重症度 HG 1 意識障害の程度 JCS 2 軽症 1 2 清明 ~ぼんやりしている 0~1 中等症 3 見当識障害 ( 返答まちがいあり ) 2~20 傾眠 ( うとうとしている ) 重症 4 半昏睡 ~ 昏睡 ( 返答なし~ 反応なし ) 30~200 劇症 5 深昏睡 ( 瀕死 ) 300 1

Similar documents
虎ノ門医学セミナー

脳動脈瘤は 脳の底の部分のくも膜下腔の広い部分にある動脈にできるので 存在するだけでは症状は出ませんが 動脈瘤が動眼神経を圧迫することがあり 瞼が開かなくなったり 物が二重に見えたりすることが出血と同時に生じ あるいは 出血に先行することがあります ( くも膜下出血の症状 ) くも膜下出血の典型的な

くろすはーと30 tei

4. 研究の方法についてこの研究を行う際は カルテより下記の情報を取得します 研究組織で策定した臨床指標を用いて 測定結果と取得した情報の関係性を分析し 脳卒中のアウトカム ( 死亡率など ) に対する影響を明らかにします 全国の脳卒中施設の入院 外来レセプトデータ もしくは DPC データの中から

脳卒中の医療連携体制を担う医療機関等における実績調査 調査内容 平成 28 年度の実績 ( 調査内容は別紙様式のとおり ) 別紙 1: 急性期の医療機能を有する医療機関用別紙 2: 急性期及び回復期の医療機能を有する医療機関用別紙 3: 回復期の医療機能を有する医療機関用別紙 4: 維持期の医療機能

3 病型別 初発再発別登録状況病型別の登録状況では 脳梗塞の診断が最も多く 2,524 件 (65.3%) 次いで脳内出血 868 件 (22.5%) くも膜下出血 275 件 (7.1%) であった 初発再発別の登録状況では 初発の診断が 2,476 件 (64.0%) 再発が 854 件 (22

terumo qxd :08 PM ページ 1 脳動脈瘤って何 脳動脈瘤とは 脳の血管にできる 血管のこぶ です こぶができただけでは 多くの場合 症状はありま けて手術で頭を開き 特殊なクリップで脳動脈瘤を せんが 破裂すると死亡率の高いクモ膜下出血や脳 はさみ

PowerPoint プレゼンテーション

症例_佐藤先生.indd

脳卒中に関する留意事項 以下は 脳卒中等の脳血管疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあ たって ガイドラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 脳卒中に関する基礎情報 (1) 脳卒中の発症状況と回復状況脳卒中とは脳の血管に障害がおきることで生じる疾患

また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

3 病型別 初発再発別登録状況病型別の登録状況では 脳梗塞合計が最も多く 3,200 件 ( 66.7%) 次いで脳内出血 1,035 件 (21.6%) くも膜下出血 317 件 ( 6.6%) であった 初発再発別の登録状況では 初発の診断が 3,360 件 (70.1%) 再発が 1,100

疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

PowerPoint プレゼンテーション

エントリーが発生 真腔と偽腔に解離 図 2 急性大動脈解離 ( 動脈の壁が急にはがれる ) Stanford Classification Type A Type B 図 3 スタンフォード分類 (A 型,B 型 ) (Kouchoukos et al:n Engl J Med 1997) 液が血管

盗血症候群について ~鎖骨下動脈狭窄症,閉塞症~

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

採択演題一覧

脳循環代謝第20巻第2号

頭頚部がん1部[ ].indd

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

PowerPoint プレゼンテーション

GE ヘルスケア ジャパン 3D ASL( 非造影頭部灌流画像 ) の実践活用 IMS( イムス ) グループ医療法人社団明芳会横浜新都市脳神経外科病院画像診療部竹田幸太郎 当院のご紹介横浜新都市脳神経外科病院 ( 横浜市 青葉区 ) は 1985 年に開院し 患者さんの 満足 と 安心 を第一に考

