (JAM)-B is known as one of the members of the immunoglobulin super family and is involved in formation of tight junction of many types of cells including epithelial and endothelial cells. It has recently been demonstrated that, in response to inflammation, JAM -B present on the surface of endothelial cell forms heterophilic interactions with JAM -C on the leukocyte during transmigration from blood vessels into affected tissues. The formation of JAM -B-JAM -C complex strongly suggests that this heterophilic interaction plays an important role in the transmigration of the leukocytes. To address this question, I generated mice lacking JAM-B. Subsequently, I examined leukocyte transmigration in JAM-B / mice by Contact Hyper Sensitivity (CHS) model using oxazolone as sensitizing agent and thioglycollate-induced peritonitis model. From these analyses, I found that levels of leukocyte transmigration in JAM-B / mice were similar to those of wild-type mice. Thus, our results established that the gene is dispensable for this event. Keywords: JAM-B, Transmigration, Gene Targeting, Leukocyte, Endothelial Cell J Saitama Med School 2006;33:1-10 (Received November 11, 2005) 緒 言 血管中を流れる白血球が炎症性の刺激に直面したとき, 白血球は炎症部位に浸潤していく. 炎症部位への白血球の浸潤は, 強固に結合した内皮細胞間の結合に打ち勝って起こるが, このとき白血球および血管内皮細胞の膜表面に発現している複数の分子間の相互作用が関与している 1). 炎症が生じるとその刺激が血管内皮細胞を活性化し, 内皮細胞の膜上に接着分子を発現する. 血液中を流れる白血球が炎症部位に到達するまでのステップは以下のようである. 最初に, 血液中を流れる白血球は炎症による刺激に応答して膜上にセレクチンを発現し, 炎症部位近接の血管壁上に沿って転回 (rolling) する 2-5). 次に, ケモカインにより白血球上のインテグリンファミリーの 1 つである lymphocyte function-associated antigen (LFA)-1 が多く作られ, LFA-1 と血管内皮細胞上に発現している接着分子 intercellular adhesion molecule (ICAM)-1 との相互作用を介して, 白血球は血管壁上に強固に結合 (Triggering and Tight Adhesion) する 6-9). 最後に, 結合した白血球は血管内皮細胞の間を通過 (Transmigration) し浸潤 埼玉医科大学ゲノム医学研究センター発生 分化 再生部門 平成 17 年 11 月 11 日受付 が完了する. 上述のごとく,rolling および triggering and tight adhesion に関しては多くの研究がなされており, 様々な膜タンパクおよびケモカインが関与していることが明らかとなっている. このように,Transmigration においては, 白血球が内皮細胞間を押し分けるようにして通過するというのが一般的な概念となっているが, 白血球と内皮細胞との分子レベルでの相互作用に関しては解明されていない点が多い. これまでの研究で, 白血球の Transmigration において, イムノグロブリンスーパーファミリー (IgSF) の 1 つである Platelet-Endothelial cell adhesion molecule (PECAM)-1 が重要な働きを示すことが明らかにされている 10-15).PECAM-1 は白血球および血管内皮細胞表面に発現しており,in vitro の系において Transmigration の際に, ホモフィリックに結合することが示されている. 実際に, 抗体による PECAM-1 のブロッキングの実験では, 白血球の浸潤が最大で 90% 近く減少した. しかしながら, ノックアウトマウスを用いた解析から,PECAM-1 が無くても炎症部位への白血球の浸潤が観察され, 野生型マウスと比較しても大きな差異が無いことが示された 13). すなわち, これらの結果は PECAM-1 が白血球浸潤の過程にかかわる唯一の分子ではないことを示している. このため, 白血

