食品関係等調査研究報告 Vol. 37(2013) 2. 実験方法 2.1 試料 トウモロコシ加工品は小売店で購入したものを試料として用いた 品目名の表記方法については 遺伝子組換え食品に関する品質表示基準 1) に準じたもの としている トウモロコシ加工品は コーンスナック菓子 (4: 試料数 4

Similar documents
Taro-04-1(雌雄判別)

DNA 分析によるのりの原産地判別法の検討 DNA 分析によるのりの原産地判別法の検討 澤田桂子 1, 井口潤 1 2, 浪越充司 Keiko Sawada, Jun Iguchi, Atsushi Namikoshi 要 約 乾のり 焼きのり及び味付けのり ( 板のり ) を対象とした DNA 分

Microsoft Word - FMB_Text(PCR) _ver3.doc

東京都健康安全研究センター研究年報

Multiplex PCR Assay Kit Ver. 2

Multiplex PCR Assay Kit

■リアルタイムPCR実践編

PowerPoint プレゼンテーション

DNA 抽出条件かき取った花粉 1~3 粒程度を 3 μl の抽出液 (10 mm Tris/HCl [ph8.0] 10 mm EDTA 0.01% SDS 0.2 mg/ml Proteinase K) に懸濁し 37 C 60 min そして 95 C 10 min の処理を行うことで DNA

Bacterial 16S rDNA PCR Kit

Taro-02 はじめに jtd

TaKaRa PCR Human Papillomavirus Typing Set

IC-PC法による大気粉じん中の六価クロム化合物の測定

MightyAmp™ DNA Polymerase Ver.3

DNA/RNA調製法 実験ガイド

PrimeScript® II 1st strand cDNA Synthesis Kit

DNA シークエンス解析受託サービスを効率よく利用して頂くために シークエンス解析は お持ち頂くサンプルの DNA テンプレートの精製度 量 性質によ って得られる結果が大きく左右されます サンプルを提出しても望み通りの結果が返っ てこない場合は 以下の点についてご検討下さい ( 基本編 ) 1.

BKL Kit (Blunting Kination Ligation Kit)

酵素の性質を見るための最も簡単な実験です 1 酵素の基質特異性と反応特異性を調べるための実験 実験目的 様々な基質を用いて 未知の酵素の種類を調べる 酵素の基質特異性と反応特異性について理解を深める 実験準備 未知の酵素溶液 3 種類 酵素を緩衝液で約 10 倍に希釈してから使用すること 酵素溶液は

Bacterial 16S rDNA PCR Kit

手順 ) 1) プライマーの設計 発注変異導入部位がプライマーのほぼ中央になるようにする 可能であれば 制限酵素サイトができるようにすると確認が容易になる プライマーは 25-45mer で TM 値が 78 以上になるようにする Tm= (%GC)-675/N-%mismatch

遺伝子検査の基礎知識

実験操作方法

TaKaRa PCR Human Papillomavirus Detection Set

TaKaRa PCR FLT3/ITD Mutation Detection Set

O-157(ベロ毒素1 型、2 型遺伝子)PCR Typing Set Plus


16S (V3-V4) Metagenomic Library Construction Kit for NGS

MLPA 法 Q&A 集

PrimeSTAR® Mutagenesis Basal Kit

論点 3 消費者にとって分かりやすい 遺伝子組換え 及び 遺伝子組換え不分別 表示の検討 1

32 飼料研究報告 Vol. 36 (2011) 3 飼料中の動物由来 DNA 検出法における RFLP を用いた確認試験法 橋本仁康 *1 *2, 篠田直樹 PCR-RFLP Identification of Prohibited Animal-derived DNA in Animal Fee

< F2D88E293608E AB782A C9F8DB AA90CD>

コメDNA 抽出キット(精米20 粒スケール)

しょうゆの食塩分測定方法 ( モール法 ) 手順書 1. 適用範囲 この手順書は 日本農林規格に定めるしょうゆに適用する 2. 測定方法の概要 試料に水を加え 指示薬としてクロム酸カリウム溶液を加え 0.02 mol/l 硝酸銀溶液で滴定し 滴定終点までに消費した硝酸銀溶液の量から塩化ナトリウム含有