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

PowerPoint プレゼンテーション

脳血管疾患による長期入院者の受診状況~レセプトデータによる入院前から退院後5年間の受診の分析

岸和田徳洲会病院 当院では以下の研究に協力し情報を提供しております この研究は 国が定めた指針に基づき 対象となる患者さまのお一人ずつから直接同意を得るかわりに 研究の目的を含む研究の実施についての情報を公開しています 研究結果は学会等で発表されることがありますが その際も個人を特定する情報は公表し

ER・ICU 100のdon'ts−明日からやめる医療ケア

73 3クモ4~14 病日に発生し,2~4 週間持膜節を実施する 脳血管攣縮はクモ膜下出血後第下出血 続した後に徐々に回復する 2. 分類 クモ膜下出血を来す原因は, 外傷性と非外傷性 ( 突発性 ) に大別される ( 表 1) 外傷性クモ膜下出血は, 脳挫傷からの出血が原因で, 脳槽全体に出血を認

rihabili_1213.pdf

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

心房細動1章[ ].indd

< はじめに > この度 日本脳ドック学会編集の 脳ドックのガイドライン 2008 に基づいた より質の高い脳ドック検診を目指すことを目的として 当 脳ドックの意義と限界 を改訂しました 脳ドックの主たる目的は脳卒中予防です 脳卒中は 日頃元気であった ( 無症候の ) 人に突然予告なしに発症し 一

< 目次 > Ⅰ 急性期及び回復期の機能を担う医療機関の状況 Ⅱ 維持期の機能を担う医療機関の状況 Ⅲ 地域連携クリティカルパスの利用状況 Ⅳ 急性期の機能を担う医療機関における専門的治療件数 Ⅴ 調査様式及び記入要領 付属資料 1 各調査項目の関係性( 概念図 ) 付属資料 2 急性期医療機関別実

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

循環器系疾患 Dolichoectasia 1. 概要 Dolichoectasia は脳血管が異常に延長 蛇行 拡張する疾患であり 脳卒中や脳幹圧迫などを引き起こす 有病率や病態など これまでに確立された疾患概念は存在しない Dolichoectasia の疾患概念確立 病態解明 診断基準作成を目

<4D F736F F D F90D290918D64968C93E08EEEE1872E646F63>

臨 床 病 型 診 断 は 臨 床 経 過 と 画 像 所 見 を 参 考 にして 行 いますが 脳 血 栓 症 と 脳 塞 栓 症 の 鑑 別 は 困 難 なことも 少 なくありません さらに 脳 灌 流 障 害 の 発 症 機 序 から 血 栓 性 塞 栓 性 血 行 力 学 性 の 3 型 に

現況解析2 [081027].indd

TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

saisyuu2-1


要望

000-はじめに.indd

<4D F736F F D EA94CA8ED C93FA967B945D905F8C6F8A4F89C88A7789EF B835E B83588CA48B868E968BC D905


1)表紙14年v0

Microsoft Word - todaypdf doc

日本内科学会雑誌第103巻第8号

平成 28 年度診療報酬改定情報リハビリテーション ここでは全病理に直接関連する項目を記載します Ⅰ. 疾患別リハビリ料の点数改定及び 維持期リハビリテーション (13 単位 ) の見直し 脳血管疾患等リハビリテーション料 1. 脳血管疾患等リハビリテーション料 (Ⅰ)(1 単位 ) 245 点 2

腎動脈が瘤より分枝し腎動脈再建を要した腹部大動脈瘤の3手術例

対象 :7 例 ( 性 6 例 女性 1 例 ) 年齢 : 平均 47.1 歳 (30~76 歳 ) 受傷機転 運転中の交通外傷 4 例 不自然な格好で転倒 2 例 車に轢かれた 1 例 全例後方脱臼 : 可及的早期に整復

課題名

Microsoft Word - 44-第4編頭紙.doc

BMP7MS08_693.pdf

S1-02 外傷性脳底動脈瘤破裂によるくも膜下出血の一例 佐世保市総合医療センター 脳神経外科 杣川知香 松永裕希 林 之茂 林 健太郎 岩永充人 症例は生来健康な 31 歳女性 6 メートルの高さから転落し地面に倒れているところを発見 され当院へ救急搬送となった 来院時 GCS E1V1M3 左方

