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総括報告書 JCOG0910: Stage III 治癒切除大腸癌に対する術後補助化学療法としての Capecitabine 療法と S-1 療法とのランダム化第 III 相比較臨床試験 作成日 :2018 年 1 月 9 日研究事務局 : 濱口哲弥 ( 埼玉医科大学国際医療センター ) 研究代表者 : 島田安博 ( 高知医療センター ) グループ代表者 : 島田安博 ( 高知医療センター ) 試験概要 試験の目的 :Stage III 結腸 直腸癌 ( 下部直腸 (Rb) を除く ) の治癒切除患者を対象として 術後補助化学療法としての S-1 療法の有用性を 標準治療であるカペシタビン療法とランダム化比較して 無病生存期間において非劣性であることをもって検証する 対象 :Rb を除く Stage III 結腸 直腸腺癌 ( 大腸癌取扱い規約第 7 版 ) D2/D3 郭清を含む大腸切除術にて R0 手術施行 年齢 20 歳以上 80 歳以下 PS(ECOG):0 1 術後 8 週以内 文書による同意が得られている 治療の概要 : A 群 ( カペシタビン療法 ) カペシタビン 2,500 mg/m 2 / 日を 14 日間連日経口内服した後 7 日間休薬する 1 日量のカペシタビンを朝食後と夕食後の 2 回に分けて内服する (1 コース=3 週間 ) 計 8 コース行う B 群 (S-1 療法 ) S-1 80 mg/m 2 / 日を 28 日間連日経口内服した後 14 日間休薬する 1 日量の S-1 を朝食後と夕食後の 2 回に分けて内服する (1 コース=6 週間 ) 計 4 コース行う Primary endpoint: 無病生存期間 1 Secondary endpoints: 全生存期間 無再発生存期間 2 有害事象発生割合 治療関連死発生割合 早期死亡割合 Grade 4 の非血液毒性発生割合 Grade 2 以上の手足皮膚反応発生割合 予定登録数 :1,550 人 登録期間 :3 年 追跡期間 : 登録終了後 6 年 1 無病生存期間のイベント : 死亡 再発 二次がん (Carcinoma in situ や粘膜内癌は二次がんに含めない 大腸 sm 癌のうち腫瘍径 2cm 以内かつ psm<1,000 μm の場合も二次がんに含めない ) 2 無再発生存期間のイベント : 死亡 再発背景術後補助化学療法は Stage III 結腸 直腸癌患者の再発率を低下させ 全生存期間を改善することが示されている 本試験の先行試験である JCOG0205 は Rb を除く III 期結腸直腸癌における静注 5-FU/l-LV に対する経口 UFT/LV の無病生存期間における非劣性を検証する試験であった JCOG0205 では静注 5-FU/l-LV に対する経口 UFT/LV の非劣性が検証され 国内標準術式である D2/D3 郭清を行うことで フッ化ピリミジン単独による術後補助化学療法でも Stage III の 3 年無病生存割合は 78.6% 3 年生存割合は 94.2% と良好な結果であった 一方 MOSAIC NSABP C-07 および XELOXA のランダム化試験の結果に基づいて FOLFOX(5-FU/LV+ オキサリプラチン ) や CapeOX( カペシタビン + オキサリプラチン ) などが国際的な標準術後補助化学療法と見做されるようになった しかしながら オキサリプラチンを用いた術後補助化学療法を行う場合 遷延する末梢神経障害は患者の QOL を低下させ臨床的に重大な問題となっている よって JCOG0205 試験の結果から フッ化ピリミジン単独による術後補助化学療法でも良好な 3 年無病生存割合 3 年生存割合が示されたため日本のすべての Stage III 患者に対してオキサリプラチン併用療法は標準とはなり得ないと考えられた 1