O-157(ベロ毒素1 型、2 型遺伝子)One Shot PCR Typing Kit Ver.2

無細胞タンパク質合成試薬キット Transdirect insect cell

2

Microsoft Word - H30eqa麻疹風疹実施手順書(案)v13日付記載.docx

PrimeScript®One Step RT-PCR Kit Ver. 2

Gen とるくん™(酵母用)High Recovery

遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律の概要 目的国際的に協力して生物の多様性の確保を図るため 遺伝子組換え生物等の使用等の規制に関する措置を講ずることにより 生物多様性条約カルタヘナ議定書 ( 略称 ) 等の的確かつ円滑な実施を確保 主務大臣による基本的事項の公表 遺

DNA Fragmentation Kit

組織からのゲノム DNA 抽出キット Tissue Genomic DNA Extraction Mini Kit 目次基本データ 3 キットの内容 3 重要事項 4 操作 4 サンプル別プロトコール 7 トラブルシューティング 9 * 本製品は研究用です *

- 目 次 -

(Microsoft Word - \230a\225\266IChO46-Preparatory_Q36_\211\374\202Q_.doc)

2,3-ジメチルピラジンの食品添加物の指定に関する部会報告書(案)

cDNA cloning by PCR

はじめてのリアルタイムPCR

第 52 号 (2015) 15 前報では, この事例についての小麦由来 DNA 検出を目的として,1DNA 抽出液の再精製,2 新たな DNA ポリメラーゼの選択の可能性について報告した 今回は, これら12にさらなる検討を加え, 新たに3 PCR 緩衝液改良という視点からのアプローチも行ったので

Bacterial 16S rDNA Clone Library Construction Kit

Pyrobest ® DNA Polymerase


パナテスト ラットβ2マイクログロブリン

リアルタイムPCRの基礎知識

pdf エンドトキシン試験法

Probe qPCR Mix

調査研究 日本紅斑熱リケッチア検出 Real-timePCR 法の改良と 中国四国地方の地方衛生研究所における模擬訓練 Improvement of the Japanese spotted fever rickettsia detection Real-time PCR

研究報告58巻通し.indd

土壌溶出量試験(簡易分析)

PrimerArray® Analysis Tool Ver.2.2

PrimeScript® One Step RT-PCR Kit Ver. 2 (Dye Plus)

Taro-kv12250.jtd

鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス検出マニュアル(第2版)公開用

Human Mitochondrial DNA (mtDNA) Monitoring Primer Set

17-05 THUNDERBIRD SYBR qpcr Mix (Code No. QPS-201, QPS-201T) TOYOBO CO., LTD. Life Science Department OSAKA JAPAN A4196K

Microsoft Word - TN_Inf200_Quant_PicoGreen_395180_V1_0_j.doc

MEGALABEL™

[1] 1 [2] 2 [3] 2 [4] 2 [5] 2 [6] 4 [7] 6 [8] 7 [9] 8 0

1. 腸管出血性大腸菌 (EHEC) の系統解析 上村健人 1. はじめに近年 腸管出血性大腸菌 (EHEC) による食中毒事件が度々発生しており EHEC による食中毒はその症状の重篤さから大きな社会問題となっている EHEC による食中毒の主要な汚染源の一つとして指摘されているのが牛の糞便である

Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST

コメDNA 抽出キット(精米、玄米1 粒スケール)

コメ判別用PCR Kit II

PrimeScript® RT-PCR Kit

2

NewsLetter-No2

日歯雑誌(H22・7月号)HP用/p06‐16 クリニカル① 田崎

豚丹毒 ( アジュバント加 ) 不活化ワクチン ( シード ) 平成 23 年 2 月 8 日 ( 告示第 358 号 ) 新規追加 1 定義シードロット規格に適合した豚丹毒菌の培養菌液を不活化し アルミニウムゲルアジュバントを添加したワクチンである 2 製法 2.1 製造用株 名称豚丹

ウスターソース類の食塩分測定方法 ( モール法 ) 手順書 1. 適用範囲 この手順書は 日本農林規格に定めるウスターソース類及びその周辺製品に適用する 2. 測定方法の概要試料に水を加え ろ過した後 指示薬としてクロム酸カリウム溶液を加え 0.1 mol/l 硝酸銀溶液で滴定し 滴定終点までに消費

