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自動運転車の開発動向と技術課題 自動運転車の開発動向と技術課題 2020 年の自動化実現を目指して Current activities and some issues on the development of automated driving 青木啓二 AOKI Keiji 1 1 先進モビリティ株式会社 1 Advanced Smart Mobility Co., Ltd. 1 現在, 大型トラックによる自動運転隊列走行システムや一般道での完全自動運転を目指した技術開発が行われている 本稿では現在国内外で研究開発されている自動運転車の現状を紹介するとともに, 近年目覚ましい技術進化を遂げているディープラーニング等の A I 技術や 3 次元デジタル道路地図とセンシング技術を融合したローカルダイナミックマッピング技術等の技術開発動向について, 前回の執筆から 2 年以上が経過したため,2017 年 4 月現在の最新情報を取りまとめた 自動運転, 隊列走行, ローカルダイナミックマップ, フェイルセーフコンピューター, 車車間通信 原稿受理 (2017-04-09) 情報管理. 2017, vol. 60, no. 4, p. 229-239. doi: http://doi.org/10.1241/johokanri.60.229 1. はじめに 2. 自動運転車の開発状況 2020 年代早期の実用化を目指して, 完全自動運転車の取り組みが自動車メーカーやI T 企業を中心に進められている 自動運転はドライバーの認知 判断 操作を制御システムに置き換えるもので, これまでの安全運転支援システム (ADAS: Advanced Driver Assistance System) 注 1) とは質的に全く異なり, 道路交通システムのパラダイムを変えるものとして, 自動車産業界はもとよりサービス事業界や輸送事業界の熱い注目を集めている 現在, 自動車メーカーに加え,Google 社やUber 社等のI T 企業やベンチャー企業が実用化に取り組んでいる他, わが国では, 内閣府 ( 戦略的イノベーション創造プログラム (S I P) 自動走行 ) や国土交通省, 経済産業省が自動運転の研究開発事業を推進している 本稿では最近の自動運転車の開発を紹介するとともに実用化に向けた技術開発の取り組みについて紹介する 現在, レベル 3( 表 1) 以上の自動運転車の実用化 を目指し, さまざまな自動運転車の開発が進められ レベル 名称 制御実行者 走行環境 認識責任 システム故障時 運転モード 0 手動運転人間ドライバー人間ドライバー人間ドライバー手動 / 自動 1 運転支援 人間ドライバー / 制御システム 人間ドライバー人間ドライバー手動 / 自動 2 部分自動運転制御システム人間ドライバー人間ドライバー手動 / 自動 自動運転 表 1 SAE 自動運転レベル定義 3 条件付自動運転制御システム 制御システム人間ドライバー手動 / 自動 4 高度自動運転制御システム制御システム制御システム手動 / 自動 5 完全自動運転制御システム制御システム制御システム自動のみ 米国 SAE ( 自動運転標準化委員会 ) が策定 法令面および技術面から, 自動化レベル 2 までと自動化レベル 3 以上では大きく異なる 自動化レベル 2 までは走行環境認識の最終責任がドライバーであるのに対して, レベル 3 以上では走行環境認識の最終責任は制御システム側にある 229

情報管理 JOHO KANRI 2017 vol.60 no.4 http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/ July Journal of Information Processing and Management 図1にN A V Y A社にて実用化された初期段階のラス ている これまで自動運転車の研究開発は主に乗用 車 を 中 心 に 進 め ら れ て き た が 現 在 超 小 型E V トワンマイル車の自動運転システム構成を示す Electric Vehicle 電気自動車 や ハンドルやブ 車両の4隅にI B E O社のレーザーレンジファイン レーキペダルをもたない小型E Vバス また大型バス ダー ライダー 注3 と前後にステレオカメラが搭載 やトラックの自動運転車など さまざまな種類の自 