坂口武久 球の浸潤に関与する血管内皮細胞および白血球上に発現している PECAM-1 以外の分子を同定するための研究が精力的になされた. その結果,CD99,Vascular Endothelial (VE)- カドヘリン 16-18), そして IgSF である Junctional Adhesion Molecule (JAM)-A, -B, -C がクローニングされ 19-23), それぞれが白血球と血管内皮細胞間で相互作用し, 浸潤の過程において重要な役割を担うことが明らかとなった.CD99 は白血球および血管内皮細胞上の両方に発現し, ホモフィリックな結合をしていることが明らかになっている.CD99 を抗体でブロッキングすると, モノサイトの浸潤が 10% にまで減少することが知られている 16). さらに,CD99 に対する抗体のみならず,PECAM-1 間のホモフィリックな相互作用も抗体でブロッキングすると, モノサイトの浸潤が完全に抑制されることが明らかとなった 16). また,VE- カドヘリンは内皮細胞の側面に局在し, 内皮細胞同士でホモフィリックな結合をしている. しかしながら, 白血球浸潤の過程においてはその発現量は減少することが知られている 18). このことは, 内皮細胞の強固な結合を緩くすることで, 白血球が浸潤することをサポートしているものと考えられる. 一方で,JAM-A は血管内皮細胞, 上皮細胞および血球系細胞の一部を除くほとんどの細胞の表面に発現しており, 炎症性の刺激によって発現量が変化する LFA-1 や PECAM-1 とは異なり, その発現は血管内皮細胞上の側面に恒常的に見られる. さらに,TNF-α または IFN-γ のような炎症起因性のサイトカインが分泌されると,JAM-A は内皮細胞の側面から頂上側に移動する. そして白血球, 特にモノサイト上に発現している LFA-1 とヘテロフィリックに結合してモノサイトの浸潤が行われることが示されている 24, 25). しかしながら, JAM-A はその他の細胞間での接着ではホモフィリックにも結合することが明らかにされているので 19), この JAM-A-LFA-1 の結合が浸潤過程に特異的なものなのか, あるいは内皮細胞と白血球細胞との結合以外でも見られるのかは, 現在までの時点ではわかっていない.JAM-A とは対照的に,JAM-B および JAM-C の発現に関しては特定の細胞に限局している.JAM-B の発現は, 血管内皮細胞およびリンパ節に見られる High Endothelial Venule (HEV) 23) に限局されており, 白血球の浸潤およびリンパ球のホーミングに関与していることが示唆されている.JAM-C は, 血管内皮細胞および活性型白血球上, 特に活性型 T 細胞上に発現している. そして白血球の浸潤の際に,JAM-B と JAM-C とのヘテロフィリックな結合が関与していることが実験的に示されている 21). さらに他の研究において, JAM-B は炎症部位にある血管周辺に高く発現していることが示され,CD56 + CD3 + NKT 細胞,CD56 + CD3 + CD8 + 溶解性 T 細胞,CD56 + NK 細胞と結合することが明らかにされている 27). これらの細胞表面上では,JAM-C は発現しているが,JAM-B は発現していない. また in vitro の系において,JAM-B がこれらの細胞の表面にある JAM-C を介して結合することが示されている. 従って, これらの結果から, 炎症部位において JAM-B の発現量が増加することで, 白血球をリクルートしやすい環境を整えていると考えられている. 上述のように, 白血球の Transmigration における過程は, 非常に多くの分子が関与し, 未だ解明されていない点が多い. 本稿においては, 白血球の浸潤過程における JAM-B の機能を調べるために,JAM-B ノックアウトマウスを作製し解析した. そして, まず Contact Hyper Sensitivity による炎症誘導モデル実験を行い, 浸潤した T 細胞を解析した 28). すなわち oxazolon を塗布した耳介の腫れの程度を野生型並びに JAM-B ノックアウトマウスの間で比較した. かつ耳介の切片を作製し,H&E 染色による浸潤細胞の検出および抗体による免疫染色を行った. さらに,thioglycollate による顆粒球およびモノサイトなどの滲出細胞を FACS を用いて解析した. 本稿で得られた研究結果は,JAM-B 遺伝子が炎症刺激に応答した白血球浸潤に関与していることを否定しないまでも, このタンパク質が無くともこの現象に大きな支障を与えないことを明らかにした. 方法および材料 JAM-B ノックアウトマウス作製ターゲティングベクター構築のため, まず JAM-B 遺伝子座をカバーする 2 種類の重複したゲノムクローンを 32 P ラベルした JAM-B cdna をプローブとした C57BL/6 ラムダファージゲノム DNA ライブラリーのスクリーニングによりクローン化した. それぞれのゲノムクローンを制限酵素 HindIII と EcoRI で消化すると,9.2 kb と 5.6 kb の DNA 断片が得られるので, それぞれを 5 側と 3 側の相同領域とした. さらに JAM-B 遺伝子座のエキソン 3 からエキソン 5 を IRES β-geo を用いて置換することにより, ポジティブ選択マーカーとして用いた 30). また, ネガティブ選択としては, ジフテリアトキシン (DT)-A を用いた 31). これらの DNA 断片は 5 相同領域,IRES β-geo,3 相同領域,DT-A の順番で pbr322 へクローニングした (Fig. 1 参照 ). 