5-FU/LV( 静注 ) UFT/LV( 経口 ) およびカペシタビン ( 経口 ) からなるフッ化ピリミジン単独による術後補助化学療法は オキサリプラチンの組み合わせの導入前から行われていた なかでも経口フッ化ピリミジンは 日本においてはその利便性から長年にわたって術後補助化学療法として広く使用されてきた JCOG0205 試験で用いた UFT/LV 療法は JCOG 試験登録中に国内承認となったが 薬価という点で 5- FU/LV およびカペシタビン療法の約 2 倍であり 医療経済的な観点より JCOG 大腸がんグループでは UFT/LV を標準治療とすることは許容できないと判断した 一方 カペシタビンは X-ACT 試験で 統計的に有意ではないが 無病生存期間および全生存期間は静注 5-FU/LV よりも優れていた 従って カペシタビンは新たな標準経口化学療法薬となったが 一部の患者は 手足の皮膚反応などの有害事象のためにカペシタビンを使用することを躊躇していた S-1 は経口の抗がん剤で 胃 乳房 膵臓 胆道 頭頸部および結腸直腸癌を含む広範囲の抗腫瘍活性を示す 日本で行われた II 期 /III 期胃癌 I-III 期膵癌を対象とした第 III 相試験では S-1 の術後補助化学療法が治癒切除後の無治療経過観察よりも優れていた 従って S-1 は これらの II 期 /III 期胃癌 I-III 期膵癌に対する標準的な術後補助化学療法である さらに 2014 年に報告された III 期結腸癌に対する第 III 相 ACTS-CC01 試験では UFT/LV と比較して S-1 が無病生存期間および全生存期間にてわずかに良好な結果であったことが明らかにされたが これは統計学的に有意ではなかった また 本邦で行われた切除不能大腸癌に対する S-1 単剤療法の第 II 相試験の結果からは Grade 3 以上の有害事象の頻度では ほとんどの項目でカペシタビン単剤療法と比べ大きな差は認められなかったが S-1 療法にはカペシタビン療法で 13% も認められている手足症候群が観察されていないという特徴が見られた 以上より S-1 療法はカペシタビン療法に比べ 有効性では同等であることが見込まれ 安全性では手足症候群を中心とした有害事象の頻度が低くなることが期待された そのため 無病生存期間において S-1 療法がカペシタビン療法よりも許容範囲を超えて下回らないことを検証できれば S-1 がカペシタビンに代わる新たな標準治療であると判断できると考えられた 試験経過 2010 年 3 月 1 日より登録を開始し 2013 年 8 月 23 日までに 56 施設から 1,564 人の患者が登録された 登録終了 1 年後の 2014 年 9 月 20 日の第 2 回中間解析にて 試験の中止を勧告し 本試験結果を公表することを推奨する との審査結果であった 2014 年 9 月 24 日に研究代表者 事務局より中止報告書を提出し 同 26 日に効果 安全性評価委員会より中止報告書受領の連絡あり 試験中止日は 2014 年 9 月 21 日とした なお 予定通りの観察は継続することとした プロトコール改訂は計 2 回行われ その内容は以下のとおりである 第 1 回 (2011 年 6 月 27 日承認 ): 治療変更規準の修正 エンドポイントのイベント定義 ( 打ち切りの定義 ) の変更および HBs 抗原陽性例に対する検査と支持療法の追記など 第 2 回 (2012 年 11 月 27 日承認 ): 治療開始規準および休止規準の変更 安全性評価項目の追加 主たる解析対象集団の変更など 登録状況登録ペースは 当初予測したペースと比べてほぼ予想通りであり 予定登録期間より 6 か月以内の延長で終了した 施設毎の患者登録数は 国立がん研究センター中央病院からが 132 人 静岡県立静岡がんセンターからが 112 人と多くの登録が得られた一方 11 施設からは患者登録が 1 桁であった 重複登録 (No. 913 と No. 914 が同一 ) が 1 人 登録時不適格が 3 人 ( ワーファリン内服 :1 人 手術日から登録までの期間 :1 人 登録前検査未実施 :1 人 ) 事後不適格が 1 人 ( 登録前に甲状腺腫瘍指摘あり :1 人 ) のみであり 登録上の大きな問題はなかった 背景因子 JCOG0910 では年齢上限を 80 歳以下とし登録患者の年齢中央値は 66 歳であったが 年齢上限を 75 歳以下とした JCOG0205 では登録患者の年齢中央値は 61 歳であり JCOG0205 と比べて JCOG0910 は 2