されており 周辺360度に存在する障害物を検出で 動運転車が開発されている きる 乗客が目的地を設定すると あらかじめ設定 表2にすでに実用化された自動運転車を含む 開発 された走行ルートに沿って自動走行を行う 中の各分野の自動運転車を示す NAVYA社およびEasyMile社の自動運転バスはす でに実用化されているが ジュネーブ スイス お 2.1 短距離移動用の自動運転バス よびウィーン オーストリア 道路交通国際条約上 通称 Last One Mile 注2 と呼ばれる ハンドル 公道での走行は承認されていないため 主に施設内 もブレーキペダルもない短距離移動を目的とした小 等の公道以外の走行空間にて運行されている わが 型EVバスがNAVYA社 フランス やEasyMile社 フ 国においては千葉県幕張にある大型商業施設内の専 ランス から製品化されている 用空間内にて 試験運用が行われた 表2 表2 各分野の自動運転車 分野 日本 海外 トラック 後続車無人隊列走行システム CACC隊列走行システム VOLVO, Benz等 自動運転トラック Benz 自動運転トラック OTTO バス 無人小型バス SBドライブ 無人運転大型バス Benz 施設内無人移動車 ヤマハ 施設内無人移動車 NAVYA, EasyMile) 正着制御システム 正着制御システム Siemens タクシー 無人運転タクシー ロボットタクシー 無人運転タクシー Uber 乗用車 高速道路用自動運転車 トヨタ, 日産, ホンダ 自動駐車システム 高速道路用自動運転車 欧州自動車メーカー, Tesla, Google等 その他 道路保守作業車 NEXCO 除雪車 研究 乗車定員 10人 最高走行速度 走行 充電 前後進走行 ライダーとステレオカメラによるローカルダイナ ミック地図生成 ローカルダイナミック地図による通路軌跡作成と 衝突回避 ライダー 4 ステレオ カメラ 2 タッチパネル 3 マッピング 軌跡生成 図1 NAVYA社 自動運転バスシステム構成 230

自動運転車の開発動向と技術課題 2.2 路線バスにおける自動運転 2.2.1 正着制御システム 2.2.2 自動運転路線バス そう だ Daimler社にてバス専用道を走行できる自動運転 バス停での正着注4 を行うための自動操舵制御シス 路線バスが開発されている バスには複数個のカメ テムが 路線バスですでに実用化されている 図2に ラが搭載されており 走行路上の白線を認識しなが フランス ルーアン市内を走行する正着制御機能を ら自動運転される もつバスを示す このバスにはSiemens社で製品化 また国内の例として 先進モビリティ社が開発中の小 されたオプティカル ガイダンスシステムが搭載さ 型自動運転バス 図4 とそのセンシングシステム構成 れており バス停に近づくと ドライバーの手動運 を図5に示す この小型自動運転バスは完全自動運転を 転からオプティカル ガイダンスによる自動操舵制 目指して開発されており 車両前部には3個の近距離用 御に自動的に切り替わる レーザーレンジファインダー 前方近距離3D Lidar と バス停付近の走行路中央には2本の破線状の白線 1個のレーザーレンジファインダー 前方遠距離Lidar マーカーが敷設されており バスのフロント部に設 また側方部 後方部にもレーザーレンジファインダーが 置されたカメラ画像によりバスと白線マーカーの横 搭載されており 周辺360度の障害物認識を行っている 偏差 白線と前輪タイヤ間の距離 を検出して 自 先進モビリティ社が開発中の小型自動運転バスを 動操舵が行われる 正着距離 バス停縁石端部とバ 用いて 2017年3月20日 4月2日に沖縄南城市の スの乗降扉の離隔距離 は図3に示されるように約 一般公道にて内閣府主催による日本で初めての 公 5.0c mである これにより介護者なしでも容易に車 共バス向けの自動運転実証実験 が行われた 自動 いすでの乗降が実現されている 運転バスは最高時速35kmで走行し あらかじめ決め られた走行ルートに沿って走行するようハンドルが 自動制御されるが 前方の路肩駐車の車両を検出し た場合 自動的に車線変更制御される 図4 2.3 隊列走行車の開発 2.3.1 大型トラック隊列走行開発 車間距離を近接して走行させることにより 走行 空気抵抗を低減し燃費向上を実現する 自動運転隊 列走行1 が国内外において開発されている わが国 では2008 2013年にNEDO New Energy and 図2 ルーアン市 自動運転バス走行風景 Industrial Technology Development Organization 前方の駐車車両を避けるため 自動的に車線変更をしている 縁石と扉との距離は たった5.0 しかない 図3 自動運転による正着状況 図4 先進モビリティ社の小型自動運転バスによる 自動運転実証実験 231