100 µg のターゲティングベクターを制限酵素 NotI で消化することにより直鎖状にし,TT2 ES 細胞にエレクトロポレーションにより導入した. そしてこの ES 細胞は Leukemia Inhibitory Factor (LIF) を含む標準的な ES 細胞用培養液に G418(300 µg/ml) を添加して培養した.1 週間後に顕微鏡下で薬剤耐性コロニーをピックアップし, それらのコロニーを 24 ウェルプレートに移し, それらの細胞がコンフルエントになるまで培養した. それぞれのクローンに関して, 半分を細胞ストック用に, 残り半分を, 相同組換えをサザンハイブリダイゼーションおよび PCR でジェノタイ

JAM-B ノックアウトマウスにおける白血球浸潤 プを確認するためのゲノム DNA 調製用とした. 組換えを確認後, 得られた相同組換え体 ES 細胞を桑実胚に注入し, 偽妊娠 ICR マウスの子宮へ戻すことによりキメラマウスを得た. キメラマウスと C57BL /6 野生型マウスとを交配しヘテロを得た後, ヘテロマウス同士を交配することによりホモ体を得た. 産まれたマウスの遺伝子型は, 尾部よりゲノム DNA を調製しサザンハイブリダイゼーションおよび PCR により決定した.10 µg のゲノム DNA を EcoRI,SphI,EcoRV のそれぞれの制限酵素で消化し,1% アガロースゲル電気泳動で展開した後, ナイロン膜に転写し, 32 P でラベルした JAM-B 遺伝子の 5 領域,3 領域, 並びに Neo プローブとハイブリダイズすることにより, 本来の JAM-B 遺伝子座並びに相同組換えを起こした遺伝子座の制限酵素地図から期待される DNA 断片を検出した.PCR によるジェノタイプは, マーカー遺伝子で置換する領域に相当する JAM-B ゲノム上と IRES β-geo 内にプライマーを設計した. その配列は以下のとおりである.JAM-B ゲノム領域のプライマー ;5 -CAGG TGCCTGAATTGATAGCTGCTGCAGAACCC - 3 および 5 - CAGCCAGAGCAGAAAGCTTGCTGATCAC - 3, IRES β-geo 内のプライマー ;5 -GAACTGCAGGAC GAGGCAGCGCGGC -3 および 5 -TATGAATTCCGA AGCCCAACCTTTCATAG- 3 である. それぞれのプライマーペアは PCR においてそれぞれ 550 bp および 700 bp のサイズを増幅する. これら 4 種類のプライマーを同時に混合し,1 µg のゲノム DNA をテンプレートとして PCR を行った. 反応は 94 で 2 分間変成後,94 30 秒,55 30 秒,72 30 秒を 1 サイクルとし, 合計 30 サイクル反応させた. 最後に 72 10 分間の伸長反応を付加した. Contact Hyper Sensitivity 最終濃度が 2 % になるように 4-ethoxymethylene-2- oxazolin- 5- one(oxazolon) をアセトン : オリーブオイル = 4:1 の溶液に溶かした. 野生型マウスおよび JAM-B / マウスの腹部を剃毛し,100 µl の 2% oxazolon 溶液を腹部に塗布した (day 0). また, アセトン : オリーブオイル溶液のみを塗布したマウスをコントロールとした. day6 にマウスの左耳の両面に 10 µl ずつ 0.5% oxazolon 溶液を塗布した. 右耳はコントロールとして溶媒のみを塗布した.oxazolon を耳に塗布してから 24 時間後, 耳介の腫れをダイアルシックネスゲージ (Mitsutoyo) を用いて測定した 32. 免疫染色マウスを安楽死させた後, 耳介を切除し 4% パラフォルムアルデヒドで 1 昼夜かけて固定した. その後, 30% スクロース /PBS 溶液で 1 昼夜浸し,OCT コンパウンドに包埋した. その後, クリオスタット (Leica) により,20 µm の厚さで耳介の切片を作製した. 免疫染色は 1 次抗体として CD3,Gr-1,2 次抗体として, 抗 マウス IgG-Alexa594 (Invitrogen) を使用した. Thioglycollate による腹膜炎誘導 8-12 週齢の野生型および JAM-B / マウスの腹腔へ 1 ml の 4% thioglycollate メディウムを注射した.24 時間後, マウスを安楽死させてから腹腔内に 10 ml の RPMI1640 メディウムを注入し軽くマッサージしてから細胞 ( 白血球 ) 懸濁液を回収した. 得られた白血球懸濁液を FACS キャリバー (Becton Dickinson) を用いて解析した. FACS Thioglycollate による炎症誘導で腹腔内に浸潤した白血球の懸濁液 300 µl を 500 x g で 1 分間遠心後,50 µl の Staining Medium (SM; 3% FCS,0.05% NaN 3 ) に懸濁し, 氷上で 30 分間インキュベートした. 