Western BLoT Rapid Detect

炭疽菌PCR Detection Kit

(別添)安全性未審査の組換えDNA技術応用食品の検査方法_NIHS 最終版_YF

ISOSPIN Blood & Plasma DNA

の差については確認できないが 一般的に定温で流通している弁当の管理方法等についてアンケートにより調査した その結果 大部分の事業者が管理温度の設定理由として JAS 規格と同様に食味等の品質の低下及び微生物の繁殖を抑えることを挙げ 許容差は JAS 規格と同様に ±2 としていた また 温度の測定方

ISOSPIN Plasmid

2

培養細胞からの Total RNA 抽出の手順 接着細胞のプロトコル 1. プレート ( またはウエル ) より培地を除き PBSでの洗浄を行う 2. トリプシン処理を行い 全量を1.5ml 遠心チューブに移す スクレイパーを使って 細胞を掻き集める方法も有用です 3. 低速遠心 ( 例 300 g

1. 測定原理 弱酸性溶液中で 遊離塩素はジエチル p フェニレンジアミンと反応して赤紫色の色素を形成し これを光学的に測定します 本法は EPA330.5 および US Standard Methods 4500-Cl₂ G EN ISO7393 に準拠しています 2. アプリケーション サンプル

PrimeSTAR® GXL DNA Polymerase

Cycleave®PCR 呼吸器系感染症起因菌検出キットVer.2(製品コード CY214) 補足

5989_5672.qxd

TaKaRa DEXPAT™

Microsoft Word - ~ doc

14551 フェノール ( チアゾール誘導体法 ) 測定範囲 : 0.10~2.50 mg/l C 6H 5OH 結果は mmol/l 単位でも表示できます 1. 試料の ph が ph 2~11 であるかチェックします 必要な場合 水酸化ナトリウム水溶液または硫酸を 1 滴ずつ加えて ph を調整

農林水産省補助事業 韓国遺伝子組換え食品等の表示基準 Q&A( 仮訳 ) 2017 年 3 月 日本貿易振興機構 ( ジェトロ ) 農林水産 食品部農林水産 食品課

Microsoft Word - KOD-201取説_14-03_.doc

スライド 1

取扱説明書

DNA Blunting Kit

表紙4_1/山道 小川内 小川内 芦塚

Transcription:

トウモロコシ加工品の新規 DNA 抽出法の検討 則武寛通, 笠原正輝 Hiromichi Noritake, Masaki Kasahara 要 約 市販の加工食品を対象として DNA 抽出キット GM quicker 3 による DNA 抽出法のトウモロコシ加工品への適用について検討した 現行の JAS 分析試験ハンドブックに記載されている DNeasy Plant Maxi Kit による DNA 抽出法と比較したところ GM quicker 3 抽出試料はタンパク質の混入が少ない可能性が示唆された また 10 ng/µl 以上の抽出 DNA 原液が得られる商品の品目の種類は 抽出法間で大きな差は見られなかった PCR 及び電気泳動の結果として DNeasy Plant Maxi Kit による抽出では内在性遺伝子が検知されなかった試料でも GM quicker 3 による抽出では内在性遺伝子が検知された 以上のことから GM quicker 3 は DNeasy Plant Maxi Kit よりもトウモロコシ加工品からの DNA 抽出に適していることが示唆された よって トウモロコシ加工品について GM quicker 3 による DNA 抽出法の適用は可能であると考えられる 1. はじめに 遺伝子組換え (genetically modified, GM) 農産物について 169 品種 ( 平成 24 年 2 月 15 日現在 ) が食品としての安全性審査を終了し 現在流通が可能となっているが 遺伝子組換え食品に関する品質表示基準 ( 平成 12 年 3 月 31 日農林水産省告示第 517 号 ) 1) により 遺伝子組換え農産物 ( 加工品 ) 及び遺伝子組換え農産物と非遺伝子組換え農産物を分別生産流通管理していない農産物 ( 加工品 ) については 表示が義務づけられている この表示制度の実効性確保のために科学的な検査法が必要であり これまでにも定性分析法及び定量分析法が開発され 実用化されている 農林水産消費安全技術センター (Food and Agricultural Materials Inspection Center, FAMIC) では GM 検査分析のためのマニュアルとして JAS 分析試験ハンドブック ( 以下 JAS ハンドブック ) 2) を作成している 加工食品用の抽出キット GM quicker 3 は NIPPON GENE 社 (Tokyo, Japan) と独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構食品総合研究所が共同で開発した抽出キットであるが JAS ハンドブックへの掲載に向けた検討がされていない そこで 本調査研究において GM quicker 3 による抽出法のトウモロコシ加工品への適用の検討を行うため 現行の JAS ハンドブックに記載されている DNeasy Plant Maxi Kit による DNA 抽出法との比較を行った 独立行政法人農林水産消費安全技術センター本部 -1- -23-