年齢中央値が 5 歳高くなった また本試験と同時期に Stage IIIb を対象にオキサリプラチン追加の意義を問う ACTS-CC02 試験が行われていたことが影響してか リンパ節転移個数が 4 個以上の患者が JCOG0205 では 27% であったのに対して本試験では 16% と減少していた 他の背景因子は概ね JCOG0205 と同様であった 治療経過プロトコールで規定した術後補助化学療法を完了した患者は A 群 613 人 (78%)B 群 615 人 (79%) と同等であった 術後補助化学療法の中止理由の大半は有害事象中止であり A 群 144 人 (18%) と B 群 138 人 (18%) と同等であった 術後補助化学療法のコンプライアンスは比較的良好であった一方で 化学療法に関連した治療関連死が両群 1 人ずつに発生した プロトコール遵守本試験におけるプロトコール逸脱は次のとおりである 登録後 14 日以内にプロトコール治療を開始できなかった逸脱は A 群 23 人 ( うち 1 人は問題なし 4 人は臨床的に妥当 ) B 群で 30 人 ( うち 3 人がやむを得ない 5 人が臨床的に妥当 ) であり 投与期間不遵守は A 群で 8 人 B 群で 35 人 投与量不遵守は A 群 14 人 ( うち 2 人が問題なし 1 人が臨床的妥当 ) B 群 6 人 ( うち 1 人が問題なし ) 開始日不遵守は A 群で 13 人 B 群で 28 人 ( うち 1 人が問題なし ) コース開始延期せずの逸脱は A 群 141 人 B 群で 45 人であった A 群での コース開始を延期せず の逸脱の多くが 手足の皮膚反応 Grade 2 での開始であったが このうち Grade 3 に移行した患者数が少なかったことから これはカルテに最悪 Grade と投与開始時の Grade を混同して記載していることが原因であると考えた このため 最悪 Grade と投与開始時の Grade を区別して記載するよう参加施設に周知したところ このような逸脱は若干減少した 休止せずの逸脱は A 群 125 人 B 群 77 人 減量せずの逸脱が A 群 65 人 B 群 26 人 中止せずの逸脱 A 群 55 人 B 群 9 人と 休止および中止規準不遵守は A 群で多くみられた プロトコール治療 完了 無効 有害事象中止 以外の終了理由として A 群では 逸脱して完了 が 21 人 B 群が 4 人であった 以上 治療開始規準 治療休止 減量規準不遵守に関連したものがほとんどであり 幸い安全性や有効性に直接影響するものはなかったと考える 安全性 A 群では Grade 2 以上の手足皮膚反応発生割合が B 群に比べて高く (54% vs. 6%) 悪心 食欲不振 嘔吐 下痢などの消化器毒性は B 群が A 群よりも多い傾向にあった ただし 便秘は B 群より A 群の方が多い傾向にあった 治療関連死は両群とも 1 人ずつに認め いずれも心血管イベントが原因であると考えられた Grade 4 の非血液毒性は両群とも 1 人ずつに認めた 本試験では適格条件を 80 歳までとしているが 本試験で見られた有害事象は既報とほぼ同様であり 新たな知見はみとめられなかった 有効性本試験では 有効性の primary endpoint として無病生存期間を設定し B 群の A 群に対する 3 年無病生存割合の差が5% を超えて劣っていないかどうかに相当するハザード比 (HR) としての非劣性マージンを1.24 とし A 群に対する B 群の HR の 90% 信頼区間の上限が 1.24 を超えるかどうかを検証した 必要イベント数の 48% に達した時点で 2 回目の中間解析が行われた ( 観察期間中央値 23.7 か月 ) その結果 3 年無病生存割合 A 群 82.0% B 群 77.9% HR の点推定値は 1.23 であった 効果 安全性評価委員会は以下の理由により 本試験の早期中止と試験結果を公表することを勧告した 1 得られた HR の点推定値 1.23 が許容ハザード比の 1.24 に近いこと 2B 群の無病生存曲線が明らかに A 群の無病生存曲線を下回っていること 3 試験を継続しても A 群に対する B 群の非劣性を証明できる可能性が 23.5% しかないこと 4ACTS- CC01 試験の結果から日本国内で S-1 が頻用される傾向にあることであった 研究代表者と研究事務局は効果 安全性評価委員会の勧告を受けいれ 試験を早期中止し予定通りの観察は継続することとした また 2016 年 12 月に予定された登録終了 3 年後の追加解析が行われた 観察期間中央値は 49.6 か月であり 3 年無病生存割合は A 群 81.7% B 群 78.3% HR=1.22(95% CI:1.00-1.50) であった これらの結 3