次に, 希釈した Fc blocker を 50 µl 加え, さらに氷上で 30 分間インキュベートした. 続いて適当な濃度に希釈した FITC で標識された Gr-1 および F4/80 抗体溶液 (50 µl) のいずれかを加え氷上で 30 分間遮光して静置した. 最後に SM で細胞を洗った後,500 µl のシース液 /0.5% フォルムアルデヒド溶液に懸濁し FACS キャリバー (Becton Dickinson) を用いて解析した. 末梢血の解析のため, マウスの尾静脈より約 200 µl の血液を採取した. そのうちの 50 µl に Fc blocker を 1 µl 加え, 室温で 10 分間静置した. 次に, 蛍光標識された CD45.2, CD4, CD8, Gr-1, Mac-1 の抗体を 1 µl 加え室温で 30 分間遮光して静置した. その後,1 x FACS Lysing solution (Becton Dickinson) を 500 µl 加え 10 分間室温静置することで溶血した. 最後に 500 x g で 5 分間遠心後,PBS で細胞を洗浄してから 500 µl のシース液に懸濁し FACS で解析した. 結 果 JAM-B ノックアウトマウス作製白血球の浸潤過程における JAM-B 遺伝子の機能を調べるため JAM-B ノックアウトマウスを作製した. JAM-B 遺伝子はエキソン 1-10 からなり, オープンリーディングフレームは 299 個のアミノ酸をコードする 20). Fig. 1A に示すように JAM-B 遺伝子を破壊するためのターゲティングベクターは,JAM-B タンパク質がタイトジャンクションのコンポーネントとして機能する上で必須な 2 つのイムノグロブリン様構造をコードしている領域であるエキソン 3-5 を IRES β-geo で置換する形で設計した. また, ネガティブ選択として, ジフテリアトキシン A をターゲティングベクターの 3 側末端にクローニングした.5 側,3 側の相同領域外およびネオマイシン耐性遺伝子内にプローブを設計し, 得られた組換え体をサザンハイブリダイゼーションで確認した.Fig. 1B に示すように, マウスのゲノム DNA を EcoRI または SphI で切断し, それぞれに 5 側,3 側のプローブを用いてハイブリダイゼーションを行うと,

坂口武久 Fig. 1. Targeting disruption of JAM-B gene. A, Top, genomic locus of JAM-B gene. Middle, targeting vector designed to insert an IRES-β-geo cassette into the JAM-B gene. Bottom, targeted locus. The 5 and 3 probes were located at the outside of the homologous regions present in the targeting vector, while the NEO probe was recovered from a portion of neomycin resistant gene. Restriction enzymes indicated were as follows: RI; EcoRI, Hd; HindIII, Sh; SphI, Sp; SpeI, RV; EcoRV. B, Southern blot hybridization analyses for genotyping of mice. Genomic DNA isolated from tail tips of mice were subjected to Southern blot analyses to determine genotype of mice. EcoRI, EcoRV, and SphI digested DNAs were hybridized to 5, 3, and Neo probes, respectively. Expected size of the genomic DNA fragments were as follows. 5 probe: 20 kb for wild-type and 11.6 kb for targeted locus; 3 probe: 14 kb for wild-type and 9.3 kb for targeted locus; Neo probe: none for wild-type and 8.6 kb for targeted locus. C, PCR for genotyping. PCR was performed for genotyping to obviate Southern blot analyses. Two sets of primers, which amplify the deleted region of JAM-B genomic locus (primers a and b) and a portion of neomycin gene (primer c and d), were added together in each reaction. Primer sets, a/b and c/d give 550 bp and 700 bp DNA fragments in reaction, respectively. 