JOHO KANRI 2017 vol.60 no.4 J ournal of Information Processing and Management July http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/ 高感度単眼カメラ 前方近距離 3 1 アンフィニソレイユ ( 日本信号 ) 右側方 3 1 後方遠距離 ベロダイン ) 前方遠距離 ベロダイン ) 15~20m 40~50m 15~20m 磁気センサー 前方近距離 3 2 前方近距離 3 3 左側方 3 2 1 つの前方遠距離 Lidar VLP60 と, 3 つの監視範囲 60 度の前方近距離 3D Lidar アンフィニソレイユ F X10 で, 前方 180 度を監視 検知可能な距離は前方最大 50m ほど 後方も同様に搭載されている 図 5 自動運転バスのセンシング構成 国立研究開発法人新エネルギー 産業技術総合開発機構 ) が15% の省エネ化を目指して, 大型トラック3 台と小型トラック 1 台による4 台隊列走行システム 2) を開発し, 車間距離 4mでの走行実験を行っている 図 6に NEDO にて開発された隊列走行システムの構成を示す 隊列走行を実現するうえでの重要技術は,CACC (Cooperative Adaptive Cruise Control) と呼ばれる車車間通信 3) を用いた車間距離制御技術である レーダー等を用いて前方を走行する車両と自車との車間距離を速度に応じた安全な車間距離に保持するACC(Adaptive Cruise Control) は, すでに実用化され多くの車両に搭載されているが, 前方車両が急ブレーキをかけた場合の安全性はドライバーに 任されている 車間距離情報だけの制御では, 前方車の減速度の発生開始から車間距離に変化が表れるまでには大きな遅れ時間が発生するとともに, 自車の減速が発生するまでに遅れがあるため, 衝突を防止するには長い車間距離が必要となる 一方 CACCでは, 前方車両の速度情報や加速度情報を車車間通信を用いて後続車に伝送し, 先頭車の急制動時における車間距離制御性を大幅に向上している 図 7にCACCのシステム構成図を示す 先頭車の速度や加減速度が0.02 秒ごとに後続車に送信され, 車間距離を一定にするため後続車の速度は常に先頭車と同じ速度になるよう制御されるとともに, 速度制御誤差により発生する車間距離誤差が車間 速度の自動制御 ( エンジン, ブレーキ ) 速度制御(CC) CACC 車間距離制御 ( 近接車間距離 ) ACC 車間距離制御 ( 割り込み車 ) 車車間通信器 車間距離センサー ミリ波レーダー レーザーレーダー 位置認識センサー カメラ ( 白線認識 ) レーザーレーダー GPS ハンドルの自動制御 運転操作支援 車線変更支援 HMI 区画白線をトレースする車線維持制御 先頭車トラッキング制御 ( 車線変更等 ) 図 6 NEDO 隊列走行システム構成 232

自動運転車の開発動向と技術課題 距離センサーからの情報を基に補正される ( 図 8) トラック隊列走行システムはNEDOの他, 米国カリフォルニア交通研究所のPATHや, ドイツのアーヘン工科大学でも同様な開発が行われた 2.3.2 CACC 隊列走行の実用化動向自動運転レベル1で操舵制御を行わない,CACCのみによる隊列走行の実用化 商用化に向けた動きが欧州および米国にみられる 欧州では,Daimler 社やScania 社,VOLVO 社など欧州のトラックメーカー 6 社が参加した, European Truck Platooning Challenge 2016 と呼ばれるC A C C 隊列走行実証実験が2015 ~ 2016 年に実施され, 欧州各地から各社がオランダ アムステルダムに向け,2 ~ 3 台の隊列走行をする実証実験が行われた 各トラックの自動運転レベルはレベル1で走行速度や車間距離は通行する国ごとに変化するが, おおよそ時速 60k mで車間距離 10m 程度である