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Transcription:

チコリ根由来イヌリンの物理的機能性の検討 ( 平成 21 年度 ) 研究開発課佐々木香子 1. 研究の目的と概要イヌリンは チコリやキクイモ タンポポやゴボウに多く含まれる天然の多糖類であり 食物繊維として様々な機能性を持つことから 機能性食品素材として利用されている また イヌリンはショ糖などの一般の炭水化物よりもエネルギー換算係数が低く 脂肪代替として低カロリー食品に用いられたり 風味の向上 保湿性などの効果があることから食品の物性や風味の改善を目的として使用されている イヌリンはヨーロッパでは年間 30 万トン以上が利用されているが 日本では総流通量は約 1000~1200 トンで そのうちの殆どは輸入に頼っており 国産のイヌリンは 100 トンに満たない程度と言われている また 国産のイヌリンは酵素によって合成される低重合の合成イヌリンであり 天然のイヌリンは製造されていないため 機能性素材を取り扱う業者からは天然の国産イヌリンを求める要望もある これに関し 砂糖の大手メーカーである日本甜菜製糖株式会社はチコリ栽培試験を行い チコリ根由来のイヌリンの開発 製造に着手している 砂糖の製造に使用している既存設備を利用して 地域内で原料の大量生産から加工までが可能なことから 地域的にも有利な取り組みであると考えられる 本研究では 既存及び日本甜菜製糖株式会社製の試作品について その物性機能性の比較検討を行った 本年度はイヌリン試作品ができていないことから 市販の低重合 高重合のイヌリンについて 特性の検証と食品への応用について検討した 2. 試験方法 (1) 熱及び ph における安定性市販の高重合及び低重合イヌリンを用い ph3~9 のリン酸バッファーで 2% 溶液を調整し 25~ 120 の温度で 15 分間加熱した後の残存率を HPLC で測定した (2) グリシン存在下での着色性 2% の糖類液 5ml に 2% グリシン 2ml と ph3~9 の 0.1M リン酸バッファー 3ml を加え 100 及び 121 で 90 分間加熱し 420nm の吸光度を測定した (3) クリーム形成能市販の高重合及び低重合イヌリンを 20~50% の濃度で加温して溶解し 4 で 1 晩冷蔵保存した (4) 味覚センサーによる味質分析 ドレッシング 10~25% の各イヌリン及び 30% 穀物酢 5% 砂糖 1.5% 塩でドレッシングを試作 ヨーグルト 市販の無脂肪および低脂肪ヨーグルトに 2% の濃度で各イヌリンを加えて調製 ゼリー 市販のゼリーの素に 3% の濃度で各イヌリンを加えて調製各サンプルは電気伝導度を測定して 1~10(s/m) になるように適宜希釈した後濾紙濾過し 味覚センサーで酸味に対する効果を測定した (5) 物性改善効果食パンについて各イヌリンを 1% の濃度で加えて試作し 作成後 1~5 日目のパン生地内相の水分を測定し 平行して硬さをテクスチャーアナライザーで測定した 3. 結果および考察 (1) 熱及び ph における安定性砂糖などの糖類は低 ph や加熱などで分解される性質がある そこで各イヌリンの加熱及び ph における安定性を調べ 未処理のイヌリンを 100% として示した ( 図 1) 両イヌリンは ph3 では 100 ph4 では 121 で分解されたが ph5~9 では試験した 25~121 の加熱でも 80% 以上の残存率だった この結果から 低重合および高重合イヌリンのどちらも ph3 及び ph4 の酸性領域において高温で加熱した場合には低分子化されるが ph5 以上の弱酸性 ~ アルカリ性領域の場合には熱に安定であることが判った

図 1 各重合度のイヌリンの熱や ph における安定性 (2) グリシン存在下での着色性糖類にはアミノ酸共存下の加熱でメイラード反応による着色を生じるものがあり 食品に添加した場合 最終製品の色に関与する 各イヌリンの着色性について ph や加熱条件における色の変化を測定し グルコース ショ糖 トレハロースと比較した ( 図 2 3) 100 で 90 分間加熱した場合 グルコースは ph6~8 の領域で着色が見られたが 他の糖類では着色は全く見られなかった また 加熱温度を 121 に上げた場合 グルコースはさらに濃い着色が見られたが 他の糖類では殆ど着色は見られず 市販イヌリンについては吸光値の低い領域で比較すれば ショ糖やトレハロースよりは若干着色していたが いずれも目視では殆ど判別がつかない程度だった 図 2 グリシン存在下での着色性 (100 90 分加熱 )