野生型マウスでは 20 kb および 14.6 kb の断片が検出されるのに対し, ヘテロおよびホモ接合体では 11.6 kb および 9.3 kb の断片が検出される. また, ゲノム DNA を EcoRV で切断しネオマイシン耐性遺伝子のプローブを用いて解析すると野生型マウスのゲノムでは検出されず, ヘテロおよびホモ接合体のみで 8.6 kb の DNA 断片が検出される. これらの解析から同定された JAM-B ノックアウトマウスは, 健康で外見上は野生型マウスとは区別ができない. さらに, 様々な器官に関しても野生型マウスとは大きな差異は見出せなかった. また, 生殖能力に関しても, ヘテロ接合体同士の交配においてホモ接合体がメンデルの法則から期待される頻度で得られたことから, 問題ないことがわかった (Table 1). Table 1. Analysis of JAM-B Heterozygous Intercross Progeny Wild-type Heterozygous Homozygous Total 51 (26.4%) 93 (48.2%) 49 (25.4%) 193 (100% ) JAM-B ノックアウトマウスにおける正常な末梢血細胞の構成まず, 白血球浸潤のレベルを検証する前に, 野生型と JAM-B ノックアウトマウス間での血球成分の構成に差が無いことを確認するため, それぞれのマウスから末梢血を採取し, 各種抗体を用いた FACS 解析により調べた.T 細胞のマーカーとして CD4,CD8, そして B 細胞のマーカーとして B220 を用いた. また顆粒球のマーカーとして Gr- 1, モノサイトのマーカーとして Mac-1 の抗体を用いて血球細胞を染色し解析した. Fig. 2 に示すように野生型およびノックアウトマウスにおいて,T 細胞,B 細胞, 顆粒球, モノサイトのいずれの成分を比較してみても顕著な差異がないことが確認された. また, 赤血球, 白血球ならびにヘマトクリット等の血液学的検査に関しても調べた (Table 2). その結果, どの成分の数値を見ても差がないことが確認できた.

JAM-B ノックアウトマウスにおける白血球浸潤 Fig. 2. Normal distribution of cell population of peripheral white blood cells in JAM-B / mice. After preparation of mononuclear cells from peripheral bloods of wild-type and JAM-B-null mutant mice, cell populations were determined by fluorescence-activated cell sorting (FACS). Representative FACS profiles were shown which were obtained from CD45.2 positive/propidium iodide negative population of the samples. Cells analyzed were as follows. Top panels, CD4/CD8 doublepositive and CD4 or CD8 single positive T cells. Middle panels, Gr-1 positive granulocytes. Bottom panels, Mac-1 positive monocytes. Table 2. Hematopoietic Indices in Wild-type and JAM-B / Blood contents Wild-type JAM-B / White blood cells (10 2 /μl) 52.3±21 42.0±3.6 Red blood cells (10 4 /μl) 699±139 683±4 Hemoglobin (g/dl) 9.4±1.7 9.57±0.1 HCT (%) 38.1±6 38.7±0.9 MCV (fl) 54.7±2.3 56.7±1.7 MCH (pg) 13.3±0.3 14±0.3 MCHC (g/dl) 24.6±0.5 24.7±0.3 Platelets (10 4 /μl) 74.0±14.3 65.2±5.4 Contact Hyper Sensitivity T 細胞の浸潤において, 内皮細胞の JAM-B と T 細胞の JAM-C との相互作用が提唱されている 21). したがって,Contact Hyper Sensitivity (CHS) のモデルを適用することにより 32), この分子間の相互作用の重要性を検討した. この実験系では, 皮膚上に存在するランゲルハンス細胞が塗布した oxazolon を捕食し, リンパ節に戻り T 細胞にその抗原を提示する. そしてそれに伴い T 細胞が活性化される. この実験系を用いて, 野生型マウスおよび JAM-B ノックアウトマウスの間での免疫応答性の違いを調べた. 野生型および JAM-B / マウスにおいて, 腹部に oxazolon を塗布してから 6 日後, 左耳に再び oxazolon を塗布した. 