果は 第 2 回中間解析とほぼ同様であり S-1 療法が明らかにカペシタビン療法に劣る傾向が確認された 同様に 3 年無再発生存割合は A 群 84.6% B 群 81.5% HR=1.21(95% CI:0.96-1.53) 3 年生存割合は A 群 96.3% B 群は 95.4% HR=1.18(95% CI:0.83-1.68) と いずれも A 群の方が優れていた 以上より 本試験では B 群の A 群に対する非劣性は証明できなかった 考察 < 有効性 > 本試験の仮説は 試験治療である S-1 療法が 現在の標準治療であるカペシタビン療法に無病生存期間で許容範囲 ( ハザード比 1.24) を超えて劣らない であり この仮説が検証され かつ安全性の secondary endpoint である有害事象発生割合のうち Grade 2 以上の手足症候群の発生割合が B 群 (S-1 療法 ) で明らかに A 群 ( カペシタビン療法 ) より低い場合 試験治療である S-1 療法による術後補助化学療法がカペシタビン療法に劣らない可能性のある治療オプションと判断することと規定していた 中間解析における HR の点推定値は 1.23(99.05%CI:0.89-1.70 95%CI:0.96-1.57 P non-inferior=0.46) であり HR の点推定値は当初設定した許容ハザード比 1.24 に近かった これにより 主たる解析において B 群が A 群に対して無病生存期間で許容範囲 ( ハザード比 1.24) を超えて劣らない可能性が低いことが想定された また登録終了 3 年後に行われた追加解析においても HR は 1.22(95%CI:1.00-1.50) であり 中間解析と同様の結果であった この結果より S-1 を用いた術後補助化学療法を実施することは推奨できないと結論づけられた 有効性の secondary endpoint は 無再発生存期間と全生存期間である 追加解析時 (2016 年 12 月 ) における 3 年無再発生存割合は A 群 84.6% B 群 81.5% であり HR=1.21(95%CI:0.96-1.53) であった また 3 年全生存割合は A 群 96.3% B 群 95.4% とあった B 群 (S-1 療法 ) の無病生存期間は UFT/LV 療法に対する S-1 療法の非劣性試験である ACTS-CC01 試験とほぼ同等であった 本試験において規定された感度解析においては すべての割付調整因子において A 群 ( カペシタビン療法 ) は B 群 (S-1 療法 ) に比べて良好であった 一方 女性では B 群 (S-1 療法 ) が A 群 ( カペシタビン療法 ) 群より良好な傾向があり その原因としては女性では Grade 2 以上の手足皮膚反応発生割合が高く dose intensity が保てないことが原因であると考えられた < 安全性 > 本試験で報告された有害事象は想定範囲内であった A 群 ( カペシタビン療法 ) で報告された Grade 3 以上の有害事象は手足皮膚反応が多く B 群 (S-1 療法 ) では下痢と好中球減少が多かった ただし 本試験での A 群 ( カペシタビン療法 ) における Grade 3 以上の手足皮膚反応は欧州で行われた X-ACT 試験より少なく これは人種差によるものと考えられた 両群の試験治療完遂割合は同等であったが relative dose intensity は B 群 (S-1 療法 ) の方が高い傾向にあった よって群間の relative dose intensity の違いが有効性の差に現れたのではないと考えられた 薬物動態に関する既報に基づいて両薬剤の fluorouracil に関する pharmacokinetic parameter の違いを比較すると peak concentration で 3.3 倍 AUC で 1.3 倍 