図 3 グリシン存在下での着色性 (121 90 分加熱 ) (3) クリーム形成能イヌリンは溶解後に冷却することで微細結晶を生じ クリームを形成する特徴がある そこでイヌリンはどのような濃度でクリームを形成するかを検討した ( 図 4) 低重合イヌリンでは 30% 濃度では離水が見られたが 35% 以上でクリームを形成し 50% では析出が見られた 高重合イヌリンでは 20% 25% では離水しており 30% 35% ではしっかりとしたクリームを形成していた このようなイヌリンクリームが 脂肪のような食感やコクを与えると一般的に言われており 脂肪代替として食品に利用されている 図 4 各イヌリンのクリーム形成能

(4) 味質に与える影響イヌリンクリームは脂肪に似た食感を持つことから脂肪代替として利用されており 食品にボディー感やコクを付与する他 食品によっては雑味の低減などのマスキング効果があると言われている ( 図 5) そこで今回は市販のイヌリンを食品に添加し インテリジェントセンサーテクノロジー社製の味覚センサーで呈味性の変化を検証した 図 5 一般的なイヌリンの用途と効果および味覚センサー ドレッシング 現在流通しているドレッシングなどは ダイエットやメタボリック症候群対策の志向の高まりからノンオイルの商品が市場でも増えており 油脂の代わりに増粘剤やアミノ酸などの調味料で酸味を和らげたものが一般的である そこでイヌリンを油脂の代わりに添加した場合 どのような味の変化があるか味覚センサーで測定した ( 図 6) 濃度には依存していないが 低重合イヌリンの添加では 5~ 20% の濃度で酸味が抑えられる傾向があり 高重合のイヌリンの添加ではそれより低い濃度でより顕著に酸味が抑えられた 図 6 酢酸を使用したドレッシングにおける各イヌリンの効果

低脂肪ヨーグルト ゼリー 酢酸の酸味に酸慣れ効果がみられたことから 次にヨーグルトを用いて乳酸に対する効果と 酸味料を配合したゼリーを用いて酸味料に対する効果を検証した ( 図 7) 脂肪が少ない低脂肪ヨーグルトは通常のヨーグルトよりも酸味があるが イヌリンを添加することで酸味が低減され さらに苦味雑味が低減 旨味が増加する傾向があった 無脂肪ヨーグルトでも試験したが 同様の傾向が見られた また 市販のゼリーの素には酸味料が加えられているが そのような酸味も減少しており イヌリンには酸味を抑える効果があるのではないかと考えられる 図 7 低脂肪ヨーグルト及びゼリー ( 酸味料 ) における各イヌリンの効果 (5) 物性改善効果次にイヌリンはしっとり感を付与するといわれていることから 物性改善効果についてパン生地への添加試験を検討した ( 図 8) その結果 高重合のイヌリンを添加した場合 コントロールに比べてしっとりしていた そこで内相の水分の変化を測定したところ コントロールよりも水分を保持しており その効果は低重合よりも高重合の方が顕著だった 図 8 パン生地の保水における各イヌリンの効果 4. まとめ今年度は市販の低重合及び高重合のイヌリンを用いて物理的な特性や食品添加を行った 低重合および高重合イヌリンのどちらも酸性領域において高温で加熱した場合には低分子化されるが 弱酸性 ~ アルカリ性領域の場合には熱に安定であった 着色性については 100 又は 121 で 90 分間加熱した場合でも 着色は殆ど見られなかった クリーム形成能は 低重合イヌリンでは 35% 以上 高重合イヌリンでは 30% 35% でクリームを形成した 味覚センサーで呈味性の変化の検証では 低重合

イヌリンの添加では 5~20% の濃度で酸味が抑えられる傾向があり 高重合のイヌリンの添加ではそれより低い濃度で酸味が抑えられた 低脂肪ヨーグルトはイヌリンを添加することで酸味が低減され さらに苦味雑味が低減 旨味が増加する傾向があった また 市販のゼリーの素の酸味料の酸味も減少しており イヌリンには酸味を抑える効果があるのではないかと考えられる 物性改善効果については 高重合のイヌリンを添加した場合 コントロールよりも水分を保持しており その効果は低重合よりも高重合の方が顕著だった 今後は日本甜菜製糖株式会社で抽出 精製されたイヌリン試作品が出来次第 既存品との比較検討を行う なお 本試験は文部科学省の都市エリア産学官連携促進事業 (22 年度からは地域イノベーションクラスタープログラム 都市エリア型 に名称変更 ) において 日本甜菜製糖株式会社 北海道農業研究センター 帯広畜産大学 北海道大学 名寄市立大学 愛媛大学 静岡大学との共同研究で行うものである