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

脳ドックは 病気が起こる前に 脳の健康診断を行うことが目的です 中高年層から起こる脳梗塞や脳出血などの脳血管障害を早期に発見し予防に役立てるために 脳ドック をおすすめいたします 脳卒中の危険因子と言われる高血圧 糖尿病 高脂血症 肥満 長期の喫煙歴 家族に脳血管障害が有る方などは 特に注意が必要で

能登における脳卒中地域連携

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

<955C8E862E657073>

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

配偶子凍結終了時 妊孕能温存施設より直接 妊孕能温存支援施設 ( がん治療施設 ) へ連絡がん治療担当医の先生へ妊孕能温存施設より妊孕能温存治療の終了報告 治療内容をご連絡します 次回がん治療の為の患者受診日が未定の場合は受診日を御指示下さい 原疾患治療期間中 妊孕能温存施設より患者の方々へ連絡 定

P01-16


糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

循環器 Cardiology 年月日時限担当者担当科講義主題 平成 23 年 6 月 6 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 17 日 ( 金 ) 2 限目 (10:40 12:10) 平成 23 年 6 月 20 日 ( 月 ) 2 限目 (10:40 1

27 年度調査結果 ( 入院部門 ) 表 1 入院されている診療科についてお教えください 度数パーセント有効パーセント累積パーセント 有効 内科 循環器内科 神経内科 緩和ケア内科

平成 29 年中の救急出動件数等 ( 速報値 ) の公表 平成 30 年 3 月 14 日 消防庁 平成 29 年中の救急出動件数等の速報値を取りまとめましたので公表します U 救急出動件数 搬送人員とも過去最多 平成 29 年中の救急自動車による救急出動件数は 634 万 2,096 件 ( 対前

入校糸でんわ indd

心疾患患による死亡亡数等 平成 28 年において 全国国で約 20 万人が心疾疾患を原因として死亡しており 死死亡数全体の 15.2% を占占め 死亡順順位の第 2 位であります このうち本県の死亡死亡数は 1,324 人となっています 本県県の死亡率 ( 人口 10 万対 ) は 概概ね全国より高

重複癌及び肺癌含む多発転移癌の鑑別を要した1例

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

<4D F736F F D D8ACC8D6495CF82CC96E596AC8C8C90F08FC782CC8EA197C32E646F6378>

レイアウト 1

2017 年 9 月 画像診断部 中央放射線科 造影剤投与マニュアル ver 2.0 本マニュアルは ESUR 造影剤ガイドライン version 9.0(ESUR: 欧州泌尿生殖器放射線学会 ) などを参照し 前マニュアルを改訂して作成した ( 前マニュアル作成 2014 年 3 月 今回の改訂

022 もやもや病

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

Ø Ø Ø

Microsoft PowerPoint - komatsu 2

H26大腸がん

花粉症患者実態調査(平成28年度) 概要版

ここが知りたい かかりつけ医のための心不全の診かた

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

透析看護の基本知識項目チェック確認確認終了 腎不全の病態と治療方法腎不全腎臓の構造と働き急性腎不全と慢性腎不全の病態腎不全の原疾患の病態慢性腎不全の病期と治療方法血液透析の特色腹膜透析の特色腎不全の特色 透析療法の仕組み血液透析の原理ダイアライザーの種類 適応 選択透析液供給装置の機能透析液の組成抗

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

なくて 脳以外の場所で起きている感染が 例えばサイトカインやケモカイン 酸化ストレスなどによって間接的に脳の障害を起こすもの これにはインフルエンザ脳症やH HV-6による脳症などが含まれます 三つ目には 例えば感染の後 自己免疫によって起きてくる 感染後の自己免疫性の脳症 脳炎がありますが これは