European Truck Platooning Challengeでは車車間通信として日本のDSRC(Dedicated Short Range Communication) 方式とは異なり, 携帯系通信を利用した車車間通信が使用された 図 9に Scania 社の隊列走行車を示す この他, 同様のプロジェクトとして, COMPANION (Cooperative dynamic formation of platoons for safe and energy-optimized goods transportation) と呼ばれる自動運転レベル 1 の CACC 隊列走行実験が Scania 社を中心に実施されている 一方米国では, Peloton 社が CACC 隊列走行による輸送サービスの 商用化を目指して開発を行っている 図 10 に Peloton 社の CACC 隊列走行車のシステム構成を示す このシ ステムでは欧州の隊列走行と同様, 車間距離と速度が 自動制御されている Peloton 社の CACC 隊列では車 Scania 社はスウェーデン セーデルテリエを出発し 4 か国を通過し, 最も長距離の 2,000 kmを走った この実験では通常の混雑状況であれば, 高速道路も走ったという 図 9 Scania 社 CACC 隊列走行車 先 頭 車 先頭車 先頭車速度 ー 加速度変換 ー 実加速度 アクセル開度 制御 車両 目標車間距離 ー 加速度変換 アクセル開度 制御 ( エンジントルク ) シフト位置 エンジン回転数 実車間距離 図 7 CACC 制御システム構成 後続車は先頭車の速度 加速度を目標値としてアクセル開度, ブレーキ力の制御を実施 中間車 最後尾車とも車間距離制御誤差は 1m 以内 図 8 ブレーキ実験 233

JOHO KANRI 2017 vol.60 no.4 J ournal of Information Processing and Management July http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/ 出典 : Peloton 社 Web サイト 図 10 Peloton 社 CACC 隊列走行車システム構成 車間通信として5.9GHzのDSRC 方式車車間通信方式が使用されている また隊列内の車間距離センサーとして,77GHzのミリ波レーダーが使用されている 2.3.3 トラック 乗用車混在隊列走行の開発大型トラックによる隊列走行の他,SARTRE(Safe Road Trains for Environment) と呼ばれるトラックと乗用車混在の隊列走行も,VOLVO 社により開発されている この隊列走行の特徴は手動運転された先頭の大型トラックを, 自動運転のトラックや乗用車が自動追尾するもので, 隊列内の車間距離は数 m 程度に制御される 自動運転車の操舵は白線認識ではなく, 先行車両と自車との横方向のずれをステレオカメラとレーザーレーダーで認識して制御する 2.4 乗用車における自動運転開発日米欧の自動車メーカーが2020 年までの自動運転車の実用化を目指し開発を行っている 乗用車での自動運転車開発はGoogle 社が2012 年ごろまで先行していたが, 現在多くの自動車メーカーで自動運転レベル2あるいはレベル3による高速道路での自動運転の実用化を目指し, 研究開発が行われている 3. 自動運転レベル3 以上の自動運転技術動向 3.1 自動運転レベルと求められる技術 自動運転車の自動運転レベルは国内外の機関にて 4 段階または 5 段階に分けられているが, レベル 3( 表 1) 以上の自動運転車では走行環境認識をシステム側で 行う必要がある センシング技術や情報処理技術に おいて技術革新が求められ, 日, 米, および欧州に おいて技術開発が進められている 3.2 自動運転化の重要技術 レベル 3 以上の自動運転を実現するうえで, 現在の運 転支援システムでは求められない新しいセンシング技 術やインテリジェントな制御技術が必要になる 特に 重要と考えられているのが, 車両の走行位置を高精度 に検出するローカリゼーション ( 走行位置標定 ) 技術と, ローカリゼーションを利用した障害物認識技術である 図 11 に現在研究されているローカリゼーション技 術と車線維持制御の動向を示す 3.2.1 ローカリゼーション 運転支援システムでは, 車線維持制御にこれまで道 路区画白線画像 4) を利用してきたが, 雨天や降雪等 高速道路一般道 (1) 区画白線認識による制御 (2) 高精度と軌跡座標 (3) ポイントクラウド ( 点群 ) による制御 約 0.1 秒ごとのライダーの点群データ ( 座標毎の距離データ ) を地図とする自動操舵制御 図 11 ローカリゼーション技術および車線維持制御 234