食品関係等調査研究報告 Vol. 37(2013) 2. 実験方法 2.1 試料 トウモロコシ加工品は小売店で購入したものを試料として用いた 品目名の表記方法については 遺伝子組換え食品に関する品質表示基準 1) に準じたもの としている トウモロコシ加工品は コーンスナック菓子 (4: 試料数 4 以下同じ ) コーンスターチ (2) ポップコーン(2) 冷凍とうもろこし(2) とうもろこし缶詰及びとうもろこし瓶詰としてとうもろこし缶詰 (2) コーンフラワーを主な原材料とするもの(2) コーングリッツを主な原材料とするもの (3) とうもろこし( 調理用 ) を主な原材料とするものとしてコーンスープ (1) 及び第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするものとしてコーンスターチを主な原材料とするラムネ菓子 (1) の 9 品目 19 商品であった 2.2 前処理及び DNA 抽出各試料を原則として JAS ハンドブック個別品目編 ( 定性試験用 ) に従って前処理を行った後 DNA 抽出に供した 結果の再現性を確認するため コーンスナック菓子 2 商品 ( 商品枝番 1 及び 4) ポップコーン 2 商品 ( 商品枝番 1 及び 2) 冷凍とうもろこし 2 商品 ( 商品枝番 1 及び 2) とうもろこし缶詰及びとうもろこし瓶詰 2 商品 ( 商品枝番 1 及び 2) コーンフラワーを主な原材料とするもの 2 商品 ( 商品枝番 1 及び 2) コーングリッツを主な原材料とするもの 3 商品 ( 商品枝番 1 ~ 3) 及びとうもろこし ( 調理用 ) を主な原材料とするもの 1 商品 ( 商品枝番 1) の各抽出以降の操作については 2 回実施した コーンスナック菓子 2 商品 ( 商品枝番 2 及び 3) コーンスターチ 2 商品 ( 商品枝番 1 及び 2) 及び第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするもの 1 商品 ( 商品枝番 1) については 抽出により得られる DNA 原液の濃度が 10 ng/µl 未満となる可能性の高いことが事前検討等から予測された 本研究目的から鑑みて DNA 原液の濃度が 10 ng/µl 未満となることは好ましくないため 他の試料が同一回 1 点抽出のところを 3 点併行で抽出し そのうち DNA 収量が最大の 1 点を後の検討に使用した つまり 3 点併行で 2 回の計 6 点抽出を実施し 各回ごと DNA 収量最大の 1 点ずつの計 2 点を後の検討に使用した トウモロコシ加工品の DNA 抽出については GM quicker 3(NIPPON GENE, Tokyo, Japan) により行った 現行の JAS ハンドブックに記載されている標準的な抽出法である DNeasy Plant Maxi Kit(QIAGEN, Hilden, Germany) を比較対象として採用し DNeasy Plant Maxi Kit による抽出も併せて行った GM quicker 3 については原則として NIPPON GENE 社が公開しているマニュアル (GM quicker 3 Manual Ver. 1.1) に従って DNA を抽出した DNeasy Plant Maxi Kit については原則として JAS ハンドブック個別品目編 ( 定性試験用 ) 及び基本操作編に従って DNA を抽出した 抽出した DNA 溶液は 260 nm の吸光度を測定し 1 O.D. 260 nm を 50 ng/µl DNA 溶液 -2- -24-