Microsoft Word doc

図表 リハビリテーション評価 患 者 年 齢 性 別 病 名 A 9 消化管出血 B C 9 脳梗塞 D D' E 外傷性くも幕下出血 E' 外傷性くも幕下出血 F 左中大脳動脈基始部閉塞 排尿 昼夜 コミュニ ケーション 会話困難 自立 自立 理解困難 理解困難 階段昇降 廊下歩行 トイレ歩行 病

1 保健事業実施計画策定の背景 北海道の後期高齢者医療は 被保険者数が増加し 医療費についても増大している 全国的にも少子高齢化の進展 社会保障費の増大が見込まれる このような現状から 一層 被保険者の健康増進に資する保健事業の実施が重要となっており 国においても 保健事業実施計画 ( データヘルス

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度


「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

スライド 1

01

背景 急性大動脈解離は致死的な疾患である. 上行大動脈に解離を伴っている急性大動脈解離 Stanford A 型は発症後の致死率が高く, それ故診断後に緊急手術を施行することが一般的であり, 方針として確立されている. 一方上行大動脈に解離を伴わない急性大動脈解離 Stanford B 型の治療方法

Transcription:

くも膜下出血 (SAH) くも膜下出血 ( subarachnoid hemorrhage=sah) とは くも膜下腔に出血する病態をいい SAH の原因の約 80% 以上は脳動脈瘤の破裂によります とくに 40 歳以上の成人年齢層で脳底部に SAH を認めた場合その可能性はさらに高くなり SAH の治療はすなわち破裂脳動脈瘤の治療といえます 脳動脈瘤は 脳底部血管とくにその分岐部において 生まれつき ( 先天的に ) 存在する弱い部分に後天的な高血圧や動脈硬化など血行力学的ストレスが加わることにより発生すると考えられています このような脳動脈瘤を有する人は 全人口の約 6% といわれますが 加齢とともに瘤サイズは増大し やがて破裂し SAH をきたすと考えられています しかし 脳動脈瘤が SAH をきたすのは年間約 1% といわれ 脳動脈瘤には破裂の危険性の高い瘤とそうでないものがあり 一般に ( 風船のように膨らんだ ) のう状動脈瘤で破裂の危険性は大きく 瘤自体の形状や大きさも破裂の因子になることが知られています SAH の発症は 成人のとくに女性に好発し 他に高血圧 喫煙 飲酒 ストレスなどとの関係が指摘されていますが これらはいずれも絶対的な因子ではなく したがって SAH はいつ どのような状況でも発症するといえます さらにやっかいなことは 通常脳動脈瘤は破裂するまで無症状であり 大多数の人は 脳動脈瘤の存在に気付かず社会生活を営んでいるという事実です ある日 それまで元気であった人が突然発症し 重症の場合には意識障害におちいり 治療を開始してはじめて脳動脈瘤の存在が判明するわけです SAH の症状は強烈な頭痛が有名ですが 初期の頭痛は比較的軽いものもあり ウォ-ニング サイン ( 警告徴候 ) と呼ばれます また 高率に嘔吐を伴うことが特徴的で このような頭痛発作では第一に SAH を疑います さらに SAH では意識障害やけいれん発作が初発症状のこともあり これらの症状は SAH 初期の脳虚血によるものと考えられ 一過性のことが多く 意識の回復につれて頭痛を訴えるようになります SAH 重症度 ( ハント グレイド =HG 1 ) は意識障害の程度 ( ジャパン コ - マ スケ - ル =JCS 2 ) と相関することから SAH の治療予後を知る上で基本となり 重症度を軽症 ~ 劇症に分類し検討しました [ 表 -1] - 1