自動運転車の開発動向と技術課題 さまざまな自然環境においても動作することが求めら 3.2.2 ローカルダイナミックマッピング れる自動運転において カメラ画像による白線認識で 公道における非常に複雑なシーンにおいて自動運 は要求される信頼性を実現するのは困難である この 転を行うには 交通信号や道路標識 電柱 ガードレー ため 高精度な測位が可能であるRTK-GPS注5 やレー ル等の構造物と道路および道路上の自動車や歩行者 ザーレンジファインダーの点群データから特徴点を抽 自転車等を区別するとともに 道路上の物体がどの 出して位置検出を行う方法が研究されている 方向に移動しているかを認識することが求められる 図12にレーザーレンジファインダーの事例を示 現状 画像センサーやミリ波レーダー レーザー す 図12はレーザーレンジファインダーをスキャニ レンジファインダー等のセンサー単独で複雑な環境 ングしながら道路走行して 走行位置ごとにレンジ 認識をすることは困難なため これらのセンサーを ファインダーから得られた水平 垂直の2次元面ごと 複数用いて認識性能を向上するセンサーフュージョ に距離情報を図化したもので これが車の進行位置 ン技術が開発されているが これらを完全に区別す ごとに地図データとしてあらかじめ記録されてい ることは困難である そこでセンサーによる物体ま る この走行位置ごとの2元面の距離データと自車に での距離情報と高度化された道路地図を組み合わせ 搭載されたレーザーレンジファインダーのデータを た ローカルダイナミックマッピング と呼ばれる 比較して 自車の走行位置を検出する 距離センサーと地図のフュージョン技術により こ の問題を解決する技術が開発されている このローカルダイナミックマッピングの概念を図 13に示す GPSからの位置情報により 電柱や信号機等の道路 構造物情報をもつ周辺の詳細道路地図情報が算出され る 同時に車載の3次元レーザーレンジファインダー 3D Lidar より物体までの3次元距離が検出される センサーからの3D距離データと道路地図をリアル タイムに合成することにより レーザーレンジファ 図の詳細は Web版を参照されたい 図12 レーザーレンジファインダーの点群データ インダーにて検出された物体が道路構造物か道路上 ローカルダイナミックマッピング 自車からの3D距離データとデジタル地図の重ね合わせによる自車周辺地物認識 道路側固定構造物と道路上障害物との区別化 車載用のレーザーレンジファインダー等 ポイントクラウド ローカルダイナミック マッピング Google引用 曲線 曲線 曲線 開始点 中間点 終了点 GPS 直線 終了点 高精度な現在位置 直線 開始点 3D 地図 白線 縁石 図13 ローカルダイナミックマッピングの概念 235

JOHO KANRI 2017 vol.60 no.4 J ournal of Information Processing and Management July http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/ の物体かどうかが正確に区別される 3.2.3 レーザーレンジセンサーの高性能化上記に示すようにローカルダイナミックマッピングには2 次元面における距離データが必要である レーザー光を用いた既存のレーザーレンジセンサーでは2 次元面の距離を検出するため, レーザー光はポリゴンミラーと呼ばれる回転ミラーを用いて水平方向および垂直方向にスキャニングされるが, 垂直方向のスキャニング分解能が粗いため, 自動運転用レーザーレンジセンサーでは垂直分解能の高い新しいレーザーレンジセンサーが必要となる 3.2.4 画像認識による障害物認識自動運転において, レーザーレンジファインダーによる障害物認識が耐環境性に優れている等の理由で主流となっているが, 一方で ディープラーニング と呼ばれている深層型ニューラルネットによる学習により物体識別を行う研究が進められている レーザーレンジファインダーでは点群データ数が少ないため, 遠方に存在する物体の形状認識が困難である 