として DNA 濃度を算出し 必要に応じ滅菌超純水で希釈して PCR 用の希釈 DNA 溶液 ( 濃 度は各項目に記載のとおり ) を調製した 分光光度計は NanoDrop Technologies, Wilmington, DE, USA) を用いた ND-1000(NanoDrop 2.3 PCR 及び電気泳動原則として JAS ハンドブック基本操作編に従って PCR 及び電気泳動を行った トウモロコシ由来の遺伝子検知の確認については トウモロコシの内在性遺伝子 starch synthase IIb(SSIIb) を検知対象とした PCR 反応液は 終濃度が 0.625 Units の AmpliTaq Gold(Life Technologies, Carlsbad, CA, USA) 1 PCR Buffer II(AmpliTaq Gold 添付品 ) 0.2 mmol/l dntp Mixture(AmpliTaq Gold 添付品 ) 1.5 mmol/l MgCl2(AmpliTaq Gold 添付品 ) 及び 0.5 µmol/l のプライマーセット (SSIIb 1-5 &3 (NIPPON GENE)) を含む反応液に 10 ng/µl の希釈 DNA 溶液を 2.5 µl 加え 滅菌超純水で全量を 25 µl とした 抽出した DNA 溶液の濃度が 10 ng/µl 未満であった試料については希釈を行わずにそのまま使用した トウモロコシ判別用プライマーセットには 5 プライマーとして SSIIb 1-5 : 5 -CTCCCAATCCTTTGACATCTGC-3 3 プライマーとして SSIIb 1-3 : 5 -TCGATTTCTCTCTTGGTGACAGG-3 ( 増幅長 ) を用いた PCR 温度サイクルは 最初の熱変性として 95 C で 10 分 次に (1) 熱変性として 95 C で 30 秒 (2) アニーリングとして 60 C で 30 秒 (3) 伸長反応として 72 C で 30 秒の (1)~(3) を 1 サイクルとして 40 サイクル 最後に伸長反応の延長として 72 C で 7 分反応させた PCR 反応は サーマルサイクラー GeneAmp PCR System 9700 (Life Technologies) を用いて行った アガロースゲル電気泳動は Agarose L03(TAKARA BIO, Shiga, Japan) を用い ゲルの濃度は 3%(w/v) とし ゲル 100 ml 当たり 50 µg の ethidium bromide(nippon GENE) が含有されるように調製し 電気泳動緩衝液は TAE 緩衝液を用いた 分子量マーカーとして Gene Ladder 100(0.1-2 kbp)(nippon GENE) を用いた 電気泳動装置は Mupid-exU (ADVANCE, Tokyo, Japan) を用いた 電気泳動結果は Molecular Imager FX(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA) を用いて撮影した 3. 結果及び考察 3.1 DNA 抽出結果抽出した DNA の吸光度比 O.D. 260 nm/o.d. 280 nm を示すことにより純度を評価した JAS ハンドブック基本操作編によると DNeasy Plant Maxi Kit によるトウモロコシ種子からの DNA 抽出においては O.D. 260 nm/o.d. 280 nm 比が 1.7 ~ 2.0 程度になると記載されている 今回の検討対象は様々な加工食品であるため 種子と同様に評価することはできないが 加工食品から抽出した DNA に関する様々な知見を得ることは有意義であるため上記基準での評価を行った また 両抽出法ともに 1gの試料から抽出した DNA を 50 µl の TE に溶解するという同一の条件のため 50 µl の DNA 抽出原液の DNA 濃度 (ng/µl) を示すことにより収量を比較した -3- -25-