重症度 HG 1 意識障害の程度 JCS 2 軽症 1 2 清明 ~ぼんやりしている 0~1 中等症 3 見当識障害 ( 返答まちがいあり ) 2~20 傾眠 ( うとうとしている ) 重症 4 半昏睡 ~ 昏睡 ( 返答なし~ 反応なし ) 30~200 劇症 5 深昏睡 ( 瀕死 ) 300 1 ハントグレイド : くも膜下出血重症度 2 ジャパンコーマスケール : 意識障害分類 [ 表 -1] SAH 重症度と意識障害の程度 SAH の診断 とくにその初期診断において CT は必須であり 前述の症状より SAH を疑うときは できるだけ早期の CT 検査を行います CT は 同時に SAH の程度と拡がり 合併する脳内血腫や水頭症の有無の診断を可能にし 今後の診断 治療方針が決定されます [ 図 -1] しかし SAH が軽症の場合は 頭痛を訴え歩行来院し CT のみでは出血が判明せず MRI( フレア- 画像 ) MRA 診断が必要になることがあります 確定診断は 造影剤の点滴静注による三次元 CT アンギオ (3D-CTA) またはカテ-テル法による脳血管撮影 (DSA) が必要です ただし DSA については 発症 6 時間以内は行うべきではないとの意見もあり 当院では 患者さんの重症度 CT 所見 発症の時間帯や状況などから 発症後 24 時間以内を目処にして検査を行うようにしています [ 図 -2] [ 図 -1] [ 図 -2] SAH の CT 脳血管撮影 : 術前 ( 左 ) 術後 ( 右 ) 右中大脳動脈瘤 ( 矢印 ) が術後消失している - 2

SAH の治療は A 初期治療 B 再破裂防止 C 合併症治療に要約されます A SAH 初期治療 SAH の恐ろしさは 初回出血に引き続き 発症後 24 時間 ( とくに 6 時間以内 ) という比較的早い時期に再破裂をきたすことであり そのため初期治療では 迅速かつ適切な再破裂に対する予防手段を講じる必要があります 再破裂防止のための初期治療は SAH にともなう脳圧亢進と全身性高血圧の管理や頭痛や嘔吐に対する対症療法が基本になり その後可及的早期に破裂脳動脈瘤の確定診断を行います B 再破裂防止 再破裂防止の基本は 根治的治療としての外科治療であり 開頭術によるク リッピングと脳血管内手術によるコイリングの 2 つの方法があります 通常 破裂脳動脈瘤ではクリッピングを第一選択とします クリッピングとは 顕微鏡手術下にチタンまたは銀製クリップを用いて 脳 動脈瘤頚部で正常血管 ( 親血管 ) から動脈瘤部を遮断する手術です [ 図 -3] [ 図 -3] クリッピング術中写真 : クリップ ( ) クリッピングは 原則として早期手術 ( 発症後 72 時間以内 ) を計画します これは クリッピングにより早期の再破裂を防止するとともに くも膜下腔の血腫を可及的に洗浄することで SAH 発症後 4~13 日目に強く発生する脳血管攣縮 ( スパズム ) を予防するためです A - 3

しかし 重症例では スパズムが手術に悪影響を及ぼすため 上記期間の手術は避けて行うことが望ましいとされるため 待機手術 ( 発症後 2 週以後 ) を計画することがあります 早期手術と待機手術の手術成績比較は それぞれの条件が異なり単純比較できませんが われわれは 軽症ないし中等症 ( グレイド 1~3) では積極的早期手術を計画します 重症 ( グレイド 4) については必ずしも早期手術にこだわらず 年齢や全身状態を考慮し 待機手術または後述するコイリングによる治療を計画します 劇症 ( グレイド 5) は手術適応になりません [ 表 -2] 早期手術 60 11 10 19 待機手術 50 10 19 21 [ 表 -2] クリッピング成績 : 早期手術と待機手術の比較 (%) SAH 全体のクリッピングの手術成績は SAH 重症度によく相関し SAH 重 症度の軽症のものほど手術成績は良好でした [ 表 -3] 軽症例 89 4 3 4 中等症例 60 16 10 14 重症 劇症例 19 16 23 42 [ 表 -3] SAH 重症度とクリッピング成績 (%) また クリッピングの手術成績は 脳動脈瘤の発生部位別でも若干異なりま す [ 表 -4] 前大脳動脈瘤 56 13 10 21 中大脳動脈瘤 63 15 8 14 内頸動脈瘤 60 7 15 18 椎骨脳底動脈瘤 53 12 12 23 [ 表 -4] 脳動脈瘤部位別クリッピング成績 (%) - 4