右耳は溶媒のみを塗布してコントロールとし, その 24 時間後に耳の腫れを測定した. しかしながら,Fig. 3A に示すように野生型と JAM-B / では同程度の腫れ具合であり, 大きな差異は見出せなかった. 次に,oxazolon を塗布した耳介の切片を作製し,H&E 染色をおこなった (Fig. 3B). その結果, 双方のマウスで同じレベルの白血球浸潤が検出された. さらに作製した耳介の切片を用いて免疫染色による解析を行い, 浸潤細胞の種類の割合を比較した (Fig. 3C).T 細胞ならびに顆粒球を検出するためのマーカーとして, それぞれ CD3,Gr-1 に対する抗体を用いた. その結果として, 野生型および JAM-B / マウスいずれにおいても, 炎症部位に対する浸潤細胞の割合に大差は無かった. 従って,CHS の実験から JAM-B の欠落は免疫応答性にも細胞浸潤にも影響を与えないことが解った. Peritoneal Exudation Cells 近年の報告によると,JAM-C が好中球の浸潤に関与していることが示されている 33). それによると好中球の細胞表面で発現しているインテグリンファミリーである Mac-1 と内皮細胞にある JAM-C がヘテロフィリックに結合し, この結合を介して好中球が浸潤するということが,in vitro および in vivo での JAM- C の抗体によるブロッキング反応実験により明らかとなった. また,JAM-A はモノサイト表面に発現している LFA-1 との相互作用ならびに JAM-A 同士のホモフィリックな結合を介してモノサイトの浸潤をサポートしていることも示されている 19, 25). 従って, 構造, 並びに発現部位の両方において JAM-C と酷似している JAM-B が,JAM-C タンパク質と同様に顆粒球あるいはモノサイトの浸潤に関与している可能性が考えられる. 従って, その可能性を検討することにした. 野生型および JAM-B / マウスにチオグリコレートを腹腔内注射することで腹膜炎を誘導させ, 腹腔内に浸潤してくる顆粒球およびモノサイトを回収しその数を抗体で染色し FACS で調べた. しかしながら,Fig. 4 に示すように,JAM-B / マウスにおいて浸潤した総白血球数ならびに顆粒球, モノサイトの割合は, 野生型

坂口 武久 マウスと比較してほぼ同じレベルであった 従って に伴った白血球浸潤に関与することが考えられたの JAM - Bの欠失は白血球の炎症部位への浸潤には大き で その可能性を検討することにした その前に 野 な影響を与えないことが明らかになった 生型と JAM - Bノックアウトマウスの間で末梢血の構 成成分に差が無いことを確認することにした その 考 察 結果 リンパ球系及び顆粒球系の血球の構成成分は JAM - B / マウスは 発生過程およびその生殖能力 野生型並びにノックアウトマウス間ではほぼ同じで において 顕著な影響を与えないことが本稿の解析で あることが確認できたかつ生化学的検査においても 明らかとなった これまでの報告から JAM - Bが炎症 HGB, HCT, MCV, MCH 等 血液成分に差異は見られ Fig. 3. Normal response of JAM-B / mice to oxazolon-induced inflammation. A, Measurement of ear thickness of mice subjected to oxazolon-mediated inflammation. Wild-type and JAM-B / mice were applied to contact hypersensitivity model using oxazolon as an inducing reagent of inflammation. Thickness of control (right) and inflammation-induced (left) ears was measured using a dial gage. B, Histological analyses of inflammation-induced and non-induced ears of mice. Normal and inflammation-induced ears of wild-type and JAM-B-null mutant mice were used for histological analyses of hematoxylineosin staining. Left two panels represent control ears, while right two panels represent inflammation-induced ears. C, Immunohistochemical analyses of T cells and granulocytes. Sections of inflammation-induced and non-induced ears of wildtype and JAM-B / mice were subjected to immunohistochemistry using FITC-conjugated antibodies against CD3 and Gr-1 to monitor the levels of infiltrated T cells and granulocytes, respectively.