一方カメラ画像はレーザーレンジファインダーと比較し, 情報量が100 倍以上多いため, 物体の形状認識が可能である ディープラーニング では歩行者や乗用車, トラックやバス, 二輪車のパターン等を学習させることにより障害物の種類判別が可能となる 図 14は歩行者, 乗用車が混在した画像でディープラーニングにて認識した結果を示す 図 14に示されるように, 歩行者と車両が分離されて認識されている また電柱は学習せず, 人だけを図 14 ディープラーニングの認識結果事例 学習させた場合, 人が電柱と並んで立っているシーンでも, ディープラーニングは正確に人間だけを認識する このようにディープラーニングは環境条件ではかなりの認識率をもつが, もちろん誤認識や未検出が発生する場合があるため, レーザーレンジファインダーとディープラーニングのフュージョンによる障害物認識の認識率向上が自動運転には求められると思われる 4. システムのフェイルセーフ化 4.1 自動運転の機能安全 自動運転レベル3 以上のシステムでは制御システムが故障した場合, 危険な状態になる可能性が高いため, 極めて信頼性の高いシステムを構築する必要がある 自動車の機能安全規格としてI S O26262にてA S I L A ~D 注 6) が定められており, レベル3 以上の自動運転にはA S I L Dが求められると考えられる このため自動運転には機器の高信頼化のみならず制御装置の冗長化やフェイルセーフ化が必要になると思われる 4.2 自動運転のアーキテクチャー安全運転支援システムはドライバーの全運転タスクの一部を担うものであるため, 個々の制御システム規模は比較的小さいものである それに対し, 自動運転システムはドライバーに代わり全運転タスクのほとんどを担う必要があり, ローカルダイナミックマッピングや目標走行軌跡生成, 環境理解や危険判断等の人工知能機能等, 高度な情報処理機能が求められる また制御的にも, 横方向と縦方向制御が絡み合う非常に複雑なシステムである したがってすべての入力情報を基に1つのソフトウェアで処理する集中制御方式で自動運転システムを構築した場合, システム変更に対する自由度や, システムの安全性 信頼性の検証が非常に複雑になるとともにバグ発生の要因にもなるなどの問題がある したがって, 自動運転システムを構成する場合, 分散型制御方式が好ましいといえる 自動運転は認知機能, 判断機能, 操作機能で構成 236

位(GPS)HMI モジュール測自動運転車の開発動向と技術課題 されることを考えると, 自動運転のシステムアーキテクチャーもこの考えで設計されるのが合理的であり, この考えに基づいて筆者により設計された自動運転のシステムアーキテクチャーの一事例を図 15に示す 詳しくは, 筆者の前回の記事 5) を参照されたい なせる 旨の回答書が出され, 完全自動運転の認可に向けた可能性が示された またわが国では2017 年 4 月 13 日に警察庁が 遠隔操作で走る自動運転車について, 新たに定めた道路使用許可の審査基準を満たせば公道での実証実験を許可する ことを発表している 5. 非技術領域における取り組み状況 5.1 国際的な法制度の動向 自動運転車の開発にはテストコースでの性能や安全性の他, さまざまな走行環境変化に対する評価が必要となり, どうしても公道での走行実験が必要である 海外では公道での自動運転実験が広く実施されている しかし, わが国では最近まで公道での実験が限定されていたが, 現在では警察庁の 自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン 注 7) に準じていれば, 公道実験が可能な環境となっており, 多くの公道実験が行われている 一方, 法令面でも, 自動運転の承認に向けた検討がなされている 具体的には2015 年 11 月 12 日付の Google 社から米国 DOTへのAIによる自動運転に関する質問状に対して,NHTSA(National Highway Traffic Safety Administration: 米国運輸省道路交通安全局 ) より2016 年 2 月 4 日付で, A Iは運転者とみ 5.2 日本における自動運転政策動向内閣官房において自動運転の実用化に向けたロードマップが策定されている 図 16は未来投資会議に提出された自動運転のロードマップを示す 6) このロードマップでは2020 年に実施する公道での完全自動運転の実証実験に向けて, 