食品関係等調査研究報告 Vol. 37(2013) 3.1.1 DNeasy Plant Maxi Kit 抽出 DNA の純度及び濃度 DNeasy Plant Maxi Kit によるトウモロコシ加工品抽出 DNA 原液の純度及び濃度算出結果は 表 1.1 に示すとおりであった 表 1.1 DNeasy Plant Maxi Kit 抽出 DNA の純度及び濃度算出結果表 品目商品枝番 O.D. 260 nm/o.d. 280 nm 抽出原液の DNA 濃度 (ng/µl) RUN1 RUN2 RUN1 RUN2 1 1.6 1.6 132.4 100.2 コーンスナック菓子 2 1.7 1.6 21.5 41.5 3 1.7 1.7 40.8 21.9 4 1.6 1.5 153.3 87.7 コーンスターチ 1 1.4 1.5 5.8 6.9 2 1.0 1.2 2.5 2.9 ポップコーン 1 1.6 1.5 62.8 45.5 2 1.7 1.5 49.6 42.8 冷凍とうもろこし 1 1.8 1.8 167.4 195.7 2 1.9 1.9 68.0 76.6 とうもろこし缶詰及びとうもろこし瓶詰 1 1.5 1.6 395.7 750.3 2 2.1 1.7 30.0 29.3 コーンフラワーを主な原材料とするもの 1 1.7 1.7 121.6 153.3 2 1.8 1.7 108.0 75.9 1 1.9 1.8 106.7 137.7 コーングリッツを主な原材料とするもの 2 1.5 1.5 189.0 257.0 3 2.0 1.7 42.3 40.7 とうもろこし ( 調理用 ) を主な原材料とするもの 第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするもの 1 1.6 1.6 163.3 173.1 1 1.2 1.5 5.0 5.1 表 1.1 中の緑色のセルは O.D. 260 nm/o.d. 280 nm 比が小数第二位以下を四捨五入後に 1.7 ~ 2.0 となった結果を示す O.D. 260 nm/o.d. 280 nm 比が 1.7 ~ 2.0 となった試料は 38 点中の 17 点であった 表 1.1 中の水色のセルは DNA 濃度が 10 ng/µl 未満となった結果を示す コーンスターチ 2 商品及び第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするもの 1 商品については 抽出した DNA 溶液の濃度が 10 ng/µl 未満であった 3.1.2 GM quicker 3 抽出 DNA の純度及び濃度 GM quicker 3 によるトウモロコシ加工品抽出 DNA 原液の純度及び濃度算出結果は表 1.2 に示すとおりであった -4- -26-

表 1.2 GM quicker 3 抽出 DNA の純度及び濃度算出結果表 品目商品枝番 O.D. 260 nm/o.d. 280 nm 抽出原液の DNA 濃度 (ng/µl) RUN1 RUN2 RUN1 RUN2 1 2.0 1.9 23.2 30.5 コーンスナック菓子 2 1.7 1.8 58.7 62.9 3 1.8 1.8 53.6 56.7 4 1.6 1.6 57.5 26.3 コーンスターチ 1 1.0 0.8 2.9 3.0 2 2.3 0.8 1.8 1.6 ポップコーン 1 1.7 1.4 26.6 23.9 2 2.0 1.8 19.0 18.7 冷凍とうもろこし 1 1.9 1.8 97.0 113.6 2 2.2 1.9 54.6 79.5 とうもろこし缶詰及びとうもろこし瓶詰 1 2.2 1.8 69.4 52.6 2 1.9 1.5 65.4 66.5 コーンフラワーを主な原材料とするもの 1 2.2 1.7 49.5 66.0 2 2.2 1.8 50.6 39.5 1 2.1 1.9 66.5 60.7 コーングリッツを主な原材料とするもの 2 2.0 1.8 63.2 79.8 3 2.2 2.0 54.5 61.9 とうもろこし ( 調理用 ) を主な原材料とするもの 第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするもの 1 1.8 1.7 62.7 28.0 1 2.0 0.4 3.5 2.0 表 1.2 中の緑色のセルは O.D. 260 nm/o.d. 280 nm 比が小数第二位以下を四捨五入後に 1.7 ~ 2.0 となった結果を示す O.D. 260 nm/o.d. 280 nm 比が 1.7 ~ 2.0 となった試料は 38 点中の 23 点であった 表 1.2 中の水色のセルは DNA 濃度が 10 ng/µl 未満となった結果を示す コーンスターチ 2 商品及び第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするもの 1 商品については 抽出した DNA 溶液の濃度が 10 ng/µl 未満であった 3.2 電気泳動結果 3.2.1 DNeasy Plant Maxi Kit 抽出法の電気泳動結果 DNeasy Plant Maxi Kit によるトウモロコシ加工品抽出 DNA の分析結果は図 1.1)~4) に示すとおりであった 検討を行ったトウモロコシ加工品 19 商品については コーンスナック菓子 -4 コーンスターチ-2 及び第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするもの-1 を除く全商品の全電気泳動試験結果において内在性遺伝子が検知された コーンスターチ-2 については 1 点のみ内在性遺伝子が検知されたが 確認されたバンドは著しく薄いものであった コーンスナック菓子 -4 及び第 16 号から第 20 号までに掲げ -5- -27-