カペシタビンが S-1 より高い傾向にあると報告され また カペシタビンは酵素により腫瘍内で fluorouracil がより高濃度に保つことができるとされている 以上より微小転移巣においてカペシタビンの方が S-1 よりも高濃度の fluorouracil が得られ 結果としてより微小転移巣を制御できたことが 本試験における両薬剤の再発抑制の差になった可能性があると考えられた < 一般化可能性 > 日本では 主リンパ節までを郭清する D3 郭清が標準的に行われており 本試験の前に行われた JCOG0205 では登録患者の 75% に D3 郭清が行われ 残り 25% が解剖学的理由により D2 郭清が行われ 5 年生存割合が 90% をこえる良好な成績が得られた 一方 本試験では D3 郭清を 87% に D2 郭清を 13% に行われていた 一方 海外ではオキサリプラチンを併用するレジメンによって 3 年時点の無病生存割合を 20% 改善できることが示されたため オキサリプラチン併用療法が Stage III 結腸癌の術後補助化学療法における標準治療と位置づけられている JCOG 大腸がんグループでは フッ化ピリミジン単独でも良好な治療成績が得ら 4

れていること 海外と日本ではリンパ節郭清やリンパ節転移検索の方法が違うことから 海外の試験で検証されたオキサリプラチン併用療法の上乗せ効果は そのまま日本でも同様の効果を示せない可能性があると考え 日本ではすべての Stage III にオキサリプラチンは必要ではないと考えている ただし JCOG0205 ACTS-CC01 および本試験における Stage IIIC の無病生存割合はほぼ 60% 程度と不良であり Stage IIIC にはオキサリプラチン併用療法が必要と考えている Stage III の中でも進んだ対象に対してオキサリプラチンの追加が必要かどうかは 日本で行われた UFT/LV と S-1+ オキサリプラチンを比較した ACTS-CC02 試験の結果が待たれるところである なお 2010 年の国内調査では 約 75% で D2/D3 郭清がなされており 本試験の結果は日本では一般化可能性のある結果であると考えられる 以上より D2/D3 郭清が行われた Stage III において S-1 の使用は推奨できず カペシタビンが標準治療であること 本結果は日本では一般化可能性のある結果であると考えられる 結論と今後の方針 D2/D3 郭清を行った Stage III 結腸癌に対して 術後補助化学療法として S-1 療法を行う本試験治療は 標準治療のカペシタビン療法に対して無病生存期間において非劣性を証明できなかったため推奨できない 本試験の結果を受けて 次期臨床試験として術後補助化学療法としてのアスピリン追加の有用性を検証する試験が計画されている その際の術後補助化学療法は Stage IIIA/IIIB ではカペシタビン療法を Stage IIIC ではオキサリプラチン併用療法を基本とする 本試験の結果は論文化され Lancet Gastroenterology & Hepatology(doi: 10.1016/S2468-1253 (17) 30297-2. [Epub ahead of print] 2017.) に採択された その他の考察本試験の結果は 先行する JCOG0205 試験とほぼ同等の治療成績を示すことができ D2/D3 郭清を行った Stage III 結腸癌に対する術後補助化学療法の標準治療としてカペシタビン療法が妥当であることを示すことができた本試験では 死亡と再発に二次がんを含む無病生存期間を primary endpoint としたが 海外では死亡と再発に大腸の二次がんのみを含む無病生存期間を primary endpoint としているものが多い 本試験のモニタリングレポートから 二次がんは 99 人にみられ うち 7 人が大腸がんであった すなわち 約 92 人 (92.9%) で大腸以外の臓器の二次がんが認められていることになる このように 大腸以外の臓器の二次がんが多く含まれることは 大腸がんグループで行われた他の試験でも同様に見られており 今後 これまでどおりの定義を用いた無病生存期間とするか 海外で用いられている定義を用いた無病生存期間とするか 検討の余地があると考えられた 以上 5