制度や法令の見直し検討が行われる予定である また内閣府においてS I Pと呼ばれる官民連携の自動走行開発プロジェクトが進められている 7) SIPでは自動走行を実現するために必要となる3 次元地図等の基盤技術やART(Advanced Rapid Transit) と呼ばれる次世代バスの技術開発が行われている ( 図 17) 現在, 公道での完全自動運転の実現に向けて, 官民の協力体制の下, 技術開発や制度の見直しが進められており,2020 年での実証実験の成功をステップとして,2020 年代での実用化を目指し, 今後一層の技術開発の推進が期待されている 障害物位置等 走行環境センシングおよび障害物認識 前方の障害物のセンシング ( ミリ波レーダー, レーザーレーダー, TV カメラ ) 白線レーンセンシング エンジン ブレーキ 地図モジュール 固定道路地図 ローカルダイナミック地図 目標走行軌跡生成 人工知能モジュール 環境理解 判断 目標走行軌跡修正 修正指示修正指示 速度制御モジュール (ACC, PCS) ハンドル 車間距離 交通情報等 操舵制御モジュール ( 車線維持制御 ) 白線距離 道路線形 道路地図 ビッグデータ, 道路 交通情報等 ( 車外データ ) 自動運転システムは 5 つのモジュールとセンシング部, 外部通信部で構成される 縦方向と横方向それぞれ独立した出力モジュールをもち, 上位の指示なしに単独で最小限の安全機能をもっており, 上位からの指示に基づいて補正されることにより, 信頼性や安全性の確保が図られる構成となっている 図 15 自動運転システムアーキテクチャーの一事例 237

情報管理 JOHO KANRI 2017 vol.60 no.4 Journal of Information Processing and Management http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/ July 出典 内閣府Webサイト 図16 未来投資会議での自動運転ロードマップ Cyber 青木 啓二 あおき けいじ k_aoki as-mobi.com 1971年トヨタ自動車入社 同社研究部にて米国運輸省の I -15 自 動運転PJ 用の自動運転車の開発を担当後 同社IT ITS企画部にて 愛 A R Tの特徴は既存のバスに対して 正着制御や電子チケット化 交通信号との連動化を行うことにより 乗降性や定時性 速達性 の大幅な向上を目指している 出典 内閣府SIP Webサイト 図17 SIPにて開発が行われているARTシステム 地球博 用自動運転バス トヨタIMTS の開発を担当 2008年 日 本自動車研究所に出向するとともに NEDO エネルギー ITS推進事 業 の自動運転 隊列走行技術の開発を担当 2014年 先進モビリティ 株 代表取締役に就任 本文の注 注1) 238 安全運転支援システム ドライバーの認知や判断の遅れ 誤りから起こる交通事故を 未然に防ぐことを目的と したシステム 車両周辺を走行する車両を検出し衝突の危険性がある場合 自動的にブレーキを作動させたり 車線をはみ出しそうになった場合 自動的にハンドルを戻したりなどを行い ドライバーの安全運転を支援する

自動運転車の開発動向と技術課題 注 2) 注 3) 注 4) 注 5) 注 6) 注 7) Last One Mile: 通信業界で使われていた言葉で, 通信会社の拠点から各家庭までの距離や接続手段を意味していた 今では, 物流や交通などさまざまな分野で使われ, 交通では, 駅から自宅までの距離や手段を指す ちょい乗り の小型自動車や 相乗り のバスなどが該当する レーザーレンジファインダー : レーザー光による測距センサー 正着 : バス停への密着した横づけ RTK-GPS は Real Time Kinematic GPS の略 カーナビゲーションに使用されている GPS の測位精度が数 m であるのに対して,RTK-GPS の測位精度は数cmと非常に高精度な測位が可能である このため捕測中の GPS ごとの測位補足情報が車載 GPS とは別に固定基地局で検出されるとともに, 携帯通信等を介して, この補正情報により車載 GPS の測位情報が補正される ISO 26262 は, すべての自動車 E/E(Electrical/Electronic) システムの機能安全に対する安全規格で, 安全性を重視したコンポーネントに特化した自動車専用の国際規格 