食品関係等調査研究報告 Vol. 37(2013) るものを主な原材料とするもの-1 については各 2 点とも内在性遺伝子が検知されなかった コーンスナック菓子 -4 については DNeasy Plant Maxi Kit 抽出時の O.D. 260 nm から算出された DNA 濃度は比較的高かったことから O.D. 260 nm に吸収をもつ夾雑物により DNA 濃度の過剰見積もりが発生し 結果として希釈液中の DNA 濃度が相対的に低くなった可能性や 夾雑物の有する PCR 阻害作用等の影響で検知されなかった可能性が考えられる また コーンスターチ-2 及び第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするもの-1 については 抽出した DNA 溶液の濃度が 10 ng/µl 未満であったことから 加工による DNA の損傷があったことに加え DNA 濃度が希薄であったことも影響して 検知されなかった可能性がある 1) M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 PC NC1NC2 M 2) M 11 12 13 14 15 16 17 18 19 PC NC1NC2 M -6- -28-

3) M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 PC NC1NC2 M 4) M 11 12 13 14 15 16 17 18 19 PC NC1NC2 M 図 1.1)~4) トウモロコシ加工品の DNeasy Plant Maxi Kit 抽出法の電気泳動図 M: 100 bp DNA Ladder 1: コーンスナック菓子 -1 2: コーンスナック菓子 -2 3: コーンスナック菓子 -3 4: コーンスナック菓子 -4 5: コーンスターチ-1 6: コーンスターチ-2 7: ポップコーン-1 8: ポップコーン-2 9: 冷凍とうもろこし-1 10: 冷凍とうもろこし-2 11: とうもろこし缶詰及びとうもろこし瓶詰 -1 12: とうもろこし缶詰及びとうもろこし瓶詰 -2 13: コーンフラワーを主な原材料とするもの-1 14: コーンフラワーを主な原材料とするもの-2 15: コーングリッツを主な原材料とするもの-1 16: コーングリッツを主な原材料とするもの-2 17: コーングリッツを主な原材料とするもの-3 18: とうもろこし ( 調理用 ) を主な原材料とするもの-1 19: 第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするもの-1 PC: positive control NC1: negative control(no DNA) NC2: negative control(no primer) 3.2.2 GM quicker 3 抽出法の電気泳動結果 GM quicker 3 によるトウモロコシ加工品抽出 DNA の分析結果は図 2.1)~4) に示すとおりであった 検討を行ったトウモロコシ加工品 19 商品については 全商品の全電気泳動試験結果において内在性遺伝子が検知された -7- -29-

食品関係等調査研究報告 Vol. 37(2013) 1) M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 PC NC1NC2 M 2) M 11 12 13 14 15 16 17 18 19 PC NC1NC2 M 3) M 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 PC NC1NC2 M -8- -30-

4) M 11 12 13 14 15 16 17 18 19 PC NC1NC2 M 図 2.1)~4) トウモロコシ加工品の GM quicker 3 抽出法の電気泳動図 M: 100 bp DNA Ladder 1: コーンスナック菓子 -1 2: コーンスナック菓子 -2 3: コーンスナック菓子 -3 4: コーンスナック菓子 -4 5: コーンスターチ-1 6: コーンスターチ-2 7: ポップコーン-1 8: ポップコーン-2 9: 冷凍とうもろこし-1 10: 冷凍とうもろこし-2 11: とうもろこし缶詰及びとうもろこし瓶詰 -1 12: とうもろこし缶詰及びとうもろこし瓶詰 -2 13: コーンフラワーを主な原材料とするもの-1 14: コーンフラワーを主な原材料とするもの-2 15: コーングリッツを主な原材料とするもの-1 16: コーングリッツを主な原材料とするもの-2 17: コーングリッツを主な原材料とするもの-3 18: とうもろこし ( 調理用 ) を主な原材料とするもの-1 19: 第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするもの-1 PC: positive control NC1: negative control(no DNA) NC2: negative control(no primer) 3.3 各抽出法の結果比較 3.3.1 DNA 純度及び DNA 収量の比較 O.D. 260 nm/o.d. 280 nm 比が 1.7 ~ 2.0 の範囲に入った試料は DNeasy Plant Maxi Kit 抽出よりも GM quicker 3 抽出の方がやや多かった また O.D. 260 nm/o.d. 280 nm 比が 1.7 ~ 2.0 の範囲に入らなかった試料においても GM quicker 3 抽出では 2.0 を超える数値を示す試料が比較的多かったことから 280 nm 付近に極大吸収を有するタンパク質の混入については DNeasy Plant Maxi Kit 抽出よりも GM quicker 3 抽出の方が少なかった可能性がある 今回の検討ではコーンスターチ 2 商品及び第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするもの 1 商品については 抽出した DNA 溶液の濃度が 10 ng/µl 未満であったことから 両抽出法ともこれらの商品から安定した収量の DNA を回収することができなかった 商品中の DNA が加工により損傷していることや シリカに DNA を吸着させるという両抽出法に共通する抽出のメカニズムが これらの商品には適していない可能性が考えられる 上記以外の商品については両抽出法ともに 10 ng/µl 以上の抽出 DNA 原液が各抽出回ごとに 1 点以上は得られたので 10 ng/µl 以上の抽出 DNA 原液が得られる商品の品目の種類は 抽出法間で大きな差は見られなかった -9- -31-