JAM-B ノックアウトマウスにおける白血球浸潤 7 なかった. そこで, 次に JAM-B / マウスの炎症性刺激に対する, 免疫応答性について野生型マウスと比較した. しかしながら, リンパ球系の細胞浸潤を検出するための oxazolon を用いた炎症誘導実験, 並びにチオグリコレートによる腹膜炎誘導実験から得られた解析結果から,JAM-B 分子は白血球の炎症部位への浸潤 Concentrations of Leukocytes Exuded in Peritoneum Cavity during Thioglycollate-Induced Infl ammation Wild-type JAM-B / 3.0x10 6 /μl 3.3x10 6 /μl Fig. 4. Normal response of JAM-B / mice to thioglycollateinduced peritonitis. A, Comparison of amounts of leukocytes exuded into peritoneum cavity in response to thioglycollateinduced inflammation. Numbers of cells were counted under the microscope. B, Cell populations of transmigrated leukocytes in peritoneum cavity. Cell populations of exuded granulocytes and monocytes were compared between wildtype and JAM-B-null mutant mice by means of FACS. Cells analyzed were as follows. Top panel, no antibody control. Middle panels, Gr-1 positive granulocytes. Bottom panels, F4/80 positive monocytes. には必須ではないと示唆された. これまでに発表された研究から,JAM-A のホモフィリックな結合がモノサイトの浸潤に関与し 19), また血管内皮細胞の JAM-B と白血球, 特に活性型 T 細胞の表面に発現している JAM-C とのヘテロフィリックな結合がその浸潤にとって重要であると考えられていた 21). 一方で,Liang TW. らは, 気管支肺炎, 気管支炎, 間質性腎炎等の組織において, 炎症部位近接の血管でのみ JAM-B の発現量が増加していることを in situ ハイブリダイゼーションで示した 27). さらに, 彼らは炎症部位に浸潤する CD56 + CD3 + NKT 細胞, CD56 + CD3 + CD8 + 溶解性 T 細胞,CD56 + NK 細胞上に発現している JAM-C がディッシュ上に固定化された JAM-B タンパク質と結合することを示すことにより, JAM-B-JAM-C の結合が白血球浸潤にとって重要であることを提唱した 27). しかし, それらの研究成果は全て in vitro の系でなされたものであって,in vivo において JAM-B-JAM-C の相互作用についての厳密な検討は現在までのところなされてはいなかった. 本稿に記載した JAM-B / マウスの oxazolon による炎症誘導実験は,JAM-B-JAM-C 間の相互作用を in vivo で検証した初めての報告になるが, ここでは JAM-B が欠落していても白血球は野生型マウスと同じ割合で浸潤することを示しており,Liang らが報告した結果とは相反するものであった. これらの結果は血管内皮細胞と白血球が JAM-B-JAM-C とは全く異なる分子を介しても相互作用できる可能性, もしくは in vivo では JAM-B がなくてもそれに代わる他の分子が JAM-C を介して白血球を炎症部位にリクルートしている可能性が考えられる. いずれにせよ, 現在までのところ血管内皮細胞側の JAM-B と白血球側の JAM-C との相互作用が起こることは示されてはいるが,in vivo におけるその事象に関するその相互作用の重要性に関する概念はさらなる検証が必要である. 一方で,JAM-C が血管内皮細胞でも発現していることが示されており, かつ好中球の細胞浸潤の際の, その内皮細胞側の JAM-C と好中球側の Mac-1 との相互作用が in vitro および in vivo の実験で明らかとなった 33). 従って本稿で示したチオグリコレートによる炎症誘導実験の結果, すなわち, 野生型並びに JAM-B / マウス間において, 顆粒球の浸潤に差異が見られなかった事実は,JAM-B がなくとも JAM-C-Mac-1 あるいは JAM-C-JAM -C 間の結合を介して浸潤がなされた可能性を示唆する. さらに PECAM-1 が血管内皮細胞および好中球の間でホモフィリックに結合することが示され, また PECAM-1 ノックアウトマウスの解析では, 好中球の浸潤が著しく阻害されることが示された 13). 従って, 好中球は内皮細胞側の JAM-B よりもむしろ JAM-C-Mac-1 あるいは PECAM-1 同士の結合を介して浸潤がなされており,JAM-B はこの事象には全くとは言い切れない