その構成要素である ASIL(Automotive Safety Integrity Level: 安全性要求レベル ) は, 不具合発生時に, ドライバーや他の道路利用者にどのように影響するか? というハザードレベルの規定である リスクにさらされる確率やドライバーによる制御性, 事故発生時の結果の重大性などに基づいてリスクを推定し,ASIL を定義している ASIL レベルには A,B,C,D があり,D が安全性上最も厳しいレベルである 警察庁自動運転 :https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/selfdriving/index.html 参考文献 1) Shladover, Steven E. et al. Demonstration of Automated Heavy-Duty Vehicles. CALIFORNIA PARTNERS FOR ADVANCED TRANSIT AND HIGHWAYS, 2005, California PATH Research Report UCB-ITS- PRR-2005-23. 459 p. 2) Yoshida, Jun; Sugimachi, Toshiyuki; Fukao, Takanori; Aoki, Keiji. "Autonomous Driving of a Truck Based on Path Following Control". 10th International Symposium on Advanced Vehicle Control. Loughborough, 2010-08-22/26. 3) 藤井治樹. 特集, 自動車と交通の情報化を支える要素技術 : 車々間通信技術. 自動車技術. 1998, vo1. 52, no. 2, p. 71-74. 4) 橘彰英ほか. コンピュータビジョンによる自動運転システム : 白線検出による車両制御法. 自動車技術会学術講演会前刷集. 1992, vol. 924, no. 1, p. 157-160. 5) 須田義大, 青木啓二. 自動運転技術の開発動向と技術課題. 情報管理. 2015, vol. 57, no. 11, p. 809-817. http:// doi.org/10.1241/johokanri.57.809, (accessed 2017-05-23). 6) 経済産業省. 自動走行プロジェクト実現に向けた政府の取組. 首相官邸. http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai5/siryou4.pdf, (accessed 2017-05-23). 7) 内閣府政策統括官 ( 科学技術 イノベーション担当 ). 戦略的イノベーション創造プログラム (S I P) 自動走行システム研究開発計画. 内閣府. http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/keikaku/6_jidousoukou.pdf, (accessed 2017-05-23). Author Abstract Currently, automated driving systems are being developed toward the introduction in commercial market by 2020. Current activities on advanced development for self-driving vehicles on mixed traffic and fully automated truck platoon on highway will be described. Furthermore, vehicle control technologies needed to self-driving such as local dynamic map or deep leaning for the obstacle recognition will be introduced. Key words automated driving, automated platooning, local dynamic map, fail-safe computer, vehicle-vehicle communication 239