C 合併症治療 SAH の合併症として重要なものに 脳内血腫 水頭症 スパズムがあります 脳内血腫は 破裂動脈瘤による出血がくも膜下腔とともに脳実質内に及んだ ものです 脳内血腫が大きい場合は クリッピングと同時に減圧目的で血腫除 去術を行いますが 脳内血腫に伴う神経欠損症状は残ります 水頭症は SAH のために脳脊髄液の循環障害が起こり発症します 急性期の高圧水頭症と 1~2 ヶ月後に発症する正常圧水頭症があり 急性期高圧水頭症に対しては脳室ドレナ-ジ 70 歳以上の高齢者に好発する正常圧水頭症に対しては脳室 - 腹腔 (V-P) シャントまたは脊髄腔 - 腹腔 (L-P) シャントを行います スパズムは SAH 合併症の中でも最もやっかいな現象で ときに脳梗塞を発症し治療予後を悪化させる原因になります 当院では スパズム対策として 早期手術での可及的くも膜下血腫洗浄と 脳循環改善薬としての塩酸ファスジル ( エリル ) やカルシウム拮抗薬としての塩酸ニカルジピン ( ペルジピン ) 点滴静注療法 また必要に応じてオザグレルナトリウム ( キサンボン ) 点滴静注療法を行っています それでも 症候性スパズムは 一過性症状悪化例 18% 後遺症残存例 3% にみられ 治療予後に影響を及ぼす因子の一つであることには違いありません D その他の治療 その他 治療予後に影響する因子として 全身状態と年齢 ( 高齢者 ) があり ます 年齢別にクリッピング成績をみると 70 歳を境にして社会復帰率に有意 差を認めました [ 表 -5] 70 歳未満 63 12 8 17 70 歳以上 35 12 24 29 [ 表 -5] 年齢別クリッピング成績 (%) - 5

再破裂防止の第二の手段として 瘤内コイリングと脳室ドレナージや脊髄くも膜下腔ドレナ-ジを合併した治療を計画することがあります 瘤内コイリングは 開頭クリッピングと比べて治療の歴史が浅く 長期の破裂予防効果については明らかではありませんが 全身状態不良例や高齢者例 また動脈瘤部位によっては 再破裂防止手段の一つとして有効です SAH の全体予後についてみると 当院で治療した破裂脳動脈瘤による SAH 全体 (100%) のうち クリッピングまたはコイリングによる外科治療群は 76% で 手術予後に限れば 社会復帰率 58% 死亡率 19% と比較的良好でした 一方 非外科治療群 24% のうち 60% は激症例で当初より手術適応なく 39% は再破裂や全身状態の悪化 特殊な形態の動脈瘤のため手術不可能な例で 3カ月以上の生存例は 6% 以下でした したがって 全体予後では 死亡率 37% 社会復帰率 45% になりますが さらに 脳神経外科施設へ搬送されず 診断できず死亡する例を考慮しますと 死亡率と社会復帰率は概ね半分ずつとなり SAH の全体予後がいかに悪いかが理解いただけると思います SAH 予防のためには 脳動脈瘤を破裂前に発見し治療する必要があります 脳ドックでは とくに高血圧症の既往歴と SAH の家族歴を有する例に対して脳動脈瘤発見に力を注いでおり その結果 原則 70 歳以下で 形態上破裂の危険性が高いと考えられる未破裂脳動脈瘤に対しては 破裂の危険率と治療による合併症の発生率を充分考慮した上でクリッピングまたはコイリングによる治療を行い SAH の発症を防止するようにしています 図 -4 [ 図 -4] 未破裂左中大脳動脈瘤 ( ):MRA DSA と 3D-CT の比較 2006 年 1 月穂翔会村田病院脳神経外科 - 6