食品関係等調査研究報告 Vol. 37(2013) 3.3.2 電気泳動結果の比較表 2のとおり GM quicker 3 抽出では検討を行ったトウモロコシ加工品 19 商品については全商品の全電気泳動試験結果において内在性遺伝子が検知されたのに対して DNeasy Plant Maxi Kit 抽出ではコーンスナック菓子 -4 コーンスターチ-2 及び第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするもの-1 において内在性遺伝子が検知されなかった DNeasy Plant Maxi Kit による抽出では内在性遺伝子が検知されなかった試料でも GM quicker 3 による抽出では内在性遺伝子が検知されたことから GM quicker 3 は DNeasy Plant Maxi Kit よりもトウモロコシ加工品からの DNA 抽出に適している可能性が示唆された 表 2 電気泳動結果比較表 コーンスナック菓子 コーンスターチ ポップコーン 冷凍とうもろこし 品目商品枝番 DNeasy Plant Maxi Kit GM quicker 3 とうもろこし缶詰及びとうもろこし瓶詰 コーンフラワーを主な原材料とするもの コーングリッツを主な原材料とするもの とうもろこし ( 調理用 ) を主な原材料とするもの RUN1 RUN2 RUN1 RUN2 3 + + + + 4 - - + + 2 - + + + 3 + + + + 第 16 号から第 20 号までに掲げるものを主な原材料とするもの 1 - - + + 表 2 中の灰色のセルは内在性遺伝子が検知されなかった結果を示す 4. まとめ 市販の加工食品 19 商品を対象として DNA 抽出キット GM quicker 3 による DNA 抽出法 のトウモロコシ加工品への適用について検討した -10- -32-

現行の JAS ハンドブックに記載されている DNeasy Plant Maxi Kit による DNA 抽出法と比較したところ GM quicker 3 抽出試料はタンパク質の混入が少ない可能性が示唆された また 10 ng/µl 以上の抽出 DNA 原液が得られる商品の品目の種類は 抽出法間で大きな差は見られなかった PCR 及び電気泳動の結果として DNeasy Plant Maxi Kit による抽出では内在性遺伝子が検知されなかった試料でも GM quicker 3 による抽出では内在性遺伝子が検知された 以上のことから GM quicker 3 は DNeasy Plant Maxi Kit よりもトウモロコシ加工品からの DNA 抽出に適していることが示唆された よって トウモロコシ加工品について GM quicker 3 による DNA 抽出法の適用は可能であると考えられる 5. 謝辞 本研究は独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構食品総合研究所との共同研 究として実施しました 本研究の実施に当たり 御協力をいただきました独立行政法人 農業 食品産業技術総合研究機構 令王奈博士に深謝致します 食品総合研究所の橘田和美博士 真野潤一博士 高畠 6. 文献 1) 遺伝子組換えに関する表示に係る加工食品品質表示基準第 7 条第 1 項及び生鮮食品品質表示基準第 7 条第 1 項の規定に基づく農林水産大臣の定める基準 ( 平成 12 年 3 月 31 日農林水産省告示第 517 号 ) 2)JAS Analytical Test Handbook(2012)Food and Agricultural Materials Inspection Center -11- -33-