坂口武久 ものの, それほど大きな貢献は果たしていない可能性が考えられる. 近年,JAM-A 並びに JAM-C のノックアウトマウスに関する論文が発表された 34, 35).Dejana E. らの研究グループが報告した JAM-A ノックアウトマウスは外見上野生型マウスと区別が出来ず, ヘテロ接合体同士の交配でも産仔数はメンデルの法則に従う. さらに末梢血成分 ( 血小板, リンパ球, 好中球, 単球 ) の数に関しても, 野生型マウスと大きな差異は無かった. また, リンパ節に存在する種々の細胞の構成を調べても野生型マウスとは大きな区別はできない. しかしながら, 彼らは JAM-A / の樹状細胞 (DC) は野生型の DC と比較してランダムな移動能が上昇するということを in vitro (Transmigration Assay) ならびに in vivo (Contact Hyper Sensitivity) による実験系により示した. そしてその移動能の上昇は,DC 表面上に発現している他のトラフィッキングに関与している膜タンパクの発現量に変化が無いことから,JAM-A が欠落していることに依存するものであることを証明した. しかしながら, 何故 JAM-A が欠落している DC において, 移動能が上昇するのかは明らかにされてはいない. 一方で,JAM-A / マウスの白血球の浸潤に関しては, oxazolon による炎症誘導実験で調べられている 34). 野生型マウスと比較して,JAM-A / マウスの方が耳介の腫れが大きくなり, 炎症部位に浸潤する白血球の数が多くなることが示された. しかし, どのような分子の相互作用で白血球が浸潤しているのかは述べられておらず, 今後解析される必要がある. また,Adams RH. らのグループは JAM- C のノックアウトマウスに関して, それらのうち 60% が出生直後に死亡するが, 残りは健常であることを示した 35). この JAM-C ノックアウトマウスでの炎症に伴う白血球浸潤の程度に関しては解析されていないが, 少なくとも健常なマウスが得られることから, 白血球の浸潤が全く起こっていないとは考えにくい. 以上をまとめると,JAM-A, -B, -C はいずれもが生体でユニークな働きをしていないとは言わないまでも, それぞれのタンパク質の役割は in vivo においてかなり余剰的である可能性が考えられる. 従って, 今後は現存する JAM-A, -B, -C の 3 種類のノックアウトマウスの掛け合わせにより,JAM タンパク質の重要性を総合的に検証する必要があると考えられる. 結 論 1) JAM-B / マウスは健常で, 外見上は野生型マウスと大差なかった. 2) JAM-B / の末梢血における血球細胞の構成成分は野生型マウスのそれとほぼ同じであった. 3) JAM-B ノックアウトマウスにおける oxazolon 誘導による白血球の浸潤能は正常レベルであり, JAM-B の欠落は免疫応答性ならびに細胞浸潤を阻害するものではなかった. 4) チオグリコレートによる炎症誘導により, 腹腔へ浸潤した総白血球数, ならびに顆粒球とモノサイトの割合は, 野生型マウスと比較して大きな差異は見られなかった. 謝 辞 本稿を作成するにあたり, ご指導を賜りました埼玉医科大学ゲノム医学研究センター発生 分化 再生部門部門長奥田晶彦教授に心から感謝いたします. また, 本実験を行うにあたり, 直接のご指導 ご鞭撻を賜りました埼玉医科大学ゲノム医学研究センター RI 実験施設施設長西本正純講師に心より感謝いたします. 最後に埼玉医科大学ゲノム医学研究センター発生 分化 再生部門の皆様のご厚意に心から御礼申し上げます. 引用文献 1) Springer TA. Traf fic signals for lymphocyte recirculation and leukocyte emigration: the multistep paradigm. Cell 1994;76:301-14. 2) Springer TA. Traffic signals on endothelium for lymphocyte recirculation and leukocyte emigration. Annu Rev Physiol 1995;57:827-72. 3) Lasky LA. Selectin-carbohydrate interactions and the initiation of the inflammatory response. Annu Rev Biochem 1995;64:113-39. 4) Kansas GS. Selectins and their ligands: current concepts and controversies. Blood 1996;88:3259-87. 5) Vestweber D, Blanks JE. Mechanisms that regulate the function of the selectins and their ligands. Physiol Rev 1999;79:181-213. 6) Smith CW, Marlin SD, Rothlein R, Toman C, Anderson DC. Cooperative interactions of LFA-1 and Mac-1 with intercellular adhesion molecule -1 in facilitating adherence and transendothelial migration of human neutrophils in vitro. J Clin Invest 1989;83:2008-17. 7) Weber C, Lu CF, Casasnovas JM, Springer TA. Role of alpha L beta 2 integrin avidity in transendothelial chemotaxis of mononuclear cells. J Immunol 1997; 159:3968-75. 8) Rothlein R, Dustin ML, Marlin SD, Springer TA. A human intercellular adhesion molecule (ICAM-1) distinct from LFA-1. J Immunol 1986;137:1270-4. 9) Marlin SD, Springer TA. Purified intercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1) is a ligand for lymphocyte function-associated antigen 1 (LFA-1). Cell 1987;51:813-9.

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